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遠い親戚のお付き合いはどうするべきか。

10/28 コミカライズ10巻発売です!

パパンたちの帰国が明後日に迫り、使用人たちは少しずつ荷造りを始めることになった。

太王夫様とお会いする約束があるため、私たちを着飾ったあとでだが。


「私とセルリアも同行するが、魔物たちはみんな連れていくこと。絶対に隙を見せてはいけないよ」


と、パパンから強く念押しされた。

そんなに危険人物なのか!?

森鬼やジーン兄ちゃんの話から想像すると、厄介な人物ではあるみたい。ガシェ王国の王族だと考えたら、ヴィみたいに腹黒くてもおかしくはないけど。


お迎えの御輿(みこし)に乗って、家族全員でまずは王城へ。

そこから、ちょっと豪華な談話室へ案内された。

入室すると、なんか空気がピリピリしたような気がする。

護衛要員の魔物っ子たち、ウルク、森鬼に変わった様子はないから気のせいかな?


「無理を言って呼び立てて申し訳ない」


柔和な雰囲気のおじいちゃんとアイドル顔の美少年が笑顔で迎え入れてくれた。

おじいちゃんこと、太王夫様はヴィとは似ていない。王様とも似ていないと思う。共通点は目が紫色ということくらい。

ガシェ王国の王族の特徴は、容姿よりも性格に現れるのかもしれないね。

美少年は王子様で、アジア的な顔つきもあって、某芸能事務所にいそう。

まぁ、お兄ちゃんの方が美少年だけど!!


軽い挨拶を終えて全員が着席すると、太王夫様は本当に王女様たちのしでかしたことを謝ってきた。


「わたしが孫可愛さに口を出してしまったせいで、オスフェ家の面々には迷惑をかけた。この通りだ」


そう頭を下げた太王夫様を止めに入るパパン。


「その件に関しましては、女王陛下直々(・・)にお言葉をいただいております。これ以上は過剰となりますので、ご容赦ください」


パパンにこう言われては、王子様が続いて謝罪することはできない。

しかし、王子様は真剣な面持ちで私たち家族を見つめる。


「では、その件とは別で、ぼく……私の話を聞いていただけますか?」


王子様の年齢は確か十二歳だったか?

お姉ちゃんより年下の少年の必死な様子に、パパンも承諾するしかないみたい。


「そこまで仰られるなら、ぜひお聞かせください」


「今後、第二王女に代わり、私が外交を担うことになりました。短慮な王女たちのせいで、我が国への心象が悪いのも理解しています。これから挽回いたしますので、どうかミルマ国をお見捨てなきようお願いいたします」


これはなんと言うか……返事に困るね。

ミルマ国の王族は女性優位というか、王子は有力なオム族の家に降下するのが慣例らしい。そして、国政にはあまり関わらないそうだ。

それなのに、突然外交を任されてしまい、強いプレッシャーを感じているのかも。


「我が国の外交はディルタ家に一任されておりますので、殿下の誠意はしかと伝えておきます」


国交に関する話題なので、宰相モードで対峙するかと思いきや、パパンの顔は予想外に穏やかだ。


「それから、差し出がましいことを申し上げますが、外交は国の顔でもあります。けっして、心の中まで自国を卑下(ひげ)したり、恥いてはなりません」


パパンがそう言うと王子様は驚き、いや、でも……と口ごもる。


「気持ちというものは、思っている以上に声音に現れます。殿下が我々に申し訳ないと感じていてくださっていることは、十分に伝わってきました」


パパンは太王夫様を一瞬見やって、王子様に優しく語りかける。

外交を司るということがどういうことなのかを。

各国との友誼を深めるだけでなく、その人物を通して国を推し量っているのだと。

ゆえに、愛国心のない者に外交を任せている国は、いろいろな場面で足元を見られるらしい。

そのいろいろっていうのがちょっと恐ろしいが、パパンならそういう隙を逃さないと思う。

悪い人につけ入られないよう、自分の国に自信を持って事にあたりなさいって忠告だよね?

本当につけ入るぞっていう宣戦布告じゃないよね??

