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森の中を満喫中!

ヴィに押さえつけられて、まっずい粉乳を無理やり飲まされるという悪夢を見た。

カイディーテのおっぱいを探そうとした罰だろうか?

粉乳にはよくない思い出ばかりあるので、罰なら効果覿面だね!!


パウルに手伝ってもらって身支度を整えると、どこからか香ばしい匂いがしてきた。


「ネフェルティマ嬢、しっかりと休めたかな?」


「はい、夢見はよくなかったですけど……」


陛下は優雅にお茶を飲んでいて、一瞬ここは宮殿かと錯覚してしまった。

よくバックに花を咲かせたりする高貴なオーラだけど、幻影を映すこともできるらしい。私も早くこの技ができるようになりたいものだ。

目覚めの一杯を陛下に勧められ、それをまったり飲みながら悪夢の内容を話した。

すると、陛下はツボにはまったのか、ずっと笑っている。

粉乳にまつわる黒歴史は話していないのに、何がそんなに面白いの?


「……すまない。子供たちが生まれた頃を思い出してね」


陛下が言い訳のように話してくれたのを要約すれば、皇子たちも乳幼児のときに粉乳を嫌がって乳母を困らせていたという内容だった。

やっぱりこの世界の粉乳は赤ちゃんの味覚に合っていないのではなかろうか?

この世界の粉乳は動物の乳を乾燥させて粉末にしたものなので、地球の粉ミルクより原始的だ。

まぁ、基本は母乳で育て、乳の出が悪いときや母親の体調がよくないときなどに代用として与える程度なので、味にこだわる人が少なかったのだろう。

我が家はママン主体、乳母がサポート役という育児方法だったから、粉乳の回数は他の家より少なかったと思う。

それでも、あの味はちょっとトラウマになるんだよ。


「やっぱり粉乳は赤ちゃんでも美味しくないって感じるんですよ!グワナルーンの乳くらい美味しかったら、嫌がったりしません」


これから生まれてくる赤ちゃんたちのためにも、粉乳の味を改良した方がいいと思う。


「ふむ。しかし、母乳もそこまで美味しいとは言えな……」


「陛下!発言にはお気をつけください」


陛下の言葉を途中でぶった切るというパウルの不敬な行為に驚いたが、冷静になれば陛下の発言の方がやべぇことに気づく。

まさか……そんな……って気持ちで陛下を見やると、陛下もかなり慌てていた。


「いや、けしてやましいことをしたわけではなく、テオが生まれたときに(きさき)に頼んで味見させてもらったんだよ」


初めての子育てで、母乳の味が気になったから味見したってことだと思うけど……。

そもそも、皇后様は生まれたばかりのテオさんに母乳をあげていたのだろうか?

皇后様のような身分の方だったら、育児をしたくても公務とかでできなかったりするから乳母がいるのでは?


「陛下、お嬢様が大変混乱しておりますので、それ以上何も仰らないようお願い申し上げます」


パウルの言葉には、それ以上言うとぼろが出るぞという含みが感じられた。

つまり、大人の事情。

前世は独身だった私は耳年増ではあったけど、本人の口から聞かされると妙に生々しい。そして、とても気恥ずかしいぞ!


「そ、そうだね。この話は終わりにしよう」


警衛隊のみなさんから生温かい視線が送られている。

その視線に気づいた陛下はわざとらしく咳払いをして、みんなの気を()らす。


「二の姫様、よろしければこれを召し上がりますか?」


陛下の意を汲んだ隊員さんが話題を変えるためにお皿を差し出してきた。

先ほどからしていた香ばしいにおいの正体のようだ。


「……これは?」


「バリンって言います。雑穀を乾燥させたものなのですが、焼いて食べるとバリンッて音がするんですよ」


それは……お煎餅では?

