風雲急を告げるかも?その1
大変お待たせ致しました!
ちょっと長いですが、お付き合い下さいませ。
森鬼のことが一段落して、ようやくあの計画のことをパパンと話し合いできた。
まぁ、いろいろと面倒臭い押し問答とかもあったんだけどね。パパンは私の計画を面白がってくれたし、オタク知識もフル稼働させて甘い部分も改善できたし、なんとかなるっしょ的なノリでGOサインが出ましたよ。
んで早速、次の視察地に向かうことになったのだが、ここで問題が…。
候補地選びには森鬼にもついて来てもらいたい。
しかし、洞窟にいるゴブリンたちを放っておくわけにもいかない。
いくらソルがチートと言えど、何日も防御魔法を展開できるわけもなく。そもそも魔力の媒介である竜玉を私が持ち歩いているのだから、無理だねーってことに。
で、森鬼が取った手段はというと…。
まず、洞窟を地の精霊に強化させる。次に、洞窟周辺にゴブリン以外の者が近づいたら、風の精霊に攻撃させる。
最後に、群れの中で森鬼の次に強い個体に名前を付ける。
しかも、名前は私が付けるというおまけつき。
「どーして、私がつけるの?」
「ご主人様が群れの長だからだ」
ちょい待ち…。
ご主人様だとぉぉぉ!
うわっ、鳥肌たった!!
ないないない!私がご主人様とかキャラじゃない。あー、なんかゾワゾワする。
「ごしゅじん様はやめて!!」
「…しかし、俺の主だが?」
別にネマって呼び捨てで構わないんだけど、森鬼は呼ばないだろうなぁ。
かと言って、森鬼にお嬢様って呼ばれるのもなぁ。
つか、そもそも森鬼自体がご主人様とかお嬢様っていうのが似合わない!
どっちかっていうと、殿とか姫じゃね?こう、武士っぽい感じでさ。
…となると、私は姫になるのか?うわっ、それも却下だ!!
「んじゃあ、だきょうして、主じゃダメ?」
使用人たちにお嬢様って呼ばれるのは別にいいんだよ?だって彼らの仕事のうちだもの。
でも、森鬼は使用人ではなくて、仲間だから。一応、主従関係ではあるけどさ。
仲間にご主人様と呼ばれるとか、ある意味羞恥プレイ!
とりあえず、渋る森鬼を説得して、ご主人様から主に呼び方を変えさせた。
森鬼の次に強いゴブリンに会うことになったので、もう一度洞窟に向かった。
今回はソルに送ってもらったので楽ちん楽ちん。
洞窟の近くでソルから飛び降りて、風の精霊にスピードを緩めてもらって着地という方法を取った。
ただ、なんかデジャヴ…。
飛び降りたのにフワッと着地って、どっかで経験したなーって。どこだっけ?
ま、いいか。
それより、名前何にしようかな?
どんな子か、ちょっと楽しみだね!
ウキウキと洞窟に行って、森鬼に紹介してもらう。
森鬼に呼ばれて出てきたのは、雌のゴブリンだった。
雄との見分け方は超カンタン!
角が二本なのが雄で、雌は一本。それに、雌は体つきも小ぶりだし、フォルムも丸っこい。
意外や意外。森鬼の次に強いのが雌とはビックリだね!
どんだけ他の雄たちはヘタレなんだ!!
…ヘタレなゴブリン…。魔物としてはどうかと思うが、キャラとしてならアリだな。うん。
「ギ…オサ、オヨビデ…?」
「しゃべれるの!?」
またもやビックリ!
辿々(たどたど)しい、なんか外国人みたいなしゃべり方だけど、しゃべれていることには違いない。
「こいつは俺が補佐として使っていた奴だ。人から産まれたゴブリンだし、あと数回狩りに出れば進化もできるだろう」
うぇ…。私の希望としては、このままちっちゃい方が…。お目々は大きくてクリンクリンだし、つるぺたーんな体つきは親近感わくし。
ホブゴブリンになったら、デカくてゴツくて…可愛さ激減だよ!
