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思わぬ招待状。

ここしばらく、とても平和だ。

ダオとマーリエといっぱい遊んで、魔物っ子たちとも遊んで、ユーシェたちとも遊ぶ。

遊んでしかいないけど、ここ最近は忙しかったからこういう時間があってもいいよね。

まぁ、アイセさんが帰ってこないって落ち込んでいるクレイさんを慰めたり、ダオと一緒にテオさんと光る剣で遊んでフルボッコにされたり、エリザさんに何やら怪しいお茶会に誘われたりと、退屈する暇はなかったけど。


そんなある日、パパンからお手紙が届いた。

なんでも、ミルマ国の王女様が立太子されるということで、その式典に出席するらしい。

本来なら、ヴィが出席するだけで十分だけど、ガシェ王国の先王の弟でミルマ国の先の王配だった方の要望で、なぜか私も招待されていると書かれていた。

意味がわからない。

ん十年も前に婿入りした元王子様が、会ったこともない私を招待する意味がわからない!

ガシェ王国としてはヴィだけの予定だったけど、私を招待するなら保護者もしろやとクレームを入れた結果、オスフェ家一同で出席することになったそうだ。


「というわけですので、ライナス帝国からもどなたかご出席されるのでしょう?わたくしたちも同行させていただいてよろしいでしょうか?」


式典に出席するにせよ、私たちはライナス帝国にいるので、移動手段はライナス帝国に用意してもらわないといけないのだ。

なので、お姉ちゃんと一緒に陛下にお願いしにきた。


「あぁ、その件なら聞いているよ。こちらからは太上皇帝陛下と皇太后陛下、アイセントが出席する予定だ」


それを聞いて、私はおやっと不思議に思った。

立太子の式典なら、次世代の交流的な意味合いで、同世代の皇子を筆頭にするものだとばかり思っていた。

我が国はヴィしかいないから、そういった他国の重要な式典にはヴィとジーン兄ちゃんが揃って出席することが多い。

すでに譲位された先帝様たちが国の代表となるのは何か理由があるのだろうか?


「両陛下がご出席されるのですか?」


「あちらの太王母父(たいおうぼふ)両殿下とは同世代で、ある意味仲がいいのだよ」


えーっと、なんか含みがあるのが気になるけど、それよりミルマ国のことが頭からすっぽり消えてるわ!!

ライナス帝国に行くからって、この国のことばかり詰め込んだせいかな?

とりあえず、女王の国で、ミルマ国の王女様がお兄ちゃんの嫁に来るかもしれないってくらいしか覚えてない。


「ネフェルティマ嬢、笑顔で乗り切ろうとしているのが丸わかりだね。太王母父の意味を知らないとみた」


……勉強不足ですみません。習ったはずなんだけど、記憶にないの。


「あとで、一緒におさらいしましょう」


しゅんってなっていると、お姉ちゃんが小さな声でそう言ってくれた。

とてもありがたい提案なので即頷いたけど、後ろで目を光らせているパウルから出ているオーラが恐ろしい!


「太王母父とは、譲位された女王と王配に贈られる称号だ。在位している女王のご両親という意味になる」


譲位された元女王と王配は隠居扱いになり、国政に関与しない、公務を行わないなど、行動の制限がかかるそうだ。

お仕事をしないわけだから譲位後には肩書きがない。臣民は元女王のことを御前様、その王配のことを御許(おもと)様と、今も親しみを込めて呼ばれている。

他国の人間は玉座についていた方をそんなふうに呼ぶのは失礼だと思っていたが、ミルマ国は独特な女王制度もあって、適切な敬称がなかった。

ミルマ国五代女王の王配がライナス帝国の皇子だった関係で、ライナス帝国が自国の元皇子に相応しい称号を与えて欲しいとお願いした。それにより、元女王は太王母(たいおうぼ)、その王配は太王父(たいほうふ)、敬称は殿下とするよう定められたのが始まりらしい。


「今の太王父殿下は曾お祖父様とご交流があったそうなので、その関係でご招待されたのかしら?」


「……いや、招待客の選別には口を出せないはずだ。まぁ、彼の方が裏で何か行ったのは確かだろうが」


曾祖父ちゃんの孫と曾孫の顔が見たいってことで呼ばれたの?

それなら非公式に招待でもよかったと思うんだけどなぁ。その方が、こちらとしても気が楽だし。


「アイセントはミルマ国で合流する。サチェとカイディーテも一緒だから、安心して行っておいで」


こんな感じであっさりと決まったミルマ国行きだけど、準備はとても大変だった。

まずはあちらの作法のお勉強。ミルマ国の作法は日本と似ている部分もあって、比較的覚えやすかった。

我が国の作法が一番複雑なのではなかろうか?

