踊る族長会議! 後編
族長が勢揃いした会議は、オム族の進退問題から遺跡の現状についての話に変わった。
進行役が凄く大変そうなので、臨時ボーナスをあげるべきだと思う。
カイディーテが遺跡を埋めて、針の岩山に変え、さらには精霊によって人が立ち入れないようにされたと告げられると、ミルマ国の人々は悲嘆した。
あれだけ女王陛下や王女様に声を荒らげていた人たちが、一気にお通夜みたいに……。
富士山が消えて、まったく違う外観の山が出現したけど、危険だし、妖怪も出るから立入禁止!ってなったら、日本人のみなさんもこんな感じになるかも。
……いや、一部ははっちゃけて、炎上するな。
ミルマ国にも、精霊に悪戯されたいっていうマニアックな人や命知らずな人がいそう。
遺跡の場所は秘匿されていても、一瞬にして形が変わった山があれば、気づく人は気づく。
そして、人々の噂となり広がっていくだろう。
それが国の負担にならなければいいけど。
「ここからが本題なのですが、聖地には遺跡を荒らすならず者たちがおりました」
進行役がそう切り出すと、厳つい武官のような人と対照的な線の細い女性が出てきた。
「そのならず者の一つは、今問題になっている盗掘集団に関わりがある者たちと思われます。遺品などから関連を調べる方針です」
厳つい武官さんが、ドラマの捜査会議のように述べる。ひょっとして、盗掘事件の責任者なのかな?
「遺品とはどういうことだ?身柄を確保できなかったのか?」
質問を投げかけたのは、イケボではない族長さん。
「それが……」
武官さんがチラリとこちらに視線を向けた。
ん?私?
「聖地の内部にはムシュフシュが棲みついており、その被害に遭ったようです」
あ、私じゃなくて、ウルクを見ていたのか。
武官さんの言葉で、ミルマ国の人々から視線を浴びるウルク。
しかし、ウルクは我関せずとでも言うように、チロッと長い舌を出しただけだった。
ヘビが舌を出すときの顔、可愛いよね!
もしかして、怯えるミルマ国の人たちに、自分はこんなに可愛いんだぞっていうアピールだった?
舌ペロも可愛い!お手ても可愛い!尻尾の先にスライムをくっつけているちょっとお間抜けな感じも可愛い!この子、最高でしょ!!
きっと、ウルクの素晴らしさが伝わったに違いない。
「もう一つはドワーフ族です」
「ドワーフ族については私から説明いたします」
武官さんから線の細い女性にバトンタッチ。
彼女は魔法の研究をしている部署の偉い人だった。
「ドワーフ族が聖地を訪れた理由は、古代建築と古代魔法の研究のためです。彼らは聖地以外の遺跡も調査しており、彼らがまとめた情報はとても素晴らしいものでした!」
研究者のお姉さん、思い出して興奮したのか、どんどん鼻息が荒くなっているよ!
「この貴重な情報を国外に流出させないために、ドワーフ族の保護が必要です!」
お姉さんの熱い思いとは裏腹に、族長たちの反応は芳しくない。
まぁ、突然ドワーフ族ですって言われても、半信半疑になるのは仕方ないと思う。
しかも、そのドワーフ代表で来ているのが姐御さんだからなおさらにね。
伝説のドワーフ!というより、どこからどう見ても男の人だもの。
「その情報とやらのためだけに、国で保護する必要が本当にあるのか?」
「ちなみに、保護しなかった場合、情報はどうなるのかしら?」
族長さんたちから、次々と質問があがる。
お姉さんはそれに対して丁寧に返答していった。
ドワーフ族が持つ情報、つまり研究データがどれだけ価値のあるものなのか。お姉さんは、十年以内に魔法そのものが大きく躍進すると言った。
これに関しては、そういう見込みがあると曖昧にしか表現できないのだろう。
ドワーフがすべての研究データを渡しているわけないし、こんな研究やっていると見せたものも精査している段階のはずだし。
ドワーフ族をミルマ国で保護しなかった場合、ライナス帝国とガシェ王国が保護すると、すでに名乗りを上げているそうだ。
ライナス帝国にはラグヴィズたち野鍛冶流がいるのに、欲張りさんめっ!
ドワーフ族が他国に保護された場合、ミルマ国内の遺跡で取った研究データは提出してもらう。
姐御さんはこれを了承したそうだが、私は気づいた。
提出はするが、複製データがあるじゃないかと!
つまり、ドワーフたちはデータをコピーして他国で研究を続けられるというわけだ。
その研究成果をどうするかは、保護した国との交渉によるだろうけど。
どちらにしろ、ドワーフ族には損がない。
姐御さん、なかなか駆け引き上手だな?
