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どーしてこーなった!?

ドサッ―――


いーたーいー!

人質は大切にしましょう!

地面に放り捨てられた衝撃が、右肩にもろにきた。

ウサギは無事か!?

一緒に袋詰めされたウサギは、私の腕の中でもぞもぞと動いていた。

よかった。出血の方も止まったみたいだ。


袋から、ズズズッてな感じで引っ張り出されると、周りはゴブリンだらけ…。てか多っ!!

かなり広いけど、自然にできたと思われる洞窟に、数えきれないほどのゴブリンたちが生活していた。

ていうか、わらわらと私の周りに集まってくるんですけど!涎とか垂らしちゃってるんですけど!!私は食べ物じゃありません!!!

…あれ?ゴブリンたちの視線が私じゃなくて、少し下の方に……。


「この子は食べちゃダメッ!!」


私の言葉がわかるのか、ゴブリンたちの視線が哀愁漂うものに変わった。

ダメなものはダメです!


「それより、私をさらってどーするの?」


するとみんなして首を傾げる。

くっ、ちょっと可愛いじゃないか…なんて思ってない。ないったらない!誘惑には負けないんだから!


一匹のゴブリンが、涎を垂らしながら近づいて来た。

ウサギはあげないからね!と睨み付けると、ゴブリンは気にした様子もなく、私の手を引っ張る。

えーっと、こっちに来いってこと?

とりあえず、ゴブリン引っ張られるまま歩くと、横穴に連れていかれた。

今度はグイグイと後ろから押すので、その横穴に入ってみる。


真っ暗かと思いきや、壁が淡い緑に光っている。光苔ってやつかな?

んで、横穴には人がいた。…ひとぉ!?

思わず二度見、三度見してしまったが、私より少し年上の女の子が二人。顔立ちがそっくりだから、姉妹かな?


「君もさらわれたの?」


片方が話しかけてくれた。なんともまぁ、綺麗なソプラノボイス!


「そーだよ。あなたたちは?」


「ふんっ。見てわからないの?誘拐されたから、こんな所にいるんじゃない!」


おっと、それはごもっとも。

にしても、もう片方は性格キツそうだな。


「僕はピィノ。こっちは妹のニィノだよ」


僕ってことは、男の子でしたか。こりゃ失礼。

二人とも天使彷彿させる程、愛くるしい美少年と美少女だ。ただ、残念なことに、薄暗いから髪や目の色がわからない。


「ネマです。よろしくね」


同年代の子としゃべるのは初めてだ。でも、念のため身分は隠しておこうっと。


「ここには僕たちの他に、大人もさらわれて来てるんだ。別の場所に閉じ込められてるから、接触はできないけど…」


ピィノが知っている情報を教えてくれる。

にしても、あんまし嬉しくない情報だな。ゴブリンとかオークとか盗賊って、さらった女は…って感じでしょ?

私だけならまだしも、これは早く救出してもらわないと!

ソルの力を使えば一発だろうけど、なんの情報も得られないままドカーンはちょっとなぁ。それに、洞窟みたいな密閉空間で、火属性の魔法を使うと酸欠とかにならないよね?風も一緒に使えばなんとかなるかな?


―ソル、洞窟で火の魔法使って平気?酸欠になったりしない?


―また急にどうしたのだ?ふむ。風を送れば大丈夫だろう。


―んーとね、今ゴブリンの巣にいるんだけど、他にもさらわれた人たちがいるから、助けれるかな?って。


―………お主は…。


あらら。ソルに呆れられちゃった。


―魔法を使うことは可能だが、ゴブリンだけというのは無理だ。我が見えていれば別だが、念話だけではそこまでできぬ。


チートなソルでも、できないことあったんだ。困ったときのソル頼みはムリか。


―お主が魔力を調節できるなら、できなくはないが…。


―ムリムリムリ!そんなこと、恐ろしくてできません!!


私、魔力ないんだよ?やったこともないものを、ぶっつけ本番でやるなんてできるわけないじゃん!


やっぱり、パパンたちの救出を待つしかないか…。

ノックスがちゃんと後付けて、知らせてくれるといいんだけど。

日頃の訓練の成果を見せるんだぞ、ノックス!


