表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/332

森鬼が我が家へ

私が名前をつけた子たちが、ちゃんと仲良くなって、無事に問題は解決した。

一度、コボルトたちのもとへ戻るのだが、森鬼は洞穴に残って鈴子たちと今後の方針を相談するようだ。

そして、洞窟を改造するんだね。

どんな洞窟になるか、ちょっとわくわくする。


コボルトの洞窟群まで来ると、星伍と陸星がお出迎えしてくれた。

それに続いて、ハンレイ先生までお出迎えしてくれたもんだから、私のテンションはうなぎ登り。

しかし、私がハンレイ先生に飛びつく前に、お姉ちゃんに先を越されてしまう。


「貴方の毛を、少し採取させていただいてもよろしいからしら?」


「毛?」


「えぇ。ネマが、貴方の体毛を再現したぬいぐるみが欲しいと言っているの。姉としては、妹の願いを叶えてあげたいのよ」


お姉ちゃんの目がヤバい!

ママンの、白とグラーティアを見るときのような、研究者の目になっている!


「…別に構わないが、そんなんでできるのか?」


「ふふふっ。難しいほど、やり甲斐があるってものですわ」


なぜか燃えているお姉ちゃん。

まぁ、お姉ちゃんはハンレイ先生に毛をわけてもらい、私はハンレイ先生の毛並みを堪能し、騎士さんたちも交えて、コボルトのおちびさんたちと遊び、有意義な一日だった。

ハンレイ先生の孫たちに囲まれ、騎士さんたちの表情もゆるゆるになっていたことは秘密だ。


日が暮れる前に下山して、村長さんのお家にお世話になり、山の麓で森鬼と合流。

そして、馬車でフォーべへと向かう。

今回は海と雫たちには会いに行く時間が取れなかったが、次来たときには構い倒してやろう!


ほぼトンボ帰りで我が家に戻ってきたが、森鬼にとっては初の我が家だ。


お家に着くと、マージェスとパウル、ディーとプルーマがお出迎えしてくれた。


「お帰りなさいませ、ラルフ様、カーナお嬢様、ネマお嬢様」


「マージェス、パウル、出迎えありがとう」


「ただいま戻りましたわ」


お兄ちゃんは二人を(ねぎら)い、お姉ちゃんもお嬢様らしく一言かける。

私はなんて言えばいいのかな?

お姉ちゃんと同じでは芸がないし…。


「ぶじにもどりました!」


考えた末に、無難な言葉になってしまった。

しかし、マージェスたちは気にした様子もなく、笑顔でお帰りなさいませと言ってくれた。


「お茶をご用意しております。ネマお嬢様のお好きなお菓子もございますよ」


お菓子!やったね!

でも、その前に。


「ディー、ただいま!」


尻尾をぱたぱたと振っているディーにぎゅっと抱きつく。

ディーはいつでもお日様の匂いがする。

そして今日も絶好調の毛並みだ!

指に絡むことなく流れる毛並みは、サラッとしているにもかかわらず、ふわふわした感触が手のひらから伝わってくる。

ちゃんと毛のお手入れをしてくれている証拠だね。

よし、今日は私がブラッシングしてあげよう。


「バギャー!」


自分もいるぞとアピールするように、プルーマが羽を広げた。


「プルーマもいい子にしてた?」


「バギャッ」


頭を寄せて来たので撫でてあげると、嬉しそうに目を閉じるプルーマ。

しかし、我が家に来たときよりも、羽根の質が断然によくなっている。

やや固さのあった表面の毛も、空気を含んでふわっふわな肌触り。スルッと滑るようなコシというか弾力のような感触もあり、さぞ布団にしたら気持ちいいだろうなと考えてしまった。

毛並みが改善された要因と言えば、庭師のアイルだろうな。

私の目を盗んで、何かやったに違いない。

あとで、その技術を聞き出してやろう!


「そちらの方をご紹介いただけますか?」


マージェスに言われ、彼の視線の先を追うと森鬼がいた。

そうでした!なんて説明すればいいのかな?


