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ドワーフ再び!?

ドワーフがいると、ムシュフシュに案内された先は……なんか凄いことになっていた。

煌々(こうこう)と照らしつける照明の大型魔道具。複雑に組まれた足場。まるで夜間の建設現場のようだ。

ロスラン計画の建設現場のようにたくさんの人が働いているのがわかる。


「ムシュフシュ殿!?」


若いお兄さん……ドワーフならお姉さんだけど。

ムシュフシュがこちらに来るのは珍しいのか驚いている。


「その方たちは……?」


そして、私たちを認識すると、一気に気配が鋭くなった。


「私たちはミルマ国に招待された、ガシェ王国の者だ。貴殿はドワーフ族で間違いないだろうか?」


ヴィが代表してそう告げても、ドワーフのお姉さんは警戒を解かない。

まぁ、私たちが本当にガシェ王国の貴族だとわからないからね。家紋を見せても、知っている人じゃないと判別つかないだろうし。


「おねえさん、ラグヴィズを知っていますか?」


私が『お姉さん』と呼びかけると、ヴィは不思議そうな顔をした。

ヴィはドワーフ族の特徴を知らないのかな?


「ラグヴィズ……野鍛冶(のかじ)(ながれ)の長のラグヴィズか?」


「そう。私、ラグヴィズとお友だちなんだ!ラグヴィズに聞けば、私たちが悪い人じゃないってわかるでしょう?」


流という集落単位でドワーフ族は移住生活をしているらしいんだけど、さすがに流同士の連絡手段はあるはず。


「そういえば……」


お姉さんは何か考え込んだと思ったら、突然後ろに向かって叫ぶ。


「兄貴っ!手紙の魔法陣どこにやったー?」


凄く大きな声。

近くでそんな大きな声を出されると、耳がキーンッてなる。


「知るかーっ!!他の流はお前の仕事だろうがっ!!」


現場で働く人って自然に声が大きくなるのか、それとも似たもの兄妹だから声が大きいのか。

お兄さんもどこにいるのか判断できないくらい大きな声を響かせている。


「ネマお嬢様、一つ確認させていただきたいのですが……」


お姉さんがお兄さんらしき人物と大声で会話をしている隙に、パウルが小声で問いかけてきた。


「ラグヴィズ殿に皇帝陛下の妹ではないとお伝えできたのですか?」


…………え……あ゛ぁぁぁぁ!!!


「ふぐっ……」


叫びそうになった私の口を、パウルが手で塞ぐ。危なかった!

ここで叫んだら、ドワーフのお姉さんにもっと怪しまれてしまう。

もう大丈夫だと、パウルの手をペチペチ叩いて合図をする。


「失礼しました。その様子だと、お伝えできていないようですね。でしたら、ガシェ王国の名を出すと、余計に話が拗れます」


忘れてた!

トロッコもどきを作るのに夢中で、その後は陛下にやられたことで頭いっぱいになって、すっかり忘れてた!!

陛下の妹っていうのは、嘘の設定だと説明してない……。

まさか……陛下めっ!これも狙っていたのか!?

私がどこかで別のドワーフ族に接触するかもしれないから、ラグヴィズに連絡させないよう図ったな!!


「……と、いうわけだ」


途中、ドワーフ兄妹の大声会話を聞いていなかったのでそう言われても、どういうわけ?

まさか……。


「手紙の魔法陣、なくしちゃったの?」


「どこかにはあるはずだ」


いや、どこかにって……自信満々で言うことじゃないよ?

待てよ。これは天の助けなのでは?

ラグヴィズに連絡できないってことは、私のことを聞けないわけで。別の方法で信用してもらえばいいんだ。


「じゃあ、どうやったら悪い人じゃないって信じてくれますか?」


またもやお姉さんは考え込み、意外な言葉を発した。


「精霊に聞けばわかるだろう」


精霊だと?

ドワーフ族は精霊の姿を見ることができる種族ではなかったと思っていたけど、流に精霊術師がいたりするのかな?