私としては忠告だと信じたい。

だって、王子様はこれから、海千山千の猛者(もさ)たちとやり合うことになるのだ。

この王子様は生真面目そうだし、そんな性格の悪い大人にいじめられたら病みそう……。


「ですが、時には嫌らしいやり方も必要となります。太王夫殿下が大層得意でいらっしゃるので、お話を伺ってみてはいかがでしょう?」


パパンにそんなことを言われた太王夫様だけど、柔和な雰囲気は崩れない。


「オスフェ公にそこまで買ってもらえているとは光栄だ」


「ご謙遜を。我々もずいぶん苦杯(くはい)をなめさせられましたよ」


両者の間には、バチバチとしたものがぶつかり合っている気がする。

ジーン兄ちゃんが若いときにいろいろとやられたみたいなことを言っていたので、パパンも同じなのだろう。

そんなパパンと太王夫様のやり取りを見たからか、お兄ちゃんの警戒が急に解けた。

お兄ちゃんの冷ややかオーラがなくなったのが不思議で、同じように変化に気づいたお姉ちゃんと目を合わせる。


「お兄様、何かありまして?」


「うん、ちょっとね」


それがなんなのか、お兄ちゃんは教えてくれない。

ここでは言えないということか?

パパンが太王夫様とまだバチバチしている中、王子様がこちらに話しかけてきた。


「君がネフェルティマ嬢だよね?」


「はい。次女のネフェルティマ・オスフェです」


「姉様たちを止められなくてごめん」


先ほどパパンがこれ以上の謝罪はいらないって言ったのに……。

どうしたものかと悩んでいると、王子様が王族としてではではなく、弟として謝りたかったと言われて納得する。

絶対にないだろうけど、お兄ちゃんやお姉ちゃんが同じようなことをしてしまったら、身分云々は別にして家族だから謝りたいってなると思う。

ただそれは、お兄ちゃんとお姉ちゃんが私にこれでもかっていうくらい愛情を注いでくれるからなんだよね。

これが前世の兄姉だったら、私は謝ったりしないかも。いや、自分が楽になるためだけに謝罪を口にしていそうだ。


「殿下のせいではありません。でも、お気持ちは嬉しいです」


王子様からは、そんな自分が楽になりたいって感じではなく、心苦しく思っている心境を伝えたいって感じなのかなって。

王女様たちと王子様がどんな姉弟関係なのかわからないが、姉がやったことは自分には関係ないと突っぱねずに、伝えようとしてくれるのはやっぱり嬉しい。


「おにい様とおねえ様が私のことを守ってくれたので、私はそこまで気にしていないのです」


「……羨ましいな」


小さな声ではあったけど、私の耳にはしっかり届いた。

羨ましいという言葉に私が反応してしまったため、王子様は淋しげな様子で理由を教えてくれた。


「行事のときしか姉様に会ったことないから……」


これには私だけでなく、お兄ちゃんとお姉ちゃんも驚いている。


「慣例で会ってはならないのですか?それとも……」


「カーナ、失礼だよ」


お姉ちゃんが質問を口にすると、すかさずお兄ちゃんが止めに入った。

慣例でない場合、人様の家庭環境をずかずか聞くものではないし、相手は今日初めましての王族となればなおさらだ。

お姉ちゃんもすぐに自分の非を認め、王子様に謝罪する。


「この国の習わしが、他の国と異なるのは知っているので大丈夫です。仰っていたように、ミルマ国の王子は年頃になると王族から出されるため、生まれるとすぐに女性王族との接触を制限されます」


ミルマ国について勉強したとき、王子はオム族の有力者に降下するって教わったけど、そんな制限まであったとは!?


「だから、男性なのに治癒魔法が使えて、姉妹とも仲のよいことが羨ましくて……」


あの羨ましいはお兄ちゃんに対してだったのか。

治癒魔法は女性に顕現(けんげん)する場合が多いとされているが、男性の治癒術師が少ないわけでもない。

私には、治癒の加護を与えるか否かは、女神様の好みが大きく左右されているように感じられる。あの親にしてこの子ありってね。


「逆に捉えてみてはいかがでしょう?今までミルマ国で男性王族が表舞台に立つことがなかったということは、誰も比較できないということです。男性ですから、王女殿下の真似をする必要はありませんよね?」


「真似をする必要がない……」


お兄ちゃんの言葉を繰り返す王子様は、少し驚いているようだ。

確かに、女性は女性ならではの社交があるし、男性は男性ならではの社交がある。それは、真似しろと言われてできるものではない。


「王族として、ちゃんと学ばれているとは思いますが、それは基礎にすぎません。外交はもとより、政は人との関わりが重要ですから。民の声を聞き、臣下たちと協議を重ね、有識者から知恵を借り、現場を知る。僕は父上からそう教わりました」


