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被害者はここにもいた!

各組合の意向を知りたいと、ヒールランに手紙を送ったらすぐに返事が来た。

返事には、一部懸念する声は上がったが、お兄ちゃんの説得により全組合が賛同してくれたと書かれていた。

いやいや、その懸念する声の内容が知りたいんだよと、何度かやり取りをするはめに。

その結果わかったことは、反対の姿勢を見せていたのはやはり冒険者組合で、その他の組合は可もなく不可もなしといった反応だったらしい。

そして、冒険者組合の長アドの意見としては、魔物を外に出す必要があるのか、群れが弱体化して個体数が減るのであれば、捕まえてくればいいのではと。

おそらくアドの本心ではなく、冒険者組合の立場での発言だろう。

危険と隣り合わせな仕事だからこそ、アドは冒険者に不利益がおよばないように心を砕いているように思う。

ゆえに、アドを懐柔するなら、冒険者組合に提案していた去勢魔法を使うのが早い。

だが、去勢魔法は最終手段だ!

オスフェ家の総力を持ってしても解決策が打てないときにしか使わないと心に決めている。


それらヒールランからの手紙を読んだ上で、お引っ越しするか否か。

私が下した決断は『お父様と相談するからしばし待たれよ』だ。

魔物だけでなく、シアナ特区全体に関わることだからね。

なので、今日、パウルと一緒に考えた案も含め、お引っ越しどうしようかと、パパンに相談する手紙を送った。

ちょーっと分厚くなっちゃったけど、パパンなら喜んでくれるよね?


そして翌日。

朝一番に、パパンからの返事が届く。

長い手紙は嬉しいけど少し落ち着きなさいと、一行目に書かれていた。

いろいろと新しいことに挑戦したい気持ちは理解できるが、物事には順序があるからと。

……確かに、なんでもその場の勢いでやってしまおうとするのは、私の悪い癖かも。

まずは優先しなければならないことは何か。そして、時間のかかるものは優先順位を上げなさいとのアドバイスもくれた。

あとはパパンの見解だね。

パパンとしては、魔物を外に出しても問題ないと考えていること。ただし、新しい住処に魔物が適応できるのか、しっかり調べなければならない。

シアナ特区の売り込み方も、お兄ちゃんが許可するなら好きにしていいこと。

コボルトと冒険者に目印をつけることに関しては、面白そうだとも書かれていた。

新人冒険者の派遣バイトは、魔物のお引っ越しがシアナ特区にどのような影響を与えたかを見極めてからにしなさいと、やや否定的な感じだ。

全部一気にやるのではなく、要不要をちゃんと考えなさいってことだと思う。

シアナ特区を改変するにしても、必要ないことまでやらされるのは、現場が大変だもんね。

よし!ここは臨機応変に、一つずつ対処していこう!


ヒールランにはお引っ越し決行とシアナ特区の改変について書いた手紙を、お兄ちゃんにはパパンと相談した内容を報告する手紙を送った。

昨日から、手が痛くなるくらいたくさん手紙を書いているので、ちょっと休憩。

魔物っ子たちと遊んで、ウルクとお昼寝して、お姉ちゃんと夕食を食べて……。

あれ?もう寝る時間??

お兄ちゃんからのお返事を待っていたんだけど、今日は忙しかったのかな?

明日には来るだろうと思っていたのに……お兄ちゃんからの返事は届くことはなかった。



絶対にヴィのせいだ!ヴィがこき使うから、何日も屋敷に帰れていないんだ!!

文句を書き連ねた分厚い手紙をヴィに送りつける。

意外と早く返事が届いたものの……。


『ラルフは今忙しい。お前は、そちらで大人しくしているように』


これを読んだ瞬間、うがぁーってなったよね。

あの腹黒陰険鬼畜王子!私のお兄ちゃんをこき使うとは何様だ!!