「それでは、各族長は陛下へ申し上げを行ってください」
進行役がそう告げると、女王陛下に一番近くにいる族長、イケボのおっさんが立ち上がった。
「ソヌ族は、我が国でドワーフ族を保護すべきであると申し上げます」
族長たちは、保護するか否かを女王陛下に述べていく。
八人いる族長のうち、二人が保護すべきではないと言い放つ。そして、何人かはその理由も簡潔につけ加えていた。
最初はある種の多数決なのかなって思ったけど、どうやら違ったようだ。
「相わかった。ドワーフ族は我が国で保護いたそう」
女王陛下が宣言され、今日初めての拍手が起こった。
各部族の意見を聞いて、女王陛下が決断する。
多数派の意見が必ずしも採用されるわけじゃないと思うけど、みんなの意見を聞いた上で判断したという形式が重要なのかな?
それにしても、またもやドワーフ族の勧誘ができずじまいとは!
あといくつ流があるって言ってたっけ?
できれば、ラグヴィズのところのような、日用品を作れるドワーフをシアナ特区に招きたいなぁ。
ドワーフ族の勧誘が叶わず、ぐぬぬと悔しがっていたら、急に膝へ重みを感じた。
ディーが私の膝に顎を乗せ、心配そうにこちらを見つめている。
なんと破壊力のある上目遣い!可愛いしかない!
大丈夫だよと言いたいけど、お口チャックの命令がどこまで適用されているのか不明なため、目で気持ちを伝える。
あと、目の前にもふもふがあるのに、拘束されていて触れないなんて拷問だ!
「他に議題がなければ、今後のオム族について話し合うべきだと思うが、いかがだろうか?」
イケボのおっさん、ソヌ族の族長がそう切り出したので、私はなくなくディーから意識を外す。
「その前に、我々に少し時間をいただきたいのですが」
突然、ジーン兄ちゃんが割って入る。
進行役が女王陛下へ問い、女王陛下は構わぬと許可を下した。
ジーン兄ちゃんは礼を述べ、実は……と私たちが城下町見学に行った日のことを語り始めた。
「オスフェ家の子供たちをつけ狙う者がおりましたので、我らが捕えました」
つけ狙う者?
そんな不審者がいた記憶もなければ、あの場にいた誰かが捕物するところも見ていない。
「その者を尋問したところ、面白いことがわかりましてね」
ジーン兄ちゃんはもったいつけるように、間を取ってから爆弾発言を落とした。
「ネフェルティマを誘拐しろと、第二王女殿下から命じられたと言うのです」
うん、私もびっくりだわ!
第二王女様って、ヴィを狙っていた方だっけ?
「しかし、おかしいんですよ。第二王女殿下には、オスフェ家に手を出すとどうなるか、じっくりとご説明させていただいたので、このようなことをするとは思えないのです」
いったいどんな説明をしたのやら。まさか、国を滅ぼすぞって脅したりしていないよね?
「ですので、第二王女殿下を唆した者がいる可能性が高く、独自に調べておりました」
あ、パパンが言っていた一番悪い人って、その唆した人物のこと?
ジーン兄ちゃん、なんだか探偵みたい。事件をババンッと解決できるのか、お手並み拝見といこう。
ジーン兄ちゃんが部下の職員さんに何かを告げると、拘束された男が連れてこられた。
坊主だ!
拘束された男は丸坊主頭で、坊主頭の人を凄く久しぶりに見た。
そういえば、自然と頭皮が淋しくなった男性はそこそこいるけど、丸坊主の人はこちらで見た記憶がないな。
「ネフェルティマを誘拐しようとしていた男です。彼を知っている方はおられますか?」
ジーン兄ちゃんの問いに、みなが首を横に振る。
「トス族の族長殿、本当に知りませんか?」
指名された族長さんは、困惑した表情で知らないとはっきり答えた。
わざわざ族長を指名したってことは、この男はトス族の人間なのかな?
「皆様お察しの通り、彼はトス族です」
彼はある事情からお金が必要だった。そこをつけ込まれたらしい。
ジーン兄ちゃんはその事情とやらは言及しなかったけど、それも意味があったりするのかな?
「ディルタ卿の仰ることが本当ならば、第二王女殿下をこの場にお呼びした方がよいと思います」
トス族の族長はやや早口でそう訴えた。
彼の心境としては、あずかり知らぬところでいちゃもんつけられてる!?って感じだと思う。
実行犯がトス族だったことで、多少は疑いの目で見られているだろうし、元凶連れてこいやーって言いたくなっちゃうよね。
というわけで、第二王女様を連れてくるからちょっと待ってねと、小休止みたいな空気に。
ジーン兄ちゃんも席に戻り、パパンとひそひそ話を始めた。
何を話しているのか聞こえないかなぁとガン見していると、パパンが悪い顔してる……。ヴィよりラスボス感出てるよ!
