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陛下めっ!!

パウルが到着し、一緒に戻ってきた星伍は褒めて褒めてというように私を見上げてきたので、いつものようにたくさん撫でる。


「ご希望されていたものをお持ちしました」


「ありがとう!」


物をパウルから受け取り、早速テーブルの上に広げる。うん、私が欲しかったもので間違いない。


「それは、粘土か?」


ラグヴィズの興味を引いたのか、私がそうだと肯定するとおもむろに粘土へ手を伸ばした。


「へぇ。一般的に子供の遊びに使われている粘土とは配合が違うな。面白い」


やっぱり触っただけでわかるようで、私は粘土を自分で作ることにした経緯を話す。

子供向けの粘土は油粘土よりも固くて、道具を使って切らなければ分けられないほどだ。丸めたり、形を整えたりはできるけど、正直すぐに腕がしんどくなる。

それならばとカイディーテにお願いして、一から自分好みの粘土を作ろうと試みた。


「アーレイ石の量が多いように思うが、乾燥したら固まって大変じゃないか?」


乾燥させるだけで強度を出してくれる性質を持っているのがアーレイ石だ。確かに、この石だけだと、粘土をこねている間に固まり始める。

それを防ぐのが、水分を含むとスライムみたいにデロデロになるロア石の粉末。

実はロア石の粉末の量が数ミリグラム違うだけで、粘土の感触がずいぶん変わるのだ。


「ロア石の粉末でちょうせいしているから大丈夫」


ラグヴィズにマイ粘土を返してもらい、私はあるものを作る。


「できたー!」


「何を作ったのか聞いてもいいかい?」


「ドワーフを運ぶ箱よ!」


これを一目で言い当てられるわけがないので、私は自信満々で答える。

そして、一つ一つ説明していった。

最初に私が思いついたのはトロッコだった。ロープで引っ張るタイプじゃなくて、手で()ぐやつね。

でも、巣の山から拠点へ通うのに手漕ぎはどうかと思うし、魔法でも動かせるんじゃないかと考えた。


「この変わった形の棒は?」


「この一本の上を箱が馬車みたいに進むの」


本来のトロッコだと重いものを運ぶために線路が二本あるが、これは一本のモノレール式にしてみた。作るときに一本の方が楽かなって思って。レールは石ですぐ作れそうだし。

車輪は金属にして、車輪を動かす仕組みが問題だけど、そこは魔法のプロにお任せするしかない。

まぁ、ダメだったら二本線路に変更しよう。


なんちゃってトロッコもどきを説明していたら、強い視線を感じた。

気になってそちらを見ると、パウルが真顔だった。感情が顔に乗っていないのって怖いんだけど……。

笑顔で怒っているときと同じくらい真顔も怖いよ!


「ネマお嬢様、陛下への発言をお許しいただくようお願いしてもらえますか?」


目が合ったパウルは私にそうお願いしてきた。

パウルの代わりに陛下に聞くとすぐに承諾してくれて、さらには非公式の場でなら一々許可を取らなくてもいいとまで言うではないか。

パウルが認められたようでちょっと嬉しい。


「それでは僭越ながら、ネマお嬢様のこの発案、オスフェ家は権利を主張いたします」


「けんり??」


突然何を言い出すのかと思ったら、権利ってなんの権利を主張するの?

私は理解できなかったけど、陛下は違うようだ。


「これほどのものとなれば当然だろう。詳しい契約内容はあとで詰めるが、開発費はこちらが持つので、使用料の減額といったところか?」


「わたくしでは力不足ですので、オスフェ家より担当の者をお呼びいたします。重ね重ね不躾ではございますが、転移魔法陣の使用許可をいただきたく存じます」


あ、なるほど。トロッコもどきも発明みたいな扱いになるのか!

