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レア竜種に遭遇!?

お姉さんのお家を出たら、以前に長さんと会った部屋にいた。

転移魔法かと思ったけど、あれは魔法陣がないと複雑すぎて使えないんだった。そうすると、魔法ではない瞬間移動的な何かってことになるんだけど、なんだろうね?


「戻られましたか。地下の賢者とはお話できましたかな?」


「はい、とても有意義な時間でしたわ」


この部屋に長さんしかいないからか、お姉ちゃんはいつも通りの言葉遣いだ。

それよりも、そろそろ目の前の光景に突っ込んでもいいだろうか?


「わたくしたちがいない間、うちの子たちを世話してくださりありがとう存じます」


「いえいえ、みんなよい子にしていましたよ」


えぇ……主の私が言うのもなんだけど、()()を与えられたらそりゃあ大人しくなりますよ!

魔物っ子たちは私がいるにもかかわらず、あることに集中している。


「ここまで飼い主そっくりとは……」


ヴィさんや、皆まで言うな!私も頭を抱えたいんじゃ!

長さんは愛し子の連れということで、魔物っ子たちを歓待してくれたのだろう。

でも、やり過ぎです!

山盛りのお肉になぜか魔石の山。

白以外はお肉に群がり、白は消化しきれないほど魔石を体内に詰め込んでいる。

こりゃぁ、今日の夜ご飯はいらないな。


――きゅぅぅぅん……。


羨ましそうにお肉の山を見つめる稲穂。


「たくさんあるので、そちらの子もいかがかな?」


長さんは稲穂に気づいて誘ってくれたけど、稲穂はよい子なので飛びついたりせず、キラキラと期待の篭もったお目めで私を見上げてきた。

物凄い圧でお願い、食べたいなぁって言われている!


「小さくちぎって食べるのよ?あと、お腹いっぱいになる手前でやめること。約束できる?」


――きゅーっん!!


星伍と陸星はああ見えても成体なので、顎の力もあるし、胃腸も強くなっている。

稲穂はまだ幼いゆえか、お腹がパンパンになるまで食べたときはしばらくぐったりすることがある。

魔物も野生動物と同じで、食べられるときにひたすら食べる!って感じだから、稲穂だけは食事の量を調整している。

星伍、陸星、ノックスに関しては、自分たちでできるから心配ない。白にいたっては無限胃袋だしね。

まぁ、私も(こく)にお願いすれば無限胃袋できるけど。


お肉の山に突撃していく稲穂を見送り、今回の目的であるお薬の話に移る。


「こちらが愛し子に依頼された秘薬です」


栄養ドリンクくらいの小さな瓶が十本。瓶自体は半透明なので、中の液体の色がわかるんだけど、お約束のようにエグい色合いをしている。

良薬口に苦しとは言うけれど、飲むには勇気がいる青みがかったドブ色だ。

鼻をつまんで一気飲みしてもおえぇぇってなりそう。


「一日一本飲ませてください。すべて飲み終えなくても完治する場合もありますので、孫娘に経過を診せるのがよいかと」


エルフが作った秘薬だし、その効能を把握しているヴェルにお任せした方がいいな。

パパンにお願いして、ヴェルを王都に呼んでもらおう。


「わかりました。温泉が好きなヴェルには申し訳ないですけど、しばらく王都でレスティンを診てもらいますね」


秘薬はお姉ちゃんのポシェットにしまう。

このポシェットには衝撃が伝わらないよう魔法がかけてあるので、瓶が壊れることはない。薬の瓶は通常、割れないように作られているけど念のためだ。

それから、ヴィがお姉さんについて質問し始めて、魔物っ子たちが満足したのか私のもとへやってきた。


――きゅぅぅぅ……。


稲穂がショルダーバッグをカリカリする。

お前……約束はどうした!?

ぽっこり膨らんだ稲穂のお腹を見て、私は項垂れる。

結局、食べ過ぎで苦しいんじゃないか!


「稲穂、星伍や陸星を見てごらん。お腹がパンパンにはなっていないでしょう?」


星伍と陸星はがっついているように見えたのに、お腹は少し膨らんだかなというくらいでしかない。

ちゃんと、腹八分目ができている証拠だ。

白は二倍くらいの大きさで、いまだに魔石が体内にゴロゴロしている。

というか、魔石は美味しいのか?