ライナス帝国に馴染みすぎると、国に帰ってから苦労しそう。作法ができなくなっていたらママンに怒られる!

ミルマ国の歴史や常識なんかのお勉強。こちらはお姉ちゃんが約束してくれた通り、一緒にできたので楽しかった。

ミルマ国の歴代の女王様はなんというか、とにかく強い!お国柄的にも女性優位な社会らしく、まさにかかあ天下。

お勉強に並行して、新しく服を作るために採寸だとか、デザイン案を見せられたりもした。

お姉ちゃんが率先するのはわかるけど、エリザさんもいたのは謎。

最終的にどんな服になったのかは、当日までのお楽しみらしい。


出発前日。

クレイさんがわざわざ私の部屋までやってきた。


「忙しいところ悪い。これを頼みたくて」


そう言って渡されたのは、クレイさんの紋章が使われているお手紙。

ふむ。もう読めたぞ!


「アイセ様にわたすのね!」


宛名がなくても、クレイさんがわざわざ私のところに来るのは、アイセさん絡みしかない。

いや、ダオ絡みのときもあったわ。

ダオが剣の鍛練に夢中で、最近相手にしてくれないって……。

だから、予定を合わせて、一緒に遊ぶ日を作ったんだよ。


「お願いできるか?」


「先帝様もいっしょに行くのに、私が預かっていいの?」


家族からのお手紙なら家族から渡した方が、アイセさんも嬉しいんじゃないかなって思った。


「あぁ、ネマなら信用できるから。祖父上は……勝手に開けそうでちょっとな」


いやいや、さすがに先帝様でも勝手に読んだりはしないでしょう。


「読まれると困ることが書いてあるとか?」


「困ると言うか、情けないって怒られそうではあるな」


あー、想像ついた。いつもの感じで、早く帰ってこいとか、兄を安心させて欲しいとか、弱音に近いものが書かれているのだろう。

クレイさんって皇子としてはしっかりしているし、弟の面倒もみるいいお兄ちゃんだけど、ちょっと弟に依存傾向が見られるんだよね。

アイセさんやダオが結婚するとき、クレイさんが一番反対しそう。


「私も同行できればよかったんだが……」


「クレイ様はロスラン計画のお仕事もあるからしょうがないよ」


陛下に行きたいって訴えて却下されたようだ。

お仕事の都合もあるけど、陛下はわざとクレイさんには伝えなかったんじゃないかな?

スケジュールを調整してまでもついていきそうだから。


クレイさんの頭をなでなでして、いっぱい励ましてからお帰りいただいた。

預かったお手紙は汚したりしないよう、文様魔法が施してある保存袋に入れて厳重に保管。

ようやく、一息つけると思ったら、スピカが両手をワキワキさせながら近づいてくる。


「ネマ様ー!お体の準備をしますよー!」


お体の準備って、ちょっと違うような……?

スピカに捕獲され、お風呂場に連れていかれる。お風呂場には、何か入浴剤を入れたのか、薄いオレンジ色のお湯が湯気(ゆげ)を立てており、その傍らではお姉ちゃんがマッサージを受けていた。


「ネマ、遅かったわね」


お風呂の順番待ちのときにクレイさんが来たので、それで遅くなったことを告げる。


「あの方は……。弟という生き物に幻想を抱き過ぎなのよ。アイセント殿下の一面しか見えていないのね」


「知っていても心配なんじゃないかな?私だって、おにい様やおねえ様が強いとわかっていても心配になるもん」


お兄ちゃんが領主代行で領地に行くってなったら、どれだけ厳重に警護されていたとしても心配にはなる。不測の事態はいつ何時(なんどき)起きるかわからないからね。


湯船に浸かり、ふぇぇぇって情けない声が出た。

アイセさんの話題が出てご機嫌斜めだったお姉ちゃんは、その声を聞いてクスクス笑ってくれた。


「心配する気持ちはわかるのよ。わたくしだって、お兄様やネマのことをいつも思っているのだから。でも、クレイリス殿下のは一方的すぎるのよね」


なるほど!お兄ちゃんたちとの違いはそれか!

