ダオの交遊会は晴天ナリ!
ダオの交遊会は晴天に恵まれた。
会場となったのは、先日マーリエ父たちとお茶をしたのとは別の庭園だった。
宮殿の敷地はとても広く、私がよく遊ぶ噴水のあるお庭や先日の庭園は皇族のプライベートエリアにあり、こちらは催し物でよく使用される庭園らしい。
今はあちこちにテーブルセットが置かれ、その上も華やかに飾られていて、会場の片隅にはたくさんの料理と飲み物が用意されていた。
アイセさんの交遊会は立食式だったので、ダオのもそうだと思ったんだが違うのだろうか?
それに、ダオの交遊会なら同じ年頃の子供が多いはずなのに、テーブルセットは大人用なのも気になる。
子供だけにはしないだろうから、保護者用のものかもしれないけど。
「どうやら早く来てしまったようですね」
そうなのだ。会場には他の招待者の姿はなく、侍女や料理人たちが忙しく準備に追われていた。
ダオの警衛隊の皆さんは警備のためか、あちこち調べている様子もあった。
こうして働く姿を見ていると、動きに無駄がなくプロ集団であることがよくわかる。
「あの料理人……」
パウルの視線の先には、料理人が焼き菓子が載ったお皿を配膳していた。
何が気になったのかよくわからなくて目で追っかけてみたけど、各テーブルにお皿を配ったり、お茶っ葉を種類ごとに並べたりとよく働いている。
すると、視界の隅に変な動きをしている人がいた。
「何しているんだろう?水浴び?」
「あれは噴水の中を調べているのでしょう」
二人がかりで水の中に不審物がないか確認しているらしい。その他にも、木の上を一本一本調べたりもしている。
「あのような場所に何か仕掛けるのは二流三流ですがね」
パウルが少し呆れたように言うので、パウルならどこに仕掛けるのか聞いてみた。
「そうですね……わたくしなら、この建物の上から狙います」
会場を鋭い視線で見渡し、最後に宮殿の棟を見上げて言った。
……パウルはスナイパーになる気なのかな?あんなに離れていて、要人を狙うってかなり難しいと思うぞ。
本当に、パウルは何者なんだろうね。
「そもそも、このきゅうでんにあやしい人が入れるとは思えないけど」
「協力者がいれば入れますよ。まぁ、簡単ではありませんが」
副音声で、我々には可能ですと聞こえた。絶対にやろうと試みないで欲しい。
しばらく準備風景を眺めていたら、ぞろぞろとたくさんの人がやってくる音がした。
「ネマッ!」
先頭を歩いていたダオが満面の笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「ダオルーグ殿下、本日はごしょうたいありがとうございます」
ライナス帝国式の礼をして、ダオに挨拶をする。
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ」
ちゃんと皇子としての立場を保ちつつ、嬉しいを溢れさせているダオが可愛くてしょうがない!
人目がなければ、頭をなでなでしたのに!
