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閑話 その果ての先に……。(捕虜視点)

下品な表現が出てきます。下ネタが苦手な方は飛ばしてください。

捕虜がそういった方面で酷い目にあっています。

集まった顔ぶれを見て、俺は気分が昂揚した。

ファーシアでも極秘にされている集団とともに、創聖教のために働ける自分が誇らしくもあった。


「これから向かうドワーフ族の集落は、我々に協力してくれている者の邪魔になるので、一人残らず全滅させよとの命令だ」


協力者の邪魔になるということは、俺たちの目的の邪魔になるということだ。

聖主(せいしゅ)様の邪魔になるものはすべて排除するのは当然。

指揮官の指示のもと、出入口から侵入する隊と反対側から塀を越えて侵入する隊とに分かれて行動を開始した。


塀を上ろうと一人が足場になり、それを利用して塀に飛び乗った者が痛みを訴えた。

その者が塀から離れると、手がおかしいと騒ぎ始める。

何が起こったのかと、一人がその者の装備を外して手を確認すると、怪我をしたであろう部分から皮膚が白っぽくなっていた。

触れるとその白い部分がポロリと剥がれ落ちると、その下には金属のような何かがあり、嫌悪感が背筋を走る。

人の体がこんなふうになるのは尋常(じんじょう)ではない。


「塀の上に何があるのか確認してくれ」


別の奴が慎重に塀の上を覗くと、石を(とが)らせたものが並んでいると言う。

その石のせいでああなったのか確証はないが、触れない方がいいのはわかる。

なんとか石を避けながら塀を越えると、ドワーフの集落は異様に静まり返っていた。

出入口の方からも侵入しているはずなのに、音がしないのはどうしてなのか。


塀を乗り越えるときに誤って石に触れてしまった奴らを放置して、ドワーフがいるであろう土の山の中に入ろうとした。

俺の記憶はそこで途絶えている。

目を覚ましたら牢獄の中にいて、自分が何者かに捕まったことを理解した。


ドワーフどもに加担しているのがどこの組織かわからないが、俺たちは聖主様を売るようなことはしない。

どんな拷問されようとも、目的のためなら死すら受け入れられる。


「あ、起きたね」


鉄格子の向こうにはエルフの男がいた。それだけならまだいいが、獣人も横に控えている。

汚らわしい他種族めっ。

俺が睨んでいると、エルフが鍵を開けて中に入ってきた。


「今は何もしないよ。でも、君がどれだけ耐えられるか楽しみにしているね」


ただそれを告げただけでエルフは出ていく。いったい、なんのために入ってきたんだ?

訝しんでいたが、エルフが言った通り何もされずに時間が過ぎていく。

それから何回か獣人が様子を見にきて、ガンガンと鉄格子を叩いて俺を脅してきた。外側から威嚇してきても、何も怖くはない。

一日が経った頃だろうか。俺は飢えさせるつもりなんだと思った。

捕虜だとしても、情報を吐くまでは生かしておくのが普通だ。だから、一食だけでも食事を与える場合が多いのに、それがないということはそうなのだろう。

与えられる水だけで空腹を誤魔化すも、いつまで保つか……。


しかし、牢獄に悲鳴が響くときがあった。

仲間だと思うが、いったいどんな拷問をされているのかと不安がわき上がる。

そして二日くらい経つと、自分がほとんど眠れていないことに気づく。獣人が定期巡回する際に大きな音を出して、無理やり起こしにかかる。

それでもまったく眠れないわけじゃないのでなんとかなっているが、これ以上続くとまずいかもしれない。

寝ぼけた状態で、つい話してしまう可能性もある。


◆◆◆


三日くらいから感覚が曖昧になっているが、いつの間にかエルフの男が俺の前に立っていた。

牢獄の中には、食べ物のいい匂いが充満している。体は正直で、腹の音が鳴った。


「お腹空いているよね。捕虜に食べさせるにはもったいない食事を用意してもらったよ」


それが奴の作戦なのだろう。食べ物で釣って、情報を吐かせるつもりか。


「まぁ、しゃべらなくてもいいけど。ヨーク君、これ食べる?」


「いただきます!」


狼族の獣人らしき男が、エルフにすすめられて肉に手を伸ばす。

骨がついた肉にかぶりつく姿は獣そのものだ。


「うまっ!これ、めっちゃ美味いですよ!」


パタパタと尻尾を揺らす獣人。

肉汁をすする音も大きく聞こえた。無意識に喉が鳴る。


「君、元は冒険者かな?メーデルのお肉は食べたことある?」


冒険者をやっていてもメーデルの肉を買えるほど稼いでいないだろうと、俺を馬鹿にしているのか?

