冒険のあとは休息、報告、また冒険!?
アリさんとお別れしてから、急いで宮殿に戻ることにした。
「今からじゃ、コス湿地帯に到着するのは夜にならないか?どこかで夜営でもするか?」
フィリップおじさんは聖獣がいても夜の移動は避けた方がいいぞと、懸念を告げる。
夜営と言えば、つまりはキャンプだな!
ついに私の特訓の成果を披露するときが来たようだ!
……この顔ぶれで、私の出番あるかな?
「炎竜殿に急いでもらえば、夕刻には着けるだろう。ネマ、寄り道はいっさいしないからな」
行きよりも速い速度で飛んで、バビューンと運んでもらうつもりか。
ソル、スピードを出すときは高高度を飛ぶし、景色が楽しめないので好きではないのだが……致し方ない。
遅くなったのは私のせいだし。
じゃあ、バビューンと帰りますか。
籠をソルに取りつけたり、荷物を運び込んだりしていると、星伍と陸星が私の方に駆けてきた。
「ラース君に乗りたい!」
「ぼくも乗りたい!」
私がラース君と呼んでいるからか、この二匹もラース君って呼んでいるんだよね。
でも、そこまで仲良くなかったと思うんだけど、ここ数日で苦手意識がなくなったのかな?
私の一存では決められないので、ヴィとラース君にお伺いをたてにいくことに。
「ラース君、星伍と陸星がラース君と一緒がいいって言っているんだけど」
――グルルル
ラース君の返事をヴィに尋ねると、別に構わないとのことだった。
「よかったね」
お許しが出たので、二匹は尻尾をブンブン振り回して喜んでいる。
「こいつらが乗るのはいいが、誰が抱えるんだ?」
「え、私とヴィ以外誰がいるの?」
ラース君が乗せる人間は私とヴィ以外いないのに、何を言っているんだ。
これ見よがしにため息つかれたけど、うちの可愛い子たちに何か文句でもあるんですかねぇ?
ヴィに陸星を差し出すと、渋い顔してなかなか受けとろうとしない。この子たち、こう見えても重いから、早く受け取って欲しいんだけど。
「どうしたの?」
「……いや」
ヴィが煮え切らない態度をするのは珍しく、私は首を傾げた。
「……小さい動物は苦手なんだ」
はい!?何が苦手だって?
ヴィの言葉が信じられなくて、彼の顔をまじまじと見てしまった。
気まずそうに顔を背けるヴィ。
衝撃的告白だったが、うちの魔物っ子たちと遊んでいたではないか!
「でも、白とグラーティアは触っていたよね?」
「ハクはスライムだからな。多少乱暴に扱ったとしても、痛みも感じないだろう。そういえば、グラーティアが原因といえば原因か?」
グラーティアを初めて手にしたとき、魔物とは言え、簡単に潰せそうでどうしたらいいのかわからなかったらしい。
すぐに私が奪い返したから、事なきをえたと。
「星伍と陸星もコボルトだから、か弱くはないよ?」
「わかってはいるが、ラースと比べるとな」
いや、ラース君と比べちゃったら、みんなか弱いよ!
でも、ヴィの気持ちがわからなくもない。
小さい動物はとても可愛いけど、同じくらい儚くも感じる。
小型犬がジャンプしただけでも骨折すると聞いたときの恐ろしさよ!
