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氷漬けにされた人がいるらしい……。

獣王様の輝青宮(きしょうきゅう)案内に同行したけど、一般の獣人同士の暴動騒ぎに巻き込まれるという不運に見舞われた私。

馬車の窓枠に強打したお腹を治癒魔法で治してもらってから部屋に戻った。


「ネマ様、おかえりなさい!」


スピカが尻尾をブンブン振って出迎えてくれる。


「すっごいものが見れたよ!」


獣王様の勇姿をスピカに聞かせてあげようと思ったら、先にとんでもないことが告げられた。


「氷漬けになった人が発見されたらしいんですが、もしかしてネマ様見ました?」


はて?氷漬けとな??


「いや、正門前で暴動が……」


「え?暴動ですか?」


お互いに頭の上にはてなをつけて、鏡のように同じ方向に首を傾げる。

もしかして、宮殿でも何か事件が起きていたの!?


「私が聞いたのは、氷漬けにされた人が発見されて、賊かもしれないから警戒するようにと」


「ぞくぅぅ??」


まったく寝耳に水な話に、私はつい大きな声を出してしまう。

その大声がうるさかったのだろう。スピカは耳を後ろ向きに倒した。


「今、パウルさんが情報を集めにいってます」


パウルがわざわざ集めにいったのは、何か理由があるのかな?

宮殿には我が家の優秀な使用人たちが潜り込んでいるので、彼らに報告してもらえば済むのに……。


「はっ!おねえ様は無事だよね?」


パウルがいないということは、何かあったときに対処できる人員が減っているってことじゃん!

誰か侵入してきたら……って、ウルクの毒針で一発であの世行きになるか。


「えぇ。今、あの子たちと一緒です」


お姉ちゃんはいろいろ危険物を所有しているため、魔物っ子たちはお姉ちゃんの自室への立ち入りは禁止されている。

なので、魔物っ子たちがお姉ちゃんを守りやすいよう、シェルがお姉ちゃんをリビングに連れ出してくれたのだろう。


「すごーい!

「もう一回やって!」

――きゅーっ!!


何やらリビングが騒がしい。


「ふふふっ。じゃあ、よーく見ててね」


どうやら、お姉ちゃんが魔物っ子たちの相手をしてくれているようだが……。


「何もないね」


お姉ちゃんの手のひらを覗きながら陸星が呟く。

お姉ちゃんは手のひらを握ると、いくわよと言って手のひらを開いた瞬間――炎が立ち上がった。


「おやつが出てきた!」

――きゅーーー!!


お姉ちゃんのパフォーマンスにはしゃぐ三匹。

その姿は見ていて微笑ましいが、簡単に騙されるのはちょっと心配だ。


「ネマ!おかえりなさい」


「ただいま戻りました。……おねえ様たちは何をやっているの?」


お姉ちゃんが私に気づき、毎度お馴染みのぎゅーをしてくる。

ぎゅーのお返しをしながらも、先ほどのことを問うた。


「これよ」


お姉ちゃんが両手をパンッと合わせ、手のひらを開くと、先ほどまではなかった飴が出現した。


「はい、あーん……」


口元に差し出され、条件反射で口を開く。

口に放り込まれた飴は、上品な甘さで美味しい。


「おいしー!」


「でしょう?今、学術殿(がくじゅつでん)で流行っている飴なの」


へぇー。やっぱり、勉強に疲れたときは糖分!ってことかな?

甘いものはいつ食べても美味しいけど、疲れたときは特に美味しく感じるもんねー。……って違う!

飴に気を取られたけど、何をしていたのか答えになってない!


「学術殿の友人に教わった手品よ。凄いでしょ?」


こちらの世界で手品と言えば、露天商などが客寄せに使う見せ物のイメージが強い。

実際に、露天商が手持ちぶさたで硬貨で遊んでいたのが手品の始まり、という説が有力視されているくらいだ。

手品用の魔道具とかが出てくるようになれば、エンターテイメントとして普及するかもしれないけど。


「隠し持っていたあめを見えないように手の中に入れたんだよね?」


前世では、タネ明かしされている初歩的な手品も多く、頑張れば私でもできそうなものもあった。

だから、私には通用しないぞ!