「王太子殿下でございます」


「独り言に突っ込まなくてよろしい!」


思わず口に出していた何様発言に、パウルが冷静に返答するもんだから、さらに私がツッコミを入れるはめに……。


「おそらく、ラルフ様にしか任せられないことをお願いされているのでしょう」


ヴィの周りには優秀な部下が揃っているのに、わざわざお兄ちゃんの手を借りるということは、お兄ちゃんにしかできないことなんだと思うけども!

あのお兄ちゃんが!私にお返事を書けないってよっぽどのことだよ!!


「それと、こちらも届いておりますよ」


パウルが私へ差し出したのは青い封筒。


「これは!!」


裏の封蝋には、ライナス帝国の紋章がくっきりと押されている。

この国で青い封筒を使用できるのはただ一人。そう、皇帝陛下からの公式なお手紙!


「ここまでするとは……」


この青い手紙は、各国のお偉いさんへの親書に使われることが多いらしいので、ライナス帝国の貴族でも送られたことがある人は少ないはず。

超レアものゲットです!

そんな超レアもの、本当は送られた私が開けるべきだけど、うっかり破いたりしそうなので、パウルにお願いする。


「畏まりました」


パウルが恭しく受け取り、慎重にペーパーナイフを入れる。大して力を入れたようには見えないが、ペキッと小さな音がして、蝋が砕けた。

中のお手紙を読めば、案の定、子供交流会で優勝した報奨の授与式をやるよって内容だった。


「八日後って……早くない!?」


授与式の日時を見てびっくりした。

こんなに早かったら、礼装の準備が間に合わないのでは?


「礼装でしたら、まだ着用されていないものがございますので、心配にはおよびませんよ」


「私は大丈夫でも、他の子供たちはそうじゃないでしょ?」


ルネリュース君は侯爵家なのでなんとかできるだろうけど、ミーティアちゃんとフェリス君は下位貴族だし、アイリーナちゃんとユアン君は平民だ。

すぐに礼装を準備するとなったら、既製品を買うしかないだろう。


「気になるから、ダオに聞きにいくわ!」


そう思ってもすぐに会えないのが皇族だ。

まずはダオにお伺いを立てて、諾否(だくひ)を受けなければならない。

電話があれば、こんなに手間がかからないのになぁ。


ダオからのお返事は、授業が終わったあとならいつでもいいよーとのこと。

ダオ、交遊会での毒物混入事件から、凄く頑張っているんだよね。

いつの間にか、お勉強の時間を増やしているし。

今回、主催を任されたことが自信になって、ますます張り切っているのかも。

とりあえず、ダオのお勉強が終わるまで時間があるから、お散歩にでも行きますか!


部屋から出るのを渋るウルクを説得し、いつもの庭に行こうとウルクに乗って宮殿内を進む。

星伍と陸星はじゃれ合いながら後ろをついてきて、稲穂はウルクの頭の上を陣取っている。

稲穂で前が見えないんですけど……。

ふわっふわな尻尾が左右に揺れていることから、稲穂はご機嫌なご様子。

この尻尾に顔を埋めてスーハーしたら、さぞ気持ちいいんだろうなぁ……。


――きゅぅっ!?


私の(よこしま)な視線に気づいたのか、稲穂はぶるりと小さく震えて、周囲を警戒し始めた。

稲穂の尻尾に抱きつくのは何も言われないが、顔を埋めるのは嫌がられるんだよね。

まぁ、(はた)から見れば、お尻のにおいを嗅ごうとしている痴女なので、嫌がられるのはしょうがないと諦めているけど。


尻尾の誘惑と戦っていると、突然ウルクの足が止まった。

不思議に思って、上半身を横に倒して前を確認する。


「本当にムシュフシュを宮殿に連れてきたんだ……」


誰かと思ったらアイセさんではないか!?


「アイセ様、ごきげんよう……って、大丈夫?」


ウルクから降りて、アイセさんに挨拶をしたはいいものの、あまりの変わりように心配が先立つ。

病気を疑うほどやつれてんですけど!!