買えるくらいは稼いでいたさ。食べたことはないけどな。


「わたしの質問に答えてくれるなら、このお肉をあげてもいいけど……」


俺は無言を通す。食べ物くらいで、俺の意思が揺らぐわけがない。

その間も獣人はメーデルの肉を食っているが、段々と怒りを感じてきた。ただ見せつけるためだけに食べるのを許されているのであって、お前もメーデルの肉を買えない側だろう。

こいつらは、ただ俺の前で肉を見せびらかしただけで帰っていった。


眠れる時間が少なく、目の前で食べ物を見せつけられ、思考が働かなくなっていくのがわかる。


「やぁ、まだまだ元気そうだね。でも、君の仲間は何人も折れたよ」


そういえば、いつからか悲鳴が聞こえなくなっていたな。

でも、俺には話すことはない。


「しょうがないなぁ。ヨーク君、あの子たちを使おうか」


エルフがそう言うと、獣人が何かを手にして俺に近づいてきた。

水の色をした何かと濃い紫色した何か。それが、俺の目の前にそっと置かれる。


――りゅん?りゅーっ。

――ぴょい?ぴょぴょぴょ。


それには目がないのに、なぜか見られているのがわかる。


「この子たちが何でも食べてしまうことは、冒険者をやっていた君なら知っているよね?」


スライム――。冒険者にとってはありふれた魔物だが、時として厄介な魔物なのは間違いない。冒険者を始めたばかりの頃は、何度かしてやられたこともあった。

そのスライムが、俺の体をよじ登ろうとしている。俺をスライムの餌にするつもりか!

スライムが動くたび、服が溶けるのが伝わってくる。


「君の裸を見たいわけじゃないから、そのまま肉を溶かそうかな」


エルフの言葉に反応したスライムが、ピタリと動くのをやめる。

すると、水の色のスライムがいるところは肌がピリピリし始め、紫色のスライムのところは(かゆ)くなってきた。

両手は拘束されているのでスライムを払うこともできず、痒いところを()くこともできない。

体を揺すったりしてどうにかしようとするも、無駄な足掻きだった。

ピリピリした感覚が明らかな痛みになり、痒かったところもジクジクとした痛みに変わる。


「ポイニー、もっと毒を与えてあげてくれ」


このスライムに名前をつけているのも驚きだったが、毒という言葉にハッと我に返る。

濃い紫のスライムが動き始めた。そうだ、紫色したスライムは毒を持つことで有名だ。

紫色のスライムは先ほどより速度を上げて俺の体を()いずり回る。服を溶かしきれなくても移動するので、痒みだけがどんどん広がっていく。


「くぅっ……」


「……むさい男が(もだ)える姿は何度見ても楽しいものではないね」


「最初は面白がっていたじゃないですか」


エルフと獣人の会話で、他の仲間も同じようにスライムの餌にされていたのだと知った。


「そりゃあね。雄としての誇りを奪われて泣き叫ぶ醜さは秀逸(しゅういつ)だったから」


何を言っているのか最初はわからなかったが、意味を理解するとあまりの恐ろしさに(すく)み上がる。

自然と視線が下がり、自身のものを確かめてしまった。


「君にもやってあげようか?」


俺は即座に首を横に振る。

ここを生きて出られるとは思っていないが、だからといって男であることはやめたくない。


「嫌だと言われるとやりたくなるなぁ」


「この感じだと確実にやるぞ?お前がしゃべるなら、私が班長を抑えてやるがどうする?」


獣人に庇われたくない気持ちと、人としての根幹を守りたい気持ちがせめぎ合う。

そんな俺を見て、エルフがニヤリと(わら)った。


「パニィ、君も好物を食べたいよね?」


食べさせてもらえると思ったのか、水色のスライムが体を(うごめ)かせながらその場所に向かう。


「獣人の私に助けられるのは嫌か?それなら選ばせてやる。この薬を飲めば、スライムを取ってやろう。薬が嫌なら、自分の意思でしゃべれ。班長は私がどうにかする」


獣人が言う薬は自白剤だろう。自白剤とわかっていて飲むか、獣人に(すが)るか。

本当は、獣人に縋り、自分でしゃべった方がいいのは理解している。今なら言ってはいけないことの判断もつく。

創聖教の教えでは、人が神とその眷属に次いで尊い存在とされている。その矜持(きょうじ)を失えば、聖主様が変えた世界に俺の居場所はないかもしれない。

大丈夫。俺は聖主様に繋がる情報は何も与えられていない。ここで獣人に助けられる屈辱(くつじょく)を味わうくらいなら……。


「……薬を寄こせ」


俺がそう声にすると、獣人に顎を掴まれる。口に薬が入れられると、俺は見せつけるように嚥下(えんか)した。

口を開けさせられて、ちゃんと飲み込んだことを確認してから、スライムから解放される。

すでに痛みや痒みがある部分はどうしようもないが、大事な部分が守れたので肩の力が抜けた。

そして、薬が効いてくると、自分が夢の中にいるような不思議な感覚に包まれる。


ここは牢獄ではなく、創聖教の教会で神に祈りを捧げているときのような、穏やかな気持ちだ。

そして、神から言葉をかけられると、心が歓喜に震える。

どこに住んでいるのか、仕事は何をしているのか。神が俺に興味を持ってくれている。

聞かれるがままに答え、神に()められると聞かれていないことまで話したくなった。


神の子である聖主様に仕える身であること、神に与えられた使命をこなすために行っていること、すべてを告げた。


『ありがとう。君こそがわたしの子だよ』


神に認められた。俺が今までやってきたことは正しかったのだ。





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