私の悪い癖らしいよ?
あけましておめでとうございます!
ネマともども、今年もよろしくお願いします。
この顔ぶれの中、パパンの膝の上に座らされてるの、すっごく気まずいんですけど……。
ライナス帝国の面々は、陛下と皇后様に始まり、先帝様、皇太后様、マーリエ父、ルイさん、テオさんと皇族がいて、ゼアチルさんやその他陛下の側近さんたちがいて、宴で見かけた高位貴族の当主さんたちや総帥さん率いる軍部の上層部と、なんか圧が凄い。
テオさんがここにいるってことは、もしかしてクレイさんはテオさんの身代わりになった?
対するガシェ王国側はヴィを筆頭に……と言いたいところだけど、ヴィを除けば、私とパパンとお兄ちゃんしかいない。
それと、肩身が狭いのか、めっちゃ気まずそうにしているミルマ国の第一王女様。立太子されたので、王太女殿下が正しいか。
あとの残りは知らない人たちだなぁ。
つか、いつもこの面子で話し合いしてたの?
「今日は可愛らしいお客様がいらっしゃいますな」
「しかし、国同士の話し合いの場には相応しくないのではないでしょうか?」
この見下したようないい方。久しぶりに味わう気がする。
見知らぬおじさんたちだけど、着用しているものの質からして、そこそこ身分が高い人だと思われる。
にしても、よくこの面子の前で言えたなぁ。
ライナス帝国側の人間なら陛下方の前でこんな発言しないだろうし、ガシェ王国の人間ならこんな人を同席させるはずもない。
ミルマ国であれば、王太女様がすぐ止めに入るだろうしって考えると、イクゥ国か少国家群の人になる。
子供を連れてきたくらいで強気に出られるってことは、イクゥ国かなぁ?
一応、ヘリオス伯爵の被害を一番多く受けている国だしね。
特に、国の象徴たる獣王様が被害に遭っているんだし。
まぁ、お城の一部を乗っ取られるというやらかしがあるので、中枢に内通者とかいるんだろうけど。
「ネフェルティマ嬢は、ヘリオスがもっとも手中に収めたいと願った人物だ。我々が聞き出しえなかったことも、聞いている可能性がある」
淡々とした口調ではあるが、いつもの陛下より声が低めで、威圧感がある。
ママンが怒っているときに似ているようで、もっと体の芯から冷え冷えする感じだ。
どうやら私がここに呼ばれた理由は、他にも何か情報を持っていたり、思い出したりしていないかの確認のためのようだ。
ヘリオス伯爵自身の尋問もまだまだ行われているし、捕らえたルノハークらからの情報があっても、まだ足りないらしい。
とりあえず、私は聞かれたことに答えればいいだけみたいなので、大人しくみんなの意見を拝聴しておきますか。
今の議題は、先日から続いていると思われる過失割合についてだ。
主犯がライナス帝国の貴族だったこともあり、補償金諸々の持ち出しはライナス帝国になる。
ただし、ヘリオス伯爵に感化され、犯罪行為に手を貸した者はどの国にもいた。
それらを踏まえて過失割合を相殺していくようだが……。
「ですので、こちらにも非があると決めつけられるのは、大変遺憾です。我が国の象徴たる獣王両陛下が被害に遭われたのですよ!」
おじさんたち、イクゥ国の人で合ってた!
一応、獣人が多い国なのに、話し合いのメンバーの中には獣人がいない。
……そういえば、獣王様が政から離されているみたいなこと言ってたけど、離されているのは獣王様だけじゃないのか?
「ですが、イクゥ国の城が拠点に使われていたことは確かです。ドワーフ族の子供が監禁されたのは、昨日今日の話ではないのですが?」
ライナス帝国側で主に発言しているのはゼアチルさんだ。
いつも控えめな方なので、こうして舌鋒が鋭いところを見られるとは思ってもみなかった。
ライナス帝国の宰相を務めるくらいだし、大人しいだけではないのは確かだが。
「いくら廃した宮とはいえ、政の象徴たる城に不届き者がいついても気づかないとは……。少しは恥じたらいかがですか?」
「それは不徳の致すところです。しかし、復興に追われており、不要なところを切り捨てるのは当然ではありませんか?」
イクゥ国のおじさんも負けじと反論する。
「であればなおのこと。廃宮を解体し、その廃材も再利用できたでしょうに」
うんうん。確かにあの建物はボロボロだったけど、もっと早く解体していたら、内装もちゃんと再利用できたと思う。
「人手が足りていないんです。国庫にも余裕がないので、雇うのもままなりません」
人手不足ねー。ミーレもそんなこと言ってたな。土魔法を使える人がみんな徴用されてどうたらって。
……ん?徴用??
