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★番外編 ガシェ王国の正月祝い的な一日 その後

長くなったのに、もふもふが入らなかった…。

最後はパパン視点となっています。

つ…疲れたー!!

朝も早くから叩き起こされて、新年を祝うパレードを見にいくからとおめかしさせられて。

パレード見にいったら、ゴーシュじーちゃんとこの孫がリンドドレイクに突っ込むということをやらかしてくれたせいで、大変な目に遭ったよ。

いや、念願のサイを触れたまではよかった。よかったっていうことにしておこう。

そのあとに、神様の御使いである蝶々が現れて、現場は騒然!

…違うな、みんな頭を下げていたから、めっちゃシーンとしてた。

神様が王様とサイに、何かしらの加護を与えたみたいだけど、詳しくはわかんない。

そして、王様がサイに乗って、初代国王の再来だーって、パレードはすごい盛り上がりだった。

そんな中を、なぜか私が、ヴィとラース君のタンデムで、パレードを行進するという珍事が起こったのだ!!

逃げようにも、変態鬼畜腹黒王子にがっちりとホールドされていて叶わず。対アンリー用に鍛えた、公爵令嬢の微笑みを貼りつけて乗り切ってやったさ!

私すごい!やればできる子!!


ようやく王宮に着いて、パレードに参加していたパパンとママンに合流できた。

大きなお部屋に案内されると、パパンとママンは優雅にお茶を飲んでいた。


「おかー様っ!!」


ママンを発見すると、すかさず抱きつく。

今は癒しが欲しいのだよ!

ママンに抱きつくと、ママンが愛用している香水がほのかに香った。


「あらあら。甘えん坊さんね」


私を抱き上げ、顔を覗き込んでくるママン。パパンも苦笑しながら、頭を撫でてくれた。


「ヴィがいじめるぅぅぅ」


粗方のことは把握しているのだろう、疲れきっている私に、パパンとママンは優しかった。


「殿下にも困ったわね。そろそろ、お立場を理解していただかないと」


そう言うママンの笑顔が、ちょびっと怖かったのは見ないことにしよう。


「ネマっ!」


遅れて、お姉ちゃんとお兄ちゃんが到着した。

お兄ちゃんも王位継承権持ちということでパレードに参加していた。

一緒の馬車に乗っていた王弟より王子様だったお兄ちゃん。存在感がハンパなかったです。

お姉ちゃんは途中まで一緒にいたんだけど、私がヴィに拉致られたから、心配かけたと思う。


「ネマ、よく頑張ったわ!みんな、可愛いって褒めていたのよ!!」


我がことのように喜ぶお姉ちゃん。

とりあえず、オスフェ家の面目は守れたようで何よりだ。


「お疲れ様、ネマ。事故があったって聞いたけど、怪我はない?」


お兄ちゃんにも心配をかけてしまっていた。


「ソルと森鬼が守ってくれたからだいじょうぶ!」


一瞬、ぐえっとなった場面があったが、怪我もなく、身だしなみもパウルが整えてくれたので、なんの問題もない。


「そういえば、森鬼はどうしたの?」


「パウルが連れてかえったの」


一応、王宮に到着するまでは、目立たないように護衛をしてくれていたのだが、王宮ってこともあり、パウルがお屋敷に連れて帰ってしまったのだ。

森鬼も、ラース殿がいるなら大丈夫だろうと、帰ることを承諾していたし。


「そう、残念だわ。シンキにもおめかしさせようと思っていたのに」


お姉ちゃん、森鬼のことも着せ替え人形にするつもりだったのか!

でも、あの肉体美だ。何を着ても似合うに違いない。

…ちょっと見てみたかったな。


ソルも適当に王都見物して、山の住処に帰っていったもよう。

自由でいいな、このやろう!


これから数時間後にパーティーがあるのだが、それまでにパパンとママンはいろいろな人と会わなきゃいけないみたい。

地方に住む貴族とか、他の国の偉い人とかと予定が詰まっているんだって。

お兄ちゃんとお姉ちゃんにも、貴族の付き合いがあるみたいで、お兄ちゃんは跡取り同士、お姉ちゃんは王太子妃候補同士のお茶会があるとか。


「おうたいしひこうほ??」


我が家では聞き慣れない単語だが、聞き間違いかな?


