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ロスラン計画を大きくするぞ!

ようやくラグヴィズが宮殿に到着したという知らせを受けて、急いでいつもの会議室へ向かう。


「ラグヴィズ、エレルーンさん!」


エレルーンさんも来るのは予想がついていた。

この夫婦はワンセットにしていないと、いろいろと面倒臭そうだもの。特にラグヴィズが!


「よお、お姫さん」


ラグヴィズは変わらず……と言いたいところだが、明らかに顔色がよろしくない。

ドワーフの村が襲撃されたことを陛下から聞いたのだろう。自分がいないときに襲われたとなれば、ショックも大きいはず。

私が簡単に挨拶をすませて着席すると、陛下は話を続ける。私に説明がないということは、私がすでに知っていることをラグヴィズに伝えていたと思われる。


「ドワーフは誰も怪我をしていないから安心して欲しい」


特命部隊がいなければ、全員無事という奇跡は起こらなかっただろう。

陛下、もしかして予知能力持っていたりするのか?


「それで、襲ってきた奴らの正体は?」


「詳しく説明はできないが、根気強く話を聞き出しているところだ」


陛下がチラリと私を見た。

私の前では言いづらい内容だったのだろう。ようは、拷問とかそこら辺の。

拷問と言えば、爪を一枚一枚剥がしたり、指を一本ずつ折ったり、道具を使うなら鞭打ち百回とか……。うぅ、想像しただけで痛い!


「血を流すようなことはしていないそうだから」


私が想像しちゃったのがバレたようで、陛下が苦笑しながら教えてくれた。

血を流さないって、メンタル攻撃のことか?

絶対に寝かせないとか、延々と脅し続けるとか。もしかして、水責めとか、怪我しない程度の魔法を使っている可能性もあるね。

何にせよ、捕まった人にはご愁傷様としか言えない。あ、吐いたら楽になるよ、があったわ。


「ラグヴィズが懸念(けねん)していた襲撃だが、私たちが接触してからすぐに起こったことを考えると、再び襲われるかもしれない。そこで、君たち全員を保護するために、他の重臣たちを納得させられる理由が必要なのだ」


「つまり、僕たちの優秀さを示せってことか?」


「優秀さはもちろんだが、君たちは野鍛冶(のかじ)以外に何ができるのか、詳しく教えて欲しい」


「基本、炉を使う工程のものならなんでもだな」


金属を扱う場合も含むそうなので、思ったより幅広い。

包丁などの研ぎはもちろん、金属製品の研磨、彫金。鍛金(たんきん)で武器だけじゃなく建物の飾りから銀食器までいろいろ作れるらしい。

鋳型(いがた)から作る鋳金(ちゅうきん)、鋳造になるともっと複雑な形にもできるんだって。なので、アクセサリーも作れちゃう。

それなら、ラース君の置物でも作ってもらおうかな?

あとは、趣味でガラス加工や焼き物をしているドワーフもいるそうだ。


「ネフェルティマ嬢、どうだ?」


ドワーフが多才なので、絞るに絞れないよ。

いっそのこと全部やっちゃう?アクセサリーや置物ならお土産として販売できるし、ガラス加工や焼き物ならワークショップみたいに教室開いてみんなで作るのも楽しいかも。

そうすると、あの拠点じゃ狭いから拡張しないといけないけど……。


「へいか、ロスラン計画のしきちってどこまで広げられるかな?」


「これ以上の拡張となると、飛び地になってしまうだろうな」


飛び地……それだ!!

ヘリオス領の領地を横断するように飛び地を点在させて、街道を整備して高速道路のサービスエリアみたいにすればいいんだよ!

言葉で説明するとややこしくなりそうなので、紙に描きながら説明していく。


「この紙がヘリオス領だとして、ここがロスラン計画のきょ点。一日歩きで移動できるくらいの場所に、別のきょ点を作っていくの」


ロスラン計画の拠点を大きな丸で描き、一定の間隔を空けて小さな丸を描いていく。


「こっちのきょ点は宿と食堂は必ず作って、あとはそれぞれで目玉になるものを置いて特色を出せば面白いと思う」


小さな丸の横に、ラグヴィズが言った作れるものをかぶらないように記入する。ワークショップも忘れてはならない。えーっと、体験教室で通じるかな?

それだけじゃなく、私の独断で、ここは食べ物のお店がいっぱいとか、ここでしか買えないお菓子を売るとか、あったらいいなって思うものも追加する。

街に近い拠点なら、安くて美味しいものがあれば、街から買いにきてくれる人もいるだろうし。あ、屋外でバーベキューもいいな。手ぶらでできるバーベキューにして、家族でちょっとした贅沢という感じで流行ったらいいなぁ。


「各きょ点はロスラン計画にちなんで、歴代の皇帝様のお名前付けて、この道をセリューノス街道って呼ぶようにすると完ぺき!」


「ネフェルティマ嬢。在位中に私の名前を付けた道を、自分主導で作るのはさすがに恥ずかしいのだが?偉人の名前を使うのは、後世の者がやるものだよ」


「……じゃあ、皇帝街道」


セリューノス街道、いいと思うんだけどなぁ。国民が陛下に親近感を覚えてくれるかもしれないし。

しかし、本人が嫌がるのなら致し方なく、本当に渋々、第二候補だった街道の名前を口にする。


「ぷっ……はははっ……!お姫さん、最高だよ」


ラグヴィズはお腹を抱えて笑っていて、エレルーンさんも堪えきれずに体を震わせている。

別にウケを狙ったわけではないよ?

