すみません、パパンを舐めてました。
残酷な描写があります。苦手な方は飛ばして下さい。
R15を設定するか悩んでます。
あと、蜘蛛が苦手、嫌悪を持っている方は読まずに回れ右!!
洞窟の中に一匹のクイが入って来た。
クイは焦げ茶の胴長短足の小動物で、一見イタチに似ているが、尻尾が体長の2倍以上ある。そして、爪は鋭く、犬歯も尖っていて、森での生活に特化している。小さいのに凶暴な性格らしいので、ペット感覚で触ったら、いろんな意味でスプラッタかもしれない。
そんなクイが、洞窟の近くに人間が来たことを知らせてくれた。
ありがとねーと、クイの喉元を撫で、ついでに尻尾のもふもふを堪能する。
この多機能な尻尾、鞭のように攻撃にも使え、ロープのように枝に巻き付け体を支えたり、尻尾の先端は疑似餌としても使える、正に進化の極み!程よい弾力と、北国の動物特有の密度の高い毛皮!!
マフラーとして連れ歩くのもアリかも…。可哀想だからやらないけどさ。
大人しく触らせてくれたクイに、ご褒美としてジャイアントボアの肉の欠片をあげる。
はぁ。やっぱ動物がご飯をはぐはぐしている姿は癒される。
…って、ゆっくりしている場合じゃなかった!
「ピィノ、ニィノ、おねがいね。うちあわせどおりに…」
「わかってるわよ!お家に帰れるなら、なんだってやるわ」
おぉ!やる気があっていいね。やっぱり、プライドの高い女の子には褒め殺しが一番効くね!どうやって言いくるめたかは秘密ってことで。
「じゃあ、このウサギは僕が預かっておくね」
万が一のため、怪我したウサギはピィノに預かってもらうことにした。
この二人が確実に保護されるのを見込んでのことだ。
「もう少しのしんぼうだからね」
毛玉なウサギを撫でると、気持ち良さそうに鼻をヒクヒクさせる。
事が終わったら、この子をお家で飼えないか交渉してみよう。
ピィノとニィノが洞窟を出ていく。
恐る恐る、後ろを気にするように。そういうふうに演技をしているのも作戦のうち。
少し置いて、足の速いゴブリン三匹が二人を追いかけるように洞窟から出ていく。
もちろん、彼らにもソルの防御魔法がかかっている。
私とホブゴブリンには防御魔法の他に、外の声が聞こえるよう、集音の魔法もかけてもらった。
「いやぁ!!」
ニィノの悲鳴が聞こえた。恐らく演技の方。
「ニィノ、こっちだ!」
私の要望通り、ゴブリンたちから逃げ出したがすぐに見つかってしまったという演技をしてくれている二人。
「ギーッ!!」
追え!とでも言っているのか、ゴブリンたちも中々の演技力だ。
そのときだった。
「……他にも子供が……」
微かだが人の声。
少し間があって、
「保護しろ」
パパンの声だね。
「…しかし、ゴブリンどもに我々のことが知れてしまいます」
これは部下さんのどっちかかな?
這々(ほうほう)の体で逃げ出してきた子供を助けないつもり?
なんて冷血漢!
「構わん」
パパンは子供を見捨てたりしないよね。
でも、そんなパパンに違和感を感じるのは私だけか?
ザザッと音がして、足音とガチャガチャと甲冑の音がした。
出てきたのは騎士さんたちが2~3人ってとこか。
「こっちへ!」
一人がピィノとニィノを森の中へと誘導して、残りがゴブリンたちを牽制している模様。
しかし、ゴブリンたちは鬼ダッシュで洞窟へと逃げ込む。
そう、この逃げ足の速さ、コレ重要。
ゴブリンたちが無事に戻ってくると、私はホブゴブリンに合図を出す。
彼は何も言わず、軽く頷いて外へと出ていった。
逃げ込んでから、洞窟の入口を魔法でドッカーンとやられないために、ホブゴブリンには標的になってもらう。
「その子供は返す。人間たちよ立ち去れ!」
「言葉を操るホブゴブリンとは珍しいな」
森の中から無防備にも出てきたのはパパンだった。炎のオーラを身に纏い、その声音は氷のように冷たい。
コワッ!あれうちのパパンじゃないよ!
