★番外編 にゃんにゃんにゃん
今日は皇后様にお呼ばれしているのです!
初めてのことなので、ちょっとドキドキする。
お迎えにきてくれたのは、皇后様付きの侍女と警衛隊の人だった。
警衛隊の人がいるのは、皇后様が気を遣ってくれたのかな?
陛下に宮殿内でも警戒を怠るなって言われたもんね。
私の方でも護衛として、森鬼とスピカがついてきてくれているので、何があっても大丈夫だとは思うよ。
「来てくれて嬉しいわ」
今日も皇后様はお美しい!
あんなにたくさん子供を生んだとは思えないプロポーション!小麦色の肌が艶めかしいです。
「陛下に外出させてあげられないと聞いたので、今日は気分転換をしましょう」
安全のために必要だと理解しているし、宮殿内でもそこそこ遊べるので退屈は……していたな。
親方に頼んで、お庭にアスレチックでも作ろうかと思うくらいには、遊びのバリエーションがなくて退屈だったね。
今はなんとか読書で時間を潰している。
パウルが静かで助かりますって言ってたけど!!
「気分てんかんですか?」
「そうよ。こちらに来て!」
ウキウキとした様子の皇后様は可愛らしい。
こういうギャップに、陛下もやられたのかな?
皇后様に手を引かれ、別の部屋に連れていかれると、そこはパラダイスだった!
「わぁ!リアがたくさん!!」
みぃ〜おと可愛い鳴き声が、そこかしこから聞こえる。
数多くのリアがそこかしこにいるのだ。
「わたくしのお友達に声をかけて、貴族の家で飼われているリアを集めたのよ」
「え?リアってお家で飼えるものなんですか?」
リアは猫と違って、家にいつくものではなく、村や町にいつくものなんだよね。
普段は二、三匹の親子で行動しているんだけど、縄張りである町に外敵が侵入してきたら、町にいるリアが総動員して対応するらしい。
外敵って言っても、他所から来たリアだったり、ウルフ種なんだけどね。
レスティンが言うには、リアは人間のいる場所で生活することによって、他の捕食動物から身を守り、餌を手に入れやすくしているんだろうって。
「えぇ。人に慣れるよう長い時間をかけて、かけ合わせをやったと聞いたのだけど」
皇后様自身はよくわかっていないのかな?
たぶん、品種改良的なことだよね。
リアのように、生息域が広い動物はその環境に合わせて変化していてもおかしくはない。
我が家の庭でいつも遊んでいたリアは、丸顔のちょっとずんぐりした感じ。
でも、ここにいるリアの中には、毛が長い子、短い子、体が大きい子、小さい子と、特徴が様々だ。
「この子たちの飼い主は別の部屋で寛いでいるから、遠慮なく遊んでいいのよ」
ひょっとして、この子たちを集めるためだけに、飼い主さんを宮殿に招待したってこと?
「ありがとうございます!」
手間とお金がかかった気分転換だけど、そのご好意はありがたく受け取っておこう。
いざ、もふもふタイムじゃーー!!
日差しが差し込む場所では、数匹が固まってお昼寝をしている。
飼い主が持ってきたのか、玩具で遊んでいる子も多い。
まずは、リアたちを警戒させないために、部屋の隅でただ観察する。
神様からもらった力があるから、突撃しても大丈夫かもしれないが、動物に与えるストレスは少ない方がいい。
異変を感じたのか、白とグラーティアが出てきた。
ここはどこだと言うように、うようよと伸び縮みする白。
グラーティアは前脚を上げて、わさわさ動かしているけど、それになんの意味があるの?
「リアをおどかさないようにね」
いろいろとやらかしてくれる二匹なので、ちゃんと注意しておかないと。
ちなみに、森鬼とスピカは部屋の扉の前で待機している。
二人が側にいると、リアがもふもふさせてくれない可能性が高いからね。
森鬼は竜以外の動物にビビられまくるし、スピカは狼系の獣人なので念のためだ。
部屋の中で追いかけっこをしていた子が、こちらに興味を示した。
体勢を低くして、ゆっくりと近づいてくる。
その身のこなしから、何かに狙いを定めているようだけど……。
どうするのかなぁって見ていると、距離を詰め、飛びかかってきた。
「みゅぅぅぅぅぅ……」
狙いは白だった。
リアに驚いた白は、大きくジャンプしてリアを躱すと、コロコロと絨毯の上を転がった。
そのあとを追うリア。転がりながら逃げる白。
白の動きに、他のリアたちも反応しだす。
あ、白が新しい玩具と認識されたようだ。
「ダメダメ。その子はおもちゃじゃないから!」
慌てて白を救出し、持ち上げると、リアたちの視線も上がる。
たくさんのリアに見つめられるというのも、なかなか迫力があるな。
足元のリアに気を取られていると、なぜか上から気配が!
