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魔女かと思ったら恩人だった。

コミカライズ6巻発売です!

真っ暗の中、地面を手で触ってみると、かなりでこぼこしているのがわかった。

このまま歩けば、何度も転ぶはめになるだろう。


「稲穂、明かりになるもの出せたりする?」


――きゅん!


尻尾がぶわっと膨れたと思ったら、口から火を噴く稲穂。

自分でお願いしておいてあれだけど、結構びっくりした。でも、熱くないのは意外だな。

稲穂が作った火は、火の玉のようになって十個ほどが宙に浮いている。

しかし、なんで色が全部違うの?

青白い火から黄色、オレンジと色がついていき、グラデーションみたいで綺麗だけどさ。

抱いたままで転けると稲穂が危ないので、地面に降ろして気がついた。

稲穂の尻尾もほのかに光っている!尻尾の光も色を変えられたりするのだろうか?

……色で思い出した。


「そういえば、精霊さんはいるのかな?精霊さーん!」


呼びかけたところで、私は声を聞くことはできないんだけど、精霊さんなら何かリアクションくれるかなって。

そうしたら、稲穂の出した火が一瞬だけ強くなり、どこからか風か吹き、地面が少し平らになった。

水の精霊さんはアクションを起こそうにも、水をどうすればいいのかわからなかったのかな?


「水の精霊さん、いるならこの手に水をください」


両手を器の形にして、お水を出してとお願いしてみた。

すると、あふれんばかりに水が出てきてしまったので、慌ててもう大丈夫だとやめさせる。

とりあえず、水の精霊もいるのが判明したので、飲み水には困らないね。

出してもらったお水はもったいないから飲むか。


「精霊さん、どっちに向かえばいいかな?」


稲穂にもお水をわけて喉を潤してから、精霊さんに聞いてみると、地面に矢印が描かれ進む方向を教えてくれた。

火の玉が照らす範囲以外、本当に何も見えない。

聞こえてくる音も、私と稲穂の息遣いと足音だけだ。こんなに周りが静かだと、呼吸音も大きく聞こえるものなんだね。

それにしても、真っ暗闇に限られた光源、進路を示す矢印とくれば、お化け屋敷みたいじゃない?

この世界に幽霊の存在はないはずなんだけど、もし、この状況でお化けというか幽霊が出てきたら、どうしたらいいんだ!?

幽霊がいないのは、死んだらみんな、種族も種類も関係なく死者の世界にいくから、魂とか霊魂が残ることはできないからで。

死霊魔法はあるとされているけど、その存在自体が禁忌だし、死骸に魂が宿ることはないから、人形のように操るものなんだと思う。

つまり、アンデッドが出た瞬間、スプラッターな光景が広がるわけで……。

うん、無理!

映画とかで観るのは平気だけど、体験するのは絶対に嫌だ。現実でゾンビに襲われたい人はそういないと思うけどさ。

神様は面白そうだとけしかけたりしてきそうだから、ちゃんと念押ししておかないと。


「神様、神様。どうかお化けやゾンビが出ませんように」


本当に無理なんで!!


◆◆◆


怖さを紛らわすために、前世好きだったアニメソングを歌いながら歩いた。時々、稲穂が一緒に歌ってくれたりもして、そこそこ楽しく歩けたと思う。

時間の感覚が曖昧になっているので正確にはわからないけど、三十分以上経っている気がする。

途中、足を休めたりもしていたので、距離的にはそんなに進んでいないだろうけど。


次の矢印を見つけると、その横に文字が書かれていた。


「えーっと……ペ、ペノ・エテン?」


文字はラーシア語ではなく、神代(しんだい)語だった。

神代語の文字はラーシア語の文字と形が似ているけど、発音や文法は異なる。なので、私が口にした発音があっているのかはわからない。

知らない英単語をローマ字表記になぞって読んだようなものだ。


「精霊さん、ごめんね。私、神代語はわからないの」


神代語は失われて久しい言語なので、学んでいる人はとても少ない。

ヴィは自主的に神代語を学んだそうだが、それは聖獣に関することを調べるためだったらしい。

精霊に書かれてある文字が読めないことを伝えると、新たな文字が浮かぶ。今度はラーシア語で『もう少し』と書かれていた。

この先に出口があるのかと矢印が示す方を凝視する。

残念ながらまだ何も見えないけど、出口があるならもうひと踏ん張りだ!


