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神様、遊ぶのやめませんか?

急いで戻るときに、氷ゾーンで班長さんが滑って転ぶというまさかの事態が起こった。

幸い、班長さんに怪我はなかったが、滑ったことが恥ずかしかったのか、手で顔を隠す班長さんが可愛らしかった。

これがオヤジ萌えというやつか!

いやいや、班長さんは一応まだ若い部類だろう。

このチームの平均年齢が低いだけで、オヤジと呼ぶには早いと思われる。

となると、ギャップ萌えが正しいかも。

いつも真面目で表情をあまり変えない班長さんが、恥ずかしがると可愛い。そういえば、しょんぼりしていたときもあったな。あのときは、パパンのアホな部下に怒っていたから、班長さんの表情をあまり見ていなかった。今思うと、もったいないことしたな。

ギャップ萌えかぁ。ちょっと想像してみよう。

お兄ちゃんが恥ずかしがる。これは普通に可愛い。お兄ちゃんのキャラなら有りだな。

お姉ちゃんが恥ずかしがる。いつもは勝気というか、自信に満ち溢れているお姉ちゃんだから、かなり萌える。

パパンが恥ずかしがる。…ちょっときしょいかも。

ママンが恥ずかしがる。悪い物でも食べたのですか?いや、パパンなら食らいつくな。そして、ママンの色香でアダルトな世界に行ってしまいそうだ。

ヴィが恥ずかしがる。…ありえないな。つか、想像すらできん!

ん?ってことは、まだ私にはギャップ萌えを理解できないということか??


などと、変なことを考えているうちに外へ出た。

洞窟の近くで待っていた留守番組と合流する。

事情を簡単に説明し、これまた急いで下山する。

私はもうヘトヘトなので、ラース君の背中にお世話になっていますよ。

やっぱり、ラース君のもふもふはたまらん!

いつまでもお世話になっていたいくらいだ。

そうだ!ハンレイ先生のぬいぐるみができたら、次はラース君のぬいぐるみを作ろう!!

我が国の王太子の聖獣なので、お土産としても人気になるに違いない。

早くお姉ちゃん、合流しないかしら。


やっとこさ下山したが、私とラース君、森鬼以外はバテている。

お兄ちゃんとヴィ、ダナートは少しだけのようだが。

休んでいる暇はないので、下山してからも駆け足で村長さんのお家に向かう。

ラース君が風を使ってアシストしているのか、思ったよりスピードが出ているな。


村長さんにも簡単に説明し、これまた船を出してもらう。

セイレーンのお姉様方はどこにいったのかな?

ラース君は風の精霊さんに聞いて知っているようで、船の進む方向をヴィが指示を出している。


お、前方にお姉様方発見!

さすがに、セイレーンの群れは目立つな。

初めて見る漁師さんたちも、お姉様方のナイスバディに釘づけだ。

あんまり見すぎると、業を食べられちゃうよ?


こちらに気づいたお姉様が、船に下りてきた。

私を捕まえていたお姉様だ。


「この先に岩場があるのだけれど、隠れて出てこないのよ」


ふむ。困りましたな。


「もうおこってないよってつたえても?」


「えぇ」


さて、どうするか…。

私だったら、怒ってないと言われても信用しないかも。パパンが怒っていないと言っても、ママンからの説教は目に見えているからね。

あとは、食べ物で釣るとか?

あ、でも欲を食べるんだっけ?

うーん、雫と白だったら、食欲無限大にあると思うんだけどなぁ。魔物の欲じゃダメかな?


「セイレーンはまもののよくは食べないの?」


「そんなことないわよ?現にそこの彼なんて、とても美味しそうだもの」


あらら。森鬼、完全にロックオンされていますよ。夜道の背後には気をつけてね。


「白、おいで」


ラース君の頭の上でまったりしていた白を呼ぶ。

何羨ましいことやってんだ、この子は!


「白の食べたいってよくを、セイレーンの子どもにあげてくれないかな?」


「みゅぅぅ」


白はいいよーと軽く返事した。

雫はどうだろうか?


