いざ、海へ!!
明けましておめでとうございます。
ヴィに散々弄られながらも、村長さんのお家に戻ってきた。
お家の中は何かが焼ける香ばしい匂いがした。
-ぐぅぅぅぅ
私のお腹は大変正直である。
早く美味しいものを食べさせろと催促が煩い。
まぁ、私だけじゃなく、雫の栄養源でもあるので、たくさん食べないとね。
「自己主張が激しいな、お前のお腹は」
「せいちょうきだからいいんだもん!」
日々、すくすくと成長しているのだ!
たくさん遊び、たくさん食べ、たくさん寝る!!
これ大事!!
「お帰りなさいませ。昼食の準備がまもなく終わりますので、こちらでお茶でも召し上がってお待ちください」
先ほどと同じリビングに通され、お茶をすする。
うーん、横座りが慣れない。
足が痺れそうだ。
お兄ちゃんたちみたいに、片膝立てる方がいいなぁ。
そんなことを思っていると、村長さんと夫人が料理を運んできた。
海藻とレタスもどきのサラダに、干物、謎の魚のアクアパッツァ風、アラ汁っぽい汁物と、大変美味しそうだ。
すべて大皿で出されたのだが、一応毒味がされる。
ヴィは幼少より毒の耐性をつけているので、ある程度なら大丈夫なはずだ。
お兄ちゃんは女神様の加護持ちなので、毒は効きづらい。
私は雫がいるので問題なし!
あれ? 私が毒味した方が早かったんじゃね?
もし毒が入っていても、雫なら解毒できるし、成分分析もできるので、なんの毒かすぐわかる。
「…お前は一応公爵令嬢だぞ?毒味係をやらせられるわけないだろう。それに、彼らの仕事を奪うようなことはするな」
あぁ、それもそうだ。
毒味係な人たちは、子供の頃から毒の耐性をつけ王宮に上がる。
毒に反応する魔道具もあるらしいが、念には念を入れての毒味係だ。
毒の反応がわかるようにと、耐性も死なない程度にしかつけないとか。
そこまで王族に尽くしてくれている彼らの仕事を、私がいるからといってやらなくていいよってわけにはいかないもんね。
「ごめんなさい」
ここは素直に謝っておく。
謝るのはヴィではなく、毒味係と近衛騎士を兼任している騎士さんにだ。
彼はお気になさらずと笑って言ってくれたが、私の浅慮な発言で嫌な思いをさせてしまったかも…。申し訳ない。
「こちらの分は召し上がっていただいて大丈夫です」
まだ温かいうちに食べないと!!
毒味係からOKが出たので、いただきまーす!
サラダからと言いたいとこだが、まずは汁物に口をつける。
ずずずっと音を立てたいが、マナー的によろしくないので音を出さないよう気をつける。
味噌汁とか、ずずずって飲むのが美味しいのになぁ。
汁物は内臓も入っているのか、やや苦味を感じるがそれに勝る旨味が凄い。
脂が膜を張るほど出ているのに、くどくなく、ほろほろ崩れる白身はしっかりと味を吸っている。
和風な感じがまたいい。
あー美味い。
次はサラダにしよう。
レタスもどきのシャキシャキした食感と、海藻の独特な食感がよい!
野菜の甘みと海藻の塩気、ドレッシングの酸味、絶妙なバランスで食べるのが楽しいと思ってしまう。
謎の魚のアクアパッツァ風は、スープはあっさりしているのに、魚の身は濃厚という不思議な味がした。
日本では食べたことのない味に思える。
しいて言うなら玉子だろうか?まぁ、美味しければいいのだ!!
干物は想像通りの味である。
夫人がよそってくれた雑穀米が進む進む。
だが、元日本人としては醤油が恋しいな。
出された料理はあっという間になくなった。
騎士さんたちもよく食べるしな。
お兄ちゃんたちも成長期なので、見た目以上によく食べる。
つか、干物の食べ方がキレイすぎるだろ!?
日本人でもここまでキレイに食べられる人、そんなにいないんじゃないのか?
食後のお茶を飲んで、縁側でお昼寝でもしたいところだが、村長さんが案内役を連れてきた。
これまた厳ついおっさんだった。
漁師というよりは海賊って言われた方が納得するような強面だ。
「彼は魔物に遭遇したこともありますし、山の方にも詳しいので存分に使ってやってください」
山??