だから、我が国の特殊技術法のもと、使うならお金払ってねって言えると……。

しかし、肝心の動力部分は何も考えていないんだけど、それでも主張していいのだろうか?それに、鉄骨サンテートや継ぎ手には何も言わなかったのに。

私が疑問に思ったことをパウルに問うと、あっさりと教えてくれた。


「ネマお嬢様が組合に提供した技術は、職人しか使えないものだからです。平面図のときは、シアナ計画に大工組合を取り込む目的もありましたから権利を主張するまでにはいたりませんでした。しかし、この人を運ぶものならば、使用するのはドワーフ族だけに留まらないでしょうし、今後さらなる発展が望めます」


ロスラン計画だけ使うならモノレールがいいと思ったけど、他にも使うつもりなら線路が二本の方がいいような気がしてきた。

ただ、二本線路で上り下りを作ると場所を取るよねぇ。トロッコもどき用の道を別に作るべきか。


「ロスラン計画以外にも使うの?それなら、もっとしっかりとしたこうぞうにした方がいいかも」


「他にも案があるのか!?」


ラグヴィズがズズッと身を乗り出してくる。今日一番の食いつき方だな。

二本線路を説明していくと、ラグヴィズの目がどんどんギラギラしていく。

こっちの方が金属を多く使うし、形も複雑だから腕が鳴るとでも考えているのかもしれない。

車輪も二本線路の方がわかりやすい感じはあるけど、あれはあれで技術がてんこ盛りだったような。


「車輪を動かすにはどうしたらいいのかわからないけど、使えそうな魔法があるかな?」


「土魔法では思いつかないけど……エル、風魔法で何かあるか?」


「風で押すくらいしか……。風量が多ければ多いほど当たったときの力は強いけど、箱が吹き飛ぶだろうね」


風で押す、つまりは風圧か。

イメージ的にはトロッコよりも蒸気機関車の方が近いような気もしなくもない。

しかし、私の中の蒸気機関車の知識といえば、石炭を燃やして、水を熱し、水蒸気で走る、くらいなのだよ。

そういえば、蒸気機関車の車輪って棒がついていて、それも動いているような?

棒を前後させればいいのか?

粘土で再現してみても、どうもしっくりこない。

でも、ラグヴィズは何か思いついたようだ。

私から粘土を奪い取るとパーツを足して、見たことあるような形になった。


「この主軸に車輪と繋がる別の軸を連動すれば、風魔法を使ってここを動かすだけで全部が動くようになるはず」


「おぉっ!ラグヴィズすごい!!」


たぶん、これで正解だと思う!

ラグヴィズが主軸と呼んだのは、私が車輪につけようとしていた棒のことで、それを直接車輪につけるのではなく、短い棒を間に挟むことで複数の車輪が同時に回転できるようだ。

前世で見た蒸気機関車もこんな感じだったし、動くなら違っていても問題ない!


「さすがにこの部分を動かす構造は魔道具として作らないと無理だから、国の魔術師にやってもらった方がいい」


主軸を動かすこの部分、動力の(かなめ)であることはわかる。蒸気機関車以外で想像しようにも、近いものと言えばディーゼルエンジンや車のエンジンだとしたらマジで知らない。

乗り物で仕組みを理解しているのって、自転車くらいだということに今気づいた。

まぁ、自転車もちゃんと説明できるかどうかは怪しいところだけど。


「魔道具の開発には、オスフェ家の魔術研究所からも人を派遣いたします」


我が家の私設魔術研究所には、養蜂ビニールハウス計画もお願いしているのに大丈夫なのだろうか?

他にも、ハンレイ先生のぬいぐるみ作製や温泉施設のメンテナンスなど、放置できない仕事はあるはず。お姉ちゃんは暇だって言っていたけどね。


(ひい)でているうえに、他者を思いやる優しさも持ち合わせるお姫様がいるなら、この国にいるのも悪くないね」


エレルーンさんに頭を撫でられながら褒められるのは悪い気はしないけど、むしろ嬉しいけどさ……。

陛下、私が妹じゃないってまだ言っていないの!?

