友達になれるチャンスは逃さないぞ!
日付変わる前に更新してしまったので、本日2回目です。
「まずは落ちつくためにもお茶をいただきましょう」
そう言って私が率先してお茶を口にしたので、子供たちもおずおずと飲み始める。
平常とは言えない状態だろうに、それでも作法がしっかりしているところを見ると、厳しく躾けられているようだ。
「……美味しい」
女の子が思わずといった様子で口にした言葉に、パウルが微笑む。
「お口にあったようで幸いです。こちらはガシェ王国のモーム産の茶葉を使用しております」
ディルタ領の東側、ワイズ領とも近い地域では、お茶の生産が有名だ。その中でも、モーム地方の茶葉は一級品として貴族に愛用されている。
もちろん我が家でもよく出されるが、ジャスミンティーみたいな味で飲みやすい。
女の子がパウルの笑顔にやられてポーッとなっているが、この国の貴族はイケメン耐性が低いのか?
ダオはまだ可愛いが勝っているから対象外としても、他の皇子たちを見たら発狂しない?よく宴でトラブル起きないね。
幼いゆえに、まだ多くのイケメンに遭遇していないせいもあるだろうけど、騙されたりしないか心配になってしまう。
「さてと、みんなの名前を教えてくれる?あ、家名やしゃく位は言わないでね」
爵位を言ってしまうと、萎縮して言いたいことが言えなくなってしまう。
まぁ、一緒にいた子供たちは互いがどこの家の者か知っているかもしれないけど。
「私はネフェルティマ。長いからネマって呼んでね」
「俺はルネリュースだ」
父親を尊敬している、子供たちの中では最年長と思われる男の子が最初に名乗る。
鱗に苦手意識を持っていた男の子はオルトマート、星伍の尻尾にメロメロだった女の子がアウレリア、お茶を美味しいと言ってくれた女の子はルネステル。ルネリュースとルネステルは兄妹なんだって。
そして、獣人の女の子はと言うと……。
「み、ミーティアです」
一瞬、鳴き声かと驚いたが、名前まで子猫みたいで可愛い!
可愛い、可愛いとベタ褒めしていたら、恥ずかしいのか真っ赤な顔をして縮こまってしまった。
「ネマお嬢様、ミーティア様を困らせるのはやめましょうね」
パウルに名前を呼ばれたせいか、ミーティアはますます顔を赤らめた。
しかも、尻尾をピンッと立てているので、よほど嬉しかったのだろう。
ミーティアに悪気はないのだと謝ると、彼女はぎこちないながらも笑顔で許してくれた。
「みんなは毎日何をして遊んでいるの?」
空気を変えようと、最初の話題を出してみたものの、ルネリュースに遊ぶ暇はないと一刀両断された。
朝から夕方まで、お勉強や稽古で忙しいんだって。
それでも、休みの日くらいあるでしょうって言ったら、そういう日は今日みたいに母親の社交に付き合わされるとか。
これには私も絶句だ。いくら貴族だからって、こんな幼いときから勉強漬けとか、私だったら反抗するか家出しているかだね。
「ミーティアさんは?」
「わ、わたしは……やまで……」
山!なんと羨ましい!!
サバゲーごっこも木登りもし放題!秘密基地だって何ヶ所も作れちゃう!それに、もふもふな動物たちにもたくさん会える!!
「山でどんな遊びをしているの?木登り?かくれんぼ?本格的なオーグルごっこ?」
「あ、あの……ほんかくてきなオーグルごっことはなんですか?」
「強い人にオーグル役をやってもらって、みんなでやっつけるの!全力で!」
これが意外と魔物っ子たちのいい訓練にもなる。
オーグル役はいつも森鬼固定で、それ以外の魔物っ子たちと私とでの総力戦になるんだけど、森鬼は手強い。私は司令塔役なので戦闘には参加しないんだけど、まぁ、勝てたことはない。ただ今、全敗記録更新中だ!
「それはやったことないですが、はたとりならよくやります」
「はた取りって、組にわかれて、相手の陣地にあるはたをうばうやつ?」
「そうです」
何それ、超面白そう!地形を活かして奇襲かけたり、罠をはったりもできそうだし、戦術を学ぶにもよさそうだね。
はっ!獣人の貴族のほとんどは軍関係者。つまり、これも軍人としての教育の一環なのか。
遊びながら身体能力が向上でき、遊びながら戦術や人の使い方を学ぶ。
待てよ……これをロスラン計画に取り入れるのはどうだろう?