「この子たちは痛かったりしたらちゃんと言ってくれるよ!」
「そういえば、こいつらもしゃべれるんだったな」
そうそう。この子たちが魔物だって知らない人がいるところではしゃべらないから、私もつい忘れることもあるけど、ちゃんとしゃべれるんだよ。
「だから大丈夫!」
はいっとやや無理やり陸星を抱かせる。
ヴィの抱き方はちょっとぎこちないが、まぁ私の真似をしてくれれば問題ない。関節に負担がかからないよう、体とお尻をしっかりと支えてくれ。
それに、この子たちはお利口なので、すわりが悪いときは自分でポジションを調整するしね。
ラース君に乗せられて、星伍と陸星を受け取り、ヴィが乗ると陸星を引き取ってくれた。相変わらず、私の腰には命綱が装着されている。
ラース君とソルが空に舞うと、星伍と陸星のテンションも上がってきたのか、アオーンと遠吠えの合唱を始めた。ソルの方では稲穂も頑張って合唱に参加しているのが可愛い。キツネの遠吠えって、犬よりも高い音なんだね。大人の真似している子犬の声にしか聞こえないけど。
ソルの背中に海の姿はなく、籠の中で樹幕にくるまったままだった。ただでさえ狭いのに、息苦しくないのかな?
雲よりも上に出ると、ソルはスピードを上げる。
いろいろと魔法を重ねがけしてあるので、籠は揺れないとのことだったが……。
本当にびくともしていない。こうなると、ソルは飛行機みたいだね。
ヴィの魔法により離れていても声が届くので会話ができるということで、飛んでいる間は暇だし、フィリップおじさんから話を聞くことにした。
極悪甲種の体液を塗ったくだりはちょっとうへぇってなったけど、結局バレて、飛び降りからの崩落って……フィリップおじさん、お祓いに行った方がいいよ。絶対、運気下がってるよ!
そのあとの洞窟探検はちょっと、いや、かなり羨ましかったけどさ。
それにしても、あのサイズのアリの集団に襲われるってパニック映画さながらだな。さぞ、恐ろしかったに違いない!
「そういえば、ネマに聞きたいことがあるんだが?」
フィリップおじさんが改まってそう言ってきたので、なんでも答えるよと先を促したら、なかなか返答に困る質問をされた。
「ネマが嫌いな生き物ってなんだ?」
……嫌いな生き物??
嫌いって生理的嫌悪が伴うようなやつ?
うーん、この世界ではまだこれ無理っていう生き物には会ったことないような。
どちらかというと、単体は平気でも群れになるとごめんなさいってなる生き物ならいる。
ルノハーク……あ、虫の方ね。虫全般、いっぱいいると近づきたくないし、それがうぞうぞと蠢いていたらやっぱり嫌だし。
あと、いっぱいいると踏んづけちゃいそうで可哀想だし、踏んだときの感触とかさ……。
「小さい生き物がいっぱい群がっているのが苦手かも」
一種の集合体恐怖症なのかな?
でも、見るだけなら平気なこともあるし、自分のことだけどよくわからないや。
「ルノハークも一匹だけなら平気なの!?」
「見るだけなら」
エリジーナさんが驚いているけど、一匹だけならアレはコガネムシみたいなものだ。人類の敵に似た形と動きをするが、色だけはコガネムシなんだ!
ただ、地球産と同じで、一匹見かけたら何十匹もいるので即退治を推奨する!!
「ネマ、お前は凄いよ……」
フィリップおじさんに褒められたけど、なんでだ?
そんな感じでおしゃべりを楽しんでいるうちにかなり飛ばしていたらしく、空が茜色になり始めるくらいにコス湿地帯に到着した。
ここはデンジャラスゾーンなので、できれば早く移動したい。
アンフィヴェナボアはいいとして、ブハディが問題だ!あれには絶対噛まれたくない!