ギュンッと勢いよく陛下へ振り向けば、あからさまに顔を()らされた。

でも、私のことを嬢をつけて呼んでいたよね?私も普通に陛下って呼んでいたよ?


「エルに認められるって、お姫さん凄いな!」


ちょっと待って!

ラグヴィズの基準はすべてエレルーンさんなの!?

エレルーンさんが私を認めたからラグヴィズも認めたって、私としては複雑なんだが。


「あのね……」


認めてくれたのが、ライナス帝国の皇族であることも含めてだったら申し訳ないので、陛下の妹じゃないと白状しようと口を開いた。


「ネフェルティマ嬢……それはあとにしよう」


えっ、なんで言わせてくれないの?陛下……まだ前の企みが継続中ってこと!?

陛下への警戒心を抱きつつ、その日の話し合いは終了した。


数日後、転移魔法陣を使ってオスフェ家からやってきたのは、パパンの配下の一人。

彼は、パパンが信頼する配下の中でも特に優秀な人物で、パパンの右腕が執事のオルファンだとしたら、彼は左腕に相当する。

いつもは直轄領地の管理や代主たちの相談役として、オスフェ領内をあちこち飛び回っている。

そんな彼がパパンの代理としてライナス帝国にやってきたのは驚いた。

ガシェ王国からは超ベテランの外交官が一緒に来ている。こちらも顔見知り程度ではあるが、知り合いなので心強い。

そしてやっぱり、こちら優位で話がトントン拍子でまとまった。

まぁ、陛下が譲歩(じょうほ)してくれた面もあると思うけど。

そして、ロスラン計画の評議会が開かれることになったのだが、陛下が彼らにも出席するように言う。

しばらく滞在することになった二人は休むことなく精力的に動いていたので、私が宮殿で会うことはほとんどなかった。


◆◆◆


そして、評議会が行われる日。

宮殿で一番大きな議場には、主立った貴族、ロスラン計画の関係者が集まり、なかなか賑わっている。

その中にはラグヴィズたちの姿もあって、貴族たちが(いぶか)しげに見ていたが、ヴォノック親方が側にいるので心配はいらないだろう。

陛下が皇子たちを引き連れて壇上に上がると、水を打ったように静まり返った。

全員が起立し、陛下たちに対して礼を取る。


「楽にせよ。では、始めようか」


陛下が開始の宣言をだされると、官吏の人たちが全員に資料を配る。

さらに議場の中央部分には、台車で大きなものが運び込まれた。布で隠してあるので、中身はわからない。

私も今日の内容はまったく知らされていないので、あれがなんなのか気になる。


「まずは、手元に配った資料を見よ」


資料には『ロスラン計画の拡大について』とタイトルが振ってあった。

ペラペラめくっていくと、拠点の数を増やす理由や候補地、刑期を終えた人の支援目的、予定する職種などが書かれていた。資料と言うより企画書だね、これ。

ロスラン計画を進めている部署の官吏が陛下に代わって説明していき、一つの項目が終わると質疑応答というスタイルで評議会は進んでいく。

ヘリオス領だけが恩恵にあやかり過ぎるのではないかと意見が上がると、このサービスエリア方式が成功すれば、他の領地でも行ってよいと陛下は答えた。


「今でも、徒歩の移動距離に合わせた場所に宿場町があるはずだ。ヘリオス領に限らず、道を整え、町を栄えさせるのは領主の務めではないのか?」


サービスエリア方式は今ある町などを利用して行うことが可能なので、本当はやろうと思えば誰でもやれたはず。


「調べたところ、これと似たようなことをしている領地は複数あった。まだ改善点はあるだろうが、これを期に見直すとよい」


実際に行っている領主もいるので、ヘリオス領への不満を述べた貴族は押し黙った。

似たようなことをしていた領主たちは、熱心に企画書を読み、官吏の説明に耳を傾けているのですぐに判別がついた。

少しでも情報を持って帰って、ロスラン計画のいいところを自分の領地でも行いたいという思いからなのだろう。