「ネフェルティマを返してもらおうか。もう子供は寝る時間だしな」
突然、ゴォォーーっていう音が、洞窟内にも響いてきた。
私は慌てて、外を覗き見る。
炎を纏った父と、ヘビのような炎がホブゴブリンに喰らいつこうとしている瞬間だった。
ホブゴブリンのほんの数センチ手前で、炎のヘビが弾けた。
いや、真っ二つにわかれたのか。
辺りには、焦げた臭いが漂う。
「…ネフェルティマ!出てきなさい!」
ホブゴブリンの存在を無視して、洞窟の入り口に向かってパパンは言った。
その声は今までに聞いたことのない、ブリザード級の冷たい声。
これはもうバレたってことだよね?
そして、めちゃくちゃ怒ってらっしゃいますよね?
…死亡フラグ立ったー!!
こんなにすぐバレるとは…。困ったな、どうしようかな。
ここは素直に謝って、事情を説明する方が得策かな?
―ソル、私の声をお父様まで届けれる?
―もう終わりか?つまらんな。…しゃべってよいぞ。
つまらないってあなた…。ここら一帯を焦土にするつもりですか?
「おとー様、ごめんなさい」
「何に対しての謝罪かわからないけれど、まず姿を見せて、私を安心させて欲しい」
ブリザード級から吹雪くらいまでには収まったかな?
でも、まだ安心できないな。
「おこらない?まほうもつかわない?」
「…わかった。怒らないし、魔法も使わない。約束しよう」
まぁ、言質を取れればいいか。パパンは子供には嘘つかないし、私との約束を破ったことないからね。
「おとー様!」
洞窟から出て、パパンに向かって走る。パパンにギュッて抱き付くと、倍の強さでギューーーってされた。
ゔっ、苦しい!
なんかよくある感動の場面みたいになっちゃったけど、とりあえずはパパンのご機嫌取りしておかないとね。苦しいけど、我慢がまん。
でもね、いまだソルの魔法が効いてる私の耳には、ちゃんと聞こえていたよ。
呪文の詠唱が…。
―ソル!洞窟を守って!!
洞窟の入り口に、炎の壁が現れた。それと同時に、大きな炎のボールがぶつかる。
炎のボールは炎の壁に飲み込まれ、ただ勢いを増す糧になっただけだった。
私はパパンから離れ、ホブゴブリンの盾になれる位置まで移動した。
ここにいる人間は、絶対に私を攻撃できないからね。
「ネマ!」
「わかってる。私がやくそくしたのはおとー様だもの。でもね、ここにいるゴブリンたちはころさせない!」
約束したのはパパンであって、他の部下さんたちは関係ない。関係ないけどさ、空気ぐらい読もうよ!ここ、大事な場面だからね!
「どうして、そのゴブリンたちを庇うんだ?」
「だって、この子たちはにんげんにりようされただけだもん!」
ようやく、パパンに事情を説明することができたよ。ホブゴブリンもポツポツと説明の補足をしてくれたし。
その頃には、パパンは父親としてではなく、ガシェ王国の宰相としてのお仕事モードになっていた。
とりあえず、私の死亡フラグは回避できたかな?
パパンになんで私が関与しているのがわかったのか聞いてみたら、いくら子供とはいえ、ゴブリンが住処に帰っているときに逃げ出すのはおかしいって。逃げるなら、狩りに出ている昼間の方がまだ助かる可能性が高いのがわかるはずだってさ。
カマかけで魔法使ったら、強い防御魔法がホブゴブリンにかけてあったから、ソルの魔法に違いないと思ったらしい。
うぅ、読みが甘かったか。
その後は、ゴブリンたちとはお友達になったから、彼らがここにいる人間に危害を加えることはないと切実に訴えた。
それなのに、いつになったら部下さんたちは戦闘態勢を解除してくれるの?