森の中に巨大なアスレチックを作って、それを使って旗取り合戦をやる。
元々、生息する魔物がちょっと手強いから上級者向けにする予定だったし、宿泊施設に秘密基地風ツリーハウスがあるのだから、大人の遊び場……いかがわしく聞こえるな……。童心に帰れる場所をコンセプトに施設を充実させてみてはどうだろう?
となると、水遊びも外せないな!
「ミーティアさん!すぐにとは言えないけど、その山に遊びにいってもいいかな?」
「えっ!?……たぶん、だいじょうぶだとおもいます」
よし。あとでルイさんに相談しようっと。
「遊んでばかりいると、嫁ぎ先がなくなるぞ」
ルネリュースが呆れたように私たちを見つめるが、なぜ嫁ぐところまで飛躍したんだ?
「そうですよ。変な噂立てられたら、それこそ家の恥。しっかりと学んで、よりよい家から縁談を望まれるようにとお母様が仰っていました」
私がなんでと呟いたのが聞こえていたのか、妹のルネステルが答えてくれた。
貴族としては正しいのだと思うけど、子供なのに夢が持てないだなんて泣けてくる。
これくらいの年頃って、パパと結婚するか白馬に乗った王子様が~って言うんじゃないの?残念ながら、この世界の王子様たちは白馬ではなく聖獣に乗っていることが多いが。
「でも、わたくしたちはまだ楽なほうです。ダオルーグ殿下にはマーリエ様がいらっしゃいますから」
アウレリアの発言にミーティアすらもそうだというふうに頷いている。
ダオにマーリエがいるっていう言い方は釈然としないが、まぁ、言いたいことはわかる。
「他の殿下方と同じ年頃のご令嬢たちはもっと厳しい教育を受けていると聞きます」
「僕の姉様はアイセント殿下と同じ歳だけど、跡取りの僕よりも難しいことを学んでいるみたい」
アウレリアとオルトマートが説明してくれるが、そうまでして子供を教育する理由はなんなのだろう?女性でも側近に選ばれることはあるだろうが、それでも狭き門のはず。
「テオヴァール殿下には婚約者がいらっしゃいますが、他の殿下方にはいらっしゃいませんし、もし聖獣様に選ばれれば……」
「かのお方は貴族と言えど末端の、しかも南方部族の出。高貴なる地位には高貴たる血が相応しい。次は中枢貴族から排出したいと父上はお考えのようだ」
誰と明言していなくとも、その発言はアウトに近いのでは?
「わたくしの父も同じようなことを仰っていましたわ。聖獣様に認められた血族ではないから、殿下方もいまだに認められていないのだと」
「でも、聖獣のけいやく者は聖獣が認めた人とでないと結婚できないのでしょう?」
「いや、聖獣様は高貴なる血を好むと聞いている。今回は偶然だったのでは?」
おや?こちらの貴族には、聖獣の契約者の伴侶に関する条件が伝えられていないのかな?
ヴィが言っていたのは、契約者には及ばずとも、聖獣が好ましいと感じる資質がなければ、どんなに思い合っていても結婚は認めてくれないと。
ヴィのように王太子ともなれば、結婚は真名の誓約となる。真名で繋がれば、わずかではあるが聖獣とも繋がりができる。だからこそ、聖獣が認める相手でなければならないし、そもそも契約者は自分の聖獣が嫌うことをやろうとは考えない。
ヴィはラース君のことを半身だと言う。陛下はユーシェのことを伴侶と言う。それくらい、契約者と聖獣は固い絆で結ばれているのだ。生半可な恋愛感情では太刀打ちできないだろう。
それに、高貴な血って言うけど、各国の王族は神様のお気に入りだからだと思うんだよね。ガシェ王国もライナス帝国も、初代が愛し子という共通点があることから、それも関係しているかもしれないけど、たぶん、見ていて楽しいからとか、そんな理由な気がする。
……つまり、人間が増長したのは、神様にも責任があるんじゃ……。
やっぱり一度殴り込みに行った方がいいと思うのは私だけか?
