風雲急を告げるかも?その2
2階のパーティー用の小部屋を借りて、ヒールランから話を聞けることになった。
一応、私に何かあったらいけないとの気遣いで、ベルお姉さんも同席することに。
森鬼がいるから大丈夫だけど、まぁいいか。
で、改めて自己紹介をする。
「先程は失礼いたしました。この町で会計監査役を勤めております、ヒールラン・デュトです」
会計監査!?
そんな役目があったのか。知らなかったわ。
あっちの世界でも会計監査あったけど、どんな内容までかは知らないんだよな。領収書をまとめたり、決算したりとか?
「デールラント・オスフェのじじょ、ネフェルティマです。さっそくですが、ちょーちょーさんのけんについてきかせて下さい」
「…ですが、お嬢様におわかりになるか…」
あぁもぅ!本当に子供っていうのはネックだな!!
「おとー様が私をしさつにどうこうさせてもだいじょうぶなくらいには、ちしきをもっていますよ」
大人のドロドロした話を、5歳児が理解できるって思う方がおかしいのはわかってるんだけどね。
お兄ちゃんは聡明、お姉ちゃんは利発、私はお転婆。オスフェ家3兄妹は社交界でそう言われているらしい。
まぁ、間違ってないので何も言えないが、私だけ種類が違うのにはウケた!
「…わかりました。ここ最近、魔物による被害が急増していることについてはご存知ですか?」
「はい。そのけんについては、へいかのごめいれいで、おとー様がちょうさにあたると思います」
ヒールランは一つため息をつくと、重たそうに口を開いた。
「このパーゼス代でも、魔物による被害が相次いでいます。ですが、このキャスは例年に比べて、少し増えた程度です。多少、けが人が出てしまいましたが、それを町長は誇張し、死人が出たと虚偽の報告をしていました。それにより、代主様からお見舞金として、金貨5枚もいただいているのです」
金貨5枚が多いか少ないかは、何名死んだと報告したかにもよるが…。それが個人の懐に入るとなると、多いわな。
「きしだんにはお願いしなかったのですか?」
基本、こういった魔物退治は騎士団の任務の一つだ。
冒険者組合に出される魔物の依頼は、個人の私有地で発生したものか、あまりにも大量発生したとかで騎士団のお手伝い程度のものが多い。
まぁ、場所によっては、騎士団の負担を減らすために、組合にお願いしている所もある。特に繁殖能力の強い魔物は、常に依頼があるらしい。
「騎士団が間に合っていれば、町長も馬鹿なことはしなかったでしょう」
ゴブリンが目撃されて、すぐに騎士団に退治をお願いしたが、とある事情により騎士団が来れなかった。その間に、ゴブリンに遭遇した町人がけがをしてしまった。
そこで町長は閃いた!死んだことにすれば、騎士団の不手際として慰謝料が!!素人の浅知恵、ここに極まれり!
っていうことらしい。
「他にも、街道の維持費を水増ししたりと、ちょこちょことやらかしてます」
うわー、なんだろう…小悪党にもなれてない小物?いろいろと残念感漂ってるね。
「ちょーちょーさんがおーりょーしたとゆーしょーこはありますか?」
「えぇ。裏帳簿を嬉しそうにつけているところを見たことありますよ」
う、嬉しそうにって…まったくもってダメじゃん!人の目につくところで記帳しちゃうってどうなのさ!?
とっても残念すぎる小物な町長に会ってみたいよ!!
「しょーこになるものがあるなら、すぐにおとー様にまかせちゃいましょー!」
「それは願ってもないですが…。裏帳簿は町長が隠し持っているかと」
そうだなぁ。人に見つかるのを恐れて、自分で持っている。魔法や魔道具を使って隠している。あとは、隠し金庫とか魔法で感知されない場所か…。
まぁ、証人はいることだし、ここはパパンにサクッと丸投げしておこうっと。
「ちょーちょーさんがおーりょーしていることがまちがいないと、おとー様の前で『名にちかう』ことができますか?」
「もちろんです!」
なら問題なし!