いい加減、私も疲れてきたんですけど?いつまでも外で立ち話してないで、村に戻るか洞窟に入ろうよ。
パパンにそう提案してみたら、今から森を動くのは危険だから、洞窟で一泊しようってことになった。
信用してもらえたっていうより、ゴブリンがどれだけ集まろうともどうにでもできるっていうことなんだろうけどさ。
ま、いいや。ソルにお願いして、炎の壁を消してもらおう。
「ピィノ、ニィノ、けがしなかった?」
せっかく協力してもらったのに、中途半端な感じで終わってしまったから、二人にもちゃんと説明しないとね。
ピギャピギャッ―――
鳥の声が辺りに響いた。
ノックスだ!この鳴き方は、危険を知らせてる。
夜行性で肉食系な動物でも近づいて来たのかな?
ノックスの声がした方を見上げると、青く光る玉が、8個も浮いていた。
ナニコレ??
「娘っ!!」
ホブゴブリンがこちらに急いでやってくる。
ホブゴブリンにはコレが何かわかったみたいだ。
―ソル、松明くらいの火を何個か出して!
―承知した。して、何があった?
―わかんないけど、何かがいるの!
狐火のように、私の周りに3個の火の玉が現れた。
その炎に照らされて浮かび上がった姿は…蜘蛛だった。
よーし、落ち着け自分。こんなバカでかい蜘蛛が、どうやったら音もなく近づいて来たんだ!っていうツッコミは置いといて。
つか、蜘蛛でいいんだよね?だって、知っている蜘蛛より、外骨格がすごく丈夫そうで、どちらかというと蟹っぽいよ?
しかも、色が白と緑の斑模様に見えるんだが、これが保護色なのか!?
「…フローズンスパイダー!」
ほうほう。これがフローズンスパイダーなのか。
このフローズンスパイダーから伝わってくるのは、強い『餓え』と『焦り』。
お腹が空いてるのはわかるけど、何に対して焦っているのかな?
聞いてみようとしたけれど、ホブゴブリンと睨み合い中で、そんな雰囲気じゃなかった。
そうだよね。フローズンスパイダーにとっては、ご飯が目の前にあるんだもんね。
食うか食われるかのガチンコ勝負だ。
仕方ないので、ホブゴブリンが注意を引き受けてくれている間に、私たちは巻き込まれないよう、そーっとパパンの元へ避難する。
フローズンスパイダーが右前脚を大きく振り上げ、ホブゴブリンを串刺しにしようとした。前脚の先端が鋭く尖っているのは、爪なのかな?
ホブゴブリンは素早く躱すと跳躍し、それが2m越えていて、その跳躍力はなんのスキルだ!っていうツッコミもグッと我慢。
フローズンスパイダーの頭上から、拳を突き出した。
グシャッと、卵を落としたときのような音がして、フローズンスパイダーの目が一つ潰れた。
怒りのためか、口元の牙をガチガチ鳴らして、その衝撃で牙からは毒と思われる液体が滴った。
キレイに着地したホブゴブリンの拳は血塗れで、それを払う仕草をしたときだった。
フローズンスパイダーは8本の脚にググっと力を込め、跳んだ。
もちろん、ホブゴブリン目がけて。
ドスッていう音がして、私は知らずに息を飲んだ。
ここで彼が負けるようならば、パパンは顔色一つ変えず、両者とも業火で焼いてしまうんだと思う。
それは私たち人間が生き残るための必然。力の差はあれど、これもまた生存競争の一つ。
わかってる。まだ納得はできていないかもしれないけど、ちゃんと理解はしてる。ホブゴブリンとフローズンスパイダー、どちらが勝っても結局本当の勝者は私たちだ。
ギギッ―――
異様な音が聴こえた。フローズンスパイダーは蜘蛛だから、鳴き声ではない。
続いて、ブチブチッと何かが断裂する音がした。
フローズンスパイダーは忙しなく牙をガチガチいわせている。
一体、何が起こっているのだろうか?まぁ、わかったのは、ホブゴブリンはヤられてはいないってことだね。
ソルの防御魔法は対魔法だけじゃなく、対物理攻撃にもちゃんと効いていたようだ。
―タスケテ………
あぁ、そういうことだったのか。
フローズンスパイダーの意思がようやく伝わってきた。
彼女の『焦り』は、我が子に対するもの。
どういう生態なのかはよくわからないけど、フローズンスパイダーのお腹の中には子供がいる。
たぶん、卵をお腹の中で孵して、ある程度大きくなるまで、寄生みたいな形で育ててるのかな?