同じ過保護属性なのに、なんであんなにもお兄ちゃんとは違うのだろうと思っていたけど、お兄ちゃんはちゃんと私たち妹を思いやって、引くときは引いてくれるからなんだね。


「やっぱりおにい様は世界一のおにい様だ!」


優しくて妹思いで、何かあっても一緒に考えたり、やったりしてくれるお兄ちゃんは、天使の生まれ変わりに違いない!!


「ネマも世界一の妹だわ。そんな妹がいるわたくしは世界一の幸せ者ね」


さすがにそれは言い過ぎな気がする。


「おにい様とおねえ様の妹の私の方がもっと幸せ者だよ!」


そう宣言すると、お姉ちゃんが私をぎゅーっとしようとして、シェルに動かないでくださいって怒られていた。

私もスピカに頭の先からつま先まで、泡まみれにされながら磨かれる。

魔法で泡立てると、すっごくもこもこのもっちもちな泡ができるの。この泡を全身につけると、某映画のマシュマロのお化けみたいになるんだ。


「ガオーッ!」


某マシュマロは鳴いたりしないが、気分は特撮の怪獣なので、指を爪っぽくして襲いかかるふりをした。


「……そんな鳴き声の魔物いましたっけ?」


首を傾げるスピカは可愛らしいが、私のささやかな遊びに乗ってくれてもよくない?


「うーん、竜種がおそってきたらこんな感じかも」


竜種に襲われた経験がないので正しいのかは不明だが、怪獣に襲われるのも竜種に襲われるのも、さほど違いはないはずだ。


「ネマ様、流しますよ」


シャワーっぽい魔道具で泡を洗い流すと、もう一度湯船へ。

今度は鼻歌を歌いながら、お風呂用の玩具(おもちゃ)で遊ぶ。

この玩具の魔道具は、本物の船を手のひらサイズにまで小さくしたやつで、水に浮かべると勝手に動く。付属の棒を使えば、(きょく)に引き寄せられる磁石のごとく、船を操ることができて、地味にハマる。

ちなみに、対象年齢が十歳くらいの、外で遊ぶ用の船もあるらしい。

そちらは帆船タイプで、風の魔法を使って操らないといけないそうだ。子供が遊びながら魔力操作を覚える、知育ならぬ魔力育(まりょくいく)玩具だね。

それも欲しかったけど、私では操作できないから諦めた。


「ネマ、わたくしは先に出るわね」


薄い肌襦袢(はだじゅばん)のようなバスローブを身にまとったお姉ちゃんは、相変わらず年齢を疑いたくなるプロポーションをしている。

前世で十四歳くらいのとき、あんなにお胸があっただろうか?いや、ない!

ママンも子供を三人も産んでいながら、すんばらしいお胸をしているので、私の将来も期待が持てるだろう。

胸が大きくて肩が凝る……まではいらないので、形のよい美乳が欲しい!

セイレーンのお姉様方に、美乳を育てる方法でも聞いてみようかしら?

自分のつるぺたーんな幼児体型を眺めていると、スピカが心配そうに声をかけてきた。


「湯冷めでもされましたか?」


湯冷めではなく、湯船に浸かりすぎて逆上(のぼ)せそうではある。

チラリとスピカを盗み見て、その自己主張しすぎないお胸にちょっと安心感を覚えたのは内緒だ。

マッサージ台に移動して、美肌になるというオイルをぬりぬり。足元から始まって、足裏はくすぐったくてバタバタしたくなるのをグッと我慢。ふくらはぎはめちゃくちゃ気持ちがいい。お尻はちょっと恥ずかしいけど、お尻の横!ここが痛い!!そして、腰から上にいくとこそばゆくて笑ってしまう。


「ネマ様、じっとしててください!」


「そこはダメ!もうダメ!ふはっはははっ!!」


肌を傷つけないよう力加減が弱く、それもあってなおさらくすぐったいんだってば!


「もう少しですから。体が終わったら、次は頭とお顔ですよ」


笑いすぎてぐったりしたところで、今度は仰向けになって頭をもみもみされる。

今のところ、ヘッドスパが一番気持ちいい。やっぱり、お勉強で頭を使っているからか。

気持ちよすぎてうとうとしている間に顔のマッサージも終了し、いい匂いのするクリームを塗り込められる。


「これでお肌が艶々(つやつや)になるとシェルさんが言っていました」


そんなものを塗らなくても、私のお肌はまだダメージ知らずのプルツヤですよー。

しかし、全身のお手入れはこれで終わりではない。

お風呂場から出たら体と髪を乾かし、髪にも香油をつけて整える。それから爪の手入れだ。

先は長い……。


「ネマ様、爪に色を乗せますか?」


「落とすのめんどうくさいからいいや」


マニキュアみたいなのもあるけど、こちらのも落とすのがちょっと面倒臭い。その作業をするのはスピカだけど、ただじっとしているのも飽きるんだよね。

現に、私はもうすでに飽きている!