それより、気になることが一つ。
「きしだんが来れないげんいんがなんなのかごぞんじですか?」
騎士団はさっきも言った通り、治安維持も任務に含まれている。そのため、各領地に12部隊中8部隊が配備されているのだ。
それが来れないとは、いかなる状況なのか、それが知りたい。
「ここから西に行った所にパーゼス代で一番大きな都市、レニスがあります。マノア街道が通っていることもあり、ミューガ領との流通の拠点でもあるのですが、コボルトによる略奪被害が酷いらしいのです」
マノア街道はオスフェ領を横断する一番大きな道だ。道路は常に魔法で整備されているし、治安もいいので、ミューガ領やワイズ領との行き来するのに利用者は多い。
だが、そこだけにかかりっきりというのもなぁ。職務怠慢か?
「コボルトの数が多い上に、組織だった動きをしているとのことで、一時はレニスの街も危なかったとか。それで、この地域の騎士団はほとんど駆り出されていて…」
はい、キタコレー!!
組織だった動きってことは、リーダーがいるってことで、森鬼みたいな変わった子がいるかも!これはもう、コボルトをあの計画に取り込んじゃえって流れですよね。
安直かもしれないけど、ウェルカムわんこ!
「…主、少し落ち着け」
むむ、私の心の内を読むとはケシカラン!
「あれ?森鬼、思ってることがわかるのうりょくとかあった?」
「いや、ない。だが、うぇるかむわんこと呟いていたぞ」
うわー恥ずかしい!!
興奮しすぎて、声に出していたのか…。
「…今のはわすれてください」
記憶の彼方に忘却してくれ!
しかし、レニスか…。立ち寄る予定はまったくないが、お兄ちゃんが合流したらお願いしてみるか。先にパパンに言うと、危険ってことで即却下されそうだしな。
そうなると、町長のことはパパン任せで、あとはこの町に出るっていうゴブリンたちか。
んー…んんー………。強行するか?
「じゃあ、ヒールランさんは私といっしょにおとー様のところに行きましょー」
そして、声を囁くレベルにまで小さくして、森鬼にお願いする。
「森鬼はここらいったいのゴブリンのむれにせっしょくして、せっとくしてきてほしーの」
森鬼は風の精霊のおかげで、どんな小さな声でも聞き損じることはない。
ひょっとしたら、パパンたちの会話も拾っているかもしれないな…。地獄耳を越えてるよ。
「説得?」
「そ。森鬼の下に入るようにね」
森鬼の下というか、鈴子の配下かな。
ここから鈴子たちのいる所までだと、群で移動しても2~3日ってとこか。まぁ、他の魔物に襲われて、到着する前に全滅っていう恐れもあるが。
その点を踏まえた説明をしてもらって、ゴブリンたちが納得するかはわかんないけどさ。
「承知した」
こっちも森鬼に丸投げになっちゃうけど、人間がゾロゾロ行くよりかはマシだと思うし。まぁ、ダメだったら私が行ってもいいしね。
じゃ、私たちはパパンを探すとしますか。
冒険者組合の前で森鬼と別れ、なぜかベルお姉さんの案内で町長のお家に向かうことに。
おっと、忘れないうちにノックスを呼んでおかないと。
レスティンからもらったノックスの七つ道具のうちの一つ、通信筒を取りつけて、伝書鳩よろしくパパンへのお手紙を運んでもらう。
入れ違いになったり、町長のお家にいなかったりしたら時間の無駄だしね。
「シンキさんお一人で大丈夫でしょうか?いくらゴブリンだけと言っても、危険だと思いますが…」
ベルお姉さんたちには、森鬼がゴブリン退治をすると説明した。
心配してくれるのはありがたいが、森鬼さんはホブゴブリンの時代から鬼のように強かったですよ。
それに、同じ種族だし、大丈夫ですよーとはさすがに言えないので、適当に誤魔化しておく。
「森鬼はおとー様と同じくらいつよいので、しんぱいないですよ!」
実際どっちが強いかは知らんがな!!
予想としてはパパンの方が強いんじゃないかな?