私は本気でセリューノス街道がいいと思ったのに!みんな酷いよ!


「話を戻すが、拠点ごとの特色を出すということは、ドワーフを分けて配置するということかい?」


「うん。やっぱり馬車での移動は危ないかな?」


大人だけど見た目は少年の男性ドワーフが、変態に狙われる危険をどう回避するか。いい案が思い浮かばないんだよね。


「そうだね。身の安全の確保が難しいかもしれない」


「専用の馬車を用意するとかはどう?」


帝国軍の人員輸送車みたいな馬車で、早番や遅番のシフト作って送迎させるの。


「送り迎えなら気にしなくても大丈夫ですよ。土魔法でどうにかできるので」


「あぁ、そうか。お姫さんたちは知らないのか」


どういうことかと二人に問うと、土魔法でなら土の道を高速で移動する方法があるのだと教えてくれた。


「巣の山を移動するときに使っている魔法なんだ。土で箱を作って、その中に運びたいものを載せる。箱に『粉砕』の文様符(もんようふ)を貼って、地面には『細砂流動(さいさりゅうどう)』の魔法をかけると、砂の川ができて箱が舟のように動くんだよ」


ラグヴィズは私にもわかるように説明してくれたんだと思う。

でも、私にはどんな魔法なのか、想像したもので合っているのか、判断できないんだよね。


「ここで魔法を使ってもいいか?」


「あぁ、構わないよ」


陛下に承諾を得ると、ラグヴィズは服のポケットから握り拳大の石を取り出した。

その石といい、白にあげていた魔石といい、なんで持ち歩いているんだろう?

ラグヴィズは石を無詠唱で土に変えた。


「この土が地面とする。無詠唱で砂にすることもできるが、箱を運ぶときは範囲も広いし、継続的に発動しなければならないので、『粉砕』の文様符で砂にする」


今は文様符がないため、ラグヴィズはわざわざ詠唱してくれた。

粉砕の魔法がかけられた土は、サラサラの砂になった。


「ここまで細かくなった砂を細砂と呼ぶ。その細砂に限定して、動かせる魔法をかける。短縮しない詠唱は『細かき砂は流れ動く』だ。文様符から連動させることもできる」


実際に魔法をかけて、砂を自由自在に操ってみせるラグヴィズ。砂が棒状になったかと思ったら、芋虫のようにうねうねと動く。

そして、何より不思議なのが、砂が集合して固体のように見えても、この魔法がかかっている間はずっと動き続けていること。

なんか、イワシの群れが密集するベイトボールの動きに似ている。

テーブルの上をサラサラと流れ動く砂に、エレルーンさんが小さな土の箱を乗せた。

すると、ちゃんと砂が箱を運んでいるではないか!ちょっと生き物のようにも見えて……。

いや、待てよ。


「星伍、おいで」


私は椅子から下りて星伍を呼ぶと、小さな声であるお願いをした。


「いい、ちゃんとパウルにわたす(・・・)のよ」


――ワンッ!


星伍がしゃべれることを知らない人もいるので、何か物を託したように装い、星伍にパウルへの伝言をお願いした。


「パウルが来るまで移動手段の話は中断して、きょ点にどんなお店を出すのか決めよう!」


話の腰を折ったのは申し訳ないけど、閃いた案は言葉や絵で説明できる気がしないんだよ。

なので、ひとまず決められるものを決めていこう。


「お姫さんがいいなら、僕は構わない」


「では、私から質問をいいかな?」


陛下にどうぞと促すと、紙に書いた「体験教室」を指さした。


「これは何をするものだい?」


「ちょう金やガラス作りを初めての人に体験してもらうの。鉄の板に自分の名前をほるだけでもいいし、ガラス玉を首飾りとか簡単な装飾品にするだけ」


料理、刺繍、護身術あたりは女性受けはいいかもしれないし、男性向けには……ビジネス関係しか思いつかないけど、子供と一緒に参加してもらって職業体験みたいにしてみるとか?

それなら、母親も一人の時間ができて女性向けの体験教室に参加しやすいし、お買い物も楽しめるんじゃないかな?


なんてことを思いつきのまましゃべっていると、陛下が押し黙ってしまった。

体験教室、ダメだった?