「ん?」


さらに歩くことたぶん数分。

進行方向に何やら光るものが見えてきた!


「んんんー?」


光るものは出口ではなく家だった……。

こんなところにある家があやしくないわけがない!外観がとてもメルヘンだとしても!!

屋根はとんがりの、(かや)(わら)かわからない草葺きで、外壁は蔦で覆われている。

玄関と思しき扉しか見当たらないけど、ちょっと窓から中を覗いてみたいと思って、外周を回ってみた。

……窓がない!

お家は丸い形をしていて、二階建てなのかな?窓がないのでそれすらもわからない。


「精霊さん、このお家に入れってこと?」


矢印と『ここ』という文字以外、何も教えてくれない。

お家の周りをグルグルしていても埒が明かないので、思い切って扉を叩いてみた。


「ごめんくださーい!」


トントントンと叩いて声をかければ、キィィィと音を立てて開いた。

誰か出てくるかと思ったのに、誰もいない。

勝手に開いたとしたら、それはそれでホラーなんだけど!?


「どなたかいらっしゃいますかー?」


中を覗いてみると、海外のお洒落アパートのような素敵なお部屋で驚いた。

間取りでいうなら1LDKだろうか?

奥に扉が見えるので、そっちはお風呂とか洗面所とかだと思う。見える範囲にベッドがないので、寝室も別にあるのかもしれない。

キッチン近くのテーブルの上には茶器が出されていて、先ほどまで人がいた形跡がある。それなのに、誰もいないってどういうこと?家主さんに強盗だと思われて、どこかに隠れているとか?

家主がいないのに部屋に入るわけにもいかず、なのに精霊さんは無反応で、ただ玄関先で突っ立っているしかなかった。


「あぁ。無事に着いたのね」


「ぎゃっ!!」


突然声がして、飛び上がるほどビビった!

稲穂は平然としていたので、音でわかっていたようだけど、私にも教えてくれよ!

バクバクする心臓を宥めながら、声がした方を振り向くと、これまた見るからにあやしいフード姿の人がいた。


「こっちにどうぞ。お出迎えできなくてごめんなさいね」


声としゃべり方からして女性のようだが、フードが深くて顔はわからない。フードからはみ出ている髪は濃い青で、その色を持つ人物には心当たりはない。


「あの……」


「詳しいことを説明するから、まずは座って」


この人は、私がここにいる理由を知っているようだ。ひょっとしたらお姉ちゃんたちのもとへ戻る方法を教えてくれるかもしれないと、おそるおそる家の中に入った。

パタリと自動で閉まる扉。最初は不気味だったそれも、人がいると何かの魔法なのかもと思えてきた。


「たくさん歩かせてごめんなさい。でも、ここに来るための試練のようなものだから省略できなくて」


テーブルの上にあった茶器を使い、女性は手際よくお茶を淹れてくれ、稲穂の前にはミルクが入ったお皿が置かれた。

飲むのを躊躇(ちゅうちょ)したが、自分には(こく)がいたなとカップに口をつける。


「あ、美味しい」


お茶の方は毒などはなく、いくつか花の名前が出てきたくらいだ。

稲穂のミルクは指先につけて、舐めて確かめる。

むむっ。ちょこっと舐めただけなのに、濃い!濃厚なソフトクリームの味がする!