「殿下、そのように走るのははしたないですわ」
人を率いてやってきたのはマーリエ母だ。扇で口元を隠してはいるが、ダオに対して呆れているという態度を顕にしている。
事前にマーリエ父からはマーリエ母の出席を聞かされていたし、彼女を抑えられるマーリエ父が出席できないのも知っていたけど、しょっぱなから会ってしまうとは。
「……エンレンス夫人、ごめんなさい」
ダオが謝るとマーリエ母は満足したのか扇を閉じ、他の出席者たちを連れて会場に歩いていく。
マーリエも母親には逆らえないようで、大人しく側に付き添い、心配そうにダオを見やるだけだった。
「ダオ、大丈夫?」
「うん。ネマも行こう」
無理に微笑んでみせる姿は痛々しいが、それでも気丈に振る舞うダオの意思を尊重して、ここは大人しく口は出さないでおく。
いつも誰かがダオを手助けできるわけでもないので、自分で乗り越えようとしているなら見守るべきだ。
行こうと差し出されたダオの手を取り、拙いながらもエスコートしてくれるダオ。
「ありがとう」
感謝を込めて笑顔でダオに礼を言えば、ダオもいつもの笑顔を返してくれた。
ただ、交遊会とはいえ、保護者同伴となればここは社交の場。
敵意を向けてくる者はたくさんいる。
「ほら、あの子でしょう?なんでも、耳当たりのよいことを言って、ダオルーグ殿下を誑かしているとか」
「まぁ。酷い」
ここ最近のダオの変化は、ダオと接する者たちならすぐに気づいただろう。
良識のある大人は好意的に受け止めているが、ダオの側で甘い蜜を得ようとする者たちは心中穏やかにはいられないようだ。
まぁ、他国で噂になったくらいでは、我が公爵家はなんの痛手も受けない。
「いい、ダオ。ここにいる大人たちは、私たちが物わからぬ子どもとあなどっているわ。そういうときこそ、相手の本性が出てくるの。しっかりと見きわめてね」
「でも、交流するのは子供の方だよ?」
「子どもはね、すごく親にえいきょうされるの。でも、マーリエのようにダオのことを思ってくれている子もいるかもしれないし、話せばわかってくれるかもしれない。しょうらい、ダオの側近になる者たちを選ぶのだからすぐに決めなくてもいいのよ」
皇族の皆さんに、自分の側近を決めるきっかけなどを聞いてみたら、意外と時間をかけて為人を確かめていた。
特に多かったのが、学術殿での生活や態度を見てというものだ。幼いときに側にいることを許しても、学術殿に上がると爵位の低い者に高圧的に接する、勉学に励まないなど、別の姿が見えてきたという。
世界が少しだけ広くなって、親の目も届かないから開放的になったり、思春期特有の態度だったりするんだろうけど、そういった己を律することができない者はいらないらしい。
本当、この国は厳しいね。
「だから、ダオは楽しんできて」
そう言って、人の輪に入るのを躊躇するダオの背中を押した。
「ネマにも楽しんでもらいたいんだよ?」
「ダオががんばっている姿を見ているのが楽しいから大丈夫!」
すでに楽しんでいるよと伝えれば、ダオはふて腐れた顔をする。
「そういうことじゃないのに……」
私が頑張れと励ますジェスチャーをしたら、とぼとぼと人が多い場所に向かっていった。
「この機会に、お嬢様も友交を広めてはいかがですか?」
それでは聞いてくれ。
私、友達がダオとマーリエしかいません!!
歓迎の宴のときにたくさん友達作りたいみたいなこと言ったけど、考えてみれば、私の行動範囲に子供は立ち入れないっていうね。
先ほどの様子からしても、親たちは私のことをないこと十割の噂を子供たちに言い聞かせているかもしれない。
「半分以下ではありますが、中立派の家も招待されているようですし、すでに他の皇子の側付きに選ばれている家も見受けられます」
「テオ様やクレイ様のってこと?」
「はい。下のご子息をお連れになっているのでしょう」
それってありなの?
普通、その側近になった皇子を推さない?
つい、いつもの癖で首を傾げてしまい、パウルから注意が飛ぶ。そのあとに、ちゃんと疑問にも答えてくれたけど。
「どなたが聖獣様に認められるかわかりませんので、保険のようなものかと」
「それはそれで、ダオに失礼じゃない?」
私が納得できる答えではなかった。
もっと経験を積み重ねれば、ダオだって他の兄姉に負けないくらい立派な皇子になるのに!
「権力争いとはそういうものです。先を見据えることができる者や相手を上手く操れる者が勝ち残る世界ですから」
まぁ、貴族として生まれたのなら、多かれ少なかれ権力抗争の中を上手く泳いでいかないといけないんだけどさ。
わかっていても、感情はダオを優先してしまうよね。
「というわけで、お嬢様も頑張りましょう」
それはつまり、この場にいる人たちの敵意に臆すことなく躱すなり、やり返すなりしろってことですかねぇ。……できるかな?