空を飛ぶリアだと!?
おそらく、調度品を置く飾り棚に跳び乗ってから、白めがけてジャンプしたのだろう。
調度品はすべて撤去されていてよかった。
こんなに元気な子がいるなら、被害が恐ろしいことになっていただろう。
「あっぶなー」
飛んできたリアを躱すと、リアは音もなく着地した。
その様子が、ラース君を思い出させる。
「ほら、おもちゃはいっぱいあるんだから、他ので遊ぼうね」
飛んできたリアも目をらんらんと輝かせ、白を今一度狙っている。
興味を逸らそうと、側にあった玩具を手に取った。
と言っても、ワイバーンのぬいぐるみだったけど。
かなり遊ばれたのか、片方の翼がなくなっている。
白の代わりに、ぬいぐるみを動かして注意を引く。
猫と同じで、動くものに反応してしまうようだ。
たくさんのリアが、みんな同じタイミングで首を動かす光景はとても面白い。
「ワイバーンが来たぞー!」
ぶんぶんとワイバーンのぬいぐるみを振り回しながら、低空飛行を装いリアたちにアタックをする。
ゆっくりした動きなので、リアたちは驚くよりも反射的に前脚を出す。
「わー」
今度はリアに襲いかかるようにすると、サッと逃げてしまった。
でも、大丈夫!
私には秘密兵器がある!!
うさぎさんリュックから秘密兵器を出して、フーリフリと振ってみせる。
そう、お姉ちゃんに作ってもらった猫じゃらし強化版だ!
獣舎のトーティルたちと遊んでも壊れないくらい丈夫にしてもらったんだ。
私の鍛えられた猫じゃらしさばきを見よ!
絨毯の上を素早く動かし、リアが飛びかかってくると華麗に躱し、時には上に、時には物陰にと、部屋全体を使って、たくさん遊んだ。
「みゅっ!みゅっ!」
白がぴょんぴょんと飛びながら、何かを訴え始めた。
やめろ、飛ぶな!また狙われるぞ!
「どうしたの?これが欲しいの?」
しきりに猫じゃらしに向かってジャンプしている。
白が何をするのか興味があったので、望み通り猫じゃらしを与えてみた。
すると、持ち手の部分を体内に取り込み、左右に動かし始めたではないか。
器用だなぁ。
白は動かすコツ掴んだようで、今度は猫じゃらしを一周させた。
リアがそれを追いかけて、白の周りを駆ける。
ん?この光景、どこかで見たことあるぞ??
ぐるんぐるんと回したと思えば、フェイントを入れて止まったり、逆に回転したりと……。
うん。こんな猫用の玩具が、前世にあったね。
リアに遊ばれた復讐なのか、リアで遊ぶ白。
よし、元気な子たちは白に任せよう!
遊び疲れて、寝そべっている子たちに近づく。
私が側に寄っても、リアは耳を動かしただけで、起きる気配がない。
部屋に入ったときから気になっていた、長い毛が特徴のリアだ。
地球産の猫も、サイベリアンやノルウェージャンフォレストキャットとか、寒い国の猫は大型で毛が長い。
この子も、他のリアと比べると、大きくて丸々している。
まずは頭から。
頭の丸みに沿って撫でると、長い毛が指の腹をくすぐる。
首元や背中は少し弾力が変化した。
表面の長い毛をよりわけると、短いふわふわの毛が出てきた。
寒いところに生息する動物に多い特徴だが、表面の長い毛は雪避けをかねていて、中の短い毛で保温していると思われる。
それにしても、凄いふっかふかだ。
喉元から胸にかけて、一番毛が密集しているんじゃないか?
私の手が隠れるくらい毛量があるよ。
長毛リアをもふもふしていると、別のリアが近寄ってきた。
「なぁぉん」
「どうしたの?撫でて欲しいの?」
そっと手を差し出すと、リアの方から頭を擦り寄せてくる。
おぉ。この子は短毛なのにもこもこしているぞ!
んんん?この感触は……。
反対側の手で、絨毯を触ってみる。
似ているね。
柔らかな毛先を撫でると、スッと抵抗なく手が滑っていく。
今度は逆に撫でると、毛並みの色が薄くなった。
短毛のリアは、逆に撫でられる感触が嫌だったのか、逆さになった毛を舐めて整えだした。
「くるるる」
今度は変わった声を出している子がいるなと視線をやると、変わった子がいた。
どうして今まで気づかなかったんだ?
