ようやく出会えました。
竜舎って馬舎とか牛舎なイメージだったんだけど…。これ、牧場ですねー。
しかも凄いのが、区域で環境が違うの!
砂漠があったり、荒れ果てた荒野もあれば、その奥に草原と森があるし、森の中には湖もあるんだって。
牧場の環境は魔法で造ってて、砂漠は地熱を発して暑いし、森の中は涼しいらしい。
そんな中にリンドブルムもリンドドレイクも放し飼いにしてある。
逃げないの?っと聞いてみたら、真名で縛ってあるから、逃げることはないんだって。
ダンさんの口調から、彼らに対する愛情が伝わってきて、竜たちをとっても大切にしていることがわかった。
寝床も常に清潔にしているし、餌も新鮮な物を用意してる。地形も飽きがこないよう、定期的に変えてると教えてくれた。
こうして見る竜たちは、思い思いの場所で寛いでおり、とても凶暴には見えない。
にしても可愛い!!
リンドブルムは前脚が羽に進化したのか、後脚しかない。羽を畳んで歩く姿は鳥のようで愛嬌がある。リンドドレイクは4本脚で、のっそのっそ歩いてる。尻尾がそれに合わせて左右に動くのが堪らなく可愛い!!
「かわいーね!」
ダンさんはまるで我が子が褒められたように相好を崩した。
でも、こうなると触りたくなるもので…。どうやったら触れるかな?
ダンさんにお願いしても反対されるだろうし…。
そだ!!触るんじゃなくて、触ってもらえばいいんだ!!
―おいでおいで!
心の中で強く念じると、たくさんの竜が反応してくれた。
―なになにー?
―呼んだー?
―一緒に遊ぶ?
竜たちが言っていることが頭に入ってきて、ビックリした。
何でなんで??ってパニクってたら、今度はソルの声が頭に聞こえた。
―竜玉があれば、全ての竜種と話すことが可能だ。
そっかー。なんて便利なんだ!さすが伝説のレアアイテム!!
―わかったー。ありがとう!
急に集まってきた竜たちに、ダンさんは警戒している。グウェンも部下さんたちも剣を抜いて様子を伺っているようだ。
そんなに警戒しなくていいのにね?
竜たちは柵からは出ない。一応、ダンさんに気を遣ってるみたい。
頻りにこっちにおいでよーというお誘いがあり、すっごく行きたいんですが、柵が高くて越えられない。
すると、一頭のリンドブルムが柵を越えて、私の前に降り立った。
ダンさんが私を庇おうと前に出るが、リンドブルムが威嚇して近づけなくなる。
当の私はリンドブルムに近づき、笑顔で話しかける。
だって可愛いんだもん。
「あなたおなまえは?」
―ギゼルだ。人間の娘よ。
頭の中で聞こえる声は大人の男性の声だ。でも、耳にはグルルルゥっていうリンドブルムの鳴き声が聞こえる。
「わたしはネマってゆーの」
―そなたから、炎竜殿の気配がするな。
そういうのわかるんだ。面識あるのかな?
「そルのオーブもってりゅよ?」
―しかし、契約者ではないな。…まぁいい。竜の娘として、我が群は歓迎する。
なんか一瞬で人間の娘から竜の娘にレベルアップ?したけど、どういう意味だろ?
ひとまず、よくわかんないことは置いといて、一緒に遊んでいいってことだよね?
じゃあ、これはやっておかないとね。
「ギゼりゅ、なでなでさせてー」
―構わんが…。
お?ちょっと困惑してる?
可愛いんですけど!!
さてさて、遠慮なく。触るときに遠慮なんてしたことないけどね。
突き出た口の部分はゴツゴツしてる。ワニもこんな感じなんだろうか?
おや?瞬きは下からってことは、やっぱりトカゲか?
お腹の部分は少し柔らかいな。うん、トカゲだな。
撫でるのを止めると、ギゼルがもっと撫でろと要求してきた。
ナニコレ!!ツンデレ?これが流行りのツンデレですか??
思わず、ギューっと抱きついたら、柵の中からブーイングが…。
―ずるーい!
―ボクも撫でてー!
―ギゼルだけいい思いしやがって!
ホント、神様から能力もらっといてよかった。マジ幸せです!!
みんなギューッてしてあげるからね。待ってて!
ギゼルに抱きついたまま、ダンさんにお願いしてみる。
「このこたちとあしょんでいーい?」
「あ…あぁ……」
なんかみんなポカーンってなってるけど大丈夫?
ダンさん、口開いたままだよ。喉傷めちゃうから閉じて!
―やったー!
―何して遊ぶ?
―湖行こうよ!
またも柵の中の竜たちが騒ぎ出す。
私はギゼルに乗っけてもらって、空へと飛びたった。
言葉に言い表せないくらい衝撃的だった。地に足がつかない恐怖と直に当たる風、遠くまで見渡せる景色。
翼を持ったものたちは、解放感あふれるこの気持ちよさを堪能していると思うと、かなり羨ましい。
ラース君はまだ危ないって言って、空飛んでくれないしさ。
くそー、なんて損をしてたんだ私!!
羽ばたくのに邪魔にならないよう、寝そべって首にしがみ付く。ハンググライダーってこんな感じ?