「こう見えても、わたくし、ヴィルヘルト殿下の(きさき)候補の筆頭でしてよ」


本来ならここはドヤ顔の場面なんだろうけど、お姉ちゃんは苦虫を潰したような顔になっている。そんなに嫌なのか?


「ヴィルもお年頃だからね。そろそろ婚約者を決めないといけないんだけど…」


「ヴィがいじわるだから決まらないの?」


「…ネマの中でヴィルはどんな印象を持たれているのか、怖くなってきたな」


お兄ちゃんは笑っているが、ヴィは腹黒陰険鬼畜王子だよ。…あれ?変態鬼畜腹黒王子だっけ?まぁ、どっちでもいいか。


「国内外の釣り合いも考えないといけないからな。ラルフとミルマ国の王女と婚約が決まれば、カーナは候補から外されるだろう」


「というわけですので、お兄様、頑張ってくださいね!」


お姉ちゃんはよっぽど、ヴィに嫁ぐのが嫌なのか。気持ちはわからんでもないが…。


「決まればって、まだ何も進んでないよ。カーナだって、ヴィルとの話がなくなれば、国外へ嫁がされることもあるんだし」


「あ!そうでした!」


ほぇー、貴族の結婚って大変なんだね。

私にはまだまだ先のことだから、想像もつかないや。


「もう時間ですわよ。ネマには客室を用意してもらっています。大人しくしていてね」


ぼっち確定ですか?

我が家からの使用人はいないのか!?


「パウルもいないの?」


「あとから来ます。それまで、監視役は別にお願いしてあるので、一人ではありません」


なっ!ママン、監視役って!

子守じゃなくて、監視役!!


「大人しく、できるわよね?」


「はいっ!」


イエッサー!

今日は怒られることをいくつかやっちゃっているので、大人しくしておくしかない。


「オスフェ公爵家の皆様、ご案内に参りました」


王宮の侍女さんが来て、パパンとママンは別の客室へ、お兄ちゃんは遊戯室、お姉ちゃんは談話室へと案内されて行った。


「ネフェルティマ様はこちらへどうぞ」


そう言って連れていかれたのは、王宮の東棟。私がヴィのところへ遊びに行くときに案内されるルートだ。

いつもなら、階段をえっちらおっちら登るのだが、今日は一階の部屋らしい。

案内された部屋は、絢爛豪華、荘厳美麗。

ヴィの部屋とは大違いだ。

こんな部屋でゆっくりできるとは思えない。

何か一つでも壊したら、大事になりそうで恐ろしい。

ママンとも約束したし、大人しくしておきますか。


………暇だ。

今日は(はく)もグラーティアも取り上げられて、お家で留守番しているので、私の相手をしてくれるものがいない。

うーん、小鳥さんたちを召喚するか、それとも…。


お付きの侍女にお願いして、本を持ってきてもらうことにした。

動物か植物の図鑑をリクエストしたのだが、王宮の図書館なら、珍しいものが載っている本があるかもしれない。

本が届くまでは、お部屋でお茶を飲んでいたのだが、出された茶菓子がまた凄い!

超がつくくらい高級な、味がチョコレートに似たデアの実を使ったものだった。


「ネフェルティマ様、ご所望のものが届きました」


おや、もう届いたの?

もう少し時間がかかると思っていたのに。

テーブルの上にそっと置かれた本は、『精霊宮に住まいしもの』と書かれていた。

こ…これは!!

驚きすぎて、危うくティーカップを落とすところだったよ。


「書官長にお伺いしたら、ネフェルティマ様にはこちらがよいだろうとすすめられまして」


書官長さん!ありがとう!!

王宮の図書館には、たまにしか行かないけど、覚えててくれたんだね!