まぁ、雌のホブゴブリンを見たことないから、予測にすぎないけどさ。
名は体を表すってことで、可愛い名前にしたら可愛く進化してくれるかな?
可愛い名前…可愛い名前…かわいい…。
うーん、思い浮かばない。
候補として考えてきた名前は、男の子のものだしな。
何かヒントがあれば!
「君の好きなものは何?」
ということで、まずは本人に聞いてみる。
「ギ?」
コテンと首を傾げたあと、キョロキョロと周りを見回す。
なんか動作がポテに似てるな。
雌のゴブリンはある花に目を留めて、指を差した。
その花は寒い地域でよく見かける、スズランによく似た花だ。バーシーという名前で、花弁と蜜に神経性の毒を持っていることで有名な花だ。
さすがに毒花が好きってことはないだろうから、普通に草花が好きと受け取る。
「お花が好きなんだ!」
「ギ」
お花かぁ…。スズランじゃあ捻りがなさすぎるから…。
スズ…鈴…鈴子??
日本的な名前にするなら、訓読みの方が可愛いよね。
鈴江、鈴美、鈴子…。よし、直感に従うなら鈴子だ!!
「あなたのお名前は『鈴子』だよ!」
「ギィ?」
「すーずーこー」
「ス…ズ…コー?」
おぉ!言えた言えた!日本語的な音はまだ無理かと思ったけど。
「そう!鈴子!あなたはこれからは鈴子って名のってね」
命名の後、お約束の紋章が鈴子の額に浮かび上がる。
うんうん。可愛いホブゴブリンになるんだよ。
そんな鈴子をいたず…じゃなかった、撫で回して遊ぼうと思ったら、森鬼に止められた。
これから、森鬼がいない間の打ち合わせするんだってさ。ちぇ。
一人やさぐれていると、森鬼の元に一匹のゴブリンがやってきた。
しきりに何か訴えているみたいだけど、私にはなんて言っているのかわからない。ギーギーとしか聞こえないんだもん。
観察してみると、森鬼は少し困ったような、鈴子は怒っている様子。
っていうか鈴子、しゃべれないゴブリンには普通にギーギーなのね。新発見!
って喜んでる場合じゃないな。
森鬼が私を見て、どうするかなぁって顔してるし。
何?私が関係してるの?
そんな私の困惑をよそに、森鬼は雄のゴブリンに一言二言話すとこちらにやってきた。
「主、こいつが名前を欲しがっている」
ん?名前??
…なーんだ、もっと大事かと思ったよ。
「…コイツ、ヨワイ。ダメ!」
鈴子はこの子に名前を付けるの反対だから怒ってたのね。
「どーして名前がほしいの?」
雄のゴブリンに尋ねると、ギーギーと一生懸命説明してくれた。
…はい、森鬼通訳!!
「こいつがいた前の群れはほぼ全滅だったらしい。だから、今のこの群れを守るために、もっと力が欲しいと言っている。だが、スズコが言った通り、こいつは弱い。名を授かった所で、求めるような成果は期待できない」
まぁ、森鬼が言わんとすることはわかる。だけど、伸び代がないからって、切り捨てるようなことはしたくない。
ただ、そこまでヤル気があるのなら、見せてもらおうじゃないか!
