★閑話 部下がダメダメな件について
うまく本編に組み込めなかったお話です。
場面としては、「風雲急を告げるかも?」の前。カットした話し合いの内容です。
森鬼のことが一段落して、ようやくあの計画のことをパパンと話し合いできた。
「確かに、我が領地内で行う分にはやれないことはない。しかし、いくつか問題点もある」
そう言ってパパンは、一つずつ問題点をあげていった。
「まずは場所だが、どんな頑丈な結界を張ったとしても、魔物がいるという事実を地元住民が納得するとは思えない」
人間が作り出したり、管理するものに絶対はないことは、あちらの世界で十分に理解している。
科学技術がどんなに発展していようとも、絶対はないのだ。たとえ天文学的数字であろうと、イレギュラーが起こる確率はある。
では、それの対策をどうするべきか?
一つは、場所を辺鄙な所にする。森がある山なのは外せないが、周りに村などの集落がない所なら南にこだわらなくていい。
不便であるが、転移魔法の装置をつけてもらうこともできるだろうし。
それでも不安があるのなら、ゴーシュじーちゃんを抱き込んで、騎士を常駐させるという手もある。
「では、それらの費用はどうするのか?」
うーん、初期投資の資金繰りってことでしょう?
スポンサーが必要だよね。でも、修行場所に宣伝効果とかないだろうしなぁ。あるとしたら、お店とか宿とか…。
そうだ!各ギルドに出資をお願いしてみるのはどうだろうか?冒険者ギルドはもとより、商人ギルド、鍛冶師ギルド、薬剤師ギルドなんかも店を構えれば利益は出ると思うんだ。
やっぱ、武器や便利アイテム、回復薬はレベル上げには欠かせないよね!
あと、酒場や宿では魔物の分布とかを有料で教えたり…。
って、完全にRPGじゃねぇか!!
もういっそのこと、流行りの迷宮経営にするか?
ということで、RPG要素がたっぷり詰まったエセ迷宮経営構想をパパンに話してみた。
やっぱり、異世界にはオタクの知識が必要だわ。
「それは面白そうだな。費用の半分をオスフェ家で持って、残りを組合に持ってもらう。まぁ、金を出してもらうからには、いろいろと融通しなければならないだろうが」
その辺の采配はパパン、任せた!
にしても、組合って言葉がしっくりこないな。日本の労働組合とは違うのにね。
組合がやっていることは、仕事の斡旋とか価格調整。
組合に入るには、各組合が定める試験に合格すれば誰でも入れるし、組合に所属していれば職業として名乗れる。
組合に所属せずにやっている人たちは野良と呼ばれ、ハブられるとか。
試験は簡単だから、組合に入った方が仕事も回してもらえるし、世間的信用もつくから、野良はほとんどいないらしいけど。
組合っていうよりは、ギルドの方がピッタリなんだけどなぁ。
これを機に、ギルドって言葉を広めようかな?
なんて考えている間にも、パパンとの話は進む。
「あとは人事か…。人間ももちろんだが、魔物の方も選ばないといけないだろう?」
「じんせんは私がする!」
この能力のおかげで言葉が通じなくても、ある程度なら意思の疎通はできるんだから、統制の取れた魔物の群れを探せばいいんだよ。んで、そのボスを説得して、群れごと引き入れると…。
たぶんだけど、魔物の中にも神様のお気に入りがいて、そしてそいつらはチートだ!森鬼みたいにね。そういうのを狙って行こう!!
問題は人間の方。人間には能力が効かないからね。動物好きで、魔物に偏見がない人を探さないとね。
けど…いるかな?
とりあえず、必要な人材を紙に書き出してみる。
まず、営業が二人くらいでしょう。各組合の勧誘に、お店との橋渡しとかかな?
経理にお金の管理をしてもらうから、数字に強くて、倹約家な人がいいよね。
なんでも屋な総務には、事務系から法務系まで、書類関係を全部お願いしたいから、我が家の使用人みたいなスーパーマルチな人がいるといいんだけど。
あとは、治癒術師!これは絶対外せないよ!
ただ残念なことに、大人の知り合いなんて竜騎士たちか獣騎士たちしかいないんだよね。
大臣ズの兄ちゃんたちに、誰か紹介してもらおうかな。
なんてことを箇条書きしていたら、パパンが覗き込んできた。
むっ、勝手に見るのやめてよね。
「調査、研究の人員を加えてみたらどうだ?」
「なにをしらべるの?」
「一回の戦闘で、双方にどれだけ被害が出たか。一定期間でどのくらい戦闘力が上がったか。調べておけば、規模を大きくするときにやり易くなるだろ?」
なるほど!
確かに、そういう情報があった方が宣伝もし易くなるね!
でも、パパンが本当に欲しいのは、別のものだよね?
