絵本を作ろう!
本日二回目の更新です。
宮殿の図書館にある皇族専用ルームに三人が揃った。
「早速やるわよ!」
マーリエがテーブルの上に分厚い書類をドサッと置く。
もしかしてこれ……考えた文章一覧?
ダオもマーリエも、こんなに考えたの!?
でも、物語の出だしについては、絶対に譲れない一文がある。
「始めの一文はこれね」
「……むかしむかしあるところに、男の子と女の子がいましたって、すごく曖昧じゃないの」
日本の童話の始まりといえばこれだよねー。
「あいまいな方が、時代も場所も好きなところを思い浮かべられるでしょ!」
日本人であれば、山間の集落や山里をイメージすると思うけど、こっちの世界だとどうなんだろう?
二人に聞いてみたけど、具体的にどの時代のどこら辺っていうのは出てこなかった。
ダオがイメージできないと、絵のクオリティに関わるので、司書さんにお願いして資料を持ってきてもらう。
とは言っても、写真集なんてものはないので、有名な絵画の複製品が運び込まれた。
複製品だけど、皇族が後援している画家に描かせているものらしい。
たまに、有名な絵を模写した画家が後年人気になって、プレミア価格に跳ね上がった複製品もあったとか。
田舎的な風景が描かれた絵の数々を見比べて、それぞれいいなって思う風景を述べていく。
「遠くに雪山が見えるの、風情があっていいよね」
元日本人として、雪化粧をまとう山々の美しさは外せないだろう。
「わたくしは、石でできた家よりも木の家の方が、可愛らしくて好きよ」
「僕は魔物がいっぱい住んでいそうな深い森を描きたいな」
それらの設定を盛り込んで、ダオがラフ画を描いていく。
「ここに男の子と女の子を描くつもりだけど、ポテはどうする?」
ダオは家と家の間の空白部分を示す。
森の近くの村であれば、幼いポテを保護して友達になったっていうのもありだけど……。
「今はまだ保留で。あとから登場させた方がいいかもしれないし」
それから、男の子と女の子の名前はダオとマーリエからもじって、レオ君とエリーちゃんに決まった。
ちなみに、ポテの名前は私からもじってネルになったよ。一日中お昼寝してそうな名前だけど、二人が考えてくれたものなのでよしとする。
次に、男の子と女の子が冒険に行く理由だ。
私は、男の子の母親が病気で森に薬草を採取しにいく案を出した。
マーリエの案も少しかぶっていて、祭事に必要な神秘的な花を女の子が採りにいくので、護衛として男の子がついていくといったものだ。
女神様を出すならありだろうって。
マーリエ、ひょっとしてヒロインが聖女のお話が好きだったりする?
「薬草なんてありきたりでつまらないじゃない」
「マーリエの言う通り、もう少し特別なものがいいけど……。子供が入れるところに、希少な宝物はないよね」
ダオもレアアイテムの方がワクワクすると言った。
うーん、特別なアイテムで理由にもなるやつ……。
「思いついたわ!女神様に関係する祭具を取りにいくのはどうかしら?」
「おぉ!いいね!」
マーリエの発想は素晴らしかった。
それを改良して、もっと冒険心をくすぐるものにしたい。
なので、やっぱり男の子の母親には病気になってもらって、森のどこかにある、願い事を叶えてくれる女神像を探す設定を提案した。
「どこかってどこよ?わからなければ、探しようがないでしょう?」
突っ込んでくるマーリエに、私は少し得意げになって返す。
「村に伝わる伝承に、場所の手がかりがあるようにするのよ!」
「謎解きを加えるってこと?」
ダオは期待からか、目をキラキラさせて聞いた。
「それはちょっとむずかしいから、目印を探していく感じがいいかなぁって」
それを聞いてダオはしょんぼりしてしまったが、これはダオのためでもある。
謎解き要素とか入れたら、ページが絶対に増えるでしょ!
ダオが一枚目の絵のラフ画に下絵を描いている間、私とマーリエで伝承の内容を考える。
目印は三つくらいあった方がいいよね。目印を見つけたあとに試練があると盛り上がるよね。と、話は順調に進んでいくと思われた。
「なんでワイルドベアーなのよ!?」
「森の中といえばワイルドベアーだから?」
ある日森の中に入ったら、出会うのはクマさんなんだよ!お約束ってやつなんだよ!!
