ちょっと大変なことがおきました!
まぁ、案の定、ほっぺたの件はちょっとした騒ぎになりました。
侍女に見つかって、マージェスに話が行き、パパンに報告され、パパンが部屋に押しかけて来た。
直前までアンリーが部屋にいたことまで報告されてたから、パパンが大激怒。別に怒るのはいいんだけどさ、私の部屋を焦がすの止めてよね。ノックスがビビっちゃったじゃん!
とりあえず、パパンには事情を説明して、まだガチンコ勝負の途中だから、手は出すなって釘刺しておいた。
そしたら、仲間外れにされたと思ったのか、急に凹んだ。
ごめんよ、パパン。パパンに言うと、こういう感じでめんどくさいでしょ?だから黙ってたんだよ?別にパパンが嫌いっていう訳じゃないからね?
という気持ちを込めて、項垂れたパパンをよしよししておく。
ついでに、アンリーをクビにしないでとも付けたしておく。
だって、こっちからクビにしたら体裁悪いでしょう?アンリーから辞めたいって言ってもらわないとね。
「ネマもセルリアに似たな…」
まーね。
私もちゃんとお母さんの子だったね。
一応形として、アンリーにはパパンが軽く抗議しておきました。
辞めるっていうかなって思ったけど、謝罪をして家庭教師は続けると言ったそうな。
ただし、日数は減ったよ!
年も越して…あ、ガシェ王国は秋の建国記念日が一年の始まりなの!
王都中を王様たちがパレードして、国中でお祭りをやる。
私は行ったことないんだ。あまりにも人が多すぎて、危ないから。お祭りってさ人多いから歩けないし、スリとかもいそうだし、迷子になりそうだし…。
ギゼルたちの雄姿、見たかったなぁ。
5歳になり、春になると、パパンが領地視察に行くことになった。
ダメ元で私も行きたいと言ったら、あっさりとOKが出た。
拍子抜けというか不気味。パパン、変なこと企んでないだろうな!?
「北方領の視察にご同行されるとか」
「はい。おとー様がおゆるしになるとはおもわなくて、少しおどろきました」
相変わらず、アンリーの前では猫をかぶっている。
あの一件以来、アンリーは体罰をしなくなり、教えてもらう内容も、作法からお稽古事に移っていった。
テーレっていうヴァイオリンに似た弦楽器は、あまりにも才能がなさすぎて断念。ピューレっていうピアノよりはチェンバロに似た鍵盤楽器に変更した。これはまぁ、うん、そこそこ?それより、打楽器はないのか!打楽器は!!
あとは乗馬だね。これは早く一人で乗れるようになりたいから、レスティンとワズにも協力してもらってる。
他にも、冬は刺繍や編み物を、春になるとお花の生け方を教わった。
刺繍や編み物は正直楽しかった。
単純作業の繰り返しって、集中するとトランスみたいな状態になって、覚めたときに頭がスッキリするんだよね。
生け花はねぇ、よく独創的と言われます…。
どうも、芸術の才能は皆無のようです!
「では、宿題を出しますので、次回お会いする時に提出して下さい」
宿題!!
領地に行って、動物たちのもふもふ満喫しようと思ってたのに!
「…しゅくだいとは?」
「領地を視察してみて、思ったことや感じたことを文章にして下さい」
つまり、感想文を書けってことですね!
もっと難しいこと言われるのかと思ったよ。
「お父様について回って、視察した所をどう改善すればいいのかなど、具体的にお願いしますね」
えっ!…アンリーめ、パパンとグルか!!だからパパンも、ああも簡単に許可したんだな!
「ぐたいてきにですか…それはおもしろそうですね!」
なんて思うわけないでしょう!私の癒しもふもふタイムを返せー!!