「じょうけんつきでいいなら、名前をつけてあげる」
条件とは、私たちが戻ってくるまでに、単独でジャイアントボアを狩れるようになること。
体格の小さいゴブリンにとっては、ジャイアントボアに体当たりされただけでも死ぬだろう。
そして、狩れなかった場合は申し訳ないが、実験台になってもらうつもりだ。
てなことを説明した。どちらにしろ、命の保証はしないよーってね。
実際は脅しです。はい。
名前を付けて強くならなくても、適材適所ってことで使い道はあるだろうし。
ジャイアントボアを条件にしたのは、覚悟を知るため。
我が身可愛さに保身に走るか、それとも実直に強さを求めて命をかけるか。
命の保証はないよって言っても、雄のゴブリンの意志は変わらなかった。
この子が強くなりますよーにってことで、名前を闘鬼に決めた。
紋章が浮かび上がった闘鬼に、私は告げる。
「つねにかんがえること、そしてじっせんすることが大事だからね」
武器選びに始まり、自分がどんなタイプの戦い方するのか、どんな武器がむいているのか。その武器を使いこなすための訓練と実践ではすべてを自分で考えて試行錯誤し、敵の数、弱点、地形と様々な要素を見て感じ、自分が有利になる様動けること。
それが身につけば、現場では即戦力だ。
思考力、観察力も身につけてもらわないとね。猪突猛進の脳筋タイプは今必要じゃないからさ。
「闘鬼、いっしょにがんばろーね!」
「ギッ!」
群を鈴子たちに託し、私と森鬼は村に戻った。
つうかさ、なにゆえ片腕抱っこされているんでしょうか?
え?歩くの遅い?日が暮れる?
むむっ…すでに過保護!?過保護はパパンで間に合ってるよ!
まぁ、そんなことはさて置き。帰り道ではいろんなことを話した。
ソルとの出会い、ディーやノックスのこと。家族や使用人たち、竜舎や獣舎の子たち、王宮のみんな。
その合間に、森鬼も生まれてからのことを少しだけ話してくれた。
まぁ、ビックリしたのが森鬼にお兄ちゃんがいたこと。人間との戦いで亡くなったってことだけど、魔物にも肉親の情?みたいなのあるんだね。
って言ったら、群れによって違うらしい。子供を大切に育てる群れもあれば、弱いものを淘汰する群れもある。
他の魔物も家族を大切にする種類もいるってことだったから、人間と変わらないんだって。
ただ、お兄ちゃんの話をしたときの森鬼が、とても淋しそうでちょっと気になった。何があったのか、いつか話してくれるといいな。
翌日、村の広場になぜかド派手な馬車が停まっていた。
私たちが乗ってきた馬車より派手だが、王宮の馬車には及ばない。
王宮の馬車は派手っていうよりは上品って感じだけどね。
誰の馬車だ!って思ってたら、どうもピィノとニィノのお迎えだったようです。
天使な双子ちゃんたちともお別れか。
私が公爵令嬢だってわかっても、態度を変えなかった二人。
ぶっちゃけ、初めてのお友達というやつです。
「かならず遊びに来てね」
「ぜったい行くっ!」
ピィノの手をガッシリと握って約束する。
「そのかわり、私たちが王都に行ったときは、ネマが案内しなさいよ?」
イエッサー!
そのときは、オスフェ家の総力をあげて王都をリサーチし、お嬢様のご要望にお応えしましょー!!
馬車が見えなくなるまで見送る。
ピィノは窓から乗り出し、最後まで手を振ってくれていた。
本当にええ子や!
さて、お別れがすんだら、次は私たち。
一度、アーセンタに戻るみたい。
そこで再び旅支度を整えて、次の視察地に向かう。
帰り道ももちろん、雪で思いっきり遊んだ。森鬼と仲良くなった騎士さんも巻き込んでの雪合戦。
めっちゃ楽しかったよー!
