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戦いのあとは。

戦いというものが、これほどまでに(むご)たらしいものだとは思わなかった。

剣で切られ、斧で叩き潰され、飛び散る血が鮮やかで。

作りものじゃない、命と命のやり取り。


私が知っている戦いとは、所詮画面の向こう側だったんだ。作りものではないけれど、自分にとっては現実じゃない。

そして、武器と兵器の違い。

魔法とは違う圧倒的火力は、ボタン一つで何百という命を奪うもの。そして、ボタンを押した者はその瞬間を目の前で見ることはないのだろう。


私はただ、コボルトたちを見続けるしかなかった。

隣では妹さんが泣いている。

家族に等しい者が死んでいくのを見ているしかできないのは、想像を絶する苦しみだろう。

それでも、私は何もしてあげられない。

妹さんは私を恨むかもしれない。恨まれた方がいいと思うのは、逃げだろうか?


「あちらの前衛が下がり出したな…。過剰な攻撃は控えろ。防御に徹するんだ」


何やら動きがあったみたいだ。

視界の隅に、見慣れた金髪が見える。

お兄ちゃん、無事だった!

いくら内容を知っていても、巻き込まれないか心配だったんだけど、怪我どころか服すら汚れてないや。何か魔法使ったのかな?


「ラルフも動き出したか。森鬼、雷の用意を。コボルトたちは雷に備えて準備しろ。目と耳をやられるなよ。撤収の隙は一瞬しかないからな」


再び、討伐隊の動きが変わるのを今か今かと待つ。

説得が難航しているのか、お兄ちゃんの表情が険しいように思う。

時間にすると10分程度だったかもしれないが、身構えていたこちらにとっては、倍以上の時間に思えた。

風の精霊さんが届けてくれたお兄ちゃんの声。

撤退すると、ただ一言。

それに合わせて、赤のフラーダが前に出て、騎士たちを下げていく。

彼らが殿(しんがり)を務めるのか。

何度も剣を交えながらも、少しずつ後退していく。

ヴィも、彼らの動きをしっかりと把握して、雷を落とすタイミングを計っている。

なんとも言えない緊張感が辺りに漂う。

妹さんも感じ取ったのか、私の腕にしがみついてきた。

私も、妹さんの手をしっかりと握る。ちょっと手汗がアレだけど許しておくれ。


「今だ!」


咄嗟に目を瞑り、耳を塞ぐ。妹さんも耳をギューっと押さえ込んでいる。

妹さんの頭を庇うように伏せるが、それでも音の威力がハンパなかった。


バリバリバリっと空気を引き裂く音に、容赦ない光と電流のピリピリする感覚。

コボルトたちは無事だろうか?

落雷の衝撃から立ち直るのに少々時間を要した。


(あるじ)、行くぞ」


雷を落とした本人にはノーダメージ。ヴィもラース君のおかげか平気そうだ。

森鬼や草の氏たちに守られながら、撤収する。

そう、退却ではなく撤収なのだ。

元々、勝利は想定しておらず、移動することを目的とした戦いだった。

思っていた以上にコボルト側に被害を出してしまったが、それが討伐を打ち切る理由にもなるだろう。

移動する際に追撃があったのでは、コボルトは全滅してしまう恐れがある。

それを避けるための戦いだったのだ。

でも、彼らの死に様を見てしまうと、間違いだったと痛感した。

ヴィやお兄ちゃんたちに頭を下げてでも、戦わない道を選んだ方が、コボルトとの関係を円満に持っていけた気がする。

この戦いで、コボルト側にも何かしら反感を覚えたはずだ。


作戦通り、合流地点にはシシリーお姉さん率いる本隊と非戦闘組がいた。

そして、無事な草の氏たちに守られながら、戦闘組との合流地点に向かう。

戦闘不能にしてきた者たちは、その場に捨ててきた。目が覚めれば、魔法なりなんなりで縄を切ることもできるだろう。

獣使いと喧嘩相手は騎士さんたちが連れていった。今後どうなるかは調査官次第。動物たちのことだけは気にかけておこう。


お姉さんと合流した妹さんは安心したのか、泣き腫らしたまま寝てしまった。

他のコボルトたちはとても静かで、本来なら怪我人を乗せる予定の台車には、10を超える遺体が積まれていた。

おそらく、これだけではないだろう。

戦闘組の方も、遺体と一緒に待っているに違いない。

ただただ、葉を踏む音と防具が擦れる音だけが聞こえる。

しばらくして、戦闘組とも合流した。

これからは、ひたすら南西に向かって移動する。目的地は西のミューガ領との境にあるレイティモ山。標高は然程高くないが、地形が複雑で地元では迷いの山と呼ばれているとか。

毎年、行方不明者や死者を出すため、旅人も避けて通る魔のスポットなのだ!