「雫は?」


子供に影響ない程度ならというお返事でした。

そら、ごもっともです。


さて、ここからは風の精霊さんに活躍してもらいましょう。といっても、いつも通り、声を届けてもらうだけだけど。


「おなかいっぱい、ごはん食べたくない?」


返事は返ってこない。


「今なら、スライムの子たちがしょくよく食べていいよって言ってくれているんだけどなー」


むむむ。意外に頑固なのか?


「さらった子どもをかえしてくれるなら、おこられることもないよ?」


『…ほんと?』


おぉ!小さい声だが、返事がきた!

やっぱり、怒られることの方を心配していたのか。


「やくそくする!だれも君をおこったりしないから!!」


怒ったりはしないが、愛のある説教はあるかもしれないけどね。


岩場の中から、男の子が出てきた。

海の上を歩きながら、船に近づいてくる。

ん?セイレーンの子供なのに、人間の姿??

男の子は上半身裸で、短パンを身につけ、二本の脚で歩いている。


魔法か何かで足元の海水を持ち上げ、船に移動する。

ちょっといいなぁと思ってしまった。

水を自由自在に操れるって、便利だよね。

さらに、男の子は海の中からあるものを出してきた。

水の幕に覆われたボールのようなもの。その中に、五歳くらいの男の子が眠っていた。


「…かえす」


お兄ちゃんが水の幕を破り、男の子を救出する。すぐに治癒魔法をかけていたから、一安心だ。


「おなかすいているでしょ?この白と、私にきせいしている雫なら、食べてもだいじょうぶよ。しょくよくばっかりだけどね」


セイレーンの子供は無表情のまま、白に触れる。白のふにゅっとした感触が琴線に触れたのか、彼は柔らかく微笑んだ。

さすが、ナイスバディ美女軍団の子供だけあって、その笑顔の破壊力は抜群だ。

お兄ちゃんで慣れているはずの私でさえ、クラっときたよ。


白の次は私の頭に手を置いた。

すると今度は、恍惚とも言うべき表情になった。

うっとりと目を閉じる少年。髪は爽やかなマリンブルー、瞳はあの地底湖を思わせる神秘的な青。造形もお姉様たちに似てとても整っている少年が、ありえない艶というか色気というか、よくないものを撒き散らしているのを目の前で見せられている。

なんだ、この恐ろしい生き物は!!


「とても、美味しい…」


それはようござんした。

白より雫の方がお気に召したのか?

そのとき、雫が危険を伝えてきた。

白はピョーンと私の頭に乗ると、少年の手を叩き落とす。

何が起こっているんだ!?


「…残念」


「みゅっみゅぅぅ!!」


白が威嚇している。あの温厚な白が!!

セイレーンのお姉様も来て、私を庇うように少年との間に入ってきた。


「あなた、今何をしたかわかっているの?」


「………」


「約束を違えるなんて…。あなたを生かすも殺すも、このお嬢さんの気持ちしだいなのよ?」


さーっぱり、話が見えてきませんが?

少年は私に対して何かやったのか?


「…でも、その子美味しい」


えっ!?

私、食べられてたの!?

ちょっと待て!なんの欲を食べた?

食欲か?睡眠欲か?それとも…。


「その子、生き物好き。たくさん、撫で回したいって、それが温かくて美味しい」


ぬぁぁぁぁぁ!!!

せめて、もふもふしたいって言ってくれぇぇぇ。恥ずかしい!恥ずかしくて死ねるレベルだぞ!!

よもや、私の根本とも言えるもふもふ欲を食べられていたとは…。


「それはわかるけど、お嬢さんが食べていいと言ったのはスライムだけよ!」


わかるんかい!

セイレーンから見たら、私はどんなご馳走に見えてるんだよ!!