「パウル、何かあったら助けてね」
「もちろんです。ちゃんとお側におりますので」
というわけで、会場を見て回ることにした。
配膳係からジュースを受け取り、美味しそうなお菓子やケーキにも目がいってしまう。
「お人形さんが、まだお友達のようですのね」
テーブルの側にいた女性たちが、クスクスと嘲るような笑いを扇子で隠す。いや、隠せてはいなかったわ。
無視してもいいんだけど、嗤われたままなのも癪である。
「私の大切な宝物なんです」
私は彼女たちに向かってニッコリ笑ってそう告げる。
私とソルを繋ぐ大切な竜玉だ。誰になんと言われようと、肌身離さず持っている。
竜玉は好きな形に変化させられるのでアクセサリーにしてもいいけど、やっぱりなくしそうで怖い。それに、うさぎさんリュックの方が、何かと便利だよなぁ。特に転んだときとか。
「宝物ならば一層のこと、こういった場にはお持ちしない方がよろしくてよ」
「粗相して汚してしまうかもしれませんものね」
話を続ける彼女たちにも驚いたが、そういえば、うさぎさん汚れないなと今さらに思った。
竜玉なら汚れなくても不思議ではないが、うさぎさん自体にバリア的な作用がついているのだろう。常に私と一緒で、大変な目に遭ってきたうさぎさんだ。汚れだけでなく、破れたりしてボロボロになっていただろう。
「ご心配は不要です。こう見えても、我が家はこうしゃく家ですので、きびしく育てられておりますから」
親の爵位を出されては口籠もるしかないのか、少々顔色が悪くなった。
だが、これで終わらせるつもりはない!
「ライナス帝国はいいですね!れいぎさほうがきびしくないみたいで、うらやましいです」
本当に羨ましがっているように演技もつける。
実際は羨ましくもなんともない。自由度が高いぶん、求められるもののハードルもめっちゃ高いからだ。
「わがガシェ王国はれいぎさほうが細かく定められておりまして。名乗りと礼、これがなければ始まる前から終わっているというのが、おとう様の口ぐせなんですよ」
身分や状況に応じた礼が数多くある我が国では、人間関係の始まりは名乗りと礼からと言われている。
それができない貴族は社交界において白い目で見られるので、まともな人間関係は望めない。つまり、終わっているということだ。
女性たちの目が戸惑うように私から逸らされた。
気づいたのかな?
自国の皇族が主催する催しで、名乗りもせずに国賓に話しかけ嘲笑する。
それによって、ライナス帝国は礼儀を知らぬようだと、こんな子供に言われて恥をさらすはめになったと。
人の不幸は蜜の味と言うが、会話が聞こえていたであろう範囲にいるご夫人たちは助けるわけでもなくただ微笑んでいるだけ。
ここで庇っては、自分が恥知らずな人たちの友人だと広まるのを嫌がっている節もある。
私に嫌味を言ってきた彼女たちも、とっとと謝ってうやむやにすればいいものを。
「それでは、失礼いたします。ご忠告、ありがとうございました」
人の少ない場所まで行き、パウルに疲れたと愚痴をこぼす。
「頑張られましたね。ですが、わたくしからするとまだまだ甘いです」
ママンレベルの崇高な嫌味の応酬を求められても無理だよ?あのパパンですら言葉ではママンに敵わないんだからね?
「あの場合、どうしたらいいの?」
甘いと言うのならば、お手本を教えてくれ。
子供にもできる、華麗に躱す術を!
「わたくしでしたら…。皆様のような大人に早くなりたいです。でしょうか」
「その心は?」
パウルのことだから、絶対そんなこと思っていないはずだ。
本音はどんな酷いことを思っているのやら。
「頭からっぽで生きていくなんて哀れだな」
素に近い言葉だったからか、背筋がひゃってなった。
目が…パパンが怒ったときみたいに冷たいよ。
失礼いたしましたと、いつもの表情に戻ったけど、やっぱりパウルは敵に回してはいけない人物だな。
「とりあえず、相手をほめればいいの?」
「基本はそうですね。褒めておけば、こちらのことを甘く見るでしょうし、言い負かしたときの傷も深くなります」
ようは、よいしょしてからの突き落とせばいいんだな!
