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作戦会議をしよう!



そして翌朝…。

ヒールランが帰ってこなかったんだけど。

ヒールランに付けている精霊さんたちに、所在を確認したところ、スラムのボロっちぃ宿に隠れていると教えてもらった。なぜそんな場所にいるのかは謎だが、放っておいても大丈夫かな?


あと、パパンから手紙が届いた。

ゴーシュじーちゃんの委任状も一緒に。

どれどれ…。

…………この国、大丈夫かな?


パパンからの手紙には、問題の隊長さんの身辺調査的な内容と、お姉ちゃんが合流するからねーっていう報告が。

オスフェ3兄妹が揃うのか…。カオスになる予感。


ゴーシュじーちゃんの委任状の方は、じーちゃんらしい内容だった。

要約すると、ヴィがある調査やってるから、王国騎士団は部所、階級関係なくヴィの命令に従えよ!

で、問題は最後の一枚。


王国騎士団の特別監査を実施するので、ヴィに逮捕権を一時譲渡すると書いてある勅命。

そう、勅命である。王様からの!

お手紙には、国内で一斉にやるので、他のところに負けないようにと叱咤激励と、ヴィについてきた監視役も好きに使っていいと書いてあった。

不正を発見するのに勝ち負けとかあるのかね?

というかさ、それを今のタイミングでやっちゃう!?

いや、待てよ…。

これから先、パパンたち国の中枢は魔物やルノハークの対応に時間を割かなければならない。

魔物に対して前線で動く騎士団に、マイナス要素があっては足枷にしかならないだろう。

つまり、いざというときに面倒臭くならないよう、今のうちに叩き出そう作戦か!!


「おとー様はほんきでルノハークをやっつける気ですね!」


本気と書いてマジと読む。うん、今パパンの目は輝いているに違いない!

ならば、手伝うよ!ヒールランが!!


「どうしてそう思ったの?」


お兄ちゃんが聞いてきたので、自分なりの推察を言った。


「おー様もおも…じゅーよーだと思ったから、ヴィにまかせたんじゃないのかな?」


「お前、面白そうって言いそうになったな?」


そんなことはあるが、素直に言ってもイジられるだけなのでシラを切る。


「ちがうもん!でも、これでヴィもさいごまでいっしょにいられるよね?」


ヴィも最後まで私たちと行動する大義名分ができてよかったじゃないか。

しっかりと見て回らないといけない地域は本職の監査官たちがやるだろうし、王様的には帝王学の一環も兼ねているんだろうけど。

まさに一石二鳥!


「っち。逃げたな。まぁいい。監査の結果さえ出せば、しばらく帰らなくても文句は言われないだろう」


こわっ!王子のくせに舌打ちしたよ、この人!!


「じゃあ、今日も森に行ってみよー!!」


実は昨日帰ると、パーゼス侯爵から心配なので街から出ないでほしいと言われたのだ。

侯爵は本当に心配してくれているのが伝わってきたので心苦しかったのだが、タヌキな隊長さんが味方してくれた。

どうも、私たちに街にいてほしくないみたいだね。言葉が嘘くさい感じで、久しぶりにヴィの作り笑いが出てた。

お兄ちゃんの笑顔と違って、こう背筋がゾワゾワするからやめてほしい。



今日は精霊さんがコボルトの群れまで案内してくれるようだ。

ラース君を先頭にして、森の中を進みつつ、森鬼に魔蟲を狩ってもらい、それでも昨日の半分以下の時間で着いた。


「こんにちわー!」


コボルトの群れの広場に来ると、弾丸が飛んできた。

弾丸と言っても、コロコロという擬音が当てはまる様なやつだ。

ポスッと音と共にお腹に軽い衝撃がかかる。


「キャンキャンッ!!」


尻尾を千切れんばかりに振っているのは、昨日保護したおちびさんだ。

そうかそうか。私に会えてそんなに嬉しいのか!