――きゅぅぃ。


弱々しい鳴き声だが、一応は反省している様子なので、今一度食べ過ぎはよくないことを念押しして、バッグの中に入れた。

肩にかかるズッシリ感。行きよりも確実に重みが増している。


「グラーティアはいっぱい食べた?」


肩に戻ってきたグラーティアは、お手入れをしていた前脚を振った。

グラーティアも確実に大きくなっているとはいえ、成長スピードは他の魔物っ子たちと比べると遅い。

母親の大きさを考えるに、成熟するまでに年月が必要な種なのかもしれない。

そうすると、背中に乗れる大きさになる頃には、私はおばあちゃんになっていそうだな。


◆◆◆


長さんのところを辞するとき、長さんは何度もまたおいでと言ってくれた。

たぶん、魔物っ子たちと遊びたいのだろう。星伍たちを見る目は、孫を見るおじいちゃんそのものだったから。


「おねえ様、お願いがあるの」


「なんでも言って!」


コンマ何秒の世界で返事された。


「今日のお礼として、長さんにハンレイ先生の小さいのをおくりたいなって」


星伍と陸星のもふもふを気に入ってくれたのなら、絶対にハンレイ先生のもふもふも気に入るはず!

ハンレイ先生のぬいぐるみ小はシアナ特区で商品化されてはいるけど、素材が素材なため、大変高価なものになっている。

さすがに私のお小遣いでは買えないので、パパンに材料を買ってもらってお姉ちゃんに作ってもらった方がいいかなと。


「小さいのと言わずに大きいのを贈りましょう!」


ぬいぐるみ大もあるけど、完全予約生産でお値段も三倍以上しますけど!?

でも納期は一ヶ月ほどなので、年に数体は売れているらしい。

ちなみに、等身大は私のベッドに鎮座しているハンレイ先生だけだ。


「薬のこともあるし、エルフの森とは交流を続けたいでしょう?」


賄賂とまでは言わないが、心証をよくしようぜ作戦か!


「うん!おとう様、許してくれるかな?」


「そうねぇ。オスフェ家というよりはネマ個人で贈った方がいいと思うわ。だから、ネマの資産から出してもらいましょう」


知らないうちに作られていた、私名義の預金か。どれくらいあるのか把握していないんだけど、足りるのかな?

フィリップおじさんへの依頼もそこから(まかな)ったんだよね?


「足りる?」


「余裕で。資産金額聞きたい?」


「なんか怖いからいい……」


聞いてしまえば使いたくなる!

いっぱいあったら、牧場買って、もふもふ動物園とかできちゃうかもしれないんだよ!?

いや、待て。継続資金が必要なことはまだ避けた方がいいな。

運営ができなくなったら、動物が可哀想だし。

となると、小規模にして移動動物園……あっ!いいこと思いついちゃった!

ふっふっふっと笑いを殺せずにいたら、ヴィに変質者でも見るような目で見られた。

いいもんねー。ヴィもきっと驚くから!

今は時期的にもよくないだろうから、準備に時間をかけよう。あと、根回しもね。


「ネマ、見て。珍しい竜種がいるわよ」


「……竜種っ!!」


こんな森の中に竜種だと!!

お姉ちゃんが指差す方向を見ると、荷車を引いている何かがいた。


「……竜種??」


後ろ姿は竜種に見えないのだけど……爬虫類感がないのよ。なんか、背中がふわふわしているし。

似ている地球産の動物はいないので、ひょっとしたら異世界の動物を真似た生き物なのかも?


「近づいてみましょう?」


お姉ちゃんに手を引かれ、謎の生き物の側に寄る。


「本当にグワナルーンだ。俺も初めて見た」


ヴィがグワナルーンについて教えてくれた。

地竜の一種で背中の針が特徴。性格は穏やかだが、それゆえに狙われやすく、個体数が減少。一部の国以外では狩猟禁止とされている。

私が読んでいた本にも載っていたぞと言われたけど、絵のない本だと他の竜種とごちゃ混ぜになっちゃうんだよ。

あと、ヴィの部屋で読んでいるときは、ラース君のもふもふのせいで内容が入ってこないこともある!


