★もふなでコミ10巻お礼小話 この世界にもアレが!?
明けましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします
――ふしゅんっ!
――ふっしゅん!
――きゅしゅんっ!
星伍、陸星、稲穂が同時にくしゃみをした。
星伍と陸星はくしゃみのあとに、ブルブルと体を勢いよく震わせる。
なんか、鼻水が飛び散ったようにも見えたが……。
「寒い?そろそろお部屋に戻ろうか」
いつものごとく宮殿の庭で遊んでいたのだが、日が陰ってきて、私は少し肌寒く感じる。
魔物っ子たちは大丈夫だと思ったが、体が冷えたのかもしれない。
「寒くないよ」
「見たことないお花をかいだら、むずむずしただけ」
星伍と陸星が、寒さからではなく花のせいでくしゃみが出たと告げる。
「見たことない花?」
この庭は遊び回れるようにと、生垣以外の植物は置かれていない。
ほとんどが芝生で、噴水がある一部だけタイルのようなもので整えられている。
そして、庭師が毎日手入れしているので、外から来た植物はすぐに除去されるのだが……。
庭師の目をかいくぐって花を咲かせたのなら、その花は凄い強運を持っているな。
どんな花だろうと見にいくと、確かに見たことのない花だった。
たんぽぽのように地面近くで広がる葉、草丈も10センチほどで小さいが、花の部分が異様に大きく感じる。
壺状に開いている花弁は一枚一枚が大きく、可愛らしいピンク色をしているのに、中央部の毒々しい赤と黒がやたらと目を引く。
黒色が含まれる植物なら、なおさら庭師が気づきそうなのにね。
花に顔を近づけてにおいを嗅いでみるも、見た目に反してあまりにおいはしなかった。
「変なにおいするでしょー?」
陸星が私にそう聞いてきた。
「私にはにおい感じないなぁ」
コボルトである星伍と陸星は嗅覚が鋭いので、人間には感じ取れないにおいを嗅ぎ分けたようだ。
――ふっくしゅんっ!しゅん!
星伍がまたもやくしゃみをしたと思ったら、二連発だった。
可愛いくしゃみだなぁってニマニマしていると、星伍の鼻から鼻水がぷらーんとしていた。
「星伍、こっちおいで」
ぷらんぷらんしている鼻水も可愛いのでそのままにしておきたいが、さすがにダメだろうと思ってハンカチで拭いてあげる。
「鼻むずむずする……っぷしょん!」
花粉が鼻腔にまで入り込んでしまったのかも。
じゃあ、白に星伍の鼻の中を掃除してもらえばいいのでは?
「白ー!」
そこら辺で転がって遊んでいた白を呼び寄せる。
「星伍のお鼻に花粉が入っちゃったみたいなの」
白の一部を紐状に細長くして、鼻の中の花粉を取り除くようお願いする。
――みゅっ!
白は任せろと短く鳴いて、体から二本の細い触手を伸ばした。
その触手は星伍の鼻の穴にズブッと入って……。
――ぶっくしゅんっ!!
星伍は今までで一番大きなくしゃみを放つ。
真正面にいた白は、そのくしゃみをもろに浴びた。
――みゅぅぅぅ……。
鼻水のシャワーを浴びてしまった白は、ちょっと不服そう。
でも、この盛大な一発で、花粉も飛んでいった気もする。
「星伍、どお?まだむずむずする?」
「まだむずむずするー」
うーん、これは獣医さんに診てもらった方がいいかもしれない。
こういう場合、この花を持っていった方が状況を把握するにはいいと思うが、勝手に持っていって後々問題になったら嫌だ。
近くに庭師がいたらよかったけど、ここの庭、日中に庭師が来ることはない。
悩んだ結果、まずは森鬼を呼び出した。
精霊にお願いしたから、すぐに来るだろう。
森鬼を待っている間も、星伍はくしゃみを連発する。
「主……」
庭にやってきた森鬼は、なんか肌けてた。
部屋でお昼寝していると思っていたけど、軍部の詰め所で体を動かしていたのかも?
まぁ、慌ててきたであろうことは察した。
とりあえず森鬼を座らせて、身嗜みを整えながら状況を説明する。
「これでよし!」
シャツのボタンを全部閉めて、パリッと決まった森鬼。
しかし、窮屈だったのか、私に問いかけながらせっかく整えた服を着崩していく。
「それで、俺は何をすればいい?」
「精霊にこの花の種類知っているか聞いてくれる?あと、へいかとゼアチル様に花のことを伝えて、採取の承諾をもらいたいの」
花の種類が判明すれば、生態や特性などを調べることができる。
稀少な花だったらお二人が教えてくれるだろうし、採取できずとも保護はしてくれるだろう。
「わかった。ナノ、そういうことだ。……やれ」
森鬼はすぐに精霊たちに命令した。
ぶわっと風が舞う。星伍がくしゃみをする。なんか、花粉症みたいだなぁ。
「土の虫が、この花はグガンパだと言っている」
「森鬼、虫じゃなくてナノね」
さっきはちゃんとナノって呼んでいたのに、なんで虫呼びに戻すの!土の虫ってミミズを連想するでしょうが!
