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午餐会も堪能するぞ!

もふなでのスピンオフも連載始まりました!

詳しくは活動報告にて。

「ずいぶんゆっくりしてきたのね」


ママンに遅いと嫌味を言われ、兄妹揃ってごめんなさいをする。

結局、約束の時間をちょっとオーバーしてしまったのだ。

ソルと風竜にお別れの挨拶をするときにちょっとあって……。


「まぁ、いいでしょう。急いで準備なさい」


パパンとママンはもう準備を終えていて、今は優雅にティータイム中。

お留守番をしていたシェルとジョッシュに別室に案内されて、まずは体を綺麗にしろと風呂場に突っ込まれる。

湯船に浸かる時間はないので、シャワーもどきでパパッと髪と体を洗われた。

出たら出たで、これまた魔法でパパッと全身乾燥。

ほんと、魔法って便利ダナァ。

そして、用意されている衣装に超特急でお着替えして、髪も綺麗に整えてもらい終了。

うちのスーパーマルチな使用人たちのおかげで、三十分もかからずに終わった。凄くない!?


「これで午餐会の前に少しはゆっくりできますね」


なんと、私たちを休ませるために準備を急いでくれたのか!

準備を手伝ってくれた使用人みんなにしっかりとお礼を言って、パパンとママンがいる部屋に戻る。


部屋には両親だけでなく、ジーン兄ちゃんとミルマ国の官吏服を着ている知らないおじさんもいた。

何やら真剣な様子のパパンとジーン兄ちゃんと、神妙な面持ちのおじさん。

声をかけづらくて、私たち兄妹はそーっと別室に戻ろうと目配せをし合う。

しかし、官吏のおじさんと目が合ってしまい……。

おじさんは私たちに気づくと、慌てて近くまでやってきて――土下座した。


「えええっ!?」


絨毯に額を擦りつける勢いの土下座なんて初めて見たよ!

前世でも映像でしか見たことない土下座を、なんの前触れもなくされてどうしたらいいのかと周りに助けを求める。

だが、お兄ちゃんもお姉ちゃんも驚愕で固まっており、パパンとジーン兄ちゃんも目を見開いている。

ママンも困り顔で、唯一平然としているのは森鬼のみ。

部屋に待機している使用人たちもみんな、動けないでいた。


「どうか、太王夫(たいおうふ)殿下、王子殿下とお会いいただけますよう、お願い申し上げます」


よくわからないが、お兄ちゃんに言っているんだよね?

そっとお兄ちゃんに場所を譲ろうとしたら、肩に手を置かれて止められた。

目で、私に対して言っているんだよと訴えてくる。

いやいや、どう考えてもお兄ちゃんでしょ?ディーと契約したんだし、それでだよ!

と、私も目で訴える。


「子供たちが困っているので、どうか立ち上がってください」


ジーン兄ちゃんがおじさんを立たせようと手を差し出す。

しかし、おじさんは土下座のまま首を横に振り、なおも訴える。


「いいえ。わたくしめの命を代償にしてでも、どうか一度お会いしていただきたく!」


命を代償って……重っ!!

なんでミルマ国の王族に会うのが、こんなに重々しい話になるの?

王女様たちのときはこんなんじゃなかったよ??