その子供のためにも餌をたくさん食べないといけないのに、獲物が捕まらず、段々と衰弱してきた。
いつもなら捕まるはずのものが捕まらない。
そりゃそうだ。これだけ大所帯のゴブリンが流れてきたのだ。森の生態系にも影響が出てしまったのかもしれない。
そう考えると、彼女もまた被害者だ。
ホブゴブリンが何をしているのかまったく見えないが、徐々にフローズンスパイダーの目から生気がなくなっていく。
ガチガチっていう牙の音も、いつの間にか聞こえなくなっている。
ズンッ―――
ついに、フローズンスパイダーの体が地に落ちた。
その体を押し上げて、ホブゴブリンが出てきた。
うん。その腕力もツッコむべき?ていうか君、ホブゴブリンのレベルじゃないよね?この世界だと、これがデフォルトですか??
フローズンスパイダーの体がひっくり返しになって、ホブゴブリンが何をしていたのかわかった。
頭胸部と腹部の関節部分を力技で裂き、中身を喰らっていたようだ。
ホブゴブリンは全身血塗れだし、辺りにもおびただしい量の血が流れている。
母は強しと言うけれど、衰弱した彼女は勝てなかった。
私は屍となったフローズンスパイダーに近付き、胸の部分を撫でた。
手が血に濡れたけど気にしない。
神様のことは好きじゃないけど、今は彼にお願いしたい。
死後の世界に行くとしても、また生まれ変わってくるにしても、彼女が子供たちと穏やかに過ごせるようにと、祈りを捧げる。
………偽善だな。私は彼女を殺したんだ。自分のエゴのために。
「ごめんね」
そのとき、フローズンスパイダーのお腹が動いた。いや、動いたと言うよりは、盛り上がった?
ジッと様子を見ていると、お腹から小さな蜘蛛が一匹出てきた。
母親のお腹を裂いて出てくるとか、ちょっと…いや、かなり恐ろしいんですけど!!
何匹出てくるのかと身構えていたけれど、どうも一匹だけのようだ。
ん?一匹だけっておかしくない?
蜘蛛ってめっちゃたくさん卵産むよね?
昔、一人暮らししていた部屋で、蜘蛛の卵が孵化したことがあったけど、そりゃあもう恐ろしいことに!
1mmくらいの蜘蛛の子が、わらわらもぞもぞと、糸を垂らしながら行動範囲を拡げていく様子は、即行で殺虫剤散布の鳥肌もんだったよ!
私が子蜘蛛とにらめっこしていると、安全だとわかったのか、ノックスが側に来た。
ノックスが子蜘蛛に気がづくと、ギャアギャアと翼を広げて威嚇し出した。
それに驚いたのか、子蜘蛛は一番前の一対の脚を大きく広げて左右に揺れ出しだ。
確か、蜘蛛は前脚を広げて体を大きく見せることで威嚇するって聞いたことがある。
ノックスに対して威嚇してるのか…。威嚇っていうより踊りだな。
動きがユーモラスで、なんか可愛い。いいぞ、ノックス!もっとやれ!
よもや、あの恐怖体験をした私が、蜘蛛を可愛いと思える日が来るとは…。
この子もお持ち帰りでお願いします!
「ネマ…」
パパンがそっと肩に手を置いた。
落ち込んでると思ったのかな?
まだ悲しいって部分もあるけど、この子蜘蛛に大分癒されたよ!
