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また仲間外れにされてる?

もふなでアニメのキャストさんが公表されました!詳しくは活動報告をご覧ください。

ルノハークを一網打尽にしたあと、進展があれば報告してくれるだろうと思い、私はダオとマーリエと遊ぶことを優先した。

とにかく、依頼した玩具が完成するたびに、遊びまくった。

気づけば、イクゥ国の獣王様がやってくる日ももうすぐだ。

……報告が一度もないとはどういうこと?私、仲間外れにされてたりする??

陽玉(ようぎょく)のテレビ電話で、たまにガシェ王国にいる家族とも話をするが、パパンもお兄ちゃんも捕まえたルノハークの話題はいっさい出さない。

これは怪しい!

しかし、この感じだと、パパンやお兄ちゃんは聞いても素直に話してはくれないよね?ヴィはもっと話してくれないと思う。

となると、今回の作戦の関係者で口が軽……じゃなかった、私に協力してくれそうな人は……。

その人物を思い浮かべ、私は早速面会を申し込む。

最初は手紙にしようかと思ったが、精霊にお願いすることにした。そっちの方が早いからね。


「時間が空いたら迎えを寄越すそうだ」


相手からの返事を森鬼が教えてくれた。

お迎えがくるなら、お部屋で大人しくしているか。

魔物っ子たちと遊ぼうと、部屋を見回す。

星伍と陸星は宮殿探索に行っているのでおらず、(かい)はパウルに連れられて外出中。ウルクは紫紺と一緒に窓辺で日向ぼっこ。白と葡萄(ぶどう)は……姿が見えない!?


「森鬼、白と葡萄を知らない?」


白も一人でお出かけすることがあるので、葡萄を連れて遊びにいったのかもしれない。

そう思っていたのに、森鬼は予想外の答えを放つ。


「上だ」


森鬼の指差す先は天井。天井にシミらしきものが……って、白と葡萄か!!

小学生のときに男子がやってたなぁ。玩具のスライムを全力投球して天井に貼りつけるの。そして、授業中に落ちてくるまでがお約束!


「……何やっているの?」


「どちらが長く張りついていられるか競っているそうだ」


いやいや、白と葡萄だけじゃなく、グラーティアもいるんだけど?どう考えても、グラーティアが優勝だよね?だって蜘蛛だもん!


「三匹とも、気をつけて遊ぶんだよー」


――みゅぅぅ!

――ぷみぃぃ!


器用に張りついたままお返事をする白と葡萄。その声は楽しそうだ。きっと、スライムにしかわからない楽しさがあるのだろう。

さて、残るは稲穂か。


「稲穂ー!どこにいるのー?」


キャットタワーもどきのトンネルを覗いてみる。

稲穂はよく食後にここで休んでいることが多いんだけど……いないなぁ。

この部屋にいないなら、寝室にいると思って向かうと、ちょうどスピカがベッドを整えているところだった。


「スピカ、稲穂を見なかった?」


「いえ、こちらには来ていませんけど?」


寝室にいないとなると……朝ご飯が足りなくてキッチンでおやつを探しているとか?

パウルに怒られるようなことをするとは思えないが、キッチンを覗いてみる。やっぱりいないなぁ。

応接室、浴室を探すも見つからず……。

意図せず、稲穂とかくれんぼをしている感じになってしまっているけど、こうなったら絶対見つけてみせる!


「あと、稲穂が隠れそうな場所は……」


使用人の私室はスピカと森鬼に確認してもらったが空振りで、探していない場所がもうない。

もう一度、ソファーの下やベッドの下など、薄暗い場所も違っていた。

となると……まさか、黙って外に出ていったのか!?

