とりあえず決まった模様です。
大変お待たせいたしました(土下座)
えーっと、なぜかお説教モードのお兄ちゃんに、包み隠さず馴れ初めを話した。
「シンキは真名によって縛られている。ネマに護衛ができたとでも思っておけ」
パパンも森鬼を認めているとなれば、お兄ちゃんも否とは言えない。
「おにー様、あのね…」
お兄ちゃんに抱っこをねだって、耳元で内緒話をする態勢に。
「ヴィにも届けてね」
彼の周りにいるであろう風の精霊にお願いして、ヴィにも声が届くようにする。
「森鬼はね、火水風土の4ぞくせーのせーれーじゅつがつかえるの」
お兄ちゃんとヴィは驚いた表情をしたが、すぐに引っ込めた。
最初からいたメンバーはみんな知っているけど、ヒールランとベルお姉さん、近衛騎士の人たちは知らないからね。内緒話にしたってことで、気を利かせてくれたみたい。
お兄ちゃんから下りると、今度はグラーティアを紹介した。
「フローズンスパイダーのこどものグラーティアだよ!」
掌に乗せたグラーティアを、お兄ちゃんとヴィに自慢する。
グラーティアは一番前の右脚を、よっ!というふうに上げて挨拶した。
「…父上がついていながら…」
「それについては不可抗力だと言っておこう」
なんか、パパンとお兄ちゃんが剣呑な雰囲気だ。
ヴィだけ、珍しそうにグラーティアを観察している。
「見事に特異体だな。特異性はなんだ?」
はて?知らない言葉が出てきたぞ。
「とくいせー?」
「まず、特異体とは魔物のみに見られる突然変異だ。共通するのは、体色が黒一色だけということ。同族喰いが原因と言われているが、確証は得られていない。特異体に現れる、種族の性質を越えた能力が特異性だ」
つまり、グラーティアにはフローズンスパイダーとしての能力の他に、別の能力があるんだね!
つか、フローズンスパイダーの能力も知らないんですけど?
「ここでは危ないから、王都に戻ったときに研究所の方で実験してみるのはどうだ?」
「グラーティア、とられたりしない?」
研究所の魔物を研究している人たちって、すっごくマッドな噂がいっぱいあるから心配だ。
解剖とかされたりしないよね?
「オスフェ公爵令嬢が可愛がっているものを、奪ったりする強者はいないだろう」
それなら、専門家に見てもらうのもいいかもね。いろいろ、魔物の面白い話とかも聞けそうだし。
「おうちにかえったら、おかー様におねがいしてみる!」
グラーティアがどんなチートを持っているか、凄く楽しみだ!
「俺も魔物を育ててみるか…」
ヴィはいたくグラーティアを気に入ったようで、自分の手のひらに乗せて遊んでいる。
見た目麗しい王子様と真っ黒な蜘蛛。
なんかダークな童話とかに出てきそうだが、それが我が国の王子様なのは遠慮したい。
「ヴィル、ラースがいるから諦めた方がいい」
そうだ!そうだ!
ラース君という素晴らしい相棒がいるのに欲張りな奴だ!!
そういや、お兄ちゃんがヴィに砕けた口調って珍しいね。幼馴染みでライバルだけど、TPOにあわせて態度を変えてるってことか。私もお兄ちゃんを見習わないとだな。
私がもの思いにふけっている間も、ヴィはグラーティアと遊んでいた。
ツンツンと突っついてみたり、なでなでして外骨格の固さを確かめてみたり。普通の蜘蛛と違って外骨格がしっかりしているので、感触としてはカブト虫に近い。成長していくと、甲殻類のような外骨格になると思われる。
ヴィは何を思ったのか、グラーティアの両前脚を摘まむと、ぷら~んと宙吊りにしやがった!
前後に揺らされ、振り子のように動かされるグラーティア。
うちの子に何してんだ、この変態鬼畜王子が!脚がもげたらどうしてくれる!!
電光石火の勢いで、ヴィからグラーティアを救出する。
「いたいところはない?」
ケガがないかを念入りに調べて、グラーティアに問う。
グラーティアは大丈夫だよ!というふうに、両前脚を左右に振る。
よかったー。
「お前たち、もう気がすんだか?次の話に移りたいんだが?」
おっと。パパンごめんよ。
でもその前に森鬼から報告聞いておかないと!