しかし、視線が森鬼が担いでいる魔蟲に行っているのは()せぬ。

ご飯か!ご飯には勝てぬのか!!


他のコボルトたちも、また来たのかぁとのん気な様子。

わらわらと森鬼…が持っている魔蟲に群がってくる。

わかったよ…。


「ごはんにするからてつだってねー」


待ってましたとばかりに、剣士なコボルトたちが魔蟲を解体していく。

魔術師なコボルトたちはキャンプファイヤーかとツッコミたくなる焚き火を準備し始めた。

火の魔術師が火を点けると、風の魔術師が火種に酸素を送りつつ、煙を分散させる。火事にならないよう、水の魔術師たちも待機していた。

素晴らしいコンビネーションだ。

拳闘士なコボルトたちが、解体された魔蟲の肉を串に刺し、キャンプファイヤーの周りにセットしていく。


そんな彼らの様子を観察していて、コボルトとハイコボルトの違いがわかってきた。

犬種によって大きさが違う彼らだが、ハイコボルトになるとさらに一回り大きい。ぶっちゃけ、超大型犬のハイコボルトは二足歩行すると2メートル近い。

セントバーナードなハイコボルトは垂れ耳じゃなければ熊みたいだ。

セントバーナードは緑の氏で、農業的開墾が得意なんだって。

一番わかりやすいのは、ハイコボルトたちはラーシア語をしゃべっていたことだ。

コボルトは犬の鳴き声なのに、どうしてハイコボルトになるとラーシア語がしゃべれるようになるのか。

鈴子はゴブリンだけどラーシア語がしゃべれたし、森鬼に確認に行かせたゴブリンの群れではホブゴブリンがいたがしゃべれはしなかった。

まさかとは思うが、神様の気分次第とかではないだろうな。


さて、肉祭りが盛り上がっている中、私はやっともふもこなコボルトに接触することができた。

そのきっかけを作ってくれたのはおちびさんだったが。


もふもこな彼らは癒しの氏で、星読みの氏に次いで尊敬されている氏らしい。

治癒魔法が使える治癒術師(いしゃ)ということもあり、コボルトたちからの信頼は厚いようだ。

癒しの氏のすべてが治癒魔法を使えるわけではないみたいだが、専門的な治癒術(医術)を身につけている者もいるらしい。

なんにせよ、女神クレシオールはもふもこがお気に入りなようだ。

お兄ちゃんのような正統派王子様や清純派美少女が好みだと思っていたんだが…。

神様と違って、女神様とは仲良くできそうだな!


「草の末っ子を助けてくれてありがとうな」


声からするとまだ青年な感じのもふもこが話しかけてくれた。


「草?」


末っ子ってところからしても、おちびさんのことだとわかるが、なぜに草?


「お嬢さんが助けたコボルトは、草の氏長(うじおさ)の末っ子だ」


お兄さん?説明になっているようで、まったく説明になってません。


「草のうじはどんなコボルトなのですか?うじおさはほしよみのみこ様よりえらいのですか?」


氏長については予想はつくが、ちゃんと質問しておいた方がいいだろう。


「すまんすまん。お嬢さんにはわからない言葉だったな」


「私はネフェルティマ。ネマってよんでください」


このままではなぁなぁで会話が進みそうだったので、自己紹介をしてみた。

でないと、いつまでももふもこって呼ぶぞ!


「重ね重ね失礼した。癒しの氏長の子、ハンレイと言う」


「なまえもち!?」


ちょっとビックリ。

もしかして、しゃべれるのは名前があるのも関係したりするのか?

森鬼が名前があれば世界に個として認識される、みたいなこと言ってたしな。

いや、グラーティアはしゃべれないから違うのか?