すぐに次の視察地に向かうので、アーセンタのお屋敷では慌ただしく準備が進められている。
針霜の森で時間を取られたため、予定が押しているんだって。
パパンのお仕事の都合がつくのが15日間しかなくて、その間に5ヶ所視察する予定なんだとか。
初めて聞いたよ!って言ったら、出発前に説明しただろって怒られた。
…記憶にございません…。
明日も朝早くからの出発なので、私はご飯を食べたあと、すぐにベッドに押し込められた。
せっかくだから、森鬼と一緒に寝ると言ったら、秒殺でパパンに却下された。
ちぇっ。野宿のときを狙うしかないか。
馬車に揺られて向かうは、パーゼス代のキャスという町。
アーセンタからは南西に3時間ってとこらしい。
道中は目ぼしい物はなく、林か岩山しかなくて早々に飽きたため、森鬼から情報を得ることにした。
パパンはどこからともなく地図を取り出して拡げた。
ガシェ王国はラーシア大陸の北西に位置している。蝶々の左上の羽の部分。
パパンの地図はガシェ王国だけの地図なので、王国の領土が菱形のように描かれていた。その菱形の中に小さな菱形が四つ、アーガイル柄みたいになっている。それが東西南北それぞれの領地だ。
にしても、地図で見ると王都ちっさ!!住んでいると、めちゃくちゃ広く感じるんだけどね。
最初に森鬼たちがどこに住んでいたのか聞いてみると、ワイズ領よりのディルタ領。領地の境界に広がる鉱猟の森。
ここは鉱物資源もあり、動物も多く生息している狩場でもあるため、鉱猟と呼ばれるようになったとか。
そのため、魔物も多く生息しているが、ほとんどが人間を襲うようなことはしないらしい。そんな危険を冒さなくても、森の動物を狩るだけで生きていけるからだ。
ただ、オーグルやオークといった好戦的な魔物は、人間を襲い易いワイズ領の鉱山などにいるとのこと。
森鬼が逃げてきたルートを地図に記入してもらう。
その上で、パパンが集めてきた魔物の目撃情報を記入していく。
ガシェ王国全土の目撃情報を、たった一夜で収集し、その脳味噌に詰め込んだパパン…。その頭脳、何で私に遺伝しなかったの!!
しかもちゃっかり冒険者ギルドからも情報もらってるし!!
「連れてきた部下が使えなくて、情報量は少ないんだが…」
それでも地図のほとんどが埋まってますけど!?
使える部下だったら、コンプリートしてたってことか!!
ちょっと恐ろしいけど、それよりこの分布…。
一年前の情報を青、半年前を緑、一ヶ月前を赤で記してあるんだけど、明らかにおかしい。
青の分布は南のディルタ領がやや多く、北のオスフェ領はやや少ないくらいで、王国全土に綺麗に散らばっている。
目撃された種類も、森鬼から聞いた縄張りと一致している。
緑はディルタ領は少なく、東のワイズ領と西のミューガ領が大幅に増えていた。
そして赤…。オスフェ領全域と隣接している地域が真っ赤に塗り潰されていた。ディルタ領はというと、3件ほど魔物の目撃情報が上がっているが、すべてラバという火鼠みたいな魔物で、火山にしか住んでいないんだと。
つまり、特殊な生態ではない順応力の高い魔物はほぼオスフェ領に集められたと言っていい。
パパン、誰かからメチャクチャ怨まれてんじゃないの?
「移動しているときも、南に向かおうとすると必ず人間に遭遇した。そして、有無を言わさず攻撃される」
パパンも渋い顔してるけどさ、つまり黒幕な誰かさんはすっげー大規模な人海戦術使ってるってことだよね?
「人をたくさん動かせるけんりょくをもってる人がやってる?」
「まぁ、騎士団一部隊分は人数が必要だろうが…」
えーっと、部隊が一番人数多いやつだから…千人単位!?
「だが、探索系の魔法が使える魔術師が10人いれば、その半分ですむ」
探索系すげー!超人件費削減じゃん!!
探索系魔法には、風属性と無属性の2種類ある。初級の探索は純粋な魔力を魔術師の周囲に放ち、調べるものなんだけど、初級だと使い勝手が悪いらしい。なんせ、魔力を帯びているかいないかしかわからないから、魔物なのか魔力を持った人間なのか判別できないんだって。
しかも、パパンレベルの特級なんかは、属性の力が強すぎて純粋な魔力を捻出するのにも一苦労なんだとか。
それを教えてくれたのはママンなんだけど、ママンは独自で水属性での探索方法を編み出してたよ!