グゥーーー


お腹空いた!

村長夫人のお弁当、食べ損ねた!


「呆れた…。よくこんな状況で、空腹なんて感じられるわね」


しょうがないじゃんか。今日はいっぱい歩いたし、走りもしたし、もうエネルギー不足なんだよ。


ウサギをピィノに預け、とりあえず穴を出てみる。

穴の出入り口のすぐ横に、見張りのゴブリンがいた。

出てくると思っていなかったのか、お目々を見開いてびっくりな表情してた。

うん、私もこんな近くにいると思わなくてびっくりしたよ!


「おなかすいたー」


お腹をさすって、空腹をアピールしてみる。


「ギー!ギギッ!」


すると、そのゴブリンは別のゴブリンに何か話しかけてた。

言ってることはわからないけど、なんとか意思の疎通はできそうだ。

意外にゴブリンって頭いいのかな?


別のゴブリンが持ってきてくれたのは、細長い柿みたいな果物。

見たことないんだけど、ちゃんと食べれるの?

服で表面を拭いて、お行儀悪いけどそのまま囓ってみる。


「…しっぶー!!」


渋いよ!なんか舌が痺れてきた!

さすがにこれは食べれないよ?


「ギッギー」


慌ててゴブリンが、私から果物を奪った。そして、歯で皮を剥き始める。

皮を剥いた部分を、しきりに指差す。

皮は食べちゃダメだったのか…。早く言ってよ!

剥いてもらった部分を、恐る恐る囓ってみた。

…!甘い!シャリシャリした歯ごたえに、果汁が凄く甘くて美味しい!

うーん、歯以外で皮を剥く方法ないかな?

あっ!ウサギさんにナイフ入れてたの忘れてた!最近、ウサギさんの存在忘れちゃうんだよね…。


早速、ナイフで皮剥きにかかる。

ナイフを出した瞬間、ゴブリンたちが怯え、少し後ずさった。

大丈夫、大丈夫!ナイフ一本で、みんなをどうにかできるほど達人じゃないから!

実際、皮剥きも剥くというよりは削ってるの方が正しい気がする。

ほんと、小さいって不便だな。

全部剥き終わって、ムシャムシャと果物を堪能する。

そんな私の様子をじっと観察するゴブリンたち。

どうしたの?それより、もう一個ちょうだい!

図々しいことも、厚かましいことも承知してるけどね。背に腹はかえられません。


もう一個もらって、それもいそいそと皮を剥く。

何匹かゴブリンが私の真似をして、錆びたナイフで皮を剥こうとしていた。

…あぁ!ナイフで皮を剥くっていう発想がなかったのか!

ゴブリンたちはおっかなびっくりな手つきでナイフを握っている。

こわっ!指切らないようにね?

ついでだから、皮の削り方を教えてあげる。手、小さいから、削った方がいいよ!ピーラーみたいにさ!



…えーっと、なんでかわからないけど、ゴブリンたちと仲良くなりました。

これも、神様からもらった能力のおかげかな?魔物もOKだったのか…知らなかった…。


こうなると、困ったぞ。

この子たちが退治されるのは、正直見たくないし、嫌だ。

でも、パパンたちは必ずここにやってくる。そうしたら、たぶん私の話は聞いてくれないと思う。

どうやったら、さらわれた人たちを助けて、なおかつこの子たちが平穏に暮らしていけるのか…。むー、難しい!!


「そういえば、なんで君たちはここでくらしているの?」


元々ゴブリンたちは寒い地方にはいない。なんでわざわざ、こんな極寒の地で生活しているのか。


「ギ?…ギィギッ!グギギー!」


「…ごめん。なんて言ってるのかわかんないや」


「グゥ…」


だって、ギーとかグーっていう鳴き声にしか聞こえないんだもん。


なんてことをしていると、洞窟の入り口が慌ただしくなった。

どうやら、お出かけしていたゴブリンたちが帰ってきたようだ。

まだいんのか!一体どれくらいの数いるんだ?


