サファリパァーク♪ その2
休憩を終えて、再び馬を走らせていると、後方から何やら足音が聞こえてきた。
お願いして止まってもらうと、恐竜みたいな二足歩行の動物が群で移動していた。
「ワァッカの群です」
おぉ。面長な顔に長い首。スラッとした脚に細長い尻尾。そして丸っこいボディがなんともキュートだ!!
黄色ベースで、体だけ茶色い斑であとは縞々。
走ってるときはバランスを取るためか、首と尻尾を地面と水平にしてる。
前脚は退化しちゃったのか、見あたらない。
走ることに特化したタイプなのかな?
スピードがハンパないよ!
「ワァッカは地上最速の動物なんですよ。ここでも伝令や緊急時にワァッカを使っています」
なるほど。
でも、どれくらい速いんだろね?
というわけで。
「のってみちゃーい!!」
…うん。今日も壊滅的だな、私の滑舌。
「はぁ。言うと思った」
なんだよ。そんな困ったちゃんを見るような目をしないでよ。
いいでしょう?一人でとは言わないからさ。ダンさんと相乗りでも、レスティンとタンデムでもどんとこいだ!
「ワァッカの速度には、相当な訓練が必要なんですが…」
「やー!のりゅ!!」
全力疾走までさせなくていいから。5割くらいのスピードで我慢するから。ワァッカにのーせーてー!!
期待を込めた目で、レスティンを見つめる。
さっきサイを我慢したんだから、ここは折れないからね!
見つめ合うこと1分しばし。レスティンの方が折れてくれた。
「…落下防止のため、ネフェルティマ様に命綱を付けますがいいですね?」
乗せてくれるなら、それ位気にしないよ!
レスティンは指笛を吹いた。ワズのときとは違って、ピーッピュイッピュイッと音の長さを変えてあった。
レスティンの指笛に気づいたワァッカの群が、こちらに進行方向を変える。
「二人で乗るなら、体力のあるこのヨッシュですね」
てか、レスティンはここにいる子たちの名前、どれくらい覚えてんだろ?
私がもふもふしてる間、他の子たちの健康チェックしてたり、甘えてくる子には名前を呼んであげたりしてんだよね。
ダンさんも竜騎部隊にいる竜たちの名前、全部間違えずに言えてたしな。
でも、獣舎で飼育している動物の数は四桁は軽くいっちゃうと思うんだ。
「レしゅしゃんはどりぇくりゃいなまえおぼえてゆの?」
「種類ではなく個別の名前ってことですか?」
「うん」
「そうですね。観察して、特徴を捉える時間があれば、ここにいる子全部言えますよ?」
予想を裏切らない答えキター!
ダンさんなら愛情のなせる技だって思えるけど、レスティンの場合は何そのスーパー脳みそって思っちゃう私は間違ってますかね?
そんな私を他所に、レスティンは軽やかにヨッシュに跨る。
「ダン、ネフェルティマ様を」
私はダンさんに持ち上げられ、レスティンが受け取って、無事に騎乗できた。
んー、お尻のポジションが落ち着かない。モゾモゾと動いて、しっくりくる位置を探して、よしオッケー!
「では、命綱を結びますね」
レスティンの手が腰に回り、ロープが結ばれる。素早く、しなやかに完璧なもやい結びだった。
「前のめりになって、ヨッシュに抱きつくようにして下さい。首ではなく、もっと下の方に手を回して…そうです。力を込めすぎると、止まってしまいますので気をつけて下さいね」
そう言うとレスティンは、私の手に手を重ね、さらにはおいかぶさってくるではないか!
きゃっ、エッチ!とか、ひょっとしてロマンスが…ドキドキ。なーんてね!ナイナイ!!
干物女だった私には、恋?ナニソレ美味しいの?あぁ、鯉ね。調理法によっては美味しいよね。てな状態だしね。背中にはウサギがあるから直接じゃないし。
それより私はこちらの毛並みにトキメキますよ!
短毛で固いけど、すべすべー。
「集中しないと、振り落とされます」
「あいたいちょー!」
レスティンが何かしら合図を送ったのか、ヨッシュが走り出した。
この態勢、景色を楽しむとか悠長なこと言ってられない。つか、まず顔が上げられない!
トットットッという軽やかな足音とは裏腹に、過ぎさる地面の速さと風圧が途轍もない。そして、その風圧で呼吸もし難いし、目が乾燥して超痛い!!
メットは…ヘルメットはどこだー!!
意外に大変というか辛くてプルプルしてたのか、レスティンが私の異常に気づいてくれた。
耳元で短い詠唱が聞こえると、すぐに呼吸が楽になり、風圧も感じなくなった。
「うっかり忘れていました。もう大丈夫ですね?」
うっかり?…いや、故意ですね!
だって、声が楽しそうデス…。
私どっかでこの人の変なスイッチ押しちゃったのかな?