さて、アスディロンの最大の大陸であるラーシア大陸。形は蝶々に似ている。
その大陸の四分の一もの面積を有するのが、我が国ガシェ王国である。
東にあるワイズ領は、鉱山を始めとする様々な資源に恵まれた地域。硬貨の製造や陶器、ガラス、銀食器などの工房も数多く、工業の特色を持つ。
西にあるミューガ領は、海に面していて、さらに領地を横断する大河が流れている。そのため、貿易と物流による商業都市の機能と水産の特色があり、裕福な平民も多い。
南にあるディルタ領は、気候が穏やかで、麦や野菜といった農耕に、牛や豚などの畜産の農業が特色。
オスフェ領は北にあり、領地の三分の一が山岳地帯。寒さも厳しく、めぼしい産業がないため、人々はあらゆる手段で糧を得る。山沿いでは木材加工、平野では酪農、王都よりでは寒さに強い作物や花の栽培。
パパンから説明されて、私は北海道をイメージした。発想が貧弱だと思わなくもないが、寒い地域でも各産業が発展してるっていったら、北海道とか東北しか思い浮かばなかったよ。
海産物はないだろうけど、ご飯、美味しいといいなぁ。それに、寒い地方って珍しい動物も多いんだよね。
パパンと向かった先は王宮。そこでパパンの部下二人と合流して、転移魔法で移動するみたい。
この世界の魔法は、詠唱魔法と文様魔法とゆーのがある。詠唱魔法は、呪文を唱えて魔法を発動するやつ。文様魔法は、魔法陣やお札を使ってキーワードとなる単語を言えば発動する。呪文を唱えてなくていいし、魔力の消費も抑えられるという利点はあるものの、準備が大変なので大がかりな魔法にしか使用されないんだって。
で、転移魔法はその大がかりな魔法の一つ。
王宮には転移魔法用の設備があって、主要都市を繋いでる。
パパンに連れられて向かったのが、その設備があるお部屋。部屋っていうか、地下室みたいだけど。
体育館くらいの高さと広さがあって、真ん中に石でできた台がある。あれに魔法陣が描かれているようだ。
四方には宝玉が置かれているけど、一カ所だけ抜けている。そこに、行く先の魔法陣に置いてある宝玉と対の物を置くことで、発動する仕組みなんだって。
対の宝玉は別の部屋で厳重に管理され、その管理も専任の魔術師が行っている。
ちなみに、この装置を作ったのは、サザール老なんだって。あのおじいちゃん、何気に凄い魔道具とか作ってんだよね。
パパンが魔術師の人と話してる隙に、ちょっと魔法陣覗いてこようっと。
魔法陣の台に近づいて、まじまじと見てみる。
魔法陣は石の台に彫り込んであって、すっげー細かい模様が複雑に配置してある。
これ彫った人、マジで神技だわ…。
触ったらなんか起きそうだから、触らないでおこう。私一人でどっかに飛ばされたら、野垂れ死にしそうだ。
「ネマ、そろそろ行こうか」
はいはーい。
パパンに促され、いそいそと台に上がる。
なんかドキドキしてきた!
「では頼む 」
「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」
魔術師さんがお辞儀をして、宝玉を台にはめ込む。
すると、魔法陣が輝き出し、キラキラと光る粒子みたいなのが舞う。
おぉ!ダイヤモンドダストみたいだ。でもこれ、体に害はないよね?
「アーセンタ!」
パパンが発動の単語を唱えると、キラキラ粒子の量が増え、眩しくて周りが見えなくなった。
それでも、転移の瞬間を見たいがために、目を細めたり、手で影を作ってみたりしてたんだ。キラキラ粒子が徐々に収まると、すでに転移は終了。
ちぇっ。なーんにもわからなかったよ。ただ眩しいだけで終わっちゃった。
「お待ちしておりました」
そう言って出迎えてくれたのは、領地で働いているパパンの部下かな?
六人いるけど、知ってる顔はいないな。
「今回は娘のネフェルティマも同行する。よろしく頼む」
「じじょのネフェルティマです。おせわになります」
スカートを軽く持ち上げ、膝を少しだけ折る。肘と膝を曲げる角度、動作の速度。幾度となく、鏡の前で練習し、身に付けた作法。大丈夫、完璧だ!