「おとう様、ちょうようって、国が強制的に民を働かせることで合ってる?」
私の知らない意味があるかもしれないので、念のためパパンに確認する。
「大きな意味では合っているよ。我が国では、領主が領民に対して強要するときにも用いるが」
もう五十年以上、領主が領民を徴用することはないそうだ。
昔は災害が起きても救援隊などの人員や物資を現地に送るのが困難だったため、徴用を使って近隣の集落から人や物資を集めていた。
サザール老が今の転移魔法陣を編み出してからは、魔力のコストが減ったおかげで、主要都市に設置できるようになり、また一方型と呼ばれる持ち運び可能な転移魔法陣もあって、現地への大量輸送が可能になったと。
「へー、サザール老ってそんなすごい人だったんだ」
ママンと王様のお師匠様だとは聞いていたけど、研究好きなおじいちゃんだと思っていたわ。
「ネフェルティマ嬢、何か気づくことでもあったのかな?」
私とパパンがコソコソ話をしていたからか、陛下に話を振られた。
「土魔法を使える人をちょうようしていたのなら、あのはいきょも解体してもらえばよかったのにって思って」
建物の修繕が行える人がいないせいで、あの廃墟がどれほど荒廃していたかを話す。
探索する程度なら楽しいですむけど、あそこで働いていた人たちにとっては最悪だったと思う。
「ほぉ、落雷に火事。それほどの事故が起きているにもかかわらず、放置していたとはな」
呆れたと言わんばかりの表情を取り繕うこともしない陛下。
気のせいかな?副音声で、城の管理もできない奴が政をできるわけないだろうって聞こえるのは……。
「徴用した者たちは国民の家の復建を手伝ってもらっているので……」
イクゥ国のおじさんの言い分ももっともだ。
災害時に住める場所があるのって大事だもんね。
「大きな仮設住宅を作ればよかったのに。そうしたら、土魔法を使える人も少しは手が空いたかも?」
まぁ、国都はほぼ再建が終わっていたみたいだし、たらればの話になってしまうけどさ。
まだ地方の方で終わっていない場所があれば、ぜひ試してもらいたいところだ。
「ネマ、また悪い癖が出ているぞ。思いつきをしゃべるときは、自分で作った言葉ではなく、ちゃんと説明するように」
ヴィからそんなふうに注意され、ちょっと理解できなかった。
つか、私の悪い癖って何?って考えたところで閃いた。
仮設住宅がないのか!こっちでは、なんかあったときは天幕だったわ!
「んーと、しっかりと作った家じゃなくて、簡易的にした家?それで、集合住宅にして一時的にたくさんの人が住めるようにするの」
手狭ではあるけど、新しい家ができるまでの辛抱だし。
最悪、場所さえ確保できるのであれば、長屋にするという手もある。
それなら、土魔法が使えるベテラン大工一人でも作れるかもしれない。
「そんな方法が……」
メインでしゃべっていたおじさんとは違うおじさんが衝撃を受けたような顔をした。
もしかしたら、このおじさんが再建を取りまとめている偉い人なのかも?