「まずは子供たちに説明するべきです。突然、捨て身の礼をされては、驚くのも仕方ないでしょう」


ジーン兄ちゃんがそう言ったあと、おじさんに何やら耳打ちをした。

すると、おじさんが慌てて立ち上がる。


「突然、このようなことをしてしまい、申し訳ございません。まさか、挺身礼(ていしんれい)があのような意味を持つとは、わたくしめが無知でございました」


どうやら、ミルマ国では土下座のことを挺身礼というらしい。

ガシェ王国では捨て身の礼と呼ばれているが、この礼を使う人は限られている。

何せ、もう後がない!って状態の人が恋人や伴侶に謝るときの礼だからだ。

そう……浮気がバレたり、夫婦喧嘩をして別れ話にまで発展し、パートナーに許しを乞うときに使う。

土下座のように平身低頭するのは、何をされても構わないという意思を表しているんだとか。

蹴ろうが殴ろうが、さらには首を切り落とされてもいいという、本当に捨て身で行わなければならない。ゆえに、恋愛沙汰での最終手段とも言われている。

なので、ミルマ国の挺身礼は我が国ではこんな意味になるんですよと、ジーン兄ちゃんが教えたんだと思う。

だから、おじさんは慌てて立ち上がったんじゃないかな。


「それで、王族の方が会いたいと望んでいるのは、誰のことでしょうか?」


「ご兄妹、お三方ともにでございます。多大なるご迷惑をおかけしたことを謝罪したいと申しつかっております」


それを聞いて、私たち兄妹ははて?っと顔を見合わせた。

第二、第三王女様がやらかした件は正式に女王陛下から謝罪を受けているし、クーデター未遂事件のことなら、それこそ国の代表者同士で話はついている。

ゆえに、こんなタイミングで謝りたいと言われても、何か裏があるんじゃないかと勘繰(かんぐ)ってしまうよね。


「お父様とユージン兄様はどうお思いでして?」


お姉ちゃんが、この話を受けるべきなのかとパパンたちに問う。


「私は、女王陛下より直接お言葉を承っているので、これ以上の謝罪は不要だと考えている」


パパンの答えは、貴族として当たり前なものだった。

他国とはいえ、国のトップが謝ったのだから、相手側の顔を立てることも必要だ。

ここで太王夫と王子の謝罪を受けたら、女王陛下の面目丸潰れどころか、女王陛下の謝罪だけでは足りないのかと臣下たちの感情を荒立てることになりそう。

あんなことがあったあとだから、オム族の皆さんはなおさらピリピリしていると思う。


「外務の長としては、()でなくてもいいと思っている。両殿下のご都合にもよるけど、明日では駄目なのかな?どうしてもと言うのであれば、オスフェ家の滞在を延ばすことも可能なんだし」