「ちょーちょーさんって、むかしからちょーちょーなんですか?」
「えぇ。キャスの町長を代々務めているの。今の町長は代替わりして15年くらいかしら」
ふむふむ。世襲制ですか。
そして、ベルお姉さんもこの町の出身なんですね。
「いつぐらいからおーりょーしていたかわかりますか?」
「およそ5年くらい前からでしょうか」
5年かぁ。10年は真面目にやってたんだね。真面目にやるのが馬鹿らしくなったのか、誰かに入れ知恵されたか…。うん、きっと後者だな。ってことは、誰か共犯もいるってことになるな。
「ヒールランさんは確か3年前にキャスに来られたんじゃありませんでしたか?」
ベルお姉さんの問いかけに、はいと答えるヒールラン。
「5年前って、よくおわかりになりましたね」
「過去の記録も調べましたから。私の前任者は真面目に仕事はしていなかったようです」
すぐに気づくぐらい、杜撰だったのか…。こりゃ、前任者の適性も疑われるな。
なーんて会話をしているうちに、比較的立派なお家の前に来た。
屋根の所にノックスがいるので、ここにパパンがいるのは間違いない。
で、作戦という作戦はない!本人の前で、パパンに言ってやろう!
「それだと、裏帳簿が見つからなかったら逃げられるんじゃあ…」
「でも、せいしきなきろくにもあやしいぶぶんがあるんですよね?それもじゅーぶんしょーこになると思いますけど??」
つか、パパンに口で勝てるのは、陛下かママンしかいないと思う。実質この国のナンバー2なわけだし。
これくらい朝飯前でちょちょいと終わらせないと、宰相の肩書が泣いちゃうよ?
できなかったらママンに言いつけてやろうっと。
意気揚々とお家の玄関に向かうと、仁王立ちのパパンがお出迎え…。洞窟のパパン、再び!!
「ネフェルティマ、言い訳があるなら聞こうか」
きたきた、絶対零度の怒りのオーラ!
これには逆らってはいけません。
「おとー様、しんぱいかけてごめんなさい。それと、みんなにもめいわくかけてごめんなさい」
素直に謝っておく。部下さんや騎士団のみんなにも謝ったんだが、逆にビックリされた。
いや、貴族といえど、間違ったり悪い事したら謝りますよ。ちゃんと。
たぶんだけど、皆さんパパンから怒られちゃったよね。その辺は私が浅慮だった!すまん!
「ぼーけん者くみあいの中を見てみたくて」
「シンキはどうした?」
「もんだいになってるゴブリンのところ」
それを聞いて、パパンははぁーっとため息を一つ。
「ネフェルティマ、お前がとった行動がどんなに愚かなことか理解できるか?公爵令嬢として、外に出すのは時期尚早だったかもしれんな」
パパンの言葉がすごくショックだった。パパンは危ないからとか何か理由があって、私のお願いを却下することはあっても、こういうふうに否定というか拒絶されることはなかった。
だから考える。
少しパニクって、思考が空回りしているけど、自分の行動を振り返る。
私がとった行動は、『黙ってお出かけ』したこと。
カチリと考えが一つまとまった。
そして、それを理解すると、自分があまりにも愚かで、それをやらかしてしまったという事実が恥ずかしくて、血の気が引いて、涙腺も緩みそうになった。
泣いたらダメだ。ここで私が泣くのは卑怯だ。ただ、穴があったら入りたい。つか、埋まりたい。
私がやらかしたことは、職場放棄に近い。いくら私の目的が、あの計画の候補地探しと言えど、当初の予定は領地視察だ。パパンのおまけな感じで連れてきてもらってはいるが、一応視察団の一員だ。
それなのに、責任者の許可なく離れた上に、護衛もつけていなかった。これで私が事件に巻き込まれていたら、騎士団の人たちは責務を果たせなかったと処分を受けることになっただろう。
『身分は下の者を守るためにあるもの』
そう両親に教わっていたにも関わらず、私自身がそれを理解できていなかった。私が勝手をすれば、割を食うのは下の者。私の行動がマイナスに働くこともあるのを知っていなければならなかったのに。
思い返せば、それはあちらの世界でも日常にあったことだ。仕事でトラブルに合ったとき、庇ってくれたのは直の上司だった。無茶ぶりを言ってきたのは、教育係だった先輩だった。
今の私はその先輩と同じだ。
断られない、怒られないという立場を利用して好き勝手やっていたんだ。そりゃあ、パパンに怒られても仕方ないよね。
「いくら父上と言えど、ネマを泣かせたら殴りますよ?」
聞き慣れた声と共に、突然持ち上げられる体。
何事かと思って顔を上げれば、そこにはここにいるはずのない人物が!