はなから噛みつくよりも、ショックが大きくなると。
……結局、悪どいことには変わらなくない??
うーんと唸っていると、パウルが片膝をついて視線を合わせてきた。
「状況を正しく判断している方は、お嬢様に失礼な言動はいたしません。そういったことを言ってくるのは貴族というだけの馬鹿か、お嬢様を試そうとしている厄介な相手のどちらかです」
おぅ。パウルも辛辣だな、ヲイ。
「ですが、厄介な相手はお嬢様を認めたら、心強い味方となってくれるでしょう」
なるほど。そういう相手を見極めろってことか。だけど、その見極めっていうのが難しいんだよねぇ。自分がダオに言っておいてあれだけど、厄介な相手は本当に厄介だ。
「がんばる!!」
気合いを入れ直して、再び人が多い場所に戻る。
ほとんどの人が、パウルの言っていた状況を正しく判断している人なのか、変なことを言われることはなかった。
そして、子供たちに話しかけようとすると、それとなぁく逃げられたのには、さすがの私でも泣きそうだよ。
私に近づくなという指示でも出ているのかな?
私が離れたからかマーリエがダオの隣にいるのが見えた。
やはり、マーリエがいると心強いのだろう。ダオもこの場に馴染み始めたようだ。
しかし、そんな二人の死角になる位置で様子のおかしい集団がいた。
「パウル、こっそり近づくわよ」
後ろ側からひっそりと近づくと、女の子が突き飛ばされた。
「獣人のくせに、こんな場所まで出てくるなんて、本当に礼儀知らずね」
「やだ、汚い毛がついちゃったわ」
綺麗なドレスを着た女の子たちと一緒にいる同じ年頃の男の子たちも、突き飛ばされ尻餅をついた女の子を見て笑っている。
「あなたたち、何をしているのかしら?」
突き飛ばされた女の子を庇うように前へ出ると、最初はまずいと焦ったような顔をしたのに、自分よりも小さな女の子だとわかればすぐに強気に出てきた。
「獣人は汚い生き物なのだから、ここから追い出そうとしているんだ」
そう言った男の子は胸を張り、自分が正しいことをしていると思い込んでいる。
「大丈夫?もう少しだけがまんしてね」
そんな彼らの主張はさておき、怯えている獣人の女の子に優しく声をかける。
耳がぺたんとして、ぷるぷる震えている様子は庇護欲がかき立てられるほど可愛い。
耳や尻尾の形から、猫系の獣人だろう。大虎族か小虎族かまではわからないけど。
「じゅう人が汚いなんて、どこをどう見たらそう思えるのかしら?」
彼らの言い分より、そちらの方が信じられないと、大げさに言ってみる。
自分の価値観の方がおかしいのかもしれないと思わせることができればいい。
「獣の体を持っているのよ?耳と尻尾なんて、とてもみにくいわよ」
「まぁ、あなたたちのような人には理解できないのね。じゅう人たちの耳もしっぽも、とてもみりょく的なのに」
「みりょく的?」
「星伍、陸星」
今回、魔物っ子たちで同行できたのは、宮殿を我がもの顔で駆け回っている星伍と陸星、私の髪に隠れているグラーティア、招待客に紛れている海だけ。
誤魔化しようのない白と獣人と偽っている森鬼はお留守番となっている。
せめてスピカだけでもと思ったが、獣人を嫌っている貴族が多いため、連れていかない方がいいとマーリエ父にも言われた。
「わん!わん!」
「うちの子たちよ。動物だけど、耳もしっぽも毛並みすら素晴らしいでしょ!」
「うわっ!俺、触ったことないんだよ……」