そのレイティモ山へ出発する前に小休止。

その間に被害の確認と遺体をどうするか話し合う。

28匹が死に、11匹が欠損や障害が残る重傷を負った。ハンレイ先生たち治癒術師の力を持ってしても、治らないとのこと。

そして、遺体の中に武の氏長がいた。

他にも熟練した戦士たちが亡き者になった。

若い未熟なコボルトたちが窮地に陥ったところを救出するために犠牲になったらしい。

若いコボルトたちから、すすり泣きとも嗚咽とも取れる声がする。

多大な戦力ダウンだ。このまま進んで、本当に彼らは生き延びられるか?

ならば、私は今一度覚悟を決めよう。


「泣くのはやめなさい。死んだ者にたいしてしつれいよ」


「…っお前がっ!!!」


「えぇ。私がまねいたこと。だから、なおさら彼らをぼうとくするのはゆるさない!」


「親を!友を失って、悲しむことも悼むことも許さないと言うのか!!」


そうだ。だって、彼らはそんなことのために、命をかけたのではない!


「いたむなとは言わないわ。ただ、自分をあわれむのはやめなさい!自分がかわりになればよかった?彼らの方が生きのこるべきだった?そんなのみがってだと思わない?彼らがのぞんだのは、むれのみらいよ。命をかけて守った者たちがえがおであるようにと。そんな彼らにはじないよう、強く生きなさい!!」


悲しいときだけじゃなく、嬉しいときにも泣くと言うが、怒り心頭のときも泣けるらしい。

身を挺して誰かを守るなんて、そうそうできることではない。

それを自分を哀れむための材料なんかにされたくない。

自分が代わりに死ねばよかった?

助けた彼らの行為をむだにするつもりか?

そんなことのために彼らは死んだんじゃない!!


「私をうらみたいのなら、うらめばいい。私は彼らみたいに、大切なものを守るために、このむれを守るために強くなるわ!!」


脳味噌沸騰して支離滅裂なことを言っている気もするが、私はもっと早く気づかなければいけなかったのだ。

森鬼が私を(あるじ)と呼んだそのときに、私はゴブリンたちを守り導く者になったのだと。

コボルトをシアナ計画に勧誘したのなら、彼らを守らなければいけないと。

私が選んだ道は、人間で言うなら王の道。そして、魔物を民に選んだのだから茨の道。


「私も強くなる!!ネマ様といっしょに、群れを守る!!」


ぐはぁっ!

なんつー破壊力!!

いつの間に起きたのか、目を赤く腫らした幼気な美少女ケモミミつきが、決意固く声を張り上げるその姿。

心の中で吐血していいですか?


「…そうだな。いくら我らが嘆いたところで彼らは戻ってはこない。ならば、彼らが与えてくれた先を意義あるものにするべきだな」


そうお姉さんが呟く。

妹さんの頭を撫で、お姉さんは群れのみんなに頭を下げた。


「お嬢さんを救世主として群れに引き入れたのは私だ。彼女がお前たちの憎しみを背負うと言うのなら、私も共に背負おう」


そして、今度は私の方を向き告げる。


「お嬢さん、いや、ネマ様。ネマ様に頼ったのは、群れの長である私の判断だ。今もネマ様は救世主であると星は告げている。それゆえに(こいねが)う、我らを安寧へ導いてほしい」


「そのあんねいへのみちのりが、つらくかこくなものになるかもしれませんよ」


「我らは今までも幾たびの困難を乗り越えてきた。それも星の導きによって。その星がネマ様と共にある道を示している。ならば、星読みの巫女として、星を、ネマ様を信じるまで」


くぅ、そう来たか!