書官というのは、いわゆる司書と同じで、膨大な量の本を管理・修繕するお仕事の人だ。

この、『精霊宮に住まいしもの』という本は、200年くらい前の聖獣の契約者が書いたものらしい。

精霊王たちに頼みこんで、精霊宮の周辺にいる動植物を観察し、その記録を記したものだ。

これはぜひとも熟読しなければ!


動物にはすべてイラストがついていたのでわかりやすかったが、説明文には所々、難しい言葉もあった。侍女に教えてもらいながら、なんとか読み進められている。

王宮の侍女は、貴族の令嬢が出仕していることも多い。

この侍女も古語を理解しているので、相応の教育がなされている令嬢だと推測できる。


やはり、精霊王たちに守られている土地にしか生息できない動植物ばかりで、とても面白い。

たとえば、コモリザエという動物は、精霊宮周辺では一番大きく、背中に小さな森がある。

カモフラージュの役割があるそうだが、小動物の隠れ家にもなっているらしい。

見た目はゾウに似ている気もするが、鼻ではなく首が長い。キリンよりも、亀とかスッポンみたいな首だ。


ガライマという動物は、鳥とナマケモノを足したような生き物らしい。

陸生鳥類とでも言えばいいのか、飛ぶこともできるが、ほとんどは木の上で生活している。

翼の関節部分からは、鋭い爪が伸びており、それで幹などにぶら下がるようだ。

嘴は小さく、果物や木の実が主食だとか。

羽毛がなければ、プテラノドンに似ている感じもする。


さすがに一回では暗記できないので、これからは図書館に通うことになりそうだ。

まだまだ、この世界には不思議なもふもふが存在しているということがわかっただけでも、収穫だったな。


もう少しで読み終わるという時だった。


「ネフェルティマ様、パウル様がお見えになったようです」


ようやくパウルが戻ってきた。


「お待たせいたしました」


パウルとともに、数人の侍女も入ってきて、私は嫌な予感がした。


「では、夜会の準備をいたしますので、どうぞこちらに」


そう言って、連れていかれたのはお風呂場。お風呂場と言うには広すぎるものだったが。

体の隅から隅まで洗われ、オイルみたいなものを念入りに擦り込まれ、髪もこれでもかっというほど盛り、とどめにお化粧までされてしまった。

くそぅ。このぷりっぷりのお肌に、ダメージになるようなことはしたくなかったのに!

つか、準備だけで疲れたわ!!

今日で二回目だぞ!

さらに、着せられたドレスも豪華としか言いようのないものだった。

淡いピンク色、桜のような色合いのドレスだったが、夜会用だけあって露出度がやや高い。

肩出し、背中出しって、誰が喜ぶんだ!

このデザインは、もっとグラマラスボディーの美人に着させるべきではないのか?

しかし、お子様用でもあるため、スカートにはレースがふんだんに使われており、宝石のような石も縫い付けられていた。

靴はヒールの低いミュールに似たものだったが、いつもぺったんこ靴の私にはちょっと辛い。

はっ!このドレスではうさぎさんをドッキングできないではないか!!


「うさぎさんはどうするの?」


「お任せください」


どうやら、次はうさぎさんの衣装替えのようだ。

手元に戻ってきたうさぎさんは、目に優しい淡い水色の男性用の礼服を着ていた。

ん?ひょっとして、この礼服もドレスと対だったりする?

そして驚きなのが、うさぎさんのお尻の部分、尻尾の下あたりに輪っかがあるのだ。

背負うことができないので、持ちやすいようにと、腕を通す部分らしい。

パウル曰く、二の腕部分に乗せるようにすれば、ダンスも踊れるとか。

いや、それってどうよ。

ダンスを踊っている、私と誰か、お兄ちゃんやヴィかもしれないが。その間に、うさぎさんが鎮座するってことでしょう?

え、何それ…コント!?

まぁ、なってしまったものはしょうがない。

最悪、家族かラース君に預かってもらうか。


うさぎさんを抱えて、鏡の前に立つ。

お!おぉぉぉ!!

いつもの自分じゃない!

お化粧マジック、やっぱり凄いな!!