ジーン兄ちゃんは、午餐会の前にという部分が気になっているようだ。

あちら側だって、私たちがソルと風竜に会いにいっていたことは知っているだろうし、わざわざ時間にゆとりのない今に言ってくるのが()に落ちないと。


「そ、それは……できるだけ早い方がいいと仰っておりまして……」


しどろもどろな官吏のおじさんの様子から、太王夫から詳しい理由までは聞かされていないのだろう。板挟みになっていて、ちょっと可哀想。

お兄ちゃんとお姉ちゃんは顔に出してはいないが、面倒臭いと思っている気配が(ただよ)っている。


「わたくしはお兄様の判断にお任せいたします」


面倒臭いからといって、お姉ちゃんはお兄ちゃんに丸投げした。それなら私もーと、お姉ちゃんに続く。


「我がオスフェ家の当主と外務大臣であるディルタ卿がこう仰っているので、両殿下にお会いするのは後日ということでお願いできないでしょうか?」


パパンとジーン兄ちゃんには逆らえないんですよーってことを含ませつつ、会うこと自体は甘んじて受け入れますと。

お兄ちゃんは、僕も板挟みで困っていますといった感じなので、本当のところはわからない。私が(ひね)くれすぎかもしれん。


官吏のおじさんは一度お兄ちゃんの意向を伝えるべく戻り、再びやってきた。

明日でも構わないから会って欲しいとのこと。

それを聞いたパパンとジーン兄ちゃんはやっぱりねって、官吏のおじさんがいないときに言ってた。

よくわからないけど、二人の予想通りだったのだろう。

最終的に、明日、離宮まで迎えにくると言って、官吏のおじさんは部屋をあとにした。

官吏のおじさん、私たちと太王夫を行ったり来たりして大変そうだった。

ただ、せっかく私たちが休めるようにと使用人たちが頑張ってくれたのに、疲労感は増しただけだった。


午餐会も立太子の儀と同じく、魔物っ子たちを連れていけない。

ウルクは聖獣と同じ扱いをしてもらっているので連れていけるが、星伍たちは森鬼、スピカとお留守番。

午餐会の会場にはパウルたち執事組も入ることはできるが、壁際で待機することになっている。

護衛の面が不安だとパパンが言っていたが、あの地獄絵図を作った本人がいるのに何を言ってんだかと呆れた。


「悪い人が乗り込んできても、おとう様がいるから大丈夫だよ!」


「ネマのことは私が必ず守るからなっ!」


力強く抱きしめられて苦しかったけど、パパンの気持ちはとても嬉しい。

パパンがぎゅっとしたせいで、私の衣装に皺がつくでしょってママンがちょっと怒ってたけど。


そのやり取りを思い出して、ちょっと緊張が解けた。

ライナス帝国の面々が先に入場し、その次は王妃様とヴィ。パパンとママンのあとに、ジーン兄ちゃんと私が呼ばれる。

午餐会のエスコート役にはジーン兄ちゃんがついてくれたのだ。


会場の一番奥にミルマ国王族の方々の席があり、招待客の席は各国ごとに大きな長いテーブルに用意されていた。

テーブルの上には、綺麗にカトラリーがセッティングされているが、それよりもまず目が釘づけになるものが!


「……魔石?」


私は驚きながらも声を抑えて呟いた。

前世では、テーブルの上のアレンジって生花を飾って、可愛らしい形に折られたテーブルナプキンが置かれている場合がほとんどだった。

友人の結婚式の披露宴くらいしか経験なかったけどさ。

こちらの世界もほぼそれに近い。

つまり、テーブルの上には生花が飾られているのが普通なのだが、このテーブルの上にはシャンデリアな魔道具の光を受けて、キラキラと輝く芸術品が飾られている。


「人工魔石の生産と加工はミルマ国の主要産業だから」


隣のジーン兄ちゃんがそっと教えてくれた。

確かに、主要産業で国力を見せつけるにはもってこいの舞台。

いやいや、それにしても凄いよ!

一つの魔石から切り出したものもあれば、小さな魔石を複雑にカットして組み合わせたものもある。

モチーフもお花だったり、聖獣のミニチュアだったりと、たくさんあって全部鑑賞したいくらいだ。

ちなみに、私たちのテーブルはお花だった。王妃様がめっちゃ喜んでいる。自分の部屋に飾りたいとまで言っているので、もしかしたら購入する気なのかも。


全員の入場が終わり、着席すると、宰補さんが女王陛下の入場を告げる。

どうやら、また宰補さんが司会進行役みたい。

女王陛下と王配様が席の横で一礼する。

私たち招待客は着席のまま、その礼を受けるのだが……私はそれが落ち着かない。

ガシェ王国では立って迎えるのがマナーだから。

次に、第二、第三王女様が入場し、王子様が続く。太王母夫(たいおうぼふ)両殿下のあとに、本日の主役である第一王女様もとい、王太女殿下が入場された。


さて、ここからが長いぞ!ずーっと挨拶が続くからね。

女王陛下の挨拶、王太女殿下の挨拶、各国代表のお祝いの言葉……。

ライナス帝国は先帝様が、ガシェ王国は王妃様がお祝いの言葉を述べた。イクゥ国は外交の一番偉い人らしい。

イクゥ国は獣人が多い国だと習ったが、テーブルに座っている人は全員人間だった。

それから小国家群の国々へと続き、私は飽きた。

なんで行事でスピーチする人って長々と話しちゃうんだろう?

スピーチは端的にわかりやすく!これ大事!!


挨拶が終わったら乾杯して、ようやく食事がスタートだ。

午餐会の食事も中華風なものだろうと期待していた。

この大きなテーブルに満漢全席みたく、たくさんの料理がズラーッと並ぶ光景はさぞ圧巻だろうと。

配膳係の人が王妃様やヴィの前にお皿を置いていくのを見てがっかりした。

まさかのフルコース方式だったよ……。

そして、自分の番になり、お皿の上の料理を見て首を傾げそうになった。

前菜なので、量が少ないのはわかる。

だが、この料理は一口サイズの小さい料理が十種類ほど載せられていた。

彩りも様々で、卵っぽいものや煮凝りっぽいもの、野菜の漬物っぽいものもある。


前菜が行き届くと、王太女殿下がグラスを掲げて『楽しいひとときを』とお決まりのセリフを言い、会場内に音楽が流れ始めた。

これ以降はおしゃべりをしても問題ないので、早速ジーン兄ちゃんに料理のことを聞いてみる。

ジーン兄ちゃん曰く、ミルマ国独特の文化らしい。慶事(けいじ)正餐(せいさん)は、料理のメニューが多ければ多いほどよいとされているので、少しずつ楽しめるようにどんどん小さくなっていったそうだ。

なるほどと、ジーン兄ちゃんの説明を聞きながら、気になっていた煮凝りっぽいものを口に入れる。

予想していた味とは異なり、酸っぱくて口がもにょもにょしてしまった。

卵っぽいものは、だし巻き卵みたいで美味しかった。

一番感動したのは、五目ご飯っぽいものが出てきたことだ。

ミイの実をたくさんの具材を入れて炊いたもので、味はちょっと薄め。でも美味しい!