生き恥晒して、リアルオーアールゼット中な私を、白がすりすりして慰めてくれる。

はくぅぅぅ。

白をぎゅーっと抱きしめ、その柔らかボディに顔を埋める。

あ、呼吸できないや。

すぐに、顔を埋めるのはやめたが、ほっぺにすりすりは続行しておく。

やっぱり、白は癒しだ。ノックスも仲間に入れてとやって来たので、ふわふわ羽毛に顔を突っ込んでやった。ノックスからは森の匂いがした。私が洞窟探検している間、森林浴でもしていたのかもしれない。

私が二匹と戯れている間に、話はどんどん進んでいるようだ。


「洞窟に戻りなさい。いえ、新しい洞窟をあげるわ。山に迷い込んだ人間なら、捕まえてもいい。山から決して出ないで」


お姉様からそう告げられると、少年は悲しげな表情を浮かべた。


「さぁ、行くわよ」


お姉様は飛び立とうとするので、私は慌てて止めた。


「私も行く!」


ある考えが浮かんだのだ。

これなら、少年も淋しい思いをしなくてすむかもしれない。


というわけで、お姉様方とは先ほどの洞窟で合流することになった。

少年はというと、ちゃんとセイレーンだったようで、鳥型になり、お姉様方に連行されていきました。


そして再び、急いで洞窟に戻ります。

正直ツラいです。言い出しっぺではありますが、海から山へ、そして洞窟へと、道のりが長くてヘトヘトです。まぁ、ほとんどをラース君の背中の上ですごしましたが。

誰か、瞬間移動の魔法を開発してくれませんかね?

さすがの騎士さんたちも体力の限界が近かったのか、お兄ちゃんが治癒魔法を全員にかけていました。

それでもお兄ちゃんはケロリとしている辺り、チートだなって思う。


今回は留守番組を作りませんでした。

その代わり、案内役さんに洞窟の前で待っていてもらうことにしました。

足手まといは少ない方がいいってことかな?

まぁ、一番の足手まといは私だと思うけどね!


さて、地底湖があるところまで着くと、お姉様方がちゃんと待っていてくれました。

残念なのが、おみ足が魚に戻っていることです。


「じゃあ、この子がすむどうくつをさがしにいきましょー!」


「貴方たちもついてくるの?」


「そう!私にきせいしているスライムは、もうすぐ赤ちゃんうむの。その子たちがいっしょにいれば、さびしくないでしょ?」


雫の赤ちゃんたちを少年と一緒に住まわせる。そうすれば淋しくないし、欲も食べられる。いいこと尽くしではないか!


「そうねぇ。スライムってなんでも食べるのよね?」


「うん」


「じゃあ、植物とか魚がいる池の方がいいわね」


お姉様も賛成してくれたようなので、洞窟探検再びです!

と思ったのに、なぜか地底湖に入らされています。

どうやら、この地底湖は他の洞窟と繋がっているらしい。

水の魔法を使える騎士さんやお兄ちゃんが、水の中でも活動できる魔法をかけてくれた。これで、呼吸もできるらしい。

ちなみに私はその魔法プラス、水の精霊さんからの協力もある。

森鬼が精霊さんに命令していたのを聴いてしまった。


「水の中の()(あるじ)を守れ」


だからね。虫は可哀想だからやめてあげて!

いい加減、精霊さんの呼び方を変えてあげたいのだが、他に何かあるかな?

虫、羽、小ちゃい…小さいだとスモール、ミクロ、ナノ…ナノだ!!

顕微鏡レベルの小ささだけど、虫よりかはマシであろう。


「森鬼、こんどからせいれいさんをナノって呼んであげたらどうかな?」


「ナノ?」


「そう。小さいかんじがしてかわいいでしょ」


「主がそう言うなら…」


よしよし。これで問題は一つ解決したな。

私の周りだけ、そよ風が舞っているが、精霊さんたちも喜んでいるのかな?


そうだ!気になっていることがもう一つ!

風の聖獣であるラース君はどうするのだろう?

って、さすが聖獣様。チートだから問題なかったよ。

ラース君は風の力を使って、体の周りに空気の層を作っていました。

それで潜行もできるもんだから、聖獣って生き物はチートだ。


全員、潜る準備ができたので、地底湖への探検にしゅっぱーつ!