あれは絶対、何かを企んでいる顔だ!
◆◆◆
ようやく第二王女様がお出ましになると、誰もが彼女を注目した。
私のとき以上にみんなの視線が鋭い。
それなのに、第二王女様は気にした様子はなく、泰然としているのが王族らしいね。
ジーン兄ちゃんが第二王女様に軽い自己紹介をしているとき、微かに風を感じた。
風が吹かない場所で感じる風は、ほぼ精霊の仕業だ。
風がした方を見ると、お兄ちゃんがパパンに耳打ちしている。
しかし、パパンは何も反応しない。
私が見ていることに気づいたお兄ちゃんが、そのまま黙っていてと言うように人差し指を自身の唇に当てた。
そのお兄ちゃんの仕草、素敵すぎる!
「早速ですが、第二王女殿下はここに呼ばれた心当たりはおありですか?」
ジーン兄ちゃんは問うたあと、一瞬だけパパンの方を見た。
何か、二人にしかわからない合図とか出し合ってる?
「ないわ」
第二王女様は扇で顔半分を隠し、そっぽを向く。
彼女は、いい意味でも悪い意味でもお姫様だね。
王女様ではなくお姫様。周りが自分に気を使うのは当然。権利を享受するのも当然。そう思っているのが態度からにじみ出ている。
でも、そのぶん単純で、騙されやすそう。結婚詐欺には気をつけて!
「では、あの者をご存じでしょうか?」
私に結婚詐欺の被害に遭いそうだと心配されているとは露知らず、第二王女様はチラッと見ただけで、知らないと答えた。
「そうですか。では、お付きの侍女殿はいかがですか?」
第二王女様から離れ、壁際で控えている女性へと視線が向けられる。
あ、魔力が増えるお豆を配膳した人、あの人じゃなかったかな?
その侍女も見たことありませんときっぱり答えた。
「正直に話していただけるなら、多少は大目に見ますよ?」
「変な言いがかりはやめてください」
「……殿下の方は任せて。今回は失敗しても問題はないみたいだから、お互い気楽にやりましょう」
ジーン兄ちゃんが突然変なことを言い始めた。
侍女は驚愕し、怯えるように体を震わせている。
「末の妹が大変な目に遭ったときに殿下が率先して動けば、ヴィルヘルト殿下もきっと殿下の素晴らしさに気づきますわ、と第二王女殿下に仰いましたよね?」
それが本当なら、私を誘拐しようとしたのは自作自演をするため!?
侍女は可哀想なくらい顔を真っ青にして怯えているけど、だからこそ、ジーン兄ちゃんの言っていることに信憑性が増す。
「なぜ僕が知っているのか気になりますか?」
えぇ、凄く気になります。
だって、誰かがそれを聞いていて報告した、もしくはチクったってことでしょ?
ガシェ王国の人間が聞いていたのなら、報告してもおかしくはないけど、王女様と侍女の会話を盗み聞きできる状況がわからない。
ありえるとしたら、王女様の周りの人間を買収したとかかな?
「幼い頃に言われたことありませんか?精霊様がいつも見ているよと」
悪戯した子供が大人に言われる常套句!
日本で言うところのお天道様と同じだけど、精霊様が見ているはラーシア大陸ならどの地域でも使われているフレーズだ。
「ま、まさか……」
「そのまさかです。精霊様が我々に教えてくださったのですよ」
……あれ?それだとおかしくない?
精霊たちは、私が狙われていたことを知っていたってことだよね?
それなら、大変だー!って騒ぎそうなのにね。
可能性があるとしたら、ヴィが握り潰したか。
王女様たちの輿入れを完全になくすために、あえて泳がせていたんじゃ……。めちゃくちゃありえそう!
「ディルタ卿、精霊様が教えてくれたということを証明できなければ、罪に問うのは難しいでしょう」
私がヴィの腹黒陰険さを再確認していると、ソヌ族の族長がそう訴えた。
そういえば、精霊が見えない者は契約者が精霊から聞いたと言っても疑うと、セリューノス陛下も言ってたな。
こういうことか!