「おねーさんの気持ちはわかりました。では、むれのみなさんはそれでいいのですか?」


「自分はそれでいいと思う。癒しの氏だから言わせてもらうが、治癒魔法は万能ではない。生きとし生ける者、すべては死ぬ運命なんだ。あいつらは、それが今だっただけだ」


そんなことを言うハンレイ先生だが、顔には苦悩の色が浮かんでいる。

治癒魔法の限界と言うよりは、治癒術師(いしゃ)の限界を目の当たりにして悩んでいるのかもしれない。

治癒魔法自体は女神クレシオールの加護に左右される。だが、どの魔法を選び、どれくらいの魔力を注ぎ、どれほどの祈りを込めるのかは術師の判断と技術が必要になるらしい。

その判断を誤れば、効果は薄れたり、肝心の患部が治っていなかったりする。

治癒魔法とはたとえるなら手術みたいなもので、症状や原因を把握することでより効果を増す。

もちろん、全体的に治癒を行っても効果はあるが、その代わり魔力の消費が大きい。

すべて、お兄ちゃんからの聞きかじりではあるが、ハンレイ先生も自分たちの技術や魔力がもっとあれば、救えたかもしれないと思っていそうだ。


「猟なら(あやま)ち、戦いなら誉れ。それが狩猟の氏の死に様だ。オレが同じことになっても、周りにとやかく言われたくないな。いいんじゃないか?お嬢はあいつらの意志を引き継いでくれると言ってくれてるんだし」


彼は(ちから)の氏長。力とは腕力などパワーのことではなく、コボルトの戦力代表とも言える戦闘に長けた氏だ。氏を象徴する武器は剣。見た目はロットワイラーに近い。

地球産のロットワイラーと違って、かなりスタイリッシュな印象で、色も地球産が黒地に所々茶色なのに対して、焦げ茶に所々黒になっている。配色としてはマスティフに似ているのだが、マズルが潰れていないので、やはりロットワイラーが一番近いな。

四肢の先が黒なので、籠手やブーツと見間違えそう。麻呂眉も黒だと、キリリと凛々しい顔つきに見える。

ごー君とろく君のプリチー顔とは大違いだ。

総じて怖そうな雰囲気なのだが、垂れ耳がそれを緩和させている。


力の氏長が言うには、猟での死は力、技術、判断が未熟な自分のせい。戦いでの死は自分のすべてを出し切っても勝てない相手と戦い抜いた誉れなんだと。


「私も力のと同意見だ」


次に出てきたのはひょろ長いコボルトだった。ひょろ長い、うーん、縦に長い細マッチョ系?

濃い灰色のロングコートな毛並みに、レイピアのような細長い剣を持っている。

アフガンハウンドみたいに面長だが、彼らを貴族顔とするならこちらは騎士顔。つまり、犬としてはイケメンだ!

たぶん、種類はサルーキかな?


(ひらめ)きの氏長、トルフと申します。お嬢さん、我々も力になりますから、この群れをよろしくお願いいたします」


トルフさんが頭を下げると、力の氏長も倣った。


「申し遅れた。力の氏長、ゴヴァだ。俺からもお願いする」


周りのコボルトたちが騒めく。

なんかお姉さんを除いた実力者に認められたみたいな構図になっているが、まずどこから突っ込めばいいんだ!?


その後も、緑の氏長、匠の氏長、たたらの氏長など生活の氏も、私というかお姉さんを支持してくれた。

ほとんどの氏長が群れのためだからと賛成してくれたようだ。


結局、コボルトはそのままシアナ計画に参加する方針で固まった。

そして、遺体はどうするのかと言うと、コボルトたちが落ち着くまで、森の(ぬし)様に預かってもらおうってなった。

主様の管理なら、他の魔物や動物に荒らされることもないだろう。

引き取りに行くときには、遺骨となっているだろうから移送も簡単になる。

お世話になった挨拶もあるだろうし、コボルトたちは主様のところに立ち寄ることが決まった。


「ネマ様、妹はネマ様と共にあることを望んでいる。しかし、妹はまだ弱い。この道中に鍛えるので、ネマ様が必要になったら、妹を呼んでもらえないだろうか?」


お姉さんからとどめいただきました!

そして、私は閃いた!

戦闘力を持ち、我が家で侍女教育をしたら、最強のケモミミメイドが誕生するのではないかと。


「みなさんには言っていませんでしたが、私はきぞくのむすめです。私のそばにいるということは、人間の中でせいかつしなければなりません。それに、あるていどのれいぎさほうも学んでもらうことになりますが、それでも?」


「大丈夫だもん!私、ネマ様のため、みんなのためならがんばる!!」


妹さんならそう言うと思った。この子、こんなに素直で、この先騙されたりしないだろか?