娘の前では残念なパパンでも、お兄ちゃんに対してはしっかりと父親らしい……いや、当主らしい姿を見せているんだなと感心する。


「ぼくにできるでしょうか……」


「何事もやってみなければわからないですよね?外交の仕事が合わなければ、自分に合う仕事を探せばいいのです。国に携わる仕事はたくさんありますから」


そうだよね。食べ物も、食べてみないと味はわからない。ちょっといまいちだったり、思っていた以上に美味しかったりと、想像していたのと違うことの方が多い。

前世では、幼い頃に美味しくないと避けていた食べ物が、大人になって美味しく感じたりもした。

つまり、経験を積んでから再度チャレンジしたら、また違う感想を抱くかもしれない。


「そのときの自分に合ったことを成すのが重要なのだと思います。好き嫌いを言えないときもありますけどね」


お兄ちゃんは嫡男なので、好き嫌い関係なく、否が応でも仕事を覚えなければならない。

それがつらいときもあるのかな?

そういった弱音は絶対に言わないお兄ちゃんだから、抱え込んでいないか心配だ。


「王子様は気楽にやればいいってこと?」


「気楽というか、気負わずにいるという方が正しいかな?」


私が尋ねると、お兄ちゃんに訂正された。

でも、気負わずにって難しいよね?

前世で、新入社員だったときや大きな仕事のメンバーに選ばれたときに、先輩社員に肩の力を抜けと言われても無理だったことを思い出す。


「言われてできるなら、苦労はしないと思うの」


会社での記憶を思い出したせいか、少しやさぐれた口調になってしまう。


「こればかりは、経験を積むしかないんじゃないかな?」


苦笑していることから、お兄ちゃんもやっぱり苦労したんだ。

少しは私たち妹に甘えてもいいのにね。


「それに、最初から王族らしい王族はいないと思いますよ。皆様、相応しくあろうと決心するきっかけがあったのではないでしょうか?」


お兄ちゃんはここだけの話と前置きして、とんでもないことを口にした。


「我が国の王太子も、今でこそまともに見えますが、昔はとんでもない悪戯好きだったのです」


そのとんでも発言に、お姉ちゃんの目が光る。

ヴィの弱みを握られると、ウキウキしているんじゃなかろうか?

そもそも、お兄ちゃんはヴィとふざけて互いに言い合うことはあっても、ヴィ本人がいないところで悪く言うことはしない。

だから、突然すぎて呆気に取られた。

お兄ちゃんはそんな私たちに構うことなく、ヴィについて語り始める。


ヴィが幼い頃、魔法を使って王宮で働く人たちを驚かせることばかりしていたそうだ。

目の前に物を落としたり、庭に大きな穴を開けたり。

人を傷つけることはなかったとはいえ、一歩間違えれば大怪我だったのでは?と思うようなことばかりしていた。


ここまでの内容に、お兄ちゃんのことが出てこないな。

四、五歳くらいから遊んでいたって聞いたのに……。

悪戯っ子なヴィが変わったきっかけはラース君だと予想していたが、お兄ちゃんの話では契約者になっても悪戯をやめなかったらしい。


「しかし、契約者であるがゆえに、ただの王子であったときよりも人々の目が厳しくなりました」


聖獣の契約者ということで、人々は契約者のことも神聖なものと見なしてしまう。

そうすると、聖人君子であるべきだと、ヴィの周りは自分の思い描く理想像を押しつけた。

だが、あのヴィが素直にいい子になるわけない。

ヴィが反発すればするほど、周りはヴィを(けな)すようになったそうだ。

もちろん、面と向かって言う者はいない。


「本当に、他人を(けな)す人って、なぜ(いや)しさを隠そうともしないんだろうね……」


お兄ちゃんは、隠れてヴィを貶す人たちの会話を聞いてしまったのかもしれない。

きっと、お兄ちゃんも苦しかったはずだ。親友が悪く言われていたことが。


「だけど、ヴィルは気づきました。自分が身分に相応しくない言動をすると、自分の大切な存在までもが貶される対象になるのだと」


それから、ヴィは周りの人を困らせる言動をやめ、真面目に勉強や鍛練に打ち込んだそうだ。

今のヴィは、王太子としての自負心が人一倍強い。次期国王として、国民に恥じない存在であろうとしている。

ヴィが昔やんちゃだったのであれば、自覚したときに自分の行いをさぞ悔いただろう。

それでも、あの陰険鬼畜腹黒っぷりが治らなかったのが残念だが……。


「大切な存在が傷つけられるのは、自分が傷つくよりもつらかったと、ヴィルは言っていました。ヴィルが次期国王に相応しくあろうと決心したのは、このときだったと思います」


まぁ、本当のところはヴィにしかわからないだろうけど、お兄ちゃんがそう感じたのならあっているのかもね。

きっかけは人それぞれっていう話をしたかったようだが、王子様には余計にプレッシャーになってない?


