慌ただしい再会。
本日一回目の更新です。
「ギゼルに迎えにきてもらったらスピカがまた気絶したので、そのまま砦に戻り、転移魔法陣で帝国軍が拠点にしている村に飛んだ。そこからはワイバーンに運んでもらったから、スピカが目を覚ましたのは、主のところへ行く直前だったぞ」
森鬼にお引っ越し組のコボルトたちのことを聞いたはずなのに、思わぬところでソルの活躍を知ってしまった。
竜騎士たちがソルが燃やしたって言ってたけど、想像していた以上に激しい。
だって、白い炎って、めちゃくちゃ温度が高い炎ってことでしょう?
それとも、地球で言うところの炎色反応みたいに、なんか謎の物質を炎と一緒に噴射してたりする?
どちらにせよ、超高温で激しい燃焼が起きていたのであれば、オーグルもろとも木々が消し炭になってもおかしくないわ……。
『どうやらソルもずいぶん焦っていたようだね』
お手てを口に当てて、くふくふと笑うルクス様。
何をやっても可愛いって、ぬいぐるみの特権だなぁ。
「そうなの?」
『加減はしているが、周囲の影響を抑えることは精霊たちに押しつけていただろう?』
ルクス様曰く、ソルのやり方としてはかなり雑なんだとか。
ソルがちゃんとやれば、精霊の力を借りずとも、周囲への影響なく、ピンポイントで燃やせたって。
それを聞いちゃったら、呼びつけた私が原因に思えるんだけど……。
そういえば、ライナス帝国の方にも加勢に行ったとか言ってたよね?
森鬼が目撃した方はガシェ王国内なので、パパンにお願いしたら植林とかやってくれると思うけど、ライナス帝国側はどうなったんだろう?
そっちの被害も確かめておかないと。
それとスピカ。気絶から覚醒してすぐであの勢いって、凄くない?
でも、体には悪そうだから、今度から安静にしてから動くように言っておこう。
「森鬼、スピカを無理に竜種に近づけるのはダメ。いくらウルクに慣れたとはいえ、それはスピカが本能を制しているからなんだよ?」
森鬼は訝しむように私を見つめる。
その視線が言いたいことはわかるぞ!
普段のスピカの言動から、あれで本能を制しているのか?と言いたいんだよね!
でもあれは、本能じゃなくて、スピカの性格だから!
「なんにせよ、コボルトたちが無事でよかった。もうみんな正気に戻っているんでしょう?」
「主が砦に到着したときには、もう狩りをしていたぞ」
しばらくは付近の森が落ち着かないかもしれないけど、ご飯調達は頑張って!
「エトカが遊びにこいと言っていた」
「行きたい!温泉も入りたい!!」
レイティモ山の洞窟温泉もファンタジー感があっていいけど、渓谷にある温泉は秘湯中の秘湯って感じがするよね。露天風呂だったらなおよし!
夕食の時間になって、パパンとお兄ちゃんが帰ってきた。
ヴィや陛下といった国のお偉いさんたちで、ヘリオス伯爵が起こした一連の事件について話し合っていたらしい。
「ヴィルが明日、ネマに会わせたい人がいると言っていたから、遊びにいかないようにしてね」
ぐぬぬっ。明日はダオとマーリエと遊ぼうと思っていたのに……。
ルクス様から離れないユーシェを迎えにきた陛下が教えてくれた。
私が宮殿に戻ってきた知らせを聞いて、マーリエが駆けつけてきたと。
戻ってきてバタバタしていたのもあって、落ち着いたらでいいとも言われた。
その間、マーリエを宮殿に泊まらせるからって。
マーリエを宮殿に引き留めたのは、大人たちが後始末で相手できないから、私の遊び相手が必要だと思われたからなんだろうなぁ。
でも、ヴィがわざわざ会わせたいって、偉い人だったりする?
「……作法とかおさらいしておいた方がいい?」
「ネマも知っている方々だから、気負わなくて大丈夫だよ」
え、何人もいるの!?