「話が逸れてしまったな。ゼアチル、続けてくれ」
「かしこまりました、陛下。では、廃宮を放置し、ヘリオスらの拠点とされたわけですが、城で働く者の協力者がいなければ、実質不可能だと思われます。そのことについてはいかがでしょうか?」
「こちらでも調査は進めておりますが、まだ内部犯がいる証拠はございません。捕らえられた者の中には、我が国の貴族も混じっておりましたので、その線が濃厚かと」
貴族が登城するときに、ルノハークを従者などに変装させて連れてきたと言いたいのだろう。
転移魔法陣さえ設置してしまえば、あとは見つからなかったと思うし。
でもなー。ランユーちゃんの件があるし、人事を掌握している人の中に、ヘリオス伯爵に加担していた人がいると思うんだよなぁ。
「ネマ、気になることがあるのなら、聞いてみるといい」
そう言って、パパンが背中を押してくれたので、思い切って自分から聞いてみることにした。
「また何か?」
少しでも自分の国を優位にしようと、おじさんもピリピリしている。
「あのはいきょでは、城の使用人と思われる者が働いていましたけど、人事を司る部署は調べたのでしょうか?」
「真っ先に調べたに決まっている!」
普通に考えればそうなんだけど、聞いている限りではちょっと怪しく思えてしまう。
「では、獣人たちはどうですか?えんこう族と呼ばれる種族は、人といっしょに働いているそうですが」
ヘリオス伯爵は獣人差別を誘発したりと、他の種族を追い詰めるような動きをしていた。
そして、人間こそが優秀……大げさに言えば、神様の特別な存在なんだと唆していたわけだ。
地球でも古今東西、元をただせば民族優越主義と呼ばれる思想に基づいた戦争というのはたくさんあったわけだが、ヘリオス伯爵はそれを再現しようとしたのだろう。
ロスランの地球での記憶がコピーだったとはいえ、私と同じ世代かそれよりも上の世代であれば、先の大戦のことをある程度学んでいるはずだし。
つまり、イクゥ国の中枢に、ヘリオス伯爵に唆された人がいて、その人が獣人を城から排斥した可能性がある。
猨猴族がなぜ、ルノハークらとともにいたのかはわからない。もしかしたら自分の種族を守るためかもしれないし、もしかしたら野心あってのことかもしれないし。
「猨猴族が?馬鹿な!」
メインのおじさんは驚いているけど……驚いている理由までは読み取れないなぁ。
猨猴族の存在を知られていたことに驚いているのか、城に猨猴族がいたことに驚いているのか。
「やはり、我々が捜査に協力した方がよいと思われますが?精霊様はすべてを見ておられますので」
ゼアチルさんがそう提案すると言うことは、イクゥ国はライナス帝国の介入を拒んでいたのだろう。
まぁ、国として考えるのであれば、内部事情を他国にかき回されるのを拒否するのは当然だけど。
「それとも、精霊様に見られてはまずいことでもございましたか?」
メインのおじさんは怒った声で、ありませんと強く否定する。
イクゥ国の態度に、陛下も平然とされているし、軍部の面々も微塵も反応を示さない。
実はもう、中枢にいるかもしれない内部犯を把握していたりして……。
私を同席させることで、彼らが自発的に認める発言をするかどうか、見極めていたとかかな?
国の利益を追い求めるあまり、取り返しのつかないことになっていたりしないよね?
ライナス帝国って歴史上、武力衝突よりも協議を重ねての併合が多かったような……。
ライナス帝国とイクゥ国の間には少国家群があるので、もし併合されてしまったら飛び地領になってしまうが。
獣王様の立場さえ変わらなければ、ライナス帝国の領地になった方が住んでいる国民にとってはよかったりする?
ライナス帝国ほどの財力があれば、復興ももっと進むだろうし、陛下方がお願いすれば聖獣たちも力を貸してくれるはずだ。
でも、平和的な併合だったとしても、生活が楽になるとしても、自分の国が滅びるのは嫌だよね。
このおじさんたちが、自国もヘリオス伯爵につけ込まれる隙があったと認めてくれればいいのに。
「あっ!」
私はまた閃いてしまった。
証拠がなくても城から追い出せばいいじゃん!
「国のえらい人がみんな辞めたらいいと思う。総辞職ってやつ!」
私が突然そんなことを言ったものだから、場が凍りついたのを肌と空気で感じた。
ゼアチルさんですら、何を言っていいのかわからないと、陛下の方を見るくらいだ。
「またお前は唐突に……」
ヴィにため息吐かれたけど、閃いたものはしょうがない。
「でも、お城をルノハークのきょ点にしてしまったことは、明らかにお城で働いている人の落ち度でしょう?責任とってえらい人が辞めるから、ほしょう金はいっぱいくださいっていう方が丸く収まるんじゃない?」
日本でも、不祥事起こして辞める議員とかいたし、それが大臣クラスだったら任命責任とか言って首相でも追及されるわけだし。
それに、ヘリオス伯爵の一件は公表されるのだから、今イクゥ国で政を行っている人たちへの信頼失墜は免れないと思うんだよね。
「我々が辞めたら、誰が国政を行うというんだ!」
「後任くらい育ててるでしょ?え、育ててないの!?」
メインのおじさんが血管切れそうなくらい、怒りで顔を真っ赤にしている。
あと、ある程度の重職なら、後任育成はしていると思っていたよ。
ガシェ王国でも基本、宰相と大臣たちには空白期間がないよう、代理権限が与えられた後任候補がいる。
お兄ちゃんはパパンの跡を継ぐわけだけど、当主になったからといってすぐに宰相になるということはない。
実地で経験を積んで、王様とパパンに認められないとダメだ。
ありえないと思うけど、認められる前にパパンが死んだ場合は、後任に認められないといけない。
歴史上、欲を出した後任もいるのだが……結局プチッとやれてしまう。
大臣職を務める他の公爵家でも同じだ。たぶん、我が家の方が優しいやり方をしていると思う。
一族郎党えげつない借金地獄に落としたり、外交中に毒殺したり……。
外交中の毒殺は、外交先の要人が狙われていたのを誤って殺された的な方向に持っていき、ちゃっかり外交交渉も優位にしてた。
ちなみにそれをやった人、私の曽祖父ちゃんのマブダチです。まさに類は友を呼ぶ!