レイティモ山のこと?
「レイティモ山には村の男は立ち入らないと聞いたのですが?」
「彼は漁師ではなく村唯一の狩人なのです」
村長さん曰く、漁村がゆえに動物の肉が手に入りづらいため、案内役の一族が漁ではなく狩りをしているのだとか。
漁師ではなく猟師でしたか。
それでも、海に出たりするので、操舵の腕もあるんだとか。
なるほど、それで真っ黒に焼けているのか。
「では、魔物が出るというガールの沖に行きたいのですが?」
「畏まりました。船を準備しますので、少々お待ちください。用意する船は彼だけでは無理ですので、他の者にも声をかけてまいります」
そう言って、村長さんたちは出ていった。
村長さんたちが戻ってくるまで、私たちは作戦会議だ。作戦会議といっても、ただ情報をまとめるだけだが。
「だが、実際に魔物を見てみないことには手を打つこともできないな」
「まものを見てわかるの?」
ぶっちゃけ、私は魔物に詳しくない。
たぶん、森鬼も森とかにいる魔物しか知らないと思う。
「俺も図鑑に載っているものしか知らないがな。わからなかったら冒険者組合に問い合わせてみるか」
なるほど。冒険者組合には古今東西、目撃された魔物の情報が集まっているってことか。
特徴さえつかめれば、ある程度は絞り込めそうだな。
あとは、誰が地上に残るのか決めた。緊急時の連絡要員だ。
近衛騎士から一名と王国騎士から一名。人選はそれぞれの責任者がしたので、能力的にも問題ないだろう。
ただ疑問は、いまだ姿を見たことのない王様の私兵だ。船に隠れるのか、別の船で行くのか。魔法を使って、船底にへばりつくとかだったら面白いのにね!
居残り組の二人はガールで待機するみたいだ。
双眼鏡みたいなやつで、私たちが乗る船を監視するんだとか。
そこはアナログだなと思ったが、遠見や千里眼系の魔法はないとのこと。水の魔法で虫メガネ程度の拡大ならできるらしい。
レンズや光学現象の問題かな?光の魔法はないからねぇ。
そうこうしているうちに、準備ができたようだ。
村長さんのあとについていくと、お家の裏にある桟橋にそこそこ大きな船が係留してあった。
先ほどは気にならなかったのだが、帆は必要ないのだろうか?
まさか、人力で漕ぐのか??
船の構造としては、エンジン部分を除き、あちらの世界の小型船舶に似ている。素材は木材だが、中央部分に幌があり、中は休憩や食事ができるよう座椅子に似たものが置かれていた。船の後方部には格納スペースとでも言えばいいのか、獲った魚を入れる穴と漁具をしまう穴がある。
そして、船体の周りにある防舷物。これは船体が桟橋や岸などに接触しないようにするクッション的なものなのだが、そんなものまであるのかと感心してしまった。
で、肝心の動力はというと…。
もちろん、魔法でした!
仕組みは意外と簡単。海水を勢いよく発射するのだ!
船底に海水を取り込むタンクのようなものがあって、その海水をポンプみたいに舵の部分に送り込む。
タンクの海水はバラストの役割もあり、常に海水が供給される。舵に送り込む勢いも魔力量の調整で行える。
つまり、水道と蛇口みたいなものかな。
ただ、あちらの世界と違うのが、舵の方向が360度可能なところだ。
ヤバい、テンション上がってきたー!!
某沈没船ごっことかやっちゃダメだろうか?
…うん。ダメだな。なんかフラグが立ちそうだからやめておこう。本当に沈没したら困るし…。
さて、船首に行くか、船尾に行くか。
海を楽しむなら船首だが、船を楽しむなら船尾だ。
…ここは船首にしよう!
なんてったって海だし!!
班長さんにエスコートしてもらいながら、板でできた梯子を登る。
そして、我先にと舳先にへばりつく。
「ネマ、危ないよ?」
「ここがいいの!!」
「ったく。海に落ちないよう、命綱でもつけるか?」
「そうだね。ネマのはしゃぎようだと、そうした方がいいかも」
ということで、生まれて二度目の命綱。
ロープの先は森鬼が握っている。
なんてこった!!
