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冒険に欠かせないもの……それは山登り!?

やっぱり遺跡が気になる!

そうだ!保留にしておいたお願い、遺跡を見にいきたいにしちゃおう!!


「というわけで、いせきを見学したいってお願いすることにしました!」


「……どういうわけだ?」


「だーかーらー!いせきは大昔の歴史を肌で感じられる、夢と希望と宝物がつまった場所なんだよ!!」


私が遺跡のロマンを熱く語っているのに、ヴィは興味ないと言わんばかりの態度だ。


「王女の立太子を控えているこの時期に、招いた客人を盗賊まがいの者が出る場所へ案内すると思うか?」


ヴィは、式典が終わるまでは大人しくしていろと言う。

でも式典が終わったら、みんな帰っちゃうじゃないか!!

今回は立太子の式典に参加するために来てはいるけれど、招待したミルマ国のすすめもあり、滞在日数が長い。

だけど、パパンを始めとしたガシェ王国組は式典の次の日には帰ってしまうのだ。


「とりあえず、女王へいかにお願いするだけしてみようよ!悪い奴らはパウルと森鬼でやっつけるから!!」


盗掘団の規模はわからないが、パウルと森鬼なら瞬殺できる!……と思う。


「無茶なことを言わないでください。ヴィルヘルト殿下が本気にしたらどうするのですか」


ヴィが真に受けることはないと思っての発言だったんだけど、パウルは逆に深読みしすぎたみたい。

オスフェ家の面々で盗掘団を退治したとする。そうするとヴィは、意気揚々とミルマ国に恩を売れる。つまり、自分は動くことなく、利益を享受できるというわけだ。濡れ手で粟、一石二鳥、棚からぼた餅……。

そんな状況になるのは、パウルは面白くないと。


「ヴィル!そんな意地悪言わないで、ネマちゃんのお願いくらい聞いてあげたら?」


外出先から戻られた王妃様に話を聞かれていたようだ。

私は略式の礼を取り挨拶をすると、お利口さんですねと頭を撫でられた。

……王妃様、私がまだ三歳だと思っていない?

初めてお会いしたときから、褒め方が変わっていないんだよなぁ。

私、見た目は五歳児だけど、もう七歳よ?なんなら、春になったら八歳だよ!

眠っていた二年はもちろんカウントする。成長していないから無効なんてことはないはずだ!!


「少しでも危険があれば、陛下は許可なさらないわ。それに、ネマちゃんだって陛下からのお返事でないと諦められないでしょう?」


王妃様は私の味方だと思ったのに、断られる前提での話だった……。


「ねぇ、ヴィル。ここはガシェ王国ではないのよ?」


明らかに空気が変わった。

王族や皇族がその身分に相応しい威厳を発するときはままあれど、大抵は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる感じなのだが。

王妃様のは……うーん、真綿と言うか、気づけば蜘蛛の糸に絡まっていたような感じだった。


「……申し訳ありません」


ヴィのその言葉を聞き、私は目が飛び出るくらい驚いた!

だって、あの(・・)ヴィが謝ったんだよ!?

正直、あれで怒られていたのか謎だけど、ヴィが謝らなければならない状況だったってことだよね?


「ネマちゃん、こっちへいらっしゃい」


逆らってはならぬと、私は素直に王妃様の側へ行く。

王妃様は普段と変わらない笑顔だけど、今はそれが恐ろしい。


「あの失礼極まりない王女たちのお詫びに、女王陛下がネマちゃんのお願いを聞くと約束したでしょう?つまり、そのお願いを聞くか聞かないか、判断をするべきは陛下であってヴィルではないの」


