★14巻お礼小話 突然の来訪はやめましょう!
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※この小話はネマが3歳のとき(ソル召喚後、竜舎に遊びにいく前)のお話です。
どれだけ見つめても、外は土砂降りの大雨。
今日はアイルと花壇を作る約束だったのになぁ……。
庭師のアイルが、私専用の花壇を作ってみないかと提案してくれたので、私は即了承した。
花の図鑑を見つつ、アイルに助言を受けながら花壇に植える花を選別して、その日のうちにパパンへおねだりまですませた。
私としては、種や球根から育てたかったのだが、苗からの方がいいと言われ断念。
「ネマお嬢様、体が冷えてしまいますよ」
私がいつまでも窓に張りついて、恨めしそうに外を眺めているからか、侍女頭のリィヤに抱えられて強制的に離された。
「かだん……」
こんなに雨が降っては、明日晴れたとしてもすぐに植えることはできないだろう。
再度、土壌を整える必要があると思われる。
「本日は若様も外出を取り止めになさったようですので、ご一緒にお過ごしになるのはいかがですか?」
楽しみが延期されてしょんぼりしていたせいか、リィヤがお兄ちゃんのことを告げた。
お兄ちゃん、家にいるの!?
「にぃーに!」
「ネマお嬢様がお誘いになれば、若様もたいそうお喜びになりますよ」
私はリィヤの提案に飛びついた。
学院に通う兄姉と一緒に遊ぶ時間は少ない。休みの日でもお兄ちゃんは外出することが多いし、お姉ちゃんは魔法研究のために部屋に篭もることが多いからだ。
「にぃーにによんでほちいご本がありゅのー!」
私は本棚から一冊の本を取り出す。
先日、パパンに買ってもらった絵本。
もうすでに読み終わっているけど、人に朗読してもらうのも好きなんだよね。
パパンやママンにもよく朗読してもらうんだけど、家族の中で一番上手いのは、意外にもパパンだったりする。
パパン、舞台俳優になれるよ!
早速、絵本を持ってお兄ちゃんの部屋に突撃じゃー!
「にーいぃにっ、あっしょびっましょー」
扉をノックして、日本人ならほとんどの人が聞いたことあるであろう音調をつけて声をかける。
出てきたお兄ちゃんは私だとわかっていたからか、すかさずしゃがんで視線を合わせてくれた。
「今日は僕と一緒に遊んでくれるの?」
「うん!ご本よんでー」
持っていた本を掲げると、お兄ちゃんは少しばかり瞳を輝かせた。
「今人気の作家の最新作だね。下に行って、お菓子を摘まみながら読もうか?」
そういえば、パパンも人気の作品だって言ってたな。
私は好みの設定とかで選ぶ場合が多いから、作者とか気にしなかったけど。
「おかしー!たべりゅー!」
お兄ちゃんの美声朗読お菓子付き……最高か!!
早く行こうとお兄ちゃんの手を引っ張るも、このちびっこい体では如何ともし難く。
結局抱っこされて、一階にあるリビング的な部屋に連れていかれた。
お兄ちゃんの膝の上に座り、絵本を広げる。
いつもより優しい声音で、絵本の文章を読むお兄ちゃん。
この絵本、不遇な女の子がいろいろな人と出会って幸せになるお話なんだよね。シンデレラストーリーとわらしべ長者を足した感じ。
善い行いは後々自分に返ってくるので、人に優しくしましょう的な教育要素も含んでいる。
主人公の女の子は人を疑うことをせず、自分が持っているものを欲しがる人がいたらすぐにあげてしまう。
そして、女の子はあげてしまったがゆえに、ひもじさに耐え、寒さに耐え、淋しさに耐えなければならなくなった。
女の子から何かをもらった人たちは、それで窮地を乗り越えたり、大切な人を助けることができたと彼女に感謝して、前よりもいいものを贈る。
それを繰り返していった女の子は、最終的に素敵な男の子と出会い、ハッピーエンドだ。
「リアナは人に優しくしたことで、たくさんの人に幸せを与え、彼女も大きな幸せを得ました。おしまい」
文章で読んだときは、善人しか出てこない内容にケッて思ったけど、お兄ちゃんの朗読で聞くと違う印象を受けた。
例えば、それを譲って欲しいとお願いされた女の子がいいよと返事をする場面。文章ではすぐに承諾したように感じたが、朗読で返事の前に間を置くだけで、女の子がちゃんと考えた上で承諾したんだと思えた。
絵本なので、子供にわかりやすいよう、難しい言葉も出てこないし、余計な描写は削られている。
だからこそ、いくらでも深読みできる余地があるのだろう。
「ネマ。ネマは知らない人に何かをあげたり、もらったりしてはいけないよ」
……まぁ、普通はそうだよね。
でも一応、お兄ちゃんの意見も聞いてみようか。
「どーちてぇ?」
「このリアナは、人を見極める力が優れていた。だから、悪い人に騙されなかった。ネマにはまだそんな力はないだろう?」
これでも、人を見る目はあると自負している方ですが?