神様よ、そこら辺を教えておくれ。なんか無性に気になるんだよね。


「お嬢さんは名持ちの意味を知っているのかい?」


「森鬼におしえてもらったけど、なまえもちにははじめて会いました」


森鬼もグラーティアも私が名付け親だし、グラーティアのお母さんは会話どころじゃなかったし。


「そのシンキって言うのが名持ちじゃないのか?」


「森鬼は私がつけたの。私、こう見えてもゴブリンのおさなのよ!」


よく忘れるけど、私ってば森鬼の群れのボスだった。

てか、さっきから話が脱線しまくってるな。


「それより、草のうじってどんなことがとくいなんですか?」


「衝撃的な発言をしたのに、そこに戻るのか!?」


「なりゆきでおさにされちゃったんです。ハンレイさん、コボルトのことたくさんおしえてください!」


そうして、ハンレイ先生によるコボルト生態教室が開催されることになった。

生徒は私とお兄ちゃんとヴィ。

森鬼と白は他のコボルトたちと遊んでいたので除外で。


「コボルトの氏は基本的に二つにわけられる。狩猟の氏と生活の氏だ。狩猟の氏は武器の扱いや身体能力に長けていて、生活の氏は生産や補助の能力に長けている」


氏同士の物々交換で、お互いの苦手な分野を補うんだって。


「コボルトは成体になれば二足歩行ができるようになる。子供のころは筋力が足りないので、四足生活で肩や脚の筋肉を鍛える」


ハンレイ先生は暇していたコボルトを捕まえ、二足歩行に必要な筋肉や関節の駆動域などしっかりと教えてくれた。

まぁ、私からしたらファンタジーの一言に尽きるのだが。

触らせてもらった感じだと、地球産の犬に比べて関節が太いように思う。

そして、こちらの犬系の動物とは筋肉のつき方がだいぶ違う。運動量の多い獣騎隊の子たちと比べても、コボルトの方が筋骨隆々だ。

ハンレイ先生の毛並みはいい感じにもふもこでした!

表面の毛はディーに似た、ふわっとさらっとした毛並み。指を奥にやると、上質なぬいぐるみのようなもこもこした毛並みがあった。密度の高いアンダーコートはダメージも少ないおかげか、肌触りが大変良い。ぎゅっとしたら、気持ちいいんだろうなぁ。こんなぬいぐるみ欲しいなぁ。


「おにー様!ハンレイ先生のぬいぐるみをつくりましょ!!」


「いきなりどうしたの?」


「ハンレイ先生をさわってみればわかるよ!このかんしょくをさいげんできれば、ぬいぐるみはだいにんきまちがいなし!!」


お兄ちゃんのチート魔法でどーにかできない?

女神様がお気に入りにする理由もたぶんこれだと思う。


「さすがにそれはないだろう」


ハンレイ先生は否定するが、お兄ちゃんとヴィは顔つきが変わった。


「確かに、これは今までにない感触だな」


「うん。でも、再現は難しいかもしれないね」


「この毛を刈って、『構築』を使えばやれそうじゃないか?密度の調整は必要だろうが…」


「それだと、生地のようにはならないよね?『成形』で生地になればいいけど」


帰ったら、本格的に魔法の勉強しよ。

お兄ちゃんたちがなんの話をしているのかさっぱりわかんない。

でも、ぬいぐるみで再現できたら、シアナ計画の資金にしよう!


「時間はかかるかもしれないけど、やってみようか?カーナが来たら、可能な魔法構造が見つかるかもしれないしね」


魔法構造とは、魔法の根本。建物だと設計図、料理だとレシピに当たる。

この世界には詠唱魔法と文様魔法の二種類あるが、単式魔法と複式魔法の二つにも分類できる。

まぁ、文様魔法は高度な魔法を魔法陣を使って行うものなので、すべて複式魔法になるんだけど。

詠唱魔法では、初級魔法の半数近くが単式魔法だ。単式魔法とは神様が精霊に与えし力と考えられていて、精霊が自然現象として使っているものとされている。精霊自体も、(くらい)が上がれば起こせる現象の威力が大きくなるので、現象を重ねて、新たな現象を作っているらしい。