「だいじょうぶ!たとえどんなじょうきょうであろーとも、つよいものがいきのこる。しぜんかいのせつりを私のわがままでまげちゃいけないんだよ」
よくできましたというふうに、パパンがギュッと抱きしめてくれる。
でもね、助けれる命は助けたかったっていうのが本音だよ。
助けてあげることもできたのに、私はそれをしなかった。怖かった。
助けたのなら、それに伴う責任は全て私に来る。それを完うできる自信がない。こんな弱くて小さい自分が嫌いだ。強くなりたい。種族を問わず、生き物たちにあった環境で暮らしていけるよう、なんでもいいからできる私になりたい。
ホブゴブリンが森に必要とされたいと言ったように、生き物全てが自然から必要とされる存在であってほしい。
強くなるから!だから、今は許して。
パパンの腕の中で、思いっきり泣いた。ここまで泣いたのは、赤ちゃんのとき以来だと思う。
周りのみんなも、ノックスも、ホブゴブリンも心配そうにこちらを窺っている。ドン引きされなくてよかった。
…あれ?ちょっとホブゴブリンさん?何かおかしくないですか??
涙で霞む視界をハッキリさせるために、ゴシゴシと目を擦る。
パパンに無言で手を止められ、ハンカチをくれたので、遠慮なく涙を拭いて、ついでに鼻もかんでおく。最後に血の付いた手を拭くことも忘れてはいけない。
スッキリした所で、改めてホブゴブリンを見る。
彼の周りには、意味不明のキラキラエフェクトがあり、さらに炎のようなオーラが体を覆っている。
パパンよ、アレはなんぞや?
オーラが強くなり、ホブゴブリンの姿が見えなくなった。
シャンっていう効果音と共に、キラキラエフェクトとオーラが霧散すると、そこにはまったく別の生き物がいた。…生き物っていうよりは人間に近いかも。
人間と全く同じ体、どちらかというと細マッチョ系。象牙色の肌には緑色の刺青みたいなのが入っていて、耳はちょっととんがっている。髪は青で瞳は赤という派手な配色。頭の上には2本の黒い角が生えていた。
…おたく、どちら様で?
「進化した…?」
パパンの疑問系な呟き。
疑問系ってことは、パパンもよくわかってないのか。
「…ホブゴブリンなの?」
「あぁ。何が起こったんだ?」
いや、それはこっちが聞きたいんですけど?
本人?もよくわかってないってどうよ。
こういうときは、困ったときのソル頼み!
―ソールー!!ホブゴブリンが進化?したみたい!
―ゴブリンの上位種がホブゴブリンゆえ、それ以上の進化はないぞ?
―だって現に人間みたいな姿になってるよ!…角あるけど。
―角だと?…もしかしたら、ワジテ大陸にいると言われている、『鬼』というやつかもしれんな。
ワジテ大陸はラーシア大陸の南西にある。大きさはラーシア大陸の半分くらいだったと思う。
んー、イメージ的には、ラーシアが地球で言うユーラシア大陸で、ワジテはアフリカ大陸かな?
『鬼』ねぇ。まぁ、確かに日本の鬼に通じるものもあるけど、こんなに派手じゃないよ?赤・青・緑に黒でしょう。黒じゃなくて黄色があれば、属性四色が揃ったのにね。
―実際に見てみたい。
―…ここ、ソルが降りれる広さないよ?
―そうか。では、昨日お主がいたと言う村ではどうか?
村もちっさいけど、なんとかソルが降りれるスペースはあるかな?
―たぶん、大丈夫!
―では、明日、久しぶりに相見えよう。
ソルって時々古風な言い方するから、どう変換するのかわからないときがあるよね。
あいみえよう…愛…違うな。…
会うか!会い見えるだ!
「ソルがね、ワジテたいりくにいる『おに』ってゆーしゅぞくじゃないかって」
「『鬼』!!」
おぉ。パパン、ナイスリアクション!
「で、あしたあいにくるって言ってた」
あ、そうそう。大事なこと忘れてた!