詐欺みたいな胡散臭い話は断っていたし、保証人になってくれとかの話もスパッとお断りしてたよ。
「ゆくゆくは身につけなければならないけど……もうしばらくは無垢なままでいて欲しいな」
ちょっと遠い目をするお兄ちゃん。
私は転生してから、ほとんど外に出かけていないので、貴族社会がどういうものかまだ知らない。
王立学院で絡んできた貴族の坊ちゃんみたいなのがいっぱいいるとしたら……。
きっと、前世で読んだ物語のようにドロドロしているのだろう。
「わりゅい人がいたりゃ、にぃーにがまもってくれりゅでしょー?」
「もちろん。何があっても、僕が守るからね」
私は、家族に思う存分甘えられるこの生活も気に入っている。
最初は、公爵家なんて面倒臭そうな家に転生させた神様を恨んでいたけど、今はこの家に生まれてよかったと思ってる。
まぁ、もっともふもふライフを満喫できる環境あったよね?って神様に文句は言いたいけどさ。
お兄ちゃんに別の本を読んでもらっていると、使用人がちょっと慌てた様子でお兄ちゃんに何かを耳打ちした。
「そう、仕方ないね。応接室に……」
お兄ちゃんが言い終わる前に、部屋の扉が開く。
「ここにいたのか。遊びにきたぞ」
人様の屋敷でよくもまぁ堂々と……。
現れた人物に驚きつつも、ジト目で睨む。
「殿下、勝手な行動はお控えください。部屋をご用意しておりますので、そちらにご案内いたします」
こんな場面でも、我が家の家令は穏やかに対応する。さすがマージェス!
「俺はここで構わない」
「ヴィル。僕たちの方が構うから、部屋を移動しよう」
この部屋は食堂の奥にあり、家族しか利用しないプライベートルームだ。
そんな場所で王太子を過ごさせることはできないって、ヴィも理解しているだろうに。
お兄ちゃんがヴィを引っ張って、応接室へ連れていこうとする。
それに逆らうことはせず、ヴィはラース君を呼んだ。
――ぐるっ。
ラース君は短く返事をして、私の方にやってきた。
「ラーしゅくん!!」
ラース君に抱きついて、胸元の毛並みに顔を埋める。
はぁーこれこれ!表面はシルクよりも滑らかでサラサラなのに、内側はフェザーのようにふんわりもふもふ!!
「ぷはー!」
息が苦しくなるまで、顔全面でラース君のもふもふを堪能した。
ラース君は私に頭をぐいぐいと押しつけてきて、おや?っと思い少し離れると……。
グイッと首根っこを咥えられた。
なんかデジャブ――。
そのままヴィのあとをついていくラース君。
私は母猫に運ばれる子猫なのか!?
つか、こんな体勢なのに苦しくないって、何か魔法でも使っているのかな?
心配そうにディーは、ラース君に運ばれる私の横についてくる。
運ばれた先の応接室では、すでにお茶の用意が整っていた。
ラース君から解放されたら、またラース君をもふろうと思っていたのに、なぜかヴィの上に……。
「ネマを返してくれる?」
ヴィはお兄ちゃんの威嚇の微笑みなんてなんのその。私をがっちりホールドして、わしゃわしゃと雑に頭を撫でる。
「やーなの!」
お兄ちゃんに両手を伸ばすと、微かな振動を感じた。
……こやつ、笑ってやがる!
わざとか!わざとなんだな!?この鬼畜王子めっ!!
