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催しにはトラブルがつきものだけど……。

お兄ちゃんからの手紙には、無情なことが書かれていた。

ディーをそちらに送ることができなくなったと……。


「なんでぇぇぇ……」


しかも、森鬼も帰ってこない。

レイティモ山の魔物たちのお引っ越しは決定事項となり、森鬼は移住先までついていくことにしたそうだ。

お引っ越しする群れのボスは守鬼(しゅき)に決まり、彼の強い要望があったとかなかったとか。

守鬼、森鬼のことが大好きだもんねぇ。私が連れ出しちゃったから、側にいるチャンスを逃したくないってことなんだろうけどさ。


「シンキがおらず、ディーも来られないのでは、交流会への参加を見送られた方がよろしいかと」


「なんでぇぇぇぇ……」


パウルの言葉で、ついに涙腺が緩む。

森鬼もディーもいない、さらに交流会の参加を取りやめろとは、私にとどめを刺す気だな!


「しかし、精霊の力が借りられない状況では、ネマお嬢様の警備に不安が残りますので。子供が多くいる場所では、ウルクも連れて歩けないでしょう?」


そうだった……さすがにウルクがいたらみんな怯えちゃう。宮殿の人たちはプロだから、顔や態度に出したりしないけど、子供はそうもいかないよねぇ。


というわけで、私の警備面の問題を解決できない限り、子供交流会に参加不可となってしまった。

お兄ちゃんにヘルプを求めたけど、お兄ちゃんも王都にいられる状況ではないため、ディーが許してくれないらしい。

王都にいないのなら、ディーがこちらに来られないのも納得。

お兄ちゃん、どこで何しているの!?


「パウル、一生のお願い!なんとか交流会に参加できるようにして欲しい!」


「一番簡単なのは、聖獣様のお力をお借りすることですが……」


聖獣か。まず、ソルは無理だな。ソルがライナス帝国内に入るのを、ユーシェたちが嫌がる。同じ理由で風竜さんも難しいだろう。

じゃあ、ユーシェやサチェにお願いするしかないのだが、比較的近くとは言え、宮殿から離れたがらないかもしれない。


「とりあえず、お願いしてみるだけしてみよう。へいかと先帝様にお手紙書くわ」


カイディーテを除外しているのは、カイディーテは今、皇太后様とラブラブ休暇を満喫中だから、邪魔したら怒られる。


「わたくしの方でも、クレイリス殿下にご相談して検討してはみます」


パウルが懸念しているのは、風の精霊による情報収集と伝達が使えなくなることなんだと思う。

なので、最悪、エルフからの協力を得られれば……。

うーん、捜査班の皆さんにお願いできないかな?



二回目の話し合いはすぐにやってきた。


「ネマ、交流会に参加できないかもしれないって本当?」


「うん。森鬼がしばらく戻ってこられそうになくて、パウルがごえいに不安があるからって……」


ダオの部屋に入った早々、ダオに詰め寄られたので正直に話す。

ウルクが側にいれば、パウルも折れてくれる可能性はあるが、交流会のことを考えると無茶はしたくない。


「シンキの代わりになる、精霊術が使える獣人は帝国軍にいないのかしら?」


マーリエが案を出してくれるが、二人は森鬼が魔物だということは知らないので、精霊術が使える獣人もいると思っているようだ。

残念ながら、さすがの帝国軍にも精霊術を使える獣人はいない。


「そこはパウルとクレイさんがどうにかしてくれると思うから、私たちは話し合いを進めましょう」


今日は話し合いの日であるが、パウルとクレイさんは軍部との会議に出席している。

申し訳ないが、今は二人にお願いすることしかできない。


「そうね。ネマが参加できると信じて、楽しいことを考えましょう」


場の空気を変えようと、マーリエが少しはしゃいだ声を出す。


「マーリエ!好き!」


なんだかんだ言って、私のことを心配してくれるツンデレなマーリエが大好きだ。

マーリエは抱きついた私をそのままにして、ダオの方へ話を振る。照れくさくて、上手く返せなかったとみた。


「じゃあ、今日は宝物を何にするか決めよう」


ダオの進行で今日の話し合いは始まった。

宝物をそのまま隠すよりも何か箱に入れた方がいいとか、組に分けるのなら勝ち負けがあった方がいいとか、たくさん意見が出る。


「宝物の箱にお菓子入れたい!」


私の要望はこれに尽きる!