お姉様方に先導され、水の中をどんどん進んでいく。

途中、流れが強い場所などは、お姉様に手を引かれて進む。

水の中は真っ暗ということはなく、かなり深く潜っても、どこかしらから光が差していた。

まったく謎だ。外からの光とは思えない。というか、ありえない。ってことは、水中に発光体があるのだろうが、それが何か皆目見当もつかない。


最初の洞窟はジャングルでした。

地底湖を取り囲むように、植物が密集していた。

それに、地熱でも出ているのか、むしむしする。


「ここなら植物も多いし、魚もいっぱいいるわ」


「でも、上あいてるよ?」


洞窟ではあるが、天辺の部分がぽっかり丸く開いている。

これでは飛んで、外に行くことが可能だ。


「あら。いつの間に開いたのかしら?」


うん。自然現象なら何が起こっても不思議じゃないよね?寿命が長くて気づかなかったとかじゃないよね?


「じゃあ、次行ってみましょう」


次に案内された洞窟は、まさに自然が作り出した奇跡とも言える美しい場所だった。

水の中には人工物とも思える鉱物が巨大なオブジェと化し、水面に上がると薄く(もや)が広がっていた。

天井から差す一筋の光。そこから流れる細く儚い滝。その光を浴びようと小さな花が一生懸命咲いていた。そして、キラキラと光る壁。

あまりの素晴らしさに、誰もが言葉を失っていたようだ。


「ここは綺麗でしょ?水の入口も小さいから抜けられないし、海に行くとしても、私たちの洞窟を通らないと行けないの」


「おそとからは行けないの?」


「外からは水没した洞窟を通らないといけないから、魔法が使える人か私たちに連れてこられないと無理ね」


それだと少年は外に出られるってことではなかろうか?


「山から出なければいいのよ。もし、海で似たようなことが起きれば、すぐにあの子だってわかるでしょう?」


なるほど。いくら雫の赤ちゃんがいるとしても、完全に外と断ち切ってしまっては、少年がご飯を得る機会がなくなってしまうと。


「雫、ここはどうかな?きけんな生き物もいないようだし」


雫に聞いてみると、雫はここをえらく気に入ったようだった。

では、雫が赤ちゃんを産む場所はここに決定!

早速、水から上がって、雫が私の体から出ようとする。

ん?鼻がムズムズしてきた。風邪でもひいたのかな?


「…ハックシュンッ!!」


盛大にくしゃみをしたら、目の前に雫がいた。

…どうやって出てきたんだ!私の鼻か!?くしゃみと一緒に出てきたのか!!


外に出た雫は体をプルプルさせ始めた。

ついに生まれるのか?

プルプル震える体から、ぽこりぽこりと小さなスライムが出てくる。

ぽこりぽこり。またぽこり。

一体何匹いるんだろう?

雫の周りには色とりどりのスライムがうじゃうじゃと…。そう、うじゃうじゃいるのだ!!


「ぷぅぅぅぅ〜」


雫のやり遂げた!みたいな、気の抜けた鳴き声が響く。

終わりましたかね?

赤、青、緑、黄、橙、紫、茶、灰色に黒…。黒だと!?

雫、どういうことだ!魔物の黒は特異体ではないのか!!


「ぷぅぷぷぅ〜」


突然変異じゃない?と、これまた軽いお返事でした。

とりあえず、特異体の子は置いといて、生まれた子たちに名前を付けていく。

赤といってもいっぱいいるので、微妙に異なる色合いを見極めながら名前を決めます。

(せき)、真紅、緋色、茜、珊瑚、桜…。一応、色の名前でもあるから大丈夫!

(せい)、紺、群青、藍、瑠璃、浅葱…。(りょく)、翡翠、萌黄、若葉、常磐…。(おう)、山吹、檸檬、(だいだい)、蜜柑、琥珀、小豆…。紫紺、藤、菫、(はい)、銀鼠、薄墨…。

宣言しよう!覚えられる自信はない!!

色というより、果物や花の名前も混じっているが、色がわかる名前であればいいのだ!!


原色の子だけ、(はく)に合わせて音読みにしてみた。

黒の子が自分には?と見つめてくるので、ちゃんと(こく)と名付けた。


なんでこんなにカラフルなのか?