「妹もこう言っている。その決意を評して、妹を成体として認めようと思っている。ネマ様、妹に名を授けてやってくれないか?」


「名はむれの長がつけるんじゃ…?」


「本来ならな。だが、妹は獣人だ。魔物と違って真名に縛られることもない。それに、この人だと思える主人に巡り会えるのは幸運なことだからな」


「うん!ネマ様に会えて幸せなの!」


ここまで懐かれるようなことしたっけ?これも神様からもらった能力のおかげなのか??

何はともあれ、同じ年頃の仲間ができるのは正直言ってとても嬉しい。女の子とくればなおさらだ。


「じゃあ…」


星狼(せいろう)族にちなんで、星に絡んだ名前にするか。

うーん、美少女に負けない名前となると…。

う?待てよ。日本語でだと、あんまりないかも。つか、昴しか思い浮かばない。あとは明星とか北斗とか?あれって中国からだっけ?

日本語にこだわる必要はないかも。ギリシャ神話からもらうってのもアリだな。


「スピカでどうかな?」


安直ではあるが春に輝く星だし、神話では諸説あるが、正義と天文の女神アストライアーや豊穣の女神デーメーテールの娘ペルセポネと考えると中々女の子らしい名前ではなかろうか。

ペルセポネみたいに、冥界の女王になられると困るが。


どうかなと聞いてみたものの、妹さんはパァァァという効果音がつきそうなほどの満面の笑みで、尻尾を千切れんばかりに振っていた。

気に入ってくれたようで何よりだ。


「じゃあ、スピカ。おねーさんのもとでしゅぎょーがんばるんだよ?」


「はい!早くネマ様に呼んでもらえるようになりますね!!」


この可愛さがたまらん!!

今からでもと言いたいとこだが、これ以上目立つのは得策ではい。

ただでさえ、森鬼がめっちゃ目立つと言うのに、滅びたと思われている星狼族の美少女を連れていけるわけがない。


すると、足もとからキューキューと何かを訴える鳴き声が聞こえた。


「ごー君、ろく君、どーしたの?」


つぶらな瞳で何かを一生懸命訴えているが、私には魔物言語はわからない。


「こら!5番目6番目、図々しいお願いしないの!!」


2匹のお姉ちゃんであるフィリアさんが2匹を回収しに来た。

フィリアさんに抱っこされると、2匹はガチでギャン鳴きし始めた。

何が起こっているんだ?


「悪いな。5番目と6番目がネマ様に名前を授けてもらいたいと駄々こねててな」


あー、魔物は縛られちゃうからなぁ。

別に、離れて暮らせないって訳じゃないんだが。鈴子や闘鬼(とうき)の例もあるし。

ここは群れの長に判断してもらおうではないか。


「おねーさん、どーしましょ?」


「そうだな、こちらとしては授けてもらえると有難いな。今まで人間に名を与えられた事例がないので、どう成長するか興味ある」


ありま。実験台にしちゃうのか!?

だが、群れに繋がりのある子がいた方が、緊急時は動き易いかも。少なくとも群れの位置は把握できるしな。

またもや、私のネーミングセンスが問われる。

ペンタグラムとヘキサグラムじゃ長いし、よし!ここも安直に行こう!!


「ごー君は星伍(せいご)、ろく君は陸星(りくせい)ね!」


そのまんまやん!ってツッコミは受けつけません。だって、この世界には意味がわかる人いないはずだし。

そもそも、日本ですら大字(だいじ)なんてあんまり使われてないし。


「セーゴにリクセーか。よかったな!」


お約束の紋章が…浮かばなかった。ひょっとして、毛で隠れてる?

2匹のおでこを調べると、地肌に何やら白い部分が。地肌の色と同化して、非常にわかりにくいが、一応あるみたいだ。

雫や(はく)のときと違って、繋がった感はしないのだが。やはり、雫が寄生しているかの違いだろう。


なんか、着々と魔物の仲間が増えているが、本当にいいのだろうか?

星伍と陸星はハイコボルトになったら連れていくことはできないだろうし。いや、草の氏だがら隠れてもらえばいいのか!

ま、しばらくは2匹も群れで修行だけど。


「星伍と陸星も、スピカに負けないよう、強くなるんだよ?」


「「ワンッ!!」」


揃って元気なお返事いただきました!


