その頃オスフェ家では…。
お待たせいたしました。
今回はいつもより短めです。
「それで、お父様はネマを置いてきたのですか!?」
「ラルフも一緒だから、心配はないよ」
いけしゃあしゃあと宣ったのが自分の父親でなければ、魔法の一つでもおみまいしてあげましたのに。
「お父様、ネマはまだ5歳なのよ?王都の外に出すのがどれほど危険か、本当に理解していまして?」
「理解した上での判断だ。ネマには炎竜殿とラース殿がついておられる。それに、ノックス以外にも使役を増やしているから早々なことは起こらないだろう」
まぁ、ネマったら、今度はどんな動物をたらしこんだのかしら?
それにしても、我が妹ながらいつも目が離せないお転婆さんで困りますわね。
我がオスフェ家は王族の血が入った公爵家で、歴代宰相を勤め、建国の英雄のうちの一つ。
曾お祖父様が王弟であったにも関わらず、曾お祖母様のもとへ婿入りしたことから公爵家の中でもさらに位が高くなってしまったのですけれど。
このお二人のお話は演劇などで題材にされるほど有名で、昔お祖母様に連れていってもらったこともありましたわね。
あの頃はネマも生まれていなくて、お祖母様もお元気で。
お祖母様が亡くなられたときは、本当に悲しくて、我が家もどこかどんよりとしていましたわ。
それからすぐに、お母様の妊娠がわかり、生まれてくる子はお祖母様からの贈り物だと、お父様もお母様も、もちろんわたくしたち兄妹も喜んでおりました。
産まれてくるのを今か今かと待ちわび、生まれてきたら溢れるほどに愛情を注ごうと決意もしておりました。
生まれてきたネフェルティマは黒に近い瞳を持っておりましたが、顔立ちは両親と言うよりは曾祖父母お二人に似ている部分の方が多いようで。
時折、お父様がネマの性格はお祖父様譲りだ、なんてボヤいていたので、王族の血の方が濃いのかもしれませんわね。
だからと言って、ネマをあのいけすかない王子に嫁がせるなんて、断固阻止してみせますわ!
ネマにはちゃんと愛し合う人と寄り添ってもらいたいもの。
政略結婚が当たり前なご時世では、公爵家というのが邪魔して難しいかもしれないけれど、姉としてネマを守る所存よ!!
「それで今度はどんなことを企んでいるのかしら?」
「企んでいるとは、ネマはずいぶんと買われているということかな」
当たり前ですわ。
ネマの天真爛漫で自由奔放な行動が、いつも思いがけない影響をもたらしているんですもの。
特に、我が国が誇る竜騎士や獣騎士からのネマ人気のお話は、社交界でも話題にされるほどですし。
そういえば、いつの間にか商業組合もネマからの恩恵にあやかっていると聞いたわ。
たぶん、お母様が関わっているのでしょう。あの人の手腕というか、人心掌握術は本当に恐ろしいですわね。
「ネマですもの。お母様の手綱がなくなれば、王都にいるとき以上に暴走している姿が目に浮かびますわ」
そのそばにいられないのが、本当に残念でなりませんわ。
あの腹黒王子よりも、わたくしの方がネマの役に立てますもの。
「…そうだな。私はこれから忙しくなるだろうから、セルリアとカーナにも手伝ってもらえると助かるな」
まぁ、珍しい!
お母様はともかく、わたくしにまでお声がかかるとは…。明日は槍でも降るのかしら?
お母様も揃ったところで、改めて領地の現状、懸念、ネマが立てた計画を説明されたのです。
わたくしもお母様もしばらくは絶句しておりましたけれど。
まずは、オスフェ領で魔物が大量発生していたことに驚き、それが人為的なものかもしれないという推測に恐怖を覚えました。
魔物も創造の神が創り出した、世界の仕組みの一つですのに。
これは古代創聖派と呼ばれる方々の教えですけど。彼らの多くは精霊術師で、人でありながらも創造の神を身近に感じられていたと言われ、それゆえに今の至上派に弾圧されたのですが。
わたくしはネマがいたこともあり、古代創聖派の教えの方がしっくりくるというか、実感を伴う教えの方が多いですわね。
創造の神が創りしものを、人が私利私欲のために利用したとなれば、どんな事が起こるのか…。想像しただけでも恐ろしくて、ざまぁみろって言いたくなりますわ!
でも、ネマは優しい子だから、魔物であろうと困っている生き物を見捨てられなかったのね。
「カーナ、悪いことを考えているデールと同じ顔をしていますよ。素直なのは良いことだけど、考えていることを表に出してはいけません」
あら、わたくしとしたことが。
表情を取り繕えないほど、考えに没頭していたなんて。
「申し訳ございません、お母様」
それにしても、そんなにお父様に似ているのかしら?それはそれで、ちょっと凹みますわね。
「それで、ネマは領内に魔物の牧場を作りたいのね?」
「牧場って…」
「あら、違いまして?家畜を保護し、増やして、牧人を育てるのでしょう?」
さすがお母様ね。冒険者を牧人扱いとは。お母様にとっては、ネマが集めた魔物たちも愛玩動物と変わらない感覚なのかも…。
「そう言われればそうだな」
お父様まで。
それ、ネマの前で言うと嫌われますよ?
