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閑話 ダン・イェーツの場合

前回のダン視点です。

もふもふがないことと重複なので飛ばしても大丈夫です。


ご報告頂いた誤字脱字と一部改訂しました。

オレは小さいときから竜が大好きだった。

建国記念日にある王族の行進には、必ず竜騎部隊が出てくる。

地竜のリンドドレイクに跨り、手足の様に操る竜騎士。翼竜のリンドブルムに乗り、変幻自在に編隊飛行をやってのける竜騎士。

憧れた。オレも竜騎士になると、竜を見る度に強く思った。


幸い、家が大きな商家だったおかげで、王立学院で学ぶことができた。

実力を認められた騎士のみが竜騎士に選ばれるため、学院には竜騎士の科はない。だからオレは獣騎士の科に入り、剣はもちろん、長物の武器の扱いを身につけ、動物の生態や世話の方法を学んだ。獣騎士の動物と竜ではまったく違うだろうが、下地があった方がいいだろうと考えたんだ。


王立学院の獣騎士科を卒業し、王国騎士団特殊部隊獣騎隊を経て、今は念願の竜騎部隊で隊長をやっている。


ある日、母校である王立学院で炎竜が出たと報告を受けた。

なぜそのときに我々を呼ばない!!

炎竜が北の山脈に帰っていくのを、王宮からただ見ているだけだった自分がどんなに悔しかったか。


その後、審議会が開かれ、幼い女の子が炎竜の主になったと、噂が流れてきた。

正直に言おう…羨ましすぎる!!


日々の仕事に追われるうちに、我が部隊で炎竜が話題に上がらなくなった頃、珍しい客が来た。

近衛師団第二部隊の隊長、グウェン・フィールズだ。こいつとは学院で同学年だったが、とにかく口うるさいので苦手だ。

身だしなみがなってない、騎士としての自覚が足りない、竜に構ってる暇があるなら剣を磨け。大きなお世話だ。


嫌々ながら、グウェンの元へ向かうと、案の定がみがみ言われた。


「相変わらず君の部隊は身だしなみがなっていない。王宮にいる以上、いつ上の者に会うかわからないんだからな。我々も同じだと思われてしまうだろ!」


「そりゃ、中に行くときは気をつけてるさ。オレたちの部隊はお前んとこと違って、竜舎から離れることはねぇしな」


竜騎部隊の仕事は平時なら巡視、世話、訓練、当直ぐらいしかない。

竜の世話をするときは、支給された作業服で行う。動き易さと汚れてもいいようにと作られた服は、平民たちが着ている物より少しだけ質がいいだけの物だ。


「世話と言いながら、遊んでるだけじゃないのか?」


「竜と遊ぶのも仕事には代わりない。あいつらに気に入られなければ、乗ることもできんからな。それぐらい知ってんだろ」


オレたちにとって、竜に認められることが何より大事なことだ。

認めてもらえるならなんでもする。それくらいの気概(きがい)がなければ、この部隊ではやっていけない。


「仕事と言うなら、しっかり掃除はしておけ。獣舎もそうだが、ここもいつ来ても獣臭いぞ」


まったく、気に食わないなら来なければいいのに。

グウェンの側に控えてる近衛騎士の二人も、困ってんじゃないか。

まぁ、寝床の藁を替える作業してたから、汗臭いだろうが。


「ねー。りゅうしゃんにあってもいー?」


ズボンを引っ張られる感触と共に、足元から声がした。

視線を落として見ると、上質だと一目でわかる仕立てのいい、ピンクのドレスを着た少女がいた。

いや、少女と言うよりは幼児?

赤いウサギのぬいぐるみを背負い、一生懸命オレを見上げているのが、とても可愛らしい。

オレはすぐにしゃがんで、少女と視線を合わせた。

すると、嬉しそうに笑みを浮かべ、たどたどしい発音で名乗った。


「デーりゅラント・オすふぇのじじょ、ネふぇるティマでしゅ」


驚いた。オスフェ家と言えば、代々宰相を務める公爵家だ。

身分が下の者から名乗るという常識は、幼くても教わっているはずだが。

まさか、竜舎を見たいからって、隊長のオレを立てたのか?

…オレの考えすぎだな。たまたま忘れてただけだろう。

それにしても、舌足らずな口調も笑顔も、幼い子供は無条件に愛らしい。

つい、小さな頭を撫でてしまった。


ネフェルティマ様は竜に会いたがっているが、実際の竜を見て泣いたりしないだろうか?

オレたちには格好よくもあり、可愛いくもある竜だが、女の子にとっては恐い生き物だと思うんだが…。


とりあえず、竜には触らないと約束してもらい、竜舎を案内することになった。

ネフェルティマ様はオレの手を取り、急かすように歩く。

その後ろで、グウェンがまた文句を言っていた。


「幼い子に凶暴な竜を近づけるなんて…」


おいおい。ここにいる竜たちはむやみやたらに襲ったりはしないぞ。

本当に嫌なら帰ればいいのにと思ったが、どうやら王太子殿下の命令でネフェルティマ様の護衛に付いているらしい。

そりゃあ、竜が嫌いだから護衛対象を預けてきましたってなことはできんわな。


「グうぇんちゅいてこなくてもだいじょうぶだよ?」


ぐだぐだ言ってるグウェンを可哀想に思ったのか、ネフェルティマ様が言った。


「いいえ!ネフェルティマ様が王宮におられる間は、我々がお側に付いております!」


「隊長のことはお気になさらずに!」


グウェンの部下たちは一瞬顔が青くなったと思ったら、ビシッと直立した。

おぉ、ヤル気があっていいじゃないか!