「精霊に聞くのは構わないが、ここは精霊が立ち入れない場所だぞ?それに、そちらに精霊の声を聞くことができる者がいるのか?」


「問題ない。こちらにはエルフがいる。この神殿から出れば精霊に影響はないので、行くぞ」


お姉さんの提案に、ヴィが疑問を投げかけた。

しかし、お姉さんはそれ以上説明せずに誰かを呼びつけたと思ったら、スタスタと出入口に向かって歩き始める。

こちらは状況についていくのでいっぱいいっぱいだよ。ドワーフなのにエルフって何??


「とりあえず、彼女?についていってみようか」


お兄ちゃんも私がお姉さんと呼んでいるから彼女と言ったのだろうけど、疑問形にするのはやめられなかったみたい。

確かに、ぱっと見は男性の人間に見えるもんね。


ドワーフのお姉さんについていきながら、お兄ちゃんたちにドワーフ族のことを知っている限り教えた。

特にドワーフ族の男性は見た目が子供に見えても中身は大人だから、言葉には注意してねって。

さすがに地竜のストーカーだったことは黙っておく。

話がドワーフのお姉さんに聞こえて、ラグヴィズみたいに絶望!ってなっちゃうかもしれないし。


「そういえば、ムシュフシュはここに来る前はどこにいたの?」


――南の方だ。寒くないし、雨も少ない場所だったから気に入ってたんだけどな。


やっぱり、体の大半がヘビだから寒さに弱いのかな?

寒いときは猫みたいにヒーターに集まったりして……。

暖房魔道具の前で、野生を忘れて(くつろ)ぐムシュフシュを想像してみた。

尻尾のサソリの部分をゆらゆら揺らして、香箱座りしてたら可愛いと思う!ライオンの前脚で香箱座りできるかわからないけど!


「今度お引っこしするときは、私のお家においでよ!」


ムシュフシュはラース君より小さく、ディーより一回り大きいくらいなので、うちの屋敷でも快適にすごせるはず。


――人の住む家とやらも興味を惹かれるが、火の原竜様がお許しになるか……。


「火の原竜ってソルだよね?ソルは北の山脈にいるし、竜種なら反対しないんじゃないかなぁ」


仮とはいえ、ソルと契約しているから竜種は私を傷つけたりしない。竜騎部隊のギゼルたちやライナス帝国軍飛竜兵団のダノンたちと仲良くしても、ソルは何も言わなかったよ?

でも、他の竜種と暮らすのは嫌だとソルが言うなら、一秒もかからず即諦める!

ソルのデレは凄く珍しいから破壊力抜群だし、他の竜種に嫉妬したのであれば可愛いすぎるでしょ!!


――はんっ。リンドブルムやワイバーンなんかと一緒にするな。竜種の中でも最強と言われているんだぞ!


ギゼルやダノンが弱いから、私に近づくのを許されたと言いたいのだろうか?

ムシュフシュは凶暴だと言われているけど、正直大型飛竜のワイバーンより強いとは思えない。

さすがにプチッと潰されることはないだろうが、上空から狙われたらアウトじゃない?

猛禽類が野ネズミを狙うみたいにさ。


――俺の毒はワイバーンのよりも強い!


一瞬、ワイバーンに毒なんてあったっけ?ってなったけど、尻尾の先のトゲトゲに毒があったわ。

尻尾の一撃でほとんど倒せちゃうから、毒を持つ必要性ないよねって不思議だったんだけど……。竜種同士の戦いには有効なのか!


ムシュフシュとおしゃべりをしていたら、いつの間にか出入口の方に戻っていた。

建物から出ると、太陽の日差しが眩しい。

森鬼もヴィも眉を(ひそ)めていたので、眩しいのかなって思ったらどうも違うようだ。


「森鬼、どうしたの?」


「いつも以上にナノがうるさいだけだ」


建物の中には精霊が入れないので、出てきたら余計に絡まれるみたい。

私の周りにも凄く群がっていて、いつぞやのように姿が見えなくなっていると教えてくれた。


「精霊様っ!!」


建物の中から、転がるように出てきた誰かが叫ぶ。

子供のような姿だったのでドワーフの男性かと思いきや、耳の特徴がエルフ族だった。

ドワーフとエルフの混血……ではないな。

ラグヴィズは他の種族とは子供はできにくいと言っていたし。

そうなると、土の精霊と仲良しなエルフの一族か?