変な噂が流れたおかげで、宮殿を出歩けるようになったとは言え、キュウビに怯える人はまだたくさんいるだろう。


「ネマ様」


外に探しにいこうかと思案していると、スピカが小さな声で私を呼んだ。

笑いを(こら)えているような、ちょっと締まりのない顔をしているスピカの様子を見てピンと来た。


「稲穂を見つけたのね?」


「はい。眠っているみたいなので、しーっですよ」


スピカに案内された先は、普段私が入ることのないリネン室だった。

リネン室とその隣の倉庫は、居住空間から見えないようにされているので、すっかり失念していた。

スピカがそーっとドアを開ける。

スピカの後ろから中を覗いてみると、棚にはシーツやタオルが整理整頓されて収納されているのに対し、床には籠が転がっていて、くしゃくしゃのシーツの山があった。

その隙間からちょびっとだけ出ている尻尾……。

誘惑に負けて、尻尾の先を指でちょんちょん。

すると尻尾は、指から逃げるようにシーツの中に隠れてしまった。ちょっと残念。

起こすのも可哀想なので、稲穂が起きたら部屋に戻れるようドアを開けっぱなしにしておく。


「私が新しい敷布を取りにきたときに扉を開けたままにしていたので……」


部屋に戻ると、スピカが申し訳なさげに説明してくれた。

スピカに見つからずに忍び込むとは、稲穂、やりよる!

だが、稲穂がいるとは知らないスピカは、用事を終えるとドアを閉めた。

リネン室に閉じ込められた稲穂は助けを求めるよりも、まず遊ぶことにしたのだろう。

使用済みのシーツなどが入った籠を倒して中身を引っ張り出し、寝転がったり潜ったりしていたと思われる。そして、遊び疲れてそのまま眠ってしまったと。

遊ぶのはいいけど、閉じ込められるのは危険なので、しっかり注意しなければ!

そう意気込んだ瞬間――ボテッ!


「うぇっ!?」

――ぷみっ……。


突然頭の上に落ちてきた何かの正体は葡萄だった。

まだまだ幼い葡萄には、長時間張りつくのは難しいようだ。

頭の上の葡萄を回収し、もみもみしながらたくさん褒める。


「がんばったね。葡萄ならもっとすごいこともすぐできるようになるよ!」


忘れがちではあるが、葡萄の競争相手だった白は一度進化をしている上に、親スライムになれる個体である。つまり、能力差があるのは当然だろう。


――みゅぅぅぅ……みっ!?


白の鳴き声はどこか不満そう。

気になったので天井を見上げて、白を視界に捉えたと思ったら……どんどん大きくなって……ベチャッと私の顔面に張りついた。

衝撃はたいしたことないし、ひんやりぷにぷにで気持ちいい。


――みゅ……みゅみゅぅ。


私の顔面に張りついたまま、白は波打つような動作をする。


「うっかり落ちたらしい。珍しく恥ずかしがっているな」


森鬼が通訳してくれたけど、この波打ちは恥ずかしさを表現していたのか!

って、それよりも!ずっと張りつかれていたら息ができんわ!!

いまだうねうねと波打つ白を片手でむぎゅっと捕まえて、勢いよく剥がす。


「ぷはぁぁー!空気が美味い!」


思いっきり新鮮な空気を吸い込み、何度か深呼吸して息を整えた。


「白、私の顔に張りつくときは、鼻と口はふさがないように!」


私の命に関わるからね。


――みゅっ!


白が体から触手のようなものを一本出すと、真っ直ぐ上に伸ばした。

挙手……じゃなくて、了解って意味かな?

紫紺と葡萄が合流してから気づいたことがある。

白は他のスライムと比べて、ボディーランゲージでの表現が多い。

森鬼の通訳に頼らずに、自力で伝えようとしてくれているのであれば嬉しいな!

とりあえず、その伸ばされた触手もにぎにぎしておく。

なんか、わらび餅食べたくなってきた。白がわらび餅に似ているせいだな。きな粉をかけたら、美味しそうな見た目になりそう!


――み、みゅぅぅぅ……?


白はゆっくりと手のひらの上を移動し、ぴょいっと飛んで、森鬼の方へ転がっていった。


「あれ?」


「主の目が怖いと怯えているぞ」


森鬼はそう言って、白を掬い上げると肩に乗せる。心なしか庇っているように見えるのは気のせいだろうか?


「なんで!?」


いつぞやも星伍と陸星に怯えられたし……って、あれは興奮した私が悪いのだけど。そんなに怖いオーラ出してる?


「……あれは、獲物を見る目だった」


わらび餅を連想して、美味しそうって思ったのがいけなかったのか!


