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ストレスを発散しよう!

会議のあと、会議の内容を口外しないよう、全員が名に誓った。

それから、ジーン兄ちゃんはライナス帝国に来るための口裏合わせみたいなことを詰めて、慌しく帰国。

みんな忙しいよねーとのんきに過ごしていたら、なぜかルイさんに転移魔法陣がある部屋に連れてこられ、そこにはジーン兄ちゃんがいるではないか!

すぐに戻ってきた理由を問う前に、転移魔法陣が光り始めた。

光が収まると、見覚えのある白衣姿の人たちがいて……。


「おかあ様っ!?」


先頭に立つママンを見てびっくり!


「事前に伝えられなくてごめんなさいね」


ということは、ママンの後ろにいるのは王立魔術研究所の面々。我が国が誇るマッドなサイエンティスト集団!


「それと、わたくしは公爵夫人としてではなく、魔法工学局長として招かれているの。意味はわかるわね?」


「はい」


お仕事しにきているから、私と遊ぶ時間はないぞってことですね!心得ておりますとも!!

ママンが魔法や魔道具をいじっているときに邪魔をすると、恐怖の大魔王が降ってくるから……。触らぬ神に祟りなしってね。

いい子ねと頭を撫でられたあと、両肩をしっかりと掴まれ、ママンは凄く真剣な顔をして言った。


「ネマ。少しの間、グラーティアを預からせてくれないかしら?」


「……グラーティアを?」


「えぇ。グラーティアの眠らせる毒が必要なの」


例のプシュー作戦に、グラーティアが持つ催眠作用のある毒を使いたいのだと、ママンが説明してくれた。

ルイさんが言っていた眠り薬、何かの薬草を使うとばかり思っていたんだけど違うのか?


「ルイ様が言ってたお薬じゃないの?」


「もちろんそれも使用するわ。でもね、いろいろなお薬に使われているから、耐性を持っている人もいるのよ」


睡眠薬としてだけでなく、鎮痛剤や解熱剤にもその薬草が使われているから、効きづらい人がいるかもしれないってことか。

全員を眠らせるためのは、あまり使われていない成分のものも必要で、それがグラーティアの毒だと。


「少しってどのくらい?」


森鬼が帰ってきたのに、今度はグラーティアが離れることになるとは……。


「必要な分量が採取できるまでよ」


「採取!?」


いつぞやの光景を思い出した。

白の麻痺毒を打たれて嬉しそうにはしゃぐマッドなサイエンティストの姿を……。


「お嬢様!僕たちが丹精込めてお世話いたしますので、どうかよろしくお願いします!」


フラグの回収か!と思うくらいのタイミングで、その喜んでいた変態研究員さんが身を乗り出してきた。

彼らのお世話=怪しげな実験ではないだろうな!?


「主、グラーティアも離れるのを嫌がっているから、通わせるのでは駄目なのか?」


私の髪の中から森鬼のもとへ、いつの間にかグラーティアは避難して訴えたようだ。


「そうさせてあげたいのだけど、わたくしたちはこちらの研究所に篭もることになっているの。貴女たちの部屋まで送り迎えはできそうにないわ」


宮殿の広大な敷地内には、多種多様な建物がある。

軍部の詰め所に、訓練場。宮殿で働く人たちの宿舎に、国賓を泊める別館が数棟。

ママンが言う研究所もそのうちの一つだろう。


「送り迎えにはノックスがいる。……採取をしたらすぐに帰れるから大丈夫だ」


森鬼が発言している途中で、グラーティアがカチカチと牙を鳴らして何か言ったのかな?

指でちょいちょいとあやしながら、大丈夫だと言う森鬼の声音が優しい。


「ネマのところから通えるならそちらの方がいいわ」


「そんなぁ……特異体を観察できると思ったのに……」


うん。グラーティアは通わせることにしよう!

グラーティアを傷つけるようなことはしないと思うけど、変態さんと一緒に過ごすのは、グラーティアの教育によくない。


「ノックス、研究所の場所を知っているかな?」


確認のために、お外で遊んでいるノックスを呼ぼうと思ったが、この部屋には窓がなかった。

なので、ママンたちには待っててと言い残し、部屋から出て窓があるところへ。

森鬼に窓を開けてもらい、大きな声でノックスを呼ぶ。


「ノックスーーッ!!」


レスティンみたいに指笛で呼べたら格好いいんだけどね。

指笛は、いまだ成功したことがない……。


――ピィィィーー!