そう思っていると、ソルが降り立った場所からブハディが我先にと逃げ出していくではないか。
大きなヒルもどきがその体をくねらせて、なんとかソルから距離を取ろうとしている姿は……なんか哀愁を誘うね。どんなに頑張っても数センチずつしか進めないんだもの。
アンフィヴェナボアは巣の中に隠れてしまったようで、あの愉快な頭は見えない。
何匹か、巣の上を通ったブハディをこれ幸いにと捕まえた子たちはいたが。
私が観察に精を出している間、お迎えにきてくれたワイバーンたちはソルに挨拶をして、パウルたちはせっせと荷物の移し替えをしていた。
ワイバーンに籠が装着されると、ここでソルとお別れとなる。また、淋しくなるね。
ソルの顔に乗り上げるようにしがみつき、お礼を伝える。
「ソル、力を貸してくれてありがとう!」
『たまには人の子らと戯れるのも悪くない』
ちょっとした気まぐれだと誤魔化しているが、照れ隠しなのはバレバレである。
そこをいじると拗ねちゃうので、黙っておくのが正解だ。
――きゅーん……。
いまだにソルの頭の上に乗っていた稲穂が悲しげな声で鳴く。
そして、離れたくないとでもいうように、ソルの頭にすりすりと顔をこすりつけ始めた。
「稲穂、ソルとはまた遊べるから、困らせちゃダメよ」
ちょっと失礼と声をかけて、ソルの顔をよじ登り、稲穂のところまで行く。
ソルには悪いが、ソルクライミングもだいぶ慣れてきたよ!
まぁ、落ちても大丈夫なように、ソルが地面に寝そべってくれているおかげなんだが。
稲穂を抱きかかえて、お別れの挨拶しようねと促す。
――きゅーん、きゅぅ。
すると稲穂だけでなく、ブハディで遊んでいた星伍と陸星、ブハディを体に取り込んでいる白もやってきて、また遊ぼうと言っているようだ。私の肩にいるグラーティアもカチカチと牙を鳴らし、ノックスもクルルと可愛らしい声を出していた。
みんなもソルのことが大好きなんだねぇ。
ただ、次の約束をするのはいいが……。
「白、おやつはパウルからもらったものだけにしなさい!」
◆◆◆
宮殿に戻ると、宰相のゼアチルさんに今日は休んで、陛下たちとの謁見は明日にしましょうって言われた。
「じゃあ、俺たちはエルフの森にこれを預けてくる」
「ついでに食事もすませてきますので、お気遣いなく」
紫のガンダルの申し出に、ゼアチルさんは心配そうな様子。
「宰相閣下には申し訳ないが、宮殿は肩が凝るので。それに、そろそろ安い酒が恋しい」
そういうことならと、これ以上ゼアチルさんが引き留めることはなく、フィリップおじさんたちはあっさりと宮殿から出ていった。
いいなぁ。私も帝都の大衆食堂とか行ってみたい!
宮殿に割り当てられた自室に戻ると、まずは海を寝かせることにした。
朝から元気がなく、ずっと樹幕にくるまったままなのだ。
「海、大丈夫?」
樹幕から顔だけ出している海のおでこに手を当てる。
熱はないけど、この子も魔物なので治癒術師に診せるわけにもいかない。
お兄ちゃんやヴェルだったらなんとかできたかもしれないが。
「うん……ずっと眠い」
「寝ちゃってもいいし、食べられるようなら私の欲を食べていいからね」
おでこから移動し、よしよしと頭を撫でる。
海の髪はキューティクル艶々のサラサラヘアーなので、撫でていればいくらでももふもふ欲が湧き上がるだろう。
「美味しい……」
いつもの恍惚とした笑みではなく、弱く儚げな笑みは別の意味でやばかった。目に毒!
見慣れているはずの私ですら、見惚れたわ!めっちゃ心臓ドキドキしてるよ!!
この子、この顔だけで国を落とせるんじゃなかろうか?
転生してイケメン耐性はカンストしたと思っていたが、まだ伸びしろはあるみたい。
私がドギマギしている間に海は寝てしまい、森鬼が樹幕ごとお姫様抱っこを……。
あ、絵になるな。私よりお嬢様と騎士って感じが出ている!
「森鬼、そのまま海の様子を見ていてくれる?苦しみ始めたりしたらすぐに教えて」
森鬼はわかったと了承してくれてた。稲穂も私を見つめきゅーっと鳴いたので、海の側にいていいよと言ったら、森鬼のあとを追いかけていった。
稲穂にとって海はお兄ちゃん的存在だから心配なのだろう。
病気になったときに独りは心細いし、森鬼と稲穂がいると海も心強いんじゃないかな。
そういえば、私以外の家族が寝込んだところを見たいことないような……。
「おねえ様って病気になったことある?」
「わたくしは……ないわね」
「おにい様も?」
「わたくしの記憶する限りでは、お兄様もないし、お父様、お母様だってないわよ」
ひょっとして、チートだから病気にならなかったりする?