「彼はシンキと言う。ネマの護衛をしてくれることになったんだ」


私が言うよりも先に、お兄ちゃんが説明してくれた。


「シンキ様ですね。この屋敷の家令を務めるマージェス・ダスニーと申します」


「お嬢様方の執事をしております、パウル・ダスニーでございます。わからないことなどございましたら、何なりとお申しつけください」


丁寧に挨拶をする二人。

てか、パウルは知らない間に、私とお姉ちゃんの執事に昇進したようだ。

ってことは、もう一人の見習いはお兄ちゃん付きになったのかな?


「シンキだ。よろしく頼む」


しっかりと頭を下げて、お辞儀をする森鬼。

見よう見まねかもしれないが、まともにお辞儀をする森鬼は初めてだな。

ベルお姉さんのときは、頭を動かすだけだったし。

ディーがそんな森鬼に近づいて行く。

森鬼を見上げるように見つめ、鼻をヒクヒクさせ、ピンと姿勢よく、尻尾も上に伸びている。

初めて見る森鬼に、ディーも緊張しているようだ。


「ディーっていうの。ディー、森鬼よ。お友だちになってあげてね」


ディーと森鬼は、お互いにじっと見つめ合っている。

なんだろう…こう、割って入っちゃいけない雰囲気が漂っている。


「ディー殿、よろしく頼む」


先に動いたのは森鬼だった。

片膝を折って、目線をディーに合わせる。


「ワンッ!」


ディーも、緊張が解けたのか、任せておけとでも言うように一鳴きした。

さっきの雰囲気はなんだったんだ?


「ディーと何かあったの?」


気になったので、森鬼に聞いてみる。


「お互いの序列を確認していた。ディー殿の方が、主との付き合いも長いので、俺はディー殿の下につくことに決まった」


えーっと…ディーが一番上ってことだよね?

本来なら、強さとかで決めるんだろうけど、なんかすごく人間臭いというかなんというか…。

魔物らしくない。うん。

まぁ、無事に森鬼が我が家に受け入れられたと思えばいいのか。うん、うん。

と、一人で納得していた。

おっと、その前に、最大の難関であるママンの存在があったな。

返してきなさいとか、言われないよね?


「おかー様は?」


「奥様でしたら、日光室(にっこうしつ)にいらっしゃいます」


日光室かぁ。私、あそこ苦手なんだよなぁ。

サンルームより大きく、温室より小規模っていうか、ようは建物に繋がっているガラス張りの部屋なんだけど。

観葉植物ならぬ、研究植物がいっぱいあって、ジャングルみたいになっている。

この世界の植物も、ほとんどは太陽の光をエネルギーにして成長する。でも、たぶん、葉緑素ではないと思う。

しかし、極一部は魔力で成長するものがある。

日光室にあるのは、その魔力で成長する植物ばかり。色とりどりと言うか、茎や葉っぱまで赤かったり青かったりするので、かなり気色悪い。

害はないとわかっていても、ハエトリグサのようにパクッとなるんじゃないかと想像してしまうのだ。

なんでそんなものを日光室で育てるのかと聞いたら、太陽の光の方が、色鮮やかに見えるからだってさ。

ちなみに、害があるやつは王立魔術研究所の温室にいる。

外から見せてもらったことがあるけど、あれはヤバイ。魔法で防御しないと、マジで食われる。

そのときに私が思ったのは、これで魔物じゃないって嘘だろ、だったけど。


恐怖体験はさておき、森鬼を連れて日光室へ向かう。

扉をノックすると、対応したのはママンの専属執事だった。


「母上に帰宅の報告を」


「どうぞ、こちらへ」


あとをついて行くが、森鬼が途中で足を止めた。


「どうしたの?」


「いや、フラエリがあったので、つい」


森鬼の視線の先には、アロエのような肉厚の葉を持つ植物があった。

アロエのようにトゲトゲではないが、肉厚の葉は青く、中心の花が緑だった。


「これのこと?」


植物についてはあまり詳しくないので、名前を言われてもわからない。


「ああ。食べると美味い」


……えぇぇぇぇ!!!

食べるの?これを??

