長年の謎が判明したぞ!
2023/05/24 スライム紺→青に修正
遊びと会議を交互に繰り返していたら、いつの間にかプシュー作戦決行が決まってた。
会議にはすべて出席しましたよ!
だって、私の持つ陽玉と風玉がないと会議できないからね。
たまに意見を求められることがあって、私は率直に述べた。
それなのに、私が意見を言うたびにルイさん笑うんだよ!酷いよね!!
私は真剣に考えて、粉の眠り薬に美味しそうな匂いをつけたらどうかって言ったのに!
美味しそうな匂いがしたら、なんの匂いだろうって嗅ぐでしょ?嗅ぐことによって、眠り薬の粉を多く吸い込み、しっかり効き目が出ると思うんだ。
それに、もし効き目が弱くて逃げ出したルノハークがいても、その匂いで獣人が追いやすくなるんじゃないかなぁって。
そんなわけで、私はルイさんをやり込めるチャンスを虎視眈々と狙っているのだが、なかなか巡ってこない。
大人たちは相変わらず忙しく、ここ最近はパウルもよく消えるようになった。
どこで何しているのかはいっさい口を割らないので、たぶんパパンからの命令で動いているのだろう。
「今日は部屋にいろってパウルが言ってたけど、スピカは何か聞いてる?」
「見張ってろって言われました!」
「違う!そうじゃなくて!」
即突っ込んでしまった……。
スピカ、たまにわかっててふざけている節あるよね?
「他は、カイにも部屋にいるように言っていたくらいですかね?」
だから、この時間に珍しく海が部屋にいるのか。
いつもなら、ご飯探し兼お散歩の時間なのにね。
海は今、膝に稲穂を乗せて、ちょっとぼんやりしながら紫紺を揉みしだいている。
スライムはずっと揉んでいられるから、退屈しのぎになるし、ある意味時間泥棒だ。
私も海の横に移動し、同じように白をもみもみ。
指が沈みながらも押し返される柔らかな弾力!これを味わうには、ゆっくりと動かすのが一番いい。
もみもみというより、もぉぉみもぉぉみくらいのリズムで、指だけでなく手のひらも全部使って揉む!!
時折強く揉んで、指と指の隙間にスライムボディーがふにゅっと入る感触も楽しむ。
――みゅぅぅぅ……。
なすがままに揉まれている白だが、気持ちよさそうな鳴き声を上げる。
「ネマ様、お客様がお見えです」
スピカが知らせにきてくれたけど、誰か来るなんて聞いていない。
スピカの言い方からして、ダオとマーリエでもない。
「誰が来たの?」
「ユージン・ディルタ公爵令息です」
……いや、スピカは正しい。習った通りに言ったんだと思う。
でも、ジーン兄ちゃん、三十過ぎてんだわ。まだ当主ではないから、令息であっているんだけどすっごい違和感ある!
「スピカ、今度からジーン兄ちゃんのことはディルタきょうと呼ぶようにしようか」
スピカは素直にわかりましたと受け入れてくれた。
それにしても、ジーン兄ちゃんも忙しいはずなのに、なんの用だろう?
ジーン兄ちゃんが待っている応接室に向かった。
「突然押しかけてごめん」
外務大臣ではなく、文官っぽい格好をしているのは意外だった。変装中ってこと?
あと、お土産もないって謝られた。
お土産は仕方ない。ミルマ国から戻ってから、放浪の旅には出られてないみたいだし。
「大丈夫だよ。ジーン兄ちゃんと会えただけでうれしいもの!」
「ありがとう。でも、長居はできないんだ」
そう言って、ジーン兄ちゃんは突然やってきた理由を話してくれた。
「はぁ?ヴィが海を連れてこいって!?なんで?」
ほんと、なんで誰も彼もうちの子を連れていこうとするの!
「ルノハークを生け捕りにしたあと、奴らが抵抗しないように、カイに欲を食べてもらいたいらしいよ」
うーん?抵抗しない欲??
欲にもいろいろあるけれど、そんな都合のいい欲があるのか?
私には判断できないので、スピカに海を呼んでくるようお願いした。
少し待って、紫紺を手にしたままの海が来て、私の隣に座らせる。
「ヴィが、海の力を貸して欲しいって。それで、欲を食べたら悪い人が抵抗できなくなるの?」
「……うん?」
端折りすぎたのか、海に質問の意味が伝わらなかった。
海が首を傾げると、サラサラと髪が流れる。
今度は詳しく、わかりやすく説明した。ジーン兄ちゃんも補足してくれたので、海も理解はしてくれたが……。
「抵抗しなくなるか、わからない。欲なら食べられるけど、欲じゃないなら食べられないから。……でも、生きたい欲を食べれば、人は動かなくなるよ?」
うぉい……さらっと怖いこと言わないでよ。
生きたいっていう欲がなくなったら、無気力になるのかな?まさか、自害……なんてことないよね??