「もういい?」


「もうちょっと辛抱してください」


「……もういい?」


「明日、早起きしてくださるならいいですよ」


スピカではなく、パウルがそう返してきた。

早起きかぁ……早起き……。


「早起きが嫌なら、今のうちに終わらせましょうね」


たとえ睡眠時間が同じであっても、遅く起きる方が得した気持ちになるよね。なので、私は早起きは選ばない!

ひたすら我慢してすべての工程を終えると、私は一目散にベッドへダイブした。

ハンレイ先生のぬいぐるみが優しく私を受け止めてくれるので、痛くもないし、そのまま毛並みに顔を(うず)めて吸う。

パウルかスピカが匂いをつけてくれたのか、ハンレイ先生からは爽やかな匂いがした。

ヴィが来るならラース君も来るから、再会したらラース君を思いっきり吸おうと決心して、私は眠りについた。


◆◆◆


昨日、あれだけ準備をしたにもかかわらず、またもやいろいろ塗りたくられる。

さらに、お姉ちゃんとエリザさんが用意した服は伝統的なライナス帝国の衣装だった。

ただし、装飾品が多い。帽子が重たいし、ベールが邪魔だし。

マーリエはよくこんな服で動けるなと、変に感心してしまった。


「ネマ、とてもよく似合っているわ!淡い青はどうかしらと思ったけど、水の精霊様みたい」


お姉ちゃんが選ぶ色は赤系か緑系が多いので、青とは意外だった。

しかし、ちょいと派手じゃない?

ベースは白が強めの水色だけど、刺繍は紺色と金色が使われており、帽子には金細工、銀細工がくっついている。宝石がつけられてないだけマシだと思うべき?

ベールは純白で花嫁のようだが、中身は私である。残念だったな!


ちなみに、お姉ちゃんの衣装は私のものよりタイトで、体のラインがわかる大人っぽいものだ。色が濃い青なので、お姉ちゃんの綺麗な赤い髪が映える。


「おねえ様もきれい!」


この歳でこれだけ美しかったら、数年後はどんな進化をとげるのか空恐ろしくなる。傾国の美女とはお姉ちゃんのことだね。


「そろそろお時間になりますので参りましょう」


今回お留守番組はおらず、みんなでミルマ国に向かう。

稲穂は珍しい魔物だから隠れていてもらわないといけないけど、家族で過ごせるよう大きな部屋を用意してもらっているそうなので、お部屋でなら遊べるだろう。


「稲穂、少しの間がまんしてね。森鬼がいいよって言ったら出てきていいから」


いつものショルダーバッグに入った稲穂に言い聞かせる。

私たちは到着したらすぐにご挨拶の予定ということで、バッグは森鬼に任せた。荷物を運んだり、安全確認のために、使用人たちは一足先に部屋へ入るからね。


転移魔法陣の間に入ると、陛下と皇后様、皇子皇女に皇兄(こうけい)皇弟(こうてい)と勢揃いしていた。マーリエがいないのは致し方ない。


「ネマちゃん、見違えるくらい可愛くなったねぇ!」


ルイさんが満面の笑みで褒めてくれて、頭を撫でようとしてマーリエ父に止められた。


「せっかくのおめかしを台無しにする気か?」


そうなんだよね。帽子もベールもあるから、頭どころか顔も触りづらい。軽いハグくらいしかしちゃダメだってパウルからも釘を刺されている。

つまり、目の前にユーシェがいるのに、抱きついてはいけないということだ。ぐぬぬぅ。


「やぁ、待たせたかな?」


先帝様と皇太后様もお出ましになり、いよいよ出発となる。

先帝様たちの警衛隊は大所帯なので、半分以上は前日に現地入りしているそうだ。

第一陣は先帝様と皇太后様と警衛隊。第二陣で私たちが飛んで、第三陣で先帝様たちの侍従やら側付きが飛ぶ。


「カーナディア嬢、ネフェルティマ嬢、ゆっくりできないだろうが、久しぶりに家族に会うのだから楽しんでおいで」


「はい、ありがとうございます」


転移魔法陣に乗り、お姉ちゃんが行く先を告げる。


「ニヴェアータ王城」


あっ、しまった!キラキラゴーグルつけるの忘れてた!!




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