風邪みたいな病気は存在しているから、私の知らないバリア的な魔道具でもあるのか?
「オスフェ家の皆様の健康は、わたくしどもが責任を持って管理させていただいておりますので、ご病気にはさせません」
「いつもわたくしたちを気にかけてくれているみんなのおかげね」
お姉ちゃんの言う通り、スーパーマルチな使用人の皆さんのおかげでしたか。
まぁ、これだけ日常生活をお世話してもらっていて病気になるのって、不摂生が原因か生まれつきしかないか。
ただ、私の知恵熱は病気とカウントされないみたい。一晩寝れば治るしね。
「ですので、ご夕食は体に優しいものを用意しております。本日は夜更かしをせず、早めに就寝してください」
パウルにお世話されるがまま、ご飯食べて、お風呂入ってからベッドに横になると、体は正直だった。
ここ数日のマットレス生活のせいか、ベッドの柔らかさが心地いい。
おやすみの挨拶をして、目を閉じる。お姉ちゃんのいい匂いと温かい体温に包まれて、夢も見ずぐっすりだった。
たっぷり寝たおかげか、空腹で目が覚める。
パウルに珍しいと言われたけど、最近はそこまで寝起きが悪いことはない……はず。
海も寝たらよくなったようで、起きてすぐにお腹空いたってくっついてきた。
寒さで弱っていたのかもしれないね。
一安心したら、朝食も美味しく感じる。
それから、帰ってきた報告のお手紙を家族やダオたちに書いている途中で、陛下の侍従が呼びにきた。
お姉ちゃんと一緒に謁見の間に通されると、すかさずラース君が来てくれたので挨拶もふもふを交わす。
すると、ユーシェが鼻息荒く顔を突っ込んできて、少々面食らったよ。
「ユーシェ、おはよう」
ユーシェの顔を撫でると、もっと撫でろと押しつけてくる。
いつもより甘えっぷりが激しい気がするなぁと思っていたら、サチェがやってきてユーシェに噛みついた!嫌がるユーシェ!
ケンカが始まるのかと慌てていると、ラース君の咆哮が謁見の間に轟いた。
私にはちょっとうるさいくらいにしか感じなかったが、警衛隊の人たちやフィリップおじさんたちが耳に手を当て痛がっている様子を見ると、本当は鼓膜が破れそうなほど大きな咆哮だったのかもしれない。
じゃれるのをやめたユーシェとサチェが、やや不満そうに陛下たちのところへ戻っていくのを私はポカンと見つめていた。
「ラース殿、ユーシェが申し訳ない」
「サチェも少し戯れが過ぎた。この通りだ」
「陛下方に非はないと言っているので大丈夫ですよ」
陛下と先帝様がラース君に対して謝ると、ラース君は短く鳴き、ヴィが言葉を代弁する。
「あとでネフェルティマ嬢との時間を作るから、今は許せ」
陛下がそう言うならといった様子で、ユーシェとサチェは大人しくお二人の側に侍るが、ラース君に怒られたことに関しては、堪えてないようだ。
「では早速、紫のガンダルの報告から聞こうか」
「依頼にあったアニレーは無事にエルフの森の長にお渡しすることができました。早速、薬を作ってくれるそうです。そして、私たちはルルド山の洞窟で、聖獣様とお会いしました」
……聖獣だって!?初耳なんですけど!!
私以外にも驚いている人は多く、ざわめきが収まってからフィリップおじさんは続けた。
「その聖獣様に、契約者の子孫である陛下へあるものを託して欲しいとお願いされました」
ライナス帝国の皇帝は皆、聖獣の契約者なので、何代目かの皇帝の聖獣があの山にいたのかな?
