★コミカライズ11巻お礼小話 ディーの特技は……。
もふなでコミカライズ11巻が発売しました!
今回のお礼小話は、ネマが4歳の頃のお話です。
午前中から獣舎に遊びにいったのに、午後から隊長クラスの定例会議があるとかで、たった二時間で屋敷に帰ってきた。
レスティンは生真面目というか、融通が利かないというか……。
まぁ、責任者がダメだと判断したのなら、私は従うしかないんだけど。でないと、王様から王宮のどこでもフリーパスを没収されてしまう!
まだまだ遊び足りないので、ディーと遊ぼうと思ったら、姿が見当たらない。
使用人たちに聞いても、どこにいるのかわからなかった。
「ディー!どこにいるのー!」
屋敷中をさまよい、ディーの名を呼ぶ。
お家の中にはいないようなので庭の方へ行ってみる。
「ディー!」
――わんっ!
あ、いた!
声がした方に駆けていくと、ディーも私の方へ走ってくるところだった。
「ディー、いっぱい探したのよ!」
――わんっ!!
私がちょっと拗ねたように言っても、ディーはご機嫌に尻尾を振る。
「こんなに汚れて……何をしていたの?」
遠くからではわからなかったけど、ディーの真っ白な毛並みはところどころ土で汚れていた。
土を落とそうと軽く叩いてみても、少ししか落ちない。
――くぅん。
ディーは私のスカートの裾を軽く引っ張り、こっちだとどこかに連れていこうとする。
大人しくディーについていくと……そこにはディーがすっぽりはまるくらいの大きな穴が!
「いつのまに……」
ディーは自慢げに穴を披露すると、その穴に意気揚々と入っていく。
穴の中で丸くなる姿を見て猫鍋かと思ったが、ディーはでっかいわんこ……。前世で言うところのオオカミである。
だが、それと一緒にあることも思い出した。
近所の友達が飼っていたビーグルが、穴掘りの達人ならぬ達犬だったなと。
都会では犬を室内で飼育することが多いらしいが、田舎は番犬も兼ねて屋外で飼育する家庭が多い。
時代的なものもあったと思うけど、鍵もかけないような田舎では、近所のわんこたちも友達だ。
通学時に生垣から顔を覗かせてお見送りしてくれるダルメシアン、いつも玄関先で寝ていて撫でさせてくれる雑種のおじいちゃん犬、友達をお迎えにいくと元気に飛びかかってくるビーグル。
そのビーグルはいつもは庭を駆け回っているのだが、夏になるとどこかに姿をくらませる。
飼い主である友達にどこにいったのかと問えば、犬小屋を示して言った。
『あの下で寝てるよ』
犬小屋の下に大きな穴を掘り、そこで涼を取っているんだとか。
他にも、あそこには骨が埋めてあるし、あっちにはサンダルが片方だけ埋められていると、愛犬の悪戯を自分の功績のように語っていたっけ。
あのときの友達の気持ちがわかった気がする。
うちの子、頭よくない!?穴を掘って涼むとか、天才でしょ!!
「ディー、一人でほったの!?すごいねー!」
凄いといっぱい褒めたら、ディーが穴を掘り始めた。こうやったって見せてくれているのかな?
両前脚を使って土を掻き出していくディー。
その勢いは凄まじく、掻き出した土はめっちゃ飛ぶし、近くにいる私にも降りかかる。
普段ディーがとても賢くて大人しいから忘れがちだけど、こうして一心不乱に穴掘りしているディーを見るとやっぱり犬なんだなって。
土がかからない位置に移動して、穴を掘り続けるディーを見守る。
いやー、これだけ熱中していたら、私の声は聞こえないわ。
しばらくすると、ようやく満足いったのか、ディーが穴から出てきた。
そして、私の後ろに回ると、背中をグイグイと押してくる。
「え、なに?」
――くぅーん。
「穴に入れって?でも、ディーの場所でしょ?」
戸惑う私に、ディーはいいからいいからとでも言うように、押すのをやめない。
仕方なく穴に入ると、ディーも入ってきて横になる。
「せっかく涼しいのに、私がいるとあつくない?」
――わんっ!