「別に白を食べようとしたわけじゃなくて、白みたいな感触のお菓子があったらいいなぁって思ってただけだから!!」


こっちの世界、料理もお菓子も美味しいけど、お菓子はとにかく焼き菓子が多い。

これは魔法があることと関係しているのかもしれない。

我が国でもライナス帝国でも、火属性持ちの料理人がいい料理人の条件だと昔から言われている。

もちろん、他の属性の料理人もいるけど、そのほとんどが属性に合った料理専門の人だ。水属性なら冷製料理、土属性ならパン職人といった具合に。

しかし、もっと冷たいお菓子があってもいいのでは?

わらび餅まではいかなくても、寒天のように固まる成分を持つ植物とかあれば冷たいお菓子の種類を増やせると思う。


「主、こんなぐちゃぐちゃするものを食べたいのか?」


森鬼は驚いているような、ドン引きしているような、なんとも言えない表情をしていた。


「ぐちゃぐちゃじゃなくて、ぷるぷるね!」


なんとも食欲が失せる表現を即訂正する。

そして、ぷるぷるゼリー系お菓子の素晴らしさを力説しようとしたら、今度はグラーティアが目の前に現れた!

お尻から糸を出し宙ぶらりん状態なのに、真っ直ぐ下りてくるのを見て、さすが蜘蛛だなぁと感心する。

グラーティアは私の目の高さで止まり、カチカチと牙を鳴らしたあと、突如として回転し始めた。


「ちょ……グラーティア!?目が回っちゃうよ?」


グラーティアが奇妙な行動をするときは、大抵テンションが上がっているときだ。

もしかしてこれは……勝利の舞い!?

白と葡萄に勝ったことが嬉しいのはわかるが、そんなに回転したら糸が切れたりしない?

蜘蛛の糸は用途によって強度や粘度が異なるそうで、ぶら下がるときの糸は命綱でもあるため一番丈夫だとされている。

まぁ、大丈夫だと思うけど念のためにグラーティアをキャッチできるよう、両手を構えた数秒後――ポテッとグラーティアが落ちてきた。

ほら、言わんこっちゃない!

しかも、目を回してしまったのか、脚の動きがぎこちなくなっている。


「グラーティアは具合がよくなるまでお休みです!」


そう言って、グラーティアを私の肩に移す。グラーティアはよろよろとした動きで、髪の中に入っていった。

元気になったらグラーティアにも注意をしないといけないな。

グラーティアの糸がどうなったのか気になり、天井を見上げる。目では視えないけど、糸はまだ天井から垂れ下がっているはず。

その糸を見つけようと腕を伸ばして振ってみるも、手の甲とか露出している部分に触れない限りわからないことに気づく。

……これは、忘れた頃に顔に糸が張りつくパターンでは?

突然、顔面になんとも言えない感触がして、うぇっうぇって顔の前で手をバタバタさせることがよくある。街路樹の下やアパートの階段を通るときなんか特に。そして、周りを見回すと、思いのほか近くに大きな蜘蛛の巣があって、ビビって逃げる。田舎あるあるだよね。

一本だけとはいえ、森鬼やパウルは身長もあるからこの罠に引っかかりそうだなぁ。

……うん、放っておこう!パウルが引っかかったらどんな反応するか見てみたいし!

そのときを想像してニマニマしていると、森鬼が何かに反応した。


「来たみたいだ」


森鬼の視線の先には、リビングの隅にある魔物っ子たちの水飲み場。

お姉ちゃんに作ってもらった、美味しい水がいつでも出てくる器タイプの魔道具が置いてあるのだが……。

その美味しい水からぽこりぽこりと泡が立っていると思ったら、大きな塊が現れた!


「ユーシェ!?」


なんつーところから登場しているんだ!?