それぞれの場所に適応できるようにということらしい。

赤系の子たちは火や熱のある場所を好む。

青系の子たちは水の場所を好む。

緑系と茶系の子たちは山を好む。

黄系や橙系は火や熱と山とどちらでもいける。

紫系は毒に特化していて、場所はどこでもいける。

灰系は寄生型なので、宿主がいればいい。

黒は…オールラウンダーでした。親スライムと似たような能力があり、解毒能力、分析能力、対物理特化になんと魔法特化もあると雫が言っている。

つまり、特異体はチートってことか?ってことは、やっぱりグラーティアもチートなのか?

雫は赤ちゃんたちと一緒にいるということだったので、代わりに灰、銀鼠、薄墨、黒が寄生することになりました。

白は私と一緒に行くと言っているので、連れていくことになった。

あれ?余計酷くなってない?

そろそろ、愉快な魔物たちを卒業したいと思っていたのだが…無理そうだなぁ。


「…いいな。名前…」


少年よ、それは言ってはいけないぜ!


「その手もあったわね!」


お姉様までやめようぜ!


「名付け、してあげて。そうしたら、この子が悪さしてもわかるでしょう?」


やっぱりそうきたか!!

これ以上、魔物は増やしたくないんだよ!

ましてや、もふもふできない人型は遠慮したい。


「やっぱり、毛がないとだめ?」


ハゲがダメってことはないぞ。ハゲはハゲの魅力がだな…。違う違う。そういうことではない。


「これならいい?」


そう言って少年は、小さな馬になった。

ちょーっと待とうか。


「へんしん?」


「セイレーンと言っても雄でしょう。私たちと違って、魔物としての本来の姿を持っているの」


雄と雌でそんなに生態が違くていいのか?

つまり少年は、セイレーンとしての姿である人魚型と鳥型、魔物としての姿である馬と、三つの姿形を持っているってこと?


「じゃあ、にんげんのすがたは?」


「あれは、旅人の血かしらねぇ」


人の姿も持つってこと??


「私たちにもよくわからないのよ。成体になった雄を見たことないし」


ひょっとして、それは伝説になってもおかしくない、スーパーレアな魔物ってことになりませんかね?

森鬼に続く、謎の魔物か…。

ポニーのようなずんぐりした馬になった少年を見る。人型だったときと同じ、マリンブルーの毛並みに、円らな青い瞳。

おそるおそる撫でてみると、気持ちよさそうに目を細める。

こ、この(たてがみ)はっ!!

お姉様方と同じ、しっとりツヤツヤなのに、サラリと手から(こぼ)れる魅惑の感触。羨ましいほどのキューティクル。鬣でこれだと、尻尾は…。

世の女性が一度は憧れる、シャンプーのCMでお馴染みのふわっと広げて、サラサラと手を滑り、なのにまとまる。が、できる尻尾が存在しているだと!!

私史上最高のサラサラとした指通りなのに、このまとまり感。けしからん!ひっじょーに、けしからん!!!


「…やっぱり美味しい…」


ヲイ!しかもまた食べてたのかよ!!

私のもふもふ欲を返せ!

…あれ?私、もふもふ欲、食べられてたんだよね?減った感じなんてまったくしなかったけど…。

もしかして、私のもふもふ欲は無尽蔵なのか!?


「…また食べさせてくれるなら、大人しくしてる」


そうか、私はもふもふに関しては、とても強欲だったわけか…。いくら食べられても減らないとは、余程もふもふに飢えているんだな。


「…だから、君と繋がっていたい…」


「ふぇっ?」


何やら思考に集中していたら、おっそろしいこと言われたんだが?