鏡に映った自分は、まさに小さなお姫様のようだった。

可憐で可愛らしく、しかし、表情によっては儚げにも見えるという。

王宮の侍女も、神がかりなスキルを持っているようだな!


「よくお似合いですよ」


パウルに褒められたが、これは元がいいというものではなく、侍女のスキルのおかげだな。


「みなさん、ありがとうございます」


笑顔で侍女たちにお礼を言うと、侍女たちも嬉しそうに、そしてどこか誇らしそうに微笑んだ。


さて、そうこうしているうちにお迎えが来たようだ。

誰だろう?お兄ちゃんかな?


「準備は終わったか?」


「はい。殿下のご要望通りに」


一人の侍女が答えたが、殿下ってまさか!?


「わたくしたちの力作ですわ!」


「ほぅ。なんだ、ちゃんと似合っているじゃないか」


これ、褒められてるよね?

なんだろう。ヴィに言われると、褒められている感じがしないんだが。

礼服を着て、めかし込んだヴィは、言葉に表せられないくらいのイケメンだったからだ!!

お前、本当にお兄ちゃんと同じ年なのか!?

なんだ!そのだだ漏れな色気は!!

礼服は、ガシェ王国の民族衣装ともいえる長い上着なんだが、ブーツに剣も合わせると、軍服に似たストイックな感じがまた色気を際立たせている。


「では、行くか」


ヴィに手を繋がれ、ドナドナされるように夜会の会場へと連行されている。

ラース君が側にいてくれるのが、唯一の救いか?

大きな扉の前まで来ると、王様と王妃様もいた。


「まぁ!とても可愛いわ!」


王妃様はマーメイドドレスに似た、ボディーラインがわかるシンプルなドレスだった。

色は濃いめのピンクで、赤や銀色の素晴らしい刺繍が入っている。

図柄は繊細であり華やかな、花や草木をモチーフにしたものだ。

でも、たぶん、これ。最強クラスの防御の文様魔法だと思う。

王妃様には、傷一つつけられない。

そして、王妃様がつけているアクセサリーも、恐ろしい魔法が込められているに違いない!

つか、この可愛らしくも大人の艶を放つ王妃様に言われても、自分が憐れに思える。

どうせ、こんな素敵な大人にはなれませんよーだ。


「ふむ。ヴィルの見立てもなかなかだな。ネマによく似合っているぞ」


王様にも褒められたけど、ヴィとは種類の違う、ダンディな色気を嫌味がない程度に放つという離れ業をやってのける王様に言われてもねぇ。

なんか、私、場違いじゃね?

……ん?ヴィの見立て??

え!?ひょっとして、このドレス、ヴィが選んだの?

わけがわからないという顔をしていたら、王妃様が教えてくれた。


「本当はね、わたくしがネマちゃんにドレスを贈りたかったのよ?懇意にしている仕立て屋と決めていたら、ヴィルが口を出してきてね」


ほうほう。

それで、これは似合わないだとか、こっちの方がいいだとか言って、ヴィは意見をゴリ押ししたのか。


「意匠自体は凄く可愛らしかったから、わたくしのもお願いしたの。ネマちゃんとお揃いよ!」


なるほど。それで似ていたのか!

って、ヴィがデザインしたってこと!?

こいつにできないことはないのか!!

まぁ、ドレス自体には不服はないが、一つだけ。

できれば靴はぺったんこの方がよかったな。


「そろそろ時間だな」


ヴィにエスコートされ、扉の前に立つ。

謁見の間並みに大きな扉が、ゆっくりと開いていく。

扉から溢れる淡い光と、徐々に収まる人々の(ざわ)めき。


「ヴィルヘルト王太子殿下並びに、オスフェ公爵令嬢ネフェルティマ様のご入場!」


どこかで聞いたことのある、素晴らしいテノールボイスだった。

うさぎさんをしっかりと抱き締め、ヴィと手を繋いで入場する。

会場の貴族全員が、臣下の礼をとっていた。

ヴィは礼をする必要はないが、私はしなければならなかったはず。

…えーっと、なんの礼だったけ??


