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おかえりなさい!

ヴィに言われるがまま頭を下げたけれど、やっぱり気になる!

本当に女神様が降臨しているのか!!

ゆーっくり頭を上げると、あの女神像が不思議な光を放ち輝いていた。


『こちらに呼ばれるなんてずいぶん久しぶりだ』


女性の声はその女神像から聞こえてくる。


「本当にクレシオール様?」


『ネフェルティマも健やかか?』


私の名前を知っていることから、クレシオール様で間違いないかも。


「はい、元気です……」


びっくりしすぎてか、いつの間にか着ぐるみが消えている。

背中にうさぎさんリュックの感触があるってことは……元に戻った?


『ふむ。我を呼び出したのはヴィルヘルトのようだが?』


女神様に名前を呼ばれたヴィは平然としている。

姐御さんやルシュさんなんて、今にも気を失いそうなのに。

二人には、頑張ってとしか言えないけど。


「この遺跡に召喚の痕跡がありましたので、もしかしてという軽い気持ちでお呼びだてし、申し訳ございません」


ヴィの(へりくだ)った口調は物凄い違和感を覚える。

立場が上の皇帝陛下や先帝様にもちゃんと丁寧な言葉を使うヴィだけど、やっぱり身内の気安さがどこかにあったのか。

陛下たちよりもっと下に出ている。


『よいよい。しかし、よく方法を知っておったな』


「精霊を排除した空間にある巨大な精霊石。この場を守るように地竜が寝床を作っていたこと。ラースの力に反応を見せた女神像。これだけ手がかりがあれば自ずと」


いや、普通はわからないよ?

現にオム族の人たちは気づかなくて、ずっと祭祀の場として使ってたって。

それに、あの柱、精霊石だったのかぁ。

女神様降臨のインパクトが強すぎて、それくらいだともう驚かない。


「ずっと疑問に思っておりました。なぜ、クレシオール様のご降臨がファーシアからの記録しかないのか。ネマのもとへ降りられたお姿を見て、それ以前は別の方法で降りられていたのではないかと」


ヴィがそんなことを考えていたなんて知らなかった!

女神様もころころと笑って嬉しそうだ。


『ラース、お主の契約者は聡明だな』


――ガウ。


ラース君の鳴き声もどこか自慢げに聞こえる。


『では、特に何かあるわけではないのだな?』


女神様はヴィに確認すると、せっかくだからもう少しいると言う。


『願いや聞きたいことがあれば言うがよい』


女神様にお願いごとって、叶えられるかは言ってみないとだろうけど、すっごいことだよね!


「あっ!女神様、お願いがあります!」


私はあることを思い出し、勢いよく挙手した。


『ネフェルティマ、我は悲しい。名を許したのに、なぜ呼ばぬ?』


私の目の錯覚でなければ、女神像が悲しげな表情を浮かべている。

いくら女神様の依代とはいえ、像が動くなんてことはないだろう。……たぶん。


「クレオ様、私は成長したいです!成長期を返してください!!」


やっと言えたどーー!!

二年間眠っていたときに成長が止まっていたのは仕方ないとして、起きてからもまったく成長しないのは本当に困ってたんだよ。


『はて?』


なのに、女神様は心当たりがないのか、困惑気味な様子。


「おそれながら申し上げます。妹を救っていただいた際、クレシオール様のご加護を(たまわ)ったのですが、その影響で少々成長に遅れが現れているようです」


お兄ちゃん……物は言いようだけど、少々じゃないよ!かなりだよ!そこは断固として抗議するぞ!!


『ネフェルティマ、こちらへおいで』


これで成長期がやってくると、弾みそうになる足をなんとか抑え込み、静々と!慎ましやかに女神像の側へ。


『………………』


女神様、沈黙が恐ろしいのですが?

まさか……私の成長期、どっかに行ったとか言わないよね!?