なんか、魔蟲(まむし)のときも似たようなリアクションしたかも。


「…どんな味なの?」


「甘いな。メスやちびどもが大好きだから、これを持って帰ればモテる」


うぬぬ…。森鬼がモテるとか言っちゃうのにも違和感が。

つか、どこから俗語を覚えてくるのかな?


今度行くときに、差し入れしてみるか。

ん?てことは、私はゴブリンにモッテモテになるのか?

…やめておこう。


「ネマ?」


お姉ちゃんの声で我に返り、ママンのところへと急ぐ。


「三人とも、お帰りなさい」


肘かけ椅子に座り、寛いでいるママン。

しかし、側のテーブルには書類の山。お仕事でもしていたのかな?

お兄ちゃんも、ただいまのあとに、お仕事の邪魔してしまったかと聞いていたし。


「さて、貴方がシンキね。さっそくですが、いかなるときでもネマを守ると、『名に誓って』いただけるかしら?」


「それは構わないが、すでに名で繋がっているのに必要なのか?」


「貴方が、ネマの命令に逆らえないことも、危害を加えることができないこともわかっているわ。でもね、母親として、どんな可能性でも潰しておきたいのです」


貴婦人として、優しい微笑みを浮かべてはいるが、その視線は鋭く森鬼をとらえている。

そうだったのか。名前を付けると、そんなことになるのか。

じゃあ、魔物に名前付けまくればいいじゃんってなるのだが、魔物が自分の名前だと認識しなければいけないらしく、お前の名前はなんとかだ!って言っても、魔物側が言葉をわからなければ意味がないんだと。

世の中、そううまくはいかないか…。


「なるほど、そういうことか。別に問題はない」


そう言うと森鬼は、私の前に跪き、私を見つめて『名に誓う』。


「シンキの名にかけて、ネフェルティマ様を命のある限り守ると誓おう」


「…お、おねがいします?」


なんと返せばいいのかわからず、疑問系になってしまったが大丈夫だったろうか?

うーん、ママンも何も言ってこないし、大丈夫だよね。


「シンキに服を用意しないといけないわね。ネマの側にあるなら、身だしなみも整えないといけないわ」


長袖のシャツにズボンという、農民のような格好の森鬼だが、イカフ村で手に入れたものなのでしかたがない。

むしろ、よく森鬼が着れるサイズがあったな。

ママンの専属執事が、早急に手配いたしますと言っていたので、今から仕立屋さんを呼ぶのだろう。

それとも、我が家の使用人の誰かが作るのかな?…ありえるかも。


「さて、シンキが魔物であることは秘さなければなりません。ともに行動していた騎士たちはもちろん、貴方たちもです」


班長さんたち騎士団も、近衛騎士の人たちも、任務上で知りえたことを口外するとは思えないが、オスフェ家からのお願いとするのか、それとも王様に命令してもらうのか。


「それはわかりますが、王国騎士団には貴族からの命令はききませんよ?」


あ、そうだった!

騎士団には、貴族の権力は通用しないんだった。

ってことは、王様にお願いするの?それとも、ゴーシュじーちゃん?


「陛下に陳情いたしますので、問題ありません」


ん?王様にお願いしても、確実にやってくれるとは限らないよね?

なのに、問題ないの??


「陛下はお母様の兄弟子なのよ。それに、シンキのことが(おおやけ)になっては、混乱するのは民ですもの。民のために、陛下は沈黙せよと命令をなさると確信していらっしゃるのでしょう」


お姉ちゃんがこっそりと教えてくれました。

なるほど。

森鬼が魔物だと広まっては、王様も困るってことだね。


「でも、森鬼のつのはどうするの?つのでばれちゃうよ?」


森鬼は外見がめちゃくちゃ派手だ。

青い髪と赤い目の配色は、珍しいけどいないわけでもないからいいとして。

体にある刺青(いれずみ)みたいな模様も、服を着れば見えないのでいいとして。

頭にある黒い二本の角は、どう頑張っても誤魔化せない。


「シンキは(すい)族の獣人としましょう」


すい族?聞いたことないよ!!