ほんとに大丈夫なのかなぁ?ヴィだから、信用できないんだけど……。
翌日、パパンとお兄ちゃん、ママンまでもがお偉いさんの話し合いに出席するとのことで、朝から不在だ。
ヴィも呼ばれていると思うけど……。
遊びにいかずに部屋にいろということなので、普段より甘えてくる魔物っ子たちをルクス様と一緒にもふる。
ぬいぐるみの手で毛並みを感じることができるのか謎だったが、感触はわかるらしい。
ルクス様は稲穂の背中に乗って、一生懸命尻尾を撫でている。
もふもふがもふもふをもふもふしているという光景は、なんとも心が温まるなぁ。
「ネマお嬢様。ヴィルヘルト殿下がお越しになられました」
パウルの後ろに、ラース君とヴィがいた。
「特に体調は問題ないな?」
怪我はなくとも、体力面からの疲労などを心配しているようだ。
「うん、元気だよ!」
ヴィは軽く頷くと、向かう前にと言って何かを放り投げてきた。
――のぉぉぉんっ!?
慌ててそれをキャッチすると、手の中で激しく蠢く。
――のぉん……のーん。
覇気のない鳴き声を出す翡翠。
あのプシュー作戦からずっとヴィのところにいたようだけど、様子がおかしい。
「何日も俺がいなかったから、執務室で弱っていたと送られてきた」
スライムは飢餓耐性があるので、数日絶食したくらいで弱ることはないのだが?
いまだ手の中でプルプル震えている翡翠。何か怖い目にでも遭ったとか?
翡翠にどうしたのか聞くと、先ほどの弱々しい鳴き声とは打って変わって大きな声で何かを訴えた。
「王子もラース殿も戻ってこないから淋しかったそうだ」
森鬼が告げた内容に、私は首を傾げた。
雫がそうだったように、スライムは本来群れる魔物ではない。
親スライムの体から出ると、赤ちゃんスライムたちはそれぞれ適した環境を求めて散らばる。
まぁ、最初のうちは、似た色の兄弟と一緒に活動することもあるらしい。
だけど、スライムは根っからの食いしん坊だ。
よりよい餌を独り占めするために、よりよい餌場を求めて独り立ちする。
「翡翠、淋しかったの?」
とはいえ、うちのスライムたちはレイティモ山育ちだ。
山は広いけれど、洞窟やコボルトの集落に行けば、誰かしらスライムがいる。
だから、淋しい思いをしたことがなかった翡翠にとって、今回のことはかなりの衝撃だったみたい。
――のーんっ!のぉぉん!
明らかに不満を言っているような鳴き方だね。
「王子に置いていかれた、誰も相手してくれなかったと」
あー、なるほど。
王宮の東棟だったら、白を知っている侍女たちが相手してくれた可能性もあるけど、執務室だと西棟だからなぁ。
西棟で働く人たちはスライムに慣れていないから、どうしていいのかわからなかったのだろう。
一応、王太子であるヴィが連れていたスライムだから、駆除したりせずに見て見ぬ振りをしたと思われる。
「それはヴィが悪いねぇ。オスフェ家に連絡してくれれば、翡翠を迎えにいったのに」
屋敷の使用人であれば、翡翠は初めてでも、白やお兄ちゃんに寄生している子たちで慣れている。
よしよしと翡翠を撫でて慰めた。
「お前の主を迎えにいっていたんだぞ?文句を言うならネマにだろう?」
「私!?」
囮になるのは承諾したけど、まさか転移魔法陣でさらわれるとは思わないでしょ!
ひょっとして、転移魔法陣以外の方法でさらわれることは想定されてたとか?
それだったら、確認もせずに承諾した私にもちょびっとだけ責任はあるかもしれないが……。
「ヒスイは返したからな。ネマは俺と一緒にこい」
会わせたい人は連れてきていなかったのか。
それなら、西翼の応接室にいるのだろう。
あそこは、陛下と謁見する貴族が待機する応接室があるから。
「では、護衛はイナホとセイを。ハクとグラーティアは留守番です」
パウルが珍しい組み合わせを選んだ。
稲穂は最近、宮殿内を出歩けるようになったので、練習を兼ねているのだとしても稲穂と青?
「念のため、残った者たちは部屋から出ないようにしてください」
ウルクはわかるけど、森鬼とスピカまで留守番なの!?
パウルの指示が謎のまま、私はヴィに急かされて部屋をあとにした。
普通のトラのサイズになったラース君に乗れるか不安だったけど、楽勝だったわ。
稲穂はご機嫌な様子で先頭を歩き、私から離れようとしなかった翡翠は頭の上で踊ってる。
ルクス様は肩にいて、反対側の肩には青が。
メンバーは変わっても配置は変わっていないという……。
宮殿で働いている人と遭遇するたびに、こちらを拝んでくる。
これは、小さい聖獣を前にして感極まっているのか、稲穂の恋愛成就の噂を間に受けているのか、どっちが拝まれているんだろう?