「欲と欲でない違いを説明できる?」
ジーン兄ちゃんの質問に、海は数秒固まったあと視線を上に向けたまま答えた。
「……濃さ?強い、いっぱい……重なる?」
日常会話は問題ないけど、思考や感覚的なものを表現するときには上手く言葉にできないみたい。
そもそも海は魔物だし、単独で過ごしていたようだし、十分しゃべれている方だろう。
「執着が強いと食べることができるんだよね」
「そう。食べるとなくなる。食べられるかは、触れてみないとわからない」
海の答えを聞いて、ジーン兄ちゃんは険しい顔をした。
なんとなく、ジーン兄ちゃんがこれから言うことの予想がつく。
海を現場に連れていく気なのだろう。というか、ヴィは端からそのつもりなんだと思うけど。
「……ネマ、構わないだろうか?」
「海はどうしたい?最低限戦わない作戦にはなっているけど、絶対じゃない。危ない目にあうかもしれない。私としては、他の方法もあると思っているけど、ヴィは海に来てほしいんだって」
「美味しくないものは食べたくない。でも、おうたいし?が呼んでるなら行ってもいいよ」
海はしばらく考え込んだあとそう告げた。
私が眠っている間に、ヴィは海を連れ出したことがある。
そのときに何か刷り込まれたのか!?
「本当にいいの?もし、ヴィに何か言われているのなら、気にしなくていいんだよ?」
ヴィのことだから、海がいなくても上手くいく方法はちゃんと用意してあるはず。ただ、海の方が効率がよいと判断してのことだろう。
「うん。主のためになるから行く」
ヴィのためじゃなく、私のためって……うちの子たち、いい子過ぎない!?
セイレーンは戦いを好む性質ではないから、そういった場所に赴くのは怖いだろうに。
「ありがとう、海!いい子、いい子」
ぎゅーっからの頭なでなでしてあげると、海は嬉しそうに目を細めた。
その表情で、私のもふもふ欲を食べているのが察せられるが、いっぱい食べて力をつけておくれ。
――むーっ!むむむっむぅぅぅー!!
海の膝の上で大人しくしていた紫紺が、急に激しく体を伸び縮みさせる。
通訳がいないから、何を言っているのかわからない!
「……シコンも行くの?」
海が紫紺に問いかけると、紫紺はむぅむぅと飛び跳ねる。
海に紫紺がなんて言ったのかを聞いたら、ある意味予想通りでもあり、意外でもあることを言われた。
「僕と一緒に行くって。僕を守るって言ってる」
そうか!海はレイティモ山で雫ファミリーとともに生活をしていた。私の知らない間に、本当の兄弟のような関係性を築いていたのか!
つまり、紫紺はお兄ちゃんとして弟を守るぞって張り切っているんだね!なんて可愛い子なんでしょう!!
……ふむ。レイティモ山からスライムの応援を呼ぶのもありだな。
「海と紫紺が仲いいスライムの子は誰?」
「僕は……青い子たちと一緒だった。シコンは、ヒスイとセイだって」
セイレーンと水辺を好む青系のスライムたちの相性がいいのはわかる。
紫紺はなんで翡翠と青?翡翠と青は、好む生息環境が異なるのに?