二匹の登場に動物に一度も触ったことのない子たちが怯え始める。
そして、逃げだそうとする子までいた。
「大丈夫よ、その子たちは絶対にかまないから」
近くにいた女の子の手を取り、そっと星伍に触れさせる。
ラース君には及ばないものの、この二匹の毛並みも毎日手入れをかかさないので、極上の仕上がりになっている。
「……っ!?」
初めての感触に言葉が出ないようで、女の子は目を見開いて固まった。
大人しく、魅惑の尻尾をふりふりしている二匹は、撫でてくれないの?と言わんばかりの上目遣いで、子供たちに愛想を振りまいている。
「ほら、怖くない。こわくなーい」
自分よりも小さな私に馬鹿にされたと思ったのか、男の子が陸星に手を伸ばす。
陸星もどうして私が呼んだのかを理解しているみたいで、男の子が怖じ気づいて手を引っ込める前に、グイッと頭を押しつけにいった。
その仕草がちょっと猫みたいだったのは言わないでおこう。
「おわっ!」
男の子はビビって飛び退いてしまったが、触ったことがないから怖いのであって、一度触ってしまうと恐怖心は軽減するものだ。
現に、再び男の子は陸星に近づいていっている。
そうやって、みんなで代わる代わる二匹と触れあうと、強ばっていた顔に笑顔が見られるようになった。
「すごいふわふわ!」
星伍の尻尾を触っての感想に、そうでしょうそうでしょうと私は頷く。
お尻周りのぽってり感も堪らないんだよねぇ。
我が子の可愛さにいろいろと暴走しそうになるが、そろそろまとめることにしよう。
「この子たちの耳としっぽ、すてきでしょう?じゅう人さんたちの耳としっぽも同じようにとうといのよ!」
特に子供の獣人なんて、可愛いしかない!
しかも、種族によって成長スピードが違うので、ある意味子供の獣人を愛でることができるのはレアなのだよ!
「リアの赤ちゃんみたいに、ぷるぷるふるえている姿を見てかわいそうだと思わない?守ってあげたいって気持ちがわいてこない?」
いまだに怯えて子供たちを窺っている獣人の女の子に視線が集まり、さらに怯えてしまった。すまん。
「この子は私たちが持ちえないすてきなものを持っているのよ。それをうらやましがるならまだしも、汚いものだなんてもう言わないで」
ほんと、羨ましくて、何度スピカの尻尾に飛びかかってしまったことか。
できるなら、私ももふもふ尻尾の獣人に転生して、森の中でもふもふに囲まれる生活がしたかった……。
「……でも、獣人はうろこを持つ奴だっているんだろ?」
「うろこを愛でるのは上級者向けだからおすすめしないわ。でも、平気なら竜種にもさわれるようになる!」
爬虫類系に関しては向き不向きが本当に分かれるので、押しつけたりはしないよ。
それに、爬虫類は見ているだけでも可愛いしね!つぶらなお目めに、チロチロと出す舌が魅力のヘビ。様々な色を表現するカメレオンは、目の動きも歩き方もユニークで見ていて飽きない。カメもゆったり歩く姿や首を伸ばして呼吸する姿はとても可愛い。
「うそだ!竜種に触れるもんか!」
地球の爬虫類を思い出していたらがっつり否定されたけど、こちらもがっつり否定させてもらう。
「うそじゃないわ。わがガシェ王国には、リンドブルムとリンドドレイクをあやつる竜騎士がいるし、この国にだってワイバーンに乗る飛竜兵団がいるじゃない」
私自身、リンドブルムに乗ったことがあると言えば、男の子たちは驚き、そして羨ましそうに見つめてきた。
ふふふん。いいでしょー!