「では、わたくしは牧場の人材集めをいたしましょう。各組合に話を持っていくついでに、優秀そうな者を引き抜いてまいります」
ネマとの相性とか気になるところですが、人脈の広いお母様に任せておけば大丈夫ですわね。
そうなると、わたくしは何をしようかしら?
ネマがどういうふうに作りたいのか、話が聞けるといいのだけれど。そうしたら、必要な物資を集めたり、準備ができますのに。
「お父様。わたくし、ネマに会いたいですわ」
「カーナのお願いも叶えてあげたいが、殿下がいらっしゃるから護衛の余裕はない」
本当に邪魔ですわね、あの腹黒王子は!
「お母様、何か方法はありませんか?」
「そうねぇ。二日ほど時間がかかっていいのなら、手はあるわよ?」
「では、それでお願いいたします」
どんな手段であろうと、ネマのために会いに行けるのなら問題はないわ!!
「やれやれ。その無鉄砲さは誰に似たのやら」
お父様が頭を抱えて嘆いていますが、たぶんお父様に似たのだと思うわ。
お父様だって若いときにはいろいろと無茶をしていたと、お母様やお祖母様から聞いたことありますもの。
「カーナはデールにそっくりですわよ?」
「それだと益々心配だな。無茶をして危険な目にあいそうだ」
ちゃんと自分の実力くらい把握しておりますよ?
魔法による戦力はあっても、実戦経験がないのであまり役には立ちそうにないとか。剣士などの接近戦では、得物の間合いに入ってしまうと弱いとか。
いずれ、冒険者組合に登録して、冒険者を経験してみたいのですが、お母様は許してくれるかしら?
「わたくしは実戦を経験しておりませんので、戦闘時はお役に立てないことくらい理解していますわ」
「まぁ、これからのことを考えると、ラルフもカーナも魔物の討伐くらいは経験しておいた方がいいかもしれないな」
「そうね。場合によっては、わたくしたちにも危険が及ぶこともあるでしょう」
ということは、お父様の動き次第では、わたくしたちが敵の標的になるということですね。それはそれで楽しそうですけれど。
「セルリアが考えている方法は、カーナの護衛を冒険者に依頼するのであっているか?」
「えぇ。ちょうどよいことに、先日フィリップから手紙が届きましたの。明日くらいに王都に寄るので、久しぶりに会いたいと」
まぁ!フィリップ小父様たちが!?
最後にお会いしたのは、ネマが生まれたときだったかしら?
フィリップ小父様はガシェ王国を中心に活動している冒険者で、お父様の仲間でもあった方です。
若かりし頃のお父様が実戦を学ぶために冒険者をしていたときの側近だったのですが、小父様は貴族より冒険者が肌にあっていたようで、陛下に直談判して貴族をやめた変わり者なんです。
まぁ、その分腕っぷしは凄いんですけどね。冒険者組合の中でも少ない紫の冒険者ですし。
「フィリップ小父様たちが護衛してくださるのですか?」
「フィリップたちもネマに会いたがっているし、上手くすればネマを手伝ってくれるでしょう」
さすがお母様。使えるモノはお父様の親友でも使うのですね。
しかも、小父様って確か、お母様の求婚者の一人ではありませんでしたか?
「フィリップなら、ラルフとカーナの指導者として問題ないだろう。ネマには振り回されるだろうがな」
ネマの突拍子もない行動にあたふたする小父様を想像したのか、楽しそうに笑っている。なんだか、悪戯が成功した子供みたいですわ。
「とりあえず、カーナは準備をしなさい。マージェスをつけるから、冒険に必要な物を自分で揃えること。特に武器は自分で選ばなければ意味がありませんからね」
お母様の仰る通りです。
自分で選んだ物だからこそ、何が起こっても対処できるのでしょうし、文句も言えません。
「わかりましたわ。でも、マージェスを使って屋敷の方は大丈夫ですの?」
「大丈夫よ。パウルとジョッシュには執事として自覚を持ってもらういい機会でしょう」
あの二人は子守や専属執事二人の手伝いとかばかりでしたからね。本格的に執事として鍛えるのですね。
特にパウルはマージェスの息子ですし、一応次期家令候補ですもの。頑張ってもらわないといけませんわね。
そういうわけで、意外にもわたくしの希望は叶ったのです。
フィリップ小父様たちが到着するまでは、準備で程々に忙しかったのですけどね。
でも、冒険に必要な物を買いにいくのは楽しかったですね。武具屋や薬屋など、見ているだけでも新鮮でしたし。
問題と言えば、侍女を連れていくべきかですね。
一通りのことはわたくしもできますが、途中で公爵令嬢として動かなければならないときもあるかもしれません。
そうなると侍女は必要ですが、冒険に連れていくとなると相応の技術を持った者でなければならないですし。
「マージェス、どうしたらよいかしら?」
「必要であるならば、シェルを推薦致します」
シェルは専属の侍女ではなく、侍女の中では下の方だったはずよね?