まぁ、スライムの謎生態は突き詰めると虚無感を味わうことになるので、そっとしておこう。
「ジーン兄ちゃん、まだ時間ある?ちょっとだけ待ってて欲しいの!」
ジーン兄ちゃんは了承してくれたので、私は急いで指示を出す。
まずは、海に荷物の準備をしてくるように言い、念のためスピカに手伝うようお願いした。
海はぼんやりすることも多いので、うっかり下着を入れ忘れたりしそうで心配なんだよ。
それからヒールラン、翡翠、青とそれぞれに声を届けてもらうよう精霊にお願いする。
最後に、お手紙用の転移魔法陣を持ってきて終了。
翡翠と青には、ヒールランが迎えにくるから急いでゴブリンの巣穴近くに行くよう伝え。ヒールランにはゴブリンの巣穴に翡翠と青がいるから、二匹を超至急送るよう伝えた。
二匹が送られてくるのを待つ間、ジーン兄ちゃんは作戦の細かな変更などを教えてくれた。
例えば、作戦開始時に突入する騎士たちは、一ヶ所に固まっていると作戦が露見するおそれがあるため分散させているのだが、転移魔法陣も用いることになったとか。
大人数を運ぶ転移魔法陣は大がかりなものになるので、それこそバレやすくなるのだが、転移先の魔法陣を布製のものにすることにしたそうだ。
一方通行の転移魔法陣であれば、魔力消費が大きくなるけど布製でも問題ないらしい。
布と言っても、ミュガエの繭から作られた糸で織っているので、目が飛び出るほどお金がかかっていたりする。
そのため、王国騎士団特殊部隊魔術隊がせっせと魔石に魔力をチャージしているんだって。
王宮の転移魔法陣は大きな魔石を四つも使って発動させているが、それ以上必要となると予備の魔石も全部使っても足りないことも予想される。
ゆえに、プシュー作戦決行時は、王立魔術研究所の面々と王宮の侍医たちが魔力不足に備えることになったとか。
治癒魔法で魔力を回復することも視野に入れているから侍医も待機させるんだろうけど、治癒魔法での魔力回復は難易度が高いってお兄ちゃん言ってたよ……。
そして最終手段は魔力回復薬だ。即効性の高いものは、反動が強くてしばらく魔力が使えなくなる。
そんな恐ろしい薬を研究員や侍医に飲ませるなんて……ヴィはやっぱり鬼畜だな。
腹黒陰険鬼畜王子の鬼畜っぷりに戦慄していたら、お手紙用の転移魔法陣が光を帯び始めた。
人を運ぶ転移魔法陣よりも目に優しいキラキラが現れると、魔法陣の真ん中に袋が出現した。
袋はもごもごうねうねと怪しい動きをしている。
中身が翡翠と青だとわかっているので怖くないが、わからなければちょっとホラーな光景だなって思った。
――うきゅーーー!!
――ののーーん!!
いつもどの子かわからなかったけど、のーんって気の抜ける鳴き声はお前だったのか!!
やや白みのある緑色をしたスライムこと翡翠を捕まえ、のーんの正体が判明した感動を噛み締める。
ずっと気になっていたけど、いつも何十匹といるときに聞こえていたので、どの子か判別できなかったんだ。ようやくわかってすっきり!!
「紫紺、翡翠、青。君たちに任務を与えます!」
テーブルの上で三匹に横並びさせて、私は命令する。
「これから海が、悪い人がいっぱいいる場所に危ない任務へ向かう。君たちの任務はその海を守ること!できるね?」
――むぅっ!
――うっきゅー!
――のーん。
ノリ的にはラジャーって返してくれているのだろう。
ただ、翡翠ののーんで緊張感がなくなるんだよね。
和ませ役としては非常に優秀である。
「いい関係が築けているね」
「うちのじまんの子たちですから!」
私がジーン兄ちゃんにドヤ顔を向けていると、海が荷物を持って戻ってきた。
「あ、ヒスイ、セイ」
すぐに翡翠と青に気づき、名前を呼ばれた二匹も海に飛びつく。
私のときと喜びようが違うんだけど……。ちょっとやさぐれた気持ちになった。
「ジーン兄ちゃん、ヴィに絶対に、ぜぇぇぇったいに海に無理させないよう言っておいてね!」
前科ありのヴィだけに、海も被害に遭わないとは限らない。なので、とことん釘を刺しておかないとね。
転移魔法陣でガシェ王国に戻るジーン兄ちゃんと海たちを見送ってから、ヴィに手紙を送る。
しかし、一日経っても二日経っても返事は返ってこなかった。
たとえ一言であろうと、私を馬鹿にする返事を寄越していたのに……。
まさか、見なかったふり!?
海が無茶振りされていないかやきもきしたけど、ヴィが返事を送らなかった理由が判明した。
準備が整ったので、次のルノハークの集会でプシュー作戦を決行すると。
そして、次の集会日もすでに情報を入手していた。ただし、開始時間は不明なので、その日は関係者全員、朝から詰めておくように。だって。
あの会議室に集合するとしても、陛下やゼアチルさんは公務もあるから無理じゃない?どうするんだろうねーってお姉ちゃんと話していたら、陛下からお手紙が届いた。
「おねえ様、なんて書いてあるの?」
「当日は陛下の執務室に来るようにですって」
なるほど!
現場に行く人もいるから、作戦当日は人が減っているのか!
それなら、陛下の執務室でも十分かも。
じゃあ、作戦決行日まで、死傷者が出ませんようにって、毎日女神様にお祈りしていようかな。
ようやく、のーんの鳴き声のスライムを特定したネマでした(笑)