「ネマ、難しい顔をしてどうしたの?」


お姉ちゃんが私の様子に気づいて、顔を覗き込んでくる。


「うーん、王子様がヴィみたいになったらいやだなって……上手く言えないんだけど」


「感じるまま口にしてみたらどうかしら?」


「ずっと王子様でいるのは疲れると思う。王子様でいることをがんばる前に、自分に戻れる場所が必要だなって」


ヴィにラース君がいるように、私に家族や魔物っ子たちがいるように、今の王子様に必要なのは素の自分を見せられる人だと思う。

じゃないと、つらいときに支えがなくて心が折れてしまうかも。

家族との関係が希薄ならなおのこと。

それに、表裏のある腹黒王子は、ヴィだけでいい。

アイセさんもヴィのことを手本にしているようだけど、ヴィはいくつもの顔を上手く使い分けている。

聖獣の契約者という点を活かし、国民には優しくて、行動力もあるザ・王子様を演じる。

貴族に対しては慇懃無礼を徹底し、たまに陰険さを見せているようだ。まだ若いので、舐められないようにってことだと思うけど。

ミルマ国の王子様には、ダオのようにみんなに愛でられる王子様になってもらいたい。

私の言葉を聞いて、お兄ちゃんはにっこりと笑った。まるで、心配いらないと言っているみたいだ。


「ずっと王子らしく過ごせということではありません。殿下には、頼もしい味方がついているので、その方から学ばれるのがよろしいかと」


王子様はその味方にピンと来ないのか、小さく首を傾けた。


「大切な孫のために、自ら憎まれ役を演じた方がいらっしゃるではありませんか」


それを聞いて、王子様は太王夫様に視線を向けた。

太王夫様はまだパパンとやり合っているが、その表情は楽しそうだ。


「この場を無理やり設けたのも、王子殿下のためでしょう。僕たちに会えば、殿下がああ仰ることを見越し、そして、父上が殿下に対して苦言を呈すこともわかっていらっしゃった。ですが、本当の目的は、僕たちが殿下へ同情を抱くようにしたかったのだと思います」


お兄ちゃんが言うには、国同士の細かな調整はベテランの外交官が担うので、王族は本当に国の顔として接待をしたり、受けたりするのが務めなんだって。

なので、王子様には上の世代ではなく、同世代と仲良くなって欲しいのではないかと。

確かに、世代交代が行われれば、お兄ちゃんが宰相の任も受け継ぐ。

お兄ちゃんを押さえておけば、もれなくヴィもついてくる。

さらに、一応、オスフェ家は筆頭公爵家なので、外交を担うディルタ公爵家も口を出せると。

とはいえ、建国の英雄である五家は同等な立場なんだけどね。


「ディルタ卿が仰っていました。太王夫殿下は会うたびに印象が変わると。その場面に合わせた性格を作り、ときには突飛なことを言い出したりと、本質を掴ませてくれないそうです」


曾祖父ちゃんといい、太王夫様といい、ヴィといい……。やっぱり、ガシェ王国の王族は難ありな人物が多いと思ったのは内緒だ。

ガシェの血がそうさせているのであれば、この王子様も難ありな性格に進化できる可能性は十分あるということで……。

それがいいことなのかわからないけど。まぁ、そういう癖の強い人が味方なのは心強いんじゃないかな?


「おじい様がそんな凄い方だとは知りませんでした……」


「オスフェ家当主と外務大臣のディルタ卿をやり込めるなんて、相当ですよ。今はお互い、父親と祖父として対峙しているようですが」


お兄ちゃんはパパンと太王夫様を見て苦笑する。


「それでも心配というなら、我がオスフェ家を味方につける唯一の方法をお教えいたしましょうか?」


……オスフェ家を味方につける方法!?

なんか嫌な予感がするぞ!

王子様もお兄ちゃんがなぜそんなことを言い出したのかわからず、返事に(きゅう)している。


「簡単なことですよ」


それから、お兄ちゃんの声が聞こえなくなった。

お兄ちゃんの口は動いているので、精霊の力で聞こえなくなったのだろう。

王子様の声も聞こえなくなっているし。


「おにい様、なんて言っているの?」


二人の会話が終わっていないのに聞いたからか、お姉ちゃんはすぐに状況を理解してくれた。


「お兄様がネマに聞かせたくないようだから、わたくしも言えないわ」


こういうときはすぐに結託する!