「それは許すわけにはいかないな」


わけがわからないうちに、お兄ちゃんが割り込んできた。


「…どうして?」


「なんであろうと、ネマに害あるものを近づけるわけにはいかないからね」


「…僕はこの子たちといる。…この子たちの(あるじ)は彼女だ。…だから、僕の主にもなって?」


うーん、名前で縛っちゃった方が、何かあったときには対処しやすくなるんだろうけど…。

ぶっちゃけ、雫がいればある程度はわかると思うんだよね。雫に見張りをお願いして、悪さしそうになったら動きを封じてもらえばいいし。


「…だめ?」


かと言って、ダメな理由も見当たらないんだよなぁ。

欲を食べる魔物か…。うーん…。


「君はよくなら何でも食べるの?」


「…うん。特に何かに執着している者の欲は美味しい」


…これは使えるかもしれないな。

たとえば、中毒患者。薬物中毒にギャンブル中毒、アルコール中毒など、依存性と呼ばれるものにはただならぬ執着心があると思うのだ。

薬物やアルコールは一時的に体から排出することはできるが、その執着心までは断てない。

また、犯罪に手を染めた者に対しても、常習犯になら効くかもしれない。金への執着、性への執着、人を殺すという執着。

さらに、我が国が危機に陥ったとき、手助けとなる手段になるかもしれない。

あの王様がいてそんなことになるとは思えないが、ヴィだとあるかもしれないからな。


つまりは、治癒魔法でも治せない、依存や執着を食べてもらえば、更生できるってことだよね?


「そのしゅうちゃくを食べられるとどうなるの?」


「…興味がなくなる。…執着していたものが、その者にとって必要なものと感じなくなる」


………。

お前!私からもふもふを奪う気だったのか!!


「私はなくなってないよ?」


「…僕が食べつくせないほどあるから」


強欲でよかったわぁ。もふもふないと生きていけないもん。


「ってことは、生きたいってよくは食べつくせないのね?」


「…そうでもない。死にたがっているなら食べつくせる」


くはー。難しいな!

私みたいに、生と同じくらい執着していたら食べきれないってことでしょ?

お酒がないと生きていけないって人はアル中治らないってことか。


「…君が特別だと思う。…何かに守られているみたいだから」


「まもられてる?」


「…生きることよりも執着しているものない。…君は守られているから、欲がなくならない」


守られているね。神様かなぁ?神様だろうなぁ。


「そこの人も守られているけど、欲はなくなる。…だから特別じゃない」


お兄ちゃんが守られているとしたら、女神様にだろうね。

私が神様から特別な加護をもらっていたとしよう。きっとそれは、面白おかしくするためのものか、任務遂行に必要なものかのどちらかだ。

今回のものは、面白おかしくするためのように思える。


「…君は特別。…だから僕を繋いで」


ここまで熱烈アプローチされてしまっては、折れるしかないだろう。


「私がむかえにいくまでは、ここから出ないってやくそくまもれる?」


「…うん。…繋がったらわかる。…主の言葉には逆らえない」


名前をつけるにしても、色シリーズは使ってしまったしなぁ。

ラテン語で海のマレだと女の子っぽいよね。

瑠璃はいるから、ラピスラズリ?

ラピス…ラズリ…。どれもしっくりこないなぁ。

スピカと絡めて、アレオーンっていうのもなぁ。神話繋がりでグラニっていうのもあるけど…。うーん、悩む。

よし!ここはシンプルに(かい)でいいか!


「きまった!あなたは海よ」


「…カイ。…うん、繋がった」


海の額には白い紋章が浮かび上がった。


「海、雫たちをよろしくね」


「…もう、仲間。…だから守る」


どこか嬉しそうに海は言う。

やはり、淋しかったのかもしれない。大丈夫!これからは、雫と赤ちゃんたちがいるから、賑やかになるよ。


「雫も、海のことたのんだよ?」


「ぷぅぷぷぷっ!」


…雫にしたら、海も赤ちゃんたちと同じなのかもしれない。

ちゃんと育てとくって…。

まぁ、頼もしいお母さん?もいるなら心配ないだろう。




どうしてこうなったのか?

(かい)は予定ではケルピーとして、ネマの足になるはずだったんです。

それが、伝説級のレア魔物になってしまいました。どんなチートに育つのやら…。


そして、一気に愉快な魔物たちが増えました(笑)スライム31匹と海。

やってしまったぜw


補足:アレオーンはポセイドンとデーメーテールの間に生まれた馬です。デーメーテールは乙女座のモチーフとなったペルセポネの母親です。

グラニは北欧神話に登場する馬で、スレイプニルの血を引いているとされています。



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