『どうやら、力を込めすぎたようだ。もう少ししたらすべて使い切るから、待つしかない』


ノォォォーー!!

もう少しっていつ?神様時間とかだったら、私ずっと成長できないんじゃない!?


「いづまで待てばいいんでずか?」


涙声なのは許して欲しい。

だって、女神様にお願いしたら成長期が戻ってくるという期待が大きくて……。今すぐには立ち直れないの。


『そうだな……早ければ半巡、遅くても二巡といったところか』


ふっかーつ!ちょっと希望が見えてきたかも!

半年から二年なら、頑張れなくもない。その後、どれくらいの早さで成長するかにもよるけど。


「……ネマは今のままでも可愛いのに」


「そうだね。このままでも僕たちにとっては可愛い妹だけど、成長したら一緒にお茶会や夜会に出席できるようになるよ?」


「そうでしたわ!大きくなったら、別の楽しみが待っていますのね!」


お姉ちゃんもお兄ちゃんも、ブレないシスコンっぷりをありがとう。

成長したら、面倒臭そうな貴族のお付き合いが始まるのを思い出したよ。

それなら、しばらくこのままでもいいかなぁ。


『他に何かある者はおるか?そこな二人もあるなら聞くぞ?』


ずっと頭を下げたままの二人だったので、逆に目立ってしまったのか、女神様の目に留まった。


「わわわ私たちのことはお気になさらず……」


姐御さんの狼狽(ろうばい)っぷりに、付き合わせてしまったことを申し訳なく感じる。

全部ヴィのせいだけど。


『さようか。よく見れば、あのときの顔ぶれが揃っておるのか』


女神様は少し眩しくなるから目をつぶれと言ってきた。

女神様が何をするのか見当つかないけど、ちょっとだけ……期待してしまう。


少しだけって言ったのに、目をつぶっていても眩しいと感じるくらい強い光が現れた。

それが徐々に弱くなり、完全になくなると、目を開けていいと許しが出る。


女神像の傍らに見たことのない生き物がいる。

似ている動物なら知っているが、あれに角はない。

黄色とオレンジの間の、なんとも表現しにくい被毛色。頭部のふわふわした(たてがみ)が発光しているように見えるのは、どうやら透明な角のせいみたい。尻尾は鬣よりもサラッとしていそうな長毛に包まれている。

総じて、ライオンに似ているようで、微妙にパーツが異なっている不思議な生き物。

だけど、あの目は……。あの優しい眼差しは、私の記憶の中と同じ。


「ディーッ!!」


私が名前を呼ぶと、グルルッて喉を鳴らして尻尾を振る。


「……ディー」


私より先にお兄ちゃんが駆ける。

私もお兄ちゃんを追いかけて、ディーの側に向かう。

お兄ちゃんはディーを強く抱きしめ……泣いていた。

私も自然と涙があふれ、お兄ちゃんとディーに抱きつく。

嬉しくて泣けるってこういうことなんだ。

ディーはお日様の匂いがした。

日向ぼっこしたディーの匂い。


「おかえり、ディー。僕のもとに帰ってきてくれると信じてた」


ディーはお兄ちゃんの頬を舐めて、お兄ちゃんを泣き止ませようとする。

そして、私の頬にも。


――みゅっ!みゅぅぅぅぃぃぃーー!!


私から飛び移った白が歓喜の声を上げ、グラーティアは喜びの舞いを踊る。

以前はよく見かけた光景だった。

白とグラーティアにとってディーは、遊んでくれる優しいお兄さんみたいな存在だったから。


「本当にディーなの?よく顔を見せて」


お姉ちゃんもやってきて、ディーの顔を覗き込む。


「その目、本物のディーね!おかえりなさい!!」


やっぱりお姉ちゃんも目で判断した。

姿形は違えど、魂が同じならわかる。だって家族だもん!!