ただ、精霊のことはほとんどわかっていないので、仮定でしかない。

今わかっているだけでも数千の単式魔法があるらしい。

たとえば、『火』は単式で、『弾ける火』は無属性の『弾く』と火属性『火』の複式魔法となる。

複数の単式魔法を一つの複式魔法にするためには、矛盾する要素を除き、威力を安定させる順番を見極めなければならない。

単式魔法には精霊文字が決められているので、一度文字にして、火と水といった相殺する要素や弱い強いといった矛盾する要素を取り除く。

精霊属性は二つ以上連続して繋げることができないので、状態を現す無属性魔法を組み合わせる。

これが魔法構造となる。

ちなみに、新しく作られる魔法のほとんどが無属性魔法と言う名の便利魔法だ。

無属性とは精霊属性以外ではなく、全精霊が起こせる現象のことを言うらしい。

魔法構造は魔法という「単語」を使って「文章」を作ることじゃないかなって思ってる。精霊属性が名詞で、無属性が動詞って考えると、魔法構造もわかりやすいよね。

魔法の使えない私でも、初級の簡単なやつなら魔法構造も理解出来る。

ただ、難しいやつだと、形容詞や修飾語にあたる魔法が出てくるから、複雑になっていくけど。

お姉ちゃんは魔法構造が得意だから、きっとハンレイ先生の毛並みを再現してくれるに違いない!


三人でハンレイ先生を触りまくっていたら、昨日のダルメシアンのお姉さんが来た。


「ハンレイ、すまないが人間のお嬢さんを借りてもいいか?」


「お嬢さんだけじゃなく、坊主たちも連れてってくださいよ」


心なしかぐったりしているハンレイ先生。

申し訳ないとは思うが、ハンレイ先生の毛並みが私の本能をくすぐるのだ。もふもこを堪能しろと!


其方(そなた)たちはお嬢さんの兄弟か?」


「僕はネマの兄になります、ラルフリードです」


「ヴィルヘルトだ。兄ではないが親戚に当たるか」


あぁ、ヴィの名前ってヴィルヘルトっていうのか。すっかり忘れてた!

親戚なのは親戚だと思うが、めっちゃ遠い親戚だけどな!


「そうか。私はこの群れの長をしているシシリーだ」


そういえば、お姉さんの名前聞いてなかったね。

シシリーって、まさに星読みの氏らしい名前だな。ラーシア語で星を表す単語がシシリーなの。


「昨日話していたことを、もう一度氏長たちにも聞かせてほしい」


あっ!氏長で思い出した!

氏長のことも、草の氏のことも教えてもらってない!!


「まだうじおさと草のうじのことおしえてもらってないよ!」


「それなら、実際に氏長たちに各氏の説明をさせよう」


ということで、お姉さんに案内され、氏長たちが集まっているらしい場所に向かう。

もちろん、お兄ちゃんとヴィも一緒だ。

ハンレイ先生がなぜかホッとした様子だったが、話が終わったらまたもふりに行くからね!



バーベキュー大会が開かれている場所から少し離れたところに、木を切り出してできたた広場があった。

その切り株に、いろいろな種類のわんこが座っている。

犬の展覧会みたいになっているな。

雄か雌か区別がつけられない老犬が多い気がする。だって、体にメリハリがないんだもん。おっぱいはどこだ!!


「待たせたな。草の氏の末息子を助けてくれ、我々が生き残る方法を提案してくれた人間たちだ」


ふむ。ここは愛想を振りまいておく場面だな。


「ネフェルティマ・オスフェです。みな様におあいできてうれしいです」


スカートを少し持ち上げて、笑顔を見せる。

身分が同じ者しかいないときの淑女の礼。伝わってないだろうが、種族の違いなんて関係ないよって意味で使ってみた。


「兄のラルフリードです」


「ヴィルヘルトだ」


おい。その言い方だと、ヴィも兄だと思われるでしょ!

こんなお兄ちゃんはいらん!!