「觜族とは?」


「觜族は、パルマを祖とする獣人です。パルマは、その奇妙な姿から恐れられ、乱獲され、創造の神のもとへ帰ったと言われています」


神様のもとへ帰ったってことは、絶滅したってことだ。

いや、私が絶滅したと解釈しているって感じか。

宗教上は、創造と滅びは神様の管轄で、神様が創り出したものをわざわざ滅ぼさないだろうってことで、神様のもとに帰ったのだとしている。

滅びとは、神様の怒りであり、国が滅びるのは、神様の怒りを買ったからだとされる。

しかし、慈愛と再生の女神クレシオール様がいるので、国は別の国として再生するんだとか。

んな馬鹿なと思うが、教典に書いてあるらしい。

私は、お子様向けの絵本のようなものしか読んだことないので、詳しくは知らない。

まぁ、お兄ちゃんが言っていたので、間違ってはいないと思うが。


「パルマがいないのに、じゅうじんさんはいるの?」


「觜族もその姿から、鬼と間違われ、多くの者が女神様のもとへ行かれたと聞いています。しかし、わずかに残った者たちを、精霊王様方が守っていらっしゃると」


なんか、伝説とか神話みたいなお話だな。

つまりは、超珍しい獣人を保護したぞ!ってな方向性でいくのかな?


「その、珍しい觜族を保護したとして、ネマの護衛とするのは無理があるのでは?」


うんうん。お兄ちゃんの言う通り。

珍しい獣人を保護したのなら、やっぱり帰してあげるのが普通だと思う。


「あら。本人が恩返しをしたいと言っていたら?窮地を助けてくれたネマの護衛を買って出たとしたら?」


ママンの顔が楽しそう。

感動ドラマ系にしたいのかな?

昔から使われているパターンではあるけど、大恩ある人のために、剣を取り、騎士となったとか。

自分を庇って怪我をした人のために尽くすとか。


「ふふふっ。奴隷商人のもとから逃げ出して、森でさまよっていたところをネマに助けられたのね!ネマの優しさにふれて、ネマを守りたいと思うようになり…」


もっしもーし!お姉ちゃーん!帰ってこーい!

ダメだ。妄想の世界に行ってしまった。

どこの三文小説だってツッコミたいけれど、他に代案も浮かばないので、もうこれでいいか。


「カーナも気に入ったようね。奴隷商人から逃げて、ネマに助けられたということでいいわね?」


当の森鬼は興味なさげで、お兄ちゃんも何も言わないので、森鬼は觜族の獣人で、奴隷商人から逃げ出して、私が助けたって設定になった。

真実は、ゴブリンに誘拐され、仲良くなり、謎の進化をしちゃったってだけなんだけど。


「そうそう。ラルフには、明日から各組合の長との面会を入れてありますからね。ネマはわたくしと一緒に、冒険者組合へとご挨拶に行きましょう」


おぉ!王都の冒険者組合に行っていいの!!

行く行く。行かせていただきます!


「シンキ、ハク、グラーティアを魔術研究所に連れて行くのは三日後くらいでいいかしら」


おっと。それもあったか。

痛いことをされないか、ちゃんと見張っておかないと。


「私も行くー!」


「構いませんよ。でも、いい子にしていてね。約束できるかしら?」


「やくそくします!」


ちょっと心配はあるけど、(はく)やグラーティアの能力がわかるかもしれないんでしょ?

もちろん、見張りはするけれど、この子たちの能力も楽しみである。


ママンから解放され、ディーとプルーマも呼んで、お庭で遊ぶ。

白とグラーティアが、どちらが高くジャンプできるかを競いあったり、ノックスは池で水浴びしたりと、思い思いに遊んでいる。

私はディーと一緒に駆けっこだ。

運動不足はよくないからね。あと、体力もつけておかないと。

森鬼はその様子を木陰に座り見ているだけだったけど。


しばらくすると、パウルが仕立屋さんが来たと呼びにきた。

なんだ、スーパーマルチな使用人が作るんじゃないのか。

とりあえず、遊びを切り上げて、森鬼の採寸を見にいこうっと。


で、結局、白とグラーティアはどっちが勝ったの?



お待たせいたしました。

森鬼がオスフェ家へ到着です。

そして、謎の獣人にされてしまいました。

パルマという動物は、次回ネマが説明してくれるはずです。

ネマが忘れていなければね…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