私に気づいたノックスが滑空してくる。窓枠をスーッと抜けて、腕を伸ばしている私の前で羽ばたいた。

腕に留まったノックスを肩に移して、ほっぺですりすり。

森林浴でもしていたのか、ノックスからは微かに爽やかな匂いがした。

ママンのもとへ戻るまでにグラーティアの送迎のことを話し、ママンたちについていって研究所の場所を覚えてきて欲しいとお願いする。


――ピィッ!


了解!と言っているような元気な返事をもらったので、たくさん褒めた。

ノックスのお腹の羽、今日もいい具合にふわっふわだわー。


「ノックス、グラーティア。いやなことされたらすぐに帰ってくるのよ」


私が言い聞かせている横で、研究員たちがそんなことしませんよ〜と涙目になっているが無視!

ノックスとグラーティアをママンに預ける。


「精霊様も見守ってくださっているから、心配しないで」


ママンにそう慰められてハッとした。


「精霊さん!グラーティアとノックスを守ってね」


精霊がついててくれてば、研究員たちも変なことはできないだろう。

二匹?の守りを固めたら、少し安心した。


「ネマもいい子にしているのよ。水浴びはほどほどにすること」


なんで私が水浴びをしているの知っているの!?って思ったけど、毎回お手紙にどんな遊びをしたか自分で報告してたわ。


「はーい!」


◆◆◆


いい子にしているとママンに約束したものの、忙しい大人たちと違って私は暇なのである。

ダオとマーリエが相手をしてくれない日は特に!


「そんなに退屈なら、外で遊べばいいだろ」


お部屋でうだうだしていた私に、森鬼が見かねたのか声をかけてきた。


「お外で遊ぶためのおもちゃがまだできてないの」


大工組合にお願いしているものは、まだ届いていない。

完成していたら、こんなところで寝転がっていないで、ダオとマーリエと一緒に遊んでいるよ!


「ふむ……。まぁいい。行くぞ、主」


森鬼に抱っこされ、強制的にお庭へ連行された。

魔物っ子たちは楽しそうだけど、なんだかんだ言ってウルクもちゃんとついてくるあたり、お外はそんなに嫌いじゃないのかも?


森鬼から降りて星伍と陸星をもふっていたら、森鬼は何かを精霊に命じた。

誰かに頼まれてではなく、森鬼が率先して命じるのは珍しいな。

ふわっと風が吹き、微かに地面が揺れる。

精霊のせいだろうと見守っていると、庭のあちらこちらに何かが生えた……。

地面がずももっと盛り上がり、いろいろな形を取る。


「こんなものか」


私が呆気に取られているのに、森鬼は満足げ。

え、何これ??

壁にトンネルに飛び石。ハードルのようなものもあれば、輪っかに平均台っぽいものも。

これはもしかして、障害物競走ですか?


「うわー訓練場みたい!」

「なつかしいね!」


我れ先にと駆けていく二匹。その後ろを慌てて追う稲穂。

ハードルを飛び越え、壁をよじ登り、トンネルを潜りと、はしゃぎ回っている姿は楽しそうだけど……。


「私にもやれと?」


「主、こういうの好きだろ?」


えぇ!好きですとも!!

魔物っ子たちの身体能力にはついていけないが、ハードルをぴょんっと飛び越え、壁は足場になる突起を使ってよじ登り、匍匐前進でトンネルを突き進む!!

飛び石は大股で(また)ぐよりも、小さくジャンプして渡る方が楽だった。

一通り一周すると、服は砂まみれに……。障害物がすべて土で作られているせいだろう。


「うーん、これは競走するしかない!」


人間VS魔物のガチンコ勝負だ!


「どう考えても主が負けると思うが?」


「ふっふっふっ。私はひたすら走るのよ!私が走るのと、星伍たちが障害を乗り越えながら走るの、どっちが速いと思う?」


魔物っ子たちとの遊びの中で鍛えられた私の脚力を披露してしんぜよう!