「それはどうかしら?」


お姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべると、手を動かさずに火の魔法で飴を出現させると宣言する。

手品で手を動かさないって無理じゃね?


「この通り、両手には何も持っていないわ」


お姉ちゃんは両手をひらひらさせて、何も隠し持っていないことをアピールする。


「手のひらを上にして、ここから先、この手は絶対に動かしません」


ふんふん。


「火よ!」


お姉ちゃんが火と言った瞬間に両手から炎が吹き出し、すぐに消えた。

そして手のひらの上には飴が……。


「もう一度……火よ!」


再び同じように火が現れると同時に、今度は飴が消えた!


「えぇ!?なんで?」


手を動かしていないことから、タネは火の魔法にあると思うんだけど……。

消えるだけなら、高温で蒸発させた可能性があるけど、飴が現れる方法がわからない。


「ぼくのおやつも出して!」

「ずるい!ぼくもほしい!」

――きゅー!きゅっきゅぅぅぅー!!


三匹は尻尾をこれでもかというくらい振り、さらには上目遣いでおねだりをする。

ちゃんとお座りしているのは偉いが、ちょーだいと片前脚をお姉ちゃんの膝に載せるのはあざといな。

まぁ、私がこれをやられたら、おやつをあげちゃうけども!


「いいわよ」


お姉ちゃんがまたも両手に炎を出現させると、その手にパウル特製魔物っ子ビスケットが三つ現れた。

ちなみにこのビスケット、コボルトの群れから教わったレシピで作られており、残念ながら動物であるノックスは食べられない。

ノックスにはよくない材料が使われているんだって。

人間にも多少害があるらしく、パウルはことあるごとに食べないよう、私に言ってくる。

そこまで食い意地張ってないよ!


おやつをもらってご機嫌な魔物っ子たちを見ていると、あることに気づいた。


「スライムたちがいない?」


紫紺はウルクの当番中なので毒針にくっついているが、他のスライムたちが見当たらない。


「セイはカイといっしょー」

「みゆあびしてゆぅ」


「陸星、食べ終わってからしゃべろうね」


陸星はおやつを飲み込むと、水遊びしてると言った。

つまり、海と青はお風呂場で遊んでいるということだ。

残るは白と葡萄だが……。


「ほら、ネマ。次はこんなのはどうかしら?」


片方の手のひらを上にして、もう片方の手をサッとかざすとあら不思議。丸いクッキーが現れた!

手をかざすたびに、クッキーが増えていく。

クッキーが五枚になったところで、お姉ちゃんは全部私にくれた。

口の中にまだ飴が残っているから、食べられないんだけど……噛むか。

飴をガリガリ噛み砕き、クッキーを頬張る。……甘くない。

スピカにお茶をお願いし、口の中をリセットしてもう一枚。

サクサク食感に、全粒粉のような香ばしさが口に広がる。これはかなり好みの味だ!

三枚目のクッキーに手を伸ばし、口に入れようとしたとき、何か違和感を覚えた。

お姉ちゃんは稲穂におねだりされて、魔物っ子ビスケットを空中から取り出す手品を披露していたのだが……。

お姉ちゃんの手元、というか袖の中から変な物体が見えた気がする。

もしや、タネか!?

じーっと観察することしばし、確かにお姉ちゃんの袖から何かが出たり入ったりしていた。

ただ、動きが速すぎて、それがなんなのかまではわからない。


「おねえ様、私ももっと欲しい!」


「いいわよ。ちょっと待ってね」


そう言ってお姉ちゃんは、私たちに見えないようごそごそし始めた。

おそらく、おやつを仕込んでいるのだろう。

そして、私のリクエスト通り、クッキーを出してくれる。

お姉ちゃんの袖付近をこれでもかとガン見すると、クッキーの不可解な動きを観察することができた。

なるほど、そういうことか……。


「おねえ様、わかったわ!そのそでの中にいるのは白と葡萄ね!!」


名探偵になった気分で自信満々に告げると、お姉ちゃんの両袖からにゅるんと白と葡萄が出てきた。

その体の中に、クッキーや飴を入れたまま……。


「さすがネマね。もう見破られちゃったわ……」


え……ちょっと待って。もしかして、クッキーも飴も、一度スライムの体内に入ったものだった??