「子供が倒せるわけないでしょう!」
「魔法を使ったら倒せるかもしれないじゃん!それに、お友達になる可能性だってある!」
「ワイルドベアーと友達になるのはネマしかできないわよ!」
一つ目の目印を見つけたあとの試練について、私とマーリエで意見が分かれた。
ダオが仲裁に入ってくれたものの、ダオからもクマはやりすぎだって言われる。
「ワイルドベアーと仲良くなったら、そのあとの冒険が簡単になってしまうから」
むぅ、ダオの言う通りだ。
スタコラサッサとかも狙っていたんだが、諦めるしかない。
「でも、マーリエの案は、崩れた橋から女の子を助けるってやつだよ?」
これが成人男性二人とかだったら、ファイト一発できるけどさ。
結局、マーリエの案も最初の試練としてはハードすぎるということで却下となった。
最初は子供でも乗り越えられる簡単なものにして、段階的に大変になるのが王道なんだというのがダオの意見。
冒険譚や英雄譚のセオリーを忘れてたわ。
最初の試練はボロボロの橋を渡るだけに決まった。
ここにマーリエの要望だったロマンスをちょっと足してあげよう。
落ちるかもしれないという恐怖に足が竦んで動けなくなったエリーちゃんに、レオ君が手を差し伸べて告げる。
『僕が魔法で守ってあげるから大丈夫だよ』って。
いやー、レオ君格好いい!
私たちの意見交換が白熱したせいか、ダオは話し合いに参加した方がいいと判断したらしい。
作業の進め方を、話を聞きながら先にすべてのラフ画を仕上げる、という方法に変えた。
二つ目の目印は巨木。
この巨木の周りには肉食性植物の群生地がある。
ここは知恵を絞って、レオ君の風魔法を使い、肉食性植物に気づかれないよう通りすぎるのだ。
体に風をまとって、肉食性植物のセンサーを誤魔化す方法は冒険者にはよく知られているらしい。
ダオが言っていたので、お気に入りの物語にでも書かれていたのだろう。
子供が使える魔法なのかが問題だったが、ダオが実践してみせてくれた。
ダオは魔法の勉強もしているため、使えてても不思議ではないが、普通の村の子供は使えるのか?
まぁ、レオ君は才能ある子供ってことで納得しよう。
二つ目の試練を抜けたところで、ウツボカズラもどきに捕まっているポテを発見する。
ウツボカズラもどきは落ちてくる獲物を待つ、待ち伏せ型タイプなので、ポテはうっかり木の上から落ちたのだ。
そのポテを助けてあげるレオ君。ポテはお礼にと言って、次の目印の場所まで案内してくれることになった。
「ちょっと待って。動物がしゃべるの!?」
「物語の中くらい、動物とおしゃべりしたいじゃん」
私はルクス様を手にし、ルクス様の手をぴょこぴょこ動かす。
「ぼくはネル!君たちは命の恩人だ!」
ちょっとだけ声を変えて、ネルになったつもりでしゃべってみた。
『ネフェルティマ……さすがにこれは恥ずかしいのだが?』
ルクス様、ごめんよ。お詫びはあとでするから、今は付き合ってくれ!
「これは……」
「ありね」
ダオとマーリエはしゃべるポテを想像して、合格をくれた。
二人とも意外とちょろい……。
それからルクス様をネルに見立てて、私がセリフを即席で言いながら、先の話を考えていく。
三つ目の目印は大きな岩。
ネルの案内で大きな岩までくると、岩の後ろに洞窟があった。
岩と洞窟の間は、子供一人がかろうじてすり抜けられるくらいだ。
ネルは怪我をしているため、レオ君とエリーちゃんについていくことを決意。
二人と一匹で洞窟の奥に入っていく。
洞窟の奥に進むと広い空間に出た。
「さて、ここで出てくる魔物をどうするか」
「ゴブリンやコボルトだと群れで現れないとおかしいよね?」
ダオの言う通り、洞窟の中でゴブリンやコボルトが単体でいるなんてことはほぼない。
あるとしたら、迷子になったゴブリンくらいだろう。
ダオはこの場面にこだわりたいようなので、魔物のチョイスを任せることにした。
ダオが気に入る魔物を探すため、魔物図鑑とライナス帝国の動物図鑑を司書さんにお願いする。
動物図鑑もリクエストしたのは、設定に合う魔物がいなかったら、動物に変更するためだ。
「うーん、アルラウネとかよさそうだけど……」
「ウィーディを倒すのは可哀想だわ」
陛下が名付けたアルラウネのウィーディと遊んだことがあるゆえに、愛着が湧き、倒す魔物にはしたくないらしい。
「じゃあ、ワームはどうかな?生まれて二、三巡は比較的小さいようだよ」
ワームの幼体って、それでも地球産のアナコンダより大きかったと思うけど?