美味しいお菓子が手に入るなら、歩きっぱなしでも頑張れるよ!


「相変わらず、食い意地が張ってるわねぇ」


でも、お菓子はやる気の原動力じゃん!子供はみんな大好きだぞ!


「お菓子を入れるのはいいと思う。ネマが言っていた、嗅覚が優れた獣人が見つけやすいだろうし」


ダオが賛同してくれたので、宝物にお菓子を入れることが決定した。

その流れで、聴覚と視覚が優れた獣人向けのものは何かっていう話になったんだけど。

これがパッとは思いつかないんだよなぁ。


「聴覚がいいなら、音が出るものを入れるかつけるかしたらいいじゃない」


「マーリエ、音が出るものでもらって嬉しいものって思いつく?」


私が逆に問いかけると、マーリエは確かにそうね……と黙り込んでしまった。

音が出ると言えば楽器だけど、さすがに笛とかカスタネットとかじゃ鳴らすの無理だし。

鳴らしやすいのは鈴だけど、鈴を欲しがる子供はかなり少ないと思う。


「思ったんだけど、宝物の箱自体が音を鳴らさなくてもいいんじゃないかな?まずは音の近くを探すよね?だから、音が出るものの周りに宝物を置くのはどうかな?」


「それだ!」


宝物自体から音が出るものでないとって思い込んでたわ。思い込みって恐ろしい。


「それなら、お菓子だけじゃなくて、仲良くなった子たちで遊べる玩具とか入れたいな」


「いい考えね!」


少人数で遊べる玩具って何?積み木?ジェンガ?そもそも、宝物の箱に入るのだろうか?

でも、獣人の子供たちがいるなら、体を動かせるような遊びがあってもいいと思う。


「水の玉はどうかな?」


下級の水魔法の一つである水の玉だけど、実は子供遊びの一つにも似たようなものがある。

ある植物が枯れると小さな袋みたいのを残す。その袋には伸縮性があって、水を入れることも可能だ。その袋を指にはめて水魔法で水を出すと、あっという間に水風船ができる!

そして、その水風船を投げ合って遊ぶのだが、着弾すると破裂して水が飛び散るさまが魔法の『水の玉』に似ているのでそう呼ばれているらしい。


「水の玉?魔法の?」


ダオとマーリエは存在自体を知らなかった!

まぁ、庶民の遊びなので、知らなくても無理はないが。

ちなみに、我が家では庭師のアイルがその植物を個人で育てているので、よく一緒に遊んでた。

アイルは接待遊びなんてしてくれないから、いつも全身びしょびしょになって、パウルに怒られるまでがワンセットだ。

実物は後日見せるとして、水風船もどきを説明すると、ダオが興味を持ってくれた。

ダオ、何気に水遊びが好きだよね。ウォータースライダーのときもノリノリだったし。


「食べることと遊ぶことに関しては、本当に熱心よね。市井の遊びまで知っているとは思わなかったわ」


我が家の使用人たちからも、庶民の遊びとかいっぱい教えてもらったんだよね。

すべては魔物っ子たちと楽しく遊ぶためだ!