元は干し飯のような保存食なんだと思うけど、焼いたらお煎餅っぽくなるし。


「よく噛んで食べてください。これは水分を吸うと膨らむので、二の姫様なら一枚で十分お腹いっぱいになると思います」


隊員さんに勧められるまま、お煎餅を(かじ)りバリボリといい音を奏でる。お米の煎餅とは風味がやや異なるけど、塩味の煎餅だねぇ。

隊員さんが淹れてくれたお茶をズズズッと音を立てて飲むと、こちらも香ばしい、ほうじ茶のような味でお煎餅に合う。

縁側ではなく、森の中で食べているのが似合わないけど。


「これ、お塩も美味しいけど、お砂糖も合いそう」


確か、浅草の名物雷おこしとか、似たような作り方だったはず。ザラメがあるなら、ザラメをまぶすだけでも美味しいと思う。

でも、やっぱり砂糖水を塗る方が焦げなくていいかも。

はっ!上手くすれば、魔法でポン菓子を作れるんじゃ?雑穀だとお米のように膨らまない可能性もあるけど。

お煎餅食べたら、甘い物食べたくなってきた……。


「砂糖……これを甘くするのですか?」


雑穀を甘くすることに抵抗があるのか、隊員さんの顔はちょっと引きつっていた。


「砂糖を送ってもらって作ってみたらどうだい?」


話題が変わったことが嬉しいのか、陛下はウキウキとした様子で別の隊員に砂糖を取り寄せるよう指示を出した。


「お菓子を作るときの砂糖でいいのかな?」


「はい。お湯で溶かすので」


陛下のいたたまれない気持ちもわからなくもないので、提案に乗ってあげよう。

そうして送ってもらった砂糖は上白糖みたいなやつだった。

深さのあるお皿に水と砂糖を入れて、火の魔法を使える隊員に徐々に加熱してもらう。焦げないよう混ぜながらうっすら黄色くなるまで熱し、小さく割った焼きバリンにまんべんなく絡める。くっつかないよう平皿に並べて、風の魔法で冷ませば、なんちゃっておこしの完成だ。

いざ、実食!!


顔を引きつらせていた隊員さんが、恐る恐る甘いバリンを口に入れると、ポリポリ音をさせながら美味いと呟く。

それを聞いて陛下が手を伸ばし、他の隊員さんも一口食べると、みんな美味しいって言ってくれた。

私も一つ食べてみたけど、日本の素朴な、懐かしく感じる味だった。

ただ、お腹で膨らむというのは本当のようで、もう満腹感がする。


「これ、軍部の方にも教えてあげてもいいかな?」


「いいですよー。子ども向けに広めてもいいですし」


あれだけの量でお腹いっぱいになるのだから、食べ盛りの子供のおやつにちょうどいい。


「あー……まぁ、それも検討しよう」


歯切れの悪い返答だけど、砂糖が高いとか、庶民に広められない理由があるのかな?

というか、砂糖が高いしか思いつかない。

私が悩んでいると、陛下が耳打ちでこっそり答えを教えてくれた。


「たったあれだけで、お腹いっぱいになるのは不思議じゃないかい?バリンの中に、極秘のものが入っているんだよ」


なるほど!雑穀でもそこそこ膨らむだろうけど、一番膨らむ穀物が国か軍の機密なんだね。

ライナス帝国が独自に品種改良して開発した穀物で、まだ市場に流したくないのなら言い淀むのも当然だ。

しかし、名に誓わせないで私に教えてよかったのだろうか?

まぁ、私が知ったところで何ができるわけでもないけど。


朝ご飯を終え、出発の準備をしている間は邪魔にならないよう、少し離れた場所で魔物っ子たちと遊ぶ。

荷物を載せられた海も合流したので、その首にしがみつく。


「海、ぎゅーっ!」


私はもふもふを、海は欲を、お互いに元気をチャージし合う。

海の(たてがみ)もさることながら、他の短い毛も手触りが凄くいいのだ。

毛、ちゃんと生えているよねって思うくらい滑らかで、その下の筋肉の弾力も素晴らしい!

他の姿だと華奢(きゃしゃ)なのに、馬の姿だと筋肉倍増しているように感じる。


――きゅーーっ!!


「うっ……」


海の前脚、特に付け根付近の筋肉をさわさわしていたら、稲穂の鳴き声とともに背中に衝撃が伝わる。

体勢は変えずに首だけ動かして、稲穂が何をやっているのか確認する。

私の真似をしているのか、海の顔面に張りついていた。

稲穂よ。君が足場にしているうさぎさんリュック、君が大好きなソルの竜玉(オーブ)だよ?