「あなたたちだってがんばれば、ワイバーンに認めてもらえるかもしれないのよ?自分の可能性を自分で狭めてどうするの」
触れないと決めつけては、生き物と仲良くなるなんてできない。
動物も人間と一緒で、仲良くできないって距離を置かれては、仲良くなろうにも近寄れないと感じるのだろう。
「お母様がお許しにならないわ……」
動物を触ったり、獣人と仲良くしたことで、親に怒られると我に返った子が小さな声で呟いた。
「親は親。あなたはあなたよ。そりゃあ、親たちの方が長く生きている分、はんだん力があるけれど、全部したがわないといけないわけじゃない。ダメだと言われたら、理由を聞いてあなたがはんだんすればいいの」
例えば、木に登ったらダメだと言われたら。きっと親なら危ないからと答えるだろう。でも、どう危ないのかまで教えてこそ、子供は理解できるのだ。
もし、落ちたら大怪我をするかもしれないし、下手したら命を落とすかもしれない。
街に行きたいと言ってダメだと言われたら、危険がいっぱいあるのよと親は言うだろう。
でも、その危険を子供は想像できない。経験したことがないからだ。
だから、怖い人にさらわれる、貴族だからと殺されるなど、具体例を言えば、女の子たちが怖がる。
「なんで貴族なのに殺されるんだよ」
「どこでうらみを買っているかわからないじゃない」
「お父様はりっぱな領主だぞ!」
どんなに領民に心を砕こうと、すべての人に好かれることはない。
現に貴方たちは獣人を嫌っていたでしょうと言えば、男の子は押し黙る。
生活に苦しんでいる領民のために政策を打ち出しても、その政策によって不利益をこうむる人が出てしまうだろう。
そういった人たちは不満を募らせ、領主を恨んでしまうこともある。
パパンだって、一部の貴族からは嫌われているのだ。それは、オリヴィエ姉ちゃんだって、サンラス兄ちゃん、ジーン兄ちゃんも同じ。女のくせにとか、金にがめついとか、ふらふら遊んでいるとか、みんながどんな仕事をして、どれだけ頑張っているのかを知ろうともしないで文句を言うのだ。
でも、パパンもオリヴィエ姉ちゃんたちもみんな笑って言うの。
私たちはあいつらのために働いているんじゃないって。国民の声を聞くのが忙しいから、他は何も聞こえないって。
そうやって、真摯に働いているパパンは凄く格好いいよね!
「誰しもに好かれるなんて、夢物語でしかないの。でも、自分をきらっているかもしれないと感じても、民を助けているあなたのおとう様はすごい方だわ」
この子の父親がどんなふうに領地を治めているか知らないが、こうして子供に尊敬される仕事ぶりだと思われる。
私がパパンやママンを凄いと思うように、子供はちゃんと親を見て判断しているのだから。父親を褒められて嬉しかったのか、男の子は照れたようにありがとうと言った。
その照れた姿がとても可愛らしかったが、撫でるのはやめておく。
「さぁ、話はもうおしまい。仲なおりしましょ」
パウルが汚れちゃったドレスを綺麗にし、お世話してくれたので、獣人の女の子は泣き止んでいるが……。
はっ!すんごいキラキラした目でパウルを見つめている!!惚れたのか?惚れちゃったのか!?
こんな子猫な幼女を手玉に取るとは……パウルめっ!!
獣人の女の子はパウルに促されて私の隣に来ると、か細い声でお礼を言った。
「……突き飛ばして悪かった」
一人が謝ると、それに倣うように他の子たちも謝罪を口にする。
「あなたがいやなら許さなくてもいいのよ。でも、この子たちは親に言われたことしかじゅう人について知らなかったの。あなたが教えてあげてるのも手だけど、あなたはどうしたい?」
「……わ、わたしこわくて……」
彼女の言葉を聞き漏らさないよう、急かさずただ黙って見守る。
「ゆるせないっておもう……。でも、どうしてあんなことしたのか、わたしはしりたい」
「じゃあ、みんなに聞いてみようか。でも、ここじゃなくて、あっちの席でお菓子を食べながらね!」
みんなを連れて空いているテーブルに着席すると、パウルがすかさずお茶の用意を進める。
「いい。かこんを残さないために、素直に言いたいことは言う、聞きたいことは聞く。身分は関係なしよ!」
これが上手くいけば、この子たちはもふもふを布教する足がかりになる。
当初の予定では、最強ケモミミメイドのスピカを自慢しまくるつもりだったけど、機会は多いに越したことはない。
よし、気合い入れていこう!