『まだ聖獣に成ったばかりだ。それでもよいのなら、契約者を選ばせるがどうする?』


「成ったばかりだと、何か不都合があるのでしょうか?」


泣きすぎて答えられない私たちに代わって、ヴィが質問してくれた。


『なに、少々力の加減が未熟なくらいだ。ただし、獅子光(ししこう)は光の力を使える唯一の聖獣。加減を間違えば、その害は計り知れぬと心得よ』


女神様はそう言うけど、ディーならそんな力の使い方をしないと思う。


「何かあれば、僕が命をかけてでも止めます。だから、ディー。一緒に我が家に帰ろう」


「お兄様、わたくしも手伝います!光なら火と相性がよいのではなくて?」


「私も!私も手伝う!!」


お兄ちゃんとお姉ちゃんだけに任せるわけにはいかないと、私も主張する。

ディーは命の恩犬だから、ちゃんと恩返しをしないと!


『獅子光ディーよ、契約者を選ぶがいい。お主の魂を繋ぎ、半身となり、伴侶となる者を』


ディーは私を見た。

言葉はわからなくても、ディーの気持ちが伝わってくる。

だから、私は……黙って頷いた。


「ラルフリード・オスフェの名に誓う。獅子光ディーと魂の契約を結び、半身となり、伴侶となることを」


ディーが選んだのはお兄ちゃん。

本当はディーとおしゃべりしてみたかったけど、お兄ちゃんの方がディーも安心だと思う。


「ネマ、おいで」


お兄ちゃんに呼ばれて、その腕に身を任せる。


「ディーはね、ネマのことを宝物だって言っているんだ。宝物を守るには協力者が必要だから僕が選ばれた。僕とディーでずっとネマを守るから」


お兄ちゃんもディーも優しすぎる。

もっと自分のやりたいことをやっていいのに。お兄ちゃんだって、パパンの跡を継ぐためにやってみたいこと、いっぱいあるはずなのに。


「おにい様もディーも大好きっ!!」


◆◆◆


いろいろな感情が落ち着くと、女神様はカイディーテにあることを頼んでいた。


『ここにあるものを地中奥深くに埋めよ。人には過ぎたるもののようだ』


「クレシオール様っ!どうか、我々からこの場所を取り上げないでください!」


案内役のお兄さんが女神像の前で、床に額を擦りつけてまで必死に懇願する。

ここはオム族にとって大切な場所だし、なくなったら困るよね。


『ならぬ。人ではこの精霊石を管理できん。本来なら、魔族がこの大陸を去ったときに、精霊王が始末せねばならなかったものだ』


あの生えてきた柱を作った精霊王は今の精霊王じゃない。

聖獣もだけど、精霊王にも世代交代がある。

その時代の精霊王たちはうっかりさんだったのかな?


案内役のお兄さん、女神様にダメだと言われて途方にくれている。

下手したらお兄さんの責任にされて、お仕事クビになったりするのではなかろうか?


「クレシオール様がそう仰るなら、どう足掻いても無理だ。女王陛下には私から説明する」


ヴィが面倒臭いことを一手に引き受けてくれるようだ。そもそも、こうなった原因はヴィなので、お兄さんは遠慮なく押しつけるといいよ。


『人への対処はヴィルヘルトに任せるとしよう。では、我はもう戻る。カイディーテが早く契約者のもとへ戻りたがっておるしな』


本当に契約者のことが好きだなとカイディーテを揶揄(からか)う女神様。

サチェとも一言二言、言葉を交わしてから帰っていった。

なんと言うか、女神様ってやっぱりあの神様の娘なだけあるわ。

ほんと、嵐みたいだった……。


「よーし、ディー帰ろっ!」


――がうっ!


……そうか、もうスノーウルフじゃないから、鳴き声はワンじゃなくてがうなのか。

でも、尻尾を振る姿はスノーウルフのときと同じだ。


おかえりディー。これからはずっと一緒だよ!




今年一年、ありがとうございました!

もふなで12巻の詳細を活動報告にあげております。

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