★コミカライズ3巻発売お礼小話 みんなで贈り物
前半→アリアベル視点
後半→ネマ視点
今日は、みんなの様子を見るために、ヒールランさんとレイティモ山に来た。
ネフェルティマ様が隣国へ行かれて、魔物たちは淋しがっているかもしれない。
しかし、早々に遭遇したゴブリンたちは、今日も元気に狩りを頑張っていた。
ヒールランさんに言われ、見つからないよう狩りの様子を見守っていたんだけど……。
あの子たち、狩りが下手すぎて、見ているこっちがハラハラしてしまう。
あぁ、クイに反撃されて逃げられた……。
こんなに不器用で、本当に冒険者たちと戦えているのかと不安になる。
小さな声で、ヒールランさんにそう伝えると、珍しく苦笑した。
「狩りと戦いは違うからな」
「えっ?でも、コボルトたちは狩りも戦いのうちだと……」
以前、コボルトのトルフさんはそう言っていた。
「生きるためなら、狩りも戦いも一緒だろう。だが、コボルトにとって狩りは戦いに必要な技術を覚えるもので、戦いとは群れを守ることだ。騎士たちが国を守るようにな」
うーん、わかるような、わからないような。
首を傾げると、説明が難しいなと、険しい表情になったヒールランさん。
元々の目つきが鋭いせいか、かなり怖い顔になってますよ!
「コボルトを騎士とするなら、ゴブリンは冒険者か。国という大きな群れで生活するか、個々が集まった組合で生活するかだな」
確かに、コボルトは人のようにいろいろな技術を持っていて、人のような生活をしている。
逆に、狩りが成功するかしないかで、その日暮らしなゴブリンは、冒険者に似ているかも。
冒険者も依頼が成功しないと報酬はもらえないし、大きな依頼でもない限りは少人数で動いている。
そして、冒険者にも得手不得手がある。
採取系が得意な組もあれば、護衛など戦闘系が得意な組、危険な場所の調査を専門にしている組もいたっけ。
「手を貸してあげたいですけど……」
「ネマ様にそれはするなと言われているだろう」
そうなんですよねぇ。
ネフェルティマ様、魔物の子たちを可愛がっているわりには、そういうところ厳しいから。
「まぁ、ゴブリンたちも望んでいないさ」
なんと言うか、ヒールランさんってネフェルティマ様のことを理解しているというか、何か繋がりのようなものを感じるときがある。
それがとても悔しい!
「スズコのところに向かうぞ」
懸命に獲物を探すゴブリンたちを尻目に、スズコさんがいるであろう洞窟へと足を進めた。
ちょうど洞窟の前にスズコさんがいたので、声をかけようとしたら、またもやヒールランさんに止められた。
今度はなんだろうと思ったら、いつの間にかシュキさんと思しきホブゴブリンがいて、スズコさんに攻撃を仕かけるところだった。
さっきまで、スズコさんの姿しかなかったのに、どこから現れたの!?
「ほぉ。上手いな」
ヒールランさんは何やら感心しているけど、まったく状況がわからない。
「訓練か何かですかね?」
まさか仲間割れとかではないと思いたい。
名前がある魔物同士だし、仲間割れだったらネフェルティマ様が悲しまれる!
「スズコを負かして、あの地位に就きたいんだろ」
「えぇ!?」
と驚いたところで、シュキさんと思われるホブゴブリンが地面に倒された。
スズコさん、強い……。
「シュキはシンキを長としているからな。シンキの右腕とされているスズコが気にくわないようだ」
憧れているシンキさんに頼られているスズコさんを嫉妬しているのかな?
そういえば、スズコさんもいまだに私を睨むときがあるし、上の存在に傾向するのはゴブリンの性格なのかも。
「シュキ、詰めが甘かったな。襲うときも音を消さなければ、避けられるに決まっている」
なぜかシュキさんに助言をするヒールランさん。
そして、それを大人しく聞いているシュキさん。
シュキさんのことだから、無視をすると思っていたので驚いた。
人が嫌いだからって、ネフェルティマ様のことを認めなかったくせに!
なんで、ヒールランさんと仲良くしているの!!
ネフェルティマ様を蔑ろにされたみたいで面白くない。
「何かあったか?」
スズコさんが私に話しかけてきた。
いつもなら、ヒールランさんにしか声かけないのだけれど、彼女の目を見てわかった。
主様に何かあったのかと、不安が浮かんでいたから。
「今日はみんなの様子を見にきただけです」
そう伝えると、スズコさんは肩を落としてしまったの。
「ネフェルティマ様は隣国で健やかにお過ごしだと、公爵様が教えてくださいましたよ」
「……知っている」
うっ、凄く睨まれてる。
私ごときが、ネフェルティマ様のことを口にするなってことですかね。
でも、こんなにネフェルティマ様のことが大好きだったら、離れ離れは淋しいよね。
スピカちゃんがオスフェ公爵家の使用人になるって群れを出ていったとき、シシリーさんも凄く気落ちしていた。
そして、ネフェルティマ様と一緒に隣国に行ってしまったため、前のように帰省することもない。
シシリーさん、また落ち込んでいるかも。
「そうだ!みんなで、ネフェルティマ様たちに贈り物しませんか?」
「おくりもの?」
急に何を言っているんだ、みたいな目で見られているけど気にしない!