だから、私が望んでいるのであれば、ヴィは私のお願いを女王陛下に伝えるべきだと。

そしてヴィには、他国にいるのだから自国基準で考えるなと釘を刺したというわけらしい。


「ちゃんとヴィルが陛下にお伝えするから、ネマちゃんは楽しみに待っていてね」


「はい!」


王妃様のおかげで、とりあえず女王陛下に聞いてもらえることになった。

すると、思ったよりも早く返事が届いた。なんでも、まだ盗掘の被害に遭っていない遺跡があり、そこに案内してくれるそうだ。

ただし、そこはオム族の聖地なので、立ち入る際の決まりを必ず守って欲しいとのこと。

本来は入れない場所に連れていってくれるのも、それだけお詫びの気持ちが強いのか。

まぁ、ありがたくお言葉に甘えるけどね。


◆◆◆


私は今、目の前の光景に絶句している。

最初は神社の参道に似た雰囲気の石階段が続いていた。

ひぃひぃ言いながら五十段くらいは自力で上ったんだけど、途中で森鬼に抱き上げられた。まぁ、私のペースに合わせていたら、いつまで経ってもたどり着けなさそうだから仕方ないね。

階段はとてつもなく長く、お姉ちゃんも今は海に乗っている。

山に登るとは聞いていたので、荷物を載せるために海は馬バージョンで同行してもらっていたのだ。

傾斜があるところでの騎乗は危ないから、お姉ちゃんの両サイドをシェルとスピカが固めていた。

そして、長い長い階段が終わったと思ったらこの光景だ。

右には高くそびえる崖、左にも同じくそびえる崖。

白が駆け上るのは無理かもと思うくらい高さがある。それに、側面がポコポコしているので、上りづらそう。


「ここからは風が強く、砂が吹きつけてきますので、魔法か魔道具を発動させてください」


先日、城下町を案内してくれたお兄さんが、今日も案内役だ。

案内役のお兄さんが言い終わる前に突風が吹き、私は目を開けていられなくなってしまった。


「風の遊び場か……鬱陶しいな」


あれだけ遺跡に興味なさげだったヴィも、なぜか一緒についてきているんだよね。

ちなみにラース君は悠々とお空を飛び、階段を上る私たちを置いて先に行ってしまった。

まぁ、ノックスも気持ちよさそうに空を飛んでいるので、今日は空中散歩日和なのだろう。


「風の遊び場?」


この岩山の壁がなぜ遊び場になるのか不思議に思っていたんだけど、ヴィと森鬼の仕草でピンときた。

飛び回る虫を追い払うかのように手を振る二人。


「風の精霊たちの遊び場だ。ネマの周りにも群がっているぞ」


やっぱり!私は精霊が見えないので、群がられてても気にならない。でも、見えるヴィと森鬼は前が見えなくて大変なのかも。


「お前ら、いい加減にしろっ。ラース!」


うんざりといった様子のヴィが、ついにラース君を呼ぶ。

しかし、ラース君は姿を見せず、咆哮(ほうこう)だけが聞こえてきた。その咆哮に合わせ、強い風が吹き上げる。それがおさまると、今度は無風状態になった。

ラース君が風の精霊に何か命令したのだろう。


「便利だな」


森鬼の感想は、精霊の動きが見えていたからこそ出てきたものだとして、聖獣の力を便利ですませていいのか!?


「これで歩きやすくなるだろう」


ヴィがもう風は吹かないと言うので、私たちは先に進むことにしたのだが……。

ザッザッザッと砂を踏む音を聞きながら、なだらかな坂道を上る。これが地味に疲れる!

砂が柔らかくて足が取られそう……と言うか滑りそう。

帰りはソリを使って一気に滑り下りた方が速いね!勢いつきすぎて階段の手前で止まれなかったら大事故になっちゃうけど。

ラグヴィズが見せてくれた、砂を動かす魔法が使えたら楽に上れるかも!

そう思って、パウルに提案してみた。


「無理です。ここで魔力を消費しては、お嬢様方をお守りできませんので」


食い気味に無理って言われた!

それなら土の精霊たちはどうだと、森鬼を見やる。


「主、砂が風もないのに坂を上がると思うか?」


「ぐぅっ……。でも、風があれば……」


「砂嵐だな」


土と風のコンビだったらできるけど、風の精霊が関わると砂を動かすどころか舞い上げてしまうと。

ならば、やはりソリか……。いや、ジェットスキーのように、板を履いて引っ張ってもらうのもありかもしれないぞ!