ただ私とお兄ちゃんに嫌がらせじみたことをしたかっただけなのだろう。
その証拠に、私が全力で嫌がると、お兄ちゃんのもとへ戻された。
「怖かったね……。もう大丈夫だから」
背中をポンポンされて、ホッと息を吐く。
怖いというよりは、無理強いされた不快感の方が強い。
「それで、用件は?急に来るなんて、よっぽどのことがあったんだよね?」
お兄ちゃんから、冷たいオーラが発せられる。
ママンがお説教モードのときに出すやつと同じだ。
「この雨で予定が延期になっただろう?暇だったから遊びにきただけだ。ラースもネマに会いたがっていたしな」
ラース君が私に会いたがっていたことが嬉しくて、ラース君のもとへ行こうとした。
「……ラーしゅくん、ディーとなかよし?」
ラース君とディーが向かい合って、何やら会話をしているように見える。
「ラースの方はディーを気に入っているようだぞ」
ラース君が念話で返してくれたのか、ヴィが教えてくれた。
ディーの方も、嬉しそうに尻尾を振っているので、ラース君のことは好きだと思われる。
「ディーは賢いからね。ラース殿が尊い存在だと理解しているんだよ」
確かにディーは賢い。実は、人間だった記憶とか持ってたりしない?って疑いたくなるよね。
「……ディーはラースのことを宝物を守る仲間だと言っているみたいだが?」
「ディーのいっていりゅことわかりゅの!?」
ディーがラース君をどう思っているのか、ヴィが代弁したことに驚いた。
動物と会話できる能力なり魔法なりがあるなら、私に使えるようにして欲しかったぞ!神様っ!!
「精霊が教えてくれただけだ」
なんだ精霊さんか……。
いや、待てよ。聖獣と契約すると精霊を見ることができるということは、ソルが本契約をしてくれれば私も見れるようになるわけで……。
――ソルさんやっ!私と本契約しよう!今すぐしよう!!
――何事だ、騒々しい。
閃いた私はすぐにソルへ念話を飛ばし、精霊を見れるようにしてくれと頼み込む。
――ならぬ。幼体のお主では、力に耐えられん。諦めよ。
ぐぬぬぅ。
私もディーとおしゃべりしたいよ!
庭に遊びにくる子たちとも、なんとなくなやり取りじゃなくて会話したいよ!!
仮契約でも精霊を見られるようにできないか聞いてみたけど、そんな方法はないときっぱり言われてしまった。
「炎竜殿に怒られたか?」
念話中の顔を見られていたのか、ヴィはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて聞いてきた。
「むぅぅ。わたちもディーとおしゃべりちたい!!」
「ちゃんとした契約をするとなるとあと十巡はかかるんじゃないか?」
……十年ですと!?
え、本当に十年待たないといけないの??
「大丈夫だよ、ネマ。ヴィルがラース殿と契約したのは八歳のときだったし、ネマならもっと早くお許しいただけるからね」
そう慰めてくれるお兄ちゃんだけど、めちゃくちゃ肉親の欲目が入ってるよ。
八歳かぁ……それでもやっぱり長いなぁ。
憧れのもふもふライフへの道のりは険しいみたいだ。
その後(ヴィルヘルト視点)
王宮の自室に戻り、侍従たちを下げた。
オスフェ家の居心地がよかったせいか、自室なのに窮屈に感じたからだ。
「そういえばラース。お前からディーに近づいたのは、初めてじゃないか?」
『そうだったか?なに、あのスノーウルフが理解しているのか確認したかっただけのこと』
「確認?」
何を確かめたかったのか内容を聞いてみるも、ラースは俺を見つめたのち静かに言った。
『知るべきときがくればわかる』
ラースがそう言うということは、俺に足りないものがあるのだろう。
それが知識なのか力なのかわからないが、自分でもまだまだ未熟なのは理解している。
『あのスノーウルフの言葉を借りるなら、宝物が宝物たるかを理解しているか確かめたということだ』
宝物――。
その表現で思い当たるのはネマくらいか。オスフェ家にとってはまさしく宝物と言える。
聖獣のラースが無条件でネマを受け入れていることを考えると、あの子には何かあるようだが。
『あれには坊も世話になっておる』
ネマが生まれると、カーナディアも年頃なのでとオスフェ公になぜか警戒され、足が遠のいていた。
それまでは何度もオスフェ家に遊びにいき、ラルフとディーで庭を走り回っていたなと、昔を懐かしむ。
ラースはその間、木陰で寝ていただけだったが……。
「ラースがネマを気に入り、ディーを気にかけていることは理解した。理由まではわからないがな」
ラースはこれ以上語るつもりはないようで、俺の言葉に返事することなく、ごろりと寝そべった。
俺はそんなラースを横目に、侍従を呼んで次の予定の準備を始める。
『……自ら守り手になることを選んだのだ。我の名を呼ぶくらい許してもよかろう』
微かにラースの声が聞こえたので聞き返すと、俺に対してではないと返ってきた。
精霊たちがまた何か余計なことでも言ったのか?
精霊たちは、ラースに対しては弁えているようだが、俺に対してはぞんざいだ。相手にすればするほどつけ上がる。
こちらに飛び火しては堪らんと、気にするなというラースの言葉に甘えることにした。