「ネフェルティマ様だって、みんなに会えなくて淋しいと思うんです。だから、お手紙と一緒に、みんなで作ったものを贈りませんか?」
「字かけない。ゴブリンはもの作れない」
スズコさんははなからできないと諦めていて、乗り気ではなかった。
だけど、ネフェルティマ様に喜んでもらいたいから、私は諦めない。
「手紙は私やヒールランさんが代筆します。それに、なんでもいいんですよ。綺麗な石や花でも、ネフェルティマ様は喜んでくれます」
魔物の子たちが贈ったものなら、物がなんであれ、ネフェルティマ様は嬉しいって満面の笑みを浮かべてくれるに違いない。
「いいんじゃないか?お前たちを思い出させるものがあれば、ネマ様の淋しさも和らぐかもしれん」
ヒールランさんが後押しをしてくれると、スズコさんは渋々といった様子で承諾してくれた。
信頼関係が築かれているってことだとしても、これはかなり辛い。
やっぱり、あのとき無理にでもネフェルティマ様についていっていれば、受け入れてもらえてたのかも……。
「シュキ、お前もちゃんと加われよ」
「イヤ、ダ」
あれ?
シュキさん、しゃべれるようになったの!?
確か、初めてシュキさんに会ったときは、ラーシア語はしゃべれなかったはず。
あれから、そんなに時間が経っていないのに。名前を付けてもらうと、こんなにも差が現れるなんて。
というか、ヒールランさんとシュキさんの間で何があったの?
ゴブリンたちには、ネフェルティマ様が喜びそうなものを集めるようお願いした。
ただし、お肉は駄目だと言い聞かせるのを忘れてはいけない。
この子たちにとって、お肉は凄いものだから、貢ぎ物にぴったりって思っていそうだし。
コボルトたちにも声をかけたら、すぐに承諾してくれた。
ネフェルティマ様だけでなく、スピカちゃんやセーゴ君、リクセー君の分も用意してくれると。
一応、こちらにもお肉や他の生ものはやめてねって言ったら群れで話し合いをすることになったらしい。
用意できるものが多いから、何が最適かをみんなで決めるんだって。
スライムやセイレーンにも声をかけたけど、スライムはどうするつもりなんだろう?
数日後。
集まったものは意外と多くて、数回に分けてネフェルティマ様のもとへ送ることとなった。
ちゃんと、ゴブリンたちの手紙も添えて。
ネフェルティマ様、喜んでくれるといいなぁ。
◆◆◆
パウルが、レイティモ山から贈り物が届きましたよと、私のところに持ってきた。
突然のことで驚いたが、添えられた手紙を読んで納得した。
手紙は、ヒールランからの近況報告とベルお姉さんからの贈り物の経緯。
シシリーお姉さんもコボルトの群れの様子を書いてくれていた。
それとは別に、スピカ宛ての手紙もあったらしい。
そして、ベルお姉さんの綺麗な字で綴られた一通は、鈴子や闘鬼からのものだった。
淋しい、会いたいという気持ちが、文面から伝わってきた。
それでも、群れを守るために頑張ると。
二人の頑張りが嬉しくて、国に帰ったらいっぱい褒めてあげようと誓った。
さて、みんなからの贈り物はというと、ゴブリンたちからは瓶に詰まったものだ。
ベルお姉さんの手紙によると、それぞれが持ち寄ったものだとか。
瓶の中には、化石っぽい石や古びた銅貨、なんかの抜け殻と、バラエティー豊かだ。
鈴子からは押し花の栞が。
ベルお姉さんに教えてもらいながら、一生懸命作ってくれたんだろう。
闘鬼からは謎の骨が……。しかも、頭蓋骨だよ?
おそらく、彼が狩った獲物の骨なんだろうけど、これをどうしろと?
守鬼からは一言。お前を倒すとだけ。
まだ、目の敵にされてんの!?
セイレーンのお姉様たちからは、ペェバンの死骸がたくさん。
確かに、万能薬の素だけどさ。それごと送らなくても……。
スライムたちからは、あの洞窟にあったキラキラした石だった。
あの子たちがこの石を取り込んで、えっちらおっちら運んだのかと思うと、めちゃくちゃ可愛い。この目で見たかった!
最後に、コボルトたちからは、ブランケットのようなものが。
ブランケットにしては大きいけど、柄がとても綺麗だ。
そして、違う柄のものが、スピカたちにも用意されていたらしい。
スピカは大事そうに抱え込むと、思いっきり顔を埋めた。
「……群れの匂いがします」
星伍と陸星も、何度も匂いを嗅ぎ、ブランケットの下に潜り込んで出てこなくなった。
私にはその匂いはわからないけど、家族の匂いがすると言うのなら、懐かしさや淋しさ、いろいろな思いが湧き上がっているんだと思う。
あとから判明したのだが、スピカたちのブランケットには文様魔法が入っていた。
あの、群れの匂いを留めておく魔法が。
離れていても群れの仲間なんだという、コボルトたちからのメッセージなのかもしれない。
ブランケットは使わせてもらうとして、他のものは飾ることにした。
いや、さすがにペェバンの死骸は飾れないけど。
一番、パウルを困らせていたのは、闘鬼の謎の骨だ。
こればかりは、人の目につくところには飾れないということで、寝室に置かれた。
ベッドの側に謎の頭蓋骨。誰にも見せられないね。
その頭蓋骨で稲穂が遊び始めたので、壊される前に魔法をかけてもらうことにした。
そうすれば、齧ろうが落とそうが、壊れないから安心だ。
稲穂、それをかぶって遊ぶのはやめて!ビビるからっ!!
コミカライズも3巻となりました!
ご購入者様、応援してくださる皆様のおかげです。
ありがとうござますm(_ _)m
ネマがライナス帝国に行っているときのレイティモ山の魔物たちですが、頑張っております。
アリアベルは鈴子からライバル視されているのですが、本人は気づいておらず(笑)
まぁ、最初にヒールランがネマのお気に入りって紹介したせいなんですけどね。
ヒールランとシュキはいつの間にか仲良しに……。
ここのお話はまたいつか。
ヒールランといえば、琥珀を出したかったけど、出せなかった(´;ω;`)