「おとー様、かれに着るものをあげて」
元ホブゴブリン、すっぽんぽんなんだもん。目のやり場に困っちゃうね。
今更なことに気づいたパパンが、慌てて部下のロングコートを奪い、元ホブゴブリンに与えた。
ちょっと部下さんが可哀想。
ロングコートを恐る恐る着る元ホブゴブリンも微笑ましいけど…ヤバい、腹筋崩壊しそう。
だって、どこぞの露出狂みたくなってんだもん!
ちゃんと前、閉めようね。間違ってもガバッてやっちゃダメだよ?強制猥褻罪で捕まっちゃうからね?
まぁ、この元ホブゴブリンの肉体美なら、拝みたいっていうお姉様がいっぱいいるかもしれないけどさ。
ボタンに四苦八苦している元ホブゴブリンを見かねて、手を貸してあげる。
大切なことも言ってないしね。
「たすけてくれて、ありがとー!」
ついでだから、ギューっとハグしておく。んー、人間に近いと毛も鱗もないからつまんないな。
「ネマッ!」
はいはい。男の嫉妬はみっともないよ、パパン。
さて、今度こそ本当に寝るぞ!
はっ!ピィノがすでに寝てる!!
この騒ぎの中寝れるってすげーな、おい。ニィノも呆れてるよ?
マイペースなのか豪胆なのか、こういう子が将来大物になるんだろうね。
って、こっちにもいたー!
君たちまだやってたの?その遊び気に入っちゃったの?
まったくもぉ。ノックス、その子は敵じゃないからね?
はいはい。いい子いい子。ちゃんとパパンたちを連れてきてくれて、ありがとね。
なでなでして機嫌が良くなったのか、ノックスは私の肩に乗ってきた。
なぜにドヤ顔してるのかな…この子は。
「君はどーする?私といっしょにくる?それとも、お母さんがいたこの森にのこりたい?」
そういえばこの子蜘蛛、色は黒だ。父親の種類が違うとは考えられないから、成体になったら色が変わるのかな?
にしても、白地に緑の斑って、派手だよね。まだ黒い方が、蜘蛛!って感じがする。
子蜘蛛は迷うように体を揺らしている。悩んでるのかな?
そして、意を決したのか、ピョンと私の腕に飛び乗り、こちょこちょと登っていく。
やっぱり、小さいと可愛いな。
子蜘蛛はノックスと反対側の肩を定位置としたようだ。
目に当たらないよう、背中の少し窪んだ部分を人差し指で撫でる。
やっぱり昆虫みたいだった。カブトムシの角みたいに、固い感触だ。
でも、潰さないように気をつけないとね。
名前は何にしようかなぁ?
悩んで視線を彷徨わせ、フローズンスパイダーの屍で止まる。
あぁ。あれにしよう。私が好きな言葉。そして、大切な気持ち。
「君の名前は『グラーティア』だよ。私をつよくしてくれた、そして君をまもったすてきなお母さんにおくることば。グラーティア、感謝っていう意味があるの」
女の子っぽい名前だけど、性別わからないからいいよね?
「よろしくね、グラーティア!」
再度、背中をなでなでしてあげていると、グラーティアの頭の部分というか、目の間かな?そこに、白い模様みたいなのが浮かんできた。
…これは…!
私また何かやらかしちゃったねー、多分。
ま、いいか。明日ソルに聞けばわかるっしょ。
それより、お腹空いたから、パパンから携帯食奪ってこようっと。
雪の中、お仕事だった皆様、お疲れ様でした!
私の方は、勤務時間中にはさほど影響がなかったので一安心。夜勤務だったみんなご愁傷様m(_ _)m
私は休憩時間に、車両にチェーンを付けている人たちの横で、同僚と雪だるま作ったり、雪合戦して遊んでました(笑)
さて、ネマのペットが一匹増えました。よりによって蜘蛛をチョイス…皆様の頭の中で可愛くデフォルメされていることでしょう!
そしてお父さん!かっこ良くしてあげたかったのに、出来なくてすみませんでした(土下座)