入り口には、ジャイアントボアの子供が二匹、運び込まれていた。

あれま。捕まっちゃったのか…。弱いものが狙われる。弱肉強食の世界ではしょうがないことなんだけど、やっぱり可哀想って思ってしまう。

それにしても、よく捕まえられたな。

この子たち、ナイフを使いこなすこともできなかったのに、自分たちより体格のいい瓜坊を二匹も…。


むぅっと自分の考えに没頭していたせいで、気づくのが遅れた。

私の前に、ぬっと現れた影。


「人間の娘がなぜ外に出ている?」


「…しゃべった!!」


マジびっくり!

姿形はゴブリンだけど、体格は一回り以上も大きい。

ひょっとして、ホブゴブリンってやつ?だとしても、なんでしゃべれんのさ!


「ギギー!」


「…お前たち、またさらってきたのか?あれ程するなと…」


「ちょっとまったぁぁぁ!」


うん。まず、状況を整理しよう。そうしよう!


「今からしつもんするから、ちゃんとこたえてくれる?」


「………」


沈黙は是と取るよ!


「 まず一つ。あなたはこの子たちの長でいいのかな?」


「…あぁ。この群の長はオレだ」


まぁ、予想通りの答えだよね。


「二つ、人をさらうのはなぜ?」


「女は戦利品だが、子供はこいつらの習性だ」


はいぃ?習性??ゴブリンにそんな習性あったっけか???

私のオタク知識に入っていないだけなのか、それともこっちの世界のオリジナル設定なのか…んーわからん!


「しゅうせい?こどもをさらうしゅうせい…?」


「さらうと言うよりは保護の方が近いか。ゴブリンは子供を大切にする。それが人間の子であってもな」


おやまぁ!私は保護されてたのか!

別に迷子とかではなかったんだけどなぁ。


「三つ。にんげんをおそうのはなぜ?」


「…生きるためだ。ただそれだけのために、こいつらとこんな所まで来たんだ」


おっと。何やら核心的な話も聞けそうだぞ。


「どうして前のすみかをはなれたの?」


この質問に、初めてホブゴブリンの表情が動いた…ように見えた。ちょっとわかりづらいから自信ないけど。


「オレたちは人間に森を追われた。ゴブリンだけじゃない。コボルトもオーク、オーグルも…」


あり?神様の仕業じゃなかったの?それとも、黒幕として操ってる感じ?

…てか、そんなめんどくさいことするくらいなら、自分でやれよなー。もぅ。


「こんな北までこなくてもよかったんじゃない?」


ホブゴブリンは静かに首を振った。


「人間はどこまでもオレたちを追ってきた。オーグルたちはその性格ゆえに、戦いを挑み負けた。今では、ほとんど姿を見ない。オークたちは寒さに適応できず凍え死ぬか、危険だとわかっていても南に残った者ばかりだ。オレたちは弱いから逃げていたが、それでもたくさん死んでいった」


そこまで大がかりな討伐隊を組織したって話は出ていなかったから、騎士団は無関係か。国境も越えてるような感じだから、ガシェ王国内だけではない。となると、ギルドが関わっているか、創聖教のやつらが何か企んでいるのか…。

もし、創聖教のやつらなら、被害はガシェ王国だけではないかもしれない。

考えられるのは、昨年のイクゥ国の旱魃かな?

まぁ、元々うちの王様は政治に創聖教が口出してくるの嫌ってるから、その線もあるかもしれないけど。

ミルマ国とライナス帝国にも同じようなことが起こっているかどうか、パパンに調べてもらおうっと。


で、この子たちをどうするか?

一層のこと、ここでゴブリン村でも作って、自給自足な生活でもさせるか?

…待てよ。そうなると、いろいろ教えないといけないのか!猟の仕方、畑の耕し方、毛皮の加工に保存食の作り方…うへぇ、めんどくさっ!

却下却下!!


「んー、あなたたちはどうしたい?にんげんにふくしゅうしたい?」


考えるのもめんどくさくなって、彼らが今後どういうふうに暮らして行きたいのか、とりあえず聞いてみた。

復讐したいって言われても、させてあげられないけど。


「…以前と同じ生活がいい。動物や魔物を狩って狩られて…。森に必要とされる種族でありたい」


森に必要か…。どう見ても、ゴブリンは捕食される側だもんな。だから、繁殖力が強く、成長も早いんだろうけど。となると、ゴブリンだけを保護すると、バランスが崩れる可能性が高いわけで…。

じゃあ、全部一緒にしちゃおうか?