「おとー様、先に森鬼からおはなしをきいてもいいですか?」
「あぁ、この町に出るゴブリンのことか」
承諾もらえたので、森鬼に報告をお願いする。
「この周囲に出現していたのは、ホブゴブリン率いる16匹の小さな群れだった。計画のことを説明したが、ホブゴブリンは理解できなかった。仕方ないから、勝負をして、俺の下に入ることになった」
あらら。知能は想像してたより低かったってことか。まぁ、森鬼の群れが異常ってこともありうるが。
「で、その子たちはどうしたの?」
「洞窟に向かうよう指示した。案内には虫をつけたから大丈夫だろう」
虫って…。一応、神聖な存在だからね?確かに小さくて羽があるかもしれないけど、虫扱いはやめようね。
しかも、ゴブリンたちは案内役の精霊を見ることはできないだろうから、精霊たちも大変だ…。
森鬼の虫発言にヴィが苦笑していたから、周りにいる精霊たちが苦情でも言っているのかも。
戻ってきたら、労わってあげようね?
「じゃあ、ひとまずだいじょうぶだね。あとは、レニスのことか。おとー様、レニスのコボルトしゅうげきについて、なにかじょーほーありますか?」
「マノア街道のレニスか?…確か、大規模なコボルトの群の目撃情報と、商隊の襲撃が何件か報告されていたな」
パパンの所まで情報は上がっていないのか。…情報系統が乱れるほど、現状は悪化していると見るべきか。
「レニスはもっとしんこくなじょうたいですよ。ね、はんちょーさん?」
この中で一番情報を持っていそうな騎士団の班長さんに話を振る。
班長さんは突然のことで驚いていたが、すぐに表情を引き締めると、パパンに発言の許可を求めた。
パパンが許すと、班長さんは私の思ってた以上の情報を持っていた。
規模はおよそ100匹。それが、本体とは別に5グループに別れており、警戒や斥候など役割も決まっているとか。グループのリーダーにはハイコボルトがおり、本隊にはハイコボルトの上位種ウェアウルフがいると思われる。
一度、警備の隙をついて、レニスを襲撃されたが、辛うじて防ぐことができた。現在、殲滅に向けて作戦を進行中で、冒険者組合にも依頼して、緑ランク以上の冒険者たちにも協力してもらっているとのこと。
騎士団と冒険者の合同チームはおよそ300人。状況次第ではもう少し増やすだろうって。
「その情報は騎士団からのものか?」
「はい。我々はこの護衛任務が終わったあと、レニスの事後処理を手伝うよう言われております。そのため、アーセンタに戻った際に、統括本部から現状を聞いて参りました」
「しつれいですが、そのとーかつほんぶのせきにんしゃの方はどのようなじんぶつですか?」
「は?責任者でございますか?」
班長さんはなぜ?といった感じだが、パパンは質問の意図を理解してくれているようだ。
パパンの情報との違いが多いから、誰かしらの意図で操作されているのかもしれないと思ったんだけど。
そう考えると、ワイズ領やミューガ領の魔物の情報も王都にいる大臣たちが知らないのも意図的なのかもしれない。
となると、この魔物の件の司令塔になるパパンは人員から見直さなければならないわけで、ご愁傷様としか言えない。まぁ、私にも当てはまるんだけどね。パパンが忙しくなるってことは、パパンの手助けはあてにできないってことだし。
「統括本部隊隊長は元々、王都の中央本隊の隊長の一人でしたが、人事異動でこちらに来たと伺っております。人柄はあまり存じておりませんが、部下からの人気はないように思います」
つまりは左遷?
うーん、なんかいろいろとややこしいぞ!
「おとー様、ヴィのけんりょくってどこまでつうようするんですか?」
パパンがいないと、宰相の権力が使えないからな。お兄ちゃんに領主代理として権力を与えても、子供だからって一蹴されそうだし。同じ理由で王太子殿下も期待できない気が…。
「王国騎士団には効かないだろうな。念のため、ゴーシュから委任状でも書いてもらうか」
ですよねー。やっぱり、ゴーシュじーちゃんの名前が一番効きますよねー。
使えるものはなんでも使っておきましょ!