「おおまかなせつめいはシシリーさんからきいていると思いますが、もういちど私からせつめいさせてください」


まず、場所の条件は森だが、候補地は決まっていないこと。

ゴブリンと住み分けになること。

人間側の準備ができ次第、冒険者の受け入れを始めること。

冒険者と遭遇したら狩猟の氏には戦ってほしいこと。

生活の氏、老人子供はそれぞれの判断に任せること。

戦いにおいては、人間側魔物側どちらにも死ぬ場合があること。

これについては今のところ暫定にしてある。実際、王様と冒険者組合に話を持っていってみないと、どうなるかわからないし。

お兄ちゃんとも話していたんだが、魔法具で死なないようにできるかもしれないと言うことだったので、サザール老にでも開発をお願いするかも。

そして、コボルト側が冒険者を生け捕りにした場合の条件も決まっていなかったりする。

コボルトも人間との繁殖は可能らしいが、コボルトの習性として、(つがい)以外とは子作りはしないとのことだったので、ゴブリンと一緒というわけにはいかなくなった。

未定の部分が多すぎて申し訳ない。

つか、ゴブリンたちが単純で原始的すぎることが浮き彫りになった気がする。


「ふむ。生け捕りにした人間となれば、祭りしかないじゃろう!」


「えーっと、おじいさんはなんのうじおさですか?」


「わしは武の氏じゃよ。己の体のみを武器とする闘いの氏」


あぁ、メリケンサック持ってたドーベルマンだ!耳も尻尾も切ってないから、すぐにはわからなかったよ。


「で、そのまつりというのは?」


「各氏の未熟な若僧たちが人間で狩りをするのだ。動物にはない動き、我々では考えもつかぬ攻撃。死に物狂いで抵抗する人間を追い立てるときは血湧き肉躍るぞい!」


見た目可愛いのに、中身は肉食でした。

うん、魔物だしね。人間とは価値観違うよね。


「今は老いぼれたが、わしは祭りで誰よりも早く人間を捕まえたもんじゃ」


その追いかけられた人、ご愁傷様です。めちゃくちゃ怖いだろうなぁ。コボルトの集団に追いかけられたら。


「狩猟の氏はそれでいいかもしれないが、我々生活の氏としては人間の器用さを欲しいのだが?」


「おにーさんは?」


四角い顔に口髭、頬髭、眉毛と見た目老犬だが、声は若い。

小柄だががっしりとした筋肉質な体に、手脚は硬そうな毛質のもこもこ。

お兄さん、シュナウザーですね!


「オレは(たくみ)の氏長だ」


匠と聞くと、某リフォーム番組を思い出す。

たぶん、大工さんだな。

大工さんの仕事は幅広いし、昔は家具を作る職人も大工と呼ばれてたらしいし。

しかし、番犬として人気の高いシュナウザーが生産職とは。身体能力的には狩猟の方が似合ってるのにね。


「おにーさんとしては、つかまえた人間をろうどう力としてつかいたいってこと?」


「そうだ。オレたち匠もそうだが、緑やたたらも人手は欲しいんじゃないか?」


緑の氏が農業系セントバーナードで、たたらの氏は鍛冶師のブルドッグだった。

なんか、頑固な職人です!って感じのオーラを放っている。


「定住するなら、おれたちの氏だけじゃあ畑作りもままならないだろうなぁ」


まったりとしたしゃべり方は、外見がクマみたいなのも相まってほっこり気分になる。

緑の氏にこたつと鍋をいつかプレゼントしよう!きっと癒し空間になるに違いない!!