「それで、玩具の方に話がそれてしまったけど、視覚が優れた獣人向けはどうするの?」


「それはちょっと考えがあるんだけど……」


私が鳥の獣人たちと話をしていて気づいたことを二人に説明する。

鳥の獣人の視覚は、動体視力とか細かなものをはっきりと見ることができるとかの目がいい他に、人間よりも色鮮やかな世界を見ているのではないか。

ならば、緑や茶色の中に赤や黄色といった目立つ色があれば、鳥の獣人はすぐ見つけられるはず。

つまり、宝物の箱自体を派手にしようってことだ。


「箱自体が目立つから、貴族の子供も見つけやすいと思うの」


鳥の獣人向けはちょっと難易度を上げて、木の枝に吊るすとか、花がいっぱい咲いている中に隠すとかね。


「今さらだけど、隠す場所の傾向を知っていたら、わたくしたちが見つけてしまうわ」


「でも、木の枝に宝物があると知っていても、どの木なのかわからないでしょう?一本一本探すつもり?」


隠す場所の傾向を知っていたら有利だと思う気持ちもわかるが、大雑把すぎてあまりあてにならないよ。


中に入れるもの、箱の外見が決まったところで、箱そのものの形をどうするかという話題に移る。

ダオも四角だとありきたりだから、思い切って違う形にしたいと言い出した。

もし、木の枝に吊すことになるなら、四角だとバランスも悪そうだよね。


「丸い形はどう?鮮やかな色なら、きっと可愛いわよ!」


そう言われて思い浮かんだのは、クリスマスツリーの丸いオーナメント。いっぱい宝物を木に吊したら、大きなクリスマスツリーになってしまいそうだな。

丸い形の箱といえば、お姉ちゃんが持っている小物入れに、たまご型のものがあったのを思い出す。

お祖母ちゃんの形見で、お姉ちゃんは凄く大切にしている。

たまご型の小物入れのことを話すと、マーリエが食いついてきた。

なんか知らないけど、有名なお店の有名な職人の作品ではないかって。

曾祖父ちゃんの話はよく耳にするけど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの話はたまにしか聞かないので、有名なものなのかわからない。

帰ったら、お姉ちゃんに聞いてみることにしよう。



お姉ちゃんが帰ってきて、今日の話し合いのことを話した。


「よかったら、マーリエさんをこちらに招待したら?貸すことはできないけど、部屋で眺めるだけならいいわよ」


「ほんと!おねえ様、ありがとう!」


いっぱい感謝を伝えるため、お姉ちゃんの腰に飛びついた。

心配になるくらいウエストが細いんですけど!

夕食のおかず一品、お姉ちゃんにあげようと心に決めた。


「おねえ様、お祖母様ってどういう人だったの?」


「ネマは肖像画のお祖母様しか知らないものね」


お姉ちゃんは少し淋しそうに私の頭を撫でる。お祖母ちゃんを思い出しているのかな?


「お祖母様は、誰しもが認める貴婦人でしたわ。お祖父様を支え、ときには諌め、お祖父様の代わりに領地の代主(だいしゅ)たちを掌握する。領民のためなら汚れることも厭わない、とても素晴らしい女性よ」


なぜだろう?お祖父ちゃんが尻に敷かれていたようにしか思えないのは……。

それとも、パパンのように好んで尻に敷かれているとか?

……お祖父ちゃんが宰相の仕事に専念できるよう、お祖母ちゃんの献身だった、ということにしよう。


◆◆◆


マーリエに、お姉ちゃんが見るだけならいいよって許可くれたよってお手紙出したら、すぐに見たいと返事が来た。

なので、今日は私の部屋で話し合いだ。


「うわぁ、素敵!」


触るのが怖いので、お姉ちゃんの小物入れはパウルに持ってきてもらった。


「やっぱり……」


くるくるとテーブルを何度も回って、その小物入れをじっくり観察したマーリエが納得いったと深く頷いた。


「八十巡前くらいに流行った、ムアールの意匠だと思うわ」


うん、知らん!それに、八十年前ならお祖母ちゃんも生まれてないと思う。


「マーリエ様、よくご存じですね。こちらはライナス帝国の老舗装飾店ムアールのレイア作の一点ものです」


パウルはこの小物入れの詳細を知っていた。

なんでも、お祖母ちゃんのお母さんが、婚約中の夫から初めてプレゼントされたものなんだとか。

確か、お祖母ちゃんはディルタ家所縁の伯爵家のご令嬢だったような……。

一生懸命、我が家の家系図を思い出そうとするけど、家名までは思い出せなかった。


「箱の形、これに似せましょうよ!宝石をつけるのは無理でも、硝子とかでキラキラさせても可愛いと思うわ」


考えが女の子だなぁ。私、不器用だから、デコるのとか苦手だったよ。


「飾りは難しいかも。隠すから汚れるだろうし……」


「そっか……」


ダオが装飾をつけること自体に難色を示すと、マーリエは酷く残念がる。


「今度、粘土で作ればいいじゃない。マーリエの好きなように飾りつけできるよ?」


私なりに励まそうとしたら、そういうことじゃないと怒られた。


「職人が作るからこそ素晴らしいの!」


「それなら、ダオに買ってもらうしかないね」


ちょっと意地悪な言い方になってしまった。

だけど、お祖母ちゃんの話を聞いたあとだからか、マーリエはダオを見て顔を真っ赤にする。

ダオとの結婚を想像したのかな?