「ルクス様、キュウビに何か特別な力を授けたりした?」
『いや、特には。キュウビは、稀に色の異なるものが生まれるようにしたくらいだよ』
色違いだと!?しかも、稀にってことは超レアってことじゃん!!
新たなレアもふの情報に、鼻息が荒くなる。
『地球には、金と銀の狐がいるのだろう?』
……これは、神様の使い的な狐のことを言っているのか、実在する銀狐について言っているのか、どっちだ?
前者にいたっては妖怪から神獣まで、いろいろな狐がいる。金も銀もいれば、白と黒もいるし、神道系なら五行になぞらえて赤や青まで加わることもある。
後者なら、アカギツネの亜種だったり、変異種だったりして被毛の色が違うので、金や銀とは言い難い。
「いるといえばいるけど……。それで、何色なの?」
稲穂はまだ子供なので、黄色が強い被毛をしているが、大人になれば真っ赤になるはず。
赤以外のキュウビって、目撃情報すらないんじゃないかな?
『金と銀だ。今は銀のみがいるね』
それはぜひとも会いにいかなければ!!
秘境とかに生息していても、聖獣と精霊がいれば行けないところなどない!
「ルクス様、その子にも会いにいこうねー」
約束として、ルクス様と指切りげんまんした頃、応接室に到着した。
「何を盛り上がっていたのかわからないが、やらかす前にちゃんと言うようにしろ」
ヴィに釘を刺された。
さすがに黙ってどっかに行ったりしないよ。……たぶん。
「じゃあ、ラース君がいっしょだったらいい?」
「デールラントが許せばな」
ラース君とのお出かけを約束させようと思ったら、ヴィは最終兵器をチラつかせてきた。
パパンを説得するのは骨が折れそうだなぁ。
「ほら、部屋に入るぞ」
ヴィが応接室の扉をノックすると、即座に扉が開く。扉の向こうで待ち構えていたような速さだ。
「待たせたな」
「とんでもございません。王太子殿下にご挨拶申し上げます」
女性の声が聞こえてきたが、ヴィが邪魔で誰なのかわからない。後ろから部屋の中をひょっこり覗いてみると、目の前の女性の他に、たくさん人がいるなぁ……あぁぁぁ!!
「ラックさん!?」
ヴィをすり抜けて、部屋の中に駆け込む。
一度見たら忘れられないであろう可愛らしいお耳を持つ、強面な大きな男性。
さらわれる前の宴でも姿を見かけたラックさんがいるではないか!
あれからずっと宮殿にいたの!?
「無事でよかった。それと、あのときは助けてやれなくてすまん」
ラックさんががばりと頭を下げる。心なしかお耳も元気がない。
「ラックさんたちは悪くないよ!大変な状況だったんでしょう?」
パウルによれば、私がさらわれた前後はかなり混乱していたらしい。
敵味方入り乱れてって状況だったので、ラックさんたちも転移魔法陣には近づけなかったと思う。
「それに、お礼を言うのは私の方です。みな様が知らせてくれたと聞きました。ありがとうございます」
私がお礼を伝えると、ラックさんだけでなく、リーダー格の男性も当然のことだと言ってくれた。
「ネマはラック殿しか覚えていないようだから、改めて紹介する」
ヴィにはバレてた……。
レニスでの慰労会のときに名乗ってもらったけど、もうラックさん以外覚えていない。
赤のフラーダのリーダーがユーガさんで、ヴィに挨拶した治癒術師のお姉さんがシャーリンさん。魔法メインのセイラさんとハインさん、弓使いのカルさん、斥候のユゼフさん。
カルさんの格好が、暗殺者みたいなのが気になる。隠密行動するときはいいけど、街中だと逆に目立つよね?
まぁ、好みは人それぞれなので、口に出したりはしないけども。
「彼ら……特にラック殿は証人としても協力してくれている」
「証人?」
獣王様らしき獣人とヘリオス伯爵の配下らしき人物の会話を、酒場で聞いたのが証拠になるの?
「ライナス帝国では、熊族や狼族といった鼻の利く種族には、においにおいてのみ法的な証拠能力が認められている」
つまり、警察犬みたいなこと?
でも、日本ではにおいだけでは証拠にならなかったような?
「この者たちは捜査において偽りを述べないと名に誓っている。そして、酒場にいたのが誰だったのか、ラック殿がにおいで探し当てたんだ」
ライナス帝国の法律をちょっとは知っていても、捜査から裁判までの一連の過程までは教わっていない。
なので、詳しく解説してもらおうじゃないか!