せめて浴室とか、水がある場所は他にもあるだろうに……。

急に現れたので驚いたが、森鬼が言っていたお迎えはユーシェのことだったようだ。

ユーシェに抱きついて歓迎を伝えると、ちょっと激しめに鼻を鳴らされる。

その理由を、精霊経由で森鬼が教えてくれた。


「早く行こうと言っているらしい」


「わかった!じゃあ、行こう!」


スピカにお出かけすることを告げると、護衛が森鬼だけなのを心配された。


「ウルクも連れていった方が……」


「大丈夫だよ。宮殿の中からは出ないし、ユーシェもいるから」


ウルクは、ソル以外の聖獣には反応がよくないんだよね。警戒と怯えが半々って感じで。

ユーシェがいるので、ウルクにはお留守番してもらうつもりだ。

それに、白と葡萄もついていく気満々なので、護衛として頑張ってもらおう。


「じゃあ、スピカ。お留守番よろしくね!」


「はい!お任せください!」


スピカに見送られ、背中に私を乗せてたユーシェはカッポカッポと常歩(なみあし)で進む。

宮殿の廊下で乗馬をするという異様な光景……ではなく、ライナス帝国の宮殿ではままある。

皇帝が青天馬と契約することが多いため、宮殿の廊下も青天馬のサイズを考慮した造りなのだ。

目的地に到着するまで、私がやることは一つ!ユーシェの感触を全身で堪能するのみ!!

何度体験しても不思議な水の触り心地。水特有の不安定な感じはいっさいなく、絶対に割れない水風船が存在したら、こんな感触なのかもね。


というわけで、到着したのは陛下の執務室!

ルノハーク生け捕り作戦後の経過を把握していて、なおかつ私に話してくれそうなのは陛下しかいないと思い、精霊経由で押しかける許可をもらったのだ!

警備している警衛隊員が扉を開けてくれたので、お礼を言ってそそくさと中に入る。


「へいか。お時間をくださり、ありがとうございます」


「気にしなくてよい。私とネフェルティマ嬢の仲だ」


仲……友達っていう意味じゃなくて、聖獣の契約者同士っていう意味かな?

なんにせよ、急に会ってお話ししたいってわがままを聞いてくれるのはありがたい。

応接セットのソファーに向かい合って座り、私は早速切り出した。


「遺跡での作戦以降、何も知らされていないのですが、へいかは理由をごぞんじですか?」


「あぁ。その件か」


私の質問を聞いて、陛下はどこか安堵した様子。

もしかして、別で隠し事があるのかな?

私の怪訝(けげん)そうな顔に気づいた陛下が、ふわりと微笑んだ。


「君のことだから、獣王に会わせて欲しいとお願いしてくるだろうと思っていたのだ」


「……そんなことしません!」


さすがの私でも、紹介されていないのに押しかけるような真似はしないよ!

国賓が来る場合、通常は皇族や王族がお出迎えする。

私がライナス帝国に来たときに、ルイさんがお出迎えしてくれたようにね。まぁ、ルイさんは遅刻したけど……。


「なに、歓迎の宴ですぐに会える」


イクゥ国の使節団が到着して二日後に開催される予定の宴。

ライナス帝国内の主要貴族はもちろん、私とお姉ちゃんも招待されている。

陛下はそこで、私を獣王様に紹介するつもりのようだ。


「はい!楽しみにしています!」


獣王様がどんな動物の特徴を持つ種族なのか、私はまだ知らない。

スピカが集めてきた情報によると、とっても尊い種族なんだって!


「では、本題に戻るとしよう」


陛下はそう言って、先ほどの質問に答えてくれた。

作戦後の情報が何も知らされない理由はいたって簡単。まだ報告できることがないからだってさ!


「報告できることがないって……信じられません!」


創聖教のお偉いさんを捕まえておいて、一つも情報を得られてないなんてことはないでしょ!

捕まえた人もあんなにたくさんいるのだから、一人や二人、幹部クラスがいるだろうし。


「あれだけの人数を一度に捕まえたのだ。奴らの身元を調べるだけでも一苦労だろう」


陛下は尋問の手順を事細かに説明してくれた。

相手が協力的であれば、嘘をつかない、真実を話すなどの文言を入れて名に誓わせる。

だが、当たり前だけど、ほとんどの者は素直に吐いたりしない。

だから、暴力的手法を使って名に誓わせたり、質問に答えさせるわけだ。

そうやって聞き出したものが正しいものなのか、情報の精査が行われる。

まずは身元。貴族または貴族に連なる者であれば、国の記録と照らし合わせる。いわゆる戸籍みたいなやつだね。

平民は各組合に問い合わせる。

よほどのことがない限り、組合と関わらずに仕事はできないからだ。お店側は従業員名簿を組合に提出しなければならない規則があるので、ただの雇われでも組合の管理下にある。