というわけで、まずはコースの準備。

障害物がある外周を、私が走りやすいように(なら)してもらう。

次に障害物の順番を決める。

障害物は不規則に生えているため、なるべく駆けやすいコースにして番号札を精霊にお願いして立てた。


「合図出しは森鬼ね」


スタート地点に三匹を並べ、私もちょっと離れた外周の地点に立つ。


「……準備はいいか?」


「いいよー!」

「ぼくも!」

――きゅっ!


やる気に満ちた三匹の様子を横目に、私も準備万端だと返事をする。


「それでは……始めっ!」


三匹とほぼ同時にスタートは切れた。

最初の障害は、高さの異なる三連続ハードル。いかにスピードを殺さずに飛べるかが大事……って、稲穂!初っ端から二個飛ばしは反則でしょ!!

稲穂は持ち前のジャンプ力を活かし、三連続のうち二つを一回のジャンプで飛び越えた。

星伍と陸星は、稲穂にぶつからないよう調整しながら、すんなりと通過していく。

そして、そのままの勢いでトンネルに。陸星、星伍、稲穂の順番で出てきた。

もしかして、障害物があっても負けるのでは?

細い平均台を落ちないように渡り、再びハードル。助走をつけたら今度は壁登り。

ここで間髪入れずに飛び越えた稲穂がトップになった。飛び石も軽快な小ジャンプでひょいひょい渡っていく。

そしてもう一度トンネルを潜り、輪っかをぴょいっと。尻尾が当たったのは仕方がないね。

あとはゴールまでまっしぐら……って私がどべじゃん!!

ラストスパートをかけたものの、星伍と陸星には追いつけなかった……。


――きゅぅぅぅぅっ!!


勝ったぞーという稲穂の鳴き声を聞きながら、私はゴールに座り込む。


「……主」


ぜぇはぁと荒い息のまま、森鬼に手のひらを向けた。

皆まで言うな!やっぱり負けたじゃないかと言いたいんだろう!!


「くやしい!」

「シンキ、もう一回!」


稲穂に負けたことが悔しいと、二匹は再挑戦を要求する。


「私は少し休む……」


全力疾走したせいか、足がプルプル震えているんだよ。

なので、三匹だけでやってもらうことにしたのだが……。


「くやしい!!」

「もう一回!!」


何度やっても壁のところで抜かされてしまう星伍と陸星。

稲穂のジャンプ力にはさすがに勝てないようだ。

休息を終えた私も加わったけど、何度やってもどべになる。

そして、先に私の体力がなくなり、まだやりたいという三匹を森鬼が抱っこで強制送還。私はウルクに乗ってゆったり帰ったよ。


お部屋に戻ると、ノックスとグラーティアも研究所から戻っていた。

すでにパウルが用意した食事をもりもり食べている。

ママンに預けた初日、グラーティアは蓄えていた毒をすべて採られたとかで疲れ気味だった。

ママンからは、栄養価の高いものを食べさせることと、しばらくはメロンの葉は与えないようにとの指示が。

メロンは回復薬に使う薬草で、私が眠っている間にママンが試しに与えてみたところ、グラーティアは見事、体内で生物濃縮させた。

それを使って人を助けたこともある。

回復薬より毒の生成に注力しろってことらしい。

それもあって、最近のグラーティアはよく食べる。


「パウルー、私もお腹すいたー」


「……ネマお嬢様たちは、先に湯浴みをいたしましょう」


「じゃあ、久しぶりにみんなで入ろう!」


魔物っ子たちを連れて浴室に向かい、スピカに手伝ってもらいながら三匹を洗う。

私のお世話があるので服を着たままなスピカは、長風呂派な私が湯冷めしないようにとお湯の温度にも気を配ってくれる。


「イナホが一緒だと、お湯が冷めなくて楽ですね」


星伍と陸星は、レイティモ山で過ごしていた時期があるので、温泉大好きだし、お風呂も慣れっこだ。

稲穂は最初怯えていたけど、どちらかと言うと体を洗われるのが苦手だったらしく、お湯には自ら飛び込むようになった。

そして、お湯加減が合わなければ、自分の力を使って温めるし、冷めないよう温度も維持するまでに。


「ガシェ王国に戻ったら、稲穂も温泉に行こうねー。絶対気にいるから!」


――きゅぅぅ!!


はぁー極楽極楽〜!




誤字報告、ありがとうございますm(_ _)m

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