「わしらも人間ならほしいな。誰にでもできる仕事ではないが、他の氏に手伝ってもらうよりかはましだろう」


生活の氏の半数以上が、人間を労働力として欲しいという意見になった。


「では、とらえた人間はまつりにさんかするかばくじんになるかをせんたくするでだいじょーぶですか?」


縛人(ばくじん)とは、あちらの世界で言う奴隷に近いものだ。

人身売買は基本どの国も禁止してある。

だけど、『名に誓う』ことによって、条件を達成するまで自身を売り買いすることができるのだ。

国が認めた誓約商(せいやくしょう)という組織が取り扱っているのだが、組織に所属するすべての物がその国のトップ、我が国で言えば王様と誓いを立てている。

縛人との誓いを守るに始まり、不当に扱わないだとか、縛人の権利を守るだとか、いろいろと縛人側が有利な内容が多い。

でも、それらの誓いを守るからこそ、誓約商の信頼は厚い。


シアナ計画に組み込むのであれば、誓約商にも在駐してもらわないといけないな。


コボルトに捕まった場合、冒険者たちには三つの選択肢が与えられる。

一つは救出。もちろん、お金は払ってもらいますよ!

二つ目が祭りに参加する。コボルトたちから逃げきれれば解放になるが、捕まったら捕虜みたいに閉じ込められる。

三つ目が縛人。労働に対して、コボルトたちが仮金(かきん)を支払い、それが一定額に達すれば解放。


仮金はお金ではないが、縛人にあなたはこれだけ働きましたよっていう証明だ。これを渡さない、誤魔化すなどした縛主(ばくしゅ)(縛人の受け入れ側)は誓約商から恐ろしい制裁を受けることになる。


祭りに参加してみて、無理だから縛人になるってのもありだ。

まぁ、コボルトと戦って捕まったんだから、逃げ切るのは能力的に難しいかもしれないが。


「では、つぎにとーばつたいへのたいしょですね」


当初、班長さんは300人規模の討伐隊と言っていたが、レニスの街で見た感じだと200前後だろうって。

しかも、王国騎士団は50〜70人くらいしか参加していないみたいだ。

上手くすれば、ヒールランが掴んだ情報によって、騎士団を無力化できるかもしれないが、未確定な部分が多いため考慮しないことにする。

できたらラッキーってことで。


向こうの出方がわからないという難点があるが、そこは優秀な精霊さんたちにスパイをしてもらいましょう!

騎士団の司令塔は大体王立学院卒が多いので、作戦は似たりよったりだと思う。となると、死角をつくにはお兄ちゃんとヴィの知識も必要だ。


鉄板な作戦は、近距離戦闘、中距離攻撃、遠距離攻撃とわけるやつだね。

盾持ちを中心に、剣や拳闘タイプで固めて、中距離は弓を中心に中級以下の魔術師。遠距離は上級魔術師による火力援護と治癒魔法が使える支援組。

騎士団なら統率はとれるだろうが、クラスもバラバラな冒険者たちが騎士団の動きについていけるのか?

まぁ、無理だろうね。


「はんちょーさんたちは、かんじゃとしてぼーけん者にまぎれてほしいです」


戦闘になったとき、嘘の情報を流して、現場を撹乱してもらいたいのだ。


「あと、ヴィはじょーほーひょーしゅ…しゅーしゅね」


舌が回らなかった…。情報収集だよ。ひょうしゅじゃねぇよ。

お子様の細やかなミスを腹を抱えて笑ってんじゃねぇ、この腹黒王子が!!


「クックッ…。何が知りたいんだ?」


「とーばつたいのへんせいとしきかんのせいかくかな?」


「隊の編成はわかるが、なぜ指揮官の性格が必要なんだ?」


「あるていど、たいの動かし方がわかるでしょ?」


ヴィが指揮官なら、相手が嫌がることばかりするだろう。よって、奇襲作戦は通用しないと思う。だって、自分がされたら嫌なことはしっかり警戒してそうだしね。

お兄ちゃんが指揮官なら、正攻法で来るだろうが、戦況の変化に合わせて兵を動かし隙を見せないと思う。

お姉ちゃんが指揮官ってことは滅多にないだろうけど、まず少数精鋭で正面突破の魔法による集中攻撃かな。

私が指揮官だったら、オタク知識に頼るしかない。

ここはやはり、超有名な孫子を参考にしてみよう。

孫子の内容のほとんどが知ることが大事と謳っている。

敵の情報に己の実情。周りの環境に地形。それを知るためにスパイが大切なのだ。指揮官の性格も将の五危と言う教えがあったから。

一番有名な、風林火山を使ってみよう!