「けいやく者の相手にふさわしいかを聖獣が見きわめるけど、そこに血筋は関係なく、本人のししつが重要なんだって私は聞いたけど?」
「誰がそんなでたらめを言ったんだ?」
ルネリュースが呆れたといった表情をしているが、それを言っちゃうと私が言った身分関係なくっていう前提が崩壊するよね。
「うーん、まぁ、ある国の王子様かな?」
凄く疑われているような感じもするが、ルネリュースはなんだそれと深く突っ込んでくることはなかった。
こうして話してみると、ルネリュースたちは年頃にしては聡明だと実感する。厳しい教育の賜物か。
「ミーティアさんはどう思う?」
「え?あっ……せいじゅうさまがおきめになったのであれば、わたしたちはそれをうけいれるだけですので……」
「じゅう人さんは聖獣をすうはいしているのでしたね」
「はい!とてもけだかくおつよいときいております!」
いきなり声が大きくなったので驚いたが、獣人は基本強さに重点を置く種族だったのを忘れていた。
獣の姿をし、神の眷属である聖獣を特別視するのも当然か。
「わたしなんかがでんかのおめにとまることはないとわかっておりますが、きゅうでんならせいじゅうさまのおすがたをとおくからはいけんできないかとおもいまして……」
今日出席した目的がダオではなく聖獣、ユーシェやサチェの姿を見てみたいからとは。
この子、意外と肝が据わっているのかも。
「しゅぞくがちがうと考え方もちがうし、価値かんもちがう。話してみなければわからないことってたくさんあるから、こういう場が必要なのかもね」
「だからといって、俺たちが親に逆らってもいいことはないだろう」
「ルネステルさんにも言ったけど、親は親。あなたはあなたなのよ。親と同じようになる必要はないし、親にりかいされなくても……淋しいけれど生きていけるわ。あなたが見て、さわって、けいけんし、感じたことはあなただけのものだもの。それをそんちょうしてくれるかは相手しだいだけど、受け入れてくれる人は必ずいる」
人間関係っていろいろ大変で、親だからって必ず理解してもらえる、なんてことはない。
学生時代みたいに、毎日顔を合わせていた友達ですら、大人になれば疎遠になるのだ。その中でもずっと繋がっていられる友達って、そのときの自分を受け止めてくれているから、自分もその友達を受け入れられるから続くんだと思う。就職や結婚、付き合う恋人によっても価値観が変わったりする中で、ずっと続くのって凄いよね。
親に抱く感情もきっと違う。子供の頃は甘えたいし嫌われたくないって思うし、思春期になったら親の言うことがいちいちウザかったり、学生のときはいると便利って感じて、就職して独り暮らしになると親のありがたみを痛感する。
働くだけでも大変なのに、それに加えて家事と育児をやるなんて、日本のお母さんはスーパーウーマンばかりだよ!
私は前世では結婚もせずに子供も産んでいないから、その大変さを経験していないけど、上の兄姉は何かあったらすぐ親に頼ることを当たり前だと思っている節があって、末っ子としては凄くモヤモヤしてたなぁ。
最初は孫に会えるから喜んでいた親も、段々度が過ぎるようになって呆れていたし。
やっぱり、身内にこそ、その人の本当の性格が出るのかもしれない。
「今は親の言うことが大切だと思うかもしれないけど、考えてみて。死ぬまでの人生で、一番長く付き合うのって結婚相手だし、同世代の跡取りなんて引退するまで顔を合わせるのよ?」
女性は早ければ十代後半で嫁いでしまう貴族社会。
親兄弟と過ごす時間より、圧倒的に結婚してからの方が長いのだ。
家を継ぐ人は関わりのある家の当主は仕事場でも、パーティーでも顔を合わせることになる。うちのパパンと大臣ズのように。
「それを考えると、恋愛感情は別としてもそんけいできる人と結婚したくない?」
この子たちが柔軟な考えをできるようになれば、政略結婚でも相手を尊重し、尊敬しあえる関係を築けるかもしれない。
相手がクソだったら……家の実権を握るしかないので、そこでも柔軟な発想が活きてくるだろう。
「尊敬できる相手であればそれにこしたことはないだろうが……」
「なんでそこで相手任せ?自分もそんけいされるような人にならないと、できた人物が相手にするわけないでしょう」
なんか、今までで一番驚いた顔されたんだけど?
ひょっとして、周りから尊敬されていると思っていたとか?