魔法で霧を作って、それに魔力を浸透させるって言ってたけど、仕組みはよくわからない。でも、視界もなくなるから目くらましにも使えるね!って言ったら、ママンはショックを受けてた。気づいてなかったのか!?
風属性の方が使い手も多いし、使い勝手もいい!
風の魔法を超音波のようにして使うらしい。これだと、魔力の質?みたいなのもわかるとかで、魔物と人間の違いも獣人やエルフとかまでわかるんだって。まぁ、これも仕組みが不明だっていうので、世界中に研究者がいるとか。魔術師も理系だからか、わからないものはすぐに研究したがるよね。
つまり、相手方には最低でも10人の風の魔術師がいるってことですね。そして、最低でも500人の武装兵力があるってことですね。
ただ、敵なのかわからないけど、何が目的なのか?オスフェ領を狙っているのか、それとも別に理由があるのか…。うー、訳わからん!
「私も情報を集めるまでは、この魔物騒動が人為的というのも半信半疑だったんだが…。この件はすでに陛下には報告してある。ネマには申し訳ないが、次のキャスでの視察が終わったら、私は王都に戻る」
「えーっ!こうほちえらびはどーなるの!?」
事が大きくなったからには、パパンは領主としてではなく、宰相として動かなければならないっていう判断なんだと思うけど…。あの計画の候補地選びだって、急ぎたいんだよ!
「あぁ。だから、ラルフを呼んだ。キャスに逗留中には合流できるだろう」
「おにー様がいっしょに回ってくれるの?」
「そうだ。ラルフも次期当主として、経験を積んでもいい年頃だしな。残りの視察地に領主代理として行ってもらう」
お兄ちゃんが来てくれるなら安心だね。私から見ても、すっげーできる兄だし。
お兄ちゃん、森鬼見たらビックリするかな?
お兄ちゃんのビックリ顔を想像しているうちに、馬車はキャスに到着した。
さてさて、どんな町なのか、早速冒険してみよー!!
パパンは町のお偉いさんたちからの挨拶攻撃に捕まっている。
今のうち今のうち。
森鬼を連れて、メインの大通りと思われる道に入る。って言っても二車線くらいの大きさだけど。
商店街みたいな感じで、お店が建ち並んでいる。
八百屋に穀物屋、洋服や雑貨屋など。他にも居酒屋みたいなご飯屋さんもあるし、お茶屋さんもある。
お茶屋さんでは、カナ豆というホオズキに似た植物の種子を炒っている。
このカナ豆はとても小さいが、炒ったままでも出涸らしでも食用になり、栄養素が豊富ということもあり、作物の乏しい北の地域には必要不可欠なものだ。
カナ豆の香ばしい匂いに惹かれつつも、ターゲットの建物を発見したので後回しと。
飲み屋の隣にある建物の看板には、冒険者組合って書いてある。
よし、狙い通りだ!
この組合っていうのがギルドのことなんだけど、王都の組合は工業地区にあるため、見にいくことができなかったんだよね。
町くらいの規模なら、冒険者組合と商人組合はあるから、チャンスは今しかない!
さぁ、入るぞ!って思ったら、ドアノブがない!!
普通の扉みたいに木でできているけど、これ押すのかな?
「入らないのか?」
そう言って森鬼が何気なく扉を押した。
あー、うん。入るよ、入る。
森鬼にエスコートされて入った冒険者組合の中は、想像していたものとは違った。
私が想像していたのは、ゲームとかラノベによく出てくるようなやつ。
カウンター式の受付があって、壁の掲示板に依頼が貼ってあって、奥で冒険者たちがたむろってる感じの。
目の前に広がるのは、パーテーションで区切られたブースがたくさん。
なんか、ハローワークとか塾っぽい感じ。私はお世話になったことないから、実際は違うかもしれないけど。
「こんにちは。ご用件をお伺いしますよ?」
赤毛のポニーテールがよく似合っている美人さんが話しかけてきた。
チラチラと森鬼を気にしている様だけど、魔物ってバレたか!?