「聖獣の契約者やエルフと関わりの薄い皆様が、そう思われるのも仕方がない。この場には、精霊の言葉を偽ることのできないエルフの方がいますし、改めてお聞きしてみましょうか?」
ミルマ国は聖獣の契約者は建国以来一人しかおらず、その契約者がいたのも二百年ほど前だ。
エルフ族との交流も最小限みたいだし、精霊に関する知識が少ないのだろう。
というわけで、ルシュさんに協力してもらい、族長たちから質問を受けつけることになった。
「では、その侍女が会っていた人物は誰か知りたい」
最初に質問したのは、あの超日本人顔の獣人さんだった。
「精霊様はここにいると仰っています。あそこの方です」
壁際に控えていた武官の一人を指差すルシュさん。
その武官は、違う違う俺じゃないと手を振って否定している。
「その武官が捕らえた男に指示を与えていたと?」
「はい。断られないよう、ご家族を人質に取っておられますよね?」
家族を人質って……。
私と同じく、ミルマ国の人たちは驚いていたけど、ジーン兄ちゃんが言っていたお金が必要な事情ってこのことか?
「その武官と侍女が繋がっていたとして、第二王女殿下に罪をなすりつけたかったのか?」
トス族の族長がわからないと困惑している。
いやいや、自分が仕える王女の立場を悪くする理由なんて、一つしかないでしょ!!
本当の主人の邪魔な存在だから!
「第二王女殿下が目障りだったんですよ。ついでに第三王女殿下も……」
「お前、よくもわたくしを騙したわねっ!」
第二王女様は、ジーン兄ちゃんがしゃべっているのも構わず怒鳴る。
今にも飛び出して、侍女を殴りにいきそうな第二王女様を第一王女様が必死に止めている。
「お前さえ!お前さえいなければ、わたくしはっ……」
ついには王配様に無理やり椅子に座らされた。
私からは彼女が泣いているように見える。
あの侍女のことを本当に信じていたとしたら、第二王女様の胸中はぐちゃぐちゃな状態だと思う。
彼女のことは好きではないが、それでもこの仕打ちは酷いよね。
第二王女様が第一王女様に慰められ、大人しくしている間に、ジーン兄ちゃんは話を進めた。
日頃からガシェ王国に嫁ぐと公言していた第二王女様に、取り返しのつかない失態を起こさせるのが目的だったと。
例のお豆事件もその一つ。それだけでも失態ではあったが、もう一押しという意味で誘拐を企んだのではないかと。
第二王女様のせいになればいいので、誘拐の成否は関係ない。だから、侍女はあの発言をしたのか。
「つまり、その侍女も誰かの手先だということか!」
トス族の族長さんがようやくわかったぞと言うように手を叩く。しかも、ちょっと嬉しそうだ。
侍女の本当の主人がパパンの言っていた一番悪い人なら、その正体は誰だ?
「王女殿下方を陥れ、あわよくばガシェ王国との友好に亀裂を入れようと企んだのは、ソヌ族の族長殿ですよね?」
……な、なんだってーー!!?あのイケボのおっさんが??
謁見の間にどよめきが走る。
「失礼ですが、それこそガシェ王国の企みではないのですか?そこのエルフは貴方たちが連れてきたのです。結託していることも考えられますな」
犯人はお前だ!をやられたわりには、とても冷静だな。逆にそれが怪しく感じる。
「それは聞き捨てなりません!たとえ、僕がガシェ王国と結託していたとしても、エルフである以上、精霊様の言葉を偽ることは絶対にないです!そもそも、精霊様へ質問したのは貴方たちでしょう。それなのに疑うとは……非常に不愉快だ!!」
ルシュさんがキレた!
姐御さんが慌てて宥めるも効果はない。
「エルフが述べた精霊の言葉を疑ったことについて、ライナス帝国からも抗議申し上げる!」
先帝様の宣言に、さらなるどよめきが起こった。
でも、先帝様が抗議した理由はなんとなく理解できる。
ライナス帝国の皇族にはエルフ族の血が混じっているし、宮殿でも多くのエルフたちが働いている。現に今も、エルフの警衛隊員が先帝様と皇太后様のお側についている。
そんな、自分に仕えている者たちを貶めるような発言は許してはならない、ということだ。
「精霊とエルフ族を信用できないと言うのなら、しっかりと調査を行えばよい。貴殿も、自身の潔白が証明されるのであれば、調査を厭う理由はあるまい」
先帝様にそう言われて、初めてソヌ族の族長の顔が歪んだ。
本来なら、証拠は糾弾する側が揃えるものだ。この会議が予定外だったから、まだ証拠が集まっていないのかも。
でも、本当にやっていないのであれば、刑事ドラマでも見かける、いくらでも調べろ!って状況になるよね?