そして次はルノハークに関して。

彼らの証言が一致するか、役割で違いがあるのか、過去に捕まえたルノハークの証言と矛盾がないかなど、一つ一つ確かめなければならない。

それと同時に彼らの家族の有無、どこに住んでいるのか、周辺住民への聞き取り、交友関係など、調査内容は一人を調べるだけでも多岐にわたる。

ガシェ王国やライナス帝国の者であれば比較的調べやすいだろうが、少数だがイクゥ国や小国家群の者もいるらしい。

戸籍みたいな制度を導入している国であれば、協力をお願いして調べてもらうことも可能だろう。

しかし、小国家群の中には、戸籍制度がない国がいくつか存在する。

また、国土の大半が長らく天災に見舞われていたイクゥ国は、その混乱で戸籍制度が機能していないことが予想された。

つまり、情報部隊の騎士たちが現地に(おもむ)いて調べなけれいけないってことで……。

やることが多すぎて、報告ができるほど情報もまとめられていないというわけか。


「私の方からも、応援としてエルフの部隊を送ったのだがね」


我が国でも、情報部隊や獣騎隊も駆り出されているかもしれない。それでも追いつかないのだろう。

ヴィにこき使われすぎて、騎士たちが倒れないといいけど……。


「私の方に上がってきた報告の中で、一つ面白いことを教えてあげよう」


陛下には報告がいっているのかと思ったけど、ライナス帝国軍が協力しているのだから、報告されるのは当然か。


「捕まえたルノハークのうち、半数近くが帝国民だった。そして、ガシェ王国の者は貴族や傍系出身の者が多かったのに対し、帝国民は平民が多かった」


陛下はさらに続ける。

ガシェ王国出身のルノハークは全員が五年以上活動をしており、対するライナス帝国出身のルノハークは三年未満の者ばかりだと。


「つまり、ガシェ王国側のルノハークは、おとう様たちから運よく逃れられた者ばかりということですね」


ガシェ王国でルノハークの一斉摘発を行ったのは、私が女神様の力で眠っているときだったので詳しくはわからない。

でも、我が家の優秀な使用人たちの網にも引っかからないって、ルノハークとしての活動を隠すのがとても上手い人たちだったのだろう。


「帝国出身のルノハークに新参者が多いのはどうしてでしょう?三巡ということは、創聖教が悪いことをしていた事実は広まっていたはず……」


貴族の幼い令嬢――つまり私を誘拐し、人身売買に関わっていたことは、ガシェ王国が正式に発表している。

その話はガシェ王国内だけに留まらず、大陸全土に伝わっていると思っていた。


「知ってはいただろうが、他国での出来事だ。ほとんどの者が自分とは関係ないと考えているよ。それに、彼らがルノハークに参加した理由は別のところにある」


陛下曰く、ライナス帝国出身のルノハークは国に対して強い不満を抱いているらしい。

それを知らしめる手段として、怪しい組織に身を投じたと……。


「聖主の目的はライナス帝国じゃないのに?」


「人がすべての種族の上に立つ。それがライナス帝国内にも定着したらどうなると思う?」


「うーん、自分の方がえらいんだと、他の種族にひどいことをする人が増えるのではないでしょうか?」


私の答えに陛下は深く頷く。


「エルフを通じて精霊の力を搾取し、獣人たちは過酷な労働……最悪、(いくさ)に連れていかれる可能性もある。その結果、苦労せずに美味しい思いができる、と考えた者が他種族を支配しようとするだろう」


私は前世で受けた歴史の授業を思い出した。

古代から近代に至るまで、同様のことがあちらこちらで行われていた。巨大な農園や鉱山、建築現場などの過酷な状況下で労働を()いられる奴隷制度。そのほとんどは弱者から搾取し、支配階級の者だけが大きな利益を得る。