「その聖獣様の名は?」
「羽翼の聖獣、ジェイリン様です」
その名前が出たとたん、先ほどよりも大きなざわめきが起こる。
羽翼の聖獣って確か、ライナス帝国の歴史に名が残る有名な聖獣をそう呼ぶと本に書いてあったな。
一番有名なのが、初代ロスランと二代目皇帝を契約者とした水の聖獣だ。その聖獣がいたの?
「託されたものとは一体……」
さすがの陛下も驚きを隠せないようだ。
側仕えの人が、託されたものとやらを受け取ろうとフィリップおじさんのもとへ向かうが、おじさんはそれを拒否した。
「申し訳ございませんが、ロスラン陛下の子孫にと言われておりますので」
「そういうことなら、僕から陛下にお渡ししよう」
ルイさんならと、フィリップおじさんは託されたものを差し出す。
私がいる場所からはそれが丸い何かとしかわからなかったけど、ルイさんの表情が変わったのはばっちり見えた。
そして、陛下に渡すと、一言二言、言葉を交わしてから元の場所へ戻る。
「……これはライナーシュの花で間違いないか?」
陛下の問いに、フィリップおじさんはそうだと答える。
陛下は丸い何かを掲げ、中にあるらしい花を見つめる。その後、先帝様へと譲り、先帝様も真剣な目でそれを吟味している。
「その器は聖獣様にしか壊せず、花は精霊に任せよと」
ライナーシュの花って、ライナス帝国の国花みたいなやつじゃなかったっけ?
絶滅したというよりは、一夜にして消え去ったという伝説の花だと記憶しているが。
「聖獣様は、ロスラン陛下との思い出の花なので、ロスランの血族以外には渡したくないと仰っておりました。ですので、どうか皇族の皆様でお守りいただきたい」
「我がライナスへ宝を届けてくれたこと、深く感謝する」
「もったいなきお言葉」
「それで、ジェイリン様の様子はどうであったか?」
フィリップおじさんは少し逡巡したあと、静かに告げる。
「時が尽きると。まもなく、創造神様のもとへ旅立たれるそうです」
陛下は力なく、そうかと呟いた。
初代の聖獣ともなれば、陛下たちもどうにかお会いしたかったのかもしれない。
水竜に続き、ライナス帝国に関わりの深い聖獣がいなくなるとあっては、いろいろと影響が出る可能性もある。
ソルが言うには、神様のもとへ帰ると、すぐに新たな聖獣が生まれるらしい。それで、影響はほぼ抑えられるけど、ちょっぴり出ちゃうんだって。それが災害になることもあるので、油断はできないよね。
それから、聖獣は完全体で生まれ、子供の時代がないと聞いたときの絶望感よ!!
小さい天虎や小さい青天馬とか、絶対可愛いに決まっているのに、存在すらしないなんて!!
聖獣は新たに生まれても、すでにいる聖獣に挨拶したりもないらしく、水竜はもうどこかに生まれているとも言っていた。
「ジェイリン様を煩わせるのは、我らとて望んでいない。かの方がおわす場所に不用意に人を近づけるべきではないな」
フィリップおじさんたちが登ったルルド山を立ち入り禁止にしようって雰囲気だったが、それもおじさんがそのままでいいのではと反対した。
「聖獣様がおられる場所は極悪甲種の巣の下層にあるので、それこそ聖獣の契約者様でないとたどり着くのは無理でしょう。我々は、ネフェルティマの知り合いだからと特別に許してもらえただけですので」
極悪甲種の巣に守られているし、あの山で狩りをする者たちもいる。そんな彼らから生きる糧を奪うのは、聖獣も望んでいないだろうって。
周囲の山々で補うことはできるかもしれないが、慣れた狩り場を失うのは氷熊族の人たちに苦労を強いることになる。
――ガルルッ。
フィリップおじさんの意見に同意するようなタイミングで、ラース君が何か言った。
「比翼の聖獣様がいる場所は精霊が守っているので、我々が対処する必要はないそうです」
ヴィの言葉に陛下方お二人が納得したように頷く。
人があーだこーだやるよりも、精霊の守りの方が何百倍も強い。
しかし、私はあることが気になった。すぐに問いただしたいけど、今はフィリップおじさんたちの時間なので、ここはグッと我慢だ!