「おとー様、私たちはどのようにうごけばいいのですか?」
「そうだな。まず、事の始まりはディルタ領の魔物たちが何者かに襲われ、北へと追いやられた。調査もするが、そう認識して構わないだろう。その何者かの目的も、敵か味方さえ不明だが、今は敵と想定して話を進める。名前がないと説明が大変なので、敵を『ルノハーク』、魔物が襲われた今回の事件を『南方領事件』とする」
ルノハークとはまた言い得て妙だな。
ルノハークは魔物の忌避剤の原材料となる昆虫だ。図鑑で見たことあるが、日本人の大半が苦手とする、例のアレにソックリなのだ!しかも、色はコガネムシなんだな。一般女子に比べて、昆虫が平気な私でもちょっと遠慮したいな。
この名前なら、倒すとか襲われたって言っても大丈夫だろう。人目がけて飛んでくることもあるらしいから。
『南方領事件』はいっぱい使われてるから、関係ない人が聞いてもどれを指すのかわからないようにってことか。
「シンキを襲ったのは冒険者ということだったが、ルノハークが冒険者を装っていたか、冒険者組合に依頼を出したか。前者の方が有力な気がするが、そうなるとルノハークはとても大きな組織となってくる」
「あの…」
ベルお姉さんが挙手をして発言の許可を求める。
「冒険者組合に依頼があったか、私が調べてみましょうか?おそらく、地域限定の依頼みたいなので、限られた支店にしか出していないと思います」
「ありがたいですが、ルノハークに見つかった場合、貴女を守る術がありません。組合内部に間諜がいるかもしれませんので、私たちと繋がりがあることを悟られないよう気をつけてください」
パパンに断られて、ベルお姉さんがしょんぼりしてしまった。
でも、ベルお姉さんに何かあってはいけないので、パパンの意見に賛成です。
「公爵は他の領地や騎士団にも間諜がいると考えているのか?」
今度はヴィからの質問。
そこは挙手しとこうよ。なんか学校みたいで面白いからさ。
「ネマ…」
お兄ちゃんからの非難を含んだ呼びかけが…。なぜに不真面目な考えがバレたんだ?
「顔に出てるよ。ちゃんと父上の話に集中しよう」
「はーい」
むぅ。やっぱりまだ顔に出るのか。身内がいると気が緩んじゃうのかも。気をつけよう。
「その可能性は高いかと。ですので、言動には十分注意して下さい。特にネマ。何か問題を起こしたら、すぐに王都に連れ戻すからな」
「…はい、気をつけます」
釘を刺されちゃったけど、大丈夫だよ!…たぶん。
「私は明日、王都に戻るが、ラルフたちは領地視察を続ける。騎士団の者たちには、引き続き護衛を頼みたい。期限は娘が目的を果たすまで。無茶なお願いだとはわかっているが、引き受けてもらえないか?」
おぉ!太っ腹だなパパン!!
でも、断られたら、私の立場ないというか、居た堪れないんだが…。
班長さんが小声で他の騎士たちと相談しているようだ。
私としても、ぜひともお願いしたいのだが。
「上からの許可が下りるのであれば、ぜひご一緒させてください。我々もネフェルティマ様が何をなさるのか気になりますので」
そう言って笑ってくれた班長さん。
ありがとーー!!もう、感謝感謝です!
「ひきうけてくれて、ありがとうございます!」
言い換えれば私の子守とも言える任務だが、笑って引き受けてくれた騎士団たちに最大の感謝を!
「上の方には私からも言っておく。念のためゴーシュの方から正式な指令として出すようにしよう」
「ではおとー様、私たちのレニス行きはきょかしてくれるのですね!」
この話の流れでダメだって言われたら、確実にグレるか最終手段の泣き落としかってことになるな。
「ネマのことだから、駄目だと言っても聞かないだろう?」
「はい!コボルトたちもけいかくに入れたいのです」
「と言うことですので、殿下もラルフも腹くくってください」
んー、なんか引っかかる言い方だけど、許可してくれるならいいか。
「ネマ、ラルフ。これから先は私がすぐに助けることはできない。お前たちが優先しなければならないのは、殿下と自分自身の身の安全だ。魔物もそうだが、ルノハークらしき人物がいても関わるな」
私たちの安全確保が重要なのは重々承知している。なんせ肩書きが重いからな!王太子に継承権第四位な公爵家跡取りなのだから!!
「ルノハークを見つけても何もせず、みのがすの?」
「『何も』するなではなく、『お前たちが』関わるなということだ」
えーっと、遠回しすぎてよく意味がわからないんだけど。
直接じゃなければOKってこと?
「精霊か?」
私が首を傾げていると、ヴィにはパパンの言いたいことがわかったようだ。
「はい。もし機会があれば、ネマに聖獣の力の使い方を教えていただけませんか?」
「いいだろう」
当人を置いて話がまとまっているけど、聖獣の力って精霊が関係してるってことかな?そうなると、私も精霊術が使えるようになる!?
それだったら超テンション上がる!!
でも、一つ問題が…。
私、精霊見えないんだけど?
「私もせーれーが見えるようになる?」
「残念だが、それは炎竜殿次第だ」
上がったテンションを突き落とされた。ヴィめっ!