「まぁ、なんとかね」


「ちゆ術師に診てもらったら?」


寝れば治るからと、生気のない顔で言われた。

表情を取り繕う元気もないなんて……。

転生する前の自分を思い出し、アイセさんの手を取る。


「じゃあ、今すぐ寝よう!アイセ様のお部屋まで私が連れていくから!」


アイセさんの部屋は行ったことはないけど、どこにあるのかは把握している。

伊達に宮殿で遊び回っていないのだ!


「……は?いや、ちょっと……」


アイセさんの手を引っ張って、今来た廊下を戻る。

アイセさんの部屋の近くまで来ても手が振り解かれないってことは、振り解く気力もなくなっているってことだ。

部屋主がいるので、ノックもせずに扉を開ける。


「失礼します!」


そして、遠慮なく中に入っていったんだが……。


「誰もいない?」


部屋には侍女の姿もなかった。


「側に(はべ)らすのは趣味じゃないから」


いやいや。だからといって、一人もいないのは問題でしょ!

留守中に何か仕掛けられていたらどうするの!


「むぅ……わかった!私の部屋に行こう!」


「はぁ??」


安全が確保できていない部屋ではゆっくり休むこともできない。

その点、私の部屋なら大きなソファーもあるし、魔物っ子たちもいるので安心安全だ!


「じゃあ、ウルクに乗って。そっちの方が楽だし」


ぐいぐいと背中を押して、アイセさんをウルクに乗せる。

部屋を出たところで私も乗り、急ぎめで私の部屋に戻った。


「パウル!アイセ様を寝かせるからよろしくー」


散歩にいくと出ていった私がこんなに早く戻ってくるとは、パウルも思っていなかったのだろう。

しかし、アイセさんを認識すると、即座に対お客様モードへ。


「殿下にお越しいただきまして、光栄に存じます」


パウルの挨拶を手を振るだけで返すアイセさん。

私はパウルへの説明を後回しにし、まずはアイセさんをソファーへ誘導する。


「パウル、アイセ様具合が悪いの。温めた乳をお願い」


帝都のエルフの森から定期的に購入しているグワナルーンの乳と、めちゃくちゃ甘いパパイソの樹液がまだあったはずだ。

エルフの森で飲んだ美味いミルクは、疲れているときにはもってこいな飲み物である。


「もう側付きも帰ってくるから、部屋に戻る」


「側付きさんが帰ってきたからといって、すぐに寝られる状態じゃないでしょ?お部屋の点検にも時間がかかるのよ?」


物理的な暗殺だけでなく、魔道具や魔法陣を罠にして暗殺もできる世界だ。

家具を移動させて、絨毯や床も引っぺがす勢いで調べなければ安心できない。

パウルが持ってきてくれたホットミルクを渡し、飲んで寝るよう強く言い聞かせる。

ちゃんと私の分のホットミルクもあった。さすがパウル!


「ぷはぁ……うまーい!」


程よい温度に温められた、グワナルーンのホットミルクを一気飲みした。

食道から胃へと、順に温まるのがわかる。


「……ネマ、髭ができてる」


自分の口元を指でトントンとするアイセさんだが、どうも笑いを堪えているようだ。

すかさずパウルが私の口元を拭う。

アイセさんがミルクを飲み干したのを見届けて、ブランケットを体にかけてあげた。


「おねんねしましょうねー」


ブランケットの上からポンポンと叩いて、子供を寝かしつけるように告げたら、アイセさんはなんとも言えない遠い目をする。


「もう、なんでもいいや……」


開き直りというか、諦めの境地?