それに、動いたら稲穂が落ちそうで動けない……。


「稲穂、ちょっと背中から降りようか」


――きゅぅぅ……。


そんな、嫌だみたいな声出さなくても。ちょっとだけでいいからさぁ。


(あるじ)を困らせるのだめ」


――きゅっ、きゅう!


「うん。それは嬉しい。でも、主を困らせるのはだめ」


稲穂が海の顔に張りついたのには理由があったみたい。だけど、海が注意をしてくれたおかげで私の背中は解放された。

んーっと思い切り伸びをして、背中の筋肉をほぐしてから稲穂に向き直る。


「急に飛びかかると危ないから、もうしないように!」


――きゅぅ。


一応、反省はしているようだ。

でも、稲穂は興味を引くものがあると考える間もなく動いちゃうところがある。ここで言い聞かせてもまたやっちゃうだろうなぁ。



◆◆◆


「はふぅぅぅ……」


もうここから降りたくない。

カイディーテの背中に乗り、落ちないように首にしがみついているんだけど、ここは楽園じゃぁぁぁ!

首回りの毛に顔を(うず)めると、ほのかに花の匂いがした。

そのにおいを思いっきり吸うと、カイディーテがやめろと言うように尻尾で私の足をペシペシしてくる。痛くはなく、くすぐったいだけ。

そのときはやめられても、しばらくするとまた嗅ぎたくなって吸い、再びペチペチ。


「このにおい、中毒性があってね……」


私がそう言い訳をすれば、ふわりと風が動き、匂いが変わった。

そういえば、ラース君はいつもお日様の匂いだけど、カイディーテはその時々で匂いが変わる気がする。

ひょっとして、香水みたいにその日の気分で体臭を変えられたりするの!?しかし、どういう原理だ??

それと、このにおい……昨日寝るときにした葉っぱのにおいじゃん!

もっとこう、フローラル系とかウッディ系とか……葉っぱのにおいもウッディ系になるのか?

葉っぱのにおいには中毒性がないので、嗅ぐのを諦めて毛並みを堪能することに集中することにした。


そんな私をよそに、星伍、陸星、稲穂が追いかけっこしながらカイディーテの周りをグルグルしたり、白の雄叫びのような鳴き声がしたりと、道中は大変賑やかである。

ノックスが、木々になっている実をつまみ食いしている森鬼の足元に何かを落とした。

白とグラーティアがいつの間にか魔蟲(まむし)を仕留めたらしい。先ほどの鳴き声は雄叫びではなく、勝ちどきだったのか!

どうも、森の中は魔物っ子たちの本能を刺激するようだ。


「ねぇ、森鬼。そのまむしどうするの?」


森鬼が拾った魔蟲は、大人の手のひらより少し大きいくらいの、魔蟲としては小ぶりなサイズだった。


「食べる」


ですよねー。

ただ、その魔蟲、サソリのようなハサミを持ち、ムカデのような長い胴体とたくさんの脚と、多足類に似ていて食べるには勇気のいる見た目をしているけど!!

まぁ、お昼ご飯確保したと喜んでいる白には、見た目は関係ないみたいだが。

このサソリムカデもどきは幻種(げんしゅ)という分類で、その見た目通り、毒を持っているらしい。

毒はハサミの部分にあるそうで、そこさえ気をつければ毒にあたることはないと、森鬼が手でハサミを(むし)り取りながら教えてくれた。


魔物っ子たちがこんな感じなので、まるでハイキングを楽しんでいるような雰囲気が漂っている。

お昼には、魔物っ子たちが魔蟲を美味しくいただきました!

まったりペースで進んでいるので、また野宿かと思い始めた頃、森の中に土塀(どべい)が出現した。


「ここのようだね」


入口が見当たらないので、塀に沿って探すことに。

しかしこの塀、ここにいる人たちなら登れそうな高さしかない。森鬼の身長とそう変わらないから、2メートルに足らないくらい?