「見えなくても、精霊を信じれば力は貸してくれる。ネマの周りには、常に精霊がいるから大丈夫だろう」
ヴィの言う、私の周りにいる精霊って、ソルの火の精霊やラース君の風の精霊たちか。
んー、知らないうちにいろいろ助けてもらってるとは思うんだけどね。見れないのは残念すぎる。
このあとは大人の会話というか、班長さんやヒールランも交えての話し合いになり、警備の問題などもあり、このまま町長のお家に泊まることとなった。
あとで仲良くなった騎士さんと、お家の中を冒険しよう!
おねむの時間にちょっとした騒動があったが、まぁ気にしないでおこう。
おまけな騒動
「ラース君、いっしょにねよー!!」
リビングみたいな広間にある暖炉。その前には白い巨体が横たわっていた。
ちなみに、その側でパパンとお兄ちゃんとヴィが談笑していたが無視な方向で。今回のターゲットはラース君のみなのだ!
タタタッと駆け寄って、思い切りラース君に抱きつく。
ボフッとサラふわな毛並みとこんにちはだ。さらにグリグリすると、程よい弾力の筋肉がまた気持ちいい。
「ネマ、ラース殿は殿下の聖獣だ」
知ってるよ、そんなこと。
でも、それとこれは別だよね。
「ヤダ。いっしょにねる!」
「ネマにはノックスもグラーティアもいるから、一人じゃないよ?」
お兄ちゃんが諭すように言う。
「じゃあ、森鬼といっしょにねる」
ノックスとグラーティアがいいなら、森鬼も仲間に入れてくれよ。
「それは駄目」
「むー」
「だったら、俺と一緒に寝るか?」
不貞腐れた私に、ヴィが面白がって提案してきた。
「ヴィル…殺すよ」
途端にお兄ちゃんから冷気がぶわぁっと溢れ出た。
こわっ!
「ラース君がいい!」
おまけはいらないです。謹んでお断りします。
「ふられたな」
お兄ちゃんの嬉しそうな笑顔が眩しい。
「では、私と一緒に寝ようか」
いや、パパンはもういいよ。
首を振って拒否する。パパンが淋しそうな顔をしたが無視だムシ。
「ラース君じゃなきゃヤダ!」
というやりとりを続けること30分。
ついに、やったぜ!
「…わかった。ラースを貸す代わりに、シンキを借りる。それでどうだ?」
「森鬼を?」
「あぁ。シンキに聞きたいこともあるし、警護も兼ねて俺の部屋に泊まってもらう。その間、ネマにはラースについていてもらえばいい。二人もそれでいいな?」
「っち!」
…パパンかお兄ちゃんかわからないが、舌打ちが聞こえた。
そんなに私がラース君と寝るのが不満か!?
お兄ちゃんが舌打ちするとも思えないから、パパンってことにしておこう。私の精神衛生上、よろしくないからね。
「…仕方ありませんね。殿下にそう仰られては。ラース殿、ネマをよろしくお願いします」
「グルルッ」
そのお返事は、任せておけって感じかな?仕方ないな…じゃないよね??
「やったー!ラース君、おへや行こう!!」
「やれやれ。なんだかんだ言っても、ヴィルもネマには甘いな」
「あれに勝てるのはセルリア殿くらいだろう」
なんて会話をお兄ちゃんたちがしていたみたいだが、ラース君に乗ってお部屋に向かう私には聞こえなかった。
「ラース君はここね」
ベッドの左側をポフポフと叩いて、側に促す。
ラース君は静かにベッドに乗ると軽く伸びをして、体を丸めて寝る態勢に入った。
「グラーティア、出ておいでー」
髪の中にいたグラーティアを、ラース君の頭の上に置く。
ラース君にビビっているのか、グラーティアは私が置いた状態で固まっている。
そのまま観察していると、ゆっくりと動きだした。ラース君の毛並みの素晴らしさがわかったのか、安定する場所を見つけると脚を全部伸ばして寝そべった。体全部でもふもふを堪能するつもりか!?
クモの寝方ってそれが正しいのか?
グラーティアだから変わっていても不思議ではないが。
ノックスは部屋の椅子に留まって、すでにうとうとしている。
今日は昼間頑張ってたしね。
爆睡しすぎて、脚滑らせて落ちたりしないでね?
あ、今コクンってなった。…大丈夫かな?
私もベッドに潜り込み、ラース君の前脚を枕にする。
あぁ、このサラサラ、たまらん!
ついでだから、体もしっかりと密着させてみる。
おぉ、あったかーい!
これは朝に寒い思いしなくてすむな。
さすがラース君様々です。
今日はいい夢が見れそうだな。
では、おやすみなさーい!
思ってたより話が進みませんでした(;´Д`A
次こそはわんこたちと会えるはず(笑)