自分の領地をよりよくしようと頑張る姿には好感が持てるね。

そして、拠点と拠点の移動手段の話になり……。


「ネフェルティマ嬢の協力のもと、ガシェ王国のオスフェ家とともに新たな馬を必要としない乗り物を開発することになった」


陛下が合図すると、中央の謎の物体にかれられた布が外される。

デデンッと効果音が欲しくなる仰々しさで現れたのは、私が粘土で作ったトロッコもどきにそっくりなやつだった。

こちらの方が大きくて、模型だとしても私なら乗れるのではと思ってしまった。

……はっ!これが完成したら、自分で運転できる車の玩具が作れるじゃん!!

すぐお姉ちゃんにお願いしないと!!


私の思考が玩具へ向かっている間、議場はざわついていたようだ。

どんなにたくさん魔道具が発明されようと、馬に代わる移動手段はなかなか誕生しなかったから、衝撃が大きかったのだろう。


「魔道具もそうだが、これを作るには複雑な部品を作る鍛冶の技術が必要となる。しかし、現状のロスラン計画で鍛冶組合には余裕がないとのこと」


陛下の言葉に強く頷く鍛冶組合の長さん。

その隣に座っているヴォノック親方が、なぜか自信満々なドヤ顔をしているのが気になる。


「よって、ドワーフ族の野鍛冶流に加わってもらうことにした」


陛下がドワーフ族のことを公表すると、今日一番大きなざわめきが起きた。

中にはドワーフ族が実在することが半信半疑な人もいるみたい。


「皆に紹介しよう。ドワーフ族野鍛冶流の長、ラグヴィズだ」


ヴォノック親方が無理やりラグヴィズを立たせた。いっせいに視線が集中し、ラグヴィズは少し顔を引きつらせながら、陛下に礼をする。

周りにいる貴族たちにではなく、陛下にするのは彼なりの意思表示なのだろう。

人間に対してではなく、陛下だから協力するのだと。


陛下の予想通り、いくつか反発の声も上がったが、見事に瞬殺される。


「ならば、彼ら以外にこれを作れる者を紹介してくれるのだな?もちろん、鍛冶組合に属している者は無理だぞ」


ライナス帝国の鍛冶組合の者は、すでにロスラン計画に組み込まれているか、通常の依頼を消化するので忙しいはずだ。

では他国からと言っても、ガシェ王国からは望めないし、イクゥ国と小国家群はそれどころではない。ミルマ国なら可能かもしれないが、国益が絡むものに他国を介入させたくない気持ちも強いだろう。

つまり、しがらみのないドワーフ族が一番マシなのである。

無駄に反発するよりもここで賛成して、完成したものを領地に導入した方がいいと考えた貴族たちは、面白いくらい綺麗に手のひらを返した。

それだけ、トロッコもどきが魅力的だったのか……。

知っているかわからないけど、トロッコもどきを領地で使う場合、オスフェ家にお金を払うことになるからね?

契約するときはちゃんと契約書読んでね!


貴族たちの様子をニマニマ眺めていたら、官吏から謹聴(きんちょう)せよと声が上がる。

再び静寂(せいじゃく)となった議場に陛下の声が響いた。


「これにより、我がライナス帝国はドワーフ族の野鍛冶流と協約を結び、我が国で彼らを保護する!」


一瞬の間を置いて、議場は拍手に包まれる。

ようやくその言葉の意味を理解した私は、口を開けたまま固まった。


や、やられたーー!!

ドワーフの保護が協約に含まれているなら、シアナ特区に呼べないじゃん!!

好奇心の強い数名くらいならスカウトできると思っていたのに。

陛下め!やっぱり最初からこれを狙っていたんだろう!!


悔しくて無意識に地団駄(じだんだ)を踏んでいたらしく、パウルにはしたないって注意された。

まさに踏んだり蹴ったりである。


ネマが粘土で作りたかったもの→機関車○ーマスのプラレールに似たやつ

実際に出来たもの→箱と車輪っぽい丸と棒がくっついただけの何か


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