「もう少し飛ばしますよ?」
するとヨッシュがさらに加速した。
タタタタターって走る感じが、ふと昔の海外アニメに出てくるあの鳥を連想させる。これで鳴き声がミッミッてクラクションだったらそのものなのにな。
ってなことを考えられたのも最初だけ。
ぎゃぁぁぁぁーーー
固定具のないジェットコースターに乗った気分だよ。
いつ振り落とされるか、マジ恐いんですけど!
ギブギブ!ヨッシュ、スピード落として。
ヨッシュはお願いした通りスピードを落とし、ゆっくりと止まった。
「さっきので最速の半分ってとこなんですが、どうでした?」
「ワァッきゃにのりゅひとをしょんけいしましゅ…」
ちゃんと鞍とか手綱とかあるんだろうけど、実際測定してみたらなーんだって思う数字かもしれないけど、それでも生身で乗るもんじゃないね!
体感スピードはバイク並み。
ダンさんの所に戻ると、へろへろになった私を見て大爆笑された。
全然面白くないからね!
ピュィーーーヨォーーー
どこかで鳥が鳴いたみたいだ。
レスティンとダンさんは同時に上空を見上げる。
鳥を目視できたのか、指を差してる。
え?どこどこ?
ピュゥイピュゥイピュゥイと、抑揚が付いた指笛で鳥に合図送る。
あ、いたいた。茶色い鳥がこちらに向かってる。
その間、レスティンはカバンから革の手袋みたいなのを取り出した。
片手だけの手袋とアームカバーを一緒にした物、つか籠手?
それを付けて待っていると、鳥は迷いもなくレスティンの腕にとまった。
こ…これは!!
綺麗なまん丸お目々に彎曲した黒い嘴、見事な風切り羽…タカですね!猛禽類ですね!
カッコいいーーー!!!
レスティンも鷹匠みたい。
いいなー。私も腕に乗っけてみたい!
…うん。この子供の腕じゃムリだね。
しょんぼり。
「はぁ。どうやら部下が何かしでかしたようです。戻って来てほしいと」
えっ、お手紙付いてたの?
あ、よく見るとタカの脚に、筒みたいなのが取り付けてある。
伝書鳩ならぬ伝書鷹!?
「おてがみはこぶの?」
レスティンはげんなりしてたので、ダンさんに聞いてみる。
「ああ。昼はこのグライホークの仲間を使って、夜はナイトアウルでやり取りしてんだ」
フクロウで手紙!どっかで見たことあるけど、なんて贅沢な!!
いいないいな。私も猛禽類ほしいな。
「レしゅしゃんレしゅしゃん。しょのこちょーだい!」
あ、間違った。願望がそのままポロッと出ちゃったよ。
レスティンは触りたいのだと勘違いしてくれたのか、グライホークを腕に乗せたままゆっくりしゃがんでくれた。
背中側の羽はしっかりしてるけど、お腹側の羽がふわふわ。翼の間に指を入れてみたら、めっちゃ温かい。
冬毛になったら、もっともふもふかな?楽しみ!
「じゃあ、今日はここまでだな」
ゔー、残念。もっと不思議な動物見たかったな。
ワイルドベアーとか、ライパンサーっていう黒ヒョウとか。すっごく楽しみにしてたんだけど、レスティンが仕事じゃしょうがないか。
竜舎とか獣舎の動物がいるところと、武器や魔法を扱う場所は現場責任者がいないと入っちゃダメって王様と約束したからな。
「こんどはワイりゅどベアーとあしょんでいー?」
「ええ。僕が空いているときなら、いつでも案内しますよ」
次の約束を取り付けたが、隊長が暇してるときってそんなにないんじゃあ…。
やっぱ、ヴィにお願いして、別に時間を確保してもらう方がいいかな?
建物がある所に戻ってくると、獣騎士の人が二人お出迎えしてくれた。
「レス隊長!申し訳ございません!!」
一人が物凄い勢いで膝を突いて謝罪する。
「起こってしまったことは仕方がないですね。急いで対策を立てましょう」
うんうん。反省しているなら、怒るよりも、その失敗をどう挽回するかってことだよね。
いい上司だなーって…レスティン、目が恐いです。内心ではめっちゃ怒ってるの?
何やらかしたんだ!?
「なにがあったのー?」
こっそりダンさんに聞いてみた。
「あー、巡回中にホワイトムースが逃げ出したらしい」
ホワイトムース?なんか美味しそう!スイーツみたいな名前だな。
いやいや、白いシカってことか。
動物が逃げ出したんじゃ大変だよね。ご愁傷様。
じゃあ、空いた時間でギゼルんとこに遊び行こうっと。
遅くなりましたー(;´Д`A
書き終わってみれば、ワァッカとタカだけしか出てきてない!!
誰だ!レスティンを呼び戻したヤツ!