なんでいるのさ!お兄ちゃん!!
昨日の今日で、どうやって王都からここまで来たんだ!!!
キラッキラッな笑顔が爽やかなお兄ちゃん。
お兄ちゃんの顔を見たら安心した。
お兄ちゃんもお姉ちゃんも、必ず私の味方をしてくれる。たとえ私が悪くても、一緒にママンに怒られてくれる。
安心したら、涙腺が緩んでしまった。
「ふうぇ…」
情けない顔を見られたくなくて、お兄ちゃんの肩にグリグリする。
「よしよし。父上は殴っておくから、大丈夫だよ」
待て待て兄よ。殴っちゃダメでしょ!
イヤイヤというふうに顔を押しつけて、私が悪いと訴える。
やべぇ…お兄ちゃんの服に涙と鼻水が…。と思った所で、誰かがハンカチを差し出してきた。
その人物に涙でぐっちょぐちょの顔を拭かれ、鼻を軽く摘ままれた。鼻もかんでおけってことですか?
ちーーーん!!
はぁースッキリ!
ハンカチが視界から去ると、あらやだ幻覚が…。
最近忙しいとかで会えなくて淋しいっていう深層心理が見せた幻覚…ってナイナイ!
そんな乙女的思考は持ち合わせておりません。
ってことは本物ってことになっちゃうんだが…それはそれでマズイので却下でいいですかね?
「馬鹿は免れたか。よかったな」
「ネマは聡い子ですからね。まぁ、考えるより先に体が動いてしまいますが」
クスクスと上品に笑うお兄ちゃん。
そして、私に対しての口の悪さ。本物だ!
久しぶりに聞いた声は変声期を終えてから、無駄に色気を含むハスキーボイス。成長期から伸びた身長と鍛えられた体。まぁ、ご令嬢たちがほっとかないわな。
見なければよかったと、三度お兄ちゃんの肩にグリグリする。
つか、お兄ちゃん。馬鹿も猪突猛進もそんなに差異なくね?
「…殿下…」
パパンのため息混じりの呼びかけにより、パパンも部下さんたちも騎士団も臣下の礼をとる。
それに倣って、ヒールランとベルお姉さんは敬愛の礼をとっている。
敬愛の礼は貴族と王宮に勤めている者以外がするやつで、男女共に両膝をついて右手を胸に当てる。こちらも許しが出るまで顔を上げてはいけないんだよ。
はっ!私もやらないとダメじゃん!
おーろーしーてー!!
「おにー様、おろして?」
お兄ちゃんから下りると、その場で礼をする。
ヴィから楽にしていいと言われ、全員が礼をとくと、すかさずパパンがヴィに詰め寄った。
「殿下、なぜこちらにいらっしゃるので?」
「公務が片付いたのでな。息抜きにネフェルティマと遊ぼうと思ったら、視察に同行していると聞いたからだな」
気のせいかな?名前呼ばれたはずなのに、おもちゃって聞こえたぞ??
「陛下はご存知ですよね?」
「ああ。ちゃんと承諾は得てきた。監視はつけられているようだがな」
パパンから聞いたことある!王様のための忍者みたいな秘密集団!!諜報部隊とは別の組織で、王様の私兵って扱いらしい。
「陛下が戻れと言われた場合、大人しく戻ってくださいね」
パパン、目が笑ってないよ!口元には微笑みが浮かんでんのに、目がガチだよ!!余計な仕事増やしてんじゃねぇぞっていう内心がだだ漏れしてるよ!