「調査には協力しよう。しかし、彼らの無礼は許し難い!ソヌ族は晩餐会を欠席させてもらう!」
そう言って、イケボの族長はソヌ族を引き連れて謁見の間から出ていった。
本当に協力する気あるのかな?
「さて、面白い芝居ではあったが、君たちは少々強引だ。女王陛下へ配慮を忘れたのはよくない」
先帝様はパパンとジーン兄ちゃんに対して、そう苦言を呈す。
パパンたちは強引に進めた自覚があるようで、女王陛下に謝罪を述べた。
玉座に座る女王陛下は、最初にお会いしたときよりも弱々しい声で、構わぬと一言だけ。
連日のトラブルに、心身ともに疲弊しているのだろう。
「女王は休ませた方がよい。そちらのお嬢さんもな」
「お気遣いありがとうございます。しかし……」
王配様が女王陛下の代わりに返事をするが、各族長の方を気にして言葉を濁した。
「女王と同様に、族長殿たちも少なからず衝撃を受けておる。そんな状態では、的確な判断など下せまい。また日を改めるのがよかろうて」
先帝様の言うことはもっともだ。族長たちの中でも、最初に疑われたトス族の族長も疲れた表情を隠せていないしね。
「父上、ここは太上陛下の助言を受けるべきだ」
第一王女様も先帝様と同じことを思ったみたい。
王配様は第一王女様までそう言うならと、会議を後日に持ち越すことを了承した。
「本日は各部族の皆には、ただならぬ心配をかけた。このような空気のまま帰すのも我の本意ではない。本来ならこのあと、陛下主催の晩餐会の予定ではあるが、形を変えて懇親会とする。王族がいては語らえぬこともあるだろうから、皆だけで楽しむがよい」
第一王女様はそう告げると、第二王女様を介助しながら退出された。
それに女王陛下と王配様が続く。女王陛下が最後に、すまぬと謝ったのがとても印象に残った。
王族がいなくなると、場にはなんとも言えぬ空気が漂う。
各族長たちもどうするのか、近くの人と話し合っているようだ。
「失礼ですが、この中で犯罪者を拘束する権限をお持ちの方はいらっしゃいますか?彼らの身柄を拘束していただきたいのですが……」
ジーン兄ちゃんはこの空気に怯むことなく、侍女と武官の身柄を拘束するよう要求した。
それにより我に返った進行役が、盗掘事件の責任者と思われる厳つい武官に指示を出す。
やっぱりあの武官、警察のような組織の偉い人っぽいな。
侍女と仲間の武官、実行犯の男の三人が連れ出されると、ようやく息が吐ける雰囲気になった。
先帝様がもう大丈夫だろうと、皇太后様をエスコートして退室されると、王妃様とヴィも席を立った。
私は、魔道具による拘束が解除されているのを確かめ、ヴィに突撃する。
怒っていることを伝えるために、ヴィの足をバシバシ叩いた。
「……抱っこして欲しいのか?」
私を抱き上げるヴィ。
抱っこじゃなくて、怒っているんだってば!
伝わらないもどかしさをどうすればいいのかと悩んでいると、ヴィの方が先に気づいた。
「ユージンにしゃべるなと言われていたからか?もう終わったのだから、しゃべって大丈夫だぞ」
「あ、そうか……」
ヴィに言われて気づくとは……不覚!
「ヴィ、私が狙われているの、知ってたでしょ!知ってて放置したでしょ!!」
「よく気づいたな」
偉い偉いと頭を撫でられた。
「私は怒ってるの!ヴィはもう少し女性に優しくした方がいいと思うよ」
王子じゃなかったら、恨まれて女性に刺されるパターン待ったなしに違いない!
「ネマちゃんの言う通りね。貴方が動かずとも、ディルタ外務大臣に『彼女は王妃に相応しくない』と言えばよかったのよ」
王妃様にもダメ出しされて、ヴィは渋い顔になった。
「ヴィルはまだ子供なんだから、大人の手助けを受けることは恥ずかしいことじゃないわ。まったく、不器用さんなんだから……」
「くふっ……」
あ、我慢できずに笑い声が漏れちゃった。
さすがのヴィも、王妃様にかかると形無しだね!あのヴィが不器用さん……。
「笑っているだろ?」
「……ぷっ……はははははっ!だって……ヴィが……くふふっ不器用さん……あはははっ!」
「笑うかしゃべるかどちらかにしろ」
「じゃあ笑う!くふふふふっ!」
笑いすぎて、ママンからはしたないと怒られたのは言うまでもない。
部族の名前を間違えていました……。
誤字報告くださった皆様、ありがとうございますm(_ _)m