成分はグワナルーンの乳とパパイソの樹液となっていて、どちらも聞いたことのない名前だった。

でも、毒ではなさそうなので、稲穂によしと合図を出した。


「お菓子もどうぞ」


差し出されたものはスコーンに似ているけど、ジャムなどは添えられておらず、プレーンのまま食べるみたいだ。

女性にお礼を言ってから、スコーンもどきを頬張る。

サクふわな食感は想像していた通りだったけど、咀嚼したらそれを覆された。


「と、溶けた!?」


舌の上に載せた瞬間、しゅわぁっと溶けて上品な甘みだけが残った。


「美味しい!」


「よかった」


美味しいお菓子とお茶で落ち着くと、この女性が何者なのかが気になった。たぶん、悪い人ではないと思う。

別に、お菓子をご馳走になったからではないよ?


「おねえさんは何者で、ここはどこなんですか?」


「ふふっ。お姉さんなんて呼ばれる歳ではないけれど、呼ばれると嬉しいものね」


見えている部分だけでは歳の判別はつかない。若そうにも見えるし、ママンより年上だと言われてもそうなのかと納得してしまうだろう。


「ここはエルフの森の地下。大樹の根の隙間と言えばわかりやすいかしら?」


木の根の隙間がこんな空間になるのだろうか?何か魔法で整えているとか?


「私は地下の管理人みたいなもので、名前はないの」


「えっ!?」


名前がないなんてことがあるのか?管理人というくらいだから、上に住むエルフたちと交流も持っていると思ったんだけど。

もし、彼女がこの前聞いた、免責取引をして真名を取り上げられているとしても、国から新たな名前が与えられているはずだし……。


「だから好きに呼んでもらって大丈夫」


とりあえず、お姉さんと呼ぶくらいしか思いつかなかったので、それでいいか聞いてみる。

お姉さんは承諾してくれたので、このままお姉さんと呼ぶね。


「おねえさんが私をここに連れてきたってことであっていますか?」


「えぇ。愛し子が来ると聞いて、会いたかったから。勝手に招待してごめんなさい」


私が来るのを聞いたということは、やっぱり上のエルフとのやり取りがあるってことだ。

エルフの森の地下に隠れ住み、フードで姿も隠し、名前もない……。

それだけ聞くと、犯罪者が見つからないように逃げ隠れしているのかと思ってしまうよね。でも、彼女はどちらかと言うと、自ら世捨て人になったような、この状況を受け入れている安定感がある。

だから、なおさら不思議に思う。なんでこんなところにいるんだろうって。


「何かご用でもありましたか?」


「いえ、彼に似ているのか確かめたかっただけなの」


「彼?」


私の知っている人だろうか?似ているかどうかってことは、私の血縁かもしれないよね?


「愛し子は、わたしがお慕いしていた方の子孫なのよ」


「子孫?」


はて?誰のことだろう?

まさか、曾祖父ちゃんとか?曾祖父ちゃん、曾祖母ちゃん一筋だったから、たくさんのご令嬢を袖にしたと聞いたことはあるけど……お姉さんとは歳が離れすぎているから違うか。


「とても凜々しいお方で、でも(もろ)い一面もお持ちだったわ。わたしや彼の周りにいる友人たちも、口さがない者のことなど気にしなくてよいと言っても抱えてしまうほどお優しくて……」


えーっと……惚気(のろけ)を聞かされている?

しかも、誰のことなのかまったくわからない!


「本当に私のご先祖様ですか?」


「えぇ。愛し子はガシェ王国の宰相家の娘でしょう?わたしはガシェ王国を建国する前に離れてしまったから、彼らの家名を知らないのだけど」


「えぇぇっ!!?」


我が国の建国前って、四百年近く前ってことになるよ?


こんな色(・・・・)になってしまっているけど、わたしはエルフだから。ガシェ王国より年上なの」


こんな色と言われてハッとする。

水と仲良しなエルフの一族でここまで濃い色を見たことはない。

彼女の髪は青と表現できるものの、私の目の色に近いほど濃いのだ。

つまり、何かがあって水と仲良しなエルフが持つ青から今の濃い青に変化してしまったということだろう。


「もしかして、色が変わったから好きな人と離ればなれになったのですか?」


色が変わることがよくないことだとしたら、ここに隠れ住んでいる理由にもなる。


「……闇に魅入られたわたしは、彼の側には相応しくないから」


「闇?」


「……彼を助けるために、闇魔法を使ったの。わたしの前の生は悪い業をたくさん貯めていたようで、光魔法を使いたかったのだけど闇魔法が出てきてしまって」


闇魔法に光魔法だと!!