「獣人が持つ特性によって証拠として認められるのは、それだけの実績があるからだ。においだけでなく、声での判別や遠距離からの目撃も証拠となる」
鼻の利く種族以外にも、耳がいい種族、目がいい種族にそういった法令が定められているらしい。
そして、赤のフラーダはライナス帝国軍に捜査協力を依頼された。
今回捕まえた人物の中に、酒場で遭遇した者がいるかどうか。
警察の面通しのように、複数人の中から選ぶ方式なんだって。
ただし、目撃者の獣人の特性に合わせたものになるとか。
鼻の利く獣人の場合だと、容疑者と比較する人は一人で個室に待機し、退出したあとのにおいを獣人が確認する。
これだと、獣人はにおい以外の情報を知ることができないので、先入観など誤認に繋がるものを排除できるというわけだ。
耳がいい獣人の場合は声や足音といった音だけだし、目がいい獣人だと目撃した距離を再現して確認するんだって。
「酒場の人物については、ラック殿に確認してもらい、ゼルティオール・ヘリオスで間違いと」
さらわれる前に陛下から聞いたときは、いくつかの手がかりから、ルティーさんが怪しいって段階だった。
それが、ラックさんが嗅いだにおいで信憑性が増し、ほぼ黒と判断されたのだろう。
「それでルティーは罪を認めたの?」
「いや……」
ヴィは否定をすると、珍しく言い淀んだ。
「彼は今、話を聞ける状態ではない。完全に心を閉ざしてしまっている」
ルティーさんは悪あがきするようなタイプではないので、何かあるのだろうと思ったら、最悪の状態になっていた。
「……心はちゆ魔法でも治せないんだよね?」
私はたまらず、治癒術師であるシャーリンさんに尋ねる。
赤のフラーダの面々は、私とヴィの話を静かに聞いていた。
「残念ながら、心の病いを治す魔法はございません。それは女神様の領分ですので」
わかってはいたけれど、改めて本職の人から聞かされるとつらい。
女神様の領分ということは、死者の世界に行って癒してもらうしかないということ。
こちらの世界というか、創聖教では自死を禁則としていない。
どんな死に方であれ、死すれば女神様のもとへ旅立つ……つまり、女神様に守られる存在となるのだから。
とはいえ、安易に死を選ぶことはよしとされない傾向がある。
怪我が酷く、治癒が不可能の場合。自身や家族の尊厳を守るための場合。こういった、苦しみを持続させてはいけない状況でないと、非難されることもあるらしい。
心の病いの場合は、魂の損傷と見做されるので非難されることはないが……大切な人の死を望む者は少ないだろう。
望む者がいるとしたら、その人も凄く追い詰められているので、救いの手が必要だよ。
「わたくしたちができることは、その方を想い、心から祈ることです。祈りは女神様の慈悲ですから」
まるで教典を読み上げる神官のように、シャーリンさんは女神様の教えを説く。
「親しい者たちのぉ祈りで、心の病いがぁ治ったという話をぉ聞いたことがありますぅ」
ゆったりとした独特なしゃべり方をするなぁと思いながら、セイラさんが語る内容に興味を引かれた。
市井では、家族や友人の祈りで回復した事例がいくつもあるとか。
「興味深い話だが、件の彼は拘禁されているので、身内の面会すら許されていない」
ヴィがルティーさんの状況を伝えると、シャーリンさんはあっさりと関係ないと言い切る。
「距離は問題ではありません。大事なのは想いと祈りなのです」
つまり、遠く離れていても、ルティーさんの回復を願って祈れば、女神様が力を貸してくれる……かもしれないと。
「それならば、試してみる価値はあるか」
なぜかヴィが私の方を見る。
その目は……私にやれと?
ルティーさんが少しでも治るというならやるけどね。
「だいぶ話が逸れたな。本題に戻ろう」
ヴィの一声に、赤のフラーダの面々は姿勢を正す。
「捜査協力の方も一通り終えたので、俺……わたしたちはこちらを出よ……辞そうと思います」
ユーガさんがしゃべっている際、隣でシャーリンさんが小さな声で言葉遣いを指摘している。
「普段の話し方で構わない。それで、ガシェ王国に戻るのか?」
言葉を崩してもいいと許しをもらったユーガさんの顔が、少しだけ和らいだ。
ずっと緊張していたみたい。
「ありがとうございます。捜査官の方から、帝国内にいるようにと言われているので、ライナス帝国での依頼を受けるつもりです」
捜査協力にあたって、謝礼金くらいは用意されているだろうが、何日も拘束されるのは困るよね。
それに、冒険者って宵越しの金は持たないって人が多そうだし。
「呼び出しがない限り、こちらに上がることはないので、ご挨拶をしたくて」
さっき宮殿にいたことを知ったのに、もう出ていくと!?