「理由を聞いても?」
「はい。シェルには冒険者として青の実力と経験がございます。野宿にも対応できる技術も持っておりますし、公式の場での礼儀作法も筆頭侍女からお墨付きをもらっております。今はお嬢様方をお世話する機会に恵まれておりませんが、今回のような場面には向いているという判断でございます」
なるほどね。それにしても、我が家の使用人にできないことはないのかしら?
「では、シェルに同行をお願いするわ。彼女に必要な物の準備もお願いね」
「畏まりました」
そろそろフィリップ小父様が到着する頃かしら。
一応、明日には出発するのだけれど、早くネマに会いたいわ。
「デール、健在か!!」
騒々しく屋敷に乗り込んで来たのがフィリップ小父様。
その後ろから呆れ顔で入って来るのがフィリップ小父様の冒険仲間の方々。
確か、前衛が剣士のショウ様と槍使いのエリド様、後衛が火と土の上級魔術師のコールナン様と治癒術師のエリジーナ様。
皆様、お変わりないようですわ。以前お会いしたときと変わっていないのもいかがなものかと思いますけど。
「お前の方こそ、魔物の餌になっていなかったか!」
再会を喜ぶ二人ですが、いい歳こいたおっさん同士の抱擁なんて、暑苦しくて美しくないですわ!
「そう言えば、セルリアからの手紙でラルフとカーナの指導をしてほしいってことだったが?」
「あぁ。皆にも詳しく説明しよう」
応接間で皆様に状況を説明し、わたくしの護衛と指導の件をお願いしたところ、快く了承していただけました。
一安心です。
「これで断ったら、ネフェルティマに会わせてもらえないどころか、縁を切られそうだしな!」
えぇ、お母様なら容赦なくそうするでしょうね。
「しかし、いいのか?王都の外に出れば、命の保証はできない。ましてや、魔物が増えている場所に向かうんだ。戦闘の指導にしても容赦しないぞ?」
フィリップ小父様の真剣な様子はとても珍しいですわね。
それだけ小父様も本気ということかしら?
「臨むところですわ!ネマのそばにいるためにも、わたくしは強くならないといけませんの」
「…段々、ネフェルティマの印象が壊れていくな」
フィリップ小父様が何かボヤいていたようですが、聞かなかったことにしておきましょう。
ネマに会ったら、その可愛さにメロメロになるに決まっていますものね!!
「フィリップ小父様、そしてショウ様、エリド様、コールナン様、エリジーナ様。足手まといになると思いますが、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
敬意を示す礼をすると、小父様以外の皆様は慌てていらっしゃいます。
「俺たちに畏ることないぜ。仲良くやっていこうや」
照れた様子のショウ様。
「小さいときに会っただけなのに、名前覚えてもらってるのは嬉しいな。これからよろしくな!」
エリド様の笑顔は可愛らしいですわね。
「同じ魔術師ですし、わからないことがあればなんでも聞いてください」
コールナン様は学院の卒業生と聞いたことがありますので、かなり当てにしておりますのよ?
「女性同士仲良くしましょう!」
この中では一番若いエリジーナ様。女神クレシオール様に愛されているだけあって、側にいるだけでほんわかしますね。
皆様と一緒に夕食をとり、いろいろな冒険の話を聞かせていただきました。
時折、お父様が羨ましそうにしていたので、本当はお父様も冒険者を続けたかったのでしょうね。
でもね、お父様。
ネマがお父様を冒険しているときと同じようにドキドキはらはらさせるから、これから楽しくなりますわよ。
明日は早いので、もう休むことにしましょう。
初めての冒険。楽しみですけれど、怖くもあり。わたくしったら、矛盾していますわね。
でも、すべてはネマのため。わたくし頑張りますわ!!
ネマ、待っていてね。
約3時間で帰されました…。台風の中、職場の人たちと朝ご飯食べにファミレスへ(笑)
仕事中はずぶ濡れになりましたが、お家に着いたら晴天でした。何しに職場行ったんだっけ?
ついに、カーナディア参戦です(笑)
そして、カーナのパパンに対する扱いが残念すぎる…。
反抗期というよりは妹を溺愛しすぎて、他は二の次三の次。
あ、今回はもふもふがなかった…。
白猫の協力バトルやってくれる人、いないかなぁ…。