ミミズは可哀想なので、しっかりと訂正しておく。
「それで、グガンパってどんな花なの?」
森鬼は精霊がいるであろう場所に視線をやる。
きっと、土の精霊が一生懸命に説明しているのだろう。
「一日しか花を咲かさないが、とても生命力が強いそうだ。花粉に毒性があり、その花粉に触れて死んだ虫を養分に……」
「毒!?」
しかも、死んだ虫を養分って食虫植物みたいじゃないか!
「早く解毒しないと!」
毒を持つ植物だと知り、星伍だけでなく、陸星と稲穂も怯え始めた。
この子たちも近くで花のにおいを嗅いじゃったから。
「主、落ち着け。解毒ならコクがいるだろう?」
森鬼の言葉に、その手があったか!と、自分の手を叩いた。
「黒、出て……ぶへっくしっ!」
言い切る前にくしゃみが出た。
ついでに鼻水も出てしまったので、慌てて拭く。
黒が出てくるタイミング、いつも読めないから困る。
「黒、星伍がこの花の毒で苦しんでいるの。解毒、できる?」
――にゅ〜っ!?にゅっにゅっ!
「任せろ、だそうだ」
森鬼の通訳が終わる前に、黒は目にも留まらぬ速さで星伍の口の中に飛び込む。
星伍はくしゃみが出る直前だったのか、ちょうど口を開けていた。
黒を飲み込んでから、星伍はちょっと気の抜けた声を出す。
「びっくりしたー」
解毒が終わって黒が出てくるのを待つことしばし。
星伍が急に痛がり始めた。
鼻先に両前脚をやって、ぎゃんぎゃんと痛みを訴える。
「ちょ……星伍、大丈夫!?」
そんな星伍の鼻からにゅるんと出てきた黒。
くしゃみなしで出てきたことにも驚いたが、それを問いただしている場合じゃない。
「コク、ひどいよ……」
何をしたのか不明だが、星伍が痛がっていた原因は黒みたい。
「鼻の中、ずきずきして痛い……」
星伍の痛がる様子を見て、陸星と稲穂が小さく震えている。
耳は限界まで倒され、後脚に尻尾を挟み、二匹で身を寄せ合う姿は可哀想であり、可愛くもある。
――にゅ〜にゅぅぅ。
「毒が侵食していた部分を食べたらしい」
森鬼が通訳しても、黒の説明はわかりづらかった。
じっくり聞き出すと、毒に触れた部分が炎症のようなものを起こしており、薄皮一枚ほどの粘膜を食べながら解毒したそうだ。
だから星伍があんなに痛がっていたのかと納得。
まぁ、あれだ。
インフルエンザの検査のとき、長い綿棒で鼻の奥をグリグリされるあの痛みみたいなものだ。
ただ、コボルトにとって鼻は繊細な器官なので、人間よりも強く痛みを感じたのだろう。
痛がる星伍を慰めるためか、グラーティアが星伍の鼻先に跳び移った。
そして――。
――ぎゃんっ!!
星伍の鼻先に噛みついた……。
まさに泣きっ面に蜂!
「グラーティア!星伍が痛がっているでしょ!」
すぐに星伍から離れたグラーティアだったが、前脚をフリフリして何かを伝えようとしている。
「メロンの成分を刺したと」
森鬼の言葉に、私はまたしても自分の手をポンッと叩いた。
「忘れてた!」
そういえば、ママンが定期的に送ってくる薬草を食べさせてたわ!
グラーティアはいつの間にか、回復薬にも使われる薬草の成分を濃縮して体に蓄えられるようになっていたんだよね。
とりあえず、星伍の応急処置は終わったから、念のため陸星と稲穂も黒にお願いしようとしたら……逃げた!
「待ちなさいっ!」
こうなっては私だけで対処は無理だ。
パウルに伝言を飛ばし、スピカも召喚した。
森鬼とスピカが陸星と稲穂を捕獲している間に、パウルが健康診断のときにお世話になった獣医さんを連れてきてくれた。
花の名前と症状は伝えていたので、獣医さんは星伍と捕獲された二匹の鼻に液薬を数滴さして処置を終えた。
「グガンパの毒性は弱いので、心配いりません。粘膜に付着した場合、くしゃみ鼻水や目がかゆくなったりする程度です」
獣医さんがそう教えてくれたけど、やっぱり花粉症じゃん!
花粉症はな!花粉症はすっっっっっごくつらいんだぞーー!!
ちなみにグガンパは、駆けつけた庭師さんに駆除された。
魔物っ子たちはみんな、頑張ったご褒美にと、夕食に大きなお肉が振る舞われた。
ところでパウル。私の分のお肉はどこ??
まだ飛んでいないと思うけど、来月には飛び始めそうなアレ。