「これはこれはご丁寧に。この地域の代主をしております、ワーナス・ジルヴァでございます。ようこそ、アーセンタへ」
挨拶をしてきたのは、好々爺然としたおじいちゃん。
それより、アーセンタって地名だったのか!
ってことは、オスフェ領ジルヴァ代アーセンタってことか。
転移装置があるってことは、かなり大きな街なんだろうな。
早く外に出たーい!
「デールラント様、馬車の用意は済んでおりますが、すぐに向かわれますか?」
「あぁ。陽があるうちに着いておきたいからな」
「畏まりました。どうぞ、こちらへ」
こっからさらに馬車で移動するの?陽があるうちって、結構遠くないかい??
ワーナスに先導されて、建物内を移動する。
内装はそこそこ華美だけど、堅固に造られていて、ゴーシュじいちゃんの砦屋敷みたいだ。
玄関の広間までくると、パパンがコートを着せてくれた。
厚手で裏地に動物の毛を使った、真冬用のしっかりしたやつ。
…今、春だよね?うん。私の誕生日が過ぎてるから、暦の上では春だな。間違いない。
なのに、真冬装備って、お外どんだけ寒いのさ!
執事さんが扉を開けると、雪が舞ってました。
いやぁぁぁーー!寒いさむいサムイーー!!むりむりむりぃぃぃー!!!
あまりの寒さに、パパンにしがみ付く。
全身に鳥肌が立ち、震えからカチカチと歯が鳴る。
風が尋常じゃないくらい冷たい。冷たいどころか、もはや痛い!
私の寒がりようを哀れに思ったのか、パパンが抱き上げてブツブツ何かを呟いている。
自分の歯の音が煩くて、何言ってるのか聞き取れなかったけど。
にしても、なんでパパンたちは寒がってないのさ!!
…あれ?寒くない??むしろ温かいね。
コタツに潜り込んだときのような至福感に包まれて、ほっと息をつく。
「もう寒くないだろう?」
パパンに尋ねられ、コクコクと頷く。
ひょっとして、これも魔法ですか?前にソルが使ってたやつと同じかな?
ってことは…ソルに頼めば寒さ知らずじゃん!!いいこと知った。
地獄のような寒さから解放され、意気揚々と馬車に乗り込む。
ついでにノックスを籠から出し、同じ魔法をかけてもらう。
レインホークは北には生息してないからね。まだ冬毛のままだけど、念のため。
ワーナス以外五人と、パパンと部下二人と私。総勢九人は二台の馬車に分乗した。
馬車は頑丈そうで、雪国仕様みたい。
馬車に乗ってかれこれ5時間経過しました!
景色を眺め、休憩のときに雪で遊び、疲れたら寝て、また雪で遊んでって繰り返してたら、意外とあっという間でした!
で、着いた先は寒村というに相応しい、すたれた村。…周りは森だけ!ここ、どこよ?
パパンは村長らしき人に、めっちゃ感激されてる。
よくわかんないけど、まずはノックスを飛ばそう。ここら辺の地理を把握させるのと、ストレス発散のためにね。
「ノックス、『おさんぽ』行っておいで」
この『お散歩』は、拠点から一定範囲を巡回してきなさいっていう指令。念のため、隠語を使ってる。そうした方がいいって、レスティンが言ってたから使ってる。
ノックスが森の方に消えて行くまで見届けて、私も村を勝手に散策してみる。
お家の数は20世帯ほど。どれも、茅葺屋根のように干し草を使ったお家だ。
あと、不思議なことに、雪が積もっていない。地形の影響なのか、それとも別の要因があるのか。パパンなら知ってるかな?
「ネマっ!」
まだ全部見てないのに!
