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帰る前にやること。

「国に帰るですって!?」


マーリエの大きな声に、私の方がびっくりする。

ダオの描き上げた絵を見ながら、文章の調整をするために集まる日。ついでだからと、帰ることを二人に報告したのだが……。


「本当に帰るの?」


ダオは戸惑っているのか、眉毛はハの字に下がっていた。

私を狙っていたルノハークのこととか、諸々が解決したので、いつまでもライナス帝国のお世話になるわけにはいかない。

そう説明したら、二人は渋々納得したようだ。


「……淋しくなるわ」


マーリエの言葉に、私の方まで淋しくなってしまう。

ライナス帝国で初めてお友達になってくれた二人だから、なおさらに……。


「聖獣に乗れるようになったら、いっぱい遊びにくるから!」


私がそう言うと、二人は理解できなかったのか、きょとんとした顔で固まった。


「あれ?言ってなかったっけ?私が契約者だって??」


「……そういえば、ネマの聖獣様は炎竜様だったわね」


どうやら二人とも私が契約者だってことを忘れていたようだ。

聖獣を大切にする皇族の二人に契約者だったことを忘れられる私っていったい……。

そっちの方にショックを受けていたら、ダオとマーリエは慌てて弁解を始める。


「ネマは聖獣様と離れているから、つい……」


「ネマが契約者らしい言動をしないからでしょ!」


ダオの言い分はわからんでもない。あのサイズのソルを連れて歩くことはできないからね。

それに、陛下や先帝様、皇太后様と、聖獣が四六時中べったりな姿を見て育っているから、余計に契約者の側にいない聖獣という発想がなかったんだと思う。

そしてマーリエよ。契約者に夢見過ぎではなかろうか?

契約者のみんながみんな、聖人君子ではないんだよ。ヴィを見れば一目瞭然……って、公式の場では猫かぶってたわ。

マーリエには申し訳ないが、契約者とはなんぞやということを話し、現実を知ってもらうことにした。


「そんな……。じゃあ、陛下も……」


「残念だけど、へいかも腹黒よ!」


というか、契約者はみんな、一癖も二癖もあるような人たちばかりだから!

契約者の資質というのが、清濁併せ持つことの可能性は高いけど、なぜかみんなの癖が強すぎるんだよなぁ。

私の場合は、資質よりも愛し子だからという部分が大きいと思いたい。

自分では資質の有無はわからないし、そもそも清く生きているつもりだし。


「それで、帰るまでにやりたいことがあって、そのうちの一つは二人にも協力してもらいたいの」


「父上が腹黒かどうかは、あとで議論するとして、協力してもらいたいことって何?」


ダオは陛下が腹黒だということに異論があるようだ。それなのに、私のことを優先する優しさを見せた。


「ふっふっふっ、それはね……」


外は晴天!お外で遊ぶには絶好の日!

やりたいことの一つ目を実行する日だ。

それにはダオとマーリエの協力が欠かせないため、二人を引き連れて、獣王様がいる別宮にやってきた。


「獣王様、遊びにきました!」


案内された部屋は先日と同じ部屋で、扉が開くと同時にババンッて登場してみたら、獣王様と番さんが仲良く寄り添っているではないか!

二人のラブラブな様子に内心やっべーって思ったよね。

番さんは本当に獣王様を番だと認識できたし、ベッドの椅子から出られるくらいには回復したみたい。

それにしても、これが俗に言うおねショタか!?

見目麗しい二人の仲睦まじい姿を見て、危うく新たな扉を開きかけるところだったよ。


「よく来たな。歓迎する」


ダオとマーリエも獣王様の意外な一面を見て驚いたようだ。

ぎこちなく挨拶するダオとマーリエに、獣王様は番さんのことを紹介した。


「初めまして。ぼくはリーファの番のハオランだよ」


私たちも自己紹介をし、お互い名前で呼ぶことを承諾してもらった。

少し和んだところで今日の遊びを説明し、別宮の庭へと移動する。


「はごいた?これでその小さな羽根を打つと?」


「うん、こんな感じで」


実際に打ってみると、ハオラン様は興味を示してくれた。

今回はトーナメント戦ではなく、思い思いに打ち合うことにする。

それだけでは盛り上がりに欠けるので、負けた人には顔に落書きのオプション付きだが。


「解せぬ……」


身体能力の高い獣人である獣王様やハオラン様が上手いのは理解できる。ダオも剣術を習っているので、私より身体能力はあるだろう。

それなのに、なぜ生粋のお嬢様であるマーリエよりも私の方が顔に落書きされているのか!