そこに思い至って、私も驚くと、ルネリュースは顔を真っ赤にして背けた。
「ルネリュースさまもみなさまもとてもりっぱだとおもいます。わたしにあやまってくれたのは、みなさまだけですから」
気まずい空気が流れていたのをミーティアがほのぼの空間に変えてしまった。
自分が意地悪していた相手に褒められるという、なんともいたたまれない感じではあるが、それでもミーティアに認めてもらえたことが嬉しいと、みんなの口元が緩む。
しかし、そんなほのぼのとした雰囲気も長くは続かなかった。
「きゃぁぁぁーーー」
庭園に響き渡る悲鳴。
何事かと周囲を見回すと、数人が倒れているのが見えた。
「誰か、治癒術師を呼べ!」
警衛隊が倒れた人を介抱するが、その側でまた一人倒れた。
ダオのところの隊長さんが何やら指示は出しているようだが、こちらには声が聞こえない。
「パウル、行きましょう」
みんなを残して、私は倒れている一人に近づいた。
顔面蒼白で、唇にはチアノーゼが見て取れる。それに、白い泡のようなものも。
「明らかに、何かしらの毒による症状でしょう」
「命にきけんは?」
「治癒魔法が間に合えばとしか」
騒ぎに気づいたダオとマーリエがやってきて、隊長さんから説明を受けているようだ。
「なぜ、マリエッタ様は何もなさらないのかしら?」
ダオの交遊会とはいえ、この催しを実質指揮っていたのはマーリエ母だ。
普通ならば、場を収めるために動くのではないのか?
「ネマッ!」
血相を変えたダオがこちらに走ってやってくる。
どうやら、よくないことのようだ。
「今日、任務についているはずの治癒術師がいないんだ。宮殿から急いで連れてくるようには言ったけど、間に合いそうにないってレクスが……」
レクスって誰だっけってなったけど、それより治癒術師が間に合わない方が大問題だ。
「精霊さん、急いで陛下に知らせて!」
風の精霊なら、宮殿内の異変をすでに陛下に伝えているかもしれないが、私が現場にいることも伝われば、より早く動いてくれる可能性がある。
「パウル、おかあ様から配られた、ちゆ魔法の魔石は持っているわね?」
「持っておりますが、こちらは怪我を治すことにしか使用できませんよ?」
治癒魔法の魔石は、我がオスフェ家の魔術研究所が作り、ハンレイ先生たち癒やしの氏が魔法を込めているもので、レイティモ山に入る冒険者は携帯必須が義務づけられている。
それを、我が家の使用人、と言っても屋敷に勤めている者よりも外で諜報活動している者の方が多いので、彼らの生存率を上げるために全員に持たせるようにしたらしい。
そもそも、治癒魔法とは、生き物が持つ自己修復機能、つまり自然治癒力を増幅させ、速度を速めることが基本だと言う。そこから、魔力と女神様の力が複雑に絡み合い、難しい治癒魔法に発展するわけだ。
何が言いたいかというと、怪我を治すのではなく、使用する魔力を絞れば体力を維持するくらいはできるのではないかと思ったのだよ。
「ダオ、けいえい隊で一番魔力操作が上手い人を呼んで」
「わかった!」
「黒、出てきて」
「ネマお嬢様、何を……」
くしゃみとともに出てきた黒は、久しぶりの外にぴょんぴょんと元気に喜んでいる。
――にゅ~!にゅっにゅ~~~!!
ごめんよ、黒。白と遊ぶために呼んだんじゃないんだ。あとでいっぱい遊んでいいから、今は私の話を聞いておくれ。
ハイテンションな黒を持ち上げて、目線を合わせる。目がないけど、そこは気にしない!
「黒。今、毒で苦しんでいる人がたくさんいるの。黒が体の中に入って、毒をやっつけてくれないかな?」
魔物っ子たちの中で、解毒能力を持っているのは雫と黒だけだ。紫色の子たちは毒を好むが、他の個体を治せる解毒能力は持っていない。
――にゅぅぅ~
他の人の体内に入るのが不服のようだ。
黒にやる気を起こさせるいい方法は何かないか?
「ネマお嬢様の言う通りにしたら、コクの大好きな生のガードラを山ほど食べさせてあげます」
――にゅっ!?にゅぅにゅっにゅぅぅぅぅ~~!!
一瞬でやる気マックスになっただと!?
パウルがなぜ黒の好物を知っているんだ!私だって知らなかったのに!!つか、私も食べたいんですけど!!!