「そーだね!森鬼たちがりようされないためのたいさくにもつかえるね!」
パパンを除く、周りにいた人たちが驚いている。
あ、そうそう。あまりにも空気すぎて忘れてたけど、パパンの部下二人と騎士団の班長さんが同席してるのだ。
森鬼もいるけど、彼は静かに聞いているだけ。
事の主導権は私とパパンにあるってわかってるのと、こういう場で主の許可なくば発言しないってことだと思う。
なんか、ほんと魔物っぽくないよね。
「こうかが高ければ、きしだんのくんれんに取り入れてもいいし、りえきが高ければ、こくえいじぎょうとすることもできる。でも、ほんとーはまものをしらべたいんでしょ?もし、まものをじゅんちできれば、こくぼう…いや、りゅうきしといっしょで、せんそうのかなめになるものね」
考えれば考えるほど、我ながら恐ろしい計画だな。っても、最初はそこまで深く考えてなかったんだけどね。
森鬼が求める環境で、お金が取れれば一石二鳥みたいな?
まぁ、あの王様なら戦争しようぜぃってことはないと思うけどさ。他の貴族どもには注意しとかないとなぁ。
「お嬢様はちゃんと理解されているのですか?」
こら、部下その1!何気に失礼な発言だぞ!!
空気なのに空気読めないってどうなのさ?前も空気読まずに魔法ぶっ放しただろ!
「あなたが言っているいみがわかりませんけど?」
コテンと首を傾げて、ちょっと嘯いてみる。
まぁ、部下さんたちにとっては、子供がそんなとこまで頭が回るわけないって思いたいんだろうけどね。
残念。一応中身は大人なんです!
…たまに自分でも忘れてたりするけど。
アンリー対策の一環で、パパンとママンには政治のこととかいろいろと質問攻めにしてたから驚かないんだと思う。
だってパパンは一応政治家だからね。
まぁ、二人は親馬鹿を発揮して、「さすが私の娘だ。頭がいいな」とか思ってたりしてね。
「ネマは賢いな」
そう言って頭を撫でてくれるパパン。
ほらね。
「宰相、子供の戯言を本気で実施されるおつもりですか!?」
うーん、やっぱりそう取られちゃうよね。私が表立って動くのは無理か。
誰か代理で動いてくれる人も探さないとな。
「そうは言うが、ネマの計画は利点が多い。砦を建設して、騎士団を常駐させるよりも、魔物の被害は減ると思うが?」
それでも納得いかないという顔をしている部下二人。
「さて、一番の懸念事項だが、需要と供給がちゃんと保たれるのか…。私が言いたいことはわかるね?」
「ぼうけん者にまものがころされても、まもののはんしょくが追いつくかってことだよね?」
それについては一応考えてはあるんだけど、かなり残酷な方法なんだよな。
きっと、ほとんどの人は不快だと感じる。
「何かあるなら言ってごらん」
パパンに促されて、意を決してその方法を説明した。
「あのね、ぼうけん者をせんりひんとしてみとめるの」
「なっ!女性を魔物の餌食にしろって言うのですか!!」
まぁ、率直に言えばそういうことだけどさ。
この計画を考えついた段階で、森鬼には確認している。
人間の女でも、繁殖は可能かどうか。また、その逆はどうなのか。
答えはどちらも可能だ。
今の所、ゴブリンとオークに限るが、人間の女を孕ませる、もしくはメスが人間の子を孕む、そのどちらでも繁殖できるというのだ。
そして、人間との子は発育が著しく速く、また強い個体になるということ。
それを踏まえて考えると、捕まえることができた冒険者を戦利品として認めれば、繁殖のスピードをコントロールすることもできる。
増えすぎれば、捕まえるなと言えばいいだけのこと。
「じょせいだけではなく、にんげんの男とメスでもはんしょくはかのうですよ」
「しかし、たかが修行で…」
「たかがですか…?そうやって、ほこりをもってぼうけん者をやっている人たちをあなどるのですか?」
部下たちの言い方には神経を逆撫でされるような、なんかカチーンって来るものがあるよね。
「みずから強くなろうとする者たちは、ぼうけん者としてのきょうじを持っているからこそ、強くなりたいと思っているのでしょ?そういった人たちのしゅぎょーをあまくしたところで、来てくれるとは思いません。また、しょしんしゃにとっては、かくごをみきわめるいいきかいじゃないですか」
「覚悟…ですか?」
「そう。つねに『死』ととなりあわせであるということ。どんな死に方をするかわからないということ。そして、じぶんがころすということ」
冒険者と言えば格好はいいが、つまりは何でも屋である。組合が提供する依頼をこなして行くわけだが、魔物退治も盗賊退治もあるだろう。
修羅場を経験していき、生き物を人間を殺す方法を覚えていく。
ある意味、生殺与奪権の奪い合いとも言える。
殺す覚悟、殺される覚悟。
武器を持つ職業には必要なものだと思う。
「はんちょーさんはわかりますよね?みなさん、きしとしてかくごなさってますしね」
覚悟が決まっている者は動きに表れる。決断が早く、動きに無駄がない。
「お嬢様が覚悟と言っておられるのは、通過儀礼のことですか?」
「つうかぎれい?」
「王国騎士団の者は通過儀礼を経験して一人前と認められます。たまに任務に恵まれず、10年経っても通過儀礼を終えない者もおりますが」
「その通過儀礼とはなんなのですか?」
部下二人も、班長さんの話に興味津々ってとこか?