「ネマ、これ以上負けると、顔が真っ黒になるわよ?」


「くっ……神様めっ!なぜ私に身体能力を授けてくれなかったんだ!」


「また不敬なこと言って……」


マーリエの呆れた様子を無視して、私は(なげ)いた。


『私が直接世界へ落としたから、身体能力については地球のときと同等にしかならないよ』


無情にも、ルクス様に私の運動音痴は前世からだろうととどめを刺される。


「ネマはおもしろいね」


ハオラン様が腹を抱えて笑ってくれたのが唯一の救いだ。

これで笑いも取れなかったら泣いてたよ。


羽子板を終えて、私は獣王様とハオラン様に国に帰ることを伝えた。

二人が別れを惜しんでくれたのは嬉しかった。


「機会があれば、イクゥ国にも遊びにきてくれ」


獣王様たちもハオラン様の体調をみて国に戻るらしい。

国でやらないといけないことが山積みだって、獣王様は嘆いていたけど、どこか嬉しそうでもあった。


やりたいこと二つ目は挨拶周りだ。

宮殿でお世話になった人たちにお礼を伝えないとね。


「ペリーさん、来たよー!」


事前に訪問の申請をしていたので、隊長のペリーさんが詰め所で待ってくれていた。


「二の姫様がお帰りになられますと、うちの者たちも淋しがるでしょう」


ペリーさんの部隊には、森鬼たちの訓練相手になってくれたりと、本当にお世話になった。

手の空いている人たちだけを集めてもらい、国に帰ることとお礼を伝える。


「みな様といっしょに過ごせた時間は、本当に楽しかったし、とても有意義でした。お相手してくださり、ありがとうございます。たまに遊びにきますので、そのときはよろしくお願いします!」


同行している森鬼とスピカも軍人さんたちに一礼する。

その後、最後だからと、森鬼とスピカは軍人さんたちと手合わせをすることになった。

私は手合わせをやっている間にやりたいことがある!


「バルグさん!今日もお願いします!」


「……お嬢も飽きねぇな」


(せき)族のバルグさんに、ここに来たら必ずやるあれをお願いしする。

バルグさんはなんだかんだ言いながらも、毎回やってくれるんだよね。

するりと体に巻かれた尻尾に掴まると、ワクワクとドキドキから心拍数が上がるのがわかった。


「いくぞ」


バルグさんの声とともに、グイッと持ち上がる体。そして、右に左にと大きく振られる。

体に感じる衝撃、風、顔に当たる髪の毛!これぞ尻尾アトラクション!!

動きはどんどん変化していき、上下左右はもちろん、回転まで加わるとめっちゃ楽しい!

終わる頃には髪の毛ボサボサの体ふらふらになるけど、それもアトラクションの醍醐味(だいごみ)だろう。

結局、夕方まで詰め所で遊んで、痺れを切らしたパウルが迎えにきた。

別れを惜しむのはいいけど、仕事の邪魔はしないようにって小言つきで。

パウルの言うことはごもっともである。


次の日は総帥さんと一緒にワイバーンの竜舎に行った。

ワイバーンと竜医長さんに挨拶するためだ。


「竜医長さんも行こうよ」


「赤ちゃんは元気だから、ぼくが行かなくても平気」


相変わらず竜医長さんの声は小さいので、精霊に届けてもらっている。

竜舎では、生まれてまもない赤ちゃんがいると聞き、竜医長さんも一緒に見にいこうと誘ったのだ。断られたけど……。


「私といっしょなら、赤ちゃんに触らせてくれるかもしれないよ?」


竜医長さんを釣るために、竜が好きなら断れないであろう誘い文句を言ってみる。

でも、ここにいるワイバーンたちは一応竜医を信用しているので、触れる程度では釣れないかな?


「………………わかった」


長い沈黙のあと、竜医長さんが承諾してくれた。

やっぱり竜好きとしては触れるチャンスは逃したくなかったようだ。

竜医長さんが途中で帰ったりしないよう手を繋ぎ、ワイバーンたちが寛いでいるエリアにやってきた。


「ダノン!」


このワイバーンの群れの長であるダノンの名前を呼ぶと、すぐに気がついて飛んでくる。


――竜の娘御、どうした?


ダノンに今日来た理由がお別れの挨拶だと話すと、ギュルルルルっとなんとも言えない鳴き声を出した。

悲しいときに出る鳴き声みたい。

長がそんな鳴き声を出すものだから、他のワイバーンたちが何事かと集まってくる。


――あ!竜の娘御が来てる!