「それに、この町では獣人が珍しいので、長居しない方がいいかと…」
よかったー!獣人だと思ってくれて。でも、どこら辺が獣人?角か??
てか、お姉さん。顔赤いけど…って、森鬼か!!
好みじゃないのと、身近にイケメンが多すぎて意識してなかったけど、森鬼も程よくイケメンでしたね。
私の好みはお兄ちゃんみたいな、可愛い系なんだけど、お兄ちゃんも大人になれば王子系イケメンになるんだろうなぁ。残念だ。
「俺は主の付き添いだ」
「えっ!?」
すみませんね。一応、メインは私です…。しかも、用件とか大層なものはないです。ただ、見てみたかっただけなんです。
「おしごとのじゃまをしてごめんなさい」
ペコリとお辞儀をする。
「くみあいがどんなところなのか、見てみたかっただけなんです」
正直に白状しておく。子供は素直なのが一番だ。
「お嬢ちゃんが住んでいる所にも組合はあるでしょう?」
「おうとのくみあいはとおいので」
工業地区が遠いのと、見学したいって言ったら反対されそうだし。
「王都から来たの!?確かに、住居地区からじゃあ遠いわね」
およ?お姉さんは王都に来たことがあるのか。住居地区じゃなくて、上級貴族地区だけど、まぁいいか。
「少しけんがくしてもいいですか?」
「えぇ、大丈夫よ。私が案内してあげるね。私はアリアベル、ベルって呼んで」
「ありがとうございます。私はネマです。彼は森鬼っていいます」
事のなりゆきを見守っていたと思われる森鬼も、名前を呼ばれたら軽くお辞儀をしてくれた。
「よろしく。じゃあ、ネマちゃん、シンキさん、こちらへどうぞ」
優しいベルお姉さんの案内で、組合の中を見て回る。
あのハローワークみたいなブースが、個人用の受付だった!
各ブースごとに防音の魔法がかけてあり、中での会話が外に漏れることはないんだって。2階にはパーティー用に大小の部屋がいくつかあり、人数にあった部屋を使用する。もちろん、こちらも防音魔法付き。
依頼は個人もしくはパーティーのランクに合わせ、緊急性の高いもの、期限が迫ってるものを優先にはするが、要望に合ったものを組合職員が提示してくれる。
そもそもなんで、個別方式というか、個人情報保護しますってな感じになったのか聞いてみた。
「組合の設立当初にね、報酬の横取りが酷かったらしくて」
「よこどり?」
「そう。別の人が受けた依頼を達成したあとに襲って、成果を自分の物にするの。討伐や採取といった依頼なら、何人でも受けれるから」
つまり、ターゲットがなんの依頼を受けたのかこっそり聞いていて、同じ依頼を受け、ターゲットが達成したあとに奪って報酬をゲットするってことか。しかも、苦労せずにランクアップの経験値までもらえるという。悪どいなぁ。
「組合の信用問題に関わるって言うのもあるけれど、そんな人たちが冒険者を名乗るのは許せないでしょう?だから、冒険者組合は不正にとっても厳しいの」
冒険者のプライドですね!
