うちの子たちの新たな発見。
一気に人が減って、広く感じるお庭。
白とグラーティアは、好き勝手に遊んでいるので放置していてもいいだろう。
海はというと、サチェを枕にしてお昼寝していた。
気持ちよさそうだねぇ……って、稲穂のバッグはどこにやったの!?
稲穂はユーシェとサチェの側には行きたがらないので、どこかに逃げてしまったのか?
「稲穂!どこに行ったの?」
-きゅん!
大きな声で呼べば、意外にもすぐ近くから鳴き声が聞こえた。
声のした方を見れば、稲穂が入ったバッグを森鬼が肩にかけていた。
……うん。森鬼にショルダーバッグって、似合わないな。
「稲穂、お待たせ。遊ぼうか」
もう出てきていいと伝えると、四つの尻尾をブンブン振り回し、バッグから飛び出てきた。
「まずは、いっしょにすべってみる?」
-きゅーん!!
水の聖獣は怖いのに、水の聖獣が作ったものは平気なのかな?
ふと、疑問に思ったけど、ウォータースライダーを怖がる気配はなかった。
「じゃあ、いっくよー!」
稲穂をお腹に乗せて、スライダーを滑り下りる。
-きゅぅうぅぅう!!
左右に体が振られるたびに、稲穂の声も波打つ。
怖がっているようには見えないけど、尻尾を体に巻きつけて身を守っている。
スライダーが終わり、水のクッションの上を飛び跳ねて止まると、稲穂は体から力を抜いて身を委ねてきた。
「どうだった?」
まずは感想を聞いてみる。
稲穂はきゅうっと鳴いて私を見つめるが、真ん中二つの尻尾はピンと立って、端の二つは力なく垂れている。
耳も中途半端な位置で止まっているので、楽しいと怖い、両方の感情がせめぎ合っているのかもしれない。
予想外の反応に、私も困惑した。
海が作ったスライダーではめっちゃ喜んでいたので、これも喜んでくれると思っていたから。
稲穂には怖すぎた??
「すべり台の方にする?」
滑り台ならスピードも緩やかなので、怖くないと思うよ。
しかし、稲穂はブンブンと頭を横に振る。
滑り台では不満らしい。
「じゃあ、少し速度をゆっくりにしてもらう?」
それにもブンブンと横に振る稲穂。
いったい、どうしたいんだ!
どうやったら稲穂が楽しいと思えるのかを考えていたら、森鬼が助け舟を出してくれた。
「イナホは主が作ったものだから、そのままがいいと言っているぞ」
「稲穂ぉぉぉ!」
健気な理由が嬉しくて、稲穂をぎゅーっと抱きしめる。
頬をすりすりして、愛おしいって気持ちを全身を使って伝えた。
ーきゅぅっ!
森鬼の通訳がなくても、稲穂が大好きだと言ってくれているのがわかった。
その後、森鬼に通訳してもらいながら、スライダーのどこが怖かったのかを聞いた。
稲穂は風の音がうるさいのと、風のせいで呼吸が苦しかったようだ。
次に滑るときは、後ろ向きにしてみよう。
「稲穂の順番になるまで待っててね」
順番を守らない不届きものもいるが、あの子たちは独自の遊び方をしていてめっちゃ楽しそうなんだよね。なんか、注意するのも可哀想だし、放置することにした。
白ってば、警衛隊の人が魔法でブーストかけているのを見て、真似することにしたみたいなんだ。
でも、白は風魔法を使えないから、水を体内に取り込んで、勢いよく噴射させることでブーストさせていた。
ほんと、その発想力には私もびっくりだよ。
「星伍と陸星、どっちが先にやる?」
そう言うやいなや、陸星がぴょんぴょんとジャンピングアタックしてきた。
「ぼく、ぼく!ぼくが先!」
陸星のジャンプ力も凄いが、この子がこれだけはしゃぐのも珍しい。
「わかったから、少し落ち着こう。星伍はちょっと待っててね」
飛び跳ねる陸星を捕まえて、星伍に声をかける。
「はーい」
星伍と稲穂に見送られ、陸星とスライダーに向かった。
私が寝そべった上に、陸星も伏せの状態で乗る。
稲穂が苦しいと言っていたので、頭を進行方向に向けない方がいいと言ったのだが、頑として聞き入れてくれなかった。
「せーの」
水の流れに身を任せると、どんどんスピードが上がっていく。
陸星は尻尾をブンブン振り回し、ついには遠吠えまで……。
滑り終えると、陸星はすぐに地面に降り、凄い凄いってぐるぐる回り出す。
「面白かった?」
「うんっ!あるじ様、もっとやりたい!いいでしょ!!」
爛々と目を輝かせている陸星には申し訳ないが、まだ滑っていない星伍や海がいるので、順番を守るよう諭す。
まぁ、コボルトの身体能力なら、単独でも滑れるかもしれないね。
……あっ!いいこと思いついた!!