――え!?じゃあ本当に風竜様が来られるの?

――落ち着け。風竜様が来られないから、長が悲しんだのではないか?


ん?なんで風竜が出てくるんだ?

集まってきたワイバーンたちの会話が、なんのことを言っているのかわからなかった。

………あぁぁぁぁ!思い出した!!

神様降臨の遺跡で、喧嘩になったワイバーンとリンドブルムを仲裁したしたときにそんな約束したわ。


「ごめんね。今日は風竜さんのことで来たんじゃないの」


集まってきたワイバーンたちにも、私が国に帰ること話す。

もちろん、私が帰っても風竜を連れてくる約束は有効なので、必ず守るとも伝えた。


――竜の娘御……帰るのか。

――そんなこと言わず、ここで一緒に暮らしましょうよ。


ワイバーンから、竜舎で暮らすことを提案されるとは思ってもみなかった。

好意から言ってくれているんだろうけど、うちの国の竜舎の子たちからはそんなこと言われたことないが?

リンドブルムやリンドドレイクは私のことを竜の娘じゃなくて、遊び友達と思っている節があるから、そういう認識の差の表れなのかもしれない。

ワイバーンたちと遊ぶために(ひら)けた場所に移動する間も、近寄ってくるワイバーンの第一声がみんな風竜のことなのは、それだけ楽しみにしていたのだろう。忘れていたことが申し訳なくなる。


「ダノン、赤ちゃんに会いたいんだけど、竜医長さんがいっしょでも大丈夫かな?」


――ふむ。エレーナであれば大丈夫であろう。


ダノンが言うには、エレーナという雌のワイバーンはおっとりした性格で、飛竜兵団の兵士たちも友好的なんだとか。

番の雄はパトロールに出動中でいないので、赤ちゃんに近づくなら今がチャンスだと。

足が重たい竜医長さんをなんとかエレーナがいるところまで連れていく。

エレーナは大きな岩に寄りかかって寝ており、その周りで小さな小さなワイバーンが犬のように駆け回っている。

動くたびに翼もぴょこぴょこしているのがなんとも可愛い!!


「エレーナの子は、生まれて百日が過ぎたくらい。大きさも成長速度も平均値で申し分ない」


竜医長さんは観察をして、見た限りでは問題なしと判断したようだ。

大きさと成長速度を基準にしているのは、体重測定ができないからとみた。

赤ちゃんの大きさなら体重を測れる道具があるけど、じっとしていられないだろうからなぁ。


まずはダノンに声をかけてもらい、私たちが近寄っていいかをエレーナに聞いてもらう。


――まぁ!竜の娘御に竜医長、いらっしゃい。


くわぁと大きなあくびをして、私たちを見つめるエレーナ。

ダノンの言う通り、動作もしゃべり方もどこかおっとりしている。

群れの長のダノンがいて、母親も警戒していないため、赤ちゃんも興味津々な様子でこちらを見つめてくる。

まだ棘の生えていない尻尾の先が、凄い速さで左右に振られているのが気になった。

あれはどういう感情だ?


「気になる玩具やお気に入りの玩具で遊ぶときに、ああやって尻尾を振るんだ」


それってつまり、私たちが玩具認定されたってことだよね?


――うちの子と遊んでくれるの?助かるわ。この子、ちっともお昼寝してくれなくて。


ダノンが私……というか、竜医長さんが子供に触れても大丈夫かと聞いたら、エリーナの答えは一つ飛び越えたものだった。

触るだけって聞いたのに、遊び相手にまで昇格したのは、それだけエレーナがおっとりしているのと、ちょっと育児疲れもあるのだろう。

父親がいない間だけとはいえ、母親を疲れさせるほどパワフルな赤ちゃんとは……将来、すんごいワイバーンになりそう。

こちらにちょこちょこ近づこうとしている赤ちゃん。

近くで見ると、意外と大きい?私の目線よりちょっと低いくらいだが、母親のサイズと比較するとめっちゃ小さい。


――ひちょ!


これには驚いた。

竜玉(オーブ)のおかげで竜種の言葉を理解できるのだが、言葉と鳴き声は別々に聞こえるようになっている。

赤ちゃんは私を見て鳴いたのに、鳴き声とは別に言葉として認識ができた。

つまり、赤ちゃんは私を『ひちょ』という種族だと理解しているということだ。

人ではなく、ひちょになっているのは、過った発音で覚えてしまっているか、人間の赤ちゃんの喃語のようなものだと思われる。

それにしても、生後百日くらいでもう意味ある声を出せるのか……。

リンドブルムやリンドドレイクの赤ちゃんが生後百日くらいのときは、お腹空いたら肉!って鳴いて、眠くなったら寝る!って鳴くくらいしかできなかったよ?