本当は軍隊って臨機応変に動けるのが理想ですよっていうたとえらしいが、それをそのまま戦術にしてみましょ。


まず使うのが、難知如陰(知り難きことは陰の如く)の陰。

隠れてすることと言えば、トラップかな。戦意を失うくらいエゲツないの作ろう。

其徐如林(其の徐かなることは林の如く)の林。

そっと間引きましょう。遠距離攻撃の魔術師たちを優先に、外側にいる冒険者を捕まえよう。

不動如山(動かざることは山の如く)の山。

自らを囮に、敵をおびき寄せよう。その進行方向に大きな落とし穴を作って、その中に我らがアイドル(はく)ちゃんが待機!拘束と麻痺を贈呈してしんぜよう。

そして、其疾如風(其の疾きこと風の如く)の風。

コボルトのというか、犬のスピードを活かして進撃して、侵掠如火(侵掠すること火の如く)の火で全力攻撃!

動如雷震(動くことは雷の震うが如く)の雷は…当てはまらないな。

素早く逃げる!ついでに雷の魔法を合図にするか。

逃げる方向は敵が来た方向に。つまり、レニスの街がある方向だ。

レニスに向かうと見せかけて、途中で方向転換してパーゼス代からトンズラするぞ!

レニスの近くに、中継点を作っておかないとね。

そこで、非戦闘要員と食料を持って、西の方に逃げる。

保険をかけて、東と南にわかれて逃げたって偽情報も流しておくと。


「こんなさくせんでどぉ?」


孫子とか風林火山とかのくだりは(はぶ)いて、説明してみた。


「…お前、どこでそんなことを覚えたんだ?」


「おとー様のしょさいにいっぱいご本があるから、なんでもしらべられるよ!」


ほとんどの知識は本からですと言えば、大概(たいがい)の人は騙されてくれる。


「もうそんな難しい本が読めるようになったの?」


「いっぱいよんで、いっぱいことばおぼえたの!」


「さすがネマだね!」


…チョロいよ…。チョロすぎるよお兄ちゃん!

ぶっちゃけ、パパンの書斎には戦術系の本は少ないんだよ。

法律とか経済の本ばっかりなんだから。

あと、古い本の中に、女心を掴むには系のハウツー本が結構な数あったのが印象に残ってる。

パパン、ママンと結婚する前に何があった!?


「間引くのは難しいと思うが、罠を上手く使って、個々を引き離し、そこで無力化する感じでどうだ?」


「そんなわながあるの?」


「罠ではないが、『精霊の悪戯(いたずら)』と言う現象だな。少し大掛かりな罠をしかけて、動揺したところで風の精霊に押し出してもらう。まぁ、実際はよろける程度だろうが、それでも隙にはなる。他に、土だと片足を埋めたり、火は喉を乾かし、水は一瞬視界を奪うだったかな」


うわー、地味だけどやられたら嫌な悪戯だわ。

足が埋まったら身動き取りづらいだろうし、喉が乾くってことは水筒を飲む間は隙ができるし、視界を奪うとか戦地では致命的だよ。


「みんなはせーれーさん見えないから、すきをのがさずうごけってことだね」


「そうだ。大掛かりな罠は、作れるかはわからないぞ?」


いやいや、作れますよ。

だって、優秀な工兵がいるからね!


「たくみのうじにおねがいするからだいじょーぶだよ」


「なるほど。物作りの職人なら作れるか」


「罠の種類も増やせそうだね。匠の氏なら木を使った仕掛け、たたらの氏は殺傷力を持たせた鉄を作ってもらって、織物か縄を扱う氏はないのかな?」


お兄ちゃんは何を思いついたんだ?投網か?それともかすみ網か??