「初めまして、ネマです!あなたのお名前教えてくれますか?」


『……ほぉ。竜の娘御か。長生きはしてみるものだのぉ……』


凄くゆったりとしたしゃべり方で、穏やかな性格というのも頷ける。

けど、名前は教えてくれないのはなぜ?


「ゴルルと言うそうだ。もう高齢で、少し耳が遠いらしい」


「お兄ちゃん、精霊の声が聞けるとは……精霊術師か?」


ゴルルの飼い主と思われるエルフが、ヴィに剣呑な雰囲気を放つ。

精霊術師は精霊を酷使する人が多いから、エルフに嫌われているんだよね。

ヴィが何かを言う前に、精霊たちがヴィを庇ったのか、たちまち顔色が変わる飼い主さん。


「風の聖獣様の契約者と知らず、失礼いたしました」


「気にしないでください。今日は彼女たちの護衛ですから」


爽やかに、にっこりと笑うヴィに、飼い主さんはホッと息を吐く。

それとは逆に、私とお姉ちゃんはヴィの演技に寒気を感じた。

王太子としてお姉さんに礼儀を尽くすヴィは平気でも、こう猫をかぶったヴィはほんと慣れない。


「おじさんはゴルルの飼い主さんですか?」


「飼い主といえば飼い主かな?この森で配送の仕事をしているんだ」


あぁ、それでゴルルは荷車を引いていたのか。しかも、荷車を三つも連結してあるってことは、相当な力持ちだね。

リンドドレイクたちもこれくらいは余裕で引っ張れるだろうけど、あの子たちはまず尻尾が邪魔になるね。あと、グワナルーンは牛くらいの大きさだけど、リンドドレイクは一回り以上大きいから、こういった場所には向かない。


「ゴルル、触ってもいいですか?」


「ああ、いいとも。ただし、背中には鋭い針があるから、十分気をつけるんだぞ」


本にも針があると書いてあったけど、一見してはそう見えないんだよなぁ。

どこに針があるのかと尋ねると、飼い主さんは背中の毛を少し掻き分けて見せてくれた。


「ほら、これだ。昔は武器として使われていたこともあったくらい、丈夫な針なんだ」


おぉぉ!確かに針だ!

長い毛の下に、たくさんの太くて鋭い針が隠れていた。


「上から襲われそうになったら、この針を立てて体を守る。針は襲ってきた生き物に刺さることもあるらしい」


なるほど、攻撃と防御を兼ねているのか。使い方としてはヤマアラシに似ているけど、あえて背中は無防備だと見せるところに生存戦略を感じるぞ。

そっと針に触れてみる。

感触としては、プラスチックみたい。軽いけど丈夫そうだ。

その針を隠している毛の方はというと……見た目に違わず剛毛だった。ゴワゴワなうえに、皮脂っぽい油分もついている。

なんというか、これぞ獣の毛!って感じ。

毛がない部分は鱗ではなく、サイのような分厚い皮膚だ。表面の皺によって、ボコボコした感触が楽しめる。

脚はずんぐり太くて、ゾウの脚みたいだけど、水かきと短い指がちょこんとある。

尻尾が短いのもまた可愛い。竜種や爬虫類って尻尾が体長と同じくらいある種が多いけど、グワナルーンは体長の半分以下だ。尻尾も太くてどっしりしていて、しばらく見ているけどあんまり動かないみたい。

だから、こうして荷車を引かせるのに向いているのかもしれないね。

お顔は今まで見た竜種の中で一番優しい顔つきをしている。

目がとろんとしているの!

ただ、なんで顎の下に角が生えているのかが不思議だ。下向きの角ってなんの役割を果たすんだろう?

角はザラザラだった。森鬼の角はツルツルしているのに、成分の違い?ひょっとして、生え替わるかどうか?


「角は生え替わりますか?ずっと同じ?」


「下を向いている角って不思議だろう?卵から孵ったときは、この左右の二本だけなんだ。歳を重ねるごとに角が増えていく」


生え替わるどころか、加齢で増えるだと!?