他はずっとぷぎゃーって元気に鳴いている。

お世話係の竜騎士が頻繁に話しかけているから、半年くらいである程度意思疎通ができるようになるけど。


「君、もう言葉を理解しているの?すごいね!」


――ひちょー!


赤ちゃんは竜医長さんの方に行くと、周りをウロウロしてから鳴いた。


――ひちょ、ない!


人じゃないって言いたかったのかな?

種族が違うこともわかるなんて、ワイバーンの知能が高いというのは本当なんだね。


「お利口さんだねー、かわいいねー」


褒めながら手を差し出すと、赤ちゃんはかぷりと咥えた。

甘噛みすぎるほどの甘噛みで、全然痛くない。それどころか、ちっちゃい歯の感触が尊い!

こんなちっちゃい歯でお肉を食べられるのか?って思ったけど、星伍や陸星の歯よりは大きいから食べられるに決まっている。


――……まずい。


私の手を吐き出した赤ちゃんは悲しげに鳴いた。

手を咥えただけじゃ味はしないだろうってツッコミたかったけど、そんなことを言えば齧られそうなので黙っておく。

涎でべっちょりな手をハンカチで吹いて、再度リベンジ!


「なでなではわかる?気持ちいいよ?」


――なりぇ?なめりゅ?


そっか。まだ兵士たちも近づけないから、人に撫でられたことがないんだ。


「なでなでするから、ちょっと触ってもいい?」


――うん。


赤ちゃんが同意してくれたので、そっと手を頭に置き、眉間辺りからおでこ付近を撫でる。

こちらの竜種は、年齢を重ねるごとに皮膚が分厚くなったり、鱗が頑丈になっていくので、赤ちゃんのときはまた特別な触り心地だ。

決して柔らかくはないけど、わずかに反発力を感じるような、硬いゴムにも似た感触。

でも、地球産のヘビよりは硬いと思う。あっちは筋肉なので比較にならないけど。

目の下辺りや口周りも皮膚が薄い部分なので、赤ちゃんにも触られている感触がわかるだろう。


――ぴぎゃぁ……。


赤ちゃんはプルプルを顔を振った。撫でられる感触がくすぐったかったみたい。

リアクションまで可愛いなんて、マジで尊いわぁ。

竜医長さんも触る許可をもらい、赤ちゃんを撫でる……というか触診になってない?


「同時期に生まれた二体よりも筋肉の発育が早いようだね。これなら餌の回数を増やした方がよさそうだ。お腹空いていたんじゃないか?だから、餌を探すために動き回っていたのかな?」


――おにきゅ!


竜医長さんが呟いた餌という言葉に、赤ちゃんが激しく反応する。

竜医長さんの見立て通り、食事の量が足りていなかったようだ。


「エレーナ、この子はすぐ飛ぶようになる。岩場から落ちたりしないよう、しっかり教えてやってくれ」


――やっぱりそうよねぇ。


リンドブルムもそうだが、飛竜の赤ちゃんが一番命を落とす時期が、飛べるようになる頃と言われている。

特にワイバーンは岩山や岩壁の隙間などに巣を作るから、赤ちゃんが落ちてしまうのだ。

好奇心旺盛な子ほど危険だと、竜騎部隊の隊長であるダンさんも言っていた。


「ネマのおかげで気づけたよ。ありがとう」


「どういたしまして。じゃあ、赤ちゃんにお肉あげてもいい?」


「それはいい案だね。すぐに用意してもらおう」


竜医長さんの指示で、赤ちゃん用の細切れになったお肉が用意された。

細切れでも、人間が食べるステーキくらいの大きさだけど。

そのお肉に釣られて、同時期に生まれたという別の赤ちゃんたちもやってくる。

母親ワイバーンが怒らないかなって心配だったが、私たちの行動を見て、害がないと判断したらしく、赤ちゃんを引き止めることはなかった。


それにしても、一生懸命にお肉を食べてる姿もなんと愛らしいことでしょう!

お口だけじゃなく、翼も尻尾も一緒に動いているのがなおよし!

はぁぁぁ、この子たちをお持ち帰りしちゃダメかな?ダメだよなぁ……。



誤字報告、ありがとうございます!

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