「それはなかなかよい案だね」
「陛下っ!」
メインのおじさんが怒鳴るような声で陛下を呼ぶと、軍部の面々が一気に殺気立つ。
「我々が辞めても、内通者が城に残っていては変わらないのではないでしょうか?」
他のおじさんが怯えながらもそう進言した。
「だが、この件に関わっていると知られたら失職するという事例ができれば、派手に動くこともないだろう。周りや下の者も、引きずり落とせるとわかれば、目を光らせるかもしれない」
美味しい蜜を吸うには権力がいる。
陛下は仮定のこととして話しているけど、内部工作でもしてそういう空気に持っていくつもりなのだろう。
権力争いといった政治の暗黒面は、やっぱり陛下やパパンの方が詳しいよね。
ってことで、あとは丸投げすることにした。
結局、その場で決まられることではないからと逃げ……じゃなくて、お持ち帰り事項となった。
「ミルマ国はいかがですか?補償内容の変更などございましたらお伺いいたします」
次のターゲットはミルマ国か。
ミルマ国は、ルノハークによる遺跡の盗掘や魔石の窃盗で小さくはない被害が出ている。
特に魔石の加工を主産業とするミルマ国にとっては、経済面、文化面で打撃を受けた形だ。
しかし、ヘリオス伯爵の共犯者として、ミルマ国の部族の一つ、ソヌ族ががっつり関与してしまっているので、今は加害者側となってしまっているみたい。
「変更はございません」
ミルマ国は金貨五百枚と人工魔石二千個を補償として差し出すと。
金貨五百枚は日本円だと五億円以上の価値に相当するし、人工魔石二千個も購入価格で安く見積もっても二千万円、高くて五千万円くらいかな?
ミルマ国にとってはかなりの出費だろう。
「魔石の一部を食べ物にしないのですか?」
国土のほとんどが山岳部のミルマ国では、狩猟がメインなので、持ち出せる食糧は少ないと思うけど……。
ミルマ国はミイの実がある!!
「ネマ、説明」
「ひゃいっ!」
表情は和やかなのに、ヴィの目が冷たい。
何度も同じこと言わせんなゴラァって感じか。
パパンによしよしと慰めてもらってから、魔石の一部を食糧、特にミイの実に変えることについて説明した。
ミイの実は皮つきのままなら魔法なしで長期保存できるので、ミルマ国でも非常時の備蓄食糧としてストックしてあるはず。
それをまだ復興が追いついていない少国家群の地域に補償として配る。
上手くいけば、魔石加工以外にミイの実を輸出品の主力できるかもしれない。
本当の目的は、ミルマ国以外にもミイの実を生産できる場所を探すことと、ミイの実に合う調味料を探すためだ!
ミルマ国に行ったときに持ち帰ったミイの実で、いろいろ試しに作ってもらったんだけど、なんか違うんだよねぇ。
まぁ、指示が手紙だから、上手く料理人たちに伝え切れていないのかもしれないけど。
まだおはぎも満足のいくものはできていないし……。
あー、おはぎが食べたい!
「ミイの実を気に入ってくれたのは嬉しいが、あれは好みが分かれると思うが?」
ミルマ国の王太女様が申し訳なさそうに告げる。
「それは調理方法でどうにでもなると思います。現地の方が好む味付けや調理方法を見つける必要はありますけど」
そこら辺は各国の料理人たちにお任せする。
「食いしん坊ならではの発想だな」
ヴィに鼻で笑われた。
食いしん坊で何が悪い!ミイの実が普及すれば、まだ見ぬ醤油や味噌が出てくるかもしれないじゃん!!
つか、同じ転生者ならギィが再現してくれててもよかったのにぃぃぃ!
「まだしばし時間はある。そちらも一度検討されてはどうだ?」
王太女様は陛下の提案を受け入れて、こちらもお持ち帰り事項となった。
『こんなに食に執着するとは……。本能を強くしすぎてしまったのか?』
ルクス様、余計なこと言わなくていいからね。
どうせ歳取ったら脂っこいものとか食べられなくなるんだし、若いうちに美味しいものを食べないと損でしょ!!