「公用の礼三位だ」


ヴィが小声で教えてくれた。

そうだ、そうだ。

公用の礼とは、こういった夜会などで貴族の位がばらばらな場面で使うもので、三位というのが国内オンリーのときということ。

二位は国内で、他国の国賓がいるとき。一位は他国で招待を受けたとき。

それぞれ、微妙に礼が違うのだ。面倒臭い…。

公用の礼三位は、両腕を胸の前で交差させ、軽く膝を折り、前かがみの角度は20度くらい。

視線は自分の足元を見ると。

うさぎさんがちょっと邪魔だったが、会場のみんなも視線を下げているはずなので、バレはしないだろう。

私が礼をとったのを確認して、ヴィのお許しの声がかかる。


慣れないヒールのせいか、礼をやめて一歩を踏み出そうとしたとき、裾を踏んでしまった。

前のめりに転げそうなところを、ヴィがすかさず受け止める。


「大丈夫か?」


周りに聞こえないよう抑えた音量だったが、ややかすれぎみな低音ボイス。そして、普段より増し増しな色気も相まって、大丈夫じゃない!

己の失態に青ざめればいいのか、ヴィの色気に赤くなればいいのか、表情が作れず固まった。


「ネマ?」


うぅぅ。ちょっと待って。

今、余裕がないから、ちょっと待ってて。

そんな思いも虚しく、ヴィはある意味いつも通りだった。


ひょいっと持ち上げられると、ヴィと同じ目線に。

それは、ヴィに抱っこされたときと同じ高さで…。

それと同時にあちらこちらから悲鳴のような声も聞こえてきた。

騒めきが大きくなる中、ヴィは私を抱っこしたまま、悠々と階段を登り、舞台のような場所に立った。

たぶん、王族用の特別席なんだと思うんだ。ヴィの後ろには豪華なイスが三つあるし。

私がいちゃマズいでしょ!!

おーろーせー!!


私がもぞもぞと動き出すと、ヴィが不機嫌そうに大人しくしろって言った。

鬼畜陰険腹黒王子め!!

…変態鬼畜腹黒王子だった。

解放されそうにないので、仕方なく、まったくもって不本意ながら、大人しくしておく。

ここで変に動いて、注目をあびるのは避けたいし。


王様と王妃様も入場して来た。

他の貴族たちが礼をとる中、私はヴィに拘束されているので、礼もできない。

ヲイ!公爵令嬢として、礼くらいさせろや!

ヴィを睨みつけるが、ヴィは面白いとでもいうように、ニヤリと笑うだけだった。

すっげームカつくんだけど!!

が、そんなことはおくびにも出さず、にっこりと笑い返してやった。

そしたら今度は、何重にも猫を被った、王子スマイルをしてきた。

ゾワッときて、鳥肌が立つ。

まさに、見惚れるような王子様なんだが、普段のヴィを知っている側としては、胡散臭すぎて気持ち悪い。

だが、それを悟られるわけにもいかない。


「寒いのか?」


鳥肌を立てる私に聞いてくるが、お前のせいだ!とは言えない。


「だいじょーぶ」


ニコニコ笑顔で返事すると、やつも再び王子スマイル。

なんなんだ、この意味不明な応酬は!

私としては今すぐにでもやめたい。

だがしかし、ここでやめたら負けな気がする。

お互いを見つめながら、微笑み合う私とヴィに、王妃様がおっしゃった…。


「ふふふ、お似合いね!」


ピクリと頬が引きつった気もするが、気のせいだろう。

それより、王妃様。誰と誰がお似合いなんですかねぇ?

怖くて聞けない。聞いたら最後、私はなり振り構わずママンのもとへ逃げ帰るはめになるだろう。

それでは、オスフェ家の名に泥を塗ってしまう。

耐えろ!耐えるんだ!!

私は令嬢、私は女優!!