ペットと飼い主みたいな図になってるぞ!!
立場逆転してるじゃん…。
ちょっと凹む。でも、それで海が堪能できるなら、涙をのんで受け入れようじゃないか!!
あー、海の青さが目に染みる…。
…って、まだ出発してなかった。
では、気を取り直して!
「しゅっこー!!!」
漁師さんたちは私の掛け声に合わせて、「バージ!」と叫ぶ。
ヨーソローやアイアイサーと同じ意味合いの掛け声だ。
自分が船長になったようで、大変気持ちいい!!
ゆっくりと動き出した船は、穏やかな入り江を進んでいく。
そして海に出ると、波の衝撃が船を揺らす。
おぉぉぉ!
舳先は一番波の影響を受けるので、上下に激しく揺れている。
波を乗り越える、ザパンって音と衝撃がアトラクションのようでめちゃめちゃ楽しい。
入り江の外に出たので、船はスピードを上げる。体感的には、あちらの世界で乗った釣り船と同じくらいか?もうちょっと速くてもいいのだが。
顔にかかる波飛沫。髪を巻き上げる程の風。
やっぱり船はこうでないとね!
しかし、楽しい時間はあっという間にすぎるものなのだった。
入り江からガールが近いこともあり、スピードを出していたのは十分もなかったように思う。
スピードを緩め、大きく旋回を始める。
ぐぬぬぅぅぅ。
まだ楽しみたかったのにぃぃぃ。
それでも舳先にへばりついていると、少し離れたところで魚が跳ねた。
そりゃあもう見事な跳躍で、大物な魚だった。
口の部分がカジキのように鋭くとんがっていて、背びれの棘条も武器に使えるんじゃないかってくらい太くて鋭い。
全体的にトゲトゲした印象だな。
「今のは?」
「あれはガードラですね。まだ小ぶりですが」
案内役さんが教えてくれた。
あれで小ぶりだと!?
体の部分だけでも、ゆうに2メートルは超えているんじゃなかろうか?
ただ、ガレアで食べたガードラ料理は非常に美味だった。できればまた食べたい。
一時間くらい旋回を続けてみたものの、なんにも起きなかったので、ポイントを変えてみることにした。
ガールの反対側とでも言えばいいのか、入り江から見えなかった方に行ってみる。
近くで見るガールは、ほぼ垂直な断崖絶壁だった。
地殻変動でもあったのだろうか?
そもそも、この世界は地球と同じような構造なのだろうか?
いつか機会があったら、神様に聞いてみるとしよう。
反対側のガールには細い滝が落ちていた。
上の方からではなく、崖の途中から水が噴き出している。
山からの地下水脈とかかもしれないな。
にしても、これぞ絶景!って感じだ。
滝をぼへーっと見ていたら、どこからともなく、ザバーって巨大な物体が現れた!
岩?
岩のようでもあるが、表面は海藻や苔に覆われていて、緑とも茶色とも言い難い微妙な色合いになっている。
「トトスが上がってくるなら、今日は魔物は出ないでしょう」
案内役さんではなく、一緒にきていた漁師さんが言う。
「…アレっていきものなの!?」
びっくりしすぎて、ちょっと声が裏返ってしまった。
「トトスといって、貝ですよ」
はいぃぃ??
あんな大きさで、貝だと!!
「トトスは外敵に敏感なので、海面に上がってきたということは、ここら辺一帯は安全ということです」
はぁー。私は未だにあちらの常識に囚われていたのか。
お兄ちゃんたちも驚きはしたものの、貝と言われて納得していたしな。
「トトスも小さいうちは美味しいんですよ」
えっ!食べられるの!?
マジで!!
まさかすぎて、二度見三度見してしまった。
5メートル超えの貝もビックリだが、それを食べようと思った人間にもビックリですよ。
その後はトトスと滝を眺めただけで終わった。
今日は収穫なしだ。
そのまんま帰るのもアレなので、ちょっとばかし釣りをすることに。
お兄ちゃんもヴィも釣りをしたことないと言ったから、せっかく海にいるんだし、時間もあることだし、釣りしようぜって言ったら二人が乗り気になった。
漁師さんにいろいろと教わりながら、糸を垂らすこと一時間。
私の釣果はウッハウハである。
前世でも、これくらい釣りたかったっていうくらい釣れた。
具体的には大小合わせて三十匹ほど。大きいものでは1メートルはあったので、私だけでは釣り上げられず、漁師さんたちが手伝ってくれた。
お兄ちゃんたちの釣果はというと、ボウズにはならずにすんだようだ。
大物はお土産にして、今日の夕飯のおかずにしてもらおう。
数匹、船の上で捌いてもらい、その場で食べる!!