今まで、こっちの世界の食事に不満とかなかったんだけど、本格的に和食の食材を探してもいいかもしれない。


「ネマはミイの実が相当気に入ったようだね」


五目ご飯もどきをもりもり食べる私を見て、ジーン兄ちゃんがそう言った。


「うん!いろいろな調理方法で美味しい料理になるのがすごい!」


お粥だけでなく、チャーハンもどきやおはぎもどきにも使われていたミイの実。

つまり、白米と同じくらい様々な料理に応用できるはず。

さらに、醤油と味噌があれば完璧だ!

ライナス帝国に戻ったら、いろいろと実験してみようかな?


それにしても、品数多すぎない?これで六皿目で、一皿に十から二十種類ほどの一口料理が載っていた。

さっきのミニ点心セットは目でも楽しめたけど、メイン料理はまだか!?

七皿目……魔蟲(まむし)の食べ比べセット!

甲種(こうしゅ)跳種(ちょうしゅ)飛種(ひしゅ)剣種(けんしゅ)幻種(げんしゅ)、全部揃っている。

甲種と跳種は、レニス近くの森で捕まえて、コボルトたちと一緒に食べたことがある。エビやカニみたいな味だった。

初めて食べる飛種は貝みたいな歯応えがあって、剣種はタコやイカみたいな弾力があった。

そして、本当に食べられるのか疑問だった、毒を持つ幻種。

幻種の毒は外側、魔蟲の表面に粉状でついているものなら食べられるんだとか。


「幻種の毒粉は、幻覚や幻聴、あとは酩酊感を起こすもので、そこまで害はない。たまに、嘔吐や下痢に当たることもあるけど」


ジーン兄ちゃんはどれも経験があるらしい。

しかし、食事中にその話題はやめてくれ!聞こえた人の食事の手が止まったよ!!


毒の不安を押しやり、幻種のお肉を口に……。

こ、これは!!

他の魔蟲は魚介類もどきだったのに対して、幻種の味はチーズっぽい。

歯応えのもきゅもきゅした感じが相まって、モッツァレラチーズ!!

魔蟲もあっという間に食べ終えてしまった。

その後、メインのお肉、食後のデザートセットまで堪能し、私も寄生している(こく)も大満足だ!


午餐会が終わると、会場を変えて交流タイムとなる。

でも、自然と男女に分かれ、女性はテーブルでお茶を飲みつつ、男性はお酒を手にして立ったまま談笑していた。

ミルマ国の王族ももちろん参加しているが、その中に第二、第三王女様の姿はない。

国の面目を保つために、立太子の儀と午餐会にだけ参加させただけのようだ。


私とお姉ちゃんはパパンの要望により、挨拶回りには同行せず、端っこの席で大人しくお茶をしている。

ウルクがいい感じに人避けに役立ってくれているので、交流会が始まってしばらくしても、私たちに話しかけてくる人はいなかった。

お姉ちゃんとまったりしながら、途切れることなく話しかけられているお兄ちゃんを眺めたり、胡散臭い王子様スマイルを浮かべたヴィの愚痴をお姉ちゃんと楽しんだ。

サチェとカイディーテはどうしているのかなと会場を探すと、先帝様たちはイクゥ国のお偉いさんたちに囲まれていた。心なしかカイディーテの機嫌が悪そうなんだが……。


その後、挨拶回りを終えたママンと合流し、他国のご夫人方のテーブルへ連行された。

お上品な会話って疲れるね。

でも、パスディータ国の侯爵夫人のお話は楽しかったなぁ。皇太后様の母国なんだって。

今は天災続きで収穫量が落ち込んでいるけど、天災にも強い作物を研究しているんだとか。

品種改良のノウハウがあるなら、技術協力とかできないかな?


やっと一連の行事が終了し、離宮に戻ったときにはもうヘトヘト。

またもやお風呂でうたた寝してしまい、スピカに怒られてしまったよ……。


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