表情筋を駆使し、愛想笑いの大盤振る舞い。

王様の挨拶の言葉も耳に入ってこないが、乾杯をしていたので始まったものと思われる。

ヴィはイスに座ったのに、なぜ私は貴方の膝の上なのか…。

そして、王様は王妃様を優雅にエスコートして、会場の真ん中で踊り始めた。

一曲を踊りきると、拍手喝采が起こり、王様はみんなをダンスに誘う。

たくさんの老若男女が、楽しそうに踊っていて、ちょっと羨ましい。

私もダンスの稽古は頑張っているので、一度はこういう場所で踊ってみたい。

ただ、釣り合う身分とお年頃な男の子は、今日問題を起こしたガッシュとヒューイしか知らない。

あの二人は却下で。

お兄ちゃんとなら踊れるかもしれないが、上から見ていると、お兄ちゃんと同じ年頃の令嬢に囲まれている。


「ラルフは人気者だな」


当たり前だ!

お兄ちゃんは、優しくて、頭もよくて、運動神経も抜群で、女神様に愛されている魔術師で、格好よくて、完璧な王子様なんだからね!

しかし、あんなに肉食令嬢に囲まれていたら、ダンスは無理かもしれない。


「俺と踊るか?」


ヴィに誘われたが、謹んでお断りした。


「やだ!」


だって、ヴィはここ最近、すくすく縦に育っている。

そう、縦にだ。

出会った当初は、お兄ちゃんより少し高いくらいだったが、今では頭半分くらい違う。

つまり、お兄ちゃんより身長が高いということは、踊るのが凄く大変ということだ。

まず、普通のホールドはできない。

まぁ、お兄ちゃんとも無理なのだが、お兄ちゃんがいろいろ工夫をしてくれて、なんとか踊れる。

ヴィは身長もあるが、足の長さもネックだ。

並ぶと私の視線の先が腰くらい。

どう考えても無理だし、ヴィジュアル的にもよろしくない。痴女認定されかねない。

まぁ、もう数年我慢すれば、私も大きくなってちゃんと踊れるようになるだろう。


それよりもだ、会場の奥にある、ビュッフェみたいなものが凄く気になる。

美味しそうなスイーツがあるかもしれない。


「ヴィ、おかしが食べたい!」


もういい加減、膝の上はやめたいので、会場に下りようよ。


「はいはい。仰せのままに、お姫様」


頼むから、セリフと顔を一致させてくれ。

ニヤリと腹黒い笑みで、甘いセリフを言われてもときめかないんだけど。

結局、ヴィに抱っこされたままビュッフェコーナーまで連れていかれたのだが、まぁ凄かった。

ヴィが会場に下りると、群がられるどころか、自然と道ができる。

ヴィ、怖がられているんじゃないの?


「で、どれが食べたいんだ?」


テーブルの上に並べられているデザートは、どれも美味しそうで、色とりどりだった。

シュークリームに似たやつなんだろう?初めて見た!

デアの実を使ったお菓子もある!

生クリームっぽいものをたっぷり使ったケーキもあるぅぅ。めっちゃ、悩む。

ここは初めてのシュークリームっぽいやつにしとくか。


「あれがいい!」


給仕の人がお皿に取り分けてくれた。

ようやく、ヴィに下ろしてもらい、給仕からお皿を受け取る。

一口では無理なので、フォークに刺してから頬張る。

おぉぉ!外の皮がパリッてしてる!

中はイチゴに似た味がするクリームが入っているんだが、なんだろう?

クリームは重くないし、少しの酸味とくどくない甘さと、皮の香ばしさと美味い!