「何かを体験するというのはいい案だが、他の種族と関わりを絶っていたドワーフ族が人に教えるというのは難しいのではないか?」


陛下の指摘はごもっともだ。教える側のことを見落としていた。


「彫金や硝子加工はドワーフたちが慣れた頃にするべきだな。他の料理や刺繍は別の者でも可能だと思うがどうだろう?」


「へいかは教えてくれる人に心当たりがあるってこと?」


「盗犯収容所でくすぶっている者たちがたくさんいるね」


……あぁ!この前陛下が教えてくれた、軽犯罪者の更生施設!

でも、教える側が犯罪者って、参加する側が拒絶しないかな?


「刑期を終えて普通の生活に戻ろうにも、捕まったことが知られていると雇ってくれるところはないし、どうしても貧困地区での生活に落ちてしまう。そうなると、生きるために盗みをする。その悪循環を絶つために、刑期を終えた者の受け皿にどうかなと考えたのだが」


ロスラン計画自体が国の事業なので、ライナス帝国が抱える他の問題をロスラン計画で改善できるなら取り込んだ方がいいと思う。

陛下の話では更生施設でいろいろと仕込んでいるようだし、やってみる価値はある。


「それなら、きょ点の一つを更生施設のものにしよう。食堂の料理人もお店の売り子も刑期を終えた人をやとって、更生施設で作ったものを売る。その売上の一部を今後の更生しえんの予算に上げれば、国も助かる」


日本の刑務所でも受刑者が作った家具とかを販売していたりするし、自分が作ったものが売れたとなれば、作った人の自信にも繋がるだろう。

社会復帰の一環としてなら、他からも反対の声は出にくいはず。


「ただし、事前に社会ふっきの手助けをしていますって周知させないと、きょ点近くの住民たちが不安がるし、お客さんも来なくなるかもしれないよ」


「その点は十分気をつける」


拠点の場所選びは陛下の臣下のみなさんに任せるとして、次はドワーフたちがどうやって他の種族に慣れていくかだね。


「女性のドワーフは外に出たことがある人が多いの?」


「うん、大人になったら一度は出ている者の方が多いかな。私は姉が嫁ぐときに、護衛として一緒についていったことがあって。そのときに、姉が最後だからと、人がたくさんいる町を見て回ったんだ」


話を聞いているだけでも、仲良し兄弟(・・)が楽しそうに町を散策する姿が目に浮かぶ。


「じゃあ、人と接するのはいや?」


「……人によるとしか。親切で優しい人もいたが、やはり傲慢(ごうまん)な人も多かった」


接客をすると、どうしてもクレームとか面倒臭いお客さんの対応もしなければならない。

ドワーフに接客は難しいようなので、別の案を練るしかない。


「ネフェルティマ嬢、何もドワーフだけでやろうとしなくていいだろう。エルフや獣人も入れて、ドワーフが苦手な部分を(おぎな)えばいい。そして、他の種族のやり取りを見て、人との接し方をドワーフが学ぶんだ」


陛下曰く、人以外の種族、特に獣人は戦闘職を除いた職種ではまだ定職率が低いそうで、国が雇用促進のために政策を打ち出しているそうだ。

国側も雇用できるところはやっているけど、増やせるなら増やしたいということなのだろう。

それならば、まずはドワーフたちが雇ったエルフや獣人たちと仲良くなる期間が必要だね。


「ちょう金とガラス加工は、作っているところを見えるようにしたらどうかな?最初は売るだけにして、エルフやじゅう人が売り子をするの。それなら、ドワーフたちもエルフとじゅう人との付き合いからだし、仲良くなったら体験教室のお手伝いをしてもらえるでしょう?」


「作っているところを見せるか。それは面白そうだね」


食べ物なら作っているところを見せるお店がこちらでもある。だいたいはお菓子のお店らしく、やっぱり美味しそうって購買意欲をかき立てるためのものなんだよね。

鍛冶やガラスは職人の工房に行かないと作っているところは見られないから、好奇心や興味から足を止めてくれる人も多いと思う。そして、購入に繋がるとなおよし!


「ラグヴィズはどう思う?」


私たちの会話に口を挟むことなく聞きに回っているラグヴィズに意見を求める。

私たちがああだこうだ言っても、実際にやるのは彼らだから嫌なことはさせたくない。


「作っているところは毎日見せないと駄目か?誰かに見られている状況が苦手な奴もいるんだ」


そうだよね。監視されているみたいで嫌だって思う人は絶対にいるよね。

皇族や高位貴族は見られるのも仕事みたいなところがあるから、一欠片も考えつかなかったよ。


「毎日でなくてもいいだろう。むしろ、たまにの方が珍しがって人が集まるようになる」


希少価値を上げる作戦か!それいい!そういうの大好き!!


「苦手な奴が前に出ないようにしてくれればそれでいい。僕たちが作ったものを認められること自体は誇らしいから」


こうして大まかなことが決まると、パウルがタイミングを見計らったかのように到着した。


「ネマお嬢様、お待たせいたしました」



セリューノス街道、私も気に入っていたんだけどなぁ……。

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