自分の命をかけて依頼をこなしている冒険者たちからしたら、彼らはただの犯罪者だ。稀に殺されたりもしてたというのだから、酷い話だ。
ついでに冒険者についてもいろいろと聞いてみた。
冒険者のランクは色で決められてるんだって。
最低ランクが白。これは何も染まっていないという意味らしい。
黄、緑、青、赤、紫と徐々に色は濃くなっていく。
そして、最高ランクの黒。染まる余地のないっていうことだって。
ちなみに、この黒のランク、普通に伝説クラスでした。組合ができてから、黒ランクは10人もいないんだって。
我が国で一番有名なのが初代国王。
ほんと、話題に事欠かないよね、初代国王って。今度、自叙伝でも読んでみようかな。
んで、依頼される仕事の内容は、魔物や盗賊の討伐。薬草や魔石の採取。商隊の護衛。遺跡の調査や地図作成のための情報収集。鉱脈や水脈の捜索などなど、手広くやっている。
ベルお姉さんから、実際に依頼書を見せてもらいながら説明を受けているときだった。
「明らかな不正を冒険者組合は放置するのか!?」
男性の怒鳴り声が響いた。防音魔法どこいったと思いながら見てみると、ブースから出て騒いでいた。
慌てて職員が駆け寄って、説得しているようだが効果はない。
「確たる証拠がない以上は…」
「証拠だと?たかが小規模のゴブリンの群れの討伐に、相場の3倍近い報酬。それを、依頼した町長の息子が受ける。どう考えても、町長の懐行きだろ!」
「ですが、町長もその息子さんも町のためにと…」
「ただの目くらましだ。元々、我々だけでも対処できる魔物の被害を、魔物騒動に便乗して被害を過剰に報告し、代主様から見舞金をもらってんだ。その見舞金を使っていないことが、領主様にばれないようにするためだろ」
「…代主様から見舞金が!!」
おぉ!なんか面白そうな話ししてるねー!
「ベルおねーさん、あの男の人はだれですか?」
「あぁ。彼はヒールラン・デュト。この町の役人でね。仕事はできる人なんだけど、町長と折り合いが悪いのよ」
「ふせーだってわかってるのに、たいしょできないのはどーしてですか?」
「町のためっていう大義名分があるからかしら。組合の職員も殆どがこの町の出身だから、そう言われちゃうとね」
不正には厳しいと言いつつも、狭い環境だとどうしても身内には甘くなるってか。
「ヒールランさんは元々王宮勤めだったらしいの。だからか、こういった理不尽なことが許せないのかも」
ちょっ…王宮にいて、なんで今こんな田舎の町にいんのさ!
んー、あの性格からして、不正をしたって訳じゃないだろうし。そもそも、不正がバレたら、役人なんてできないか。あとは、あの性格故に上司に睨まれたとか?これならありえるかも!
それより、面白そうな話、もっと聞かせてもーらおっと。
「おにーさん、そのはなし、くわしくきかせてください!」
「なんだ?子供には用はない!」
うわー、カッチーンってきた。
どうどう、落ち着け私。相手は初対面の人だ。こちらが大人の対応をせねば。
「そーですか?私ならおちからになれるとおもいますけど…。じゃあ、しかたがないですね」
大人な対応って言っておきながら、めっちゃ大人気ねー!
いや、口が勝手にね…。うん、仕方がない!!
「待て。どういう意味だ?」
あら?食らいついてきた。
食らいついてきたのはいいけど、顔がめっちゃ怖っ!吊り目がちの三白眼って、迫力ありすぎてこえぇぇぇ!!
不穏な空気を感じ取った森鬼が、私の盾になるように立ち塞がる。
さすがに大丈夫だよ。…多分。
まぁ、何かあっても嫌なので、森鬼を少し横にずらすだけにしておこう。
「りょうしゅにツテがあるんです」
ビビる気持ちをグッとお腹に力を入れて抑え込む。もちろん、笑顔も忘れない。
「お前が?」
信じられんって顔に書いてある。
ふん。いいんだ、お子ちゃまだからしょうがないもん。
でも、きっちり情報は吐いてもらうぜぃ!
「ヒールラン・デュト、私はネフェルティマ・オスフェといいます。ないようしだいでは、おとー様にとりつぎしますがいかがですか?」
あぁ…ついドヤ顔までつけてしまった。失敗失敗。ちゃんと、公爵令嬢らしく振る舞わねば!
「領主様の!?」
ヒールランを始め、側にいた組合職員もベルお姉さんも驚いた顔をしている。
すみませんね。全然貴族らしくなくて。
「とゆーことで、ベルおねーさん。おへやをかりてもいいですか?」
この町で何がおきているのか。
少しだけ、パパンのために動くとしますか。
って言っても、話を聞くだけだけどね。