おおよそ、百年かけて一本生えるそうだ。

ゴルルは左右の二本の間に三本あるので、約三百歳ということになる。

寿命は、リンドブルムやリンドドレイクよりグワナルーンの方が長いのか。


「そういえば、ゴルルの他にもグワナルーンはいるのですか?」


「ボルルとギュルルの計三頭だな」


名前が……。

私もネーミングセンスなくて安直に決めることが多いけど、ギュルルってよく付けたね。

ボルルとギュルルは他の地域を担当しているそうで、飼い主さんの部下が配達をしているんだとか。


「グワナルーンの乳は飼い主さんのところじゃない?」


「乳はレアンの店だな。あいつも雌を一頭だけ飼っていて、俺んとこのギュルルの乳も納めているよ」


ギュルル、雌だったのか。名前のインパクトが凄すぎて、ギュルルに会ってみたいわ。


「ギュルル、赤ちゃんいるの?」


乳が出るってことは、子育て期間中ってことだよね?

そもそも、竜種で乳??

竜舎のおちびさんたちも、ワイバーンの赤ちゃんもお肉食べていたような……。


「グワナルーンは竜種の中で唯一乳で育てる竜なんだ。しかも、子供がいるいないは関係なしに、乳を刺激してやれば出る」


「赤ちゃんいないのに!?」


飼い主さん曰く、グワナルーンは竜種の中でも特殊な生態をしているそうで、雌が群れのボスになる。

群れは十頭以下で、それ以上のものは目撃されていないとか。ほとんどは、雌のボスと二、三頭の雄で形成され、雄は餌を貢ぐことで群れの中の優劣が決まるそうだ。

餌がないときは、雌が雄に乳を与えて生きながらえさせるので、雌の健康を維持するために餌を貢いでいると考えられている。

生き物としてもかなり特殊な生態だと思う。強いていうなら、ライオンの逆バージョン?

そうなると、不思議な雌にも会いたいよねぇ。


「ギュルルに会いたいんですけど……」


「ギュルルはいつも配達を終えて乳を搾るから、あと二、三色すればレアンの店にいるぞ」


乳を納品するといっても、飼い主さんの職業は配送業なので、搾乳はやっていないそうだ。

だから、定期的に配達終わりにレアンさんというエルフにしてもらっているんだとか。


「案内役は……カーシェか」


飼い主さんはわざわざカーシェさんに、何時頃にどこのお店に行くかを説明してくれた。店主のレアンさんには、飼い主さんの方から話を通してくれると。

親切にしてもらってありがたい!


「ゴルル、またね!」


『……いつでも、おいでぇ』


最後にもう一度角を触らせてもらい、飼い主さんにお礼を言って別れた。


「時間に余裕があるので、どこか見て回られますか?」


「もちろん、魔道具よ!」


カーシェさんが尋ねると、お姉ちゃんは力一杯宣言した。

それを見て、カーシェさんがふわりと笑う。


「仲のよいご姉妹ですね」


あれか?前回、私も同じことを同じように即答したからか?

というわけで、魔道具の工房巡りをしたんだけど、前回は行かなかった工房もいくつかあった。

新作の魔法具にキャッキャッし、お姉ちゃんは学術殿のお勉強につかう魔道具をいくつか購入していた。

ヴィもちゃっかり野営向けの魔道具を購入していたけど、王子が使う場面なんてあるのか?

まさか、私に巻き込まれる前提で買っているとかではないよね?

秘薬の素材探しはイレギュラーだから!冒険行くなら、まずは初心者向きの場所からでしょ!

雪山は楽しいけど、移動が本当に大変だから。やっぱり、洞窟がいいよ、洞窟が。

ガシェ王国に戻ったら、まずはレイティモ山の洞窟探検からだね!


「ヴィ、買うならどうくつ向きのやつにしよう!」


「こら、待て、何を企んでいる!」



ヴィが購入していた魔道具は、烈騎隊の訓練にあれば便利そうだなぁって思ったもの。

野宿も平気な実戦訓練を受けていることを、ネマは知りません。


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