どっかに隠れてたの?
「おいでおいで」
変わった子を呼ぶと、なぁにと言うように来てくれた。ほんと、人懐っこいなぁ。
脚先と首回りだけに毛がある変な子。
ぱっと見はライオンカットのようだけど。
確認もかねて背中に手を這わすと、チクチクとした違和感があった。
私が知らないだけで、バリカンに似た魔道具でもあるのだろうか?
どう考えても、バリカンで毛を剃られた感触だ。
人間の頭のようにザリザリはしていないけど、なんか癖になるなぁ。
何度も往復して、手のひらに感じるチクチクを楽しむ。
毛が短いせいで、肌が見えているし、筋肉の動きもよくわかる。
意外と脂肪はないんだね。
ってことは、頭蓋骨が丸っこいのかな?
普通のリアも丸っこいので、栄養を蓄えているんだと思っていたけど、この子の体を見る限り違うみたいだ。
今度、レスティンに教えてあげよう。
いろんな毛並みのリアを撫でていると、先ほど飛びかかってきた子が私の足元で寝転がった。
白との遊びに飽きたのかな?
周りを見てみると、遊んでいる子の姿はなく、みんな思い思いの場所で休憩していた。
そんなリアたちの中心で、白が猫じゃらしを真上に掲げている。
おそらく、リアたちに勝ったぞという喜びを表現しているのだろう。
顔はないけど、ドヤ顔しているようにも見えるし。
「白、みんなお昼寝するみたいだから、静かにしようね」
そう言うと、白は猫じゃらしをポイッと捨て、私のところにやってきた。
ヲイ。大事な猫じゃらしを捨てるなよ。
「白もお昼寝する?」
「みゅぅ」
白を膝に乗せてもみもみすると、気持ちよさそうに鳴いた。
指が埋まる柔らかさは、ずっと揉んでいられるな。
やっぱり、おっぱいのような柔らかさって、落ち着くし、癒される。
猫が柔らかいものをもみもみする気持ちがよくわかるよ。
暖かな日差しもあって、私もだんだん眠たくなってきた。
絨毯の上に寝転び、うさぎさんを枕代わりに敷く。
白も大人しくなったから、グラーティアも寝るのか私のおでこに移動してきた。
脚が動くとくすぐったくて、グラーティアを落としそうになる。
「グラーティア、危ないからこっちにおいで」
まだ安全と思われる胸の上に移動させる。
そうこうしていると、なぜかリアたちが集まってきた。
どうやら、一緒に寝てくれるらしい。
「みんな、おやすみ」
◆◆◆
「驚いたわ。様子を見にいったら、ネマさんがリアに埋まっていたんですもの」
上品に笑う皇后様。
そう、起きたら周りは丸い毛玉だらけだった。
グラーティアは移動したらしく、胸の上にはライオンカット君が乗っていたよ。
どおりで寝苦しかったわけだ。
白は、なぜかリアの枕になっていたけど、上に頭が乗ってきたときわからなかったのか?
お茶をいただきながら、リアとどんなことをして遊んだのかを皇后様に話した。
猫じゃらしに興味を示した皇后様に、お姉ちゃんが作ってくれたのだと自慢してしまった。
「この、ねこじゃらしは数を用意することは可能ですの?」
「材料さえあれば、作るのは簡単だと言っていましたよ」
「そう。では、カーナさんに教えていただきましょう」
皇后様は、今日リアを貸してくれた飼い主たちのお礼の品としてプレゼントしたいんだって。
そのことをお姉ちゃんに話したら、お世話になっているからと快く承諾してくれた。
後日、お姉ちゃんと一緒に皇后様のお茶会に参加すると、リアの飼い主たちが素晴らしい玩具だと絶賛していたことを教えてもらった。
実は、猫じゃらしってお姉ちゃんが商品化していたりするんだよね。
強化版は魔道具として、特殊技術法の申請も通っている。
なので、技術の使用権を買ってはどうかと皇后様に勧めたの。
皇后様は陛下にお願いしてみるって言ってたけど、ラブラブなお二人だから、陛下はすぐに許可してくれるに違いない。
お買い上げ、ありがとうございます。
結局、すぐにオスフェ家に猫じゃらしの使用権を買いたいと申し込みがあったらしい。
私がお世話になっているからと、破格の条件で売ったと、パパンからの手紙に書いてあった。
ライナス帝国のリア愛好家の人々に、猫じゃらしが普及するのはあっという間だった。
2/22の猫の日にぼんやりと思い浮かんだネタだったけど、一種類で複数のもふもふ感触を表現するのに苦戦しました(笑)