すぐに出されたのが刺身だ。
こちらでは生で食べる習慣があるようだが、お兄ちゃんやヴィは顔が引きつっていた。
そういえば、お家では生魚が出てきたことはなかったな。
「…これを食べるのか?」
「新鮮であれば、生で食べられる魚ですので」
案内役さんがそう言って促すが、なかなか手をつけようとしない。
ではでは、私は遠慮なく。
「いただきますっ!」
うっまーい!!
新鮮なおかげか、プリプリな歯応えがあって、魚の味と醤油代わりのサーダソースがマッチしていて、いくらでも食べられちゃう!
ん?なんか雫が激しく反応しているんだが??
まさか、毒でもあるのか!?
…って思ったら、栄養価が高いからもっとちょうだいと言ってきた。
雫も気に入ったようなので、白にも与えてみた。
白は刺身を取り込むと、体をプルプルと振るわせ始めた。
あまりの美味しさに感動しているようだ。
ノックスとグラーティアも欲しそうにしていたので、あげてみた。
ガッツガツという勢いで食べる二匹。
お前ら、食いしん坊キャラだったっけ?
「そんなに美味いのか?」
私のリアクションを見てから、ヴィもおそるおそる刺身を口にした。
ヲイ、私は実験台か?
「っ!確かにこれは美味いな」
ヴィとほぼ同時にお兄ちゃんも口にする。
「獲れたてが、こんなに美味しいとは…」
そうだろう、そうだろう。
魚はどんな調理方法でも美味しいけど、刺身は新鮮なうちが一番だからね!
数種類の刺身を堪能したら、次は鍋が出てきた。
なーべー!!!
漁師鍋だ漁師鍋!!
グツグツと煮立つ鍋の中には、様々な魚に貝、海老っぽい何かと、つみれ、根菜が入っていた。
あぁ、よだれが出てしまう。じゅるり。
よそってもらったお椀を大事に抱え、まずは汁を一口。
んんっ!!
もしかして、お味噌?
いや、味噌にしては風味が違うか??
「このあじつけはなんですか?」
「サーダのユベだよ」
「ユベ??」
「王都じゃ出回ってないかもしれませんね。サーダの実を乾燥させてから煮たものを、石筒に入れるとできる調味料です」
うーん??
発酵なのかな?謎だ…。
「サーダ以外にも、穀物のものもありますよ」
…ひょっとして、サーダって大豆的な何かだったのか?
日本における大豆のように、この世界での万能食材ってこと??
………よし、難しいことを考えるのはやめよう!
今は食うべし!!
漁師鍋を堪能し、村長さんのお家に戻ってからも夕飯を満喫し、今日はとにかく食べてばかりの一日だったな。
…太らないよね?
雫、頼んだよ!!
今日も朝から海に出航だ。
ただ見ているだけなのもつまらないので、釣りをして時間潰し。
ただ、あまりにも釣れすぎるので、キャッチ&リリースしている。
もしかして、神様からもらった力の影響なのかと気づくには遅かった…。
ヴィが拗ねたのだ。
いい歳こいて、拗ねるなよー。
最初はネマにできて俺にできないわけがないとかなんとか言っていたが、今はラース君に何か話しかけている。
ラース君、頑張って慰めてやってくれ。
ついでに言うなら、これは不可抗力であって、私のせいではない!
めんどうくさいヴィはほっといて、魔物を探し続けるも、いまだに現れない。
こう暇だと、お昼寝したくなるよね。
………グゥ。
うさぎさんを抱き枕にしてお昼寝していたら、船の縁にゴンっと頭をぶつけた。
痛い…。
目が覚めたので周りを見回すと、漁師さんたちが慌ただしく動き回っていた。
ついに現れたのか!!