まだラックさんのお耳を愛でてないのに!
「すぐ行ってしまうの?」
「あ……えーっと……」
ユーガさんは困惑し、他の面々と顔を見合わせる。
「急いでいるわけじゃねーが、俺たちにはお上品な場所が合わなくてな」
ラックさんが気まずそうに話す。
確かに、気を使う空間に長くいるのはきついよなぁ。
ヴィはそういったことを気にしなさそう。
今も、ガシェ王国にいるときと同じように過ごしているし。
本来なら、宮殿でも護衛の騎士を連れていないといけないのに、連れているのはラース君のみ!
宮殿が実家のようだ……って、母方の実家だったわ。
「少しの間で構わん。ネマと話をしてやってくれ」
王太子が言うと命令になっちゃうでしょ!
「お時間があるならお願いします。断ってもらっても大丈夫です」
私がそう言うと、少しでいいならと皆さん承諾してくれた。
ラックさんに、ラックさんの故郷である村に行ったことを伝える。
なんとか山脈の麓にある氷熊族の村で、子供たちにわさびもどきをもらったこととか、お耳が丸くて可愛かったこととか。
「涙の素を食ったのか!?よく平気だったな……」
どうやらラックさんも苦手らしい。
いつか、あのわさびもどきを使って、刺身を食べさせてあげよう!美味しくてびっくりするはず!
「ネマ様は、ラックが怖いと思わなかったのですか?」
シャーリンさんに問われて、私は首を傾げる。
ラックさんのどこに怖い要素があるんだ?顔??
でも、強面の顔は騎士団や警衛隊で見慣れているし。
「こいつは生まれたときからゼルナン将軍の顔を見ているんだぞ?冒険者を怖がるわけがない」
これはゴーシュじーちゃんの悪口では?
「ゴーシュじーちゃんは怖くないよ?ムッキムキだけど……」
あの筋肉もりもり具合は、六十を超える人とは思えないくらい若々しいよね。
私も鍛えて、腹筋割りたいなぁ。
「将軍と手合わせしてみたいもんだな」
「ゴーシュじーちゃんにお願いしようか?」
ゴーシュじーちゃんとラックさんが戦ったら、凄いことになりそうだ。でも、楽しそうでもある。
なんならフィリップおじさんも呼ぼう!
騎士団VS紫のガンダルVS赤のフラーダとか、アクション映画顔負けのバトルが繰り広げられたりして……。
「機会があればな」
ラックさんは優しい手つきで私の頭を撫でた。
ふっふっふ。言質は取ったぞ!
「約束だよ!あと、ラックさんのお耳を触らせてください!」
長く引き留められないので、打ち解けたところでお願いしてみる。
「……そういや、最初に会ったときも耳を触ってたな。まぁ、触るくらいなら構わないが」
ラックさんが承諾してくれて、心の中でガッツポーズをする。
さらに図々しく、お耳を触りやすいように肩車をお願いした。
困った顔をしながらも受け入れてくれたラックさんには感謝感謝だよ。
では、いざ!!
「むむむ?以前よりごわついている?」
耳の後ろ側の毛質が前触ったときよりも硬くなっている気がする。
ふわふわ毛布が年季の入ったごわごわ毛布になったみたいな……。
前の方は見た目通り、柔らかくてもふっとしているんだけど。
「まだ夏毛に変わってないからな。冬毛は長くて厚いんだ」
「冬毛!?」
ちょっと失敬して、外側の毛を掻き分けてみる。
すっごいみっちりしているし、細かな毛が起毛生地に似ていて気持ちがいい。
生え変わる前だから、外側の毛はダメージが蓄積して状態が悪いようだ。
「あったかそうだねー」
「今時期は暑いけどな」
そっか。冬毛だと、気温が上がったときは暑いのか。
こうなると、夏毛ももう一度触ってみたいよね。
となると、ゴーシュじーちゃんとの手合わせを早めに実現させねば!
こうして、赤のフラーダは宮殿を去っていった。
今度はたくさんおしゃべりできるといいな。ラックさんのお耳お触りつきで!