「パウル、ソリの足の部分を作れないかな?」


「足の部分というと、雪に接する部分のことですよね?」


それを両足に装着し、星伍と陸星に引っ張ってもらうのだと説明する。


「それは面白そうね。パウル、わたくしの分も作ってちょうだい」


お姉ちゃんもノリノリで参加を表明。パウルは眉間にしわを寄せながらも、渋々承諾してくれた。

木の板があればよかったけど、さすがにそんなものを用意していないので、地面の砂を固めて代用する。

重くなると沈みそうなので、薄く、でも丈夫にと無茶振りも忘れない。特に前方部の反り具合にはこだわったよ。引っ張られたときに、前が砂に埋もれちゃうからね。

足に固定するのも、砂を固めて抜けないようにしてもらう。


「転けそうになったらすぐに外せるよう、あえて横の部分を(もろ)くしてあります」


衝撃で横の部分が壊れれば、硬めにしてある前後の部分も脆くなって脱ぎやすくなるらしい。

そんな微調整を即座にやってのけるパウル。本当に優秀な執事だよ!

お姉ちゃんの分は安全性を考慮して、スノボタイプにしてみた。なので、片方の足を固定してもらい、もう片方は自由に動かせる。

お姉ちゃんはママン特製命綱を取りつけ、海に引っ張ってもらう。

私は星伍と陸星のリードを持ち……いざっ!!


「星伍、陸星。最初はゆっくりね」


――ワンッ!

――ワンッ!!


リードがピンッと伸びて、私の手が前に持っていかれそうになったので、慌てて重心を後ろに。

すると、ゆーっくりと動き始め、坂道を上る。

ある程度勢いがつくと、星伍と陸星は引っ張るのが楽しくなってきたのか、徐々にスピードが速くなった。


「おぉ!!成功だーっ!!」


スキー板もどきは砂に埋もれることもなく、ちゃんと滑れている。私、犬ゾリの才能もあるのでは?


「ネマ、凄いわ!」


お姉ちゃんの声が思ったよりも近くからしてびっくりしたー!


「おねえ様もすごい!」


私は前世でスキーの経験があるけど、お姉ちゃんはまったくの初めてでスノボを乗りこなしていた。

いくら海が丁寧に引っ張っているとはいえ、お姉ちゃんの体幹はスポーツ選手並みなのでは?


「ネマ様っ!置いていかないでください!!」


スピカが獣人ならではの速度で駆け寄り、そして私を追い抜いていく。

それにつられて、星伍と陸星も速度をあげた。

崖の形や模様を見たかったのだけど、どうやら追いかけっこに巻き込まれてしまったらしい。

坂道を進んでいくと、見上げるほど高かった壁がぽっかりとなくなっている部分がある。それでも、私の身長よりは高いのだけれど、その隙間から別の岩山の頂上が顔を出しているのが一瞬だけ見えた。ほんと、あっという間に通り過ぎてしまったけど……。

スピカと星伍たちの追いかけっこのおかげで、階段よりも短い時間で上りきったのではなかろうか?

砂の坂道の終わりは開けた場所だった。後ろを振り返ると、自分が思っていたよりも高い位置にいて驚いたよ。

坂道の崖もこうして見ると岩山で、不自然に道ができていたのがわかる。風の精霊たちのせいで、侵食作用みたいなことが起こってできたものだからなのかな?


「ノックスー!戻っておいでー!」


ちょうど頭上を旋回していたノックスを呼び戻す。

ラース君もいるかなって思ったのに姿がない。そんなに遠くには行っていないはずなのに、どこにいるんだろう?

そうこうしているとお姉ちゃんと海が到着。


「カイ、ありがとう」


「どういたしまして」


案内役のお兄さんがまだいないからいいものの、馬の姿でしゃべっちゃダメだよ!魔物だってバレちゃうから!

それから後続のみんなが到着し、なぜかスピカはパウルに怒られていた。


「私はスピカに何をお願いしましたか?」


「……ネマ様が先頭だと危ないので、私が先頭になって後ろの速度に合わせるように言われました」


「それなのに、貴女が遊んでどうするのですか」


「ごめんなさい……走っていたら楽しくなってしまって」


スピカはそう言い訳をしたけど、それならば仕方ないよね。

犬と一緒にしてはいけないんだろうけど、砂浜とか走り回る犬を想像してしまった。


「パウル、スピカも反省しているようだし、そのくらいで……」


「ネマお嬢様が周りの者たちと行動を合わせてくれれば、このようなことを言わずにすんだのですが?」


そろそろ助け船を……と思ったら、お説教の対象が私に移った!?