ま、いいか。どうせ、今日はここで一泊するんだろうし、また明日にしよ。
村長さんのお家にお世話になるそうです。でも、全員は泊まれないから、何人かは他のお家に泊まるらしい。
夜ご飯は、猪鍋!もちろんお肉はジャイアントボア!ちょっとクセがあるけど、それがお汁とマッチしてて、大変美味でした。
帰ってきたノックスにご飯いるか聞いたら、ちゃっかり狩りしてお腹いっぱいだって。
ご飯食べてるときのノックス、超可愛いから見たかったのにな。残念。
寝床はパパンと一緒のベッド。
本当は村長夫妻のベッドなんだろうけど、お言葉に甘えて使わせていただきます!
パパンはまだ書き物してるから、先に寝るね。
なんか変な声が聞こえる。
ちょっと気になったので、もぞもぞと起きてみた。
ん?もう朝なんだ。よく寝たなぁ。
「…うぅ…」
そうそう。この変な声!っていうか、呻き声?
キョロキョロと周りを身回して、現状を把握してみる。
…あっ………。
パパンを下敷きにしてた!
呻いてたのはパパンでした。そして、私が寝ていた場所には、ウサギさんが横たわっている。
あれ?私って寝相悪かったの??
んー、でも、もう起きる時間だからいいよね。
「おとーさん、おきてー」
揺さぶってみるけど、起きてくれない。いまだにうなされてるけど、なんの夢見てんのかな?
しょうがないなぁ。
鼻を摘まんで、口を手のひらで塞ぐ。
いーち、にーぃ、さーん、しーぃ、ごーぉ、ろーく、しーち、はーち…。
あ、起きた!
「ぐはぁ…はぁ…。ネマ?」
「おはよーございます!」
状況が掴めてないのか、それとも寝ぼけているのか、パパンはまだボケっとしてる。
呼吸を妨害して起こしたのには気づいていないのかな?
「あぁ…お早う」
「ごはんー。おなかすいたー!」
早く着替えてご飯行こう。
パパンを急かして、居間に向かう。
この村の家って、何か和風っぽいんだよね。田舎のばあちゃんち風とでも言えばいいのか、懐かしい感じがする。だから、リビングっていうより、居間の方がしっくりくる。
さて、朝ご飯は昨日の鍋の残りで作ったおじや。お米じゃなくて、雑穀で作ってあるけど、マジうま!!
この骨付き肉がポイントですね!決して手抜き料理じゃないよ。骨があるってことは、灰汁をこまめに取らないといけないからね。
「…おかわりしてもいいですか?」
注がれた分がなくなったので、村長夫人にお伺いを立ててみる。
「こんな田舎料理、お口にあってよかったわ」
おかわりしたのが嬉しかったのか、村長夫人は笑顔でよそってくれた。
「おば様のごはんはおいしいからだいすきです!」
「まぁ!嬉しい!じゃあ、とびっきり美味しいお弁当を用意するわね!」
「やったー!」
ん?お弁当??
万歳の格好のまま、首を傾げる。
「今日は森の中に入るからな。ネマはお留守番と言いたい所だが…」
一緒行くに決まってんじゃん!置いてかれたって、あとつけちゃうようだ。
誰かが監視してても、ソルのチートな魔法があるから、どうとでもできるもんね…たぶん。
「危険が伴うことだから、私の言うことをよく聞きなさい」
パパンから説明されたのは、ここ最近、この地方一帯で魔物の被害が多発しているとのこと。
退治するために騎士たちを派遣しているが、一向に減らない。そのため、砦を造り、騎士を駐屯させようってことになった。
今回は砦を造る候補地と森の現状を調査しに来たっていうことだった。
んー、おかしいな?
パパンなら、そんな危ない場所に私を連れていくわけないと思うんだ。
どんな意図があるのか…。
「おとー様、私をつれてきたりゆうは?」
クソな理由だったら、お母さんに言いつけるからな!
「…すまないが、ネマには炎竜殿の仲介を頼みたい」
は?ソルへの仲介ってどういうこと?