あっという間に一つ食べ終わってしまった。


「ネマッ!」


突然現れたお姉ちゃんに、ぎゅーっとされてしまった。

危うくお皿を落とすところだったよ。


「なんて可愛いの!」


いつも通りのお姉ちゃんでちょっとほっとした。


「おねー様もきれいなの!」


お姉ちゃんは緑のドレスで、白いベールのようなものが不規則についていて、絵本に出てくる妖精のようだった。


「あら、殿下。新たな巡りに、幸せがございますよう」


お姉ちゃんは今気づいたというふうに、新年の挨拶をする。

今日はすでに、王様から礼は不要だと言われているので、臣下の礼はとらなくてもいい。


「あぁ。カーナディア嬢にも、新たな巡りに幸せがあるよう」


「妹がお世話になりましたわ。でも、そろそろお返しいただいてもよろしくて?」


「それならば、カーナディア嬢もともにいればいいだろう?」


うーん、お姉ちゃん直球でいったな。

ヴィはそれをさり気なくかわしているが。


「じゃあ、おにー様も呼ぼうよ!」


お兄ちゃんなら大丈夫だと思うが、そろそろ肉食令嬢たちから救出してあげようぜ。


「そうね。お兄様を仲間外れにしては可哀想ですもの」


「そうだな」


「では、殿下。お兄様をお願いできますか?わたくしでは、あの方たちは諦めないでしょうから」


お姉ちゃん、ヴィをパシリだと!?

でも、確かにヴィが迎えに行った方が、すんなり解放されそうではあるが。

逆に取り囲まれて、身動きとれなくなる可能性も高いかもしれないけど。


「ヴィ、おねがいします」


お姉ちゃんの安全を優先して、私からもヴィにお願いする。


「俺を使おうとするのは、父上かお前くらいだな。ここを動くなよ」


とか言っているけど、迎えに行ってくれるのだから、ヴィにも優しさはあるのだろう。

ヴィがお兄ちゃんに近づくと、そこでも自然と人が道を譲るのだから凄い。

お兄ちゃんを取り囲んでいた令嬢たちは、一歩また一歩と、ヴィから距離をとる。

やっぱり、ヴィ怖がられてんじゃん。

無事にお兄ちゃんを救出して、兄妹が揃った。


「ネマ、一段と可愛いくなったね」


お兄ちゃんに抱っこされ、褒められる。

しかし、お兄ちゃんも負けていない。

白い礼服には、金と青の刺繍が入っていて、ブーツと剣というのはヴィと同じなのに、爽やか…じゃないな、清涼とか純粋とかそんな言葉が似合う。

ヴィとお兄ちゃんが並ぶと、本当に正反対だ。


「おにー様もかっこいいの!おうじ様みたい!!」


「俺は王子らしくないってことか?」


お兄ちゃんは絵本とかに出てきそうな王子様だが、ヴィは…悪役とかで出てきそうな王子様だよね。

美しいお姫様を誘拐するようにさらい、お姫様の恋人の騎士の前に立ち塞がる、みたいな。

それか、恋愛ものとかに出てくる、意地悪な王子様?ヒロインの優しさに触れて、少しずつ惹かれていく俺様王子…。

キモッ!!

ヴィが甘い顔で甘いセリフを吐くとか、想像しただけでもキモい!!

まぁ、そういうのが好きな令嬢方には、堪らないかもしれないが。


「お前、今変なことを考えているだろう」


うにぃっと頬を(つね)られる。

痛い!痛い!!


「そんなことないもん!」


ニヤリと笑ったあと、頬は解放されたが、この笑みはまだ何か企んでいるな!


その後もヴィは側を離れず、なし崩しで挨拶攻撃にも捕まってしまった。


「殿下に可愛がられておられるとは、他のご令嬢からしたら、さぞ羨ましいでしょうな」


挨拶に来たおっさんが、私の方を見て言った。

羨ましいなら、代わってあげるよ!


「大切な存在だからな」


まるで、恋人に見せるような笑顔とでも言ったらいいのか、普段ならしない笑顔でヴィが言った。

誤解を招くような言い方をするんじゃない!!

しかも、存在って言いつつも、おもちゃって心の中で言っているだろっ!

他にも、挨拶に来た人が、私のことに話を振ると、愛し子だとか、可愛くてしょうがないとか言いやがって!

言葉を省くな!

ヴィではなくて、ラース君や王様たちにとってってことだろっ!

はっ。さっき企んでいたのはコレか!

私を困らせて楽しんでいるな!!


口に出せない憤りと、愛想笑いを続けなければならない疲労とで、挨拶が途切れるころにはぐったりとなった。


「ん?もう疲れたのか?」


えぇ。貴方のせいで疲労困憊(ひろうこんぱい)だよ!