「ユーシェ!ユーシェ!」
早速、思いついたことを実行に移すべく、ユーシェに協力を願う。
スライダーの内部を流れている水に一工夫するのだ!
まずは、水の板を作りまーすって、それだけなんだけど。そして、水の板に乗って、私たちも流れるの!
出口まで着いて少し経ったら、またスタート地点に水の板が発生するようにすれば、待ち時間も解消されるし、陸星だけでも滑ることができる!!
試しに、私と星伍が滑ったあとにやってみるかと稲穂に聞いたら、私と一緒がいいと言ってくれた。ぐぅぅ可愛い!!
「じゃあ、陸星に順番をゆずってもいいかな?」
ーきゅん!
稲穂の返事は陸星の反応ですぐにわかった。
ありがとうと言いながら、稲穂の周りをぴょんぴょんしてる。
「よし、星伍行きますか」
「うんっ!」
星伍も楽しみなのか、尻尾をパタパタと振っている。
水の板に寝そべり、星伍も私のお腹の上に。
さてさて、水の板の効果はどうかなぁ。
ぐっと自分の体を押す。
水の板がないときと比べると、スムーズな滑り出しだ。
スピードが乗ってきて、カーブのたびに左右に振られると、星伍がプルプルし始めた。
きゅぅーと稲穂のような鳴き声を出し、徐々に体をずり下げている。
「星伍、大丈夫だよ。すぐに終わるから……うぷ……」
ずり下がってきた星伍のお尻が、私の顔に押しつけられた。
うん、もっふもふだ!
でもな、お尻が顔にくっついているのはちょっとなぁ。
大事な急所は尻尾で隠されているとはいえ、乙女にあるまじき格好だと思う。
うりうりとお尻を擦りつけられ、もふもふの感触以外に、筋肉の感触もわかるほどだ。
そして、それ以上行くと落ちるから!
星伍が落ちないよう、しっかりと捕まえて、なんとか滑り終えた。
「よく頑張ったね」
労りつつ、星伍を地面に下ろすと、よたよたふらふらと足元がおぼつかない。
まるで酔っ払いのようだ。
私たちがクッションから下りると、陸星が勢いよくスライダーから飛び出してきた。
ピョンピョンと飛び跳ねてクッションを下りると、一目散にスタート地点まで駆けていく。
それを見送ったら、今度は白が飛び出してきた。
ヒュンッて効果音が聞こえてきそうなほど速くて、クッション通り越して滑り台の方まで行ってしまった。
大丈夫だとは思うけど、グラーティアがちょっと心配だな。
それにしても、星伍と陸星の反応が対照的なのは驚いた。
「ちょっと休んでてね」
ふらふらと歩いていた星伍を捕まえて、森鬼のところへ連れていく。
地面に寝っ転がっている森鬼のお腹の上に、ソッと置いた。
「ごめんね、あるじ様」
「星伍が謝ることはないよ」
スピードが出る乗り物でも、バイクは大丈夫だけどジェットコースターは苦手っていう人もいるだろうし、星伍たちは成体になったばっかりだもん。
これからいろいろ経験していくうちに、きっと克服できるよ。
星伍の頭から背中をゆっくりと撫でると、まだ微かに震えていた。
大丈夫、大丈夫って何度も撫でて、労っているうちに、眠たくなったようだ。
「森鬼、あとはお願いね」
小さな声で告げると、森鬼はつぶっていた目を片方だけ開けて星伍を見たあと、再びつぶる。
……イケメンは何をやっても格好よく見えるから得だよね。
音を立てないよう森鬼たちの側を離れて、いい子に待っていた稲穂を抱きかかえる。
「じゃあ、今度は逆向きでやってみよー!」
スタート地点に行くと、スライダーの中から陸星の遠吠えが聞こえてきた。
うん、喜んでもらえてよかったよ。
陸星が滑り終えて水の板が復活すると、私がそこに寝そべり、稲穂は私の方に顔を向けて乗った。
「よぉーし、しゅっぱーつ!!」
-きゅーぅん!
最初はぎゅっと目をつぶっていた稲穂だったが、逆向きということもあって、目を開けていられるようになった。
後ろから来る風によって、四本の尻尾は茹でたタコのようにクルンってしている。
キツネには尻尾にも骨があるのだが、痛くないのかな?