ソルに魔物退治してもらいたいってことかな?それは止めておいた方がいいよ。まぁ、森がなくなってもいいなら別だけど。
「炎竜殿なら、魔物にも詳しいだろう。原因の手がかりになればと思っているんだが…」
あーね!ソルは生きてる百科事典…じゃなかった、生きる歴史辞典だ。
何か知ってるかな?
「そういうことなら聞いてみます」
目を閉じて、いつものようにソルの姿を思い浮かべる。
―ソルー!ソルさーん!ソル様ー!
―…そう何度も呼ばずともよい。
いやいや、ノリは大事だからね。ノリは!
―あのね、今、お父さんの領地視察に付いて来ているんだけど、魔物の被害が頻発しているんだって。何か知ってる?
―魔物か…。して、場所は何処だ?
あ…今更だけど、ここがどこか知らないや。
「おとー様、ここってどこですか?」
パパン、何で知らないの?みたいな顔はやめて。知らないものは知らないし、ただ昨日聞くタイミング逃しちゃっただけだから!ご飯食べるのに忙しかったの、私は!!
「ジルヴァ代のイカフっていう村だ。針霜の森と言えばわかるだろう」
パパンから教えてもらったことを、ソルに伝えてみる。
すると、ソルも驚いていた。
針霜の森には魔物はほとんどいないらしい。いたとしても、スライムや縄張り争いに負けて山から下りてきた個体だとか。
「まもののしゅるいは、何がいたのかな?」
何事にも、先立つ物は情報!
お父さんがいるからと安心して、今回の領地視察に関しての情報をまったく調べなかったことは反省してる。
「一番報告が多いのはゴブリンだな。あとはコボルトと、稀にフローズンスパイダーか」
ふんふん。ゴブリンとコボルトは定番中の定番ですね。フローズンスパイダーっていうのは、雪国固有の蜘蛛でいいのかな?
とりあえず、それもソルに伝えておく。
ソル曰く、ゴブリンもコボルトももう少し南に生息しているものらしい。
ざっと聞いた感じ、今のところ考えられるのは四つかな。
一つ、爆発的に繁殖した。繁殖する要因としては、豊富な餌と天敵となる肉食生物がいないこと。
でもこれは、ソルによって否定された。
二つ、天敵の肉食生物から逃げてきた。ゴブリンとかが生息する地域で、天敵の肉食生物が繁殖したため、北へと逃げてきた。
これについては、他の領地で魔物被害が増えていないため、お父さんに否定される。
三つ、人為的によるもの。可能性としては低いけど、人の手によってかき集められた。
四つ、神様のせい。私としては、これが一番ありうると思う。
神様説を言ったら、なんのためにって問われたけど、それはほら、あれだから。しかも、神様は前科持ちだしね。
パパンの部下さんたちも参加して、みんなでああでもないこうでもないと話し合うこと一時間。
結局、可能性を一つずつ潰していく消去法をとることになった。
人為的なものであれば、何かしら証拠が残ってるだろうしね。
村長夫人の美味しいお弁当もできたことだし、早速森に出発進行ー!!
と、その前に。ちゃんと装備をしなきゃだね。
私は王様夫婦からもらった魔石のペンダントを着けて、ゴーシュじーちゃんからもらったナイフをウサギさんのお腹に収納。
パパンとパパンの部下さんたちは、それぞれ武装している。
その装備で気づいたんだけど、アーセンタで合流した五人は騎士だったよ。王国騎士団第一部隊北方領統括隊というとこの所属らしい。
パパンの直属の部下は二人だけだね。…人望ないのかな?
村で猟師をやっているおじさんが、森の案内役として付いて来てくれた。
今歩いているのは、辛うじてわかるくらいの獣道。少しでも脇にそれたら、迷子確定だなこりゃ。
ノックスは上空を旋回して、進む方向に異常がないか見てくれている。けど、結構木が密集しているから、上空からじゃわからないと思うんだが、鳥にはわかるのかな?んー、タカは目がいいって聞くけど、ノックスちゃんと見えてる?