食べて大丈夫なの?スライムの消化液で胃に穴が空いたり……なんてことはないと思いたい。

自分のお腹をさわさわ撫でて無事を祈る。


「白と葡萄もすごいね。どうやって見えないように運んだの?」


私がそう聞いたら、わざわざ白が実演して見せてくれた。

触手のように細く伸ばし、その中をクッキーが通っていき、先端に到着すると素早く置く。

なるほどと思う自分と、なんとも言えない気持ち悪さみたいなものを感じる自分がいる。

触手の中を丸い形のものが通る光景が、地球外生命体に卵を植えつけられるシーンを連想するからだろうか?

ゾンビとか地球外生命体とかのパニックもの、怖いけどつい見ちゃうよねー。

それにしても、雫や黒たち寄生タイプのスライムが、割とまともな出入りの仕方でよかったわ。

地球の寄生生物みたいに、傷口から出入りする可能性もあったわけだし。


「最初はわたくしひとりで練習していたのだけど、ハクとブドーに見つかってしまって」


お姉ちゃんがこっそり手品を練習しているとか、ちょっと……いや、凄く可愛い!私も陰からこっそり覗き見したかった!


「二匹も興味を持ったみたいだったし、せっかくならみんなでネマを驚かせましょうって練習していたの」


――ぷみぃ!ぷみぃ!


葡萄がぴょんぴょん跳ねて、手品の練習は楽しかったと全身で伝えてくる。


――みゅっ!みゅぅぅぅ?


白は私に驚いたかどうかを聞いているようだ。


「私もびっくりしたし、みんなもすごいっておどろいていたよ!」

私がそう返すと、星伍たちも白と葡萄を凄い凄いと褒め称えた。


「じゃあ、海と青も呼んで、みんなでおやつを食べよう!」


美味しいものはみんなで食べるともっと美味しいよねってことで、森鬼、スピカ、シェルにも同席させる。

そこでようやく、お姉ちゃんたちに正門での騒動を話し、獣王様の勇姿を語彙力を駆使して語る。


「まぁ、獣王様は鳴き声も素晴らしいのね。わたくしも聞いてみたかったわ……」


「カーナお嬢様……獣王様が素晴らしいのはよろしいことですが、獣人が暴動を起こしたとなると、しばらく学術殿をお休みされた方がよいのではないでしょうか?」


珍しくシェルがお姉ちゃんに意見を述べる。

正門前の暴動は、獣王様のお姿を見たくて集まったせいだと思うけど、シェルの心配も一理ある。

学術殿にも多くの獣人が通っているだろう。獣王様に憧れる獣人の生徒が、実際に獣王様を間近で見たお姉ちゃんに話を聞こうと突撃してくるかもしれない。

一人、二人なら対処できたとして、集団でやってこられたら正門前の二の舞になりかねない。


「そうね……。どうするかは、パウルの報告を聞いてから決めるわ」


お姉ちゃんがそう告げたときだった。

スピカの耳が何かの音に反応して、小刻みに動く。

そして、すーっと鼻から息を吸うと……。


「パウルさんですっ!」


そう言うやいなや、スピカとシェルは急いで立ち上がり、自分が使っていたカップを手に簡易キッチンへダッシュ。

シェルが魔法でカップを綺麗にすると、スピカがパパッと元あった場所しまう。

再びダッシュで壁際に立つと、ずっとここで控えていましたよと、すまし顔をして動かなくなった。

証拠隠滅にかかった時間は三十秒もない。

呆気に取られていると、リビングの扉が開いた。


「ただいま戻りました」


本当に間一髪だった!