承諾したのはパウルなのに!


「皆様、もう遺跡が見えていますよ」


パウルのお説教から救ってくれたのは案内役のお兄さんだった。

彼が指差した先には、城壁のようなものが少しだけ見えている。

……ん?ひょっとして、所々緑だったり茶色だったりする部分も城壁なの?

岩山にある緑は目立つ。それが綺麗に帯状に広がっているとなれば、蔦などの植物が城壁を覆っているのではなかろうか。

目的地が見えると、俄然(がぜん)元気が出てきた。

ただ、ここから先はどうやって行くのか……。道らしきものはなく、岩をよじ登るのは無理じゃないかなぁ。


「こちらです」


案内役のお兄さんが大きな岩の前にみんなを誘導する。

その大きな岩に近づいてみても、ゴツゴツした変哲もない岩にしか見えない。

お兄さんは岩に触れて、何か小さく呟いた。

すると、岩が(うごめ)いた!

動いたんじゃなくて、ぐにゃぐにゃって!!

びっくりしたと言うよりも、キモいって気持ちの方が(まさ)る。条件反射的にお兄ちゃんの後ろに隠れた。

岩の見た目でぐにゃぐにゃ動いたら、そりゃあエイリアンでしょ!

私はアドベンチャーを体験したいのであって、パニックアクションは呼んでないよ!!


「……凄い。どういう構造をしているんだろう?」


私がビビっているにもかかわらず、お兄ちゃんは感嘆(かんたん)の声を漏らした。それを聞いて、そろりと岩を覗き見る。


「あれ?」


岩があった場所に扉が出現しており、あの蠢く岩が消えていた。


「どの魔法を使ったか見えたのか?」


ヴィにも岩が蠢くのは見えたようで、それを魔法の効果だと思っているみたい。

魔法なら、土の魔法しかないだろうに……。


「詠唱は知らない言語だったけど、魔法自体は治癒魔法だった……。治癒魔法は生きているものにしか効かない。どうやってあの岩を変化させたのか、魔法構造がまったくわからないんだ」


「治癒魔法だと?」


なんと、案内役のお兄さんが呟いていたあれは、治癒魔法の詠唱だったのか!

治癒魔法は生物以外には効果がないというのが通説だ。

まぁ、土壌の改善作用もあると提唱している研究者もいるらしいけど。でもそれは、地中に住む益虫が元気になったからだろうって、お兄ちゃんが言ってた!

確かに、ミミズのような生き物がいれば、影響が出ることもあるだろうね。


そんな不思議な魔法を見せられ、好奇心のスイッチが入ったのは何もお兄ちゃんだけではない。

お姉ちゃんはギラギラした目で案内役のお兄さんを見つめているし、パウルとジョッシュはまとう空気に鋭さが増している。


扉の中は真っ暗で、灯りの魔道具をつけても先が見えない。

足音が反響するのが不気味に感じるけど、整備されているのでトンネルなのだろう。洞窟じゃなくてちょっと残念だ。

トンネルは思ったよりも長くはなく、すぐに行き止まりになっていた。


「ラルフリード様、やってみますか?」


「えっ?」


「ここに文様があるので、治癒魔法をかけてみてください」


お姉ちゃんと一緒に、案内役のお兄さんが言う文様を探す。

行き止まりの壁の隅っこに、お土産に刻まれていた記号と似たようなものがあった。


「治癒魔法ならなんでもいいのかな?」


「はい」


お兄ちゃんが文様に治癒魔法をかけると、壁が先ほどの岩のように蠢いて扉へと変化した。

そして、その扉を押し開くと――。

強い光が差し込んできた。


「まぶしいっ……」


目が光りに慣れると、そこは吹き抜けになっている空間だとわかる。

上を見上げれば、ぽっかりと空いた穴と青い空……と、ラース君の顔。

やっと来たかというように、ラース君が覗いているではないか!


「……この階段を上るの?」


穴の壁に沿うように、螺旋状(らせんじょう)に階段が続いている。

遺跡に行くための試練とはいえ、階段多すぎない!?


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