さらに進んでいると、ガサッと葉擦れの音がした。私たちが立てたものじゃない。
側にいた騎士さんが剣を抜き、藪というか背の低い木をスパッと斬ってしまった。
おいおい、人だったらどうすんだ!と思いつつ、隙間から様子を覗いてみる。
そこには怯えた毛玉が一個。
動物なんだろうけど、毛が長すぎて種類がわからない。
「ウサギでした」
騎士さんがパパンに言った言葉にびっくり!
ウサギなのかこれ!!ウサギって言ったら、ネザーランドドワーフとかジャパニーズホワイトとか、短毛で耳がピンとしててお鼻ヒクヒクでしょ!
あ、毛皮とかに使われる品種かな?チンチラじゃなくて……思い出せないや。
てか、動かないけど、この子大丈夫かな?
周りに危険がないことを確認して、ウサギに近寄ってみる。
「だいじょうぶ?」
声をかけて触ろうとしたら、ウサギはビクッとして逃げた。
…逃げた!この私から逃げた!!
あまりの衝撃に、一瞬ほけっとしてしまったが、後ろに人の気配を感じて我に返る。
そうだ、こいつらがいたんだった!
いつもダンさんとかレスティンが側にいたから全然気にしてなかったけど、野生の動物は敏感だから騎士にビビったんだ!!
「血の臭いで魔物がよってこないうちに、ここを離れましょう」
血の臭い?
ウサギがいた場所に、わずかだが血痕があった。
さっきのウサギ、剣で怪我しちゃったの!?
衝動的に走り出す。
ダメだと理性ではわかってるんだよ。でも、怪我した子をほっとけない!
「お嬢様!」
「ネマ!?」
ごめんなさーい!頑張って、あとを追って下さい。できれば、殺気を出さずにお願いします。
ウサギが逃げていった方に全力疾走する。連れ戻される前に、あの子を捕まえておきたい。
後ろから、お嬢様!っていう呼びかけやガサガサって音とガチャガチャって音がする。
…なんか、コワッ。追われる者の心理作用なのか、音が恐いよ!
でもま、迷子にはならなくてすみそうだ。
って、発見!!
ウサギは怪我のためか、そう遠くへは逃げていなかった。
「こっちにおいで。けがのてあてしよ?」
怪我しているのに走って逃げたせいか、長い毛に血が染みている。
ウサギは怪我を庇うようにひょこひょこと近づいて来てくれた。
よかったぁ。一瞬能力がなくなったのかと思ったよ。
ウサギをそっと抱っこして、来た方向へ引き返そうとしたときだった。
ガサガサっと音がしたので、騎士さんたちが追いついたと思って振り返る。
「ギギッ?」
あっちゃー。
私ってば、神様に愛されてる!
って、ちがーう!!
遭遇したのは、私より少し背の高い緑色の魔物。ゴブリンさんですね。
ゴブリンさん、腰に布巻いてるだけの南国ルックなんだけど、見てるだけで寒い!!ここ、北国だよ?いくら魔物でも、それは寒いでしょう!
なんてゴブリンを観察していた私は馬鹿でした。今なら誰に馬鹿と言われても認めます。私は馬鹿です!
ゴブリンは単独ではなく、チームで狩りをしてたのか、私の後ろに何匹かいた模様。
いきなり後ろから、ガバッと何かを被せられ、身動きが取れないまま、えっちらおっちらとどこかに運ばれている。
くそー!早くウサギの手当てしたかったのにぃ。
神様によって無理矢理立てられたフラグにより、私ネフェルティマはゴブリンに拉致られました。
パパン、やっぱり神様の仕業だよ!
っていうことで、ゴブリンの巣まで行ってくるから、救出してね!
ソルに頼むのは最終手段に取っておくからさ。
結構長くなっちゃいましたf^_^;)
相変わらず暴走ぎみなネマです。パパンだとネマを抑えられないですね。やっぱりママンじゃないと。