まぁ、ここは無駄に(あらが)うより、素直に寝るのが無難だと思う。

アイセさんが寝入ったのを確かめてから、ポンポンしていた手を下ろす。

地味に疲れるな、これ。


アイセさんの眠りを妨げないよう、魔物っ子たちには静かに遊ぶよう伝え、私は読書をして時間を潰す。

途中、アイセさんを探して側付きさんがやってきたけど、寝ているのを確認すると、もうしばらくこのままでとお願いされた。

思った通り、アイセさんの部屋は総点検が行われているらしく、まだかかるからと。


おやつをもぐもぐして、魔物っ子たちとウルクの肉球触り比べして、みんなにブラッシングをしていると、側付きさんがお迎えにきた。


「アイセ様……アイセ様!お迎えきたよ!」


肩を揺らして起こそうとするも、アイセさんはなかなか起きてくれない。

すると、側付きさんがお任せくださいと言ってきたので場所を譲る。


「殿下、ヴィルヘルト殿下がお呼びです!」


アイセさんの耳元で、ヴィの名前を告げる側付きさん。数秒、アイセさんが(うな)されたと思ったら、叫びながら起きた。


「……ここは……」


「二の姫様のお部屋です。ヴィルヘルト殿下はいらっしゃいませんのでご安心を」


その言葉を聞くと、アイセさんは心から安堵した表情を浮かべた。


「もしかして、アイセ様がやつれているのヴィのせい?」


ヴィ大好きなアイセさんが、ヴィの名前を聞いて魘されるなんておかしいでしょ!絶対、ヴィが何かやったに違いない!!


「ヴィルヘルト殿下からある頼まれごとをされたのですが、次から次へと働かされまして……」


側付きさんはあっさりと白状してくれた。

やっぱりねという気持ちと、お兄ちゃん以外にも犠牲者がいた驚きで、複雑な顔になってしまったが。


「二の姫様のご気分を害すような失言をしてしまい、申し訳ありません」


なぜか側付きさんに謝られた。

あ、おたくの王子の人使いが荒くて迷惑かけられた、って言っているようにも受け取れるのか!まったくその通りだけどね!


「ちゃんと抗議をした方がいいですよ。身内だからって、アイセ様の限度を超えるようなことをさせるのはいただけません」


私がそう力説すると、側付きさんも力強く同意してくれた。

ヴィがアイセさんに何をお願いしたのか気になるけど、たぶん話してはもらえないだろうなぁ。


寝惚けた状態から抜けたアイセさんは側付きさんを連れて、自室へと帰っていった。彼らを見送ってすぐ、私は急いでダオのところへ向かう。

授与式の衣装についてどうするのかと質問したら、用意してあるから大丈夫だと返ってきた。


「用意してあるの!?」


「うん。各家に確認して、準備が間に合わない子には、こちらで用意している衣装を着てもらうことになっているよ」


「……私、確認されてないよ?」


そんなこと聞かれたかなと記憶を探るも、まったくない。


「パウルが答えたんじゃないかな?」


確かに、衣装を管理しているのはパウルなのであり得るけどさ。

それにしても、授与式をやるのと、衣装まで用意してあげるなんて凄いねとダオを褒めると、クレイさんの提案なのだと教えてくれた。


「僕が、優勝した組に何かしてあげたいって言ったら、父上にお願いしてみるといいよって。そうしたら、父上が喜んで……」


あー、陛下が嬉々として承諾する姿が目に浮かぶわ。

ダオに頼られたー!って張り切った結果、授与式やるぞってなったんだね。


「それで、礼装を仕立てる時間はないだろうから、宮殿の衣装から出すことにしたんだ」


「宮殿の衣装?」


今回のために用意した服じゃないってこと?


「宴や交遊会のときに衣装を汚してしまう場合もあるから、念のために着替えを用意してあるんだ」


なるほど。皇族の催し物が多いからこその対策なのかな?ガシェ王国では、王宮で着替えが借りられるなんて話、聞いたことないし。


「ネマ、褒賞を楽しみにしててね」


「うん!」


何がもらえるんだろう?金一封かな?それとも、ケーキ食べ放題とかかな?

美味しい食べ物だったら嬉しいなぁ。



ヴィの人使いの荒さは父親直伝!

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