光と闇は、神様たちを除くと、それを司る聖獣にしか使えない属性だよ?エルフは使えるの??


「存在しないとされる魔法が出てきて驚いた?」


「……はい」


「魂には業というものがあるのは知っているかしら?」


森鬼から聞いた、魂の色は善い業と悪い業の割合で決まるとかなんとかのやつだな。

理解できているかは自信ないけど、話は聞いていたので知っていると頷く。


「魂は創造主のお力の欠片。何度も生を繰り返して業を貯め、創造主のもとへ還る。そして、その業が創造主の力になるの」


神様の力の源って、信仰心とかじゃないの!?

あ、それだと神様はどんどん弱くなっちゃうか。神様は人と関わっちゃいけないらしく、逆に女神様は関わることが役目みたいだったし。

そうすると、定期的に奇跡を起こしている女神様に信仰は集まりやすくなってしまうもんね。

魂が集めた業が力の源だとすると、女神様の力の源は何になるんだろう?

神様は女神様にとってお父さんだから、神様が元気なら女神様も元気になる仕様だったりする?


「だから、その業を使えば、創造主の力とされる光と闇の魔法が使えるの。もちろん、禁断の魔法とされているけども」


「それ、私に言っちゃっていいんですか?」


「愛し子になら大丈夫よ。わたしとは違って、愛し子が創造主の力を振るうのに、代償(・・)はいらないもの。だから、愛し子なの」


お姉さんはさらに続ける。

お姉さんは自分を代償にして闇魔法を使ったせいか、少しだけ世界の理を知ることができたんだって。

愛し子は代償がいらないことはそれで知ったそうだ。


「わたしは寿命の半分と片目を代償に捧げて、彼を助けることができた。エルフの掟に反してしまってここにいるけど、後悔はしていないわ。愛し子を見て、彼は家族に恵まれたのだとわかったから」


寿命の半分を捧げても四百年近く生きているってことは、私のご先祖様と一緒だったときは若い年齢だったのだろう。

私のご先祖様を助けるために魂の力を使ったけど、それはエルフの掟で禁止されていて、この森の地下にいることが罰のようなものってことか。


「ちなみに、おねえさんが好きだったご先祖様って誰ですか?」


気になって気になって質問してみたけど、お姉さんは微笑むだけで教えてはくれなかった。


「ギィ・ラス・ガシェ?ラーイデルト・オスフェ?」


とりあえず、初代国王とオスフェ家の初代の名前を口にする。お姉さんのニコニコ笑顔は変わらなかった。

ワイズ家の初代、ミューガ家の初代、ディルタ家の初代、ゼルナン家の初代将軍の名前も同じ反応を返される。

ゼルナン家はガシェ王国の前王朝からの貴族で、初代将軍は初代国王の元上官で当時は地方貴族だったので初代将軍と呼ぶ。

同じ理由で、前王朝の王族の傍系だったラズール公爵家も初代公爵と呼んで区別している。

まさかと思い、ラズールの名前も挙げてみたけど、それは首を振られた。

オスフェ家は王族の降嫁もあったけれど、他の公爵家や将軍家から嫁をもらったこともあるので、建国の英雄たちはすべて私のご先祖様なのだ。


「いったい誰なんだ!!手がかりを教えてください!」


すると、彼女は個人情報をいっさい出さずに惚気るという高等技術を披露してくれた。

つまり、聞けば聞くほどわからなくなる!

こっちだってママン譲りの話術があるんだ。誘導尋問かけて聞き出してやるぞ!



発売お礼小話は少しお待ちください。

ネタがない!(笑)

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