尻尾の先が風に遊ばれて左右に揺れている中、稲穂の表情が徐々に変わっていく。
なんで、とろんとした表情?
撫でられているときの顔にも似ているが、どちらかといえば、お風呂に浸かっているときに近い。
つまり、気持ちいい表情ってことなんだが……。楽しいじゃなくて、気持ちいい?何が??
最初だけしか怯える様子はなく、無事にゴールした。
-きゅーぅ
力が抜けたように伏せる稲穂。
ほんとにどうした!?
通訳を探すも、森鬼はお昼寝しているし、海もいまだにサチェに寄っかかったまま寝ている。
感覚からして、命の危険があるわけではない。
名前をつけた子たちに危険があれば、ゾワゾワするらしい。
私がいまだにその感覚を味わったことがないってことは、レイティモ山にいる子たちが難なく狩りや冒険者をいなせているということなのだろう。
「イナホ、大丈夫?」
-きゅーん
陸星が稲穂を心配してか、スライダーで遊ぶのをやめて、ペロペロと稲穂の顔を舐めていた。
「……ワウゥ?」
……そうだ!!陸星もしゃべれるんだった!!
いつも稲穂に合わせて、鳴き声でコミュニケーションとっていたから失念していた。
さっきもしゃべっていたのにね……。
「稲穂はなんて?」
「うしろ気持ちいいって。しっぽであついからさっぱり?」
ん?それってつまり……。
ウォシュレットの温風乾燥機的なさっぱり感ってこと?
お風呂上がりに、クーラーのガンガン効いた部屋で扇風機も気持ちいいよね。
「ぼくもうしろ向きですべってくる!!」
言いながら走り去る陸星。
稲穂も苦手意識がなくなったのか、きゅんきゅん鳴きながら陸星のあとを追っていってしまった。
暑さが本格的になったら、稲穂には対策が必要だってことは理解した。
扇風機に似た魔道具の真ん前を陣取って、ずっとお尻に風を立てている稲穂の姿が脳裏をよぎったからだ。
遊んでいる子たちはそのままにして、海に声をかける。
「海もやる?」
「……まだいい」
眠そうな海は、うりうりとサチェに顔を埋める。
サチェのベッドが気に入ったんだな。
まぁ、気持ちはわかる。サチェもユーシェも、ふにふにふよふよ冷んやり触り心地で気持ちいいもんね。
雫とか、スライムよりは弾力があるから安定するし、でも体は痛くならないし。
ちょっとだけと、私もユーシェに体を預ける。
はぅ……この冷んやり感、たまらん!!
にしても、ここだけ温度が違う気がする。
水の聖獣ゆえに、気化熱で涼しくなっているとか?
それとも、マイナスイオン的な何かを放出しているの?
はっ!?水の聖獣は動くパワースポット!!
……よし、癒されよう。
◆◆◆
「ネマ様、起きてください。ネマ様っ!」
「んー……」
「パウルさんに叱られますよ!」
条件反射とでも言うのか、パウルの名前を認識するとバチッと目が覚めた。
「いくら聖獣様のお側でも、外で寝るのは危ないですよ」
と、スピカに言われてしまった。
ごめんねと謝ると、まずはこれを飲んでくださいとコップを差し出される。
言われるがままに飲んだけど、何これうまー!
「美味しい!」
ミントよりもスースーする!
超さっぱり!!
「ルル・センアを漬けた水です」
「センアってお薬になる?」
センアと言えば、白い小さな花を咲かせる植物で、我が国の竜たちのおやつ的なものでもある。
「パウルさんが言うには、センアの仲間だそうです。ルル・センアはそのまま水に漬けると、凄くさっぱりした味になるそうで」
「うん、美味しいよ!おかわり!」
おかわりをお願いすると、俺もと森鬼がコップを差し出してきた。
星伍たちも水皿に入れてもらったのか、凄い勢いで飲んでいる。
グラーティア、その中に入ろうとするのはやめなさい。絶対、落ちるから!
グラーティアを救出し、お行儀は悪いがコップに指を入れて、水滴をグラーティアに飲ませた。
グラーティアに清涼感を感じる感覚があるのか謎だけど。
さて、水分補給もしたことだし。
「後半戦いってみよー!」
森鬼のまだやるのかという声は聞こえない!
「スピカもやる?」
「えっと、これはどういう遊びなんですか?」
スライダーの説明すると、スピカはしょんぼりと耳を伏せた。
「尻尾がある獣人は、仰向けで寝られないんです」
……そっかー。尻尾、下敷きにしたら痛いもんねー。
うつ伏せでやるにはスライダーは危険だろうし、滑り台ならなんとかいけるか?