グウェンのやつ、いい部下に恵まれてんな。


竜舎と言っても、敷地のほとんどが放し飼いができるように魔法で手が加えられている。

その片隅に竜たちの寝床となる建物が3棟あり、少し離れた所に竜騎士の寮と見習いの寮、大きな食堂や会議室がある棟。この棟には住み込みで働いてくれている料理人や侍女の部屋があり、安全策としてその下の階に隊長・副隊長の個室がある。


寝床の建物は藁の巣、砂の巣、石の巣と呼んでいて、竜たちの好みに合わせたらいつの間にかこうなっていたらしい。


ネフェルティマ様に巣の中を見せ、飼育環境のことを説明した。

そういうことには興味はないかとも思ったが、彼女は楽しそうに聞いてくれた。藁の巣では、替えたばかりの藁に飛び込んだりと、お転婆な一面も見せていた。

グウェンは相変わらず顔をしかめていたが。

お前、動物だけじゃなく、子供も嫌いなのか?いや、こいつの場合は、自分が認めたモノ以外はクズ扱いしてそうだな。


巣から果てしなく伸びる柵に沿って歩いていると、ちらほらと寛いでる竜たちの姿が見える。

ネフェルティマ様は目を輝かせ、可愛いとおっしゃってくれた。

うんうん。野生の竜は雄々しくて格好いいが、ここにいる子たちには愛嬌がある。

けして闘争本能は衰えているということはないが、安全な寝ぐらがあるというだけで違うものらしい。


しかし、突然竜たちの様子がおかしくなった。

落ち着きがなく、しきりに鳴いている。こちらに気づいた竜が物凄い勢いでやってくる。それにつられたのか、他の竜たちも我先にと群がってきた。

そんな竜たちの様子に、ネフェルティマ様も驚いている。

グウェンたちも異常を察知し、腰の剣を抜き、臨戦態勢に入った。


柵越しではあるが、たくさんの竜が押し合い、唸り声を上げている光景は恐ろしさを感じずにはいられなかった。


竜騎部隊の隊長として、そんな己を叱咤し、竜たちに制止の命令を出そうとしたときだった。


一頭のリンドブルムが柵を越えた。

考える間もなく、体は反射的に動いた。ネフェルティマ様の前に出る。

だが、オレの動きを予測していたかの様に、竜の咆哮が放たれた。それは弱者に対する威圧だ。頭ではわかっていても、本能が体を動かすことを拒絶する。

焦る気持ちを抑え、視界の隅でグウェンたちも動けないでいるのを確認した。

どうする?

異常事態に気づいた隊員たちが駆け付けるまで、どうやって持ちこたえる?


窮地を乗り切るために、頭を素早く稼動させる。


「あなたおなまえは?」


一瞬、なんのことかわからなかった。

まさか、ネフェルティマ様が動けるとは思ってもいなかったからだ。

動けるなら逃げてくれ!!

そんなオレの思いも知らず、彼女はリンドブルムに近づいていく。


グルルルッと唸り声が聞こえ、ネフェルティマ様がリンドブルムに引き裂かれる姿が脳裏に浮かんだ。


「わたしはネマってゆーの」


しかし、聞こえたのは悲鳴でも肉を切り裂く音でなく、のん気な幼い声。

その声に応えるように、再びリンドブルムの唸り声。


「そルのオーブもってりゅよ?」


もしかして、会話しているのか?

んな馬鹿な!!

それこそありえない!!

伝説として語られる英雄譚に、竜玉(オーブ)があれば竜と意思疎通ができるという一説があるにはあるが。

あれは原竜だけが創れる、伝説上の魔道具にすぎな……原竜!?

炎竜と契約した女の子って、ネフェルティマ様だったのか??


「ギゼりゅ、なでなでさせてー」


間違いない。

この竜舎にいる竜たちを統べる長、ギゼルの名前を言い当てている。

ギゼルも唸り声というよりは、意思を伝える鳴き声に変わっている。

正直、自分の目を疑いたい。

長として誇り高く、唯一人を乗せない竜のギゼルが、ネフェルティマ様に大人しく触られているなんて!!


「このこたちとあしょんでいーい?」


ギゼルに抱きつき、はしゃいでいるネフェルティマ様。彼女にされるがままのギゼルの姿が衝撃的すぎて、思考能力が吹っ飛んでいた。

何か聞かれたから、つい声を出そうとしたが、竜の咆哮の影響もあり、意味をなさないかすれ声が漏れただけだった。

それを諾と受けとったのか、ギゼルに手助けしてもらい、背中に乗って飛び立って行った。


あぁ、いっそのこと気絶したかった。

そうしたら、嫉妬などと言う暗い感情を、あの子に抱かずにすんだのに。

戻ってきたとき、オレはあの子に笑顔を向けれるだろうか?




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