ヴィも負けず劣らずの腹黒笑顔だけど。
触らぬ神に祟りなしってことで、私はラース君に癒してもらおっと。
「で、その者たちは?」
パパンから急に話を振られ、はて?っと首を傾げてしばし。
思い出した私はポンッと手を打つ。
そうでしたそうでした。紹介がまだだった。
「くみあいでおせわになったアリアベルおねーさんと、この町のかいけーかんさのヒールランさん。ヒールランさんはおとー様におはなししたいことがあるんだって」
「私に?」
「うん。少しきいたけど、おとー様の力がひつようだと思ってついてきてもらったの」
パパンしか頼れる人はいないというニュアンスを込めて訴えてみた。
てか、基本私のお願いにはちゃんと耳を傾けてくれるパパンなので大丈夫だと思う。まぁ、そのお願いを聞いてくれるかは別だけどね。
「…ネマがそう言うのであれば、領主か宰相としての判断が必要ということだろう?わかった。話を聞こう」
おぉ!ものの見事に私を買いかぶっている!これも親馬鹿なゆえか!?
ごめんよ、パパン。
首を突っ込んだものの、別件で面白い話が出たから、早くこっちを終わらせるために、パパンの権力で…とか思っててごめんよ。
「話は中で聞こう」
そう言って、私たちをお家に促すパパン。
なんか、勝手知ったる我が家みたいなノリだけど、他所様んちですよ。
玄関に入ると、コメツキバッタがいた。手揉みして、ヘコヘコして、腰が低い。典型的な小物キャラ…あ、町長か!
見た目は普通。王都の商業区域の八百屋のおっちゃんに少し似ている。
「領主様御一行」には満面の笑みを、私とお兄ちゃんとヴィにはなぜ子供が?という困った表情を、ヒールランたちに至っては嫌悪の表情。百面相、お疲れ様です!
「すまないが、部屋を借りてもよいか?」
「この者たちが何かご無礼でも?」
「娘が世話になったようでな」
んー、偉そうなパパンってなんか違和感。いや、偉いんだけどね。ほら、私には子煩悩なパパンだし。
とりあえず、町長の案内で大きな部屋に通してもらった。
「みぃ〜お」
その部屋には可愛らしい先客がいた。
窓辺で日向ぼっこでもしていたのか、真っ白なリアが大きく欠伸をしている。
リアはネコのようでいて、ネコではない。番もしくは親子の少数の群れで生活していて、街での生活に適応した野生動物なのだ!
リアは自由気ままに餌を捕ったりもらったり。でも、人間の家に住み着くようなことはしない。
外見はネコにそっくりなのにね。
ネコよりも少し小さい体と、丸みを帯びた耳、太めの尻尾。
「お家の中にリアがいる!」
そう言って、真っ先にお部屋に入りたかったが、ここはグッと我慢。
ヴィについてきた近衛騎士の人たちが、素早く部屋を検分して、危険がないと判断し、どうぞと入室を促される。
よし。お行儀悪いけど、走ります!
「こんにちは!」
出窓の棚の部分というか、リアが寝そべっているスペースにグイッと乗り出した。
リアが興味を持ってくれたのか、フンフンと匂いを嗅いで、私の鼻をペロッと舐めた。
そういや、ラース君もよく同じことするな。なんの意味があるんだろ?
にしても、この子は変わってるなぁ。家にいることもそうだけど、この子の目、オッドアイだ!
「お目々きれーだね!抱っこしてもいい?」
右目が濃い藍色。青というよりは藍色の方がしっくりくる。左目が金色だ。
リアがしかたないわね、っと言ったふうに一鳴きしてくれたので、すかさず抱き上げる。
左肩にリアの前脚と顔がくるようにし、落ちないようにお尻は右腕に乗せる。空いた左手で綺麗な毛並みをなでなで。
うはっ!!ツヤツヤのスルスルだ!
リアは短毛種だけど、ここまでツヤっツヤなのは初めてだ。やべぇ、気持ちいいぞ、これ。
む?なんかモゾモゾする…。って、グラーティアか!?
リアにビックリしたのか、私の髪の中を移動している。
くすぐったいからヤメレ。毛並みに集中できないでしょうが!