案内役さんが指差す方向に霧のようなものが立ち込めていた。
「あれだ!!」
一人の漁師さんが叫ぶ。
ようやくご対面が叶いそうだ。
霧の方向に舵を取り、徐々に距離をつめていく。
霧の中に入ると、瞬く間に視界が悪くなった。
相変わらず、舳先にへばりついている私だが、すでにお兄ちゃんたちの姿は見えない。
命綱だけでは危険と判断したのか、背後に森鬼が控えている。
霧の中に何かがいる。
それはわかるのだが、姿を認識することができない。
「森鬼、いっしゅんだけでもきりをはらせないかな?」
「虫はできると張り切っているな」
だから、いい加減その虫呼びはやめてあげようよ。精霊が可哀想だよ!
「じゃあ、せーれーさんにおねがいして」
「主がお望みだ。思いっきりやれ」
森鬼がそう言ったとたん、船の周りを暴風が襲った。
船自体には被害はない。
しかし、風の暴力ともいえるソレは、あっという間に霧をどこかにやってしまった。
お、恐るべし風の精霊!!
霧が晴れると、海の上には謎の生物、いや魔物か、がいた。
が、魔物でいいのだろうか?
どう見ても男の子のように見えるのだが?
「森鬼、あれなに?」
「魚ではないのか?」
ん?森鬼には魚に見えているのか?
んん??
私が首を捻っていると、またもや霧が立ち込め出した。
謎の魔物の姿が見えなくなると、霧も徐々に消えていく。
舳先から離れ、お兄ちゃんたちのもとへ行き、どんな姿に見えたのか聞いてみた。
「僕は人魚だと思ったけど、ネマは違ったの?」
「私はおとこの子に見えたの」
「俺には馬のようだったが?」
他にも漁師さんたちに聞いて見ても、美しい女性だったとか、おぞましい触手がある化け物だったとか、誰一人として同じ姿を見ていなかった。
謎が深まるだけ深まったが、とりあえず陸地に戻ることにした。
岬から監視していた二人にはどう見えたのか。
姿形を見る者によって変える、そんな魔物が本当にいるのか、いろいろと調べないといけないからね。
村長さんのお家に戻り、魔物について話し合う。
騎士さんたちにも、どんな姿に見えたのか、丁寧に聞き出していく。
ガールから見ていた二人は、蛇のような魔物に見えたと言い、巨大な鳥に見えたと言った。
これまた被らない。
他の騎士さんたちも、ワイバーンみたいな飛竜だったり、目がたくさんついたぶよぶよした化け物、中にはボロボロに朽ちた船と言った人もいた。
人に見えたのは極少数。私とお兄ちゃんの人魚、漁師さんの美しい女性のみ。
他は比較的大きな化け物が多かった。
謎の魔物は、幻惑の魔法を使えるということか?
しかし、ここで問題になってくるのが幻惑の魔法だ。
幻を見せることから、光の領域にも思えるが、無属性魔法である。
人間が使うには、無属性に特化していなければならない。
また、国によっては禁忌として使用することを禁止しているところもある。
ガシェ王国は禁止している方だ。
禁忌とは魅了や洗脳といった精神に作用する魔法、死霊魔法など、倫理的によろしくない魔法のことである。
これらは、偶然に発見された魔法なのだが、死霊魔法に至っては精霊さんたちが黙っていない。
死とは神様や女神様の領分なので、それを侵すものはなんであろうと許さない。
死霊魔法を発見した魔術師は悪用しなかったということで堕落者の烙印を押されただけですんだが、悪用した者は消し去られるらしい。
で、幻惑も精神に作用する魔法なので禁忌なのだが、魔物が使えるとなると…どうなるんだ?
「見る者によって姿形が違う…。一見、幻惑の魔法に思えるけど、本当に幻惑なのかな?」
「どういうことだ?」
「たとえば、コボルトたちが隠れていた森を思い出してほしい。知覚系の魔法で上手く惑わされていただろう?今回も視覚に作用する魔法かもしれないよ?」
なるほど。
あの森では主様が上手く隠していたしな。
知覚系の魔法なら、風属性に特化しているヴィや風と水の上級のお兄ちゃんにはわからない。
漁師さんたちも、それぞれ風や水といった漁に使える属性の者たちばかりだった。
しかし、騎士さんたちの中には無属性もいるのだ。いろいろな便利魔法を見せてもらったので間違いない。
ということで、彼に聞いてみる。
「そういった知覚系の魔法は感じませんでした。無属性でもないように思います」
ますます謎が深まった。もう、わけがわからん!!