私が驚いて、パウルを二度見三度見している間に、黒は一番近くに倒れている人の中に入っていった。
「さすが、飼い主に似るとはこのことですね」
私を見て言うな!自分でもちょっとだけそう思ってしまったんだから。
うぅぅっと頭を抱えて唸っていたら、隠れていたグラーティアで出てきて、牙を鳴らして何かを訴えてきている。できるとかやりたいって言っているようだが、何をやりたいのかがよくわからない。
通訳者の森鬼がいないので、細かな意思疎通ができないのだよ。
「わんっ!」
「わんっ!」
ぼくたちのこと忘れないでと、二匹に責められた。
だけど、白や黒は誤魔化せても、しゃべる犬は誤魔化せないよね?
「ネマ……」
「ネマ、連れてきたよ!」
マーリエの心配そうな声とダオの慌てた声で、私は迷っている場合ではないと再認識した。
「パウル、この子たちが魔物だと正体が知られたとして、何か問題が起こったりする?」
「知られなければよいのでしょう?精霊様にお力を借りてはいかがですか?」
その手があったか!
「パウルはけいえい隊の人に魔石のことを伝えて」
私はその間にグラーティアが何を伝えたいのか、星伍と陸星に訳してもらうことにする。
なるべく周りに聞こえないよう、小さな声で精霊にお願いした。
私と星伍、陸星の声を聞こえないようにして欲しいと。
私には精霊を見ることも声を聞くこともできないので、お願いを聞いてくれたか確かめるためにマーリエに声をかけた。
「何?聞こえないわ」
よし、これならいけるね。
自分から声をかけておいて申し訳ないが、マーリエには謝るジェスチャーをして、早速二匹にグラーティアの言葉を訳してもらった。
「グラーティア、作れるって!」
「……何を?」
「ママのママにいっぱい食べさせられたやつ」
星伍と陸星はグラーティアの言葉をそのまま言っているのだろう。
つか、ママって誰だ?ママのママはお祖母ちゃんってことになるが、母方のお祖母ちゃんのことではないよね?
ママは誰かと尋ねれば、あるじ様のことだよと返ってきた。
あるじ様……私のことか!!グラーティア、私のことママって呼んでいるの!?何ソレめっちゃ可愛いんですけど!!
あまりの可愛さに押し潰さんばかりに頬ずりをしてしまい、耳元でカチカチと牙の音がして我に返った。
「それで、おかあ様に何を食べさせられたの?」
ママンに何かされたと言うなら、私が寝ていた間にいろいろと実験に付き合わせてしまったのだろう。うちのママンが申し訳ない。
「元気になる葉っぱだってー」
陸星、その言い方だと法に触れるヤバい葉っぱを連想するからやめなさい。
それにしても、通訳するのも大変だったんだな。森鬼がグラーティアの伝えたいことをちゃんと汲み取り、抽象的な言葉を状況や知識に照らし合わせて、私にわかりやすい言葉に変換してくれていたのだと思うと、ちゃんとお礼を言わねばなるまい。
さて、元気になる葉っぱで思い浮かぶのは、回復薬などに使われる薬草の類だ。
ママンのことだから、グラーティアには危険なものを食べさせてはいないだろう。たぶん、そういったものは白に食べさせていたに違いない。
「コロコス、ギルダン、ルルシカ、ポルヤーガ、メロン」
覚えている限り、回復薬に使われる薬草の名前をあげていく。
ちなみに、メロンはあの地球産のメロンではないので要注意だ。見た目はアーティチョークに似ており、鱗状に肉厚の葉っぱが重なっている。
グラーティアが反応したのは、そのメロンだった。
コロコスやギルダンはレイティモ山にもたくさん生えていて入手が簡単だが、メロンは季節性ということもあって薬草の中では高級品なんだけど、それをいっぱい食べさせられたのかぁ。
「それで、メロンと同じ成分をグラーティアも出せるってこと?」
「ママのママはそう言ってたって」
「ママの役に立てなさいって」
うーん……グラーティアって確か毒に特化した個体じゃなかったっけ?それなのに、回復成分を作れる……あっ!生物濃縮か!
本来は毒を持たない生き物でも、毒を持つ生き物を食べることで体内に毒が蓄積され、毒の濃度がどんどん濃くなっていくってやつ。
それと似たようなことがグラーティアの体内で起きたのか!
「じゃあ、グラーティアは黒が出たらメロンの成分を打ち込んで」
これで魔石が使えなくなっても大丈夫そうだ。
パウルの方も警衛隊の人に説明を終えたようで、早速黒が出てきた人に魔法をかけていた。
うまくいきますように。女神様、いや、クレオ様、どうかお力をお貸しください!
もふもふの布教を頑張るネマでした(笑)
お子ちゃまたちはこの後も出せたらいいなぁ。