★ コミカライズ8巻発売お礼小話 スライムと遊ぼう!
大変、遅くなりましたm(_ _)m
私は今、ひっじょーに頭を悩ませている!
なぜなら、足元にいる子たちから、期待の籠もった眼差しが向けられているからだ!!
「ネマちゃん、モテモテだねぇ」
ルイさんがこちらを見て笑っているが、そもそも事の発端はお前じゃー!
あと、皇弟殿下がモテモテなんて言葉を使っちゃいけませんって怒られろっ!!
サボりに来たルイさんにちょっとした疑問を質問したら、なぜか軍本部にお邪魔することになったのだ。
まぁ、捜査班のレイリウスさんが精霊伝いでおいでよーって言ってくれたのも大きいけど。
私の足元にいるのはスライムの群れ。
エルフの軍人さんたちの間でスライムを飼うのが流行っていると聞き、興味本位でやってきたのだが……まさか、軍本部の地下にスライムの託児所が開設されていたとは思わなかったよ!
「遊びたいの?」
私がそうスライムたちに問いかけると、バリエーション豊かな鳴き声での合唱が始まった。
スライムの七不思議の一つに鳴き方が個体によって違う、というのがある。
いや、この七不思議を作ったのは私なんだけどね。
ここにいるスライムたちはレイティモ山の子たちと比べると体色が淡いようにも思うし、親スライムによって個体差の現れ方が違うのかな?
さて、二十匹以上いるスライムたちとどうやって遊ぶか……。
白は、森鬼に投げられるだけでも楽しそうにしているんだけどなぁ。さすがに、人様のスライムを投げるのもいかがなものか。
室内で、大勢で遊べるやつ……うーん。
椅子取りゲーム、はないちもんめ、馬跳び、こおり鬼……は無理だな。あとは、おしくらまんじゅう?
スライムだとどっちが背中かわらないけど、土俵みたいなのを作って、最後まで土俵の上に残っていた子の勝ちってルールならやれそうだよね。
「レイリウスさん、この部屋に土の台みたいなのを作ってもいいですか?」
「えぇ、大丈夫です。土魔法が使える者を呼んできましょう」
しばらくすると、数人の軍人さんが土嚢をたくさん運んできた。
そして、部屋の真ん中で土嚢の中の土を全部ばら撒き、土の魔術師が魔法で形を整えていくではないか。
「さすがに、床を土に変化させるわけにはいかないので」
驚きながら作業を見つめていた私に、レイリウスさんの補佐官であるカルンステさんが説明してくれた。
床は石材でできているので、魔法を使えば土に変化させることができるようだが、ここは軍本部。建物自体に防御系の魔法がかけられているだろうし、他に仕掛けがあってもおかしくない。たとえ床とは言え、変化させてしまうとそれらに影響が出てしまうのだろう。
だから、土を持ち込んだと。
思いつきだったのに、意外と手間をかけさせたのは申し訳なく感じる。
土の魔術師に土俵の細かな部分はどうするかと聞かれたので、相撲中継を思い出しながら、ああだこうだと注文を述べる。
土台の形が整ったところで、何かが足りないことに気づいた。
……あ、俵だ!
うーん、おしくらスライムに俵が必要だろうか?この土台から落ちたら負けの方が、ルールとしてはわかりやすいだろうし……。
俵がないと、物足りない。と言うか、土俵とは言えないと思うが、ここはなしで行こう!
側面に傾斜をつけた四角い土台にOKを出すと、土の魔術師はその土台をガッチガチに固めてくれた。
「じゃあ、みんなこの台の上に集まってー!遊び方を説明するよー!」
スライムたちはぴょんぴょんと跳ねながら、土俵に上がっていく。その中にちゃっかり白が混ざっているのだが、周りのスライムより大きいのでバレバレである。
「他の子たちを台から落とし、最後まで残っていた子の勝ちです。ただし、落とす方法は体当たりのみ!体の形を変化させたり、高く跳ぶのは禁止だからね。わかった?」
おそらく了承の返事だと思われる鳴き声の大合唱。
ふむふむ。それでは、やってみようか!
「みんな真ん中にぎゅーって集まって!外側にいる子はがんばって真ん中の方に行くんだよー。それじゃあ、よーいどんっで始めるからね。……よーい、どんっ!!」
よーいどんの号令だと締まらないので、次にやるときは笛を用意した方がいいかもしれない。
――ぷきゃーっ!
――にゃーっ!
――ほーほーっ!!
あれ?猫とフクロウが紛れている??
ユニークな鳴き声に気を取られていると、押し負けた子たちが土俵の斜面をコロコロと転がっていく。勢いがつきすぎて壁際まで転がったスライムもいたけど、楽しかったのかそのまま壁に沿って転がり続けていた。
土俵に視線を戻すと、すでに半分くらいが脱落している中、白は体格差を活かして生き残っていた。
「白!がんばれー!」
白は私の声援を受けてやる気が上がったのか、体の回転を巧に操り、次々に体当たりを躱していく。
さらに、他のスライムにわざと当たることによって方向を変えたりと……。毎日転がって遊んでいた白だからこその技だろう。
他の生き残っているスライムたちも白を真似て転がり始めたが、やはり慣れていないせいか自滅する子もチラホラいた。
そしてついに、白と薄緑の子との一対一の対決に!!