「どれどれ。本当だ。珍しい色だね」
お兄ちゃんがリアを覗き込んだ途端、当のリアがフシャーと毛を逆立てて威嚇した。
私ほどではないが、お兄ちゃんも動物には好かれるタイプだ。警戒はされても、威嚇されるのはめったにない。
「おにー様、おどろかしちゃダメ!」
威嚇している人間が急に視界から消えたら、リアもパニックになっちゃうだろうから、少しだけ体を動かしてお兄ちゃんにクレームを上げる。
まぁ、逆立った毛のもふもふ感もちゃんと堪能しているけどね。
「クルートをすぐに呼んでこいっ!」
「ごめんごめん。右目はネマの色に似ているね」
ちょっと!マジで外野煩いんですけど!
いまだに毛を逆立てているリアを宥めるように、耳の付け根や顎の下をくすぐってやる。
次第に落ち着いてくると、今度は気持ちいいのかゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
ほんと、気分屋さんなとこはネコそっくりだな。
「ミオっ!」
慌ただしく、新たな人物が部屋に駆け込んで来た。
いろいろと騒がしいお家だな。おい。
「領主様のご迷惑だ!さっさとあのリアを連れていけ!」
町長さんが怒鳴ったことで、このリアは家主の意向で飼われているわけではないことがわかった。
「ミオ、おいで」
ミオというのが、このリアの名前のようだ。なんか日本人っぽい名前だ。たぶん、鳴き声からとったんだろうけど。
「みぃ〜お」
格段に甘えた声で鳴くと、ミオちゃんは私の肩を台代わりにして、呼びかけた人物へと跳んでいった。
あぁ、ツヤツヤスルスルがっ!
擦った揉んだがあって、ようやく一息つける。大きなソファーに座って、紅茶で喉を潤す。私の膝の上にはミオちゃんが寛いでいる。余は大変満足じゃっ!!
とりあえず、お話は大人たちでお願いします。私はミオちゃんを愛でるのに忙しいから!
そして、飼い主と思われるお兄さん。男の嫉妬は醜いからね。ミオちゃん取られて悔しいのもわかるけど、ガン飛ばすのやめてくんない?
私の両サイドではお兄ちゃんとヴィが優雅にお茶飲んでいるけど、ちゃんと聞き耳を立ててる模様。
ヒールランの話に、町長は勘違いだ、私がそんなことするわけないと、いろいろと合いの手を入れていたみたいだけど。案の定、話が進まないとパパンに一喝されて黙った。
大人な話が進んでいる中、私は脳内で今後の予定を考える。
まず、レニス行きをパパンから承諾もらわないといけないでしょう。あと、情報ももう少し欲しいよね。それから、森鬼にお願いしたゴブリンたちの確認と、あぁ、森鬼とグラーティアをお兄ちゃんたちに紹介しないと!
そして、これが一番重要!ラース君にもふもふっ!!最近会えなかった分も、たっぷりとあの純白の毛並みをっ…。
「がう」
後ろで寝そべっていたラース君が一鳴き。落ち着けってことかな?
ラース君は鋭い。ソルみたいに私と繋がりがあるわけでもないのに、なぜか私の感情を理解している。それだけ長く一緒にいるってことかもしれないが。ぶっちゃけ、主のヴィといる時間よりも長いからな!つまりは相思相愛のラブラブだ!!
「ガウッ」
今度はさっきより強めの一鳴き。
はいはい、落ち着きますよ。
高揚した気持ちを誤魔化すためにも、眠っているミオちゃんに集中する。
私とラース君のやり取りをヴィが笑っていたが気にしない。
で、大人な話は大分纏まったようだ。
パパンが信頼のおける部下さんを、王都からこちらに派遣するそうだ。その人が来るまで、町長さんの監視役を冒険者組合に依頼。人選はベルお姉さんが責任を持ってやると言っていた。
さて、ここからは極秘なお話になるようなので、町長さんは連行され、ミオちゃんの飼い主さん(町長さんの息子だった)も連れだされ、ついでにミオちゃんも取り上げられた。ちぇっ。
ヒールランは王宮に来ないかと、パパンからスカウトされていたが、やっぱり以前王宮で勤めていたときに酷い上司に当たったらしく、断っていた。
これはチャンスだ!