ダオもマーリエにつられて赤くなってるし……早く付き合っちゃえよ!


それから、アイルから送ってもらった水風船もどきも見せる。

ダオが実際にどんなふうに遊ぶのか試してみたいと言ったので、お庭に出てやってみることにした。

警衛隊員が水魔法使える人でよかった。


「地面に向かって投げるだけですよ?」


「パウル、諦めが肝心よ」


それだけで終わるわけがないのは、パウルも察しているだろうに。

それに、水魔法が使える人がいれば、濡れても乾かしてもらえるから問題なし!


警衛隊員さんに水風船もどきを渡す。

彼も懐かしがっているので、子供のときに遊んでいたようだ。

慣れた手つきで人差し指に水風船もどきをはめ、無詠唱で魔法を発動させ、パパッと口を結ぶ。


「うわっ、本当に水で膨らんでいる……」


ダオは手のひらの上で、水風船をぷるぷる震わせて遊んでいる。と思いきや、めっちゃ腰が引けてた。

その間にも、警衛隊員さんは水風船もどきを生産してくれており、私とマーリエにも渡される。


「これを、こうすると……」


その渡された水風船もどきを、思いっきり地面に向かって投げる!

バシャッと気持ちがいい音がして、水風船もどきは割れ、地面に生えていた草が濡れた。

空いた手に再び載せられる水風船もどき。

さて、次は……お前だっ!


渾身の力を込めて、水風船もどきを投げた。

が、水風船もどきは目標に当たることなく地面に落ちて割れた。


「……ネマお嬢様、お下手ですね」


くそぅ!しれっと避けたな!!


「パウル、ここはあえて当たるべきでしょう!」


ダオとマーリエに、こんな遊びだよってお手本を見せているんだから、命中しないと意味がない。


「お嬢様の水の玉に当たるのは難しいかと存じます」


潔くノーコンって言えばいいのにパウルめっ!


「ダオルーグ殿下とマーリエ様は、こちらをご使用ください」


そう言って、地面から出現させたのは的。

最初から用意してくれればよかったのになー。そしたら、パウルを狙うこともなかったのになー。

ジト目で睨むも、パウルは素知らぬ顔だ。


「おにいさん!それ、ありったけ作っちゃって!」


こうなったら、ストレスを発散じゃー!!

三つ目と四つ目の水風船もどきを受け取り、パウルが作った的に苛立たしい気持ちを込めてぶん投げる!


結局、最終的には私もダオもマーリエも、みんなびしょ濡れになっちゃった。

パウルのもくろみは見事に外れたわけだ。残念でした!


その後、何度も話し合いが続いたわけだけど、お菓子の味見とか、宝物を入れる箱のサンプルとかが出来上がってくると、本当にイベントを主催しているんだなぁって気分になる。

警備面については、クレイさんとパウルは、軍部の方と何度も会議をして警備計画を細かく詰めているようだ。

でも、毎回変更内容が伝えられるので、私が参加できなくなる不安はいまだ解消されない。

そうそう。陛下と先帝様からは、交流会当日、精霊による監視を強化することと、サチェとユーシェの名前を呼べばすぐに駆けつけるとの約束に留まった。こればかりは仕方がないよね。


そんな状況でも、ダオに頼まれたことは完遂せねばならぬと、招待する獣人の種族の選別に入る。

基本は地球でいうところの哺乳類を祖とする種族と、鳥を祖とする種族を中心に選んだ。

バルグさんに聞いたら、爬虫類系の獣人は苦手とする貴族も多いから、慣れていない子供にはきついのではないかと言われてしまう。

確かに、爬虫類は上級向けだと自分でも思うので、今回は見送ることにした。

交流会が定着すれば、爬虫類系の獣人を招待した会を開けるはずだしね。


みんなでああでもない、こうでもないと言いつつ、何かをやるのって楽しい!

開催日も決まり、マーリエが選出した全員に招待状を送る。

だけど、最後の最後まで、警備面については会議や下見を繰り返していた。

パウル、前日にやっぱりダメでしたとか言わないでね。とどめを刺すときは早めにお願いします。



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