「では、みなさん、気をつけて。私たちもやることを終えたらすぐにごうりゅーしますから」


コボルトたちとは、一旦ここでお別れだ。

私たちは明日、再びマノア街道を進み、ガレアと言う町を目指す。そこで一泊して、ダーシュレと言う街で転移魔法を使い、オスフェ領南西部で一番大きな街のフォーべに行くことになっている。

一応、出発は明日の昼になってはいるが、ヒールラン次第では1日延長もありえるとのことだった。


「ゴヴァさん、トルフさん、たいへんだと思いますが、みんなのこと守ってくださいね」


「「お任せください」」


コボルトのみんなに手を振って別れると、私たちはレニスへ急いだ。

バレないうちに、シレッと部屋に戻っていないと。

私は森鬼に抱えられ、ヴィはラース君に乗って、近衛騎士たちは走る!

軽鎧で走れるもんなんだね。まぁ、鍛え方が違うのか。


なんとかレニスに戻ってこれたが、チラ見した広場には冒険者と騎士団が集まっていた。

作っておいた抜け穴から屋敷に戻ると、部屋にはヒールランがいた。

だからどうやって入ってくるんだお前は!!


「ご無事で何よりです」


「ここにいるってことは、ヒールランの方も何かつかめたの?」


「こちらを」


そう言って、ヒールランがヴィに渡したものは書類だった。


「発注書と納品書と使用記録です。一巡の始めの発注と納品は合っているのですが、その後の追加発注は納品書があるのに、現物はありません。使用記録にも改ざんの形跡がありました」


ふむ、つまりは架空請求か?使用数を改ざんすることによって、在庫の辻褄を合わせていると。ってことはだ、商会もグルで、騎士団の中にも関わっている人数は多そうだな。


「ご苦労だったな。とりあえずは、この書類を証拠に調査をしよう。急ぎ、王都から調査官を派遣してもらおう」


「ヴィがつかまえないの?」


王様からの勅命で、ヴィには逮捕権がある。

それなのに、調査官に任せるのはなぜなのか?


「まぁ、ここで時間を食いたくないのが本音だな。あとは、これ以外にもいろいろやってそうだから、しっかりと調べて罪を明確にした方がいいだろう?おそらく、こいつの他にも釣れると思うぞ」


なるほど。芋づる式に一網打尽にしようってことか。

まぁ、何はともあれ、この件はヴィに一任しているわけだから、好きにしてくれ。


ヴィとヒールランが書類とにらめっこしていると、お兄ちゃんが戻ってきた。


「おにー様、おかえりなさい!!」


無事で何より。

お兄ちゃんに抱っこをねだると、嬉しそうに抱き上げてくれた。


「ただいま、ネマ。怪我はしなかったかい?」


「うん!みんなが守ってくれたからだいじょーぶ」


お兄ちゃんは私を抱きかかえたまま、ヴィの側まで行く。


「ヴィルもお疲れ。このあと、広場で慰労会をやるらしいから、参加よろしくね」


「あぁ、それは構わない。そちらの方に死者は出なかったか?」


「とりあえずはね。未熟な治癒術師(いしゃ)のせいで、障害が残った者もいるが、僕があとで治癒し直しておくよ」


お兄ちゃんは今日のことをヴィに報告した。

罠は効率良く決まったが、その後の赤のフラーダを抑えきれなかったことがコボルトの被害に繋がったこと。

やはり、熊の獣人を無力化できなかったのがネックだったようだ。


「俺もまだまだだな」


今度は反省会みたいな感じで話が進んでいるが、私はいつまで放置プレイされていればいいんだろう?

いい加減淋しいので、話をぶった切るか?


「おにー様、いろーかいって何するの?」


「お疲れって、みんなでご飯食べて、お酒を飲むんだよ」


「私も行きたい!!」


さすがにお酒は無理だろうが、美味しいご飯を食べたい!!


「うーん、僕かヴィルの側に必ずいるって約束できるかな?」


「もちろん!」


お兄ちゃんとお姉ちゃんとの約束は破ったことないよ!

パパンとの約束はたまに破ってしまうけど。


「一応、明日には立つから、夜更かしは駄目だよ?」


「はーい!」


基本夜更かしはしない。

たまに、極たまに、ソルとお出かけするくらいだ。見つかったときのパパンとママンのダブル説教が恐ろしすぎたので、もうやらない…かもしれない。




ハワイ帰りの向日葵です!


一歩だけですが、ネマは成長したようです。

名を与えた魔物が増えてしまいましたが、ちゃんと今後も活躍する予定です。


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