他のスライムがいないため、自滅を避けるために両者は回転技を封じ、体当たりで土俵から落とそうと躍起になっている。
……土俵も相まって、おしくらまんじゅうではなくただの相撲になっているような気がしなくもない。
両者が体当たりをするたびに、ぽちょんぽちょんと音が鳴る。
二匹は真剣勝負をしているのに、なんか和むわぁー。
――みゅっ!みゅーーっ!!
薄緑のスライムを土俵間際まで追い詰めた白は、渾身の力を込めて体当たりを繰り出した!
避けきれずに正面からもろに食らった薄緑のスライムは、コロコロコロと転がって、壁に当たってようやく止まった。
「白の勝ちー!」
――ぴゅぅぅ……。
薄緑のスライムは負けたのが悔しいようで、そのまましおれてしまう。
やはり体が大きい方が有利なのだろう。白を除いて、もう一試合やった方が不公平なくていいかもしれない。
あと、土俵入りも一斉にやってみようかな?
「ちょっとやり方を変えて、もう一回やるよ!白は勝ったから見学ね」
今度はスライムたちを土俵の周りに集合させて、号令に合わせて土俵に上がらせてみた。
最初から真ん中にいる子が有利になるので、場所取りも勝負のうちということだ。
「それでは……よーい、どんっ!」
二回戦は転がることを覚えた子が多かったため、なかなか白熱した試合となった。
そして、勝ったのは先ほどの薄緑のスライムだ。
終盤まで残るスライムは緑系の色をした子が多いように感じる。好む生息域の違いが、おしくらスライムの強さの差になっているのだろうか?
「たくさんのスライムがはしゃいでいる姿も可愛らしいですけど、最後の一対一の方が応援したくなりますね」
「最初から一対一の対決でもいいかもね」
レイリウスさんだけでなく、ルイさんまでもがタイマン勝負の方が面白かったと言う。
男性陣は手に汗握る戦いの方が好みなのか、相撲スタイルが気に入ったようだ。
「それじゃあ、色ごとに分けてやってみる?」
スライムを色で分けて、トーナメント戦で代表を決める。そして、色の代表たちで総当たり戦をやり、勝ち星が多いスライムの優勝みたいにしてみるか。
まずは色分け。
赤、青、緑、黄で分かれてもらい、橙と茶は数が少ないので一つにまとめた。紫と灰色のスライムはここにはいなかった。
まぁ、紫は毒があるものを好んで食べるスライムなのでペットには向かなさそうだし、灰色は寄生型なのでいたとしても飼い主の体内に入り込んでいると思われる。
それから、個々を判別するために託児所にいるスライムたちのリストを用意してもらう。
飼い主さんの名前とスライムの名前が書いてあり、一匹ずつ呼んで体色を確認。
飼い主がエルフばかりなので、スライムたちの名前もエルフ風で凄く覚えづらい。
うちの子たちの名前は安直だけど覚えやすいし、すぐわかるいい名前だと改めて実感したよ。
「赤組から始めるよ!えーっと、ユヴェンドューとコルナンキュラ」
名前を呼ばれた二匹が土俵に上がり、中央部に追加した線の上に立つ。
こうなると、私も行司の気分だ。号令も……。
「見合うて……はっけよい……」
私が『はっけよい』と言ったあとは互いのタイミングで動いていいと説明していたので、二匹は即、体当たりを繰り出す。
取組開始とともに、私はのこったのこった!と行司の真似事をしていたのだが、ルイさんたちからの生温かい視線が痛い。
いや、試合なら審判は必要だし!!
トーナメント戦を始めてからしばらくすると、スライムの飼い主さんが迎えにくる姿があった。
まだ試合が終わっていない子は帰りたがらなかったので、飼い主さんもスライムに付き合ってスライム相撲を観戦するという、なんだかよくわからない状態に……。
そして、我が子を応援し、我が子が負けても誰が勝つのか最後まで見届けたいと残る飼い主さんが多数いて、マジで相撲観戦みたいになってしまった。
トーナメント戦をしてからの総当たり戦をやっていたら、さすがに時間がかかりすぎた。
精霊さんが帰りが遅いとパウルが怒っていると教えてくれたので、急いで帰ることに。
最後まで試合を見届けられなかったのが残念でならない。
翌日、ルイさんがどの子が優勝したのか教えにきてくれた。
緑のスライムが勝ったのかと思ったのだが、意外にも黄色のスライムが多く勝ち星を挙げたそうだ。
「飼い主のエルフたちがあの遊びを大層気に入ってね。帰り際、スライム競技実行委員会を発足させるって張り切っていたから、相談に乗ってあげて」
「スライム競技実行委員会!?」
いやいや、さすがにそれはないでしょって思っていたのに、本当にその委員会が発足され、なぜか私に名誉委員長という肩書きが贈られた。
さらに、スライム相撲で軍部公認の賭博まで行われるようになってしまったのは、私のせいではないと声を大にして言いたい!!