ちょっとジャンプすれば覗けそうではあるけど、そんなことしたら確実に不審者だし、もし中のドワーフが目撃したら恐怖でしかないか。


ようやく扉が見えたぞ!

警衛隊員が扉をドンドンと強く叩く。

ドワーフはどんな姿をしているのだろうかと、ドキドキワクワクしながら反応を待っていたのに、うんともすんとも言わない。

隊員さんがもう一度叩き、大きな声で呼びかけもしてもダメだった。


「扉の近くに誰もいないのかもしれません」


「仕方ない。拡声で呼びかけしよう」


『拡声』は騎士や軍人がよく使う魔法で、声を一定の範囲に届けることができる。

マイクや拡声器と似たものだけど、聞こえる声の大きさは変わらない。

近くにいても(うるさ)くないし、ハウリングもしないから、魔法の方が高性能だと思う。


陛下の指示通りに隊員さんが魔法を使って声をかける。


「どなたかいらっしゃいますか?」


待つこと数分。

かすかに物音が聞こえた気がする。


「……誰?」


声が聞こえた場所を探すと、扉の隅っこに覗き窓があった。

ダオの隠し部屋の覗き窓より、位置がだいぶ低い。背伸びすれば私でも覗けそうだから、私の頭よりちょっと上くらいか。


「ドワーフ族とお見受けします。我々は、ライナス帝国軍諜報部です。この森の調査をしておりまして、少々伺いたいことがございます」


ん?隊員さんたちは陛下の警衛隊なのに、ライナス帝国軍諜報部??

所属を偽るにしても、私がいたらおかしくないかい?


「というわけで、ここから陛下と呼んではいけないよ。私のことはセリューお兄様と呼んでくれ」


いくら陛下の見た目が若くとも、兄妹設定は厳しくない?親子設定の方が無難だと思うけどなぁ。


「いいんですか?」


「まぁ、楽しもうじゃないか」


陛下とヒソヒソ話をしていたら、中のドワーフと話がつき扉が開く。

あ、やっぱりここも引き戸なん……だと心の中で呟ききる前に、扉は動きを止めた。

ほんのちょこっと、子供が横向きで通れるくらいの隙間しかない。


「帝国軍だという証明を見せろ」


隙間から覗く顔は幼く、ダオよりは年上かなって感じなので十歳くらい?

警衛隊の隊服と軍部の軍服はデザインが違うので間違えたりはしないんだけど、少年は知らないようだ。

交番のお巡りさんはよく見かけても、皇宮警察を見る機会ってめったにないのと同じで、警衛隊は皇族が外の公務をこなしているときくらいしかお目にかかれないもんね。


「これでどうだろうか?」


隊員は、少年に近づいてバッジを見せた。

ライナス帝国軍の制服には所属部隊の部隊章の刺繍の他に、隊旗と同じデザインのピンバッジをつけることが義務付けられている。

このピンバッジは身分証明にもなるし、他にもいろいろ隠し機能があるらしいので、悪用されないための対策もばっちり!

職務中にしか携行できないよう厳重に管理されており、魔法陣を用いないと魔力を充填できないようにし、一定期間充填がないと壊れる仕組みの魔道具なのだ。また、紛失した場合も即座に壊すことができるらしい。

で、そのピンバッジを警衛隊員が持っているということは、最初から所属を偽る予定だったってことか。


「本物だったら青天馬(せいてんば)が出るはずだ」


そう。日本でも警察手帳は顔写真が見えるように呈示(ていじ)しなければならないように、ピンバッジが偽物でないことを証明しなければならない。

隊員が『国章』と唱えると、小さな青天馬が魔法で形作られる。

こっちの世界では国章が国旗も兼ねており、ライナス帝国の青天馬の紋章を知らない人はいないだろうというくらい有名な紋章だ。


「確かに本物だな。だが、中には入れられない。話ならぼくが聞こう」


扉が動いて、少年が中から出てくる。そして、扉の中を窺う暇もなく、瞬く間に閉まった。


「ドワーフ族野鍛冶(のかじ)(ながれ)の長、ラグヴィズだ」




気づけば陛下が変態ちっくになっている(゜Д゜)

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