王族の席に戻ると、ラース君と遊んでいていいと言われたが、すでに遊ぶ体力もない。

ラース君をクッション代わりにして、大人しくジュースでも飲んでいるか。

残りの時間は、ラース君のもふもふを()でつつ、会場をぼんやり眺めるだけで終わった。

パパンが迎えに来てくれたときには、半泣きだったよ。


「ネマ、よく頑張ったね。もう、屋敷に帰れるよ」


長かった…。

本当に今日一日が長かった!

パパンにたっぷり甘えていると、睡魔が襲ってきたので、眠いと訴える。


「おとー様、もうねむい…」


「寝ていても大丈夫だ。お疲れ様、ネマ」


「ん…」


お言葉に甘えて、寝るとしよう。

結局、王様たちに帰る挨拶はできなかったが、お子様の体力では限界だ。

パパンが代わりに挨拶してくれているだろうから、大丈夫だよね。



♦︎♦︎♦︎

腕の中の重みが増し、ネマが寝入ったようだ。

今日は不本意ながら、あの殿下にいいようにしてやられたが、私をなめてもらっては困る。


「陛下、我々はこの辺で失礼させていただきます」


「そうか。ネマも疲れてしまったようだな」


腕の中で眠る娘を優しく覗き込む陛下。

体を反らして、ネマの寝顔が見られないようにする。


「お前、けち臭いことするなよ」


「陛下にはもったいないですから」


「ネマのこととなると、相変わらず大人気ないな」


なんと言われようとも、可愛いネマの寝顔を堪能させるわけがないだろう。


「それよりも、殿下には身の振り方を勉強していただかねばならないようですね」


これ以上好き勝手やるのであれば、こちらも実力行使は厭わない。


「そう言ってやるな。あれが自由に動けるのも今のうちだけだ」


世代交代が早い我が国では、もちろん国王の引退も早い。

ヴィルヘルト殿下の能力を見極め、遅くとも二十五歳までには王位についてもらう予定ではある。

まぁ、現王陛下が引退されても、余生を田舎でとはいかないが。

というか、そんな甘いことはさせない!


「カーナを候補にあげているだけでも譲歩しているのに、それ以上欲張るのであれば、ラズール公爵家のご令嬢に出てきてもらいましょうか?」


「また、面倒臭いことを…」


いくら権力志向が強いラズール公でも、陛下が上手く飼いならしているうちは大丈夫だろう。

まぁ、殿下の代になれば、どう動くかわかりきっているけども。


「今日のことで、勘違いした者もいるでしょう。我々にも牙や爪があることをお忘れなく」


殿下の動き次第では、王太子の座を引きずり落とすことも可能だと、釘を刺しておく。

本当なら、王位など微塵も興味ないが、ネマを守るためならいたし方ない。

そのときには、ラルフにも腹をくくってもらおう。


「…わかった。ヴィルには十分注意をしておく。お前を怒らせるなとな」


ネマは、私が認めた者にしか嫁がせないからな!


「どうしてもという場合は、より精進していただかねば、欲しいものは手に入りませんよ」


「はぁ。ネマが婚期を逃しそうで、別の意味で心配だぞ」


…嫁にやらないというのも手だな。

ラルフが家を継げば、領地でセルリアとネマと一緒に、のんびり過ごすのも悪くない。

よし、そうするか。


「頼むから、ネマから女性の幸せを奪ってやるなよ」


「ネマを幸せにできる者がいれば、考えますよ」


さて、つい話し込んでしまったが、家に帰るとしよう。

早く寝台で寝かせてあげないとな。


あぁ、あとは理不尽な噂でもたつようなら、消しておかないとね。



王子様らしいヴィを書こうとして失敗しました(−_−;)

ヴィはネマが一緒だと、王子様らしくしてくれないようです。

ネマは忘れているようですが、パパン、ママン、マージェスのトリプル説教が待っていますよ!


ちなみに、ヴィのお相手だという噂は、パパンが躍起になって消します。

絶対に嫁にやらないと言っているので、ネマは社交界で婚期を逃しそうな令嬢と同情されているそうな。

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