「ラース君や森鬼はなにもかんじなかった?」
「グルルル」
「何!?」
ラース君の声にヴィが反応した。
通訳してよ!
「ラースは風の力だと言っている」
はて?
風の力で幻を見せることができるの?
「そういえば、虫が歌がどうとか言っていたな」
歌ぁ!?
森鬼の方はなぞなぞか?
「風…歌…。そして、海…。当てはまる魔物があるにはある」
ヴィがやけに考え込んで、呟いた一言。
「セイレーンだ」
ポンッ!!
あーね!!
船乗りを惑わす魔物として有名なセイレーンね!
条件にあってるような、あってないような?
あちらでは人魚だったり、鳥だったりするわけだが、美しい歌声で船乗りを惑わし、座礁とかさせちゃって食べちゃうってやつでしょ?
歌ってことは、まぁ風属性とも言えるが、幻を見せるのはどういった原理なんだ?
「うたでまぼろしが見えるの?」
すると、ラース君が何やら魔法を使い始めた。
不鮮明でわかりづらいが、小鳥のようなものが浮かんでいる。
「とり?」
「なるほどな」
ヴィ一人が納得顏である。
「うーん、リアかな?」
お兄ちゃんにはリアに見えたってことは、謎の魔物を見たときと同じ現象が起こってるってこと?
騎士さんたちにも聞く。
小さな毛玉のようなもの、蝶々、帽子などこれまた一つも合わない。
誰だ!ルノハークって言ったやつは!!◯キブリはやめろ!!
何はともあれ、これで風の魔法によるものっていうのは証明された。
「どうして、見えかたがちがうの?」
「そうだな、簡単に言えば、風を使って光の方向を変えて、錯覚を起こさせる」
「さっかく??」
「そうだ。本来のものが違うものに見えるようになる」
光と錯覚ねぇ。
魔法が絡むとよくわかんないや。
蜃気楼みたいなものかな?
でも、風だよ?水なら水蒸気や温度差とかで空気中の屈折率が…って、そうか!空気か!!
確かに、風でも温かい空気を運んだりできそうだ。
空気も風属性になるのか。ふむふむ。
「セイレーンだとして、どうしてセイレーンがここに来たのかな?」
魔物をセイレーンだと仮定して話を進めていくが、セイレーンの生息域はミューガ領が中心だ。綺麗な海や川を縄張りにするらしい。
ジグ村の海も綺麗ではあるが、今までセイレーンの話を漁師さんたちから聞いたことはない。
つまり、生息域ではなかったってことだと思う。
私たちだけで話していても答えは出ないので、村長さんと案内役さんに聞くことにした。
「セイレーンですか…」
「恐らくは」
「今まで、セイレーンなんて出たことはありませんでしたが…」
村長さんはそう答えたが、案内役さんは違っていた。
「セイレーンなら、たぶん山の洞窟に住み着いていますよ」
……なんですと!!!
まさかの山!?
「レイティモ山ですか?」
「えぇ。あの山が迷いの山と呼ばれている由縁でもあります。旅人が入るとセイレーンたちが惑わし、食われると。運よく逃げられた者が、美しい魔物がいたと言っていましたし」
それで、死者や行方不明者が出るってこと?
「貴方は見たことありますか?」
「いいえ。代々言われておりますので。山の水場には近づくなと」
つまりは、そんな昔からいたってことだが。
なぜ、今、海に出てきたのだろか?
案内役さんの話ぶりだと、ずっと山の水場を縄張りにしているようだが。
「明日、その水場を案内してもらえますか?」
「…祖父の言いつけを破るのは心苦しいですが、次期領主様の頼みとあれば…」
申し訳ないが、村のためと思って諦めてほしい。
その代わり、案内役さんはちゃんと守るから!森鬼が!!
というわけで、明日は山登りになりました!
私の食欲が反映されているのか、食べてばかりのネマでした(笑)
今はコンビニのプリンがマイブーム!