「じゃあ、私のとこにきてください!」
みんな理解ができず、ポカンとしていたが、パパンはそれもありだなと呟いていた。
「ベルおねーさんもどーですか?」
そうやって二人をも巻き込み、全員に計画を話して聞かせた。
って言っても、ほとんど説明したのはパパンだがなっ!
「…突拍子もないことを考えつくな、お前は」
すべての説明が終わったあと、静まり返った空気を破ったのは、ヴィの呆れ返った声だった。
「ネマの愛らしさは魔物にもわかるんだね」
このお兄ちゃんの斜め上行くシスコン発言はどう切り返すべきか…。
「この件はラルフに表立ってもらうから、そのつもりでな」
パパンは容赦なくスルーしたよ!突っ込まないの??そこは突っ込んでおこうよ!
「わかりました。ネマとの時間が増えるなら、喜んでやりますよ」
おいおい。学校はいいのか!?来年卒業だろ?よく知らないけど、卒業までにやらないといけないこと、多いんじゃないの?
たぶんというか、確実に長期戦になるぞ!
「俺も協力しよう」
いらん!パパン断れ!!即行で断れ、容赦なく断れ!私が弄られるっ!!
「殿下、公務がありますが?」
「無論、疎かにするつもりはない。俺ができるとしたら、公務の合間に王都から融通を効かせるくらいか」
っち。よくわかってらっしゃることで。
パパンもため息ついて折れた。
「殿下が関与されていることは極秘にしておきます」
王族が関与してるってなると、国公認と捉えかねないからね。そうなると、軍事力強化だとかで、近隣諸国が騒ぎそうだし。何より、創聖教からいちゃもんきそうだ。
「とゆーわけなんですけど、ヒールランさん、ベルおねーさんどーですか?」
「シンキさん、魔物なんですか?」
「はい。元ホブゴブリンです。しんかしてなぞのせーめーたいになりました」
精霊術が使えるのは黙っておこうっと。お兄ちゃんとヴィにはあとで言えばいいよね。当の本人いないしさ。
「拠点になるのは、ここよりも田舎ってことになりますか?」
こちらはヒールランからの質問だ。
「はい。もう少しみなみよりの森があるいなか町があれば」
「では、そのお話、受けさせていただきます」
…決め手が田舎って…どういうこと?田舎好き??
「私もお受けいたします。家族もいませんし、どこへでも行きますよ!」
いきなりの爆弾発言!!…なんか申し訳ない。
にしても、二人とも最初のイメージと違って自由というかマイペースというか。
魔物を保護するっていうのには異論はないみたいだし、まぁいいか。
「じゃあ、ばしょが決まったらよびにくるので、それまではこの町でまっていてください」
「私は同行させていただいてもよろしいですか?拠点が決まれば、すぐに動ける人間が必要になりますし」
言っていることは間違ってはいないんだが、「この町を早く出て、田舎でのんびりしてぇ」っていう副音声が聞こえた。
ベルお姉さんは大人しく待っているって。自分の身を守る術を持っていないから、足手まといになってしまうからって。
パパンが承諾し、さらに雇用条件とかまで話し合って、事がトントン拍子に進みすぎて、私はちょっと拍子抜け。
私だけリズムに乗れてない、みたいな?
いいもんいいもん。ラース君と遊んでるもん。
ラース君のお腹のもふもふで癒されていると、ラース君がグルルルと警戒し出した。
「どーしたの?」
と、ラース君に聞いたのに、答えたのはヴィだった。
「外に何かいるようだな」
ピィィーーという甲高い鳴き声。
ノックスが帰ってきたよーとお知らせしてくれた。
「森鬼だっ!」
お迎えに行こうと思ったら、コンコンとノックのあとに騎士さんに連れられた森鬼が入ってきた。
「おかえりー!」
ドンッていう勢いで、森鬼に抱きつくが却って私の方が痛い思いをした。
くそっ。無駄な筋肉めっ!
「ネマ、彼をちゃーんと紹介してくれるよね?」
あれ?お兄ちゃんの笑顔が、説教するときのママンと同じなのはなんで??
えっ…私また何かやらかした!?
お待たせしました!
長いわりには話進んでません(笑)
まぁ、ネマが0.5歩分ほど成長したということでf^_^;)