私がふて腐れていると、お姉ちゃんは私の頬を突いて笑っていた。

それがちょっと(しゃく)に触ったので、突かれても凹まないくらい、目一杯頬を膨らませて抵抗する。

除け者にされた感じがして、私はパパンとママンのところへ逃げた。


「そんな顔をして、どうしたの?」


ママンが私のふて腐れた顔を見て、小さな声で聞いてくる。


「おにい様にのけ者にされた……」


ママンは告げ口に関しては何も言わず、隣に座りなさいと促すだけ。

私は甘えるように、ママンにぴったりくっついて座った。

会話を聞いていなくても、私のために聞こえないようにしたっていうことはわかっている。

が、湧き上がる疎外感はどうしようもない。

気持ちを落ち着かせるため、白と紫紺を探す。

もみもみさせてもらおうと思ったのに見当たらない。

どこに行ったのかと辺りを見回していると、パパンとやり合っていた太王夫様と目が合った。


「ネフェルティマ嬢、いかがした?」


「失礼しました。なんでもありません」


声をかけられたので、慌てて姿勢を正す。

改めて近くで拝見しても、太王夫様は人好きのするおじいちゃんって感じだ。

まぁ、もういいお歳なのもあるだろう。確か、七十歳くらいだったはず。

だけど、ガシェ王族に現れる紫の瞳は、老いを感じさせない力があった。

ちなみに、先帝様も同世代のはずだが、あちらはエルフの血のせいか二十歳は若く見える。


「近くで見ると、やはりあのお方にそっくりだ!」


はっはっはっと豪快に笑う太王夫様。なぜか嫌そうな顔をするパパン。

あのお方って誰よ?


「あのお方の息子も孫も似ずに安心していたのに、まさか曾孫の代とは……。旅立たれてもなお、わたしを翻弄(ほんろう)するのはさすがとしか言いようがない」


太王夫様はうんうんと頷き、一人で納得している。

曾孫の代……もしかして……あのお方って曾祖父ちゃんですか!?


「太王夫殿下は、なぜ私を招待してくださったのですか?」


今さらだけど、招待状をもらったときに感じた疑問を投げかけてみた。

パパンとは昔から仕事上での面識があるようだけど、プライベートでの交流はないよね?


「血が繋がった者同士、孫たちと仲良くしてもらいたくてな」


私の曾祖父ちゃんはガシェ王国の先々代国王の弟なので、太王夫様にとっては叔父にあたる。

私の祖父と太王夫様とガシェ王国の先代国王は従兄弟というわけだ。

パパンから見ると、太王夫様は祖父の兄である大伯父の子なのでいとこ違い。私たち兄妹からは従大伯父(いとこおおおじ)。その従大伯父の孫ともなれば……確かに遠い。

あ、パパン、王様とはとこ同士なのか!

あれ?両親の従兄弟の子供がはとこってことは、王様の弟である王配様はもちろんのこと、ミルマ国の女王陛下もパパンとはとこなのでは??

凄くややこしいぞ!

パパンたちの代まではかろうじて血縁って言えるけど、私たちの代はまさに遠い親戚……。冠婚葬祭くらいでしか会わないレベルの遠さだ。


「本当の目的は別にあったようですが、叶わなくて残念ですね」


パパンは明らかに愉悦(ゆえつ)といった表情を浮かべている。


「なに、時間をかければいいだけのこと」


対する太王夫様は人好きのするおじいちゃんを崩さない。

はたからだと、パパンが老人をいじめているように見えただろう。


結局、一時間ほどでお開きになったのだが、そのほとんどがパパンと太王夫様の舌戦だった。

あんなに警戒していたのはなんだったんだろうっていうくらい、何も起きなかったよ。

ただ、離宮に戻ったら、パパンが異様に上機嫌だった。


「おとう様、なんでそんなに嬉しそうなの?」


「ラルフが立派になったと実感してな。本当に凄いよ。我がオスフェ家も安泰だ!」


お兄ちゃんをベタ褒めし始める。

具体的にお兄ちゃんが何をしたとか言わないので、気になって尋ねるも、男同士の秘密だって教えてくれなかった。

まぁ、男同士の秘密なら仕方ないね。

私も、ママンやお姉ちゃんと女同士の秘密と言って、パパンとお兄ちゃんに内緒にしてもらうことがあるし。

ちなみに、お兄ちゃんには真っ先に聞いて玉砕してる……。

めちゃくちゃナチュラルに誘導されて、気づいたときにはディーをもふってた。

この口の上手さ。パパンの言う通り、お兄ちゃんの代になっても我が家は安泰だろう。




どこまでが親戚か悩むネマでした(笑)

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