ここじゃなくて、王都よりの領地の山に、ゴブリンとオーク、オーグル、他の追われている魔物を一緒に住まわせてみよう!

山から人里に出ないようにする結界はお母さんにお願いするとして、問題は計画にかかるお金か…。

それにいくら捕食者がいるとしても、いくらかは間引く必要もあるだろうし。

んー、さすがに迷宮(ダンジョン)まではやりすぎかな?

…いや、ギルドの低ランク者に限定した修行場みたいな感じにして、山の麓にアイテムのお店を作って…。

案外イケるんじゃない?コレ!!


「じゃあ、こういうのはどぉ?」


大雑把ではあるが、閃いたアイディアをホブゴブリンに話して聞かせる。


「人間は殺してもいいのか?」


「まぁ、せいぞんきょうそうだからね。山にはいるにんげんにもちゃんとせつめいしてからにするし、たおしたにんげんのそうびはたおした者がもらえばいいよ」


誓約書とか書いてもらって、命の保証はしませんと明記しておけばいいよね?

法律とかの難しい所はパパンに押し付けておけば大丈夫だろうし。

残酷かもしれないけど、ゴブリンたちと私を引き合わせたのは神様だ。

死んだ場合はどちらも天命だと思って諦めてくれ。


「もんだいは、これからやってくるおとー様たちをどうするかってこと」


あ!こういうときこそ、困ったときのソル頼みじゃん!!

いやー、今日の私、超冴えてる!


「これも私にまかせてくれる?」


「構わないが、何をする気だ?」


「ふっふっふー。さいきょうチートに力をかりるのさ」


「ちーと?」


理解できない言葉に対して、首を傾げる。

…っく。お前らのその仕草は標準装備かっ!!


早速、ソルに事情を説明する。

念話中に不思議な顔をしたゴブリンたちに、最強チートな友達と念話をしていると言ったら、私の変な行動も理解してくれたみたい。


ソルはソルで面白そうだと、計画にもパパンとやり合うことにも承諾してくれた。

やることが決まれば、あとは作戦会議!

って言いたいとこだけど、残念なことに相手の戦闘能力不明という大きな壁が…。

思い返してみても、私は家族が攻撃魔法を使ってる所を見たことがない。

パパンは感情で魔力がだだ漏れするくらい強い魔力を持っていて、火の属性ってことくらいしか知らない。

連れてきた部下さんに至っては、まったく情報なし。

騎士団のみなさんは、騎士団にいるくらいなんだから強いんじゃね?っていう程度。


だ…ダメだこりゃ。

あれ程情報は大事だとわかっていたにも関わらず、このていたらく。

ソルとホブゴブリンとああでもないこうでもないと話し合い、いくつかのパターンを決めた。


時間はあっという間に過ぎていって、森には夕闇が覆っている。

やっぱり、動くとしたら闇夜に紛れてっていうのが一番確実だよね?


ピィノとニィノの二人にも、助けが来るからと言いくるめて、ちょっとだけ手伝ってもらう。

パパンたちが来たら、外に出るだけ。

ね、簡単でしょ?

まぁ、パパンたちからの先制攻撃を防ぐって目的なんだけどね…。

扱いが酷いかもしれないけど、大丈夫!ちゃんとソルの防御魔法かけるから!!


さてさて、私はさっさと下準備を終わらせないとね。

夜目の利く夜行性の動物たちに、人間が近づいたら知らせてくれるようお願いする。

ノックスを呼ぼうかと考えたけど、パパンたちの側にいるだろうからやめといた。

あとは、子供だましみたいな物だけど、ちょっとした罠を仕掛けておく。ほんと、気休め程度だけどね。


さぁ、いつでもかかって来い!!




明けましておめでとうございます!


やっとスーパー繁忙期が終わり、栄養ドリンクな日々ともおさらばです(笑)


そして、ネマよ…私の方が聞きたい!

どーしてこうなったんだ!!

作者の私ですら、手を焼く暴走特急なネマですが、今年もよろしくお願い致します。


職場でノロとインフルエンザの感染危機に、毎日さらされております。

皆様もご注意下さいませ。


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