エルフの森の長がその一族で、小人みたいだからとんがり帽子をかぶって欲しいって思ったなぁ。


「精霊様!お会いしたかったですぅぅ……」


今にも泣きそうな声なのに、テンション高めという、情緒が不安定な様子。


「はっ!天虎(てんこ)様もいらっしゃる!?……えーっと、僕が説明をすればいいんですか?」


空中に向かって独り言を言っているように見えるけど、精霊たちとお話しているのだろう。

落ち着きのなさで、ただの怪しい人みたいになっているけど。


「はい、わかりました!お任せください!」


やる気に満ちたお返事をしたエルフは、私たちに気がつくと笑顔で自己紹介を述べる。


「僕はユルシュディエ・ジュド・ヘイウォーヴと申します。エルフですが、わけあって築造(ちくぞう)(ながれ)の皆さんと一緒に暮らしています」


やっぱりエルフ族であってた!そして相変わらず、エルフ族の名前は覚えづらいなぁ。

ユルなんとかさんはこちらが口を挟む隙を与えずに、今度はドワーフのお姉さんの紹介を始める。


「この方は築造流の長、ノアリエさんです。みんな、姐御って呼んでいます。姐御は口が悪くて大雑把ですけど、面倒見のいい方なので怖がらないでください!」


「ルシュ、余計なこと言うなっ!」


初対面の私たちにそんな紹介をされたら、そりゃ怒るよね。

そして、ユルなんとかさんの愛称はルシュと言うのか。


「あ、僕のことはどうぞルシュとお呼びください。で、姐御。こちらの方々……天虎様とその契約者であるガシェ王国の王太子殿下、炎竜様の契約者であるオスフェ公爵家のご令嬢様とそのご兄姉様です」


精霊たちに聞いたのか、何も告げていないのに私たちのことを姐御さんに紹介してみせるルシュさん。


「……王太子?公爵家??」


姐御さんの方は思考が追いつかないのか、表情が固まってしまっている。

彼女の心の声を代弁するなら、『なんでそんな身分の人がここにいるの?ここはミルマ国だよ?』だろう。

ラグヴィズは相手が皇帝陛下だってわかっても態度を変えたりはしなかったけど、あれは彼の性格によるもの。

陛下がラグヴィズを気に入ったのも、その性格だったからかも。


「はい。精霊様も悪い人ではないと仰っています。……というか、王太子殿下とご令嬢様のことが信じられないのかと怒っていらっしゃいますよ」


精霊たちよ。姐御さんが悪いわけじゃないんだし、それは理不尽だよ。


「精霊さん、あねごさんは長だからすぐに信用しちゃいけないの。流を守るためにしているんだから、怒らないでね」


精霊を宥めようとそう口にしたら、生温い風がブワッと顔に吹きつけてきた。

ルシュさんが精霊様可愛いすぎると悶えているので、精霊の仕業だな。


「そういえば、ルシュさんは建物の中に入って平気なんですね。エルフのみなさんは精霊が大好きだから、いない場所にいるとは思わなく」


「平気なわけないじゃないですか!!」


お、おぅ……。食い気味で来たな。

ルシュさんは精霊がいない環境がどれほど苦痛なのかを強く訴え始めた。

ライナス帝国のエルフたちから精霊愛をよく聞かされるので、彼の心境を理解することはできる。

そう。私に例えるなら、もふもふがまったく、これっぽっちもない環境ですごしなさいってことだからね!

いないとわかっていても無意識に探してしまい、いないことを突きつけられる。悲しみが押し寄せて、また探しちゃう。

そんな繰り返しをあの建物の中で耐えていたのかと思うと、ルシュさんが不憫でならない。


「そんなにつらい思いまでしてドワーフに同行しているのはなぜだ?」


だが、ヴィはそうは思わなかったらしい。

エルフが精霊よりも優先する、何かがあるのではないかと疑っているようだ。


「それは……僕たちが魔族の研究をしているからですけど……。何度もやめようかと。でも、ここまで完璧に残っているものはなくてですね!!」


今度はこの遺跡について熱く語り出すルシュさん。

このエルフ、あれだ。ヲタクと一緒だ!

自分が好きなものはマシンガントークをかましちゃうやつ!