スピカの能力なら、もっと早くに人の気配を感知できるけど、相手がパウルとなればそうもいかないみたい。


「パウル、ずいぶん時間がかかったのね」


お姉ちゃんは、シェルたちを庇うためか、早く報告しなさいとパウルに手招きをした。


「申し訳ございません。報告の前に一つよろしいでしょうか?」


そうお願いしてきたパウルに、お姉ちゃんが許可を与えると、パウルはなぜか私の前に来て膝を折る。


「お腹を強打されたとのことでしたが、痛みなどはございますか?」


「なんで知ってるの!?」


部屋に戻ってから、お腹を打ったことは誰にも話してない。

まさかうちの使用人に監視でもさせていたのか?


「それなら俺が報告しておいたぞ」


ん?森鬼が報告した……パウルに?

どうやって……って、精霊を使ったのか!

この裏切り者ぉぉぉ!!


「けいえい隊員にちゆ魔法をかけてもらったから大丈夫だよ!」


もう痛くないと、元気なことをアピールするも、パウルの表情は真剣なままだ。


「ネマお嬢様、治癒魔法といえど、万能ではありません。特に、体内の損傷が激しいと治しきれないこともございます」


脳裏に内臓破裂という言葉がよぎる。

お兄ちゃんレベルの治癒術師は少ないと聞くし、もしかして……。

私の不安が体内にいる黒にも伝わったのか、黒から「大丈夫」「守った」という気持ちを感じた。

内臓へのダメージは、黒が防いでくれたのだろう。


「黒が守ってくれたから、お腹は無事だって!」


「そうですか。コクにはあとで褒美をあげましょう」


ご褒美と聞いて、黒が喜ぶ。

今すぐ出てきそうな気配がしたので、今じゃないと宥めた。

それからパウルに、お腹が痛くなったり、具合が悪くなったらすぐ言うようにと念押しされた。


「知っていたらお菓子はあげなかったのに……」


お姉ちゃんは私のお腹に手をやり、そんなことを呟く。

まさかのおやつ抜きにされるところだった……。

これからはもっとお腹を大事にしよう!


「では、報告いたします。カイ、セイ。お嬢様方の安全に関わることです。しっかりと聞きなさい」


名指しで注意された一人と一匹。

そちらに視線をやると、海はわかったと素直に頷いたが、青は帽子みたいにカップをかぶっていた。

パウルに見つかるとすぐに、青はそのカップの中に隠れる。

なんかヤドカリみたい……。

しかし、不可思議な点がある。

青はカップをかぶっていた。つまり、カップは青の体よりも小さいのだ。

それなのに、カップに体が収まっているのはなぜだ?

中がどうなっているのか気になったので、青が隠れているカップをひっくり返してみる。

すると、青の体がぷくーっと盛り上がり、カップケーキのようになった。

いや、その部分、どうやってカップの中にしまっていたのさ?

カップを小さく揺らすと、はみ出た部分もぷるんぷるんと揺れる。

カップケーキじゃなくてゼリーだったわ。

フィット感を気に入ったのか、青はカップから出たがらなかったので、そのままにしてパウルの報告を聞く。


「宮殿に侵入した賊の人数は不明ですが、そのうち四名を捕縛。うち一名はユーシェ様のお力によって全身氷漬けにされているようです」


獣王様と遊んだとき、ユーシェは怪しい人がいたら氷漬けにするって言ってたけど、あれ、本気だったんだ。


「氷漬けにされた者の生死は?」


お姉ちゃんがパウルに質問する。


「おそらく生きてはいるだろうと、第一宮殿防衛部隊の隊長が仰っていました」


第一宮殿防衛部隊の隊長といえばペリーさん!

ペリーさん、気さくなおじ様だけど、実は宮殿警備関係の偉い人なんだよね。人は見かけによらない!


「ただ、ユーシェ様がたいそう怒っておられるそうで、氷は消さないと仰っているという報告もあります」


ユーシェからしたら、縄張りを荒らされた!って感じなのかな?

でも、陛下に逆らってまで氷漬けを続けるのは、何か意味があるのかもしれない。


「それから、まだ未確定ではありますが、捕縛した賊の正体はイクゥ国使節団の者ではないかと……」


なんだってー!?

それが本当なら、ガチの国際問題が勃発してしまうのでは!!




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