「私が織手(おりて)の氏ですが、縄は別に編手(あみて)の氏がおります」


織手の氏がコリーで、編手の氏がボーダーコリー。元は同じ血筋ってことか。

お姉さん方、あとで胸元の美しいもふもふを撫でさせておくれ。

おっぱいじゃないよ。コリー種特有のふわっとした胸毛だよ。

…言葉にしたら変態だな。気をつけよう。


「では、網の用意をお願いします」


お兄ちゃん、やっぱり投網か!!

それより、罠と言ったら地雷でしょう。

こう、派手にバーンとかチュドーン的な効果音が鳴るやつ。

…ふむ。

大きな音と共に、一斉にトラップを発動させたらどうなるか?

状況がわからなければパニックになる。

大きな音、さらに煙で視界を奪ったら?

集団パニックとまではいかなくとも、経験の浅い冒険者とかならハマってくれそうだ。


「おにー様、大きな音を出すまほーと、けむりを出すまほーってあるかな?」


「音を大きくする魔法ではなく?」


「うん。こう、チュドーンとかドカーンってばくはつする音」


「それなら『空爆(くうばく)』かな」


「えっ!」


まさかの空から爆弾落としちゃう系!?

いやいやいや。落ち着け。大丈夫、この世界に火薬ないから。


「火力のない、(から)の爆発を起こす魔法だけど…。なんの魔法と勘違いしたの?」


「えっと…そらから火のまほーがおちてくるような?」


「それだと『隕爆(いんばく)』だけど、そんなに火力はないよ?」


あるんかい!!

しかも、メテオなんちゃら系の魔法なのに弱いとかおかしいよ!

恐竜も滅ぼしちゃう様な最強の自然現象…いや、宇宙現象なのに!!!


「煙も量によって魔法が違うんだけど」


「てきのしかいをうばうおおいやつ!」


「普通に『煙幕』だね」


うん。普通だね。


「その二つを一つのわなにして、それがはつどーしたら他のわなもれんさするようにできるかな?」


「うーん、他の罠の引金を一つにすればできなくはないけれど、仕掛けが難しくなるよ?」


「そこはおにー様とたくみのうじでどーにか!」


「こういうのはヴィルが得意だから、彼に考えてもらおうか」


「そういうのは任せておけ!」


おい、お前王子だろ!

王子がトラップ作りが得意とか、自慢にならないよ!!

まぁいいや。

あとは時間をどれだけ引き延ばせるかだな。準備にせめて2日は欲しいね。


よし、困ったときのソル…じゃなかった精霊さん!


「ラース君、まだとうちゃくしていないぼーけん者のあしどめをせーれーさんにおねがいできないかな?」


「ガウ」


軽い感じで、いいよと言われた気がする。

精霊さん、悪戯好きみたいだけど、その冒険者たち無事に到着できるよね?


「みんな、その人間にだまされないで!!」


突如乱入してきたのは、美少女でした。

頭の上でピンと尖った耳。ふさふさ動く尻尾。銀色に輝く瞳は、怒りの感情のためかギラついてすらいる。

何よりも目を惹くのが、尻尾と同色の髪。女の子にしては短すぎるショートカットだが、色は宵闇のような濃藍(こいあい)色。そこに、流れ星を思わせる銀色のメッシュがいく筋も入っていた。


「妹よ。ここは氏長の集まりだ。それに、客人を侮辱することは許さん」


あー、妹さんでしたか。似てないね。つか、想像してたより幼いね。

お姉さんが見た目20歳こえてるから、妹さんは10代半ばくらいかと。

いや、待て。そこじゃねー!

お姉さんはウェアウルフだから人間に近い姿であって、妹だったらコボルトかハイコボルトでしょ!?

ケモミミ尻尾の人型って、まさかの獣人ですか??


あ、なんかフラグ立った気がする…。





絶好調なネマですが、まだまだ問題は残ってますよ!

そして、草の氏のこと聞き忘れているお馬鹿さんなのでした(笑)


コボルト編はもうちょっと続きそうです。

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