「ですが、反発も大きいのでは?エルフや獣人が集団でおそってきたら人は勝てないでしょう?」


このラーシア大陸にあるほとんどの国に身分制度があるとはいえ、種族による差別はよくないとされている。よくないとされているだけで、差別がないわけではないが……。

だけど、ライナス帝国は複数の種族や民族が集まってできた国だ。そう易々と人間の横暴を許すことはないだろう。


「あぁ。我が帝国のエルフ族と獣人たちは腑抜けではないからね。人への反発が高まれば、人対他種族の大きな戦に発展する。それはライナス帝国だけに留まらず、大陸全土へと拡がる。人が勝てば聖主の目的は達成できるし、負けても大陸中が疲弊(ひへい)していれば、状況を(くつがえ)すことは容易だ。ネフェルティマ嬢という、創造主の愛し子がいればなおさらに……」


「他種族の多いライナス帝国に不和を起こすために、ルノハークは平民を組み入れたと?」


私は最初、創聖教がお金を得るために戦争を起こそうとしていると思っていたけど、聖主にとって戦争は目的を達する工程の一つにすぎないのかもしれない。

陛下が言うように、戦争は民も国も疲弊させる。

私自身は戦争を経験したことないし、殺傷能力のある武器を用いた戦いを見たのはこちらの世界でだった。

ただ、前世は多くの戦争が実際に起こり、それを題材にした映画や小説などたくさんある。

戦争のことは教科書の内容くらいでしか知らない私が、口コミの評判のよさに惹かれてある戦争映画を観た。

結果、私は最初から最後まで泣きっぱなしだった……。主人公が背負っている背景の重さに涙し、ストーリーが進むにつれ次々と戦死していく仲間たちに涙し、最後は仲間を生かすために自ら命を犠牲にする主人公。

もう号泣。なんでみんな生き残れたハッピーエンドじゃないの!?

主人公、お前が死んだら、生き残った仲間はずーっと心に傷を負うんだぞ!!

その映画は名作と呼ぶに相応しいとは思うけど、私にとっては戦争の悲惨さを焼きつけた、忘れられない映画になった。

それ以降、戦争映画に苦手意識を持つようになったのは仕方ないと思う。

今、映画の内容を思い出しただけでも涙が……。


「ネフェルティマ嬢!?」


突然泣き出してしまった私を見て、陛下が驚く。


「戦は……誰も幸せにならないです」


きっと、聖主だって幸せにはならない。


「ネフェルティマ嬢、安心しなさい。私たち(・・・)が絶対に戦を起こさせない。それが皇帝の役目だからな」


凄く真剣な眼差しで告げる陛下。

陛下の言う私たちには、ライナス帝国の皇族だけでなく、他国の王族たちも含まれているのだろう。いざというときは、他国の王族を従わせてでも戦争を回避するぞと。

このラーシア大陸で、もっとも長く続く国だからこその威厳のようなものを感じる。

それに……と、陛下は少し相好を崩して言葉を続けた。


「あちら側はあの手この手で我が帝国にちょっかいをかけているようだが……上手くいっていないようだよ」


陛下曰く、私のおかげで防げたものもあったらしい。

身に覚えがないのだが?陛下の勘違いではなかろうか?


「ネフェルティマ嬢が安心して暮らせるよう、聖主は必ず捕まえる。私たち(・・・)に任せておきなさい」


これは、余計なことをするなと釘を刺されているのかな?

とはいえ、捕まえたルノハークの情報も下りてこない状況では動きようがないけどね。

でも、その理由もわかったし、私は大人しく獣王様の来訪を待つとしよう!

私は陛下にお礼を言って、執務室をあとにする。

ちょうど入れ替わるように、書類を抱えたサリアスさんがやってきた。


「二の姫様、久方ぶりにございます。陛下の仰っていたお客人は、二の姫様でしたか」


陛下の側近であるサリアスさんは、ちょーっと子供嫌いなようで、私に対して当たりが強い。

けど、今日は声に元気がない。


「サリアス様、ずいぶんとお疲れのようですが大丈夫ですか?」


「問題ありません。イクゥ国の一件が落ち着くまでですから」


サリアスさんがイクゥ国使節団を迎える責任者なのか。じゃあ、今が一番忙しい時期だよね。


「お忙しい中、へいかのお時間をいただきありがとうございます。サリアス様もご無理はなさらないでくださいね」


「お気遣い感謝いたします」


お互い、社交辞令的な会話を交わして別れる。

帰りはユーシェがいないので、のんびり歩いて帰っていると、宮殿の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。

どうやら、イクゥ国使節団を迎え入れる準備が着々と進められているようだ。



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