あ、ちゃんとギゼルに許可取ってから、首に触りました。
ギゼルのあとを他の子たちが追いかけてくる。リンドドレイクの子たちも凄いスピードで地上を走ってる。いや、土煙の量、ハンパなくね?
そんなに慌てなくても時間はたっぷりあるよ!
ギゼルが連れてってくれたのは、白い花が咲くちょっとした丘みたいなとこだった。
この花はセンアって言って、竜たちのフリ○クみたいなモノなんだって!
花弁の部分は甘く、葉の部分はスーッとミントのような感じらしい。
私も食べてみたんだけど、苦い葉っぱの味だった。
生命力が強い多年草で、煎じたり、調合したりするとお薬になるんだって。
ブーケにして、お母さんとお姉ちゃんにお土産であげたら、そう教えてくれた。
何頭かに花冠作ってあげたら、食べられちゃった…。
もう、情緒がないんだから!
めっ!怒ったら、逃げ出したから追いかけた。そしたら、いつの間にか追いかけっこになってた。
「まてー!!」
―ネマがきたー!
―逃げろー!
もちろん、私の足で敵うわけがない。
手加減してもらってるんだけど、あの余裕綽々な態度がムカつくー!!
いっぱい走り回って疲れたので、みんなで森の湖に移動した。
湖畔でのんびりお昼寝する子もいれば、浅瀬で水浴びしてる子もいる。
驚いたのが、リンドドレイクの子たちが泳いでいたこと。
リンドブルムは羽があるから、泳げないのはわかるけど、リンドドレイクはワニだったのか!?
泳いでる姿はワニっていうより丸太っぽいけど。
あ!そうだ!!
背中に乗れるんじゃね!?
ということで、仲良くなった雌のリンドドレイクのエリアにお願いしてみた。
―落っことしてもいいならいいよ
いや、落っことされると困ります、姐さん!
「みんなエリアにおとしゃれたりゃたしゅけてね」
と、一応対策もしておく。
―いいよー
―助けるよー
ほんと、みんないい子です!
ライフセーバーなみんなに期待してるよ!
エリアの背中に乗って、湖を散策する。
この湖、真ん中が一番深くて、キレイな水が湧いてる。でも、水量が変わらないってことは、地下を通って草原にあった川に流れてるのかな?
今度、たどってみよう。
側を通った子たちに、足で水をかけてやる。
すると、お返しと言わんばかりに、私に水をかけてきた。
ちょっ!おまっ!!
かかる水の量が全然ちゃうやんけっ!!
エリアにもかかったので、お願いして一緒に反撃してもらう。
気づけば、リンドブルムVSリンドドレイクみたいになってた。
別にいいんだけどさ。戦況はリンドブルムの方が圧倒的に有利。その羽は反則ですよ?
リンドブルムは泳げないので、浅瀬にしかいないのだが、強靭な翼で弾かれる水はもはや凶器。
負けじとリンドドレイクも頑張る。
一体どうやったのかわからないけど、イルカみたいにいきなりジャンプすると、体を叩きつけるようにして大量の水飛沫を作った。
うん。凄い迫力!
でもね、私もびしょ濡れです!!
髪から服から全部濡れてんですけど!!
どうしよう?と困っていたら、ギゼルがいいことを教えてくれた。
―炎竜殿に力をお借りすればよい。
おぉ、なるほど!
ソルは火属性だもんね!蒸発させて乾かせばいいんだ。
早速ソルに念話を飛ばしてみる。
念話は相手の姿を思い浮かべながら、心の中で話しかけるんだよ。
相手が気づくと姿が鮮明になって、頭の中でこぅ…ピンッと糸で繋がった感じがする。
―ソルー、服乾かしたいの!
声とは違うから、念話では普通にしゃべれる。肉声での会話は、サ行とラ行が壊滅的だけど。
―お転婆も程々にせぬと、御母堂に叱られるぞ。
ゴボドウ?…あぁ!お母さんのことか!!
お母さんの説教はマジ堪えるから勘弁して。ほんと、精神的にくるんだよ。
―お母さんには内緒だよ!
―仕方のない子だ。
ソルは苦笑しながらも、力を送ってくれた。
背中のウサギが淡く光り、体全体を温かいものが覆う。
冷え切った体は指先までホカホカして、髪も服も一瞬で乾いた。
すっげー。ソルと竜玉、チートすぎるだろ!
―ありがとう!
竜たちと遊ぶとあっという間に時間が過ぎる。
日が傾き出した頃、ラース君がお迎えに来てくれた。
「ラーしゅくん!!」
「ガルルゥ」
えーもうお家に帰るの?
もうちょっといいじゃんよ。
私が帰るのを渋っていると、竜たちも便乗し出した。
―まだ遊ぶー。
―明るいから大丈夫!
―ネマと遊ぶ!!
すると突然ラース君が…。
「グルルゥゴガァァァ!!」
ビリビリくる咆哮で駄々を捏ねる竜たちを黙らせた。
こっわー!!心臓がキューって止まりそうになったよ!ごめんなさい、ちゃんと大人しく帰ります…。
それにしても、意外な一面だね。
今まで頼りになるお兄さんな感じだったのに、竜たちを叱りつけるラース君は正に兄貴でした!
なるべくラース君も怒らせないようにしよう。あの咆哮で怒られたら、寿命が縮んじゃうよ。
虎の咆哮をカタカナで表現するのは難しいです(T_T)