一度座ったままで滑ってもらい、スピード的に大丈夫か試してみた。
これくらいはまったく平気だというので、こちらにも水の板を出してもらい、それに寝そべることになった。
私も試しにやってみたけど、視点が変わるだけでスピード感も違うんだね!
水の板は星伍も使っているんだけど、サーフボードに乗る犬そのまんま。
動画にしたら人気者間違いなし!
ほんと、カメラ欲しいわぁ。
のそりと海が動いたと思ったら、サチェも一緒に動き出した。
うーん、なんか、仲良しすぎてジェラシー。
雰囲気が、親子か兄弟みたいなんだよ。
海がスタート地点に行くと、ゴール地点のクッションが水に戻った。
つまりはプールなんだけど、大丈夫かな?
どうするのか見守っていたら、スライダーから勢いよく水が噴射して、その中に人魚姿の海がいた。
あー、泳いだ方が速いって?
プールに綺麗に着水すると、スイスイと泳ぎ回る海。
そっちの方が気持ちよさそうなんですけど!
「海ずるーい!」
えいやーと私もプールに飛び込めば、他の子たちも真似をしてプールに飛び込んできた。
「グラーティア!おぼれるから!!」
ザバザバと水を搔きわけて、白の上にいたグラーティアを掬い上げた。
カチカチと不満気に牙を鳴らしているが、お風呂とは違うんだぞ!
しょうがないので、私の手のひらの上で、ちょびっとだけ水につけてみた。
一応、体は浮くみたいだけど、呼吸ができなかったら怖いのですぐにやめた。
前脚二本を持ち上げて、カチカチカチっと素早く牙を鳴らしているのは、私に対するクレームか?
「海、グラーティアが水の上を歩けるようにできる?」
「……いいよ」
海においでと言われたグラーティアは、嬉々として海の手に飛び移った。
そして、海がそっとグラーティアを水面に離すと、脚だけで浮いていた。
グラーティアがピョンピョンとジャンプをしても平気だ。
ただ、蜘蛛ではなくアメンボみたいだけど。
さて、プールでの遊びと言えば、欠かせないやつがある。
「サチェ、大きくゆっくり回る水の流れを出せる?」
言うとすぐに、プールの中に流れが生まれた。
緩やかなので、足を取られることはない。
星伍や陸星もお尻をフリフリさせながら泳いでいる。
つか、稲穂も泳げるんだね。
尻尾の毛が海藻のように揺蕩うのを見て、星伍たちよりも毛の量が多いと思った。
これは確実に夏はバリカンコース行きだね。
流れに慣れてくると、段階的に速くしてもらい、流れるプールのように泳がなくてもいいくらいになった。
ここで!
「はい、みんな反対に泳いでー!」
流れに逆らうのだ!!
この、流れに逆らおうとするも、勢いがよくて体が押し流される感覚!これがなんとも言えない!
小学校のプールの授業で、唯一楽しみだったレクリエーション、その名も洗濯機!!
私は洗濯機をやるためだけに、プールの授業を頑張った。いい思い出だ……。
思い出にふけっていたせいか足が取られた。
そのまま流れに乗って、トンと海にぶつかる。
「乗って」
海は背中に私を乗せると、流れのきつくない中央部分に行き、ゆっくりと流れに逆らって泳ぎ始めた。
こ、これは!!
トリトンごっこ!!
イルカの浮き輪に乗って、引っ張ってもらうアレだ!!
ヤバい、超楽しい!!
水の中だから、私が乗っても海に負荷がかからないのか。知っていれば、もっと早くプールで遊んだのにぃ!
「カイ、ぼくも!ぼくもやって!」
陸星が海にお願いして、同じように背中に乗せて泳いでもらう。
うーん、見た目は……微妙。
やっぱり、海の上半身が人間だからな。
飼い主からマウント取ったぞ!ドヤァ感が漂っている。
それはよくない。
やっぱり、いろいろな形の浮き輪を作って、引っ張ってもらうのがいいね。
海は陸星だけでなく、稲穂と白、グラーティアまで乗せて泳ぎ始めた。
星伍、どうにかして仲間に入りたいのはわかるけど、海の頭の上は重たいからやめてあげよう。
海に、星伍が乗れる水の板を作って、引っ張ってあげたらと提案した結果、みんなで仲良く海に引っ張られていた。
私も仲間に入りたい……。
「ネマ様!いつまで遊んでいるんですか!」
やっべー、パウルに怒られた!
可愛く書こうとしたら、コメディー感が強くなる……なぜ??(笑)
あと、更新期間が空いた間に誤字報告してくださった皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m