「古の魔法の構造を解明できれば、今の魔法ももっと効率よく……」


「ちょっとお待ちになって。古の魔法がこの遺跡に使われていると仰るの?」


魔法のことになると黙っていられない、魔法大好きお姉ちゃんの参戦だ。


「あ、はい。壁などに刻まれている模様ですが、これすべてが魔法構造を示す文字なんです。つまり、今の精霊文字みたいなものですね」


「あれが文字だとわかる程度には、解読が進んでいるということなのね?」


文様魔法や魔道具には、精霊文字という『読み書きはできるけど声には出せない』文字を使って魔法を組み立てている。

私にはミミズののたくったような字にしか見えない。たぶん、地球にある言語ではないと思う。

壁に刻まれていた模様が文字だとするなら、精霊文字の系統ではない。

記号みたいにカクカクしている形が多く、例えるならルーン文字が近いかも。


「ようやくですけどね。エルフ族が保管している文献が少なく、魔族の建物が残っているとわかってからなので……研究を始めてからもう十季(じゅっき)以上は経ちます」


十季って……千年!?

えっ、ルシュさん、そんなおじいちゃんエルフなの??


「つまり、ルシュ殿以外にも研究しているエルフがいると?」


今度はお兄ちゃんが質問する。


「今は僕を含めた六名が築造流にお世話になっています」


ルシュさんが言うには、魔族に興味を持ったエルフが集まり、研究調査をしているそうだ。

人数はその時代によって上下するけど、ドワーフと一緒に行動するようになって二百年は経過しているとのこと。

そして今は、交代でこの建物を調べているところなんだって。交代制なのは、精霊の姿が見えないことに長時間耐えられないから。


「なるほどな。この遺跡を造ったのは魔族で、魔族がこの大陸からいなくなって放置されたものをオム族が使うようになったということか」


「そうなんです!オム族が管理してくれていたおかげで、どこも壊されていなくて、こうやってまだ古の魔法も効果を発揮しているんです!」


「しかし、今この遺跡は賊に狙われている」


ヴィの言葉にルシュさんは苦しそうな表情を浮かべた。そして、姉御さんの方を見やり、ゆっくりと口を開いた。


「このミルマ国にある遺跡はほとんど魔族が建てたものです。ですがここ最近、遺跡を荒らす者たちが現れて、かろうじて動いていた古の魔法もここを除いてすべて壊されました」


「そのならず者を退治するために、ムシュフシュ殿に協力いただいているんだ」


ルシュさんの言葉を引き継いだ姉御さん。

だけど、ムシュフシュとやり合った人たちの遺品を見る限り、賊ではなくて冒険者だ。

その冒険者が他の遺跡も荒らしていたのだろうか?

情報も状況もわからず、謎が深まるばかり。


「その賊は何かを探しているようだな。心当たりはあるのか?」


「もしかして……クレシオール像?」


ずっと黙って私たちの話を聞いていた案内役のお兄さんが心当たりを呟いた。


「おそらくは。ここの遺跡には本当に物が残っていないのに、クレシオール様の像だけが残っているのが不思議だったんです」


ほうほう。つまり、その女神様の像がある部屋に秘密があって、そこにお宝が隠してある可能性が……ある!!


「あねごさん!!その女神様の像が見たいです!!」


私は姉御さんに必死に頼み込む。

せっかくここまで来たのに、そんな面白そうなものを見ずに帰るなんてできない!


「……ルシュ、どう思う?」


「天虎様なら、何かわかることがあるかもしれません。ご協力いただけるなら僕は助かるんですが……」


ルシュさんが味方してくれたおかげで、姉御さんは渋々ながらも私たちを受け入れてくれた。


「ムシュフシュ殿も懐いているようだし、彼らには何かあるのだろう」


姉御さんはくるりと(きびす)を返して、建物の奥へ戻っていく。


「僕たちも行きましょう」


ルシュさんに促されて、私たちも再び建物の中へ。


「ふふっ。古の魔法に触れることができるなんて、ネマについてきて正解だったわ!」


ご機嫌なお姉ちゃんに、お兄ちゃんもどこか嬉しそうにしている。

ヴィは精霊に絡まれて参っているのか、ラース君の頭を撫でていた。ラース君の毛並みは癒やされるからね。


「ラース、これでいいんだな?」


――ガウッ。



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