まぁ、レオ君は才能ある設定だから、一匹だけならやれないこともないような……。
「ワームってこんな姿なの……」
マーリエはワームの姿絵を見て、顔を顰める。
ミミズ的な姿ならまだ可愛げがあるけど、お口を開けたヤツメウナギだもんね。
直視したくない気持ちはわからんでもない。
「いいと思う。詠唱が間に合わなくて絶体絶命!みたいな場面があると、より緊張感が伝わるんじゃない?」
「それいい!」
ダオはノリノリでラフ画に描き込んでいった。
さらに、マーリエも一つ案を出してくる。
「詠唱が間に合わないのであれば、エリーが囮になって時間を稼ぐのはどうかしら?」
二人で力を合わせてワームを倒すと!
マーリエはどちらかと言うと、守られるヒロインが好きそうだから、意外な提案だ。
「それもいいね!じゃあ、詠唱は少し長いものにしよう」
省略詠唱は、魔力や魔法構造の構築時間が関わってくるので、村の子供であればフル詠唱でもおかしくない。
二人と一匹が力を合わせてワームの幼体を倒すと、足元が崩壊する。
ワームが開けた穴で脆くなっていたのだ。
ワームの通り道が滑り台の役割を果たし、幸いなことに二人と一匹は軽い怪我ですむ。
落ちた先の地下空間には、朽ちた遺跡が隠されていた。
「そこに女神像があるのね。レオがお祈りしたら、女神様がご降臨なされると」
「そう!でも、女神像は汚れているだろうから、レオ君とエリーちゃんできれいにしてあげるの。そうしたら、二人のために女神様が来ても不自然じゃないでしょう?」
あれだ。笠地蔵の異世界版!
それに、勇気があって心優しい子供たちだから、女神様の慈悲を受けられたという演出にもなる。
「いいわね!それで、願いは叶えてもらえるのよね?」
「もちろん!女神様のお力で、村に帰してもらえるというおまけつきで!」
帰りは端折らないと、予定ページ数に収まりきれないからね。
ここは女神様のミラクルパワーを使っていこう!
「なんか最後は雑ね」
「じゃあ、帰り道も危ない目にあいながら帰る?」
私がそう聞くと、マーリエは少し考えてから答える。
「二度目はつまらないから、やっぱりこのままでいきましょう」
マーリエの素直な感想にダオも同意し、帰りはミラクルパワーを使って帰ることに決まった。
二人と一匹が村に帰ると、お家の外でレオ君の母親がレオ君の帰りを待っている。
元気になった母親の姿を見て、レオ君は駆け出した。
「こうして、みんな村で幸せにくらしましたとさ。おしまいおしまい」
私が最後の締めくくりを告げると、マーリエがあることを指摘してきた。
「ネマ、ポテの見せ場がないけどいいの?」
「はっ!」
レオ君もエリーちゃんもメインキャラなので見せ場はしっかり作ったが、ポテのネルはしゃべる以外なんもしてなかったわ!
こりゃ大変と、ネルの見せ場を入れ込む。
綺麗にまとまっているので、入れ込むとしたら一ヶ所しかない。
ワームの穴に落ちたあとだ。
都合よく砂の上に落ちたことにして、ネルが二人を掘り当てる。
さすがにポテでは人間を掘り起こすなんてことはできないので、呼吸ができるように顔の部分だけ掘って助けたというふうに修正した。
「あとは文章を絵本に合うようにしていくだけね」
「じゃあ、僕は絵を描くことに集中する」
結局、絵は予定より一枚増えて十一枚になってしまったけど、ダオが大丈夫だと言うのでそのままに。
私とマーリエは辞書を引きながら、難しい言葉を簡単な言い方に変えたり、雰囲気に合う言葉に変えていった。
あとはダオの絵が完成して、マーリエが文章を清書すれば絵本にできる!
文章を清書する前に、ダオの絵に合わせた修正やレイアウト決めが残っているけど。
改めて、ほぼ完成した文章を読む。
「あ……」
私はとんでもないことに気づいてしまった!!
「どうしたの、ネマ?」
「これ、活劇じゃなくて冒険ものだ」
なんということでしょう!いつの間にか、アクションバトルものではなくなっていたのだ!!
「そういえば……」
「あらまぁ……」
まさかのジャンルが変わってしまうという大ポカをやらかしてしまったが、二人もストーリー自体は満足しているとのことで、このまま進めることにした。
出来上がるの楽しみだなぁ!