……まぁ、ディーがいいならいいか。
私もディーのお腹をクッションにして仰向けに寝転ぶ。
穴がある場所は日陰なので、土がひんやりしていて気持ちいい。ちょっと……いや、かなり土臭いけど。
「いい天気だねぇ」
仰ぎ見る空は真っ青で、風は心地よく、開放感が半端ない。
ディーは本当にいいお昼寝スポットをいっぱい知っているなぁ。
◆◆◆
「……嬢様、ネマお嬢様!」
ゆさゆさと体を揺らされたあと、頬を舐められる感触がして目を開ける。
ふあーっと大きなあくびを私がすると、視界の隅でディーも大きなあくびをするのが見えた。あくびって移るよね。
「もう陽が傾いていますので、お屋敷に入られた方がよろしいかと」
もうそんな時間か。
起こしてくれたアイルに礼を言って、お家に向かおうとしたところで頭が冴えた。
「アイル、この穴はどうなるの?」
ディーのためにもそのままにしておきたいが、庭の維持管理はアイルたち庭師の管轄だ。
彼らがダメと言ってきたら、納得できる対策を用意せねばならない。
「掻き出した土は除去しますが、穴は夏が終わるまでそのままにしておきますよ。ディーの避暑地ですからね」
アイルの言い方からすると、ディーの穴掘りは今に始まったことではないみたいだ。
気になったのでアイルに質問すると、いろいろ教えてくれた。
ディーのお気に入りの避暑地は、本来庭の奥、木々が生えているエリアらしい。
「今回はネマお嬢様のためにここを選んだんだと思います。奥の庭は、木の根っこが出ていたり、石もあって危ないですからね」
なんと!私も穴の住人に数えられていたのか!
確かに、奥の庭は痛い思い出がいくつかある危険ゾーンだ。
池もあって、うっかり池ポチャしてしまったことも記憶に新しい。
「ディー、ありがとう!今度からあつい日はここでおひるねしようね!」
ディーをぎゅーっと抱きしめて感謝を伝える。
アイルにお願いして、すだれみたいな目隠しとか、ミニテーブルを用意してもらって秘密基地っぽくするのもいいかもー。
そんな計画を考えながら、るんるん気分でお家に入ると、パウルからお風呂直行コースを言い渡された。
私もディーも土まみれだから仕方ない。
私がディーを洗うと譲らなかったために、先にディーを洗い、その後私が入浴することに決まった。
まずはディーをブラッシング。これである程度は土も落ちる。
オスフェ家の力にものを言わせて作ったブラシは、これまでのものより断然毛に優しい。
パウルと二人がかりでディーの体を洗い、顔は濡れタオルでふきふき。
「ディー、ぶるぶるしていいよー」
待ってましたと言わんばかりに、体を震わせ、勢いよく毛についた水を飛ばすディー。
それを正面から浴びるのも楽しいんだ!
「ディーは他の者に任せて、ネマお嬢様もご入浴しましょう」
パウルに促され、私は浴室担当の侍女に、ディーはトリミング部隊に引き渡された。
全身ぽっかぽかの艶々になってお風呂を終えると、ディーは艶サラな毛並みを靡かせて玄関の方へ駆けていくところだった。
――わんわんっ!!
尻尾をブンブン振り、玄関に佇む人物に飛びかかる。
「お出迎えしてくれてありがとう」
私も急いで駆け寄り、その人物の足にしがみつく。
「おにー様、おかえりなさい!」
「うん。今戻ったよ、ネマ」
お兄ちゃんは私をひょいっと抱き上げると、私の髪の毛に顔を寄せた。
「ネマとディーからいい匂いがするね。今日は外でたくさん遊んだのかな?」
お兄ちゃんは匂いだけでいろいろと察したようだ。
普段より早くお風呂に入れられた=それだけ汚れることをしたと。
「うん!あのね……」
穴掘りのことを話すと、お兄ちゃんが懐かしいと言った。
お兄ちゃんもお姉ちゃんも、私くらいの歳のときに同じような経験をしたらしい。
「じゃあ、明日おにー様もひしょちに行きましょう!すずしいよ!」
明日は学院がお休みなので、お兄ちゃんは家にいるはず。
家でパパンの手伝いとかあるかもしれないけど、休憩する時間はあるだろう。
なければ無理にでも休ませる!
「その招待、お受けいたします」
お兄ちゃんは私の手を取り、手の甲に口付けした。
ほんと、どこからどう見ても王子様!!
うちのお兄ちゃんは世界一格好いい!!
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