「人を殺すことです。今は戦はないので、討伐任務などで攻撃してくる犯罪者をちゃんと仕留められるか。それが通過儀礼です」
やっぱり、そういうのあるんだね。
一見、怖い話に思えるけど、殺さなきゃ殺される…。これもまた弱肉強食。社会という仕組みの一つ。
「…人殺し…」
だぁぁぁーー!!このKYめ!
班長さんがしょんぼりしちゃっただろう!もうお前ら口を開くんじゃねぇ!
私は班長さんの側に行き、手をぎゅっと握って言葉を紡ぐ。
「きしたちがにんむにおいて人をあやめることに、あなたたちが気にやむことはありません。あなたたちは、国を守るためにおこなったのです。国とは民です。民なくして国はそんざいしえません。国を守るためのせきにんは国王へいかをはじめ、私たちきぞくがとるものなのです。ですから、あなたたちはむねをはってください。もんくがあるなら、めーれーを出したへいかに言えと、そう言っていいのです」
ちゃんと伝わったかな?
さすがに個人で抱いている罪悪感とかはどうしようもないけど。
「私のことばをぎぜんだと思ってもかまいません。ですが、あなたたちに守られた民がたくさんいることはおぼえておいてくださいね」
私は死というものに直面したことはない。こっちの世界に来る前でも、物心つく頃には両親の祖父母は他界していたし、こちらに来てからはなおさらだ。
そんな私が言った所で上っ面だけのものでしかないが、この国の民が騎士団によって守られているのは事実だ。
「さて、話がそれてしまいましたが、ぼうけん者をせんりひんとしてみとめてもらえます?」
私は、ここにいる人たちを見遣った。
班長さんはまだ複雑な顔をしていたが、先に進めないと終わらなさそうだし。
「しかし…」
まだ言うか!このやろう!!
しょうがないな。妥協案を出しておくか。と言っても、この妥協案までが計画の一部なんですけどね。
でもさ、別に部下さんたちの許可は必要ないと思う。領地内のことであれば、パパンの裁決で決まるんだし。
「しかたありませんね。では、きゅうさいしょちをくみこめばいいのでしょう?お金をはらえばそくきゅうしゅつ。じょうけんをみたせばかいほうでどうですか?」
「どのような条件ですか?」
「きゅうしゅつは一人につききんか5枚。かいほうは、じょせい2回しゅっさん、だんせいは5匹にんしんさせるのでどうですか?」
「その差は…」
「もちろん、しゅっさんのほうがたいへんだからに決まってるじゃないですか」
即救出になれば、こっちの資金が潤う。支払われなくても、繁殖のコントロールはできる。まさに一石二鳥!
まぁ、人間とじゃなくても繁殖はできるから、こっちとしては即救出を選んでもらえるとありがたいんだけどな。
「この短時間で、よくそこまで練り込んだね」
あまりできのよろしくない脳味噌ですが、RPGとして考えるとアイデアがいっぱい出てくるというオタク脳なんです!
というか、パパンは冒険者を戦利品とするのは快諾ってこと?
まぁ、確実に利益は見込めそうだしね。そういうとこ、意外にシビアだよね、パパンは。
「運用開始時期だが、早ければ早い方がいいだろう?」
そうだね。森のゴブリンたちのこともあるから、遅くても夏までには開始したいな。
「夏か…あまり時間がないな。このあとの視察は、候補地選びに切り替えよう。それと同時に、この計画に携わる者も選出していく。屋敷に戻ったら、ネマには計画書を作ってもらうからな」
「はーい!」
というわけで、これから忙しくなりそうです。
部下さんたちは「宰相の部下」です。
王宮で政治に関わる人たちなんですが、今回はおまけで同行させてもらっています。
優秀な部下たちは宰相の仕事を代行しているため、忙しくて行けねーよ!っていうのが真相です。
騎士団の班長さんは実直な人なので、人間としての倫理とか任務や部下についてとか、悩み多き人みたいです。ストレスでハゲないか心配だ…(笑)
ご指摘いただいた、解放条件の金額ですが、銀貨50枚=金貨5枚ですので、金貨の方に変更しました。500万円だと思って下さい。低ランク向けにしては随分ぼってますが、原案の状態ですので、今後ネマが色々調べて、パパンからダメ出しくらって、改善されます。