「それから、薬は数日でできるそうです。ただ、我々の依頼は採取まででしたので、ガシェ王国へ届けることまでは致しかねます」
「ほう。では、貴殿らはすぐにガシェ王国に戻るのではないと?」
「はい。こちらの組合本部に顔を出したところ捕まってしまいまして。少し厄介な依頼があるということなので、手伝おうかと思っております」
ライナス帝国だって優秀な冒険者を多く抱えているのに、それでも紫のガンダルに助けを求めるほどの何かってことでしょ?
ってことは、おじさんたちもすぐいなくなっちゃうのか……。しょんぼりだね。
「ならば、薬は私が届けよう」
「そうだね。それが一番早い」
ヴィの一言に、陛下はにっこりと答える。
お姉ちゃんの小さなため息が聞こえたので、視線をやると目が合う。
「このような場所で言わなくてもよいでしょう。我が国の王太子は冒険者の代わりに運び屋をするのかと、侮られますのに」
うん、お姉ちゃんの言うことも一理ある。
フィリップおじさんに依頼を出したのはオスフェ家なのだから、お姉ちゃんやパウルに言えばすむこと。
この場にいるのはみんな陛下の忠臣たちでも、どこでどう言われるかはわからないのだ。
それに、オスフェ家が自国の王太子を顎で使っているとか風評被害にも遭いかねない。
それを回避するには……私とお姉ちゃんがエルフの森に行けばいいんだ!
薬をもらって、忠臣を思うヴィが届けることを承諾したと美談に仕立てあげれば、風評被害も起こらないよね。
こっそりとお姉ちゃんにそう伝えると、お姉ちゃんの目が輝いた。
「ふふっ、さすがネマね。わたくしも一度はエルフの森を訪れたいと思っていたの」
ですよねー。魔道具が大好きなお姉ちゃんだもんねー。
「陛下、発言をお許しくださいますでしょうか?」
「カーナディア嬢、許そう」
「そもそも、エヴィバンの素材採取はオスフェ家から紫のガンダルに依頼したもの。ヴィルヘルト殿下に表立って動かれては、あらぬ誹りも受けましょう。ですので、エルフの森へはわたくしたちが伺います」
「二人で行かせる方が不安だろうが」
ヴィが余計なことを言うなと睨んでくるが、痛くも痒くもないもん!
お姉ちゃんとヴィの舌戦が始まるかと思ったら、陛下がとんでもないことを提案してきたのでそれどころではなくなった。
「それならば、ヴィルも一緒に行けばよい。少しは遊ばないと、ずっと王太子でいるのは疲れるだろう?」
「ちゃんと息抜きくらいはしています」
「いやいや、ここは変装してお忍びを体験するべきだ」
陛下の提案に、先帝様もルイさんも同意するかのように微笑んでいる。いや、ルイさんのはニヤけているが正しいか。きっと、面白がっているのだろう。
こうして、陛下に押し切られるように、ヴィの同行も決まってしまった。
ラース君と一緒にいられる時間が増えるから、私は嬉しいけど……。
ラース君、エルフの森の入り口、入らなくない?
フィリップおじさん、あえて洞窟に魔石がいっぱいあることを言いませんでした。
ライナス帝国にとっては資源となりえますが、知らなければ無茶して取りにいく輩は現れませんからね。
自然な形で聖獣の住処を守るためです。
もふなでのCM見たよとコメントくださった方、ありがとうございます(*^_^*)
CMについては、4月4日の活動報告にあげておりますので、気になる方はチェックしてみてください!




